転載元:勇者「停戦協定?」
※長編注意
宰相「国王陛下!先ほど勇者様一行が魔王軍の本拠地近くまで迫ったという報告が入りました」
宰相「既に魔王軍の本隊は劣勢を極め、幹部クラスの魔族もほぼ全て討ち取っているそうです!」
国王「そうかそうか。それはよい知らせじゃな」
・ディーラー「納車だよ。保護シートとるからね」 アルト「えっ」
・【マジキチ注意】女「すいません…」モジモジ 膣内洗浄師俺「なんだ股患者か」
・男「よりによって最後の村に生まれてしまった」
・医者「こりゃアレだね、一日30回くらいはオーガズム感じちゃう奇病だね」 俺「うわーん…やったぜ!!」
・【胸糞注意】女「痴漢です!」 男「えっ」 私服警察「えっ」
宰相「はい。国民も魔王軍討伐の知らせに歓喜しております」
宰相「かの『百年戦争』も、ついに我らの勝利に終わるでしょう!」
宰相「勇者様への禄はどうなされますか?」
国王「まあ待て。まだ勇者が魔王を討つと決まったわけではない」
国王「いや、討たせるわけにはいかぬ」
宰相「はて、どういう意味です」
国王「分からぬか? これまでの人類の歴史を振り返ってみろ」
国王「長い戦争の末勇者が魔王を討ち、そして100年もすれば再び次の魔王が立ち、それをまた勇者が討つ」
国王「そんな全く同じ流れを我らは古くから続けてきたのだ」
国王「ここで一度断ち切っておかねばならぬ」
宰相「しかし……どうやってですか?」
国王「魔王軍と『停戦協定』を結ぶ」
国王「人間と魔族の平和。それを約束するのだ」
宰相「……こんな突然で大丈夫なのですか」
宰相「人間族は古くから魔族を嫌悪しています」
宰相「そう簡単に国民が受け入れるとは思いません」
宰相「勇者様についても一体どう説明していいのやら」
国王「ハハハ。問題ない。さっきのはただの建前だ」
宰相「はぁ」
国王「魔王軍も壊滅寸前。不平等に条約でも結んで苦しめてやればよい」
国王「下手に駆逐するよりはいくらかは役に立とう」
国王「もちろん、魔族への差別中傷も文書では禁止するが、実際は咎めなどせぬ」
国王「魔族などという汚れた者達と人間が協調するなど、初めから不可能な話なのだよ」ハハハ
国王「そして、この戦いが終われば再び諸侯国は分裂し、新たな戦争がすぐに始まるだろう」
国王「そこでだ。然るのちに人間族の諸侯国を『人間族連合王国』として統合する」
国王→幸の国王「さすれば、後々は南の大国『幸の国』国王である余が人間族全てを治め、平和な世を築くことができようて」
宰相「なるほど……あの西の『奇術国連合』と東の『魔術国連合』を相討ちさせ
両者が疲弊した隙に陛下が北の魔国も含めて諸侯国すべてを統一する、ということですね」
幸の国王「その通りだ」
幸の国王「勇者についても考えてある」
幸の国王「北部の荒れ地でも開拓してもらうつもりだ」
宰相「事実上の左遷ですか……」
幸の国王「まあな。奴も優秀な政治手腕を持つという話だろう?」
宰相「はい。かつて花の国戦線の城にて、城下町に道路や水道、法律を見事に発達させました。
今では大都市にまでなっていますね」
幸の国王「脅威以外の何者でもないな。この国に置いておくわけにはいかん」
幸の国王「さらに左遷したのちも監視を怠ってはいかんぞ」
宰相「では、協定交渉はいつ行いなさるのですか?」
幸の国王「ん。それならもう済んでおる」
幸の国王「先方魔王軍の第二権力者である側近との合意を得た」
幸の国王「今すぐにも勇者を呼び戻し、協定調印式の準備を始めねばな。卿にも手伝ってもらうぞ」
宰相「御意」
宰相「陛下、そういえばそのペンダントは一体どうなされたのですか?初めて見ましたが……」
幸の国王「ん?ああ、これのことか」チャリ
幸の国王「『知恵のペンダント』と言うそうだ。交渉の時に側近が友好の証だとかで渡してきたものでな」
幸の国王「これをつけていると頗る頭が冴えるのだ。一体どんな魔法をかけているのかは見当もつかん」
宰相「もしや、陛下への呪いだったりするやもしれませんね」
幸の国王「がははは! お前も悪い冗談が上手くなったものだ」
宰相「はっ。これはとんだお耳汚しを……」
宰相は確かにこの国王に対して違和感を感じたはずであった。しかし、彼の性格では
それに言及するには到底及ぶことが無かったのである。
―――魔王城 玉座―――
側近「ですからですね……」
魔王「ですからじゃないわよ!」ムキー
魔王「何勝手に変なこと約束してるのよ!」
魔王「もうちょっとで人間なんてけちょんけちょんにしてやれるのにぃっ!」
側近「もう不可能ですよ魔王様」
側近「幹部は私を残して全て戦死し、魔王軍はほぼ壊滅しました。忌まわしき勇者の一行もすぐ近くまで迫っているそうです」
魔王「やかましいっ! そんなの私が直接出れば楽勝よ!」ムキー
魔王「くらえ!」バリバリバリ
魔王は雷魔法を放った!
側近「おやめくださいこんなところで」ヒラリ
かわされてしまった!
魔王「うるさいうるさい! もうアンタなんか知らない!」バタン
魔王は寝室に入ってしまった。
側近「協定の調印式には出席していただきますからね」
側近「……すべては我らが繁栄のためです……」ボソッ
―――…
グスッ
魔王「また負けちゃった……」グスッ
魔王「どうして私は負けてばっかりなの?」
魔王「お父様…どうして……」
魔王「うううぅぅ……」
魔王「人間と一緒になんて……」
魔王「こんな私ができるわけないよ……お父様……」
―――魔王城付近 勇者キャンプ―――
勇者「今更国に帰れだって?」
使者「そうです。もうじき戦争は終わるのです」
使者「幸の国王様が『停戦協定』を魔王軍と結びなさると……」
勇者「停戦協定?」
戦士「おいこら! ここまできてノコノコ帰れってのか!」
魔法使い「それは少し理不尽なのでは」
僧侶「そうですそうです! 私たちは平和のために命を懸けてここまで辛い道をたどってきたんですよ!」
使者「ですが、決まったものはどうしようもなくてですね……」
使者「かの『死の谷』でさえ、ここまで私が無事で来れるほど魔王軍は弱体化しているんです」
使者「もう十分平和は訪れますよ」
勇者「そうだな……少しでも平和に解決してくれるならそれ以上のことは無い……」
戦士「おい! 怖気づいたのか勇者さんよぉ!?」
魔法使い「まあ抑えなさい戦士」シュパー
魔法使いはお口チャック魔法をかけた。
戦士は話せなくなった。
戦士「むぐぅ……」モゴモゴ
勇者「でも、それで国民は満足するのか?」
勇者「家族や親友を魔族に殺されたような人々もいるだろう」
勇者「僕らはともかく、協調するなんて難しいんじゃないのか」
使者「はい……その点も国王様の御考えのうちです」
使者「つきましては、勇者様に協定調印式の招待状が来ております」
使者「必ず出席せよとのことです」
勇者「分かった。詳しい話は直接聞こう」
勇者「今夜はこのパーティ最後の夜に、祝杯でも挙げておこうか」
魔法使い「そうね」
僧侶「こんな突然なんて……まだ信じられないです」
戦士「モゴモゴ」
使者「では、私はこれにて」
―――夜 魔族領から最も近い国花の国 最寄りの町の酒場―――
勇者「それじゃあ、乾杯」
戦士「乾杯!」
僧侶「……乾杯」
魔法使い「乾杯」
カチン
勇者「みんな今までありがとう」
勇者「これからは皆で平和な世を生きていくんだ」
勇者「これほど嬉しいことは無い」
僧侶「そうですけども……」
勇者「そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
勇者「僕らは元々平和のために戦っていたんだ」
勇者「どんな形であれ、平和が訪れることは僕らの本望なんだから」
戦士「勇者の言うとおりだ。ここで旅を終えるということは逆に喜ぶべきことなのかもしれんぞ」
魔法使い「まあ、戦士にしては珍しくまともなことをいうのね」
戦士「珍しくは余計だ」
僧侶「そうですね……」
僧侶「いつかはこの旅も終わりが訪れるものですもんね……」
勇者「まあ仕方ないさ。僕達は4人で1人みたいなものだ」
勇者「僕だって名残惜しいところはある」
魔法使い「ところで、これからはどうするつもりなの?」
勇者「そうだな……」
勇者「あの幸の国王のことだ。僕が帰れば、僕の政治手腕を恐れて左遷でもするつもりだろう」
戦士「昔から戦闘の才能はヘボのくせに、戦術の才能はピカイチなんだもんな」
戦士「ま、それも名参謀僧侶閣下がいてのことだが」
勇者「しーっ!」
勇者「そうなったら、新しい国を作ろうと思う」
僧侶「新しい国?」
魔法使い「もう13もあるみたいだけど」
戦士「そいつはでかい夢だな」ハハハ
勇者「まあね。でも本気さ」
勇者「停戦協定を結んで、魔族と人間が協調し合おうとしても、なかなか難しい部分はあると思うんだ」
勇者「だから、僕はその先駆けとして魔族と人間がともに平等に暮らせる国を作る」
勇者「本当の永遠なる平和を実現するためにね」
戦士「……全く。お前が言うと本当にできそうな気がしちまうよ」
僧侶「そうですね!そこまで考えているなんてやっぱり素敵です!」
魔法使い「やるじゃないの。でも、最大国幸の国と、大国奇術の国、魔術の国がそれを許すかしらね」
勇者「まあ問題はそこだろうね。でも、ちゃんと考えてある」
勇者「戦士はこのままついてきてほしいんだ」
戦士「俺は親友と夢のあるところへ歩んでいくつもりだぜ」
戦士「そのかわり、ガッカリさせようものならこの手で叩き切ってやるからな」
勇者「ありがとう」
勇者「そして、他の2人は一旦故郷へ戻った方がいいだろう」
勇者「可能ならば再び合流してほしい」
僧侶「そうですね……私は奇術の国に家族もいますし……」シュン
僧侶「これ以上心配をかけるわけにはいきませんね」
魔法使い「ま、あの魔術国国王のことだし……戻るのに時間はかからないわね」
勇者「うん。それじゃあ必ずまた会おう」
僧侶「はい!また必ず!」
勇者「僧侶にはわざわざ奇術の国出身なのに魔術を学んでもらって苦労を掛けさせてしまったな」
僧侶「いえいえとんでもない!奇術は『エネルギー』がないと何にも役に立ちませんから……」
勇者「それに、僕の戦術も補佐兼参謀役の君があってこそだった」
勇者「戦術、魔術、そして奇術。是非帰っても、僕らの下へ戻ってきてもその才能を生かしてほしい」
僧侶「そんな……大したものでは……」
魔法使い「あら、あの町づくりの時のあなたの顔ったら見たこともないくらい生き生きしてたじゃない」
僧侶「それはですね……」
戦士「ふん。別れ言葉ってのは似合わねーんでな。そろそろお暇にしようじゃねーか」
勇者「そうだね。それじゃあ皆。しばし平和を楽しもう!」
―――しばらく後 幸の国 王城前広場 停戦協定調印式―――
魔王軍は戦闘を一切放棄し、人間と魔族との戦争は終結した。
そしてその後、調印式にはあらゆる国の人間と、魔族が集った。
彼らはお互いに睨み合っていたが、中には握手を求める商人などもちらほら見られた。
世界中の皆が、この新しい時代への扉に興味津々であったのだ。
ワーワー!
ヘイワバンザイ!
幸の国王「皆の衆!」
幸の国王「我らはこれより新たな時代の幕を引く!」
幸の国王「魔族と人間の戦いはここを持って永遠に廃されるのである!」
ワーワー!
幸の国王「それではまず、我と魔族の第二権力者である側近殿により、停戦協定条項への調印を行う」
幸の国王「側近殿、前へ」
側近「はい」スクッ
テクテク
幸の国王「今一度協定条項へのお目通しを願う」
第一条、『百年戦争』の終結を誓い、人間族と魔族は未来永劫戦いを廃する
第二条、人間族諸侯国は元魔王軍領地を『魔国』として承認する
第三条、両族は協調を旨とする。いかなる場合であっても両族を差別、中傷しない
第四条、幸の国は国内に魔族の居住区を建設する
第五条、両族は経済において提携する
第六条、魔国復興のため、復興省を設置し、人間族が魔国を保護する。
側近「……」
側近「よろしいでしょう」ガシッ
幸の国王「うむ」ガシッ
ワーワー!
幸の国王「理解、感謝する」
幸の国王「では次に、両族対立の象徴である『勇者と魔王』両者による和睦を誓っていただく」
幸の国王「勇者殿、魔王殿、共に前で握手を!」
魔王「……」スクッ
魔王「……」スタスタ
勇者「……」テクテク
勇者「よろしく」ニコッ
サッ
魔王「……」チラッ
ガシッ
ワーワー!
幸の国王「これにて人間族と魔族の争いの壁は完全に消え失せた!」
幸の国王「両族の永遠なる繁栄を祈ろうではないか!」
ワーワー!
ワーワー!
魔国万歳!
平和万歳!!!!
―――――――
―――――
―――
魔族と人間に平和が訪れた!
時は陰謀渦巻く時代へ。
伝説は再び訪れる。
人間族と魔族と、そしてもう一族の新たな物語!
―――調印式後 幸の国城 玉座―――
勇者「国王陛下! 度重なる御恩と援助にこの上ない感謝を申し上げます」
幸の国王「ガハハ! そうかたくなるな勇者殿。崩してよいぞ」
勇者「ありがとうございます」
幸の国王「長旅による魔王軍討伐、実にご苦労だった」
幸の国王「この平和の訪れも、卿あってのことである。誠に感謝いたすぞ」
勇者「いえいえ私などは……」
幸の国王「ついてだが……勇者殿の禄について諸臣と討議した結果、北部の手つかずの土地を勇者殿に差し上げることに決定した」
勇者(ほら来た! しかし『手つかずの土地』とはまたおしゃれな修飾だな……)
勇者(『公式な』人口は皆無。土地もボロボロのただの荒れ地だというのに)
勇者(しかし、それがまた好都合だね)
勇者「ははっ。ありがたき幸せに存じます」
幸の国王「うむ。それでは、近いうちにこの国を発ち、その土地を開拓してほしい」
幸の国王「勇者殿の政治手腕には我らも期待しておる」
幸の国王「頼んだぞ」
勇者「御意」
―――…
戦士「はははは。で、予想通り飛ばされたってわけか」
勇者「そういうことだね」
勇者「特に条件も付けてこなかったし、僕にとってはかなりの好都合だろう」
勇者「明日にはここを発とうと思う」
戦士「あいよ。準備ならいつでもできてるぜ」
戦士「俺も幸の国憲兵総官とやらを断ってやったんだからな」
戦士「感謝しろよエリートさんよー」
勇者「ははは。そんな暇そうな仕事は戦士には似合わないだろ」
勇者「居眠りですぐにクビになるのがオチさ」
戦士「お、言ってくれるじゃないか」
戦士「どうだ久々に一太刀やろうじゃねえか」ジャキン
勇者「よしてくれよこんな城の中で」
勇者「あっちにいったら十二分に仕事も増えるんだから」
戦士「チッ。ここのところはお預けにしといてやる」チン
戦士「ところで仕事が増えるってのは、ある程度やることが決まっているってことのようだが?」
勇者「まあね。まああまりここだと大きな声で言えないから、近くなったら話すことにしよう」
戦士「いいだろう。あーあ全く暇だな。一眠りでもしてくるか」スタスタ
勇者「はいはい」クスクス
―――魔術の国 首都―――
魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。魔法使い殿、貴女には是非魔法大学校の校長を務めていただきたい」
魔術国王「前任の校長が老衰してしもうてのぅ。そろそろ引退したいと申しておるのじゃ」
魔術国王「魔術国王、魔法省長官、魔法大学校校長、魔術連合軍総司令官の『四賢人』であっても、老いにはどうしても勝てぬのでな」
魔術国王「少々お若いが、魔法学の権威として貴方に最先端を担って頂きたいのじゃ」
魔法使い「それは大変名誉な位ですわ。私には勿体ないほどのね」
魔法使い「是非お受けしたい、と申し上げたいけれど」
魔法使い「もう少し私にはやることがありますので、その話は保留にしておいてくださらないかしら」
魔法使い「心配しなくても私は100年や200年じゃ老いぼれませんからね」
魔術国王「ほう……そうか。それは残念じゃな」
魔術国王「奇術の国との戦争がまたすぐに始まるじゃろう」
魔術国王「貴方にはその司令官としても活躍してもらいたかったのじゃが……」
魔法使い「お言葉ですが陛下。私たちは人間族の平和のために戦う身ですの」
魔法使い「人間同士の戦いに加わる気は、さらさらないことをここで申し上げておきますわね」
魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。それでこそ勇者一行様じゃのう」
魔術国王「それはよいのじゃが、このあと貴方はどうするおつもりかな」
魔法使い「そうね。陛下は、先日勇者が北の荒れ地に飛ばされたことをご存知ですかしら」
魔術国王「んむ。それは知っておるぞ」
魔術国王「勇者殿も御足労なことじゃ」
魔法使い「彼は、きっと我ら魔術国連合の助けを必要とされるでしょう」
魔法使い「私を外務省の使者としてその土地へ派遣していただきたいのです」
魔術国王「ふむ……よいじゃろう」
魔術国王「あの土地は『百年戦争』中も、我が連合と奇術国連合が幾度となく取り合ってきた土地じゃ」
魔術国王「奇術の国に手出しをさせるわけにもいかんじゃろう」
魔術国王「ぜひその魔の手から勇者殿をお救いするのじゃ」
魔法使い「ありがとうございます陛下」
ここから文字数が激増します
いわゆる設定説明というやつです
―――魔術国中央大図書館―――
魔法使い「ここも久しぶりに来たわね……」
魔法使い「遠視魔法で旅の途中も欠かさず本を読んでいたものだけど、暇を利用してもうちょっと歴史のことでも学んでおこうかしら」
魔法使い「有効な戦略のヒントも見つかるかもしれないわね」
スタスタスタ
魔法使い「これがいいかしら」
『魔法大歴史時勢全集』
パラ
『この歴史時勢全集は、著作者の魔力により自動的に歴史や時勢が記録更新される全集である。
著作に当たって私第29代魔法大学校校長は大賢者殿より魂を移す魔法を……』
魔法使い「能書きは良いわね」パラパラ
【魔術の国は、その名の通り、古来から魔法によって栄えた王国である。
そして、魔術の国は、5つの中小国を傘下に置き、『魔術国連合』を形成している。
魔術の国各最高機関の長官である『四賢人』は、その中でも卓越した魔力を有する実力者であり、かつて魔族の大軍をたった四人で薙ぎ払ったとも言われている。
それについて、数多くの魔法の作成を手がけたかの大賢者はこう記している
大賢者「やっぱり、下からより上からの方が怖いよね。いや割とマジで」】
魔法使い「相変わらず適当な爺ね。奇術の国や幸の国はどうかしら。何か有益なことが書いてあるといいけど」パラパラ
【奇術の国、とは魔術の国と対比して付けられた俗称である。実際は『科学の国』と言った方が正しい。
こちらも傘下に5つの中小国を置き、奇術国連合を形成している。
国家のシステムも他の勢力とはかなり異なっている。
まず、その本体は、政治から産業、市場までを担う巨大な企業の集合体『企業連合』であり、それを理事長以下で構成される理事会が支配している。】
魔法使い「どうしてここまで別次元のような国家が同時に成立しているのかしらね。そこを書くべきじゃないかしら」パラパラ
【幸の国は魔術奇術両連合とは独立した、人間族諸侯国の中で最大の国家である。
ひとたび魔族が勢いをつけたときには、人間族を統括したり、勇者を輩出して魔王討伐に当てたりなど、
割と重要な役目を担ってきた由緒正しい国である。
『幸の国』という名称はその充実した社会福祉制度に由来するとも言われている。】
魔法使い「全く、どれもこれもありきたりなことばかりね」パラパラ
魔法使い「これは、『百年戦争』かしら」
【『百年戦争』とは、100年前に勃発した魔族と人間族の戦争である。先代魔王は政治的工作に特に優れており、戦わずして勝利を勝ち取る戦法を得意としていた。
勇者に対しても、仲間割れによって自殺に追い込む等して6人もの勇者を撃退している。
しかし、7人目の勇者が魔国に入った二年後先代魔王は突然死去。その後百年戦争は実質的に魔王軍の敗北をもって終結を迎えることになった。
だが、先sbふぇvvんbヴぃびvぶああscをえtgfぅdgbvるいbvglwりbふ】
魔法使い「なにかしら……更新中ってやつなのかしら?」
魔法使い「誰かのいたずらかもしれないわね」ハァ
魔法使い「まあいいわ。あんまり大したことも書かれてなかったわね」ボスッ
魔法使い「これくらいにしておきましょうか」
スタスタ
てなわけで文字数がかさんだのでここまでにします。設定説明は必要最小限にまで
削ったので少々不足気味かもしれません。
最後におまけで地図を載せておきます。紙クオリティーなので参考までに。
火とかは首都の位置を示しているイメージです。連合内国境は省略してあります。
あ、言い忘れていましたが
奇術国連合は電気の国、光の国、銅の国、銀の国、金の国
魔術国連合は花の国 、火の国、水の国、森の国、風の国 で構成されています
いちいち説明多くて申し訳ないです。てかぶっちゃけ一切出てこない国とかあります
乙
文明レベルはどのくらいですかい?
