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生物界における恐るべき「寄生」のメカニズムがまた一つ明らかとなった。宿主を洗脳し生かさず殺さずの状態で一方的に利用し、用済みとなったら殺してしまう寄生生物は数多く存在するが、クモヒメバチの幼虫は、クモの体液を貪りながら成長を続け、殺す直前に自らが安全に蛹になれるよう、強固な網を作らせていたことが判明した。
以下の文章は、この研究論文を発表した研究グループの代表である神戸大学の高須賀圭三博士がカラパイアのお友達の為に特別にわかりやすく書きおろしてくれたものである。
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昆虫の世界は寄生者であふれている。しかもダニなどの栄養略奪者だけではない。映画のエイリアンと同じく、寄生のあかつきに必ず宿った相手を殺す『捕食寄生者』という恐るべき昆虫が、ハチやハエ類を中心に万種のレベルで地球上を席巻しているのだ。昆虫の世界は、少しでも油断するとやつらの餌食となってしまう恐ろしい世界でもある。
クモを奴隷化するクモヒメバチの幼虫
優れたハンター、クモも例外ではない。クモヒメバチというクモを専門に宿る寄生バチがいるのだ。クモヒメバチはクモの背中表面に卵を産みつけると、孵った幼虫は大胆にもクモを生かしたまま外側から体液を奪っていく。この間、クモはいつも通り網を張るし、餌も捕る。幼虫は、クモを生かすことでクモの防衛能力を利用できるし、餌を捕らせることで幼虫の食料であるクモの健康や体重を維持することができるのだ。
しかし、この動的平衡状態はいつまでも続かない。エイリアン昆虫であるクモヒメバチは、蛹になる前にクモを殺してしまう。寄生バチ類の幼虫はみな脚がないが、クモヒメバチの幼虫はクモを殺すこの時にだけ、背中にマジックテープ式の微細刺毛のついた突起が現れ、クモの網に自力でぶら下がることができる。この状態でクモを殺し、体液を残らず吸い尽くす。カラカラになったクモは捨て去られ、幼虫はさなぎになるためにまゆを紡ぐ。
クモを殺して網の上でまゆを紡ぐクモヒメバチ
殺す直前にクモの脳神経を操作し強固な網を作らせる
ここまではクモが網を維持してくれていたが、クモを殺してしまうと誰も網をメンテナンスしてくれない。捕虫に長けた網は非常に繊細で、風雨や飛翔生物の衝突によって簡単に朽ちてしまう。
網の上で10日以上を蛹で過ごすクモヒメバチの幼虫は、この問題を解決するために、蛹になる直前、つまり捕虫させる必要がなくなった段階で、クモの体内に何らかの物質を注入してクモの脳神経を操作して網を都合よく張り替えさせてしまうのだ。
クモヒメバチに操作されるギンメッキゴミグモの全造網過程
研究グループが、円網を張るギンメッキゴミグモに寄生するニールセンクモヒメバチ(記事の写真はすべて本種)を使ってこの生態を詳しく調べたところ、ハチに操作されて作り変えられた網の特徴が、通常時に作る網ではなく、脱皮時に作る網と酷似していることがわかった。
脱皮網
操作網
死の間際に作らせた網も脱皮時に作る網も、捕虫に使われるらせん状の糸は無くなり、少ない本数の糸で中心を支えている。さらに両者の最大の特徴は、本数の減った糸に綿のような装飾がつけられているということだった。
脱皮前のクモも操作されたクモも4対目の脚を使って綿状の糸を直線糸に吹きつけている。この特徴的な行動と糸こそが、ハチが脱皮用の行動を操作のモデルとしている重要な証拠となった。
クモヒメバチに操作されて装飾糸を発現させられるギンメッキゴミグモ
脳神経に脱皮時と似た指示を出し紫外線を反射する強固な網を作らせる
なぜわざわざこのような装飾をつけるのか?この装飾は反射特性の測定によって紫外線をはね返していることがわかった。紫外線は人には見えない色であるが、鳥や昆虫はよく見えることが知られている。脱皮前後の脆弱なクモや蛹になったハチが、何のためにこの装飾を用いているかもう明らかだろう。この装飾は、飛翔生物がぶつかって網を壊さないようにするための信号機能を果たしているのだ。
ハチの操作はそれだけにとどまらなかった。材料力学的手法を用い、脱皮用の網、操作された網に使われている糸の強度を計測し、比較したところ、操作された網は外周部で3倍以上、中央部で30倍以上の強度を誇っていた。つまりハチはクモに何度も糸を張らせることで脱皮用の網よりも、更に強化した網を作らせていたのである。
我々研究チームは、次のテーマとして操作の最中のクモやハチの体内で起こる変化に着目し、操作のメカニズムを解明することに全力を尽くしている。
これまで、クモヒメバチの幼虫がクモを食べ殺して通常時とは異なる網を作らせていたことはわかっていたが、操作の明確な起源は不明だったそうだ。ということで高須賀博士にとてもわかりやすく興味深い文章を書いていただいたことに心からのありがとうを伝えるとともに、お約束のあの言葉を言っておこう。
「クモヒメバチ・・・恐ろしい子ッ!」
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コメント
1. 匿名処理班
自然界のこういう生存の為の戦略ってすごい
感動すら覚える
2. 匿名処理班
脳神経を自由に操作する物質とやらを研究して応用して
人間を意のままに操る薬なんかも作れちゃいそうだから怖い
3. 匿名処理班
高須賀さんお疲れさまです。科学にとってこのような地道な活動は大事ですね。
と、本人に直接言うべきなのでしょうが(笑)
また会うのを楽しみにしておきましょう。
4. 匿名処理班
こうして見ると、やはり昆虫って地球外生命体だな…エイリアン昆虫というがエイリアンそのものでしょ。
サナギの状態でせわしく動くぐらいなら、羽化?してから動けや!
