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遠隔操作で父の肩をたたいたら、5分で同僚が泣いた
同僚から親孝行したくないっすか、と聞かれた。
お、おお。 「したくないっすか?」と聞かれて「したくねえや」とは答えにくい質問である。親孝行か。うん、まあでも実際したいかなあ。大人になった今も父母には常々世話になっているのだ。 すると同僚が目を輝かせた。古賀さんはボタン押すだけでいいです。そしたら自動でお父さんの肩をたたく機械を、俺たち作りますから。 んんっ?
古賀及子(こがちかこ)
1979年東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてニフティ株式会社へ入社。好きな食べ物は「ミラノサンドC」とすることをこのほど決心。> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes 会社から、実家にいる父の肩をたたく「俺たち作りますから」と言った同僚というのは当サイトの編集部 安藤である。「俺たち」というからには仲間もいてそれが同編集部 石川。
2人とも日々の業務に追われながらもいろいろと準備を進めてるなあと横目で感じてはいた。で、気づけば私は会社で青いボタン2つを前にしていた。 裏に「右」、「左」と書いてある
青いボタンのついた箱
驚くことに、このボタンを押すと実家にいる父の肩がたたかれるらしいのだ。右のボタンを押すと右肩を、左のボタンを押すと左肩をたたくらしい。
電話が鳴って、出ると石川である。 「いいですよ、ボタン押してください」 「えーなに、大丈夫なの?」 「大丈夫です!」 押す
押すと電話の向こうでギコーっという音がした。電話口がわっと沸くのが聞こえる。
そのころ実家では
肩たたきマシンで本当に父の肩がたたかれていた…!
石川にたのんで電話を父にかわってもらう。そもそも父のそばに同僚がいるというの、これなんなんだろう。
「お父さん? ほんとに肩たたかれてんだねこれ」 「おお」 「気持ちいい?」 「気持ちよかないよ〜、なんか猫になめられてるみたいな感じだな」 なんでもいいが本当に同僚たちは私の実家におり、そして父は肩たたきマシンにより肩をたたかれているようだ。(同僚実家にいるの)まじか。(遠隔で肩たたかれてるの)まじか。まじかの二重奏である。 そしてマシンが肩をたたく力はめっぽう弱いらしい。マッサージの効果としてはゼロのようである。重ね重ね意味がわからない。 ……。 しかし、しかしなのだ。 父が喜んでいるのが電話口から異常なまでに感じられるのだ。うわ、喜んでる、父喜んでるわこれ。 見たことない顔してる!
お父さん泣きますよ、きっと。安藤はいっていた。そのときは笑ってまさかという思いであったがこの喜びぶりはどうだ。泣くかもな。泣くかもしんないな。
父の喜ぶ声に驚いて電話を持つ手から汗がふき出した。 紹介が遅れましたがこちらが同僚の安藤(左)、父をはさんで石川(右)
今回準備に関して私がしたことといえば父の予定を聞いたくらいである。しかも実施の段になって私がしているのは青いボタンを押すだけだ。
労せずしてなにこの感慨。あわてながらもボタンを右、左とゆっくり押す(あんまり連打するなと石川にいわれている。壊れるらしい)。 こんなにお父さん喜んじゃってなんか恥ずかしいし、もう終わってもいいかなと思う反面、多忙のなか仕組みを作ってくれた同僚たちの努力に少しでも報いねばという思いもありしばらく肩をたたき続けた(ボタンをゆっくり押し続けた)。 そしてたたくほどに、父の喜びがさらに電話口から伝わる。わー! 肩をたたかれて「なんだか腹が減ってきたな」という父。照れかくしだ。
橋田が泣いた私は感動屋なのだ。なんだってすぐに泣く。
父が泣くというよりも、あれ、これもしかして私が泣いちゃうやつじゃないの、うわあどうしよう思っていた。するとボタンを押す私の様子を撮影してくれていたこれも同僚、編集部の橋田が 「だめだ、泣けた」 と。本気で涙をぬぐったのだった。ちょっと橋田さん! あたしの先に泣くなや!
父でも私でもなく、泣いたのは橋田。
電話でそれを実家側に伝えたら、スピーカーフォンにしているらしい電話先の全員が笑ったのが聞こえた。 どうなってんのかよくわかんないけど、同僚が全部作ってくれた仕組みでお父さんの肩たたいて、したらそれ見た同僚が泣いた。 ボタンを押し始めてからものの5分しか経ってないが、なんかこう非常にいい雰囲気である。5分だぞ。感動のコストパフォーマンス良すぎだろう。 だって私も泣きそうなんだぞ。 畳み掛けて、礼儀正しい後輩だこの日、実家には研修中であるニフティの新人社員もデイリーポータルZ編集部の業務体験のため安藤石川チームに同行していた。
ひと段落してぼんやりと父を囲む新人の吉川(奥)父をはさんで佐藤(手前)
彼らは父に渡す手土産を用意してくれたそうだ。
実習といわれ派遣された先で急に先輩社員の実家に行き、やることはへんな機械がギーコギーコと知らんおじいさんの肩をたたく様子をながめることである(あとおじいさんへの土産を買う)。 謎すぎる業務を体験させてしまい新人育成中の人事部の目がおそろしいが、後日聞いたところ父は私に礼儀正しく若い後輩社員がいるという事実がまた嬉しかったらしい。 結果的に親孝行になっている。 親孝行が親孝行を生む親孝行スパイラル。言っていいですか。 なんなんだこれ! その新人が選んだ手土産のアップルパイ
危なくアップルパイまで食べるところだった実家ではこの後、新人が買ってきた手土産のアップルパイを父に渡してくれたそうだ。
みんなで食べる流れにするはずが、父が包丁のありかを知らなかったため切り分けられずそのまま引き上げたと連絡があった。 これでみんなで一緒にアップルパイでも食べられたら不在の私にはいよいよ意味不明な事態になっていたと思う(同僚と新人が私のいない実家で父とアップルパイを食う?!)。 包丁がみつからなくてよかった。 のちほど母や祖母と食べてください
一方そのころ。
青いボタンをひとしきり押し私は前述の橋田やさらなる同僚の藤原らと淡々と後片付けをしそして平常心で帰宅した。 肩をたたいて父と電話口で話したのはものの5分くらいだったと思う。あの5分、深い感動が訪れたのは間違いないのだが…それにしても5分だ。なんだったんだろう。 時間の長さと感慨の深さがまるでつりあっていない。こういうタイプの感動ははじめてである。 「IoT肩たたき」って言いたかった(だけ)さて、この遠隔肩たたき、冒頭で説明のとおり言いだしっぺは安藤だ。「IoTで肩たたきをしよう」という思いつきから始まったらしい。
IoTというと「Internet of Things」「モノのインターネット」とかいういまネット界隈で話題のやつだろう。肩たたきをインターネットでやるからIoT肩たたき、だ。 なんとこの企画、もともとはニフティのセキュリティサービスである「常時安心セキュリティ24プラス」の広告目的だったのである。 「常時安心セキュリティ24プラス」があれば、遠隔地からセキュアに肩がたたけるという超未来が実現するというわけだ。 というかこれ絶対「IoT肩たたき」って言いたかっただけだ。 IoT!
どういうことなのか、安藤と石川を改めて問い詰めよう。
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