これから説明あるならスルーでいいけど
>>58 基本的な文明レベルは現代〜近未来とします。
本文言及がないので説明しておくと戦闘機などの飛び道具は条約で生産禁止されているということになっています。
あまり兵器に詳しくないということもあってそういう系はなるたけカットしましたので悪しからず。
そして、魔法でできることは粗方違う形で科学でもできる。逆もまた然りということで。
大体これが文明の基準と言ってもいいです。かなりあやふやですが……追々説明していきます。
例えば、蘇生魔法はなしです。転移魔法はグレーゾーンなので後述します。
この辺は矛盾やらなんやらが非常に起きやすいのでなるべく慎重にこの世界観に合わせて噛み砕いていきますが、
もしやらかしていたら指摘、質問してくださると嬉しいです。
そして細かいところは大目に見て頂けるとありがたいです。
長レス失礼しました
―――奇術の国 首都 企業連合本社ビル 理事長室―――
僧侶「私に一体何のご用でしょうか理事長」
僧侶「私なぞには功績も何もありませんが……」
理事長「まあそう卑下なさらないでください」
理事長「貴女には十分な功績と実力があるんですからね。この国で唯一魔法まで使えるお方だ。
もっと自信を持った方がいいですよ」
理事長「折角の容貌がそれではもったいありません」
僧侶「はぁ……」
理事長「無駄話はこのくらいにして、単刀直入に言いますと」
理事長「貴女を光の国軍の大隊参謀長に任命し、准将の位を与えます」
理事長「一度家族の下へでも赴いたら、然る後に光の国へ行ってください」
僧侶「なな!? 参謀長にですか!?」
理事長「不満足ですか? 貴女の参謀としての功績は重々承知していますが、さすがにいきなりこれ以上の位を与えるとなると……」
理事長「しかし、貴女の功績は大々的に報じられていますし、軍の方々に白い目で見られることも、あまりないでしょう」
僧侶「そんな! 私には過大すぎます!」
僧侶「それに、戦争に、人殺しに参加するなど私には……」
僧侶「辞退させてください!」
理事長「何を言うのですか。貴女はあくまで戦術をもって司令官に助言するだけでいいのです」
理事長「決して貴女が直接手を下すわけではありません」
理事長「犠牲の出ない作戦を作るのも貴女の自由なのですよ」
僧侶「そういう問題ではありません!」
僧侶「それに、私はまた勇者様のところへ戻るつもりです」
理事長「ほう? あの荒れ地にですか」
理事長「それなら余計辞退させるわけにはいきませんね」
僧侶「えっ? どういうことですか?」
理事長「戦術の秀才である貴女なら分かるでしょう?」
理事長「魔術の国は確実に勇者様への援助を口実にして、北部の荒れ地を手に入れることでしょう」
理事長「そうなれば多大な資源を失った上に、私たちは重要な拠点を無条件で失うことになるのです」
僧侶「それは確かに……そうですが……」
僧侶「あの北部の荒れ地は戦略的要所ですからね……」
理事長「そういうことです。ここで貴女が残らなければ、奇術の国は滅び、貴方の家族は死に絶え、
貴女も国を捨てた売国奴として死後も呪われることになるかもしれません」
理事長「その方が結果的に犠牲は多くなってしまいます」
僧侶「しかし……」
理事長「それに、人殺しには参加しないということでしたが、魔族との戦いはどうだったのですか?」
僧侶「う、それは……」
理事長「魔族は長年我らと対峙してきた敵であるとはいえ、彼らにも感情や正義という物がなかったわけではないでしょう」
理事長「実際に魔国へと赴いた貴女なら分かるはずです」
理事長「そんな彼らを討つのと人を殺すのとで一体何の違いがあるのでしょうか」
理事長「貴方はもうとっくに覚悟したはずです。魔族のことを身近で見たときに、彼らは人と何も変わりはしないと」
僧侶「……」
理事長「それでも承諾していただけないというならば、私も貴女の家族の安全は保障しかねてしまいますね」
僧侶「……!」
僧侶「そんな……」
理事長「それに、こう考えてみてはどうですか?」
理事長「貴女が軍の中で勢力を拡大し、私達から権力を奪ってしまえばよいのです」
理事長「貴女への支持は十二分に集中していますからね」
理事長「さすれば、平和も協調も勇者への援助も貴女の自由です」
僧侶「理事長!?一体何を……?」
理事長「ここまでできる方なら、私も心置きなく理事長の座など譲って差し上げますよ」
理事長「人の心なんてものはすぐに移り変わっていくものです」
理事長「いつでもお待ちしておりますよ」ニコッ
僧侶「……失礼します」
バタン
―――…
僧侶「折角人を救うために僧侶になったというのに……」
僧侶「結局は逆の立場になってしまうなんて……皮肉なものです……」
僧侶「でも、どうしようもありませんね」ハァ
僧侶「こうなったら、理事長の言う通り、精一杯犠牲を減らして、血を流さない作戦を作らなければ」
僧侶「神は私に新たな使命を授けなさったのでしょうか……」
僧侶「私は私の道で勇者様をお助けしなければ!」グッ
タタタッ
―――…
ガチャ バタン
軍務理事「あちゃー。聞いてましたよ今の会話」
軍務理事「理事長も過激な発言が過ぎますぜ」
理事長「あれくらい言わないと彼女は動きませんよ」
理事長「わざわざ聖職者の道を選ぶ方なんですからね」
軍務理事「それにしても理事長もお人が悪い方だ」
軍務理事「そう分かっているなら、自由にさせてあげればいいんじゃないですかい」
理事長「そうはいきません。彼女は必ずこの危機を救う光となるでしょうからね」
理事長「いわば私の先行投資というやつです」
軍務理事「危機ねぇ……無い頭なんぞ持つもんじゃありませんなぁ」
軍務理事「本当に彼女は我々を倒しに来るんでしょうかねえ」
理事長「必ず来ますよ」
理事長「彼女にその気がなくても私がそうさせますから」フフフ
軍務理事「なんと、つくづく恐ろしいお方だ」ハハハ
その後、僧侶は還俗し、軍人として新たな人生を開くことを決意した。
――――――
こうして、勇者一行の新たな物語は始まった。
彼らの運命が一体どうなっていくのか。そして、歴史はどう動いていくのか。
知り得る者は、どこにも存在していないのだった。
プロローグ END
ということでプロローグ終わりです
物語の都合上役職がコロコロ変わることがあるので、その時はその時で対応します。
この場合僧侶は還俗しましたがこの後も名前は僧侶として読んだり左端に書いたりします。
―――翌日 幸の国首都中央駅―――
勇者「特急の蒸気機関車なんて初めて乗るなぁ」
戦士「そりゃあそうだろう。切符は高すぎて、貧しかった俺達にゃあ手が出せなかったんだからな」
勇者「そうだね。今回は幸の国王のお陰でタダだし、このまま国境まで行ってしまおう」
勇者「その後は馬で行くしかないね」
戦士「魔術国連合はまだ鉄道の開通を拒否しているのか? まったく頭の堅い奴らだ」
勇者「まあ彼らには空飛ぶ箒もあるし、わざわざ敵国の技術を取り入れるまでもないんだろう」
戦士「『彼ら』にはあるかもしれんが、『俺ら』には無いんだからな。全く不便なものだよ」プンスカ
ポッポー
勇者「お、来た来た」
戦士「さーて、出発だな!」
―――1か月後 花の国 王城―――
奇術国連合と魔術国連合の開戦が勇者に伝わったのは、北の荒れ地に入る直前、花の国王に謁見し、挨拶をした時であった。
もちろん勇者はこのことを予期していたため、特に驚きはなかった。
花の国王「勇者殿、戦士殿、長旅真に御足労でありましたねはい」
花の国王「魔族との戦時中に、この国が救われたのも勇者殿とその御一行のおかげなんですねはい」
花の国王「重ねてお礼を申し上げるんですねはい」
勇者「ありがとうございます」
花の国王「勇者殿が発展させてくださったあの大都市もですね、勇者殿を称えて『勇者市』と新たに名付けたいと申しているんですねはい」
戦士「(こいつはセンスのねぇ名前だな。傑作だ)」クスクス
勇者「(こら。聞こえてるよ)」ツン
勇者「ははっ。誠にありがたきことであります」
花の国王「ところでですね。再び奇術の国との戦争が始まりましたのでですね、護衛の者を派遣したいと思っているんですがねはい」
勇者「もう始まりましたか。戦地は何処でしょうか」
花の国王「火の国と光の国の国境付近と聞いているんですねはい」
勇者「ありがとうございます。護衛については、後々こちらから要請させていただきますので」
花の国王「分かったんですねはい」
花の国王「北の荒れ地と言えば、ここいら一帯を騒がせているあの『半魔盗賊団』の本拠地が存在しているということですからねはい」
花の国王「そちらも十分注意していただきたいんですねはい」
勇者「大丈夫ですよ。私たちは魔王軍を圧倒した『勇者一行』ですからね」
花の国王「これは失礼したんですねはい」
花の国王「心配はご無用のようですねはい」
勇者「それでは失礼いたします」
―――3日後 花の国=北部荒れ地国境付近の村―――
パカラッパカラッ
戦士「さーて、そろそろ馬の旅も終わりだな勇者」
戦士「一休みでもして、これからの予定をお聞かせ願おうじゃないか」
勇者「そうだね。ここまでくれば変な監視もうかつには近づけないだろう」
―――…
戦士「ふう。それにしても、荒れ地との国境という割には、やけに賑わっているような気がするが」
勇者「そりゃあそうさ。あらかじめ僕がこれから、この荒れ地を三角貿易の拠点にするという噂を流しておいたんだ」
勇者「この前の帰り際に、勇者市の市長に協力をお願いしたら快く承諾してくれたよ」
戦士「なるほど、それで人を集めようってのか。手の込んだ奴だな」チッ
勇者「誉め言葉として受けとっておくよ」
勇者「まあ、これで町作りの基礎は何とかなるだろうね」
勇者「商人や銀行はすぐにでも進出してくるだろう」
勇者「それじゃあこれからの仕事を説明しよう」
戦士「おう」
勇者「僕らはこれから『半魔盗賊団』のアジトへと直接出向くことにする」
戦士「おぉっ、これは久々の戦闘の予感!?」
勇者「残念だけど今回はお預けだね」
勇者「僕らは『半魔盗賊団』と和睦を結ぶのさ」
勇者「そして、これからの国作りに協力してもらうんだ」
戦士「和睦ゥー?」
戦士「そんなの可能なのかよ」
勇者「魔族と人間とが和睦を結べたんだ。いわんや魔族と人間の混血である半魔をや、だよ」
戦士「なーるほど……」
戦士「勇者がその口と舌で上手くちょろまかすって寸法だな?」クスクス
勇者「ちょろまかすとはまた失礼な言いようだね」プンスカ
勇者「僕の目標は、人間と魔族が共に暮らす国を作ることだよ」
勇者「その先駆けとして、半人半魔の彼らと手を結ぶのは当然のことさ」
勇者「後々は、人間族魔族間協調の象徴となってくれるだろう」
戦士「ふむ。確かにそうだな」
勇者「それに、少し調べてみたんだけど……」
勇者「その『半魔盗賊団』の首領はかなり頭のキレる半魔らしいんだ」
勇者「少なくとも物分りはいいはずだよ」
戦士「ははっ、勇者と半魔の知恵比べとは必見だな」
戦士「こりゃあおつまみでも持っていくかな」
勇者「勝手にどうぞ。せいぜい戦士がおつまみにならないようにね」
戦士「そりゃこっちのセリフだ」ハハハ
勇者「さて、じゃあ今日はこの村で一泊していこうか」
勇者「用意するものは用意してしまおう」
戦士「はいよ」
乙ー
この勇者頭いいな、そんじょそこらの脳筋勇者とは訳が違うぜ!
―――翌日 北部荒れ地―――
戦士「やっぱり中に入ってみると、酷くさびれているもんだな」
勇者「そうだね。魔族領、奇術国連合、魔術国連合の間にあって幾度とない戦火にさらされ、多くの血が流れてきた場所だ」
勇者「こんなところに住もうなんて、普通の人間なら到底思わないだろう。魔族ですらそうなんだから」
戦士「恐ろしや恐ろしや。そんな土地で国を作るなんて、ひどくばちあたりなもんだな勇者さんよ」
勇者「そんなことはないさ」
勇者「僕はこの土地こそが国作りに最適だと思っているよ」
勇者「ここから本当の平和と協調が始まっていけば、ここで流れた全ての血に対して慰霊の意にもなる」
勇者「流したくて流した血なんて一滴もありやしないんだから」
戦士「ほう。勇者にはロマンチストの精神も備わっていると見える」
戦士「じゃあ俺は、ここで自滅救済魔法でも唱えてみるかな」
戦士「そうすれば化けて出る権利がもらえるんだろう?」
勇者「君は魔法を使えないだろうに」
戦士「ぐ、流石鋭いな……」
勇者「しかし最近、屁理屈の腕が上がってきてるんじゃないかい?」
戦士「さあな。剣術の鍛錬が不足気味で、暇だからかもな」
勇者「君にもひねくれ者の素質がありそうだね」
戦士「魔法使いと一緒にするなよ。俺はあくまで剣と戦いを愛する男。ただそれだけだぜ」
勇者「君の方がよっぽどロマンチストじゃないか……」
勇者「お、あれは……?」
戦士「建物らしきものが見えるな」
勇者「盗賊団の基地かも知れない。いってみよう」
―――半魔盗賊団 小規模拠点の村 出入り口の門―――
監視役1「おい、聞いたか?勇者がこの荒れ地にやってくるらしいぜ」
監視役2「聞いた聞いた。どうも国作りをするんだってな」
監視役1「どうするんだよ……このままじゃあ盗賊団が壊滅させられちまうんじゃねえのか?」
監視役2「どうもこうも、戦って勇者を倒すしかないだろ」
監視役2「勇者とは言えど所詮は人間だ。半魔の俺達に勝てるわけがない」
監視役1「そりゃあそうだな。もし俺たちが倒しちまったら、団長にたんまりと褒美を頂けるだろうよ!」
監視役2「そうなれば、幹部昇進支部長就任!」
監視役1・2「イイカンジー!」
監視役1「ん?誰かいるぞ」
監視役2「本当だ。西部支部のやつらかな?」
監視役2「あいつら、一昨日電気の国へ盗みを働きに行ったんだが、そこで軍にコテンパンにされたらしいしな」
監視役1「ハハハハハ! あの奇術国軍とやりあったとはな! こいつは傑作だ」
監視役1「でもおかしいぞ。どうも人間っぽい姿をしているようだが」
監視役2「あたりまえだろ! ここは『半魔盗賊団』の基地だぜ。多少人間っぽいやつくらいいくらでもいるわ、この間抜けめ」
監視役1「そりゃそうか! ハハハハハ」
勇者「おーい。そこのやぐらの上にいるお2人さん」
監視役2「なんだ? お前ら、西部支部のやつらか?」
勇者(西部支部?)
戦士「(俺達、半魔盗賊団の一員だと思われているみたいだぜ)」
勇者「(当然さ。半人半魔の集まりなんだ。人間っぽい姿をしている半魔がいてもおかしくは無いさ)」
勇者(しかしここは敢えて堂々と行こう)
勇者「いや、僕は勇者だ。彼は戦士。ここは半魔盗賊団のアジトか?」
監視役1・2「!!!」
監視役1「ゆ、勇者だと!!??」
監視役2「おい、まずいぞ、早く基地長と南部支部長へ報告しに行け!」
監視役2「ここは俺に任せろ! 手柄は俺のものだ!」
監視役1「ふざけるな! お前こそ報告に行け!」
ボカスカ
勇者(『基地長』、『西部支部』、『南部支部長』……これはかなり組織の統制が上手くなされているようだね。予想以上だ)
勇者「なんだか喧嘩が始まったみたいだ……」
戦士「おいおいおいおい!俺達も舐められたもんだなぁ」
戦士「その中途半端な身なり、叩き切ってくれr」
勇者「戦士、抑えて」シュパー
勇者は、戦士にお口チャック魔法をかけた。
戦士「モゴモゴ」
勇者「おーい、僕らに君たちと争う気はない!」
勇者「僕達は半魔盗賊団のボスに用があるんだ」
監視役1「なんだと!?」
監視役2「そんなことを言って、俺達を騙して皆殺しにしようっていうんだろう!」
勇者「これは大分勘違いをされているみたいだね」
戦士「モゴモゴ」
勇者「僕についてどういう噂が流れているのか知らないけれど、僕はここに人間と魔族の共に暮らせる国を作ろうと思うんだ!」
勇者「だから、君たちとは戦わない!」
監視役1「嘘だ嘘だ!惑わされるな!」
監視役2「ええい、こうなったら手柄はいただくぜ」
監視役2「氷結まほ……」
ガチャ
?「お止めなさい!話は聞いていました」
門横の小さい扉から、ほとんど人間の女性のような容姿をした半魔が現れた。
監視役1「はっ!基地長!」
基地長「これだから下級団員は……」
基地長「失礼しました勇者様。団長から、勇者様がいらっしゃった場合は本部に案内せよ、との命令がでております」
基地長「一度南部支部を経由してから、本部へと案内します」
基地長「こちらへどうぞ。乗り物もありますので」
勇者(さすがに末端構成員までの統率は困難か……)
勇者(とはいえ、一盗賊団にしては見事な統率システムだ)
勇者(『団長』の知略は侮れないな)
勇者「ありがとう」
戦士「モゴモゴモゴ」
ザッザッザッ
その後勇者は、数時間かけて南部支部へと案内された。
―――北部荒れ地 半魔盗賊団南部支部―――
基地長「支部長、ただ今勇者様をお連れしました」
南部支部は小さな町のようになっていて、機能こそ基地であったが、商店や宿なども多少存在しているようだった。
そして、奇術国連合や魔術国連合領から奪ってきた品物をそこかしこに見ることができた。
南部支部長も人間に近い容姿をしていた。しかし、基地長ほどでもなく、一目見ただけでもさすがに人間でないことは判別が可能だった。
南部支部長「ごくろうだった基地長。一度休息をとっていいぞ。この後も本部への案内を頼む」
基地長「はっ」
ササゥ
南部支部長「これは勇者様。こんなさびれた地へよくいらっしゃいました」
南部支部長「団長からは篤く遇せよとの仰せをいただいております」
南部支部長「先刻は下級の団員が無礼を働いたことをお詫び申し上げます」
勇者(なるほど……やはり団長は僕らと戦っても無益だということを承知して歓迎するように命令していたんだろう)
勇者(とはいえ、安々と本拠地を売り渡すわけもないだろうな……)
勇者(何か企んでいるかな?)
