師匠「弟子がそろそろワシを超えそうで焦ってます」
<ローングナーイトダベリングー♪
「はーい、こんばんはー!」
「――っというわけで! 今夜もロングナイトダベリングの時間がやってまいりましたー」
「ラジオパーソナリティのロンロンです! よろしくだべりましょー!」
「早速ですが相談コーナーにおハガキが来ております。読み上げちゃいますよー!」
「えー、ラジオネームおししょさん。『こんばんはロンロンさん』。はいはいこんばんはー」
「『わたしはある山で弟子なぞをとっておりますが、最近その弟子がみるみる力をつけてきました』」
「いいことじゃないですかおししょさん!」
「『めでたいことなのですがどうやらその実力、なにやらワシより上のようで』」
「あらら」
「『師匠としては喜ぶべきなのでしょうけれど正直焦ってます。どうしたら師匠としての体面を保てるでしょうか』」
「これはなかなか難しい問題ですねー」
「ロンロンもめっちゃ優秀な後輩がいるので気持ち分かりまくりですよー」
「お互い尊重し合えればいいんですけど気まずくなることも多いですよねー」
「のみならず見下されたなんてなっちゃった日には……おおう」
「よーし、ロンロン、張り切ってこの相談に答えちゃいまーす!」
「っと、その前に一曲どうぞ。凡人ロッカーズで、『いちぬけ人生』!」
……
弟子「セイッ、ハッ、ヤッ!」
ド! ドド! ドドゥッ!
弟子「とぉぉりゃッ!」
メキャッ――ドウン!
弟子「フゥー……」
弟子「……師匠! やりましたよ! 山一番の巨木、ついに打ち倒しました!」
師匠「……」
弟子「師匠?」
弟子「師匠。師匠ってば。どうしました?」
師匠「はっ! い、いや何でもないぞ。ただ、なんといえばよいか……感慨深くてな」
弟子「感慨深い?」
師匠「うむ。ワシがお前くらいの年のころにはやはりそれくらいの巨木を打ち倒したものだ」
弟子「師匠もですか!」
師匠「う、うむ」
弟子「いやー、あはは、師匠と同じですかー。なんだかうれしいなあ!」
師匠「は、ははは」
弟子「それで、師匠の時はどんな感じでした? やっぱり達成感ありました?」
師匠「それはもうな! その……すごいもんじゃったて」
弟子「その時の話、詳しく聞かせて下さい!」
師匠「そ、それは……」
弟子「ワクワク」
師匠「まあその、また今度にせんか? ワシはちょっと疲れたよ」
弟子「え? 師匠は見てただけじゃ……」
師匠「バカモン! 師匠は師匠であるだけで疲れるんじゃ!」
弟子「よくわからないけどごめんなさい!」
弟子「では師匠、先に庵の方に戻ってますね」
師匠「うむ、しっかりと体を休めよ」
師匠「……」
師匠「…………」
師匠「っ~~!」
師匠「がはあああッ! っくしょおおお! 先越されたあああ!」
師匠「ワシが先にあの巨木を殺るはずだったのにいいぃぃぁぁああ!」バタバタ!
師匠「なぜだ! 才能か! 天賦の才なのか!」
師匠「確かにあいつは抜きんでてセンスが良かった!」
師匠「馬鹿みたいな吸収力でワシがン十年かかって修得した技をその半分以下で手に入れおった!」
師匠「でーもー少しくらいは待ってくれてもいーじゃーんー! いーいーじゃーんー!」
師匠「あーあ先に成し遂げたかった……幻の巨木刈り……」
弟子「師匠」
師匠「何だ?」キリ!
弟子「いえ、何やら師匠の叫び声が聞こえたので」
師匠「うむ、少し気を練っておった」
弟子「それはごめんなさい、邪魔をしました」
師匠「いや」
弟子「それでは失礼します」
師匠「うむ……いやちょっと待て」
弟子「はい?」
師匠「うーむ……」
弟子「……?」
師匠(こやつめ、ただ立っているだけだというのになんと隙のないことよ……)
師匠(どの方向へも瞬時に攻めることができ、また攻められても確実な一撃を返すことができる……)
師匠(力みすぎもせず、かといって威力に足らざるところなく)
師匠(知力判断力も満ち満ちている……)
師匠(容姿にも恵まれ正直たまらんくらいだし……)
師匠(つまり一言でいえば……そう、ずるい)
師匠(ずっこい。ずっこいぞこやつめ!)ギリリ…!
