八幡「なんだ、かわ……川越?」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」【後半】
- 2015年08月02日 21:40
- SS、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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八幡「なんだ、かわ……川越?」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」【後半】
八幡「と、まあそんなことが今日放課後にあってな」
沙希「ふうん……あ、これわかる?」
八幡「ああ、これはだな…………」
八幡(現在の舞台は予備校である。今の時間の担当の講師が大幅に遅れるということで自習を言い渡されているのだ)
八幡(大半は進学校の生徒なため、皆それなりに真面目に取り組んではいるがやはりそこは学生、いまいち身が入ってなかったりお喋りに興じたりしているものも多い)
八幡(俺と川崎も多少の雑談をしながら参考書の問題を解いていく)
八幡(まあ時々周囲の目が痛いんですけどね、『てめえみてえなのが可愛い女の子とイチャイチャしやがって!』って視線が突き刺さります。別にイチャイチャはしてないんですが)
八幡(でも女の子と二人で勉強してるやつがいたら俺も負のオーラをぶつけますね、はい)
沙希「で、その陽乃さん、だっけ。何かしてくるの?」
八幡「わかんねえ、あの人は本当に読めねえからな。何故かよく知らんがやたら俺と雪ノ下をくっつけようとしてたし」
沙希「…………そう。それ、あんたはどうなの?」
八幡「何がだ?」
沙希「だから、その……雪ノ下とくっつこうって考えはあんたにはないのかなって」
八幡「いや、そんなの真面目に考えたことねえし。そもそも釣り合ってないだろ」
沙希「…………恋愛ってのは釣り合っているいないで決めるもんじゃないと思うんだけど」
八幡「まあ、そうかもな」
沙希「想像すらしたことないの?」
八幡「ないと言えば嘘になるが……やっぱり現実味がねえんだよな。今となっちゃ川崎の方がずっといいし」
沙希「なっ……!」
八幡(……あれ? 俺今ちょっと恥ずかしいことを)
講師「すまん遅れた! すぐ始めるぞ!」
八幡(遅れていた講師が飛び込んできたため、俺達の会話と思考はそこで中断された)
八幡(スカラシップのためにも一旦気持ちを切り換えて集中しないとな)
八幡(そして今日も比企谷タクシーは元気に出動。川崎さんを乗せて走ります)キコキコ
八幡(もちろんもう暗いからゆっくりと安全運転で。他意はありません)キコキコ
八幡(しかし何でだろうな。正面から抱きつかれるとあんなに恥ずかしいのにこうやって背中から抱きつかれるのにそれ程抵抗ないのは)キコキコ
八幡(やっぱり大義名分があるからか? いやでも…………あ、もうすぐ着いちゃうな)キコキコ
沙希「…………」ギュウッ
八幡(え、なに? 何かめっちゃ抱き締められてるんだけど!?)
沙希「…………」ギュウウ
八幡(えっと、こういう時どうすればいいの!? 教えてくれ葉山! お前ならわかるだろ!?)
沙希「…………」キュ
八幡(あ、緩んだ、そして川崎家の前に着いた)キッ
沙希「……ありがとね」ヒョイ
八幡「おう」
八幡(心なしか自転車から降りた川崎の様子がおかしい。いつもならここで名前を呼び合って別れの挨拶をするところなのだが…………俺は一旦自転車から降り、スタンドを立てた)
八幡(まあ……さっき川崎もやってきたし、おあいこでいいだろ…………)
八幡(緊張で身体が強張る。喉がカラカラになる。そんな状態で俺は震える手を川崎の方に伸ばした)
八幡(そのまま川崎の背中に両腕を回し、思い切り抱き締める)
沙希「ひ、比企谷!?」
八幡(うおおおお! やっぱ無理!)
八幡(俺はすぐに腕を解き、自転車に飛び乗って漕ぎ出した)
八幡(挨拶することも振り返ることも今は無理だ。全力でその場から離れた)
八幡(恥ずかしい! 恥ずかしい! 俺は何てことを!)
八幡(うわあああああああ!)