戦士「ったく。俺達をめぐって手柄争いとは、歓迎も甚だしいもんだな」
戦士「勇者の首に100万、俺の首に1億の金でもかかってるのか?」
勇者(100倍はないだろ100倍は)ツン
戦士(100倍はあるだろ100倍は)チク
南部支部長「いえいえ、まったくそんなことはございません」
南部支部長「下級団員の間の噂が誇張された結果に他なりますまい」
南部支部長「どうか気を害されないでいただきたいのです」
勇者「わかった、こちらもそこまで気にしていないよ」
南部支部長「それはよかった」
南部支部長「それでは勇者様、今日はここで休んでいってください」
南部支部長「本部まではもう少しかかりますので」
勇者「ありがとう」
戦士「(寝こみを襲ったりしないだろうな)」
勇者「(はは。君の寝相なら、寝こみを襲われても刺客の一人や二人、バッサリ斬り倒しちゃうんだろ)」
戦士「(お、お前が素直に誉めるなんて珍しいな)」
勇者「(誉めてない誉めてない)」
その後、勇者は半魔盗賊団についていろいろと南部支部長に質問した。
結果、分かったことと言えば
・盗賊団は本部を中心に、東西南北各支部を置き、それぞれ支部長が統括している
・少し前に団長が荒れ地を統一するまでは半魔たち同士の派閥争いが絶えなかった
・戦時中は特に干渉せず、身をひそめていた
・戦争が終わり、勢力を拡大しつつある
・半魔は人間の知能と魔族の力を同時に備えており、そのバランスの良いものほど幹部になりやすい
・上位に行くほど、人間と魔族の比を調整できる。基地長や南部支部長が人間のような姿だったのは、戦闘時以外は知恵の方に重点を置くため。
・半魔は致命的なダメージを受けると、自己防衛本能が働き、魔族の部分に体を支配され、暴走してしまうことが多々ある。
くらいであった。
―――その頃 半魔盗賊団本部―――
ジリリリリン ジリリリリン
ガチャ
フムフムワカッタ
ガチャ
副団長「団長、先ほど勇者が南部支部へと到着したということです」
団長「ほう。やはり来たか。あの噂は誠だったようじゃな」
副団長「はい。しかしよろしいのですか? 篤く遇せよという命令ですが……」
副団長「確かに直接やりあっても勝機は少ないでしょうが、あの噂の通りなら、勇者はこの半魔盗賊団を殲滅しようとするのではないですか?」
団長「そうじゃな。儂のところへ直接出向いて、儂を謀殺せんとするやもしれん」
副団長「それならば団長!」
団長「まあ待て。じゃが、その噂にはもう少し詳細があっての」
団長「勇者は、この土地に魔族と人間が共に暮らせる国を作る、と言っていたというのじゃ」
団長「これは情報隊長が確かめたことじゃから、まず間違いないじゃろう」
団長「勇者は恐らく儂らと協力して、建国をしようというのじゃろうな」
副団長「ニャるほど……」
団長「もちろんタダで協力してやるわけにもいかん」
団長「勇者も優れた知力を持つという話じゃ」
団長「彼を試す意味もかねて、儂も一つ知恵比べをしてみようと思ったのじゃ」
副団長「知恵比べですか?」
団長「そうじゃ。まあ、詳しいことは後に話すとしよう。楽しみに待っておれ」
副団長「はい。分かりました」
団長「もしかしたら、長い間魔族にも人間にも拒絶されてきた我らの歴史が変わるかもしれん……」
副団長「それも、勇者次第ということですね」
団長「うむ」
―――翌日 半魔盗賊団本部付近―――
翌日、勇者たちは南部支部を発って本部へと向かっていた。
基地長「どうですか? この『セグウェイ』という乗り物の乗り心地は」
基地長「少し前に奇術の国で開発された乗り物なのですが、平地でしか使えないため、あまり流行らなかったようです」
基地長「荒れ地は割と平地と丘が多い平らな土地ですから、多大なエネルギーを必要とする自動車よりもこちらのほうが効率的なんです」
基地長「座れないのが玉に傷ですが」
勇者「名前は聞いたことがあったけれど悪くは無いね。慣れるのが難しいけど、慣れてしまえば大分楽だよ」
戦士「そ、そうか? 俺はどうも苦手だな……おわっと」クルクルクル
勇者「なんだ、最初のうちは前にも進まなかったんだから、大分上手くなったじゃないか」ケラケラ
戦士「せ、戦士としてバランス感覚は必要不可欠だっ!」プルプル
勇者(それにしても)
勇者(ちょっとシュールだな)
―――半魔盗賊団 本部―――
本部は、大都市とまでは行かないがそれなりの規模の町として機能していた。
市場には恐らく他国から盗んできたであろう品物が並び、銀行や宿、役場までもが設けられていた。
勇者「結構賑わってるんだね」
戦士「おおおっ。さすが盗賊団だ。古今東西の名剣が揃っていやがる!」ダダッ
勇者「待て待て、それはまた後にしよう」ギュッ
戦士「なんだよ!ちょっとくらいいいだろ!」
基地長「盗賊団の目利きは一流ですからね」
基地長「偽物なぞは一品も置いてありませんよ。全て本物で格安になっています」
基地長「ときどき魔族領……今は魔国ですか、そこや人間族領からも買いに来る者がいるほどです」
勇者「まあ、闇市みたいなものかな」
戦士「ここもいいところじゃないか。来てよかったなぁ」ウットリ
基地長「それでは、あちらが本部基地の入口になります」
戦士「なんだ?ありゃあ普通の酒場じゃねえか」
基地長「あの奥が地下に繋がっているのです」
基地長「ほとんどの基地を作ったのは副団長ですが……
団長はお洒落好きなので、あまり華美な基地などは作らせたがらないのですよ」
勇者「お洒落好きねえ」
勇者「君は団長に会ったことがあるのかい?」
基地長「そうですね、基地の視察の際に一度だけです」
基地長「口調がなんとも特徴的で……」
戦士「一体どんな奴なんだ?」
基地長「そうですねぇ……剣の腕が達者で、魔法も強力なものを軽々と唱えると」
勇者「それだけかい?」
基地長「はぁ、何しろ幾分も前の話なので……」
戦士「なんだぁ情報不足だな」
戦士「相手がどんな奴か分からねぇと、こちらも態度を決められねぇぜ」
基地長「不甲斐ない次第です」
勇者「それじゃあ行こうか」
勇者「長い道のり、わざわざありがとう」
基地長「いえいえ。勇者様の国が、我らを悲しき歴史から解き放ってくれることを願っています」
勇者(悲しき歴史、ね……)
基地長「それでは」
戦士「またな」
―――半魔盗賊団 本部基地入口の酒場―――
カランカラン
店員「いらっしゃい!」
店員「お、人間のお客とは珍しい」
勇者「どうも、僕は勇者です。半魔盗賊団の団長に用があってきました」
戦士(う、腕が四本もある……)
店員「おお、アンタがあの勇者かい!?」
店員「ちょっとまってな、今案内役を呼んでくるよ」タタッ
しばらくして、店員は黒髪に白装束の幼い女の子を連れてきた。
魔族らしいところは無く、完全に人間にしか見えない。
強いて言えば八重歯が少し目立つくらいだ。
店員「あとは頼んだよ、アタシは店番に戻らせてもらうからね」
案内役「こんにちは! 勇者様、団長がお待ちですよ!」
戦士「なんだ?半魔盗賊団にはこんな小さい女の子までいるのか」
勇者「誘拐されてきた娘でもないだろうし、幼くて成長が止まった半魔ってとこかな」
案内役「ご明察です! でも、人間の部分が強すぎて魔法も剣もろくに使えないので、こうして案内役をやらせていただいてるんです」
勇者「なるほどね」
戦士「半魔にもいろいろいるってことか」
案内役「はい! それではどうぞ」
テクテク
―――半魔盗賊団 本部基地 地下応接室―――
本部の中は石造りになっていたが、意外と雰囲気は明るかった。
恐らく魔法で装飾してあるのだろう。団長のお洒落ぶりがうかがえる様相であった
ガチャ
案内役「どうぞどうぞ! 普段は誘拐した人質を監禁しておく部屋なので、少し汚れていますが」
案内役「長旅で疲れていらっしゃると思うので、少しくつろいでください」
戦士「ふー」ギシッ
戦士「監禁部屋にしては、大分お洒落な部屋だな」
案内役「はい! ここに来るような方は領主や貴族クラスの御子息ですから」
勇者「それはまた身代金も高くつきそうだね」
勇者「ところで、君は普段何をしているんだい?」
案内役「そうですね……掃除洗濯に料理、大体は雑用ですね」
案内役「さすがに強盗のために遠征することはないです」
勇者「なるほど。それは大変だね」
戦士「半魔の家事仕事とは、量がまた凄そうだな」ハハハ
勇者「君が言えたことじゃないだろう?」
勇者「4人パーティの時はどれだけ僧侶に迷惑をかけたと思って」
戦士「何を言う。俺は量だけじゃなくて質にもこだわるタチなんでね」
勇者「どうりでこれはタチが悪いわけだ」
ハハハハハハ……
―――……
勇者「さて、十分くつろいだし、団長にお目にかかろうかな。あまり待たせるわけにもいかないし」
戦士「剣術が達者だとは……これは一戦交えたいな!」
勇者「用事が終わってからにしてくれよ」
勇者「間違っても入った途端に切りかかったりしないようにね」
戦士「保証しかねちまうな。俺の戦士としての血が熱く燃え上がっちまうかもしれん」
案内役「いつも賑やかなんですね」クスクス
案内役「それではご案内しますよ」
ガチャ
―――半魔盗賊団 本部基地 団長の間―――
案内役「ここが団長の間です。どうぞ」
ギィィ
バタン
大きな扉を開くと、広くて彩色豊かな部屋が広がっていた。
その様子は人間族諸侯国王城の玉座にも似ており、部屋の両側には幹部と思われる半魔が数人列をなしていた。
そして正面に据えられた装飾付きの椅子に、団長は腰を下ろしていた。
団長は人間の10代後半の女性のような容姿を基本に、猫耳、猫目、尻尾とどうやら猫型の魔族の血を引いているようだった。
そして、今まで見た中でも最も魔族の要素と人間の要素がバランスがとれた半魔であった。
団長「おお、キミが勇者か! 待っていたよ」
勇者「初めまして、半魔盗賊団団長。ここまでの厚遇感謝いたします」
戦士「(なんだ?妙に華奢だな)」
勇者「(半魔は見た目によらないって言うだろ)」
勇者「今日は団長にお願いがあってきたのです」
団長「ほう。この付近で盗みを繰り返す悪党どもに、神聖なる勇者は一体どんなお願いがあるのかな?」ニヤリ
勇者「はい。噂にも流れていることをご存知だと思いますが、魔族人間族間の同盟と平等の先駆けとして、この地に新たな国を建国したいと思っているのです」
ザワザワ……
勇者「魔族と人間族の戦争は先日終結し、停戦協定と称して、魔族と人間族の平等が約束されました」
勇者「しかし、互いの中には、長い対立に起因する根強い偏見が残っているはずです」
勇者「それでは、平等も協調もなしえません」
勇者「しかしここで、半魔である貴方がたが協力していただければ、魔族と人間両方の側面を持つ者として、両者をつなぐ仲介役となり、協調と平等はよりスムーズに進みうるでしょう」
勇者「是非、新国の建国に協力していただきたいのです」
団長「ニャるほど……」
団長「キミがやろうとしていることは確かに立派なことだね」
団長「でも、ボクたち半魔には魔族と人間による禁断の恋や、猥褻の果てといった忌まわしい成り立ちと、
両族から嫌悪され、忌避され続けてきた悲しき歴史がある」
団長「そんなボクたちに、そのような役が務まると思うのかい?」
勇者「新しい世界には新しい歴史というものが作られていくものです」
勇者「古い歴史などというものは、古文書として、その影に埋もれていくだけでしょう」
勇者「それに、ちょうど盗人から足を洗い、聖職者となった者が同じ神の像を見たときのように、
価値観はその世界によって常々変わっていくのです」
勇者「今こそ新旧の境目に来ているのです」
勇者「ここで古い歴史に捕らわれるか、新しい価値観と共に歴史を創生するか。どちらに利があるかは自明ではありませんか」
団長「そうだね……」
団長「でも、ボクたちは悪党だよ。今ここでキミたちを殺すことだってできるんだ!」ニヤァ
戦士「なんだと!?」
勇者「それならそれで結構です団長」ニヤリ
団長「…………何?」
勇者「僕も貴方に先手を打つだけですから」バチバチ
勇者「雷魔法(小)!」ズバッ
団長「なっ!?」ガタッ
バァン
案内役「きゃぁっ!?」
勇者の放った雷魔法は、入口付近にいた案内役の足元に命中した。
団長「なんだ!?」
戦士「おい、どこ狙ってんだ勇者!」
勇者「まあまあ。僕はちゃんと『団長』に先手を打ったのさ」
勇者「そうでしょう?案内役改めまして団長」
部屋の中には緊張が立ち込めた。突然のことに側近たちも目を丸くして、棒立ちしていた。
それは団長(?)も例外ではない
案内役「…………」
案内役「クク…………」
案内役「アハハハハハハ!!」
案内役「ご明察じゃ」
戦士「」ポカーン
案内役→団長「いかにも。儂が半魔盗賊団の団長じゃよ」
団長「しかしよくわかったのう」
団長「儂の仕草も剣術、魔法の痕跡も、全てごまかしたつもりじゃったのじゃが」
勇者「やはりそうでしたか。確かに、団長の誤魔化しも、団長の身代わりも全て完璧でした」
勇者「しかし、完璧すぎたのです」
団長「ほぅ」
勇者「恐らく団長は僕があの基地長から団長の情報を聞くのも、南部支部長から半魔の特徴を聞くのも読んでいたのでしょう」
勇者「それによれば、団長は剣術に優れ、魔法に優れ、しかも人間と魔族が最もバランスよく混ざった半魔だということになる」
勇者「そして、その身代わりはその鏡ともいえる方でした」
勇者「恐らく副団長クラスの最上位幹部でしょうね」
勇者「そして、ここで身代わりを置くとなると、団長もその容姿を最高に生かした雑用につくのが最も手っ取り早く有効だ」
勇者「そこで、掃除や洗濯、料理の雑用を熟していると言ったわけです」
勇者「しかし、ここには止むを得ない欠点が存在した」
勇者「もちろん相手は剣術の手練れ、下手に動きや手を見せては自分が剣術に長けているとばれてしまう」
勇者「そこで、団長は魔法を使ってそれを完璧に隠してしまった」
勇者「だから、手はかなり綺麗で、まさか剣術を使うなんてことは想像がつかない様子だ」
勇者「だけど、掃除や洗濯、料理の雑用を熟している形跡もなかったんです」
戦士「なるほど。消さないと剣術がばれるが、消せば雑用でないことがばれちまうわけだな」
勇者「そういうこと。それだと最下級の身分のはずなのに身なりがやたらと綺麗なのも説明がつくのさ」
戦士「はっ、確かに言われてみれば……」
団長「ほう……じゃがそれだけで儂が団長だと決めつけることもできまい」
団長「新米で入ったばかりの団員じゃったかもしれんじゃろ」
勇者「まあそうですね。実際推測の域は出ていませんでした」
勇者「でも、僕はあらかじめ、団長はかなり人間よりの半魔なのだろうと予測していたんです。基地長以上にね」
団長「ほう、なぜじゃ?」
勇者「団長は相当頭のキレる半魔だと聞いていたからです」
勇者「そこまで頭が良いのなら、普段は人間のバランスを大きくしてその知恵の部分を最大限に生かせる半魔なのだろうとイメージしていたのです」
勇者「基地長はしかも、団長が変わった口調の持ち主で、お洒落だとも漏らしていました」
勇者「入口の酒場も、外見をもって欺くという点で共通しています」
勇者「そして僕があの真面目な身代わり団長と話した時に、案内役の矛盾と合わせてこれは挑戦だと確信したんです」
勇者「なんせ身代わり団長が完璧すぎたので」
勇者「まあ他にも細かいところはありますが、大筋はこんなところでしょう」
団長「ははは。知恵比べは完全に儂の負けのようじゃな」
団長「よいじゃろう。喜んで勇者の下についてやろう」
ザワザワ
アノダンチョウガ……
マジカヨ……
団長「半魔盗賊団の全員が、今この場の音声を無線で聞いておると思う!」
団長「皆の者、よく聞け!」
団長「今を持って、儂は半魔盗賊団の解散を宣言する」
団長「そして、勇者に全力を持って協力することを誓うのじゃ!」
ワァァァァァァ
ユウシャスゲー
ユウシャバンバンザーイ
北部の荒れ地は全土を持って興奮の渦に包まれた。
ついに忌まわしい過去から解き放たれる時が来たのだ!
身代わり団長→副団長「やれやれ、まさかあの団長に勝るとは……見事だね」
副団長「ボクも、副団長として、団長の意とあらば喜んで忠誠を誓うことにするよ」
戦士「」ポカポカーン
勇者「あ、ありがとうございます」
団長「さて、これからはどうするつもりなのじゃ?」
団長「勇者ともあろう者じゃ、もう次の一手も考えてあるんじゃろう?」
勇者「ええ、まあ」
勇者「まずは、この盗賊団の解散と僕による平定を宣言しなければなりません」
勇者「そして、その後に都市の整備と、国境付近でくすぶっている商人等人口の呼び込みを行うのです」
勇者「先行投資が何よりも大好きな彼等ですから、新たな、そしていかにも上手そうな商業地ができたとあらばすぐにでも飛び込んでくるでしょう」
団長「ほほう。まさに国作りじゃな」
団長「あ、それと、もう敬語なんて取るがよい。儂は勇者の臣下なのじゃからな」
勇者「分かった。僕らも、役割分担してそれぞれ仕事を進めようと思うんだ」
勇者「勝手ながら半魔盗賊団の幹部も当てさせてもらうけれど、構わないかな? 今一番不足しているのは人手だからね」
団長「ははは。さっきの宣言をもう忘れたか?」
団長「もう半魔盗賊団は儂よりも手腕の勝る勇者のものじゃ。好きにするがよい」
勇者「ありがとう」
勇者「じゃあ、いま決まっている分だけで行くと……」
勇者「戦士は盗賊団の戦闘部隊を率いて警察の代表に、副団長は都市建設やインフラ整備の総指揮を、団長は立法、外交及び新しくなる組織の役職や人事整備を担当してほしい」
勇者「ここまで見事な統制システムを敷けるということは、団長には十分な教養もあるようだしね」
勇者「この基地の構造といいデザインといい、副団長は建設に向いていそうだ」
団長「ふふ、そこまでお見通しじゃとはな」
勇者「それぞれの支部長はそのまま支部長として残って分権を図ることにしよう」
勇者「どうだろうか?」
団長「うむ。特に口出しするところもないようじゃ」
団長「よし、善は急げじゃ。早速取り掛かることにしようかの」
戦士「なんだ、こっちに来てもやっぱり憲兵隊なのか」
副団長「街づくり〜♪街づくり〜♪」ニュフフフ
―――後日 元・半魔盗賊団本部 地上中央広場―――
勇者『これより、私勇者は宣言します!』
勇者『私は団長との平和的な談話の結果、半魔盗賊団を解散させることに成功しました』
勇者『盗んだ品物は全てもとの国に返還することを約束します』
勇者『そして、元半魔盗賊団も、人間及び魔族にもこれから一切の危害を加えることはありません』
勇者『これから、この地を【北部不干渉区】と命名して開拓し、都市や交通、法を整備しようと思います』
勇者『魔術国連合、奇術国連合、魔国全ての勢力からの移民を歓迎いたします』
勇者『そして、魔族、人間、そして半魔全ての種族が平等に、平和に暮らせることを、全力を持って保証します』
勇者『それでは、元・半魔盗賊団の団長からも一言を……』
この宣言は、ラジオ放送と伝聞魔法で大陸全土に伝えられ、この新たな時代に一つの旋風を巻き起こすこととなった。
魔族と人間との戦いが終わったこの世界は、さらなる平和の歴史を創生していくことになるのだろうか。
―――しばらくして 幸の国 玉座―――
ドタバタ
顔を真っ青にした宰相が、あわてて玉座に駆けてきた。
宰相「大変です国王陛下!」
宰相「勇者がかくかくしかじかでセグウェイで半魔でのじゃロリの猫娘だと!」
幸の国王「なんだと?」ガタッ
幸の国王「まさかこんなに早く……」
幸の国王「監視を置く暇もなかっただと!?」
宰相「はっ。何せ荒れ地に入って2日後の高速占領だったもので……」
幸の国王「ちぃっ。侮りすぎたか」
幸の国王「宰相、奴との連絡はとれておるか?」
宰相「は、御心配なく。既にあの不干渉区に潜入したとのことです」
幸の国王「よろしい。なんとしても奴を葬らなければ」
幸の国王「全ては我らが計画のため……」ボソリ
宰相「……?」
―――3か月後 北部荒れ地→北部不干渉区 半魔盗賊団本部→中央行政区 仮行政府―――
団長はあの後すぐに新たな政治体制を構築し、見事に統制した。
執政は行政、外務、財務、警務、建設、の5つの部門に分けられ、それぞれに部門長がつくこととなった。
そのほかにも、東西南北各支部や支部長にはより強い権限が与えられ、分権体制も整えられた。
建設部門長となった副団長の活躍により、1か月のうちに、中央行政区の行政府新設を軸とした大型都市構想が完成し、各支部、交通の要所への新たな都市建設も決定した。
勇者「商人以外はいるね、それじゃあ部門長会議を始めようか」
代表である勇者の下、各部門長は
行政、外務部門長に元半魔盗賊団長
建設部門長に副団長
警務部門長に戦士
財務部門長に商人
が就いていた。
商人とは、宣言後に真っ先に荒れ地へ駆け込み、貿易網及び経済基盤の確立を誓った大商人である。
ちなみに、元盗賊団メンバーの呼び名はしばらくのうちは括弧書きで新役職を示しておきます。
勇者、戦士はそのままです。
勇者「団長、魔術奇術両国との和平は図れそうかい?」
団長(行政外交部門長)「うーむ。魔術国連合は割と友好的な姿勢を見せておる。すぐにでも同盟を誓ってくれるじゃろう」
団長(行政外交部門長)「魔法があれば、副団長の都市構想も上手く捗りそうじゃな」ニコッ
副団長(建設部門長)「あ、ありがとうございます!」ニュフフ
団長(行政外交部門長)「一方なんじゃが……奇術の国はどうもあまり都合がよくないようじゃ」
団長(行政外交部門長)「世論もこの不干渉区に対して後ろ向きらしい」
団長(行政外交部門長)「最大限努力はするが、期待はせん方が良いじゃろう」
戦士「なんだなんだ? 奇術連合の理事長め、勇者にビビッているんじゃないのか?」
副団長(建設部門長)「そこは団長にも、だろう」
戦士「うむ。そうとも言う」
勇者「ははは。あの冷静沈着と噂の理事長のことだ、何か企んでいるのかもしれないね」
団長(行政外交部門長)「儂もそれを心配しておったのじゃ。十分用心せねばな」
団長(行政外交部門長)「それと、もう2つ知らせがある」
団長(行政外交部門長)「元勇者パーティーの魔法使いが、魔術国外務省の大使として不干渉区に滞在することになったそうじゃ」