師匠「うぐぬぬぬ……」
弟子「あの、師匠?」
師匠「ぬっ!? い、いや、なんでもない! なんでもないぞよ!」
弟子「なんですかその口調は。えっと、大丈夫ですか?」
師匠「お前がワシの心配をするなぞ三十年早い! むしろお前の方がだな――」
師匠「はっ!」
「ロンロンのグッドアイディアその一~! 弟子に修業をさせな~い!」
師匠(これだ)
弟子「あの、師匠?」
師匠「弟子よ(低音」
弟子「うわ急なシリアスシフト……はい、なんでしょうか師匠」
師匠「お前がワシに弟子入りしてから十何年だったかな」
弟子「五年です」
師匠「え。マジで?」
弟子「はい」
師匠「…………そうか、五年か。そうだったな」
弟子(今マジでって言った。確かに言った)
師匠「……まあとにかくだ、ワシに弟子入りしてから早五年、お前は休まず鍛錬を続けてきたわけだ」
弟子「それは、はい」
師匠「ならば、お前にいとまを言い渡す!」
弟子「え!?」
師匠(そうじゃ考えてみれば当たり前じゃった)
師匠(修業なくして上達なし! 加えてワシだけ鍛錬しとれば巻き返せる!)
師匠(これでまたワシの天下じゃ!)
師匠(グヘヘ! グヘヘじゃよグヘヘ!)
弟子「あのー師匠?」
師匠「グヘ?」
弟子「いえグヘではなく。いとまって結局何をすればいいんですか?」
師匠「はあ?」
弟子「ぼく、そういうのわからなくて」
師匠「そんなの適当にふもとの町で遊んどればええだろうが」
弟子「でもそれでは技が鈍ってしまいます」
師匠「それが狙いじゃッ!」
弟子「え」
師匠「い、いや、えーとつまりそれが一種の試練じゃ!」
弟子「……試練?」
師匠「体を鍛錬漬けにするのではなくたまには休ませること」
師匠「それから休みを通しても技を鈍らせないようにする、と。そういう試練なんじゃ!」
弟子「……」
師匠(頼むっ! 騙されていてくれぇ!)
弟子「……師匠」
師匠「ひぇいっ!?」
弟子「分かりました、行ってきます」
師匠「ひぇ?」
……
弟子「ではまたいとまの後にー!」
師匠「おーう」
師匠「……」
師匠「行ったな」
師匠「ようしさっそく鍛錬じゃあ!」
「こんばんはー! ロングナイトダベリングの時間ですー!」
「以前おハガキ投稿いただいたラジオネームおししょさんから、またおハガキ来てますよ!」
「『ロンロンさん、以前はアドバイスありがとうございました』」
「いえいえー」
「『おかげさまで弟子に追い抜かれることは阻止できそうです。本当に助かりました』」
「よかったです! ロンロンもすごくうれしくなっちゃいました!」
「と、いうわけでご機嫌なナンバーいっちゃいますよー!」
「凡人ロッカーズで、『ダウン・トゥ・奈落』」
……
師匠「スゥー……ハァー……」
師匠「……キエィッ!」
……ビス!
師匠「お? おおおっ……?」
師匠「やたーい! ようやく巨木に傷が入ったぞーい!」
師匠「あれから一か月、休まず、まあおおむね休まず鍛錬した甲斐があったというものじゃ!」
師匠「これなら一年以内に何とか巨木刈りが達成できそうじゃー!」
弟子「ただいま戻りました」
師匠「帰れ!」
弟子「え」
師匠「む、おおすまぬ、弟子か」
弟子「若干泣きそうになりました」
師匠「休暇はどうじゃった?」
弟子「ええ楽しかったです。……なんでにやついてるんです?」
師匠「ふほほほ別に何でもないぞよ。ぞよぞよ~」
弟子「また変な口調……」
師匠「いやあ心に余裕が生まれるとこうも見える景色が違うんじゃな、と」
弟子「なんだかよくわからないですけど」
師匠「まあよいよい、先に庵に戻っておれ」
弟子「分かりました」
師匠「…………隙ありィ!」
弟子「え?」
――ドゴゥ!!
コメント一覧
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- 2015年08月28日 23:36
- ちょっと弟子とってくる
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- 2015年08月28日 23:49
- 師匠かわいいし面白かったあはは