沙希「比企谷の方から……抱きしめて、くれた…………」
沙希「だめ……ニヤケちゃう…………こんな顔じゃ、家、入れない……」
沙希「ばか、ばか…………どうしてくれんのさ、ばか」
八幡「はあ……学校行きたくねえ」
小町「起こしに来たらいきなりそんな事を言われる小町の身にもなってよお兄ちゃん、ポイント低いよ…………てか何? また寝不足?」
八幡「ああ、なんだか寝付けなくて…………だから体調不良で休んでもいいよな」
小町「何言ってんの、沙希さんを迎えに行かなきゃいけないんでしょ。早く起きてご飯食べて」
八幡「うー……」
小町「…………もしかして沙希さんと喧嘩でもした?」
八幡「いや、そんなんじゃないんだが…………ちょっとやらかして……会いづらいんだ」
小町「うーん、よければ小町が話聞くよ。とりあえず朝ご飯食べよ」
八幡「ああ……」
小町「ええーっ! お、お兄ちゃんが!? 沙希さんを抱きしめた!?」
八幡「声がでけえよ……てか俺自身信じられねえ、何であんな行動に出たんだか…………川崎には悪いことをしたと思ってる」
小町「えーそっかなー、案外沙希さんも嬉しく感じてるかもよ」
八幡「何でそんなポジティブに考えられるんだよ……」
小町「お兄ちゃんはネガティブ過ぎ! 本当に嫌だったら今日の送り迎え断ってきたりするでしょ。それがないんだから少なくとも嫌とは感じてないって」
八幡「そ、そうかな」
小町「そうだって。もしかしたら恥ずかしがるかもしれないけどそこはお兄ちゃんが余裕を持って接してあげればいいの」
八幡「そんなもんなのか……よ、よし、気にしないようにして頑張ってみるか」
小町「そうそう、むしろ気張らずにいつも通りに接する方がいいって」
八幡「わかった……ごちそうさん、悪いけど俺はもう行くな。片付け頼んでいいか?」
小町「お任せあれ。沙希さんによろしくー」
八幡「おう」
八幡(小町との会話でヒントになったことがある)
八幡(そう、恥ずかしがるというアレだ。似たようなことが先週にもあった)
八幡(なら同じようになかったことにしてしまえばいいのだ。きっと川崎も同じことを考えるだろう)
八幡(現金なもので、解決策を思い付くと俺の足取りは軽くなり、軽快に自転車を漕いでいく)
八幡(見えた、川崎家だ…………お、ちょうど川崎が出て来た)
八幡(こちらに気付いたか手を振ってくる。何か機嫌が良さそうだ。到着、っと)
沙希「おはよ比企谷」ニコニコ
八幡「おはよう川崎、ずいぶん機嫌良さそうだな」
沙希「ん、ちょっとね」
八幡「昨日何かあったのか? 俺は何のイベントもなかったから幸せのお裾分けしてくれよ」
八幡(ここでなかったことにしようとする意志をさりげなく強調しておく。マジ俺策士)
沙希「仕方ないね、教えてあげる。実は昨日さ」
八幡「おう」
沙希「比企谷があたしを抱きしめてくれたんだ」
ガッシャアアアン!
沙希「ど、どしたの派手にずっこけて!? 大丈夫!?」
八幡「お、おま、な、何を」
沙希「とりあえず立ちなよ、ほら」スッ
八幡「あ、えっと……わりぃ」
沙希「んっ、しょ」
八幡(川崎の差し伸べてくれた手を掴み、俺は立ち上がる)
沙希「さ、行こ。あんまりのんびりしてると遅刻しちゃうよ」
八幡「あ、ああ」
八幡(俺は自転車を起こし、跨がる)
八幡(すぐに川崎も後ろに乗り、俺の身体に腕を回してきた)
八幡「じゃ、じゃあ行くぞ」
沙希「ん、よろしく」
八幡(あれ? あっれー?)
八幡(むしろ川崎さんの方がいつも通りに接してますよねこれ。しかも昨日のことをなかったことにしないまんま)
八幡(いや、ギクシャクしたりするより全然いいんだけどさ)
八幡(それより気になるのは…………)
『比企谷があたしを抱きしめてくれたんだ』
八幡(…………川崎はあれを『いいこと』として捉えているってことだよな)
八幡(…………)
八幡(…………)
八幡(…………うん、あれだ)
八幡(川崎は長女だからな。あんなふうに人から抱きしめられることがあまりなかったんだろう)
八幡(膝枕と同じだ。してあげるばかりでしてもらうことが少なかったから、それを嬉しく感じてるんだ)
八幡(まったく。男を勘違いさせそうになるなんて罪な女だぜ)
八幡(さて、例の公園に到着っと)キキッ
沙希「よっ、と」ヒョイ
八幡「んじゃまたあとでな」
沙希「あ、ちょっと待って」
八幡「うん?」
沙希「ごめん、ちょっとそっちに立ってくれる?」
八幡(川崎が指したのはベンチのそばだ。とりあえず自転車を止めて言うとおりにする)
八幡「これでいいのか?」
沙希「ん」
八幡(短く返事をした川崎は俺に近付く……って近い近い、近過ぎじゃね? もう身体が密着しそうなんだけど!)
八幡「な、何だよ」
沙希「さっき言ってたでしょ。幸せの、お裾分け」
八幡(そう言うと川崎は俺の背中に腕を回して抱き付いてきた)
八幡「かっ、川崎っ、止めろって!」
沙希「嫌だったら無理やり振りほどいていいよ。抵抗はしないし、それであたしがどうこう思うことはないからさ」
八幡「い、嫌じゃないけど」
八幡(良い匂い柔らかいヤバいヤバいヤバい)
沙希「ん、このぐらいにしとこっか」スッ
八幡「はあっ、はあっ、お、お前な……」
沙希「あたしは比企谷に抱き締められるの、好きだよ」
八幡「!!」
沙希「比企谷もそうだと嬉しいな…………じゃ、あたしは先に行くね」
八幡(そう言って川崎は公園を出て行った)
八幡(それを見届けて俺はベンチにへたり込む)
八幡「なんつーか……やられっぱなしだな」
八幡(でも……それが嫌だとは全然思わない)
八幡(…………)
八幡(…………)
八幡「学校、行くか……」
八幡(今までに幾度か感じた川崎の身体の柔らかさや匂いを何となく思い出しながら、俺は自転車を漕ぎ出した)
八幡(さて、昼休みだ)
八幡(今日は教室でもベストプレイスでもなく、あの人気のない裏庭で昼食を取ることになっている)
八幡(…………くそ、なんか意識してしまうな)
八幡(授業中につい川崎の方を見ていたってのが何度かあったし)
八幡(はあ…………)
八幡「待た