5. 匿名処理班
タイムマシンがあったら
クモヒメバチで一番最初にこれを始めた個体が知りたいなぁ
6. 匿名処理班
高須賀先生、貴重なお話をありがとうございました。とても贅沢な企画ですね。
極めて合理的な一連のハチの行動には驚嘆以外にありませんが、しかしここまで洗練されるまでの道のりはどうだったのか、とても興味があります。最後の繭作りの段階は相当な試行錯誤の跡を感じさせます。
是非とも続報もよろしくお願いします!
7. 匿名処理班
もちろん人類は高みの見物で蜘蛛の糸をどう利用するか考え中。
生命は恐ろしい・・・
8. 匿名処理班
すごすぎる・・・!
これはファーブル先生も進化論に異議を唱えるわけだわ
9. 匿名処理班
どういう道を辿ってこんな能力を手に入れたのかが謎すぎる
突然変異と自然淘汰だけでは無理な気がする
そして高須賀圭三博士、わかりやすい記事をありがとうございます
10. 匿名処理班
わかり易く最後までワクワクして読めた。
ありがたやありがたや
11. 匿名処理班
クモ「最近、背中がかゆいのぉ…。(゚ロ゚;)エェッ!?」
「き”ゃーー!!!」
12. 匿名処理班
人間の雄に対しても似たような寄生生物がいるという。
その生物は人間の言葉を巧みに使い、雄の感情をコントロール。
寄生された人間は稼いだ金をその生物にせっせと貢ぎ始める。
その後、雄の巣へ侵入して同居を開始。
健康を維持させる為に雄のエサを提供し(全文は有料会員のみ閲覧できます)
13. 匿名処理班
恐ろしい…
まだ発見されて無いだけで、哺乳動物に寄生して操る生物が存在するのかもね…
14. 匿名処理班
研究者が一般人にわかりやすく論文を説明するのって、研究以上に大変だったんじゃないか?研究内容のすばらしさが中学生レベルでも十分に伝わったかと思う。これで昆虫に興味を持ってくれる子供たちが増えてくれたらうれしいな。高須賀先生、大変ありがとうございました!
15. 匿名処理班
ここって、偉い学者さんも見てるのね^^;
下らないコメント書いてたのがちょっと恥ずかしい
16. 匿名処理班
寄生されて自由を奪われるのは怖いけど、最後まで何も知らず、幸せな一生を送れたらそれはそれでいいことかも。
生きるって何のため?
17. 匿名処理班
やれやれ、カラパイア生物班とかの中は、どんなレベルのが混じっている事やらw
18.
19. 匿名処理班
創造を馬鹿にするのも分らんでもないが、進化論ってのもこうして見ると暴論だと思うわ
まあ、だから「進化学」じゃなくて「進化論」なんだろうけど
明らかにその生物に思考とか設計とか出来るわけがないのに驚異的なことをやってのけているのは高次の存在を伺わせるものだと思うけどな
20.
21. 匿名処理班
寄生蜂の世界はほんとにエイリアンの世界
寄生蜂にすらさらに寄生する蜂、2重・3重寄生すらあるというんだから
奥が深すぎる
22.
23. 匿名処理班
「通常時に作る網ではなく、脱皮時に作る網と酷似していることがわかった」ってところ読んで鳥肌たった…!恐ろしいこ…!!!
24. 匿名処理班
米18
どうだろう。膨大なトライアンドエラーが繰り返されての結果であって、極めて機械的な話なんじゃないかな
25. 匿名処理班
※19
「高度な思考が無ければ、高度な現象が起こりうるはずがない」って考え方こそ暴論だと思うけどね。
26. 匿名処理班
面白いなー
SF映画のエイリアンみたいな話なんだけど
現実の生物なんだね
洗脳された蜘蛛は苦痛ではなく
そういう行動取ることが己の欲求、快楽だったりするのかな
27. 匿名処理班
寄生虫の愉快な仲間たちはマジでド鬼畜だらけ
28. 匿名処理班
やっぱり昆虫はおかしいよ。
機能的に動物より遥かにすばらしい!
やっぱり、別の惑星から来た説に賛成だね。
29. 匿名処理班
蛹前の段階でこうも高度な生存戦略を身につけられたのか、気になってしまう!