団長(行政外交部門長)「明日にでも到着するとの連絡じゃ」
戦士「魔法使いだと!? まじかよ……」
勇者「屁理屈のセンスを磨くチャンスじゃないのかい?」クスクス
戦士「いや、今の俺なら魔法使いの屁理屈になど負けはしない……はず」
副団長(建設部門長)「魔法使いとはどんな人なんだい?」
戦士「どんなもこんなもない! 1ミリ足を上げたら360度大回転の揚げ足を食らうような奴だ」
戦士「俺も一体何度メンタルをつかれたことか……」
勇者「それじゃあ一回転してるじゃないか」ハハハ
副団長(建設部門長)「ニャるほど、それは危険人物だね」
副団長(建設部門長)「魔法使いの前では摺り足を心掛けておこう」
勇者「しかし、いくらなんでも誇張が過ぎるよ」
勇者「彼女は使う魔法は超一流の魔法使いさ。歴史と魔法学にも長けているインテリだよ」
戦士「そういや、奴を仲間にしたときはまだまだ未熟な魔法使いだったよな」
戦士「一体旅路のいつどこで勉強なんかしたんだか」
勇者「まあ、それはみんなに言えたことではあったさ」
勇者「魔王軍との過酷な戦いを通してここまでレベルを上げられたんだ。前代魔王が最後まで生きていたら、今ここにいられるかもわからないくらいだったしね」
副団長(建設部門長)「前代魔王っていうのはそんなに凄かったのか!?」
団長(行政外交部門長)「はいはい。雑談は一旦お休みじゃ」
団長(行政外交部門長)「もう一つの報告じゃが、また元勇者パーティの者についての情報じゃ」
戦士「なんだ、僧侶もここへ来るのか?」
団長(行政外交部門長)「こちらはそうではない。連合同士の戦局自体はかなり拡大しておるが、先日勃発した水の国による光の国侵攻については、なんと光の国の勝利でもう終結したのじゃ」
団長(行政外交部門長)「初戦光の国は水の国に大敗を喫していたはずだったのじゃが……」
団長(行政外交部門長)「光の国に配属されていた、大隊参謀長『僧侶』准将が考案した作戦が功を得たというということじゃと……」
勇者「えっ?あの僧侶が軍人に!?」
戦士「嘘だろ……血どころかトマトジュースを見ることすらできなかったあの僧侶がだぞ!」
団長(行政外交部門長)「連合はそれを大々的に報じ、軍は僧侶の少将への昇格を決定したそうじゃ」
団長(行政外交部門長)「間違いはないぞ」
勇者「これは予想外だったな。確かに才能を生かしてほしいとは言ったけれど、そこまで存分に奮ってくるなんてね」
戦士「不思議なことは尽きるものじゃないな」
副団長(建設部門長)(ニャるほど……僧侶も戦闘が苦手なのか……)
団長(行政外交部門長)「まあ、外交面での報告はこれで終わりじゃ」
勇者「うん。ありがとう。団長の情報網の広さにはこれからも頼ることになりそうだよ」
団長(行政外交部門長)「任せておくがよい」フフン
勇者「それじゃあ、全員持ち場に着こう。これからも忙しくなるぞ!」
副団長(建設部門長)「団長と一緒にいられないのが残念だけど……我慢するよ」
副団長(建設部門長)「でも、もし手を出そうものなら勇者、キミを許さないからね」ジロッ
勇者「も、もちろん大丈夫さ(これは怖い)」
戦士「ははは。勇者は年上か年下か分からない半端な女には興味が……」
副団長(建設部門長)「何か言ったかな?」ギロッ
戦士「……さーて俺は警務に戻ることにしよう」スタスタ
勇者(戦士を視線で圧倒するとは……見事だ)
―――同 行政部門長の執務室―――
団長(行政外交部門長)「うーむ……独学で学んだとはいえ、法律というのはいざ作るとなると難しいものじゃのう……」
団長(行政外交部門長)「……ブツブツ…………ブツブツ……」カリカリ
ガチャ
勇者「ちょっといいかい?」
団長(行政外交部門長)「なんじゃ勇者」
勇者「ちょっと質問があってね」
団長(行政外交部門長)「ふむ。まあかけるがよい」
ギィッ
勇者「机、高すぎじゃないか」クスクス
団長(行政外交部門長)「うるさいのう。手ごろな台はこれしかなかったんじゃ」
団長(行政外交部門長)「副団長に注文しておかねばな」
勇者「それをおススメするよ」
勇者「で、団長は生まれたときからここにいたのか?」
団長(行政外交部門長)「唐突じゃな」
勇者「少し気になってさ」
団長(外交副部門長)「はぁ。まあよい。この際だから話すことにするのじゃ」
団長(行政外交部門長)「……儂は元は花の国で生まれたのじゃ」
団長(行政外交部門長)「そして儂の母は儂を人間として育ててくれたのじゃ」
団長(行政外交部門長)「父親はもともといなかった。まさか上級魔族だったとは、想像もできんかったがの」
勇者「やはり人間領出身だったか……それでその十分な教養も説明がつく」
団長(行政外交部門長)「うむ。儂は初等魔法学校へも普通に通っていたし、中等学校へも進学した。こんな身なりじゃからな、誰も儂が半魔だとは疑っていなかったのじゃ」
勇者「すると、それは生まれつき人間にほど近い姿だったと」
団長(行政外交部門長)「そうじゃな。儂は魔力こそ上級魔族並ではあるが、今でも人間と魔族の割合を変えることができん」
団長(行政外交部門長)「魔法で表面くらいは誤魔化せるが、形から変えるのは無理じゃ。例えば羽をはやしたりな」
勇者「ふーむ。さすがにそこまでは予測していなかったなぁ」
フワッ
団長(行政外交部門長)「それに、姿なんて変えなくても、十分成りすましはできるんですよ! 勇者様っ」ニコッ
一瞬にして雰囲気が変わった。体にかけている魔法を少しいじったらしい。
勇者「お、久しぶりの案内役だね」
勇者「潜入捜査にも使えそうだ」
団長(行政外交部門長)「はい! これからもよろしくお願いしますね!」ニコッ
シュン
団長(行政外交部門長)「…………やっぱりこれは疲れるのじゃ」ハァ
勇者「お疲れ様」クスクス
団長(行政外交部門長)「ふう。話を戻すが、儂の周りの者たちはいつまでたっても成長もしない、強すぎる魔力を持った儂を次第に遠ざけ始めたのじゃ」
団長(行政外交部門長)「そしてある日、家は焼打ちに遭い、母は殺され、儂は魔術国の軍に捕まりそうになったのじゃ」
団長(行政外交部門長)「儂はそこで初めて自分の正体を知ったのじゃよ。今までずっと真実を写していたと思っていた鏡が、一瞬にして砕け散るようにな」
団長(行政外交部門長)「儂は死に物狂いで魔術国から逃亡し、荒れ地に逃げ込んだ」
団長(行政外交部門長)「その頃はまだ荒れ地の中も勢力争いが絶えておらんかった頃じゃからな。そこでも何度も人間に間違えられて命の危機が迫ったものじゃ」
団長(行政外交部門長)「副団長に出会ったのもその頃じゃったか。大型の半魔に襲われているところを、儂が火炎魔法で助けてやったのじゃ」
団長(行政外交部門長)「以来副団長は儂に過剰なまでの忠誠を誓っておる」
団長(行政外交部門長)「そして、儂は魔族由来の魔力と、人間由来の知力を使って、荒れ地を統一したのじゃ」
団長(行政外交部門長)「剣はその頃に護身のため練習したものじゃが、結局は魔法に頼る『魔法剣士』といったところじゃな。素の実力は大したことは無い」
団長(行政外交部門長)「じゃが儂は『繊細な』魔法が得意でな。いくつもの細かい魔法をセットで唱えておいて、剣の軌道、速度、バランス、重量、体制などに張り巡らすことができる」
団長(行政外交部門長)「こうやって『幻視魔法』と『屈折魔法』を組み合わせて、体の表面を覆い隠すのを応用してな」
団長(行政外交部門長)「本気を出せば、五分五分の勝負にはなると思うぞ」ニコッ
勇者「なるほど、通りでいつも身なりが清潔なわけだ」
勇者「成りすましの時限定で魔法で誤魔化しているんだと思ったら、常にそうなんだものね」
団長(行政外交部門長)「まあ、あまり堂々と見せたいものでもないからのう」
団長(行政外交部門長)「ちなみに魔法なしだとこうじゃな」シュン
団長は右腕だけ魔法を解いた。
勇者「うっ、これは……!」
右腕は刃物の傷跡から魔法による裂傷まで大小さまざまな、いくつもの傷で覆われていた。
団長(行政外交部門長)「このほとんどは亡命して間もないころか、荒れ地統一の最終決戦の時にできたものじゃ」
団長(行政外交部門長)「回復魔法というものはあまり回復速度を上げすぎたり、魔力が強すぎたりすると再生が雑になって傷跡がひどく残ってしまうものでな」
団長(行政外交部門長)「今のところ完全に消す方法は魔法学の最先端でも見つけ出されておらんとのことじゃ。幻影、屈折魔法」シュン
元の腕に戻った。
勇者「またまた予想以上だな……まさか荒れ地がそこまでひどい状況だったとは」
団長(行政外交部門長)「まあ、その状況もここまで良くなったのじゃ。今更振り返ることもない。勇者もこの前言っておったようにな」
勇者「そうだね。団長がそう言ってくれるなら何よりだよ」
団長(行政外交部門長)「しかし、勇者こそよく魔族と手を結ぼうと思い立ったものじゃな」
団長(行政外交部門長)「勇者や人間は魔族を憎むものとばかり思っていたが」
勇者「まあね。確かに僕も最初のうちはそうだったよ」
勇者「幸の国の勇者選別方法は、今思っても本当によくできているんだ」
団長(行政外交部門長)「ほう」
勇者「表向きには神の御加護だとか発表してはいるけれど、実際は僕や戦士のように両親を魔族に殺された孤児を集め、教育、訓練し、最も優秀な者を選ぶというものだったのさ」
団長(行政外交部門長)「な、なんと……じゃが確かに効率はよいな……」
勇者「そう。そうやって裏切られる心配もなく、同情させることもなく魔族を虐殺させることができたんだ。少なくとも百年戦争まではね」
勇者「百年戦争で6人もの勇者を失った幸の国は流石に焦ったんだろう。幸の国は戦闘に対する優秀さはともかく『先代魔王』に対応できるほどの知力を持った僕を7人目として選んだんだ」
勇者「でも僕は前の6人とは違った感情を持った。人間族と何も変わらずに文化を、生活を築いている彼らの姿に、僕の憎しみは次第に消えて行ったのさ」
団長(行政外交部門長)「なるほどのう。結局は騙されていたんじゃもんな」
団長(行政外交部門長)「まあ、必然ではあるがな」
勇者「まあ、勇者の宿命ってやつさ」
勇者「今となっては、僕は彼らの文化を守りたいとも思っているよ」
勇者「確かに『先代魔王』は悪の権化だったかもしれないけれど、もう彼自身もその周りの上級魔族も死んだんだ」
勇者「もう戦う理由は無いと思うね」
団長(行政外交部門長)「うむ。勇者の言うことはどれをとっても正しい物じゃ」
団長(行政外交部門長)「しかし、そこまで魔族を好いているのもまだ少し腑に落ちんのう」
団長(行政外交部門長)「いくら文化や生活が同じと言えども積年の恨みがそれだけできれいさっぱり消え去るものじゃろうか?」
団長(行政外交部門長)「仮に勇者がそうであったとしても他の仲間について説明がつかん」
勇者「まあね」
勇者「まあきれいさっぱりという訳にはいかないけど……僕らの感情を大きく変えてしまった要因は主に2つあるんだ」
勇者「1つ目は言語。団長もそうであるように、この大陸に生きる人間族、半魔、魔族全てが全く同じ言語を話している」
勇者「お陰で、敵であるはずの魔族と十分以上のコミュニケーションをとれた訳だけど」
勇者「それがもし良い方向に働けば、さっきのような効果をもたらすことは言うまでもないだろう」
団長(行政外交部門長)「確かに……もし人間を好む魔族でも存在していたとしたらありえることじゃ……」
勇者「ま、それだけではなかったけれどね」
勇者「そして2つ目は魔族の起源さ」
勇者「今魔族についてわかっていることと言えば、魔物を従え、人間と同程度の知能を持つ生物ということくらい……」
勇者「だけど、ここで団長、君の存在が大きな意味を持つことになるのさ」
団長(行政外交部門長)「儂がじゃと?」
勇者「ああ。君をはじめとする『半魔』が存在するということは、人間族と魔族で子を残すことが可能ということになる」
団長(行政外交部門長)「まあな。じゃがそれがなんだというのじゃ?」
勇者「僕らが以前奇術国に赴いた時に知ったんだけれど、どうやら彼らの定義における『同種の生物』というものは、『子孫を残すことができる生物同士』らしいんだ」
団長(行政外交部門長)「……まさかそれは……!」
勇者「少なくとも、魔族と人間族が同じ起源をもっているということを意味するだろうね」
団長(行政外交部門長)「なんということじゃ! そんなことが……」
勇者「僕らも初めは信じられなかったさ」
勇者「でもさっきの件といい、僕らは少しづつ確信へと近づいて行った」
勇者「それに、考えてみれば現在奇術国と魔術国という全く異質な国家が同時に成立しているわけだ」
勇者「早期に隔てられた人間族と魔族が全く異質に姿形を変えていったとしても不自然なことではないだろう」
団長(行政外交部門長)「うーむ。言われてみれば……」
団長(行政外交部門長)「しかし憶測には過ぎないのじゃろう?」
勇者「まあね。まだまだ矛盾も多いとは思う」
勇者「とはいえ全くの見当違いでもないだろうし、またこれからぼちぼち調べていくことにでもするよ」
勇者「ま、今は過去のことより現在のこと、未来のことの方が大事だ」
勇者「半魔の未来のために全身全霊をかけて行かなくちゃね」
団長(行政外交部門長)「確かにその通りじゃ」
団長(行政外交部門長)「まあよい。儂もようやく希望の光が現れたのじゃ。感謝が尽きんものじゃのう」
勇者「ははは。そこまでのものでもないよ。僕こそ団長の力あってこその『勇者の国』だと思うし」
団長(行政外交部門長)「もうちょっとカッコいい名前が良いのじゃ」クスクス
勇者「うるさいなもう。折角の良いとこだったのに」
勇者「それじゃあ、僕もそろそろ仕事に戻ろうかな」
団長(行政外交部門長)「またのう」
―――翌日 中央行政区街 建設部門作業現場―――
カンカンカンカン
ギイーッ
「浮遊魔法っ!」ブワッ
副団長(建設部門長)「商人、この通りのそばにはやっぱり宿を設置した方がいいかな」
商人「そうですねぇ。ここは武器屋や防具屋が集まる場所なので、このまま銀行の予定地でいった方がいいかと」
副団長(建設部門長)「ニャるほど……それならこっちは―――で……の:::じゃないかい?」
商人「やはり:::は^^^ですので“”“が得策かと」
―――…
副団長(建設部門長)「ふぅー。一通り終わったね、キミの商売のノウハウは本当に役に立つよ」
商人「いえいえ、まさかこんなところでお役にたてるとは思ってもいませんでした」
商人「これも商売に使えそうです」
副団長(建設部門長)「キミは本当に金欲が尽きないものだね」
副団長(建設部門長)「いったいどこから湧いてくるんだい?」
商人「いえいえ滅相もない。欲こそ人の原理たる要素なのです」
商人「私はそれを有用な形に変換して合理的に使っているだけなのですよ」
商人「それに、建設部門長も大層な物欲をお持ちだと聞きましたが」
副団長(建設部門長)「ニャハハハ、まあね。収集だけは団長にいくら怒られてもやめられないんだよねぇ」
商人「それならば、いくつか穴場をお教えしますが」
商人「良い品物も手に入ったら格安でお譲りしますよ。十分利益は頂いていますので、特別割引です!」
副団長(建設部門長)「ニャにぃっ!? それはありがたいことこの上ない!」
商人「それではそろそろ私は財務の方へ戻りますので」
副団長(建設部門長)「あ、そうだ、魔法石もそろそろ無くなりそうなんだけど……今あるかな」
この世界には、魔力の回復などに使用が可能な『魔法石』という特殊な石が存在している。
商人「おお、これはタイミングがよろしいこと限りないですね」ピーン
商人「ちょうど先日手に入れた純度99.99999999%の超高級魔法石が手元にあるのです!」
商人「これさえあれば1年は平気で魔法を使い放題の優れもの!」
商人「さらに今回は樹齢1200年物の杖とマントをつけてお値段!!」
副団長(建設部門長)「」
商人「……って、ついついいつもの癖が出てしまいました」
商人「代金は結構ですよ、どうぞ貰ってください」
副団長(建設部門長)「おお、流石商人!」
商人「これからもよろしくお願いいたしますね」
商人「それでは」
副団長(建設部門長)「またニャー」ムフフフ
副団長(建設部門長)「そうだ、行政府にコレクションルームも追加しておかなきゃ!」
副団長(建設部門長)「えーっと確かこの辺に空き部屋が……」
ソローリ
ヒュッ
副団長(建設部門長)「敵襲ッ!?」キィン
副団長は、背後から振り下ろされた剣を素手で受け止めた。
戦士「おわっ、俺の剣を素手で受けるとは……相変わらず見事だな!」バッ
副団長(建設部門長)「なんだキミか。邪魔しないでくれるかな」プイッ
戦士「全く、お前の趣味部屋造りの邪魔をして何が悪いんだか」チン
戦士「人が公務で忙しいときに、一体何をしていたのかな猫女?」
副団長(建設部門長)「なっ!ボクは猫じゃない!そういうキミこそどうせ暇だからぶらぶら遊びに来ただけなんだろう?」
戦士「うぐ……ま、まあつまるところ仲間同士ってことだ。仲良くしようじゃねーか」
副団長(建設部門長)「仲間だって? 冗談も甚だしいね」
副団長(建設部門長)「ボクはボク自身が認めた人にしか絶対に従わない。仲間にもしたりしないのさ」ツーン
戦士(さすが猫だな。なかなかの気まぐれ野郎だぜ)
戦士「自分で言うか……まあいい。ならば、剣術で認めさせてやろうじゃないか!」
副団長(建設部門長)「言うじゃないか。でも、ボクは剣は使わないよ」
副団長(建設部門長)「素手で返り討ちにしてやる!」ザッ
戦士「ほう、良いだろう」
戦士「さあ、いつでも来い!」スラリ
副団長(建設部門長)「よーし…………!!?」
副団長(建設部門長)「ギニャッ!?そ、その剣は!!!」
戦士「なんだ?この剣の価値が分かるのか」
戦士「確か魔族領の牢獄跡で手に入れたんだが、どうも出所が分からなくてな」
戦士「切れ味が頗るよくて重用したんだ」
副団長(建設部門長)「分かるも何も、それは密かに伝説として存在を語られていた、『第十三代勇者の剣』じゃないか!!」
戦士「」
副団長(建設部門長)「かの伝説の名工によって生み出され、出征に向かう勇者に渡されたという最高傑作!」
副団長(建設部門長)「何でも十三代勇者が戦死してしまって行方が分からなくなっていたと聞いていたけど……まさかこんなところでお目にかかれるとは!!」
副団長(建設部門長)「あわわわわわわ、興奮が鳴りやまないいいいいい!!」
戦士「これ、ほしいのか?」
副団長(建設部門長)「ほしい!喉から手が出るほどほしい!!!」キラキラ
戦士「じゃああーげないっ!」
副団長(建設部門長)「」
戦士「おいおい、冗談だっつの。そんな怖い顔をしないでくれ」
戦士「剣を大事にするやつは良い奴だ。そうだな、俺を仲間に入れて守ってくれるんだったらいいぞ」
戦士「俺が万が一死んだときにでもくれてやる!」
副団長(建設部門長)「するするする仲間でも王様にでもしますしちゃいますニャー!!」バッ
戦士「うわわっ、抱きつくなよ!」ギュー
戦士「しかし。途中で暗殺しようなんて企んでくれるなよな」
副団長(建設部門長)「大丈夫。ボクは仲間が傷つくことがいっちばん嫌いなんだ」
副団長(建設部門長)「まあ仲間といっても上から団長>>>>>>戦士>勇者だけだけどね。その他のみんなは死んじゃった」
戦士(勇者に勝った!!)グッ
戦士「そいつは安心したよ。じゃあ……」
戦士「そろそろ離してくれ」ギュー
副団長(建設部門長)「うわっごめん! ついやっちゃった」バッ
副団長(建設部門長)「でも、キミとボクは気が合いそうだ。今まで誤解していたみたいだね」
戦士(道具で釣れるとは……意外とチョロい奴)
戦士「やっぱり素直だな。まあ動機不純なのは目をつぶることにしよう。よろしく頼むよ」
副団長(建設部門長)「こちらこそ!」
戦士「ところで、これいくらになるんだ?」
副団長(建設部門長)「ふーむ。場合によっては国が買えるかもよ」
戦士「」
戦士「そんなにすごいのか……俺としたことが全く知らなかった」
副団長(建設部門長)「まあ……価値には似合わないけど、かなりのレベルの収集家じゃないと知らないようなマイナー品でもあるし」
戦士「今日は暇だろ?ちょっと剣についてでも語らねぇか」
戦士「勇者はそういうのにはめっきりのつまらん男なんだ」
副団長(建設部門長)「じゃあ、仕事が終わったらボクのコレクションを紹介しよう!」
戦士「お、そうこなくっちゃ」
とりあえずwikiに主な登場人物まとめてみました。
もうしばらく日常パートでグダりますがご勘弁を。
http://ss.vip2ch.com/ss/%E5%8B%E8%85%E3%8C%E5%9C%E6%A6%E5%8D%E5%AE%9A%EF%BC%9F%E3%8D#.E4.B8.BB.E3.81.AA.E7.99.BB.E5.A0.B4.E4.BA.BA.E7.89.A9
今日は続きません
乙
だいぶキャラを掴めやすくなってありがたいぜ
―――その頃 代表執務室―――
ガチャ
ヒョコ
突然、団長が扉から顔を出した。
団長(行政外交部門長)「勇者、魔法使いが到着したぞ!」
勇者「おっ、通して通して」
団長(行政外交部門長)「ちょっと待っておれ」
バタン
―――…
ガチャ
魔法使い「失礼するわ」
スタスタ
魔法使い「お久しぶりね勇者」
勇者「お久しぶり!わざわざ戻ってきてくれて本当にうれしいよ!まあ、まだ4か月くらいしか経っていないけどね」
魔法使い「あらそうだったかしら。貴方が出世するのは50を超えてからだと思っていたものだけどね。ちょっと老けたんじゃない?」クスクス
勇者「まーた相も変わらず痛いことを言う。僕はまだ20代だよ。そんな魔法使いは『四賢人』昇進を断ったそうじゃないか」
勇者「一体何時の間に魔法学の勉強をしていたんだ? 戦士が嫌に不思議がっていたよ」
魔法使い「そうね……でも、努力というのは人前に見せるものじゃないわよ?」
魔法使い「ある人は隠れて剣術を、ある人は薬草学を、そしてある人は魔法学を学んでいただけに過ぎないわ」
