【艦これ】神通「姉さん、朝ですよ!」川内「嫌だあああ起きたくない!」
この鎮守府にはいくつかの名物がある。
鬼の二水戦旗艦による地獄が垣間見れる特訓だったり、四水戦旗艦のコンサートだったり。
鎮守府に所属している艦の殆どが軽巡洋艦と駆逐艦であるからか、噂話とトラブルには事欠かない。
だからこそか、数少ない戦艦や空母は畏怖の念がもたれ、まるで雲の上の人のような扱いを受けることもしばしばであった。
それだけの艦娘がいれば勿論落ちこぼれてしまう者もいる。例えば。
「嫌だあああ! 行きたくない行きたくない行きたくないの!」
軽巡寮川内型室で布団に包まって足をバタつかせているのが川内。
その布団を無理やりにでも引きはがそうとしているのがその妹の神通と那珂。
「おらぁ! 諦めろ川内ちゃん! 今日もちゃんと訓練受けてもらうんだからね! キャハ!」
「嫌だあああ! 那珂はアイドルなんだからお姉ちゃんにもっと優しくしろよぉ!」
「ならもっと姉らしくしてください姉さん。……那珂ちゃん、ちょっとどいて?」
「おらぁあ! っと、神通ちゃんいいよー!」
「姉さん、行きますよ。っふ!」
「嫌だああ! ってうわああああああ!」
那珂が神通の後ろに退避すると、神通は川内の包まっていた布団ではなく、その下に敷いてあった
敷き布団を掴んで思いっきり引き抜いた。
「うわぁ……神通ちゃんやるぅ」
「ほら、姉さん。着替えて朝ごはん食べに行きますよ」
布団から転がり出されてそのまま床に落ちた川内はそれでも維持で掛け布団を握りしめて包まっていた。
「私はこの布団とケッコンカッコカリします。二人の絆は例え姉妹であっても引き剥がすことはできません」
「あぁ……川内ちゃんここまで来るともう姉というより女として威厳とかそういうの捨ててるよ……」
「姉さん、布団から離れる気はありませんか?」
「無い」
「那珂ちゃんのお願いでも?」
「無い」
「うわぁこの姉即答したよ」
「わかりました。ならそのまま運びます。那珂ちゃん、そっち持ってください」
「はーい!」
「え? ちょ神通!? 那珂!? やめて! ちょっとおおおお!」
川内型軽巡洋艦一番艦 川内。噂の二水戦と四水戦の旗艦を妹に持つ彼女はこの鎮守府の落ちこぼれだった。
食堂でパジャマ簀巻きを披露した川内はようやく観念したのか、朝食を済ませると制服に着替えて訓練場の桟橋に来ていた。
「さて、それじゃあ簀巻きちゃんがだだ捏ねる前に始めちゃおー!」
「那珂ぁ、簀巻きちゃんはやめてよ!」
「川内ちゃんが悪あがきするのがいけないんだよー」
「う、うるさいなぁ! 嫌なものは嫌なの!」
「はいはい、姉さんも那珂ちゃんもそこまでね。それじゃあ今日も艦隊運動から始めますよ」
「うぇーい……」
神通は普段こそ温厚で恐怖の欠片もない物腰をしているが、その足を水面につけた瞬間から別人と化す。
鬼の二水戦の名は伊達ではなく、第一線を張っている戦艦ですら彼女の訓練を受けたがる者はいない。
「神通! ちょっと待って! 足釣った! 足!」
「そうですか、なら姉さんの死因は足が釣ったことになりますね」
「最低の死因だと那珂ちゃんは思います!」
「もういやだー! 帰るー! 神通なんか嫌いだー!」
「姉さん、流石にそれは傷つきました。なので私の傷が癒えるまで訓練は続きます」
「え!? ごめんごめん! 嘘! 嘘だからやめて許して!」
「嘘でそんな事を簡単に言えてしまう姉さんの根性は腐ってると思います。なのでここで叩き直して置きましょう」
「どっちにしろやるんじゃんか! 嘘つき!」
「すみません姉さん。なら嘘をついてしまったお詫びに之字運動を追加します」
「……グスッ」
「川内ちゃんも懲りないねぇ」
駆逐艦達が横で訓練を行う中、川内型だけは個別で訓練を行うことが許されている。
よく言えば個別強化訓練。悪く言えばさらし者。
そんな光景を陸で見ている影があった。
この鎮守府の提督とその秘書艦叢雲。
「相っ変わらずグイグイやらせるわねー神通ってば」
「お前はあの訓練耐えられるか?」
「無理ね。眠気に負けて居眠りしちゃうもの。気付いたら終わってそうね」
「言うじゃないか秘書官様は」
「なんならアンタも参加してくれば? 司令官は現場を理解することも重要よ」
「叢雲は私に溺れて来いと言っているのか?」
