八幡「なんだ、かわ……川越?」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」2
- 2015年08月02日 21:40
- SS、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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八幡「なんだ、かわ……川越?」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」2
八幡「ん……っと…………」
八幡(目が覚めて身体を起こし、大きく伸びをする)
八幡(二度寝をしても構わない時間ではあるが、俺はそのままベッドから降り、階下に向かう)
カマクラ「ニャー」
八幡「よ」ナデナデ
八幡(居間にはまだ誰もいない、と思ったら珍しくカマクラが起きていて挨拶してきた)
八幡(返事をして撫でてやるとそれで満足したか、ソファーに寝そべりだす)
八幡(うむ、実に羨ましい生活だ。どうにかして替わってもらえないだろうか)
八幡(あー駄目だ、川崎のやつ猫アレルギーだもんな。却下却下)
八幡(朝飯……の前にシャワー浴びとくか。寝汗掻いたし)
八幡(脱衣所で寝間着を洗濯機に放り込み、シャワーで汗を流す)シャワー
八幡(トランクス一丁で居間に戻ると珍しく母親が起きていた)
比企谷母「土曜なのに随分早いじゃない、どしたの?」
八幡「ちょっとな。そっちこそ早くね?」
比企谷母「午前中に町内会の集まりがあってね。めんどくさいけど近所付き合いあるから」
八幡「お疲れさまです」
八幡(普段朝早くから夜遅くまで働いているのにそういうとこもきっちりしてる両親を俺は尊敬している)
八幡(なんでこの両親から俺みたいなのが生まれたんだろうなあ…………とか思いながら冷蔵庫からマックスコーヒーの缶、通称マッ缶を取り出した)
八幡(あ、性格の話ね。外見は結構似ている。目以外)カシュ、ゴクゴク
比企谷母「それにしてもあんたいい身体してるわね。首だけすげ替えればモテモテになりそう」
八幡「どこのジョナサンだよ」
八幡(親類一同がスタンドに目覚めちゃうよ? 精神力ないとホリィさん状態になるけど。やだ、一族総出でやっつけられちゃう)
比企谷母「やっぱりその目がねえ…………他は悪くないのに」
八幡(このセリフは目以外は似ている自分たちを暗に褒めているよな……)
八幡「ほっとけ、これでもいいって言ってくれるやつはいるんだよ…………川崎とか」ボソッ
比企谷母「…………川崎? 誰?」
八幡(最後は小さく独り言のように呟いたのだが、しっかり聞こえていたようだ)
八幡「今日のデートの相手だよ。付き合ってるわけじゃないけどな」
比企谷母「え…………」バサ
八幡(何がそんなにショックなのか、新聞を取り落としていた。あれ、でもこの前もデートしたじゃん俺)
小町「おはよーお母さんお兄ちゃん」
八幡「おう、おはよう小町。お前も早いな」
小町「だってお兄ちゃんと沙希さんとの運命の一日じゃん。たがらお兄ちゃんが出掛けるのを見送るために早起きしたんだよ。あ、今の小町的にポイント高い!」
比企谷母「ちょ、ちょっと小町、こっちに来なさい」グイッ
小町「わわっ、何、お母さん?」
八幡(何やら部屋の隅っこでボソボソと話してる母娘。まあだいたい想像は付くけど)
八幡(でもすいませんお母様、今聞こえた『え? まだフられてなかったの!?』は結構心に響きました。ガラスのハート砕けちゃうよ?)
比企谷母「八幡、これ持っていきなさい」
八幡「あん? って、おい!」
八幡(話が終わったかと思うと突然俺に金を渡してきた。しかもお年玉とかより全然多い)
八幡(まさか金の力でモノにしろ、なんて言うつもりじゃねえだろうな…………)
比企谷母「自暴自棄にならないでこれでたくさん遊んで気分転換しなさい。だから妙なこと考えちゃ駄目よ」
八幡「フられる前提で話すな! あとフられても自殺とかしねえから!」
八幡(愛されてるのかどうか実に微妙なラインだ)
八幡(あれから親父も起きてきてみんなでなんだかんだ大騒ぎし始めた。いい加減鬱陶しくなったので結局朝飯を食わずに着替えてさっさと家を出ることにする)
八幡(が、玄関を出たところまで家族全員で見送られたのはちょっと…………そこまで大事件かこれ? 結局金は押し付けられたし)
八幡(コンビニで立ち読みして時間を潰し、本日二本目のマッ缶を買って飲みながら川崎家に向かう)
八幡(少し早めだったが、メールで確認するといつでも構わないと返信が来た。もう家族は出掛けたのだろうか)
八幡(しばらくして川崎家に到着。呼び鈴を鳴らすと返事があり、ドアが開く)
沙希「い、いらっしゃい」
八幡「おっす、かわ……川越」
沙希「…………川崎なんだけど、ぶつよ?」
八幡「すまん、何か言わなきゃいけない気がしてな。ちょっとやり直そう」
沙希「え?」
八幡(俺はドアを閉めさせ、再び呼び鈴を鳴らす)
沙希「はいはい、いらっしゃい」ガチャ
八幡(川崎が呆れた表情でドアを開けた)
八幡「おはよう沙希、エプロン姿も可愛いな」
沙希「んぐっ! …………あ、ありがと…………あがって」