勇者「なるほどね、あれ?それだと一人足りないような……」
魔法使い「気にしたら負けね」
勇者「ま、いいか。それより、魔術国連合から労働者を派遣してほしいという旨は伝わっているかな?」
勇者「人手不足はやっぱり一番の問題だよ。人は石垣、人は城、なんても言うしね」
魔法使い「もちろん伝わっているわよ。花の国王が鼻を真っ赤にして勇者に協力することを誓っていたわ」
勇者「それはよかった。これからも魔法使いには魔法学校の創設などを頼みたい」
魔法使い「お安い御用ね」
勇者「それと、まだ大使事務所が完成していないから、しばらくはこの仮行政本部の空き部屋で我慢してほしいんだ」
魔法使い「それはちょっとお安くないわね。まあいいわ。無いよりはましということにしておきましょう」
魔法使い「それじゃあ、書物の整理をしなくてはいけないから、また後でね」
勇者「あ、今日は歓迎会を開くから、後で食堂に来てくれよ!」
魔法使い「心得たわ」
スタスタ
―――夜 行政本部食堂 歓迎会―――
歓迎会とはいえ、それは小規模であった。食堂には、商人以外の不干渉区部門長が集まり、魔法使いを迎えることとなった。
勇者「それじゃあ紹介しよう。彼女が元僕のパーティーの一員にして、現魔術国外務省のお役人さんである魔法使いだ!」
魔法使い「よろしくお願いするわ。魔法使いでいいわよ」
団長「わざわざご苦労じゃな」
副団長「……」スリアシ
戦士「……」スリアシ
魔法使い「フフフ。それにしても、可愛いお友達が増えたものね」
魔法使い「幼女に猫なんて、勇者の右腕にはまず見えないわね」クスクス
団長「なっ。儂は一応勇者と似たり寄ったりの歳じゃ!」←幼女
副団長「ギニャッ!? ボボボボボボクは猫じゃないし!」←猫
魔法使い「これは失敬したわね」
団長「それにしても、魔法だけでなく歴史にも通じているとは、大層なものじゃな」
魔法使い「あら、大したことは無いわよ。故事の中になにか面白いことがないか探していただけに過ぎないわ」
魔法使い「旅中も『遠視魔法』を使って本を読んでいたものよ」
戦士「いつの間に勉強なんかしたのかと思ったらそういうことだったのか」
魔法使い「そうよ。寝る間も惜しんでね。誰かさんとは違って」
戦士「うぐ……俺はだな、昼行性の健康的な生活を送っていただけだぜ」
魔法使い「さあどうかしら。町に着くたびに酒場に入り浸ったのは貴方じゃなかったかしらね」
魔法使い「お陰でいつも予算不足で僧侶が泣いていたわよ?」
戦士「うぐぐ……」
魔法使い「まだまだ口じゃ負けないわね」
団長「そうじゃ、その僧侶というのはどんな人間だったのじゃ?」
団長「どうも詳しく聞いたことはなかったのう」
勇者「お、確かにそうだね」
勇者「僧侶はパーティの中で一番の『縁の下の力持ち』だったんだ」
魔法使い「そうね。身の回りのことは食事から予算の勘定までまかせっきりだったわ」
魔法使い「いつもだらしない男二人が叱られていたわ」クスクス
戦士「おいおい、俺を勇者と一緒くたにしてくれるなよ!俺は時々僧侶の手伝いもしてやッたんだぜ」
魔法使い「ごく稀にね」
勇者「僕だって手伝っていたさ。でも彼女の本領は戦術の方にもあっただろうね」
魔法使い「ええ。勇者の作戦も素晴らしい物ばかりだったけれど、それを応用して改良するセンスは、私や戦士には持ち合わせていなかったわ」
魔法使い「かの魔王軍最強にして最終の防衛ラインだった『死の谷』を攻略できたのもそのお陰だったしね」
戦士「俺たちはあくまで実行部隊だろ!」
魔法使い「良く言えばそうね」
団長「なるほどのう。それであの光水戦線のスピード決着も説明がつくということじゃな」
副団長「それは是非敵に回したくはないものだね」
魔法使い「猫ちゃんの言うとおりよ」
副団長「なっ!ボボボボボボクは猫じゃないし!半魔だし!!」カァー
魔法使い「まあ照れちゃって。かわいらしいわね」クスクス
団長(初対面の相手に副団長が翻弄されるとは……珍しいこともあるもんじゃな)クスクス
勇者(戦士<副団長<魔法使い か)
副団長「あーっ!団長まで笑わないでください」
団長「悪かったのう」
店員「おー!みんな盛り上がってるじゃないか!」
店員「待たせたね、ほら、今日はごちそうだよ!」
テーブルに様々な料理が並べられた。
戦士「酒場の店員なのに料理ができたのか……」
店員「おうよ。昼は店員、夜はシェフ、それがアタシさ!」
魔法使い「台本形式のセリフがややこしくなりそうな肩書きね」
団長「店員、デザートは何かの」
店員「お、デザートは団長の大好物のイチゴショートケーキだよ!」
団長「ケーキ!? やったぁっ」
勇者「えっ」
戦士「えっ」
団長「はっ!?」
団長「いや……これはじゃな……成りすましの練習でな……」カァー
副団長(照れてる団長も可愛いなぁ……)ニュフフフ
店員「そういう所だけはまだまだ子供っぽいんだよなー団長は」
団長「こら!余計なことを言うな!」
魔法使い「いいじゃないの。私も甘いものは大好きよ」
戦士「そういう問題なのか……?」
団長「まったく、そろそろ食べんと料理が冷めてしまうぞ」
副団長「いっただっきまーす!」
戦士「あっ!抜け駆けするなっ」
勇者「そう慌てない慌てない」
魔法使い「慌てないと水しか残りそうにないわね」
勇者「それは困るっ!」
ワイワイガヤガヤ
団長「賑やかでなによりじゃな」
店員「ははは。団長も幸せそうじゃないか」
店員「付き合いは長いつもりだけど、団長がそんなに幸せそうにしてるのは初めて見るかもしれないよ」
団長「そうじゃな」
団長「ようやく、解放されたのじゃろうか……」
団長「儂は、未だに『人間であった頃』のことを覚えておる」
団長「あの時奪われた幸せを、儂は取り戻すことができたじゃろうか」
店員「さあね。団長が幸せなら幸せでいいんじゃないのか?」
団長「最もなことじゃな」クスクス
団長「平和な世界……か……」
副団長「団長!ぼーっとしてるとイチゴ貰っちゃいますよ!」
団長「ああああっ!ダメっ!それだけはダメっ!!」
魔法使い「キャラが崩れてるわよ」クスクス
ハハハハ
ワイワイガヤガヤ……
―――歓迎会後 副団長の部屋前廊下―――
スタスタ
副団長「いやー食べた食べた。やっぱり店員の料理は最高だなぁ」
戦士「全くだ。あんな美味い料理は宮廷料理でも珍しいぞ」
戦士「しかし、イチゴをとられそうになった時の団長の慌てっぷりといったらなかったな」
副団長「団長は昔から甘い物にだけは目がなくてね」
副団長「一度団長のプリンを食べちゃったときは、3日間口を聞いてくれなかったんだ」
戦士「そこまでするか……」
副団長「まあ、ボクも大切な剣を折られた時に、3日間この部屋に籠っちゃったんだけどね」
戦士「お前も大概だな」
副団長「おあいこさまということで」
戦士「なーにがおあいこさまだ」
副団長「それにしても、ボクの部屋に入れるのなんて団長以外はキミだけだよ」
副団長「それ以下は絶対にドアノブも触らせないからね」
戦士(今『以下』って言ったよな……)
戦士「そうだったのか。そいつはありがたいことだな」
戦士「早く元盗賊団副団長閣下のお手並みを拝見したいものだ。戦闘も含めてな」
戦士「憲兵隊じゃ上級隊長くらいしか物足りる奴がいなくてな」
副団長「お、そうだね。そういえばまだ決着がついてなかったっけ」
副団長「といってもボクにはその剣を傷つけることは到底できないから、適当なのを貸してあげることにするよ」
戦士「そいつは助かる」
戦士「細工は無いだろうな」ジトー
副団長「ご心配なく」ニュフフフ
―――コレクションルーム―――
ガチャ
パチッ
戦士「こ、これはっ!」
コレクションルームには壁中に剣から鎧、珍植物に至るまでがびっしりと並んでいた。
副団長「これがコレクションルーム1さ。まだ4つ奥に部屋があるよ」
戦士「これは凄いな……町の商店で売っていたものも中々の名品ぞろいだったが、比べ物にならないぞ」
戦士「これなんてあの『大魔王の剣』じゃないか!まさかこんなところに本物があるとは……」
副団長「お、キミは随分目利きのようだね。ボクの最高のコレクションを一瞬で見抜くなんて」
副団長「でも『13代勇者の剣』はそれに次ぐ名品と言っても過言じゃないね」
戦士「なるほど……ようやくその価値が分かった気がするぜ」
副団長「他にもこれ!……の^^^さ!」
戦士「これは&&&の“”じゃないのか!?」
戦士「かぁー! これは何時までもいても居たりないな!」
戦士「ここに住めたらどんなに幸せだろうか……」
副団長「おいおい、ボクの部屋に住むのはやめてくれよ」
戦士「その点だけは安心していいぞ」
戦士「しかし、お前がいつも着ているそのブレザーも気になるな」
戦士「何かのアンティークなのか?」
副団長「ああこれ? これはボクが気に入ってる服装ってだけさ」
副団長「特に意味は無いね」
戦士「ないのかよ。変なところで無頓着だな」
戦士「ま、いいや。そろそろ一太刀やろうじゃねえか」
副団長「ん、そうだね」
副団長「んーと、はいっ」ヒュッ
戦士「ありがとよ」パシ
副団長「それは『戦士の剣』って言うんだ。あれ……戦士?」
戦士「って俺のじゃねえか!」
戦士「荒れ地で失くしたと思っていたらこんな奴に盗られていたのかよ!」
副団長「な、こんな奴とは失礼な!」プンスカ
副団長「この上ない丁重なもてなしをしてあげたというのにひどい言いようだね!」
戦士「わ、悪い悪い。ともかく、これは俺が師匠から譲り受けた大切な剣だったんだ」
戦士「戻ってきてよかったよ」
副団長「そらみたことか」フン
副団長「さて、表に出よう。こんなところでやりあったらボクのコレクションが台無しだからね」
戦士「おう。そうだな」
―――地上 新行政府庭園予定地―――
副団長「うーむ、この芝生はもうちょっと茂らせた方がいいかな……」
戦士「こらこらこら。仕事をしに来たんじゃないんだぞ」
副団長「あ、ごめんごめん。つい気になっちゃってね」
副団長「いろんな美しいものを集めるのは好きだけど、自分の手で何かを作るのもたまには楽しいものだよ」
戦士「面白い小説を読むと自分も書きたくなっちゃうっていうあれか」
副団長「キミは小説なんて読まないだろうに」
戦士「大当たり!」
副団長「なんだそりゃ……とにかく、ボクは本気で行くからね」
副団長「あまりボクに回復魔法を使わせないでよね」
戦士「おいおいそりゃあどっちの意味で言ってるんだ?」
戦士「俺だって手加減は無しだ」
副団長「身体強化魔法!」ブワッ
ダッ
戦士(速いっ!?)
ギィィィン
副団長が助走をつけて放った拳の一撃を、戦士は咄嗟に剣で受け止めた。
戦士「魔法とはちょっと反則じゃないのか?」ギリギリ
副団長「剣のハンデということで」
戦士「言ってくれるぜ!」バッ
戦士は一度距離をとる。
戦士(それにしても、華奢なくせになんて重い攻撃だ。まだ手がしびれてやがる)ビリビリ
ダッ
キィン
カキィン
バキッ
副団長「ボクの速さについてくるとは中々やるじゃないか!」
戦士「チッ、褒められても嬉しくはねえな」
戦士「全く。鎧も着ていないくせにやけに堅いったらありゃしない」
副団長「当然さ、防御力増強魔法を一点に集中すれば剣なんて簡単に防げる!攻撃もまた然り!」
戦士「防いでもらっちゃ困るってな!」
カァン
キィン
ガンッ
―――…
戦士「そらっ!」ブン
副団長「まだまだ遅いねっ!」ヒラリ
副団長「そろそろ決着をつけさせてもらうよ!」
副団長は戦士の真上に高くジャンプした。
副団長「……ブツブツ……ブツブツ……」
戦士「自分から攻撃を避けられない体制に入るとはご苦労なこったな!」
戦士もそれめがけてジャンプした。
副団長「かかったね! 石柱魔法!」
ズズズズズズズ
戦士「はっ。 下か!」
副団長「これで挟み撃ちだ!」
戦士「ぐっ!」ダッ
戦士は迫る石柱を逆に足場に利用した。
副団長「いけええええええ!」
戦士「うおおおおおおお!」
ズババッ
―――……
副団長「回復魔法」パァー
戦士「悪いな」
戦士「結局引き分けか……」
副団長「そのようだね」
副団長「やっぱり勇者一行だ。咄嗟の判断力は群を抜いているよ」
戦士「そいつはどうも」
戦士「お前こそ、猫譲りの反射神経だな」ハハハ
副団長「だから猫じゃないっ!」
副団長「しかし、ここまで本気を出せたのも久しぶりだったよ」
戦士「俺も同様にだ。これからもまた相手を頼むぞ」
副団長「喜んで!」
副団長「それにしても、ボクと石柱魔法の挟み撃ちをかわしてくるなんて……ん?」
副団長「ギニャアアアアアアッ!!!」
副団長「ぼ、ボクの芝生がっ! 庭園がぁっ!」
庭園には、先ほどの石柱魔法によって生成された石の柱が芝生を貫いてそびえていた。
戦士「あーあ。熱くなるからだ」
副団長「一様に芝を張るのに2か月もかけたのに……またやり直しじゃないかあああああ」
戦士「そこまでするか」
戦士「ま、俺も同罪だ。手伝ってやるよ」
副団長「うわあああっさすが戦士! ありがとうニャーッ!」ギュー
戦士「のわああっ!だから抱き着くなぁっ!!」
こうして勇者一行にはしばらくの間平穏の日々が流れて行った。
―――…
ソローリ
団長「むふふ……この日のために隠しておいた秘蔵のケーキ……」
団長「さすがの副団長でも見つけ出せはせんかったじゃろう……」パカッ
スカッ
団長「」
副団長「まーたこんな夜中に何をやっているんですか?」
団長「はっ!? 貴様!」
副団長「健康に悪いですよ。罰としてケーキはボクが成敗しておきました」
副団長「さあさあ早く寝てくださーい」
団長「むぅぅ……副団長のばかぁっ!」
ダッ
副団長(涙目の団長もいいなぁ……)ニュフフ
副団長「はっ!? これでまた3日も口がきけないじゃないか!」
副団長「しまったああああああああああああ」
しかし、それも長くは続くものではない。
―――……
魔法使い「あの魔法は『究極破壊魔法』というのね……」パラパラ
魔法使い「しかし、名前だけ大層な割に記録がほとんどないわね」ポム
魔法使い「でも、あの大賢者の最高傑作に対しての反魔法なんて……柄にも合わず熱くなってきたわ」
魔法使い「必ず完成させてやるわよ」カリカリカリ
―――……
勇者「ナイトをここに。チェックメイトだね」
戦士「何っ!? 待った待った待った!」
勇者「もう何回待たせてあげたと思ってるのさ。いい加減勝たせてくれたっていいんじゃないのかい?」
戦士「ま、まだだ。 まだ……キングをこうすれば……」
勇者「ふっふっふ。こうすればそこもチェックメイトだよ」
戦士「ぬああああああ!」
戦士「駄目だ! 俺は頭脳より肉体派なんだよ!」
勇者「はいはい」
戦士「ところで、行政府を新設した後は、あの地下基地をどうするつもりなんだ?」
戦士「どうも迷路じみていて使う気にはなれんのだが……」
勇者「ああ、あれは商人の助言で貯蔵庫にでもするつもりだよ」
勇者「玉座は魔法石、台所は石油、コレクションルームは……何だったかな」
戦士「おいおいまじかよ」
戦士「それじゃあ資源を取りに行ったっきり帰ってこなくなる奴が続出しそうだぜ」
勇者「はは。まあそうなったらまた新しく倉庫でも作ることにしよう」
―――…
団長「どうかの……」
魔法使い「なるほど、回復魔法による再生失敗ね」
団長「治せるか?」
魔法使い「もちろんよ。私は新しい魔法を作り出すのが生業なんだから」
魔法使い「努力するわ」
団長「か、感謝するのじゃ!幻影、屈折魔法」パッ
魔法使い「それにしても、そこまで酷く跡が残るなんて、相当無理したわね」
魔法使い「常に強力な回復魔法をかけながら、敵中に突入でもしたのかしら?」
団長「ご明察じゃ。しかし、そのお陰で平和が訪れたというのなら、儂は後悔などしておらんよ」
魔法使い「あら。じゃあなぜ私にその治療をお願いしに来たのかしらね」
団長「そ、それはじゃな……いつも魔力を保っておくのが面倒でな……」
魔法使い「ま、いいわ。そういうことにしておいてあげるわね」
団長「頼むぞ魔法使い」
魔法使い「お任せあれ」
―――…魔国 魔王城
魔王「今日は星がきれいだなぁ」
魔王「平和、か」
魔王「綺麗ごとだけ並べておいて、結局は自分たち同士で戦争を始める」
魔王「人間っていうのは理解に苦しむ生き物ね……滅ぼしてしまいたいほど」
魔王「はぁ。復興省が来てからろくに外も出歩けないし。つまんないなぁ」
魔王「あれ? 南の丘の向こうが明るい……?」
魔王「あの方角は奇術国連合でもないし……確か勇者が建てた不干渉区、だったっけな」
魔王「…………行ってみようかな」
―――…
『火炎魔法っ!』ボォッ
『相手は強力な魔力を持つ半魔だ!心してかかれい!』
『絶対に逃がすな! 母親もろとも処分するのだ!』
『お母さん。どうして外が騒がしいの?』
『早く逃げなさい! ここは私が食い止めます』
『あなたは絶対に生き延びるのです。幻影魔法をかけておきますから、とにかく森の中を進みなさい』
『そうすれば必ず道は開けます』
『え、嫌だよお母さん! お母さんも一緒に来てよ!』
『それはできません。私はしてはいけないことをしてしまったんですよ』
『私の罪はあくまでも私の罪であって、貴方の罪ではありません』
『あの父親を持つ貴方ならわかるはずです』
『どうして? どうして私だけ……』
『どうして……』
ゴォォォォォ
――…――
「はっ!ここは……」
『…………』
「誰?」
『……………』
「何を言っているの……?」
『…………』
「何を……」
『…………』
――――――
―――――
―――
―――建設中新行政府 外交行政部門長執務室―――
団長「はっ!? つい寝てしまっておったか」
団長「またあの夢か。新行政府に移ってから回数が増えたようじゃな……」ゴシゴシ
団長「父親か……まだ生きておるのじゃろうか……」
団長「……まさかな」
団長「はぁ。もう夜か」
団長「あそこにでも行ってみるかな」
三日目です
―――塔最上階展望台―――
ヒュオオオ
団長「うぅっ……さすがにこの季節では肌寒いなぁ……炎魔法(極小)」ボォッ
勇者「おっ。団長じゃないか。どうしたんだいこんな時間に?」
団長「勇者こそよくこんなところに毎日いられるものじゃ」
団長「こちらが聞きたいものじゃな」
勇者「いやあ。こうして夜の街を見下ろすのもいいものだよ」
勇者「一日一日ごとに光が増えていくんだ。この光が増えれば増えるほど平和に近づいてているんだと思うとなんだか自分のやっていることに自信を持てる」
勇者「僕は間違っていなかったんだってね」
団長「はは。勇者がそんな小心な部分を持ち合わせている覚えはなかったのじゃ」
勇者「僕だって自分のやる事成す事全てが正しいと思ったことは無いさ」
勇者「もしかしたらここに国を作るせいで犠牲になる者も出てしまうかもしれない」
勇者「いや、必ずでてしまうだろう」
勇者「平和のためにまた血を流すことが本当に正義なのだろうか。本当にここで流れた多くの血の償いとなり得るんだろうか」
勇者「どうしてもそんなことばかり引っかかってしまうんだよな」
団長「そうじゃな。儂もそれはわからんでもないことじゃ」
団長「しかし、現に儂は多くの半魔の骸の上に半魔盗賊団の旗を掲げていたのじゃ」
団長「勇者が間違いだというなら、それ以前に儂が間違っていたことになるじゃろう」
団長「そうなれば……一体儂は何をしてきたのかわからなくなってしまうのう」
勇者「そうだね。その通りだ」
勇者「団長の為にも頑張ることにするよ」ニコッ
団長「そうしてくれるとありがたいのじゃ」
団長「……最近夢の中で誰かが儂に話しかけてくるのじゃ」
団長「何もない意識だけが存在する世界で……何を言っているかも聞き取れん」
勇者「夢か……」
勇者「確か魔法使いが言っていたんだけど、どうやら他人の夢に何らかのメッセージを残す魔法もあるらしいんだ」
勇者「僕も一度先代魔王の策略で『夢』に干渉されたことがある」
勇者「その時は戦士の気合の一発で目を覚ますことができたんだけどね」
勇者「あと一歩で僧侶に切りかかっているところだったよ」
勇者「だから、もしかしたら何らかの支障をきたすかもしれない」
勇者「十分用心した方がいいかもしれないよ。夢の力はかなり強力だからね」
団長「そうじゃな……心に留めておくことにするのじゃ」
団長「すまんな。いきなり変な相談を持ち掛けてしまって」
勇者「相談位だったらいくらでも乗るさ」
勇者「折角だから酒場にでも行ってゆっくり語らないかい?」
勇者「ケーキもおごるよ」
団長「ほ、本当かっ!?」
団長「行こう! 飲もう! ゆっくり語ろう!」
勇者「団長は未成年だろう」
団長「うるさいのう。未成年なのは外見だけなのじゃ」
勇者「ははは。この身長じゃあまだまだ育ちざかりなんじゃないのかい?」
団長「うっ。頭をぽんぽんするのはやめんか。身長が縮む」
勇者「伸びはしなくても縮むことはあるんだね」
団長「まあ……万が一じゃ」
団長「さて、早く行こう! ケーキが儂を待っているのじゃ!」グイッ
勇者「わわっ。ひっぱるなって」
―――…
着実に、背後に影は忍び寄っているのだった。
商人「……はい……はい。そうですね………そのようです」
商人「……もちろんです……はい………分かりました。ありがとうございます」
商人「はい……それでは」
ガチャ
商人「ふう。あのお方もどうして突然活発に動き出したんだか……」
商人「まあ、平和が来てしまっては私も困ります」
商人「これも利益の為です。勇者様には悪いですが、仕方ありませんね」ニヤリ
事件が起こったのは、不干渉区発足から3年が経とうとした頃であった。
―――不干渉区発足から3年後 中央行政区 新中央行政府 代表執務室―――
不干渉区発足から約3年が経ち、不干渉区内にはいくつもの都市が完成していた。
中央行政区も例外ではなく、諸侯国の王城をモチーフにした新行政府を中心に首都機能を備えた大規模都市が発達していった。
各部門も次々と体制の整備が進み、副部門長もほとんどの部門で配置されるに至っていた。
団長「今月だけで銀行が13件、魔法薬局が21件、企業連合の支社が10件、魔法学校が7件この不干渉区に進出してきたのじゃ」
団長「貿易額も月を経るごとに上向いておる。景気がいいものじゃな」
