奈緒「志保、風邪ひいてもうた」
小鳥さんが私の脇から体温計を抜き取り、何度か振った。
その先端をみてたら、何だかあたまがぐわんぐわんしてくる。
おまけに寒気が、どかんとやって来たわ。
……あかん。駄目かも。やっぱ無理して来んで、家で寝とればよかったわ。
「……うーん、八度七分……かなり高いわね。奈緒ちゃん、気分はどう?」
「……阪神が八連敗くらいした時の気分ですわ」
「それはかなりまずい……のよね? とりあえず、氷枕持ってくるわね」
バタバタと小鳥さんが慌ただしい。
私はソファに寝転びながらそれを眺めてるけど、何だか分身しとるようにみえてきた。
音無って名字、なんか忍者の末裔っぽいもんなぁ。
……なにをいうてるんや私は。風邪や。すべて風邪が悪いんや。
いや悪いのは腹出して寝てた私か。
あかん。何もわからんくなってきた。
>>2
横山奈緒(17) Da
>>2
音無小鳥(2X) Ex
「はい、氷枕、頭の後ろにね。少し楽になると思うわ。あと薬もあるんだけど、これは何か食べてからの方がいいのよね……」
小鳥さんは辺りをきょろきょろと見回しとる。
その時、事務所の扉が開いて、ひょこりと影が。あ、志保や。
「どうしたんですか? 下に車、出てますけど」
「あ、志保ちゃん! ちょうどよかった。奈緒ちゃんの看病、頼めないかしら?」
「え? 別に、いいですけど……」
「私、ひなたちゃんたちの送迎をしなきゃだったのよ。すぐ戻ってくるから! そしたら奈緒ちゃん、家に送ってあげるからね!」
小鳥さんはそう告げて、ばたばたと外へ出ていく。
時間をずっと気にしていたし、私えらい迷惑かけてしまったな……。
普段、体調悪くなるとかないから、本当あかんわ。
>>3
北沢志保(14) Vi
奈緒と志保といえば水泳大会で騎馬くんでたっけ、普段も仲いいといいなぁ
「……しぃーほぉー?」
おらへん。さっきまでおったのに。
アホなのに風邪をひいとる私を見限って、帰ってしまったんやろか。
うぅ……なんか心細くなってきた……。
「私は志保をそんな子に育てた覚え、あらへんでぇ……」
「そもそも育てられた覚えがないんですけど」
おるやん。給湯室から何かを抱えて持ってくる。
ばさっと身体にかけられた。
……タオルケットか。
「暑いですか? それとも、寒いです?」
「めちゃ寒い」
「温度は二十八度なんですけどね。毛布の方がいいかな……」
再び志保がいなくなる。寒さよりも人恋しさのほうがつらいわ。
もう一回、志保の名前を呼んだら、呆れた様子で戻ってきた。
今度もばさりと身体に毛布がかけられる。
「いなくなりませんから」
「ほんまに?」
「……奈緒さん、もしかして風邪とか引いたことないです?」
「記憶にあらへん。体調ってこんなに悪くなるもんなんやな……」
「どうせお腹でも出して寝てたんでしょう」
「しかもクーラーがんがんに効かせてな。温度上げる前に寝落ちしてもうたわ……」
「そりゃ風邪も引きます」
ぺしんと額を叩かれた。いたい。
「汗かいてますね。もうちょっと経ったら、身体拭きましょう。食欲はありますか?」
「全くあらへん。粉モノみたくないとかありえへん心境なんやけど」
「何がありえないのかいまいちよく分からないですが。……これ食後か。お粥はどうです?」
「むり。あついものは、むり……」
あかん、つらくなってきた。目を閉じる。
かといって眠れる気配は全然ないのがつらい。
額にひんやりと冷たい感触。
うっすら目を開けると、志保が額に手をあててくれとった。
「志保の手、ちべたいなぁ……」
「奈緒さんの額が熱すぎるんです。……いいですか、いなくなりませんから、ちょっとここで待っててください。準備、まとめて終わらせるんで」
そう言って、志保は立ち上がって視界から消えた。
それを追う気力もあらへん。
私は目を瞑り、暑くなってきたから毛布を蹴飛ばした。
そしたら寒気が増して、再び毛布を頭から被る。
あかん、死ぬんやないかこれ。
そんなんを何度か繰り返していると、志保が戻ってきた。
色々なもんを抱えとる。
まず、洗い桶に張られてた水でタオルを絞ってくれた。
「……それ、雑巾ちゃうよな」
「冗談を言える元気はあるんですね」
「……空元気ってやつや」
額にタオルを置いてくれる。
あんま冷たくないなぁって思ってたけど、その上に更に氷が詰まったビニル袋を載せてくれた。
おぉ、ちべたい……。
「あとこれ。舐めてください」
志保が氷をつまんで、私の口元へ持ってくる。
「え、指を? それはちょっと、えろいんやないかな……」
「違いますよ、氷です……指じゃないって言ってるでしょう!」
「そんな細かいこと出来るわけあらへんやろ……」
口の中でころころと氷を舐める。正常やったら志保の指の味とかもしたんやろか。
こんなこと考えとる時点で正常やないけども。あー、ちべたい。
「もっと氷食べられそうだったら、いってくださいね」
「……ほな、もう一個、あーん」
今度は舐める前に指が即座に消えていった。なんや、つまらんな。
しばらく、氷を舐めては入れられてを繰り返していると、ふと、思う事があった。
「なんや、ひな鳥みたいやな」
「みたいじゃなくてまさにそれですから。……本当は、一緒にダンスレッスンだったはずなんですからね。反省してください」
「……なんや、志保だけいけばいいやん」
「もう事情を説明して休みにしてもらいました」
「さよか。……ごめんな。なんか埋め合わせ、するからな」
「別にいいですよ。大体、迷惑をかけられてるのはいつもですし」
そんな事ないやろ……いや、あるかもなぁ。
「……ちょっと、黙らないでくださいよ。冗談ですよ、冗談」
慌てた様子で取り繕っとる。
別にそういう反応をさせたかったわけじゃないから、逆にへこむわ。
……あかんな、体調悪いとやっぱ調子でーへん。なんとかせな!