「あら、なら泳げばいいじゃない」
提督と叢雲は時折この訓練を見学しに来ていた。
「お前から見て川内はどうだ」
「駆逐艦にしては大きいわね。ブイにしては騒ぎ過ぎだわ」
「辛辣だなぁ……まだ使えんか」
「あの子も私と同じく初期からここにいるのにね。あの性格どうにかならないのかしら」
「夜戦をやらせれば単独先行。昼戦では動く的……か」
「筋は悪くないのにね、勿体ない話だわ」
「艦娘の中でも宜しくない噂が流れているそうだな」
「どっちの噂のこと? 解体されないのは提督の愛人説? それとも妹の功績に縋る姉説?」
「前者は聞いたことがある。後者は初耳だな。発信源を探ってこい」
「嫌よ。また他の鎮守府に左遷させるなんて、面倒臭い」
「もう約束はいいじゃないか。皆にあいつの事を教えてやればいい」
「それはダメよ。それをしたら古参の子たちが黙っている事も、なにより川内自身にも冷や水をかける事になるわ」
「自分の罪は自分で背負わなくては意味がない、か。クソ食らえ。代わりに背負ってやればいいものを」
「それはアンタの自己満足よ。ほら、そろそろあの子遠征の時間」
「っ……そうだな。おーい! 神通ぅ! そろそろ川内を貸してくれぇ!」
訓練に夢中になっていた三人に提督の声が届く。
神通は少しだけ残念な表情。那珂は一息つけると安堵。川内だけは苦虫を潰した顔をした。
「姉さん。残念ですが、続きは明日にしましょう」
「……へい」
三人が桟橋に戻ってくると、そこに叢雲と提督が待っていた。
「おう簀巻き娘。調子はどうだ?」
「最低よ……簀巻きじゃないし」
「姉さん! 提督にそんな口の利き方! 申し訳ありません提督」
「構わない。こいつとは長いからな。そら、駆逐艦達が待ってるぞ。川内。直ちに装備を遠征用に変更し、
出撃五分前にドックに集合。急げ」
「……了解」
川内は桟橋から上がると、ふて腐れるように提督に返礼をした。そしてそのままドックに走っていく。
「んもう……。提督、姉さんはまだ時間が掛かりそうです。いつ崩れてしまうか見ている方が怖いです」
「そうか。中はまだなら外はどうだ?」
「能力は十分です。私の訓練を受けてもわざと手を抜けるだけの実力もありますし、無駄口を叩くだけの余裕もあります」
「ほう、それは凄いな。那珂はどうだ」
「んーあれ以上できない演技されると那珂ちゃんが倒れちゃう。どんどん訓練が厳しくなって筋肉痛で踊れなくなっちゃうよ」
「あら、アイドルは筋肉痛になるのね? 知らなかったわ」
「ッハ! 違うよ叢雲ちゃん! 那珂ちゃんはアイドルだから筋肉痛になんてならないよ! 川内ちゃんの話だよ!」
「あらそう、私も別に那珂の話をしていた訳ではなかったのだけれど。そう」
「うわーん! 叢雲ちゃんがいじわるだー!」
叢雲と那珂が話していると、神通がそっと提督の横に彼にだけ聞こえるように声を出す。
「提督、まだ姉さんの忘れ物は返せないままですか?」
「あぁ、今返してもあいつは捨ててしまうかもしれないからな。預かっているよ」
「そうですか、そうですね。そのほうがいいと思います」
「あー! 神通ちゃんが提督と内緒話しているよ叢雲ちゃん!」
「あら、これは浮気かしら。きっと私は捨てられちゃうのね」
「な、何を言ってるんです! 叢雲さんも訓練受けたいのですか、そうですか」
「いえ、筋肉痛になったら大変だから遠慮しておくわ」
「叢雲ちゃんまだいうのー!」
提督が出撃ドックに目を向けると、四人の艦娘が丁度出撃をした所だった。
三人の駆逐艦はこちらに気付いて手を振っているが、先に沖へ進んで行く軽巡だけは振り返ることはなかった。
長距離練習航海。
川内他皐月・菊月・敷波。計四隻が出撃した遠征である。
練習航海と言っても、近隣の沿岸に深海凄艦が接近した痕跡が無いか、襲われた形跡がないかを調べることもこの任務の内容であり、しっかりと普段との違いを確認していかなくてはいけない為に精神が削られていく任務だ。
鎮守府周辺にはまだこの地を離れない人達が生活をしている。その自治体からパトロールを依頼されている為にこのような形を取って哨戒することになっている。
報酬は大本営に支払われ、その報酬としてこちらに弾丸や艦娘の傷を癒す事のできる修復剤が送られてくる。
川内は軽巡でありながら旗艦ではなく、旗艦補佐としてこの隊の二番艦を担っていた。