勇者「まあね。ここは魔国、奇術連合、魔術連合三勢力の中間にあたる三角地帯だ」
勇者「三角貿易には最適な場所ということさ」
勇者「それに、どうしてあの両連合が幾度となくこの土地を取り合ってきたか分かるかい?」
団長「まあ、ここが戦略的要所であることは自明の理じゃろうが……」
勇者「まあそれもある。でも、もっと重要なのはこの土地が、偏在性の強い『魔法石』と『天然資源』が同時に眠る資源のクロスポイントだということなのさ」
勇者「商人にお願いして開発を進めてもらっているけど、その埋蔵量は相当な物らしい」
勇者「僕がここに国を作ろうと思ったのもそれが結構大きかったんだ」
勇者「幸の国王に直接左遷されなくてもいずれはここに来る予定だったしね」
団長「そういえば商人も同じことを言っておったのぅ」
勇者「ははは。彼のお陰で経済基盤が完成したようなものさ」
勇者「ありがたいかぎりだね」
団長「しかし、あまり彼一人に経済の大部分を任せすぎるのも問題じゃな」
団長「商人はあくまで利益のために動く男じゃ。いつ儂らを裏切ってもおかしくは無いぞ」
勇者「そうだね。考えておこう……」
ドタドタ
バタン
戦士が扉をはねのけて入ってきた。
戦士「おい、大変だ! 西部支部周辺で反乱が起こったそうだ!」
戦士「なんでも昨日西部支部を襲撃し、今は近くの洞窟を本拠地にして立て籠っているそうだぞ」
団長「なんじゃと!?」
勇者「反乱だって?」
戦士「ああ。さっき憲兵隊を派遣したが、俺達も行った方がいいんじゃないのか?」
戦士「どうも反乱の首謀者並びにメンバーは元半魔盗賊団のメンバーらしい」
戦士「この不干渉区に不満があった奴らが潜伏して集まったんだろう」
団長「な、なんということじゃ……」
団長「ぐ……避けられるものでは無かったか……」
団長「儂が甘かったようじゃな」
勇者「団長……」
勇者「よし、部門長を急きょ招集しよう」
―――会議室―――
勇者「……ということだ」
商人「それは一大事ですね」
商人「下手に武力で押さえつければ、平等を謳うこの不干渉区の政策に反します」
商人「そうなれば今までの苦労が水の泡ですよ」
勇者「その通りだ商人」
勇者「僕らはこれをできるだけ平穏な形で収めなくてはならない」
魔法使い「しかし、話し合いで解決できるとも限らないわね」
副団長「一体誰が反乱なんて……」
団長「元情報隊長だそうじゃ。最近顔を見んと思っていたら……」
団長「盗賊団の時は最も信頼のおける部下じゃったというのに」
団長「どうしてなのじゃ……」
戦士「しかし、現に反乱を起こしているわけだ。昔のよしみじゃどうにもならんぞ」
勇者「うむ。そこで、部門長の中から4人ほどが出て反乱の解決にあたろうと思う」
勇者「1人は僕として、後3人はどうしようか」
団長「元はと言えば儂のせいなのじゃ。儂が行こう」
副団長「団長が行くならボクも行かなくちゃね!」
勇者「そうだね。それじゃあ……あとは戦士、君は西部支部で憲兵隊の統率に当たってくれ」
勇者「僕らに何かあったらいつでも出動できるようにね」
戦士「いいだろう」
勇者「それじゃあ、一時この行政区に部門長が4人もいなくなる」
勇者「商人、ゲストではあるけど魔法使い。あとはお願いするよ」
商人「どうぞお任せを」
魔法使い「仕方ないわね」
勇者「それじゃあ明日には出発しようか」
戦士「おうよ!」
商人「……」ニヤ
―――2日後 北部不干渉区 西部支部―――
ざわざわ……
西部支部には、中央行政区から派遣された憲兵隊が集結していた。
西部支部は奇術国よりに存在していることもあって魔法都市の面影は薄く、むしろ車が通りを走るような科学都市の影響を強く受けていた。
上級隊長「警務部門長殿、各隊集合を完了したでござる!」ザッ
上級隊長「このまま待機するでござる」
戦士「おう。ご苦労だったな上級隊長」
上級隊長とは、半魔盗賊団時代に警備隊長を務めていた犬型魔族の血を引く半魔である。
その剣の腕前は戦士とほぼ互角であり、部下の統制力も高い。
戦士「さて、こっちの方は準備万端だぜ勇者」
勇者「ありがとう戦士、こっちの方もそろそろ行くことにするよ」
団長「わざわざすまんのう」
副団長「ま、キミの出番は今回はお預けだろうけどね〜」
勇者「まあ、それが一番いいことではあるさ」
団長「その通りじゃな……」
戦士「ま、無事に帰ってくるこったな」
戦士「ちょうどいいからかい仲間と武器オタクがいなくなっては俺も少し寂しいからな」
副団長「まったく、誰の心配をしてるんだか」
団長「それじゃあ行くぞ。戦士、上級隊長、後衛は任せたのじゃ」
戦士「おうよ!」
上級隊長「お受け奉るでござる!」
ここまで。投稿スピード加速とは何だったのか
ちなみに西部支部の実際の文明レベルは幸の国とほぼ同等な20世紀初頭レベルです。
あと西部支部は通常は都市の名前です。
不干渉区と半魔盗賊団の組織図はそのうちまた詳細が出てきますのでそのあたりでいちど整理します。
―――西部支部付近 洞窟―――
団長「さて、ここのようじゃな」
小高い山の麓に大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。
団長「ここは元々盗賊団情報隊の本拠地だった場所じゃ」
団長「おそらく、反乱のメンバーは情報隊だった面々がメインなのじゃろう」
副団長「彼らは特に戦闘能力に長けた連中じゃなかったけれど、もしかしたら罠を張って待ち構えているかもしれないよ」
勇者「そうだね。反乱軍の本拠地にしては静かすぎる」
勇者「警備の1人や2人くらいおいていてもおかしくは無いのに……」
団長「しかし、ここで帰るわけにもいかんじゃろう」
団長「罠と分かっていても飛び込まねばならんことはあるものじゃ」
勇者「確かにそうだね。しかし、罠に嵌める最も効率的な方法は、罠に飛び込まざるを得ない状況に追い込むことだ」
副団長「十分用心した方がいいねぇ」
―――…内部
コツ……コツ……
団長「誰もおらんな……」
勇者「本当に静かだね」
副団長「もうそろそろ広場に出るはずだよ」
勇者「あれ? 何か向こうが明るい……?」
団長「広場じゃな。遂にお出ましのようじゃ」
―――…広場
勇者「これは……!」
ザワザワ……
広場には大勢の半魔たちが待ち構えていた。そして、正面にはかなり人間に近い容姿の半魔が一人。どうも猿型の魔族の血を引いているようだ。
情報隊長「ようこそいらっしゃいました北部不干渉区の大幹部様方」
情報隊長「私は新半魔盗賊団の情報隊長です」
彼は紳士的な振る舞いで3人を迎えた。
団長「『新』、じゃと?」
団長「どうして反乱など起こしたのじゃ情報隊長!」
団長「今すぐにこんなくだらないことを止めて儂の下に帰ってくるのじゃ!」
副団長「そうだそうだ! 戦ってこの3人に勝とうとなんて思わないでよ!」
勇者「僕達は戦いを望んではいないんだ。今すぐに反乱を止めるなら今後の身分も保証する」
勇者「不干渉区のメンバーとして、いや、幹部として尽力してはくれないかな」
情報隊長「……」
情報隊長「やれやれ。くだらないとは物言いが悪いものですね」
情報隊長「私はがっかりしたんですよ」
情報隊長「なあ団長。お前はもう忘れたのか」
情報隊長「俺達は長い間人間と魔族、両方に迫害され、こんな惨めな何もない土地へと強制的に追いやられてきた」
情報隊長「そしてその中でも争いは絶えず、いつ死ぬかもわからない状況で生き延びてきたんだ」
情報隊長「俺はある日お前に出会い、お前なら争いを収め、半魔が安住できる『半魔の国』を作ってくれるものだと確信した」
情報隊長「そして、俺はお前に仕え、情報隊長という幹部職を持ってそれに尽力し、遂にその目標の寸前まで達成したんだ」
情報隊長「それがなんだ? 勇者?不干渉区?」
情報隊長「ふざけるな! どうしてここまで来て人間に支配されなくてはならんのだ!」
情報隊長「ついに『半魔の国』が建ち、平和が訪れるはずだったのに!」
団長「それはじゃな……」
情報隊長「人間は必ずまた俺達半魔を迫害し始めるだろうよ」
情報隊長「これでもう半魔の平和は永く失われてしまったのだ」
情報隊長「ならば、俺は自分で再び平和を勝ち取ってやるまでさ」
団長「そ、そんなことは無い!」
団長「お前も聞いたはずじゃ……勇者が半魔だけでなく、魔族、人間三族間の平和を誓った『三族平和宣言』を!」
団長「儂が半魔の国を建てれば、それこそまた迫害の時代への始まりに違いはなかったのじゃ!」
団長「だから儂は盗賊団を解散せずに勇者が……儂よりもふさわしい『王』が現れるのをずっと待ち望んでいたのじゃ」
団長「彼さえいれば必ず平和は訪れる。儂は彼と会った時点でそれを確信したのじゃ。お前が儂と出会った時と同じようにな!」
情報隊長「そんなことがあってたまるものか! 俺は、俺達は自らの手で平和を手に入れなければならんのだ!」
情報隊長「迫害され、争い、命がけで戦ってきたあの日々を忘れたお前に何が分かる!」
団長「忘れてなんかおらん! 儂は『人間』としての生を奪われたあの日から、これまでの日々を一日たりとも忘れたことは無い。いや、忘れられるはずがない!」
シュン
団長は体の表面を覆う魔法を全て解いた。
ザワザワ……
情報隊長「ぐ……!」
体の傷は顔にまで及んでいた。大きな石をぶつけられた様な跡が生々しく残っている。
副団長「団長……ああ悲しいことよ……」ハラリ
勇者(あの時は右腕だけだったけれど……やはり全身となると……)
団長「これは全て迫害と争いによってできた傷に他ならん」
団長「儂はこの記憶をこの身に刻んで残りの一生を過ごしてゆかねばならないのじゃ」
団長「これで気は済んでくれんものか情報隊長」
団長「儂はお前を失いたくはないのじゃ。幻影、屈折魔法」
元に戻った。
情報隊長「うるさいうるさい!!」
情報隊長「お前などに邪魔はさせん! かかれっ!この半魔の裏切り者を殺せええええっ!!」
ウオオオオオオオオ!!
団長「情報隊長!!」
副団長「駄目だったようですね」
副団長「うぐぐ。ちょっと数が多いかな……」
勇者(ここで派手に戦う訳にはいかないね……)
勇者「団長、ちょっといいかい?」
団長「なんじゃ!」
勇者「……ゴニョ……ゴニョゴニョ……」
団長「……分かった。それが最善じゃろう」
団長「副団長。20秒だけ時間を稼いでくれんか」
副団長「お安い御用です!」
ウオオオオオオオオ!!
副団長「数が多けりゃいいってもんじゃないよ!身体強化魔法!」ダッ
バキッ
ドガッ
半魔1「ぐわああああああっ!」
半魔2「ええい! 回り込んで団長を狙えっ!」
勇者「……ブツブツ……」
団長「……ブツブツ……ブツブツ……」
半魔3「グオオオオオオオッ!」ダッ
副団長「しまった! 回り込まれたっ!?」
副団長「団長っ!!」
団長「……詠唱完了じゃ」
勇者「こっちも完了したよ」ガシッ
2人は手をつなぎ、逆の手をそれぞれ高く掲げた。
勇者「せーのっ」
団長・勇者「「雷魔法(大)!!」」バリバリバリバリ
ズバババババッ
グワアアアアアアアッ
広場内にいた半魔は、情報隊長を除いて全員が雷魔法によって失神した。
情報隊長「……なんだとっ!!?」
情報隊長「ば、馬鹿なっ! 全滅したというのか!?」
団長「ふう。久しぶりの上級魔法じゃったな。コントロールが上手く出来てよかったのじゃ」
勇者「全員失神でとどめてあるね。さすが団長の魔法コントロールだ」
団長「分かったかのう情報隊長。このように人間と半魔が手を取ってゆくことも十分に可能なのじゃよ」
団長「人間はもう二度と半魔を迫害することは無い。魔族も同様にじゃ。必ず平和は訪れる!それは儂が誓ってやろう」
団長「儂はお前を責めたりはせん情報隊長」
団長「もう一度儂の下で任を全うしてはくれんかの」
団長「ちょうど行政部門長の席を空けようと思っておるのじゃ」
情報隊長「ぐぐ……」ガクッ
情報隊長「俺は……俺は……」
情報隊長「俺は…………」
情報隊長「俺は人間の下になどつきはしないいッッ!!!」チャキッ
勇者「なっ! 銃だと!?」
銃とは、魔術国でいう『魔法の杖』にあたる武器である。ちなみに、不干渉区では徹底的な禁輸政策がとられていた。
団長「いかん!!」
副団長「動体視力、反射神経向上魔法!」
情報隊長「死ねえええええええええ!!」
>>>>>>スロー>>>>>>
バ゙ァァァァァァァン
長い銃声の中、副団長の周りの世界は減速していく。
反射神経向上魔法により、その元から並はずれている反応速度は更に10倍以上に上がっているのである。
副団長(よし、見える! このままいけば十分間に合う!)
副団長(よーしこのままこのまま……左腕で庇って、防御魔法を集中すれば……)
副団長(これで防いだ……!!?)
<<<<<<<常速<<<<<<
ビシィッ
弾は、勇者と団長を庇った副団長の左腕に命中した。
副団長「ぐああああああっ!!」
団長「副団長!」
勇者「防御魔法を貫通した!?」
副団長「っつう……一体どんな小細工を……」ポタポタ
情報隊長「はははははは!! この銃は『ある男』が俺に渡した、奇術国の最新の武器なのさ!」
情報隊長「この銃には、魔法を打ち消す『反魔法弾』が込められているのだ!」
情報隊長「この弾で撃たれれば防御は不可能、回復もできん!」
情報隊長「さあどうする? お得意の魔法は使えんぞ! それとも俺を殺すか?」
情報隊長「はははははは!! 半魔の平和を犯すお前たちはここで皆死ぬのだ!!」チャキ
勇者「団長! 危ない!」
団長「そんな……」
副団長「くっ、岩壁魔法!」ポタポタ
ズドドドドド
情報隊長「何ッ!?」
情報隊長と勇者たちの間に岩の壁が高くせりあがった。壁は情報隊長を取り囲んでしまった。
副団長「ぐっ……これで手出しはできないだろう」ポタポタ
団長「すまん副団長。儂のせいで……」
団長「今止血してやるのじゃ」ビリッ
副団長「あ、ありがとうございます!」ギュッ
副団長「でも大丈夫ですよこれくらい! 団長が傷つくことに比べたら安いものです!」
勇者「西部支部ですぐに手当てしよう。奇術連合出身の医者も増えているし、『奇術式』の治療なら対応できるはずだよ」
勇者「しかし、魔法を無効化する間接武器とは……奇術の国も厄介なものを発明したものだ」
団長「そうじゃな。じゃが問題は……!?」ハッ
ゴゴゴゴゴ
団長「この魔力は!?」
勇者「しまった、まだ罠が……?」
てなわけでここまで
ちなみに、この世界の魔法はその威力に応じて5ランクに分かれています。用語の参考までに
5 最上級魔法 魔法陣だけでなく、魔法の実力者複数人の同時詠唱がなければコントロールできないほどの威力。
4 超上級魔法 発動に魔法陣と多大な魔力を必要とする。基本、移動ができないため罠として使われることが多い。
3 上級魔法 どんな熟練者であってもそれなりの時間を詠唱に費やさねばならない。
2 中級魔法 熟練すれば下級魔法と同様に扱える
1 下級魔法 ほとんど詠唱なしで唱えることが可能
―――……洞窟 上空
バサッバサッ
偵察係1「まーだ帰ってこないな勇者」
偵察係2「ほんとだよなー。あの3人のことだからパパッと行ってパパッと帰ってくるものだと思っていたんだけどな」ハハハ
偵察係1「まったくだよな。あのメンツじゃあ魔王軍の1つや2つ簡単につぶれちまうぜ」
ゴゴゴゴ
偵察係2「!? なんだこの魔力は!?」
偵察係1「こ、ここまで魔力が漏れ出てくるとは……『超上級魔法』か!?」
偵察係2「まずい、警務部門長に伝聞魔法を送れっ、早く!!」
―――洞窟付近 憲兵隊待機場所―――
ダダダッ
隊長A「大変です部門長!!」
隊長A「洞窟上空の偵察係から伝聞魔法が入ったのですが……」
上級隊長「何やら騒がしいでござるな」
戦士「なんだ? なにかあったのか」
隊長A「『偵察隊より 洞窟上空にて強力な魔力の漏洩を確認 超上級魔法が内部にて発動した疑いあり 応援を要請する』 だそうです!」
戦士「超上級魔法だぁっ!?」
上級隊長「な、反乱軍にそのような魔法の使い手がおったというのでござるか!」
1: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:01:02.33 ID:y0dnDrxK0
※長編注意
宰相「国王陛下!先ほど勇者様一行が魔王軍の本拠地近くまで迫ったという報告が入りました」
宰相「既に魔王軍の本隊は劣勢を極め、幹部クラスの魔族もほぼ全て討ち取っているそうです!」
国王「そうかそうか。それはよい知らせじゃな」
・ディーラー「納車だよ。保護シートとるからね」 アルト「えっ」
・【マジキチ注意】女「すいません…」モジモジ 膣内洗浄師俺「なんだ股患者か」
・男「よりによって最後の村に生まれてしまった」
・医者「こりゃアレだね、一日30回くらいはオーガズム感じちゃう奇病だね」 俺「うわーん…やったぜ!!」
・【胸糞注意】女「痴漢です!」 男「えっ」 私服警察「えっ」
2: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:03:46.35 ID:y0dnDrxK0
宰相「はい。国民も魔王軍討伐の知らせに歓喜しております」
宰相「かの『百年戦争』も、ついに我らの勝利に終わるでしょう!」
宰相「勇者様への禄はどうなされますか?」
国王「まあ待て。まだ勇者が魔王を討つと決まったわけではない」
国王「いや、討たせるわけにはいかぬ」
宰相「はて、どういう意味です」
国王「分からぬか? これまでの人類の歴史を振り返ってみろ」
国王「長い戦争の末勇者が魔王を討ち、そして100年もすれば再び次の魔王が立ち、それをまた勇者が討つ」
国王「そんな全く同じ流れを我らは古くから続けてきたのだ」
国王「ここで一度断ち切っておかねばならぬ」
宰相「しかし……どうやってですか?」
国王「魔王軍と『停戦協定』を結ぶ」
国王「人間と魔族の平和。それを約束するのだ」
3: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:05:30.45 ID:y0dnDrxK0
宰相「……こんな突然で大丈夫なのですか」
宰相「人間族は古くから魔族を嫌悪しています」
宰相「そう簡単に国民が受け入れるとは思いません」
宰相「勇者様についても一体どう説明していいのやら」
国王「ハハハ。問題ない。さっきのはただの建前だ」
宰相「はぁ」
国王「魔王軍も壊滅寸前。不平等に条約でも結んで苦しめてやればよい」
国王「下手に駆逐するよりはいくらかは役に立とう」
国王「もちろん、魔族への差別中傷も文書では禁止するが、実際は咎めなどせぬ」
国王「魔族などという汚れた者達と人間が協調するなど、初めから不可能な話なのだよ」ハハハ
国王「そして、この戦いが終われば再び諸侯国は分裂し、新たな戦争がすぐに始まるだろう」
国王「そこでだ。然るのちに人間族の諸侯国を『人間族連合王国』として統合する」
4: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:08:04.11 ID:y0dnDrxK0
国王→幸の国王「さすれば、後々は南の大国『幸の国』国王である余が人間族全てを治め、平和な世を築くことができようて」
宰相「なるほど……あの西の『奇術国連合』と東の『魔術国連合』を相討ちさせ
両者が疲弊した隙に陛下が北の魔国も含めて諸侯国すべてを統一する、ということですね」
幸の国王「その通りだ」
幸の国王「勇者についても考えてある」
幸の国王「北部の荒れ地でも開拓してもらうつもりだ」
宰相「事実上の左遷ですか……」
幸の国王「まあな。奴も優秀な政治手腕を持つという話だろう?」
宰相「はい。かつて花の国戦線の城にて、城下町に道路や水道、法律を見事に発達させました。
今では大都市にまでなっていますね」
幸の国王「脅威以外の何者でもないな。この国に置いておくわけにはいかん」
幸の国王「さらに左遷したのちも監視を怠ってはいかんぞ」
宰相「では、協定交渉はいつ行いなさるのですか?」
5: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:09:29.55 ID:y0dnDrxK0
幸の国王「ん。それならもう済んでおる」
幸の国王「先方魔王軍の第二権力者である側近との合意を得た」
幸の国王「今すぐにも勇者を呼び戻し、協定調印式の準備を始めねばな。卿にも手伝ってもらうぞ」
宰相「御意」
宰相「陛下、そういえばそのペンダントは一体どうなされたのですか?初めて見ましたが……」
幸の国王「ん?ああ、これのことか」チャリ
幸の国王「『知恵のペンダント』と言うそうだ。交渉の時に側近が友好の証だとかで渡してきたものでな」
幸の国王「これをつけていると頗る頭が冴えるのだ。一体どんな魔法をかけているのかは見当もつかん」
宰相「もしや、陛下への呪いだったりするやもしれませんね」
幸の国王「がははは! お前も悪い冗談が上手くなったものだ」
宰相「はっ。これはとんだお耳汚しを……」
宰相は確かにこの国王に対して違和感を感じたはずであった。しかし、彼の性格では
それに言及するには到底及ぶことが無かったのである。
6: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:10:24.67 ID:y0dnDrxK0
―――魔王城 玉座―――
側近「ですからですね……」
魔王「ですからじゃないわよ!」ムキー
魔王「何勝手に変なこと約束してるのよ!」
魔王「もうちょっとで人間なんてけちょんけちょんにしてやれるのにぃっ!」
側近「もう不可能ですよ魔王様」
側近「幹部は私を残して全て戦死し、魔王軍はほぼ壊滅しました。忌まわしき勇者の一行もすぐ近くまで迫っているそうです」
7: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:11:54.67 ID:y0dnDrxK0
魔王「やかましいっ! そんなの私が直接出れば楽勝よ!」ムキー
魔王「くらえ!」バリバリバリ
魔王は雷魔法を放った!
側近「おやめくださいこんなところで」ヒラリ
かわされてしまった!