八幡(予想しない不意打ちだったか一瞬で真っ赤になる川崎。しどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。やだ、可愛い)
八幡「おう、お邪魔します」
八幡(俺と川崎の、長い一日が始まった)
八幡(居間に案内されて腰を下ろした瞬間、腹が盛大に鳴る。結局朝起きてからマッ缶二本しか摂取してねえもんな)
八幡「なあ川崎、催促して悪いけど昼飯ってもう出来てる?」
沙希「ん、もうちょっとだね。はい、お茶」
八幡「サンキュ、実は朝飯食ってなくってさ、すげえ腹減ってんだ」
沙希「へえ…………」ニヤリ
八幡(あ、何か悪いこと考えてやがる)
沙希「そんじゃ少し急ぐかな。肉じゃが作ってるけど好き?」
八幡「お、好きだぞ。というか嫌いな男なんていないだろ。男を落とす料理って言われてるくらいだし…………あ」
沙希「え? ちちち違うし! 冷蔵庫見て出来そうなのがそれだっただけだし!」
八幡「落ち着け。由比ヶ浜や三浦が混じってんぞ」
沙希「うう…………でも結構自信作だから。家族みんなも美味しいって言ってくれるしね」
八幡「そいつは楽しみだな」
沙希(焦らそうと思ったけどそんな気なくしちゃった……)
沙希「ご飯と漬け物だけでも先に食べる?」
八幡「いや、待ってる時間もそれはそれで悪くないから。全部出来てからでいい」
沙希「そう? じゃあちょっと鍋見てくるからゆっくりしてて。テレビ付けてもいいからね」
八幡(川崎はそう言って台所へと向かう。その背中に一言断ってトイレを借りた)
八幡(玄関そばのトイレから出て気付いたが…………俺の靴がきっちり揃えられてる)
八幡(え? いつの間に? 細かいとこまで気が効き過ぎじゃね? オカンスキル高過ぎだろ)
八幡(居間に戻り、台所の川崎の姿が見える位置に陣取る)
八幡(部屋着なのだろうか、太ももを惜しげもなく晒すホットパンツ姿はとても新鮮だ。忙しなく動くたびにフリフリと揺れるポニーテールは見ていて飽きない)
八幡(二つの鍋が火にかけられているが、匂いから察するに肉じゃがと味噌汁だろう。その片方を頻繁に確認していた)
八幡(そのたびに少し屈んで、逆にこっちに突き出されるヒップの丸みに俺まで前屈みになってしまう)
八幡(いかんいかん、これ以上は目の毒だ。川崎に見つからないうちに移動しとこう)ススス
八幡(しばらくして台所から声がかかる)
沙希「お待たせ、今持っていくからねー」
八幡「おう、手伝うか?」
沙希「いいよ、お客さんだし座ってなって」
八幡「わかった」
八幡(しばらくしてお盆を持った川崎が居間にやってきた)
八幡(俺の前に次々と料理を並べていく。ご飯、味噌汁、肉じゃが、漬け物)
八幡(ひとしきり並べたあと、今度は自分の分を持ってきて俺の対面に置く。さすがに俺よりは少な目だった。エプロンを外し、川崎も腰を下ろす)
沙希「じゃ、食べよっか」
八幡「おう、いただきます」
沙希「召し上がれ。あたしもいただきます、っと」
八幡(さて、まずは味噌汁から)ヒョイ、ズズ
八幡「!」
八幡(え、何これ? めっちゃうめえ)ズズ、ゴクゴク
八幡(出汁から違うのか? ウチと味が全然違うし豆腐がすげえ美味い)パクパク
八幡(…………あれ?)
八幡「えっと、すまん川崎」
沙希「何?」
八幡「味噌汁、おかわりあるか? その、全部飲んじまった」
沙希「はあ? もう?」
八幡「いや、何か美味くて……気が付いたら…………」
沙希「仕方ないねぇ」フフッ
八幡(川崎は苦笑いしながらも器を受け取り、よそってきてくれた)
八幡「しかし美味いな、出汁が違うのか? ウチのよりこっちが正直好みだ」
沙希「そ、そう」
八幡「あと豆腐の味が濃厚なんだが……今日のために高級品買ったりしてないよな?」
沙希「そんなことしないよ。ウチにあるもので作ってるって言ったでしょ」
八幡「そ、そうだったな」
沙希「ま、豆腐って別に作るの難しくないからね」
八幡「えっ!? まさか手作りなのこれ? 市販のじゃなくて?」
沙希「うん、時々作るよ。こっちの方がみんな喜ぶし」
八幡「そりゃそうだろ。こんな味の濃い豆腐なんて初めてだぜ。めちゃくちゃ美味い」
沙希「そ、そう。まあお弁当にはなかなか入れられないからね豆腐は」
八幡「そうだな。さて、そろそろ肉じゃがを、っと」
八幡(俺はじゃがいもを箸で掴む)
八幡「!」
八幡(か、形が崩れない!? 普通は鍋の水分で煮崩れするんだが…………箸でしっかり掴めるぞこれ)ヒョイ、パク
八幡「! 何だこれ、すげえほくほくじゃねえか! 味もしっかり付いてるし……ええー?」
沙希「ああ、水を使ってないからね。酒、醤油、野菜の水分で蒸らす感じでやるんだ。焦げないようによく見てないと駄目だけど、その分美味しく出来るからさ」
八幡(肉や玉ねぎ、人参なども余計な水分がないせいか、しっかり味が付きながら歯応えも丁度良い)
八幡(ヤバい、胃袋が落とされちゃう! くっ、肉じゃがなんかに絶対負けない!)
沙希「ね、比企谷」
八幡「な、何だ?」
沙希「おかわり、いっぱいあるからね」ニコッ
八幡(肉じゃがには勝てなかったよ…………)
八幡(結局ご飯も三杯も食べてしまったし)
八幡(川崎はん、あんたなんちゅうもんを食わせてくれるんや。ウチの食事が味気なくなったらあんたのせ