今回の旗艦は睦月型五番艦の皐月。三番艦を菊月。四番艦を敷波が担当していた。
「んっはー! いい天気だね! こんなに波も穏やかだし暖かくて気持ちがいいや」
陽気に当てられた皐月が隊無線越しにそんな事を言う。
それに対して川内は抑揚の無い声で返した。
「皐月、今足元に何が沈んでいたか見えた?」
「え? えっと……わかりません」
「正解は運送用に使われていたと思うドラム缶の山。旗艦は艦隊の前を走るんだからそういう所もちゃんと見て。そこに機雷があったのに気付きませんでしたじゃ話にならないよ」
「はい……すみません。川内さんはよく気付きましたね」
「……神通の訓練を受けていればこれくらい普通じゃないの?」
「えっと……」
皐月と川内の会話を無線で聞いていた敷波が割って入る。
「川内さん。注意するのはいいけど艦隊の空気重くするのは止めてください。迷惑です」
「敷波! 僕は大丈夫だから!」
慌てて皐月が敷波に答えるが、敷波は止まらない。
「こっちが大丈夫じゃないっての。菊月もなんか言いなよ」
「こちらは現在哨戒中だ。悪いがそちらの話は聞いていなかった。」
「……っち」
「あーもう! 敷波も菊月も! 川内さん、そろそろ折り返しです」
「……了解。叢雲に連絡後帰投ね」
「はい」
皐月が耳に付けている無線を入れると、間もなく叢雲からの応答があった。
『はーい、こちら指令室』
「こちら第三艦隊旗艦皐月、遠征の折り返しポイントに着いたよ」
『あら、時間通りね。また揉めてるんじゃないかって心配してたわ』
「それは間違ってないね。いつも通りだよ」
『刺激的でいいじゃない。いがみ合いができる位には平和ってことよ。帰投は予定通りね』
「うん、それじゃ」
『待ってるわ、以上』
そこで通信は切れた。
「皐月より各艦に通達! これより船首回頭、沿岸より沖を経由しつつ帰投するよ!」
そこから帰り道は殆ど無言が続いた。
皐月は川内にこれ以上小言を言われまいと口を閉じ、川内は無表情で進んでいく。
菊月は相変わらずに任務をこなし、敷波は目に見えて不満を抱えていく。
そしてそれはゆっくりと口から漏れ出した。
「川内さん」
「何、敷波」
「川内さんは駆逐艦が嫌いなんですか」
突然の敷波からの質問に川内は驚き半分にいら立ちを覚えた。
「突然に失礼な事聞いてくるね。なんでそう思うの」
「川内さんと同じ任務に就いた駆逐艦達からの苦情の数が多すぎるんです。嫌がらせのつもりですか」
「あのさぁ、間違った事、悪い所を注意するのが嫌がらせになるの?」
川内の答えを聞いた敷波は余計に熱くなっていく。
「自分だって……」
「なに、言いたいことははっきりいいなよ」
「自分だってダメな所多いじゃないですか! 他の姉妹艦が立派だからって貴女は違うじゃない! 偉そうにしないでよ!」
その言葉を聞いた川内は足を突然止めて、通過した菊月に小さく「ごめん」と呟くとそのまま進んでくる敷波の首を掴んだ。
「あがっ!」
そしてそのまま軽く持ち上げるとそのまま無表情で敷波を見つめる。
「あのさぁ、言っていいことと悪いことあってあるよね。神通や那珂、関係ないでしょ?」
「っが……ぐ、がぁ」
なお、手に力を込める。
「喧嘩売るなら相手をちゃんと見なくちゃダメだよ。だからこうなるんだ」
砲撃音。
川内の足元付近に水柱が上がった。
川内はそちらに目線だけ動かすと、こちらに主砲を向けている皐月の姿と、我関せずと周回警戒を行う菊月がいた。
「川内さん、敷波を離して。早いとこ帰投しよう。このままじゃ誰も笑えないよ」
「一人がダメなら二人。それがダメなら三人。三人なら私に勝てるかもよ?」
「勝てる勝てないじゃない。離してと僕は言っているんだよ」
挑発をする川内に対して皐月はあくまで冷静に答える。
「なんで私が駆逐艦の言うこと聞かないといけないの?」
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コメント一覧
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- 2015年08月08日 23:43
- グロさが足りない
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