魔王「うるさいうるさい! もうアンタなんか知らない!」バタン
魔王は寝室に入ってしまった。
側近「協定の調印式には出席していただきますからね」
側近「……すべては我らが繁栄のためです……」ボソッ
8: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:12:49.68 ID:y0dnDrxK0
―――…
グスッ
魔王「また負けちゃった……」グスッ
魔王「どうして私は負けてばっかりなの?」
魔王「お父様…どうして……」
魔王「うううぅぅ……」
魔王「人間と一緒になんて……」
魔王「こんな私ができるわけないよ……お父様……」
9: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:13:45.11 ID:y0dnDrxK0
―――魔王城付近 勇者キャンプ―――
勇者「今更国に帰れだって?」
使者「そうです。もうじき戦争は終わるのです」
使者「幸の国王様が『停戦協定』を魔王軍と結びなさると……」
勇者「停戦協定?」
戦士「おいこら! ここまできてノコノコ帰れってのか!」
魔法使い「それは少し理不尽なのでは」
僧侶「そうですそうです! 私たちは平和のために命を懸けてここまで辛い道をたどってきたんですよ!」
使者「ですが、決まったものはどうしようもなくてですね……」
使者「かの『死の谷』でさえ、ここまで私が無事で来れるほど魔王軍は弱体化しているんです」
使者「もう十分平和は訪れますよ」
10: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:14:54.02 ID:y0dnDrxK0
勇者「そうだな……少しでも平和に解決してくれるならそれ以上のことは無い……」
戦士「おい! 怖気づいたのか勇者さんよぉ!?」
魔法使い「まあ抑えなさい戦士」シュパー
魔法使いはお口チャック魔法をかけた。
戦士は話せなくなった。
戦士「むぐぅ……」モゴモゴ
勇者「でも、それで国民は満足するのか?」
勇者「家族や親友を魔族に殺されたような人々もいるだろう」
勇者「僕らはともかく、協調するなんて難しいんじゃないのか」
11: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/16(日) 01:15:19.44 ID:y0dnDrxK0
使者「はい……その点も国王様の御考えのうちです」
使者「つきましては、勇者様に協定調印式の招待状が来ております」
使者「必ず出席せよとのことです」
勇者「分かった。詳しい話は直接聞こう」
勇者「今夜はこのパーティ最後の夜に、祝杯でも挙げておこうか」
魔法使い「そうね」
僧侶「こんな突然なんて……まだ信じられないです」
戦士「モゴモゴ」
使者「では、私はこれにて」
18: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:23:20.33 ID:NZsRgXWH0
―――夜 魔族領から最も近い国花の国 最寄りの町の酒場―――
勇者「それじゃあ、乾杯」
戦士「乾杯!」
僧侶「……乾杯」
魔法使い「乾杯」
カチン
勇者「みんな今までありがとう」
勇者「これからは皆で平和な世を生きていくんだ」
勇者「これほど嬉しいことは無い」
僧侶「そうですけども……」
19: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:24:15.60 ID:NZsRgXWH0
勇者「そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
勇者「僕らは元々平和のために戦っていたんだ」
勇者「どんな形であれ、平和が訪れることは僕らの本望なんだから」
戦士「勇者の言うとおりだ。ここで旅を終えるということは逆に喜ぶべきことなのかもしれんぞ」
魔法使い「まあ、戦士にしては珍しくまともなことをいうのね」
戦士「珍しくは余計だ」
僧侶「そうですね……」
僧侶「いつかはこの旅も終わりが訪れるものですもんね……」
勇者「まあ仕方ないさ。僕達は4人で1人みたいなものだ」
勇者「僕だって名残惜しいところはある」
20: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:24:56.82 ID:NZsRgXWH0
魔法使い「ところで、これからはどうするつもりなの?」
勇者「そうだな……」
勇者「あの幸の国王のことだ。僕が帰れば、僕の政治手腕を恐れて左遷でもするつもりだろう」
戦士「昔から戦闘の才能はヘボのくせに、戦術の才能はピカイチなんだもんな」
戦士「ま、それも名参謀僧侶閣下がいてのことだが」
勇者「しーっ!」
勇者「そうなったら、新しい国を作ろうと思う」
僧侶「新しい国?」
魔法使い「もう13もあるみたいだけど」
戦士「そいつはでかい夢だな」ハハハ
勇者「まあね。でも本気さ」
21: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:26:05.19 ID:NZsRgXWH0
勇者「停戦協定を結んで、魔族と人間が協調し合おうとしても、なかなか難しい部分はあると思うんだ」
勇者「だから、僕はその先駆けとして魔族と人間がともに平等に暮らせる国を作る」
勇者「本当の永遠なる平和を実現するためにね」
戦士「……全く。お前が言うと本当にできそうな気がしちまうよ」
僧侶「そうですね!そこまで考えているなんてやっぱり素敵です!」
魔法使い「やるじゃないの。でも、最大国幸の国と、大国奇術の国、魔術の国がそれを許すかしらね」
勇者「まあ問題はそこだろうね。でも、ちゃんと考えてある」
勇者「戦士はこのままついてきてほしいんだ」
戦士「俺は親友と夢のあるところへ歩んでいくつもりだぜ」
戦士「そのかわり、ガッカリさせようものならこの手で叩き切ってやるからな」
勇者「ありがとう」
22: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:27:15.66 ID:NZsRgXWH0
勇者「そして、他の2人は一旦故郷へ戻った方がいいだろう」
勇者「可能ならば再び合流してほしい」
僧侶「そうですね……私は奇術の国に家族もいますし……」シュン
僧侶「これ以上心配をかけるわけにはいきませんね」
魔法使い「ま、あの魔術国国王のことだし……戻るのに時間はかからないわね」
勇者「うん。それじゃあ必ずまた会おう」
僧侶「はい!また必ず!」
勇者「僧侶にはわざわざ奇術の国出身なのに魔術を学んでもらって苦労を掛けさせてしまったな」
僧侶「いえいえとんでもない!奇術は『エネルギー』がないと何にも役に立ちませんから……」
23: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:27:50.16 ID:NZsRgXWH0
勇者「それに、僕の戦術も補佐兼参謀役の君があってこそだった」
勇者「戦術、魔術、そして奇術。是非帰っても、僕らの下へ戻ってきてもその才能を生かしてほしい」
僧侶「そんな……大したものでは……」
魔法使い「あら、あの町づくりの時のあなたの顔ったら見たこともないくらい生き生きしてたじゃない」
僧侶「それはですね……」
戦士「ふん。別れ言葉ってのは似合わねーんでな。そろそろお暇にしようじゃねーか」
勇者「そうだね。それじゃあ皆。しばし平和を楽しもう!」
24: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:34:46.26 ID:NZsRgXWH0
―――しばらく後 幸の国 王城前広場 停戦協定調印式―――
魔王軍は戦闘を一切放棄し、人間と魔族との戦争は終結した。
そしてその後、調印式にはあらゆる国の人間と、魔族が集った。
彼らはお互いに睨み合っていたが、中には握手を求める商人などもちらほら見られた。
世界中の皆が、この新しい時代への扉に興味津々であったのだ。
ワーワー!
ヘイワバンザイ!
幸の国王「皆の衆!」
幸の国王「我らはこれより新たな時代の幕を引く!」
幸の国王「魔族と人間の戦いはここを持って永遠に廃されるのである!」
ワーワー!
25: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:36:03.45 ID:NZsRgXWH0
幸の国王「それではまず、我と魔族の第二権力者である側近殿により、停戦協定条項への調印を行う」
幸の国王「側近殿、前へ」
側近「はい」スクッ
テクテク
幸の国王「今一度協定条項へのお目通しを願う」
26: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:36:29.16 ID:NZsRgXWH0
第一条、『百年戦争』の終結を誓い、人間族と魔族は未来永劫戦いを廃する
第二条、人間族諸侯国は元魔王軍領地を『魔国』として承認する
第三条、両族は協調を旨とする。いかなる場合であっても両族を差別、中傷しない
第四条、幸の国は国内に魔族の居住区を建設する
第五条、両族は経済において提携する
第六条、魔国復興のため、復興省を設置し、人間族が魔国を保護する。
27: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:38:44.60 ID:NZsRgXWH0
側近「……」
側近「よろしいでしょう」ガシッ
幸の国王「うむ」ガシッ
ワーワー!
幸の国王「理解、感謝する」
幸の国王「では次に、両族対立の象徴である『勇者と魔王』両者による和睦を誓っていただく」
幸の国王「勇者殿、魔王殿、共に前で握手を!」
28: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:39:11.51 ID:NZsRgXWH0
魔王「……」スクッ
魔王「……」スタスタ
勇者「……」テクテク
勇者「よろしく」ニコッ
サッ
魔王「……」チラッ
ガシッ
ワーワー!
29: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:40:12.38 ID:NZsRgXWH0
幸の国王「これにて人間族と魔族の争いの壁は完全に消え失せた!」
幸の国王「両族の永遠なる繁栄を祈ろうではないか!」
ワーワー!
ワーワー!
魔国万歳!
平和万歳!!!!
30: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/17(月) 00:41:15.38 ID:NZsRgXWH0
―――――――
―――――
―――
魔族と人間に平和が訪れた!
時は陰謀渦巻く時代へ。
伝説は再び訪れる。
人間族と魔族と、そしてもう一族の新たな物語!
37: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:24:28.17 ID:KAu99vN80
―――調印式後 幸の国城 玉座―――
勇者「国王陛下! 度重なる御恩と援助にこの上ない感謝を申し上げます」
幸の国王「ガハハ! そうかたくなるな勇者殿。崩してよいぞ」
勇者「ありがとうございます」
幸の国王「長旅による魔王軍討伐、実にご苦労だった」
幸の国王「この平和の訪れも、卿あってのことである。誠に感謝いたすぞ」
勇者「いえいえ私などは……」
38: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:25:07.45 ID:KAu99vN80
幸の国王「ついてだが……勇者殿の禄について諸臣と討議した結果、北部の手つかずの土地を勇者殿に差し上げることに決定した」
勇者(ほら来た! しかし『手つかずの土地』とはまたおしゃれな修飾だな……)
勇者(『公式な』人口は皆無。土地もボロボロのただの荒れ地だというのに)
勇者(しかし、それがまた好都合だね)
勇者「ははっ。ありがたき幸せに存じます」
幸の国王「うむ。それでは、近いうちにこの国を発ち、その土地を開拓してほしい」
幸の国王「勇者殿の政治手腕には我らも期待しておる」
幸の国王「頼んだぞ」
勇者「御意」
39: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:26:05.41 ID:KAu99vN80
―――…
戦士「はははは。で、予想通り飛ばされたってわけか」
勇者「そういうことだね」
勇者「特に条件も付けてこなかったし、僕にとってはかなりの好都合だろう」
勇者「明日にはここを発とうと思う」
戦士「あいよ。準備ならいつでもできてるぜ」
戦士「俺も幸の国憲兵総官とやらを断ってやったんだからな」
戦士「感謝しろよエリートさんよー」
勇者「ははは。そんな暇そうな仕事は戦士には似合わないだろ」
40: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:27:03.78 ID:KAu99vN80
勇者「居眠りですぐにクビになるのがオチさ」
戦士「お、言ってくれるじゃないか」
戦士「どうだ久々に一太刀やろうじゃねえか」ジャキン
勇者「よしてくれよこんな城の中で」
勇者「あっちにいったら十二分に仕事も増えるんだから」
戦士「チッ。ここのところはお預けにしといてやる」チン
戦士「ところで仕事が増えるってのは、ある程度やることが決まっているってことのようだが?」
勇者「まあね。まああまりここだと大きな声で言えないから、近くなったら話すことにしよう」
戦士「いいだろう。あーあ全く暇だな。一眠りでもしてくるか」スタスタ
勇者「はいはい」クスクス
41: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:31:15.53 ID:KAu99vN80
―――魔術の国 首都―――
魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。魔法使い殿、貴女には是非魔法大学校の校長を務めていただきたい」
魔術国王「前任の校長が老衰してしもうてのぅ。そろそろ引退したいと申しておるのじゃ」
魔術国王「魔術国王、魔法省長官、魔法大学校校長、魔術連合軍総司令官の『四賢人』であっても、老いにはどうしても勝てぬのでな」
魔術国王「少々お若いが、魔法学の権威として貴方に最先端を担って頂きたいのじゃ」
魔法使い「それは大変名誉な位ですわ。私には勿体ないほどのね」
42: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:31:59.74 ID:KAu99vN80
魔法使い「是非お受けしたい、と申し上げたいけれど」
魔法使い「もう少し私にはやることがありますので、その話は保留にしておいてくださらないかしら」
魔法使い「心配しなくても私は100年や200年じゃ老いぼれませんからね」
魔術国王「ほう……そうか。それは残念じゃな」
魔術国王「奇術の国との戦争がまたすぐに始まるじゃろう」
魔術国王「貴方にはその司令官としても活躍してもらいたかったのじゃが……」
魔法使い「お言葉ですが陛下。私たちは人間族の平和のために戦う身ですの」
魔法使い「人間同士の戦いに加わる気は、さらさらないことをここで申し上げておきますわね」
43: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:32:46.25 ID:KAu99vN80
魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。それでこそ勇者一行様じゃのう」
魔術国王「それはよいのじゃが、このあと貴方はどうするおつもりかな」
魔法使い「そうね。陛下は、先日勇者が北の荒れ地に飛ばされたことをご存知ですかしら」
魔術国王「んむ。それは知っておるぞ」
魔術国王「勇者殿も御足労なことじゃ」
魔法使い「彼は、きっと我ら魔術国連合の助けを必要とされるでしょう」
44: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:33:16.44 ID:KAu99vN80
魔法使い「私を外務省の使者としてその土地へ派遣していただきたいのです」
魔術国王「ふむ……よいじゃろう」
魔術国王「あの土地は『百年戦争』中も、我が連合と奇術国連合が幾度となく取り合ってきた土地じゃ」
魔術国王「奇術の国に手出しをさせるわけにもいかんじゃろう」
魔術国王「ぜひその魔の手から勇者殿をお救いするのじゃ」
魔法使い「ありがとうございます陛下」
45: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:34:27.52 ID:KAu99vN80
ここから文字数が激増します
いわゆる設定説明というやつです
46: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:35:55.58 ID:KAu99vN80
―――魔術国中央大図書館―――
魔法使い「ここも久しぶりに来たわね……」
魔法使い「遠視魔法で旅の途中も欠かさず本を読んでいたものだけど、暇を利用してもうちょっと歴史のことでも学んでおこうかしら」
魔法使い「有効な戦略のヒントも見つかるかもしれないわね」
スタスタスタ
魔法使い「これがいいかしら」
47: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:37:51.62 ID:KAu99vN80
『魔法大歴史時勢全集』
パラ
『この歴史時勢全集は、著作者の魔力により自動的に歴史や時勢が記録更新される全集である。
著作に当たって私第29代魔法大学校校長は大賢者殿より魂を移す魔法を……』
魔法使い「能書きは良いわね」パラパラ
48: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:39:18.82 ID:KAu99vN80
【魔術の国は、その名の通り、古来から魔法によって栄えた王国である。
そして、魔術の国は、5つの中小国を傘下に置き、『魔術国連合』を形成している。
魔術の国各最高機関の長官である『四賢人』は、その中でも卓越した魔力を有する実力者であり、かつて魔族の大軍をたった四人で薙ぎ払ったとも言われている。
それについて、数多くの魔法の作成を手がけたかの大賢者はこう記している
大賢者「やっぱり、下からより上からの方が怖いよね。いや割とマジで」】
魔法使い「相変わらず適当な爺ね。奇術の国や幸の国はどうかしら。何か有益なことが書いてあるといいけど」パラパラ
49: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:40:51.65 ID:KAu99vN80
【奇術の国、とは魔術の国と対比して付けられた俗称である。実際は『科学の国』と言った方が正しい。
こちらも傘下に5つの中小国を置き、奇術国連合を形成している。
国家のシステムも他の勢力とはかなり異なっている。
まず、その本体は、政治から産業、市場までを担う巨大な企業の集合体『企業連合』であり、それを理事長以下で構成される理事会が支配している。】
魔法使い「どうしてここまで別次元のような国家が同時に成立しているのかしらね。そこを書くべきじゃないかしら」パラパラ
50: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:41:57.08 ID:KAu99vN80
【幸の国は魔術奇術両連合とは独立した、人間族諸侯国の中で最大の国家である。
ひとたび魔族が勢いをつけたときには、人間族を統括したり、勇者を輩出して魔王討伐に当てたりなど、
割と重要な役目を担ってきた由緒正しい国である。
『幸の国』という名称はその充実した社会福祉制度に由来するとも言われている。】
魔法使い「全く、どれもこれもありきたりなことばかりね」パラパラ
魔法使い「これは、『百年戦争』かしら」
51: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:45:18.80 ID:KAu99vN80
【『百年戦争』とは、100年前に勃発した魔族と人間族の戦争である。先代魔王は政治的工作に特に優れており、戦わずして勝利を勝ち取る戦法を得意としていた。
勇者に対しても、仲間割れによって自殺に追い込む等して6人もの勇者を撃退している。
しかし、7人目の勇者が魔国に入った二年後先代魔王は突然死去。その後百年戦争は実質的に魔王軍の敗北をもって終結を迎えることになった。
だが、先sbふぇvvんbヴぃびvぶああscをえtgfぅdgbvるいbvglwりbふ】
52: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:45:47.67 ID:KAu99vN80
魔法使い「なにかしら……更新中ってやつなのかしら?」
魔法使い「誰かのいたずらかもしれないわね」ハァ
魔法使い「まあいいわ。あんまり大したことも書かれてなかったわね」ボスッ
魔法使い「これくらいにしておきましょうか」
スタスタ
53: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:48:05.76 ID:KAu99vN80
てなわけで文字数がかさんだのでここまでにします。設定説明は必要最小限にまで
削ったので少々不足気味かもしれません。
最後におまけで地図を載せておきます。紙クオリティーなので参考までに。
火とかは首都の位置を示しているイメージです。連合内国境は省略してあります。
54: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:48:45.97 ID:KAu99vN80
55: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 00:54:49.55 ID:KAu99vN80
あ、言い忘れていましたが
奇術国連合は電気の国、光の国、銅の国、銀の国、金の国
魔術国連合は花の国 、火の国、水の国、森の国、風の国 で構成されています
いちいち説明多くて申し訳ないです。てかぶっちゃけ一切出てこない国とかあります
58: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/19(水) 01:05:34.66 ID:dmb/8tqo0
乙
文明レベルはどのくらいですかい?
