239 名前:学生さんは名前がない[] 投稿日:04/10/20 17:49:27 ID:dnfgIR2m
大学に入って3日目。俺は新しい部屋づくりにいそしんでいた。
何せ国立後期落ちてドタバタで決めた部屋だ。物資を揃えるのも遅れている。
母さんも手伝いに来ると言っていた。俺の母さんは働いてるから、来るのは夕方になるとのことだった。
夕方になり、母さんが来た。電車で3時間の距離をわざわざ来てくれた。
母さんが「自転車を買いに行こう」と言った。タクシーに乗って自転車屋に一緒に行った。
国立に落ちて申し訳なかった俺は、一番安い自転車を見つけ「これにするよ」と言った。
母さんは「変速付きのにしたら?そのほうが楽やろ?」といって高いのを買ってくれた。
帰りは俺がそのチャリで、母さんは買い物をしてからタクシーで帰るということになった。
俺が下宿に戻ってしばらくすると、母さんが野菜やらを買って帰ってきた。
「あんたの好きな肉じゃが作って帰るわ」と言って、作り始めてくれた。
そのうち母さんは「あ、しまった、みりん買うの忘れてた」と言った。
「じゃあ買ってくるよ」と俺は言った。新しい自分の街を自転車で駆け回ってみたかった。
「悪いわねぇ。それじゃあ頼むわ」と母さんが言うのを後にし、俺は家を出た。
新しい近所、新しい店・・・。これからこの街でどんなことが待ってるんだろう・・・!!
そんなことを考えながら自転車を走らせ、近所のお店に行き、みりんを買って帰った。
しばらく待つと、肉じゃがが完成した。
「じゃあお母さんは帰るわ」と母さんが言った。「え?食べて行かないの?」俺は言った。
「うーん、遅くなるしね。帰るわ」と言った。「うん、わかった。」俺はうなずいた。
母さんを見送りに一緒に家を出た。母さんはタクシーに乗り、家へと帰っていった。
俺はまだ片付いていない部屋で、母さんの味を楽しんだ。しばらく味わえない、母さんの肉じゃが。


240 名前:学生さんは名前がない[] 投稿日:04/10/20 17:50:22 ID:dnfgIR2m
あれから2年が経った。大学生活は思っていたものと違い、俺は堕ちていた。
大学生活だけが原因じゃない。一番大きいのは・・・一番大きいのはもう母さんに会えないということだ。
母さんの味はもう食べることができない。料理をしてる後姿ももう二度と見ることができない。
母さんがこの部屋に来ることももう二度とない。母さんに大学の話をすることももう二度とない。
母さんに買ってもらった自転車は、雨に打たれながらもまだ部屋の前にある。
あの時に比べると随分錆びた。母さん、ごめんな。