「志保の冗談はつまらんからなぁ。もうちょっと勉強せーへんと、バラエティ出られへんで」
「……別に、いいですよ。奈緒さんが一緒に出てください。助け合いの精神です」
「さよか。ほな、私がドラマにでも出たら脇役で引き立ててくれや」
「引き立つほどの魅力があればですけどね」
志保がイタズラっぽく笑う。
このー、人が気を使ってやったらこの仕打ちや。むかつく!
……決めた。こうなったら風邪を逆手に困らせまくったる。
「……なー、志保、なんか手が熱いわ」
「そうですか。氷袋、もう一つ作ってきますね」
立ち上がろうとした志保の手を取る。
「これでええわ」
ぽつりと呟いた。
志保の掌は割と冷たい。私のが熱いのかもしれへんけど。
「……まぁ、奈緒さんがいいなら、いいですけど」
すとんと志保がソファに腰を下ろす。見上げた頬がちょっと赤くなっとる。
「なに照れとんねん」
「照れてませんから!」
お腹の方にばしんと衝撃。やめてや、吐いてまうよ。
「なんやこれ……あぁ、桃缶かぁ……」
「えぇ、シンクの所にあって。これなら食べられるんじゃないです?」
「そうかもなぁ……」
正直、あんまり食欲はわかんけど。
まぁ、お好み焼きとかよりはマシっぽいかな。
「じゃあ、開けますから、ちょっと待っててくださいね。……手は離してください」
「えぇー、ややー」
「片手じゃ出来ないんですよ! ……まったく、わがままばっかり……」
ぱかりと缶が鳴り、中身が手際良く皿に移しかえられていく。
「……なんや、猫になった気分や」
「元から似たようなものでしょう」
いや、それはきみには言われとうないわ。
「はい、食べられますか」
「無理そうやから、さっきみたいに、あーん」
「……食べられますよね?」
私はひかへんで。ほんまに無理やし。私は今ひな鳥やし。
餌を求めてぱくぱく口を動かしていたら、志保が大きくため息をついた。
諦めた様子で、桃をフォークで四等分にしている。
その内の一つを上手いことすくい、口へ持ってきてくれた。
もぐもぐ。
「うまいな」
「そうですか。ならよかったです」
「いや、手際が。慣れとる」
「……まぁ、弟がいますから。子どもって体調、すぐ崩れちゃいますからね」
看病くらいは出来ます、と志保が呟く。
「なんや、私は弟くんと同レベルかい」
「以下ですよ。こんなに大きいのに手が掛かりすぎです」
とんでもない言いがかりや、と呟いた後に再び口をぱくぱくさせる。
もう突っ込む気力もありません、と志保は観念して桃を次々と私の口の中へ運んでくれた。
食えへんと思ってたけどぺろりと一缶食べられて、
食後ににがぁい粉の薬を飲み下し、
たっぷりかいた汗を拭いて着替えも手伝ってもらったら、
段々うつらうつらとしてきよった。
「……しほぉ。なんか眠くなってきたわ」
「本当、子どもみたいですね。……いいですよ、寝ちゃってください」
「さよか? ほな、一緒におってな……」
「はいはい、わかりましたから」
「手も握っ
コメント一覧
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- 2015年08月20日 22:35
- 良い。すっごく良い。
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- 2015年08月20日 22:49
- コミック版といい奈緒株上がり中
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- 2015年08月20日 23:17
- ほほう。これは良いものですな!
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- 2015年08月20日 23:18
- 声もイメージできたいいね
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- 2015年08月20日 23:55
- なおしほの可能性を感じる
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