これから説明あるならスルーでいいけど
59: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 23:52:54.62 ID:KAu99vN80
>>58 基本的な文明レベルは現代〜近未来とします。
本文言及がないので説明しておくと戦闘機などの飛び道具は条約で生産禁止されているということになっています。
あまり兵器に詳しくないということもあってそういう系はなるたけカットしましたので悪しからず。
そして、魔法でできることは粗方違う形で科学でもできる。逆もまた然りということで。
大体これが文明の基準と言ってもいいです。かなりあやふやですが……追々説明していきます。
例えば、蘇生魔法はなしです。転移魔法はグレーゾーンなので後述します。
この辺は矛盾やらなんやらが非常に起きやすいのでなるべく慎重にこの世界観に合わせて噛み砕いていきますが、
もしやらかしていたら指摘、質問してくださると嬉しいです。
そして細かいところは大目に見て頂けるとありがたいです。
長レス失礼しました
60: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 23:55:09.31 ID:KAu99vN80
―――奇術の国 首都 企業連合本社ビル 理事長室―――
僧侶「私に一体何のご用でしょうか理事長」
僧侶「私なぞには功績も何もありませんが……」
理事長「まあそう卑下なさらないでください」
理事長「貴女には十分な功績と実力があるんですからね。この国で唯一魔法まで使えるお方だ。
もっと自信を持った方がいいですよ」
理事長「折角の容貌がそれではもったいありません」
僧侶「はぁ……」
理事長「無駄話はこのくらいにして、単刀直入に言いますと」
理事長「貴女を光の国軍の大隊参謀長に任命し、准将の位を与えます」
61: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 23:55:43.57 ID:KAu99vN80
理事長「一度家族の下へでも赴いたら、然る後に光の国へ行ってください」
僧侶「なな!? 参謀長にですか!?」
理事長「不満足ですか? 貴女の参謀としての功績は重々承知していますが、さすがにいきなりこれ以上の位を与えるとなると……」
理事長「しかし、貴女の功績は大々的に報じられていますし、軍の方々に白い目で見られることも、あまりないでしょう」
僧侶「そんな! 私には過大すぎます!」
僧侶「それに、戦争に、人殺しに参加するなど私には……」
僧侶「辞退させてください!」
62: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 23:57:30.99 ID:KAu99vN80
理事長「何を言うのですか。貴女はあくまで戦術をもって司令官に助言するだけでいいのです」
理事長「決して貴女が直接手を下すわけではありません」
理事長「犠牲の出ない作戦を作るのも貴女の自由なのですよ」
僧侶「そういう問題ではありません!」
僧侶「それに、私はまた勇者様のところへ戻るつもりです」
理事長「ほう? あの荒れ地にですか」
理事長「それなら余計辞退させるわけにはいきませんね」
僧侶「えっ? どういうことですか?」
63: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 23:59:21.47 ID:KAu99vN80
理事長「戦術の秀才である貴女なら分かるでしょう?」
理事長「魔術の国は確実に勇者様への援助を口実にして、北部の荒れ地を手に入れることでしょう」
理事長「そうなれば多大な資源を失った上に、私たちは重要な拠点を無条件で失うことになるのです」
僧侶「それは確かに……そうですが……」
僧侶「あの北部の荒れ地は戦略的要所ですからね……」
理事長「そういうことです。ここで貴女が残らなければ、奇術の国は滅び、貴方の家族は死に絶え、
貴女も国を捨てた売国奴として死後も呪われることになるかもしれません」
理事長「その方が結果的に犠牲は多くなってしまいます」
僧侶「しかし……」
64: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/19(水) 23:59:59.21 ID:KAu99vN80
理事長「それに、人殺しには参加しないということでしたが、魔族との戦いはどうだったのですか?」
僧侶「う、それは……」
理事長「魔族は長年我らと対峙してきた敵であるとはいえ、彼らにも感情や正義という物がなかったわけではないでしょう」
理事長「実際に魔国へと赴いた貴女なら分かるはずです」
理事長「そんな彼らを討つのと人を殺すのとで一体何の違いがあるのでしょうか」
理事長「貴方はもうとっくに覚悟したはずです。魔族のことを身近で見たときに、彼らは人と何も変わりはしないと」
僧侶「……」
65: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/20(木) 00:00:56.31 ID:wvwkUyFB0
理事長「それでも承諾していただけないというならば、私も貴女の家族の安全は保障しかねてしまいますね」
僧侶「……!」
僧侶「そんな……」
理事長「それに、こう考えてみてはどうですか?」
理事長「貴女が軍の中で勢力を拡大し、私達から権力を奪ってしまえばよいのです」
理事長「貴女への支持は十二分に集中していますからね」
66: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/20(木) 00:01:43.54 ID:wvwkUyFB0
理事長「さすれば、平和も協調も勇者への援助も貴女の自由です」
僧侶「理事長!?一体何を……?」
理事長「ここまでできる方なら、私も心置きなく理事長の座など譲って差し上げますよ」
理事長「人の心なんてものはすぐに移り変わっていくものです」
理事長「いつでもお待ちしておりますよ」ニコッ
僧侶「……失礼します」
バタン
67: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/20(木) 00:02:40.35 ID:wvwkUyFB0
―――…
僧侶「折角人を救うために僧侶になったというのに……」
僧侶「結局は逆の立場になってしまうなんて……皮肉なものです……」
僧侶「でも、どうしようもありませんね」ハァ
僧侶「こうなったら、理事長の言う通り、精一杯犠牲を減らして、血を流さない作戦を作らなければ」
僧侶「神は私に新たな使命を授けなさったのでしょうか……」
僧侶「私は私の道で勇者様をお助けしなければ!」グッ
タタタッ
68: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/20(木) 00:03:57.22 ID:wvwkUyFB0
―――…
ガチャ バタン
軍務理事「あちゃー。聞いてましたよ今の会話」
軍務理事「理事長も過激な発言が過ぎますぜ」
理事長「あれくらい言わないと彼女は動きませんよ」
理事長「わざわざ聖職者の道を選ぶ方なんですからね」
軍務理事「それにしても理事長もお人が悪い方だ」
軍務理事「そう分かっているなら、自由にさせてあげればいいんじゃないですかい」
理事長「そうはいきません。彼女は必ずこの危機を救う光となるでしょうからね」
69: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/20(木) 00:04:25.69 ID:wvwkUyFB0
理事長「いわば私の先行投資というやつです」
軍務理事「危機ねぇ……無い頭なんぞ持つもんじゃありませんなぁ」
軍務理事「本当に彼女は我々を倒しに来るんでしょうかねえ」
理事長「必ず来ますよ」
理事長「彼女にその気がなくても私がそうさせますから」フフフ
軍務理事「なんと、つくづく恐ろしいお方だ」ハハハ
その後、僧侶は還俗し、軍人として新たな人生を開くことを決意した。
70: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/20(木) 00:05:15.80 ID:wvwkUyFB0
――――――
こうして、勇者一行の新たな物語は始まった。
彼らの運命が一体どうなっていくのか。そして、歴史はどう動いていくのか。
知り得る者は、どこにも存在していないのだった。
プロローグ END
71: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/20(木) 00:07:16.50 ID:wvwkUyFB0
ということでプロローグ終わりです
物語の都合上役職がコロコロ変わることがあるので、その時はその時で対応します。
この場合僧侶は還俗しましたがこの後も名前は僧侶として読んだり左端に書いたりします。
75: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:21:56.06 ID:vMEtHPy20
―――翌日 幸の国首都中央駅―――
勇者「特急の蒸気機関車なんて初めて乗るなぁ」
戦士「そりゃあそうだろう。切符は高すぎて、貧しかった俺達にゃあ手が出せなかったんだからな」
勇者「そうだね。今回は幸の国王のお陰でタダだし、このまま国境まで行ってしまおう」
勇者「その後は馬で行くしかないね」
戦士「魔術国連合はまだ鉄道の開通を拒否しているのか? まったく頭の堅い奴らだ」
勇者「まあ彼らには空飛ぶ箒もあるし、わざわざ敵国の技術を取り入れるまでもないんだろう」
戦士「『彼ら』にはあるかもしれんが、『俺ら』には無いんだからな。全く不便なものだよ」プンスカ
ポッポー
勇者「お、来た来た」
戦士「さーて、出発だな!」
76: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:23:02.23 ID:vMEtHPy20
―――1か月後 花の国 王城―――
奇術国連合と魔術国連合の開戦が勇者に伝わったのは、北の荒れ地に入る直前、花の国王に謁見し、挨拶をした時であった。
もちろん勇者はこのことを予期していたため、特に驚きはなかった。
花の国王「勇者殿、戦士殿、長旅真に御足労でありましたねはい」
花の国王「魔族との戦時中に、この国が救われたのも勇者殿とその御一行のおかげなんですねはい」
花の国王「重ねてお礼を申し上げるんですねはい」
勇者「ありがとうございます」
花の国王「勇者殿が発展させてくださったあの大都市もですね、勇者殿を称えて『勇者市』と新たに名付けたいと申しているんですねはい」
77: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:23:39.17 ID:vMEtHPy20
戦士「(こいつはセンスのねぇ名前だな。傑作だ)」クスクス
勇者「(こら。聞こえてるよ)」ツン
勇者「ははっ。誠にありがたきことであります」
花の国王「ところでですね。再び奇術の国との戦争が始まりましたのでですね、護衛の者を派遣したいと思っているんですがねはい」
勇者「もう始まりましたか。戦地は何処でしょうか」
花の国王「火の国と光の国の国境付近と聞いているんですねはい」
78: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:24:19.53 ID:vMEtHPy20
勇者「ありがとうございます。護衛については、後々こちらから要請させていただきますので」
花の国王「分かったんですねはい」
花の国王「北の荒れ地と言えば、ここいら一帯を騒がせているあの『半魔盗賊団』の本拠地が存在しているということですからねはい」
花の国王「そちらも十分注意していただきたいんですねはい」
勇者「大丈夫ですよ。私たちは魔王軍を圧倒した『勇者一行』ですからね」
花の国王「これは失礼したんですねはい」
花の国王「心配はご無用のようですねはい」
勇者「それでは失礼いたします」
79: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:25:39.79 ID:vMEtHPy20
―――3日後 花の国=北部荒れ地国境付近の村―――
パカラッパカラッ
戦士「さーて、そろそろ馬の旅も終わりだな勇者」
戦士「一休みでもして、これからの予定をお聞かせ願おうじゃないか」
勇者「そうだね。ここまでくれば変な監視もうかつには近づけないだろう」
80: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:27:10.02 ID:vMEtHPy20
―――…
戦士「ふう。それにしても、荒れ地との国境という割には、やけに賑わっているような気がするが」
勇者「そりゃあそうさ。あらかじめ僕がこれから、この荒れ地を三角貿易の拠点にするという噂を流しておいたんだ」
勇者「この前の帰り際に、勇者市の市長に協力をお願いしたら快く承諾してくれたよ」
戦士「なるほど、それで人を集めようってのか。手の込んだ奴だな」チッ
勇者「誉め言葉として受けとっておくよ」
勇者「まあ、これで町作りの基礎は何とかなるだろうね」
81: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:27:55.72 ID:vMEtHPy20
勇者「商人や銀行はすぐにでも進出してくるだろう」
勇者「それじゃあこれからの仕事を説明しよう」
戦士「おう」
勇者「僕らはこれから『半魔盗賊団』のアジトへと直接出向くことにする」
戦士「おぉっ、これは久々の戦闘の予感!?」
勇者「残念だけど今回はお預けだね」
勇者「僕らは『半魔盗賊団』と和睦を結ぶのさ」
勇者「そして、これからの国作りに協力してもらうんだ」
82: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:28:40.69 ID:vMEtHPy20
戦士「和睦ゥー?」
戦士「そんなの可能なのかよ」
勇者「魔族と人間とが和睦を結べたんだ。いわんや魔族と人間の混血である半魔をや、だよ」
戦士「なーるほど……」
戦士「勇者がその口と舌で上手くちょろまかすって寸法だな?」クスクス
勇者「ちょろまかすとはまた失礼な言いようだね」プンスカ
勇者「僕の目標は、人間と魔族が共に暮らす国を作ることだよ」
勇者「その先駆けとして、半人半魔の彼らと手を結ぶのは当然のことさ」
83: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:29:36.40 ID:vMEtHPy20
勇者「後々は、人間族魔族間協調の象徴となってくれるだろう」
戦士「ふむ。確かにそうだな」
勇者「それに、少し調べてみたんだけど……」
勇者「その『半魔盗賊団』の首領はかなり頭のキレる半魔らしいんだ」
勇者「少なくとも物分りはいいはずだよ」
戦士「ははっ、勇者と半魔の知恵比べとは必見だな」
84: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/21(金) 00:30:17.29 ID:vMEtHPy20
戦士「こりゃあおつまみでも持っていくかな」
勇者「勝手にどうぞ。せいぜい戦士がおつまみにならないようにね」
戦士「そりゃこっちのセリフだ」ハハハ
勇者「さて、じゃあ今日はこの村で一泊していこうか」
勇者「用意するものは用意してしまおう」
戦士「はいよ」
86: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/03/21(金) 09:09:53.50 ID:cJ7wI9Hto
乙ー
この勇者頭いいな、そんじょそこらの脳筋勇者とは訳が違うぜ!
90: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:47:30.28 ID:jkKtgdy40
―――翌日 北部荒れ地―――
戦士「やっぱり中に入ってみると、酷くさびれているもんだな」
勇者「そうだね。魔族領、奇術国連合、魔術国連合の間にあって幾度とない戦火にさらされ、多くの血が流れてきた場所だ」
勇者「こんなところに住もうなんて、普通の人間なら到底思わないだろう。魔族ですらそうなんだから」
戦士「恐ろしや恐ろしや。そんな土地で国を作るなんて、ひどくばちあたりなもんだな勇者さんよ」
勇者「そんなことはないさ」
勇者「僕はこの土地こそが国作りに最適だと思っているよ」
91: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:48:40.15 ID:jkKtgdy40
勇者「ここから本当の平和と協調が始まっていけば、ここで流れた全ての血に対して慰霊の意にもなる」
勇者「流したくて流した血なんて一滴もありやしないんだから」
戦士「ほう。勇者にはロマンチストの精神も備わっていると見える」
戦士「じゃあ俺は、ここで自滅救済魔法でも唱えてみるかな」
戦士「そうすれば化けて出る権利がもらえるんだろう?」
勇者「君は魔法を使えないだろうに」
戦士「ぐ、流石鋭いな……」
92: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:49:11.33 ID:jkKtgdy40
勇者「しかし最近、屁理屈の腕が上がってきてるんじゃないかい?」
戦士「さあな。剣術の鍛錬が不足気味で、暇だからかもな」
勇者「君にもひねくれ者の素質がありそうだね」
戦士「魔法使いと一緒にするなよ。俺はあくまで剣と戦いを愛する男。ただそれだけだぜ」
勇者「君の方がよっぽどロマンチストじゃないか……」
勇者「お、あれは……?」
戦士「建物らしきものが見えるな」
勇者「盗賊団の基地かも知れない。いってみよう」
93: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:50:19.40 ID:jkKtgdy40
―――半魔盗賊団 小規模拠点の村 出入り口の門―――
監視役1「おい、聞いたか?勇者がこの荒れ地にやってくるらしいぜ」
監視役2「聞いた聞いた。どうも国作りをするんだってな」
監視役1「どうするんだよ……このままじゃあ盗賊団が壊滅させられちまうんじゃねえのか?」
監視役2「どうもこうも、戦って勇者を倒すしかないだろ」
監視役2「勇者とは言えど所詮は人間だ。半魔の俺達に勝てるわけがない」
監視役1「そりゃあそうだな。もし俺たちが倒しちまったら、団長にたんまりと褒美を頂けるだろうよ!」
監視役2「そうなれば、幹部昇進支部長就任!」
監視役1・2「イイカンジー!」
94: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:50:59.48 ID:jkKtgdy40
監視役1「ん?誰かいるぞ」
監視役2「本当だ。西部支部のやつらかな?」
監視役2「あいつら、一昨日電気の国へ盗みを働きに行ったんだが、そこで軍にコテンパンにされたらしいしな」
監視役1「ハハハハハ! あの奇術国軍とやりあったとはな! こいつは傑作だ」
監視役1「でもおかしいぞ。どうも人間っぽい姿をしているようだが」
監視役2「あたりまえだろ! ここは『半魔盗賊団』の基地だぜ。多少人間っぽいやつくらいいくらでもいるわ、この間抜けめ」
監視役1「そりゃそうか! ハハハハハ」
95: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:51:51.16 ID:jkKtgdy40
勇者「おーい。そこのやぐらの上にいるお2人さん」
監視役2「なんだ? お前ら、西部支部のやつらか?」
勇者(西部支部?)
戦士「(俺達、半魔盗賊団の一員だと思われているみたいだぜ)」
勇者「(当然さ。半人半魔の集まりなんだ。人間っぽい姿をしている半魔がいてもおかしくは無いさ)」
勇者(しかしここは敢えて堂々と行こう)
勇者「いや、僕は勇者だ。彼は戦士。ここは半魔盗賊団のアジトか?」
監視役1・2「!!!」
96: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:53:19.32 ID:jkKtgdy40
監視役1「ゆ、勇者だと!!??」
監視役2「おい、まずいぞ、早く基地長と南部支部長へ報告しに行け!」
監視役2「ここは俺に任せろ! 手柄は俺のものだ!」
監視役1「ふざけるな! お前こそ報告に行け!」
ボカスカ
勇者(『基地長』、『西部支部』、『南部支部長』……これはかなり組織の統制が上手くなされているようだね。予想以上だ)
勇者「なんだか喧嘩が始まったみたいだ……」
97: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:54:03.67 ID:jkKtgdy40
戦士「おいおいおいおい!俺達も舐められたもんだなぁ」
戦士「その中途半端な身なり、叩き切ってくれr」
勇者「戦士、抑えて」シュパー
勇者は、戦士にお口チャック魔法をかけた。
戦士「モゴモゴ」
勇者「おーい、僕らに君たちと争う気はない!」
勇者「僕達は半魔盗賊団のボスに用があるんだ」
98: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:54:54.24 ID:jkKtgdy40
監視役1「なんだと!?」
監視役2「そんなことを言って、俺達を騙して皆殺しにしようっていうんだろう!」
勇者「これは大分勘違いをされているみたいだね」
戦士「モゴモゴ」
勇者「僕についてどういう噂が流れているのか知らないけれど、僕はここに人間と魔族の共に暮らせる国を作ろうと思うんだ!」
勇者「だから、君たちとは戦わない!」
監視役1「嘘だ嘘だ!惑わされるな!」
監視役2「ええい、こうなったら手柄はいただくぜ」
監視役2「氷結まほ……」
99: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:56:33.26 ID:jkKtgdy40
ガチャ
?「お止めなさい!話は聞いていました」
門横の小さい扉から、ほとんど人間の女性のような容姿をした半魔が現れた。
監視役1「はっ!基地長!」
基地長「これだから下級団員は……」
基地長「失礼しました勇者様。団長から、勇者様がいらっしゃった場合は本部に案内せよ、との命令がでております」
基地長「一度南部支部を経由してから、本部へと案内します」
100: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/22(土) 01:57:35.45 ID:jkKtgdy40
基地長「こちらへどうぞ。乗り物もありますので」
勇者(さすがに末端構成員までの統率は困難か……)
勇者(とはいえ、一盗賊団にしては見事な統率システムだ)
勇者(『団長』の知略は侮れないな)
勇者「ありがとう」
戦士「モゴモゴモゴ」
ザッザッザッ
その後勇者は、数時間かけて南部支部へと案内された。
108: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:20:18.41 ID:5KoL/AUY0
―――北部荒れ地 半魔盗賊団南部支部―――
基地長「支部長、ただ今勇者様をお連れしました」
南部支部は小さな町のようになっていて、機能こそ基地であったが、商店や宿なども多少存在しているようだった。
そして、奇術国連合や魔術国連合領から奪ってきた品物をそこかしこに見ることができた。
南部支部長も人間に近い容姿をしていた。しかし、基地長ほどでもなく、一目見ただけでもさすがに人間でないことは判別が可能だった。
南部支部長「ごくろうだった基地長。一度休息をとっていいぞ。この後も本部への案内を頼む」
109: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:21:08.75 ID:5KoL/AUY0
基地長「はっ」
ササゥ
南部支部長「これは勇者様。こんなさびれた地へよくいらっしゃいました」
南部支部長「団長からは篤く遇せよとの仰せをいただいております」
南部支部長「先刻は下級の団員が無礼を働いたことをお詫び申し上げます」
勇者(なるほど……やはり団長は僕らと戦っても無益だということを承知して歓迎するように命令していたんだろう)
勇者(とはいえ、安々と本拠地を売り渡すわけもないだろうな……)
勇者(何か企んでいるかな?)
110: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:21:51.59 ID:5KoL/AUY0
戦士「ったく。俺達をめぐって手柄争いとは、歓迎も甚だしいもんだな」
戦士「勇者の首に100万、俺の首に1億の金でもかかってるのか?」
勇者(100倍はないだろ100倍は)ツン
戦士(100倍はあるだろ100倍は)チク
南部支部長「いえいえ、まったくそんなことはございません」
南部支部長「下級団員の間の噂が誇張された結果に他なりますまい」
南部支部長「どうか気を害されないでいただきたいのです」
111: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:22:24.01 ID:5KoL/AUY0
勇者「わかった、こちらもそこまで気にしていないよ」
南部支部長「それはよかった」
南部支部長「それでは勇者様、今日はここで休んでいってください」
南部支部長「本部まではもう少しかかりますので」
勇者「ありがとう」
戦士「(寝こみを襲ったりしないだろうな)」
勇者「(はは。君の寝相なら、寝こみを襲われても刺客の一人や二人、バッサリ斬り倒しちゃうんだろ)」
戦士「(お、お前が素直に誉めるなんて珍しいな)」
勇者「(誉めてない誉めてない)」
112: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:23:14.04 ID:5KoL/AUY0
その後、勇者は半魔盗賊団についていろいろと南部支部長に質問した。
結果、分かったことと言えば
・盗賊団は本部を中心に、東西南北各支部を置き、それぞれ支部長が統括している
・少し前に団長が荒れ地を統一するまでは半魔たち同士の派閥争いが絶えなかった
・戦時中は特に干渉せず、身をひそめていた
・戦争が終わり、勢力を拡大しつつある
・半魔は人間の知能と魔族の力を同時に備えており、そのバランスの良いものほど幹部になりやすい
・上位に行くほど、人間と魔族の比を調整できる。基地長や南部支部長が人間のような姿だったのは、戦闘時以外は知恵の方に重点を置くため。
・半魔は致命的なダメージを受けると、自己防衛本能が働き、魔族の部分に体を支配され、暴走してしまうことが多々ある。
くらいであった。
113: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:24:20.79 ID:5KoL/AUY0
―――その頃 半魔盗賊団本部―――
ジリリリリン ジリリリリン
ガチャ
フムフムワカッタ
ガチャ
副団長「団長、先ほど勇者が南部支部へと到着したということです」
114: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:25:15.54 ID:5KoL/AUY0
団長「ほう。やはり来たか。あの噂は誠だったようじゃな」
副団長「はい。しかしよろしいのですか? 篤く遇せよという命令ですが……」
副団長「確かに直接やりあっても勝機は少ないでしょうが、あの噂の通りなら、勇者はこの半魔盗賊団を殲滅しようとするのではないですか?」
団長「そうじゃな。儂のところへ直接出向いて、儂を謀殺せんとするやもしれん」
副団長「それならば団長!」
団長「まあ待て。じゃが、その噂にはもう少し詳細があっての」
団長「勇者は、この土地に魔族と人間が共に暮らせる国を作る、と言っていたというのじゃ」
115: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:25:42.40 ID:5KoL/AUY0
団長「これは情報隊長が確かめたことじゃから、まず間違いないじゃろう」
団長「勇者は恐らく儂らと協力して、建国をしようというのじゃろうな」
副団長「ニャるほど……」
団長「もちろんタダで協力してやるわけにもいかん」
団長「勇者も優れた知力を持つという話じゃ」
団長「彼を試す意味もかねて、儂も一つ知恵比べをしてみようと思ったのじゃ」
副団長「知恵比べですか?」
116: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:29:00.17 ID:5KoL/AUY0
団長「そうじゃ。まあ、詳しいことは後に話すとしよう。楽しみに待っておれ」
副団長「はい。分かりました」
団長「もしかしたら、長い間魔族にも人間にも拒絶されてきた我らの歴史が変わるかもしれん……」
副団長「それも、勇者次第ということですね」
団長「うむ」
117: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:32:50.68 ID:5KoL/AUY0
―――翌日 半魔盗賊団本部付近―――
翌日、勇者たちは南部支部を発って本部へと向かっていた。
基地長「どうですか? この『セグウェイ』という乗り物の乗り心地は」
基地長「少し前に奇術の国で開発された乗り物なのですが、平地でしか使えないため、あまり流行らなかったようです」
基地長「荒れ地は割と平地と丘が多い平らな土地ですから、多大なエネルギーを必要とする自動車よりもこちらのほうが効率的なんです」
基地長「座れないのが玉に傷ですが」
118: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/23(日) 00:33:26.89 ID:5KoL/AUY0
勇者「名前は聞いたことがあったけれど悪くは無いね。慣れるのが難しいけど、慣れてしまえば大分楽だよ」
戦士「そ、そうか? 俺はどうも苦手だな……おわっと」クルクルクル
勇者「なんだ、最初のうちは前にも進まなかったんだから、大分上手くなったじゃないか」ケラケラ
戦士「せ、戦士としてバランス感覚は必要不可欠だっ!」プルプル
勇者(それにしても)
勇者(ちょっとシュールだな)
122: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:03:48.09 ID:wtFNhqDU0
―――半魔盗賊団 本部―――
本部は、大都市とまでは行かないがそれなりの規模の町として機能していた。
市場には恐らく他国から盗んできたであろう品物が並び、銀行や宿、役場までもが設けられていた。
勇者「結構賑わってるんだね」
戦士「おおおっ。さすが盗賊団だ。古今東西の名剣が揃っていやがる!」ダダッ
勇者「待て待て、それはまた後にしよう」ギュッ
戦士「なんだよ!ちょっとくらいいいだろ!」
基地長「盗賊団の目利きは一流ですからね」
123: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:04:49.24 ID:wtFNhqDU0
基地長「偽物なぞは一品も置いてありませんよ。全て本物で格安になっています」
基地長「ときどき魔族領……今は魔国ですか、そこや人間族領からも買いに来る者がいるほどです」
勇者「まあ、闇市みたいなものかな」
戦士「ここもいいところじゃないか。来てよかったなぁ」ウットリ
基地長「それでは、あちらが本部基地の入口になります」
戦士「なんだ?ありゃあ普通の酒場じゃねえか」
基地長「あの奥が地下に繋がっているのです」
124: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:05:34.03 ID:wtFNhqDU0
基地長「ほとんどの基地を作ったのは副団長ですが……
団長はお洒落好きなので、あまり華美な基地などは作らせたがらないのですよ」
勇者「お洒落好きねえ」
勇者「君は団長に会ったことがあるのかい?」
基地長「そうですね、基地の視察の際に一度だけです」
基地長「口調がなんとも特徴的で……」
戦士「一体どんな奴なんだ?」
基地長「そうですねぇ……剣の腕が達者で、魔法も強力なものを軽々と唱えると」
勇者「それだけかい?」
125: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:06:14.86 ID:wtFNhqDU0
基地長「はぁ、何しろ幾分も前の話なので……」
戦士「なんだぁ情報不足だな」
戦士「相手がどんな奴か分からねぇと、こちらも態度を決められねぇぜ」
基地長「不甲斐ない次第です」
勇者「それじゃあ行こうか」
勇者「長い道のり、わざわざありがとう」
基地長「いえいえ。勇者様の国が、我らを悲しき歴史から解き放ってくれることを願っています」
勇者(悲しき歴史、ね……)
基地長「それでは」
戦士「またな」
126: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:06:59.30 ID:wtFNhqDU0
―――半魔盗賊団 本部基地入口の酒場―――
カランカラン
店員「いらっしゃい!」
店員「お、人間のお客とは珍しい」
勇者「どうも、僕は勇者です。半魔盗賊団の団長に用があってきました」
戦士(う、腕が四本もある……)
店員「おお、アンタがあの勇者かい!?」
店員「ちょっとまってな、今案内役を呼んでくるよ」タタッ
127: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:07:46.04 ID:wtFNhqDU0
しばらくして、店員は黒髪に白装束の幼い女の子を連れてきた。
魔族らしいところは無く、完全に人間にしか見えない。
強いて言えば八重歯が少し目立つくらいだ。
店員「あとは頼んだよ、アタシは店番に戻らせてもらうからね」
案内役「こんにちは! 勇者様、団長がお待ちですよ!」
戦士「なんだ?半魔盗賊団にはこんな小さい女の子までいるのか」
勇者「誘拐されてきた娘でもないだろうし、幼くて成長が止まった半魔ってとこかな」
128: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:08:19.28 ID:wtFNhqDU0
案内役「ご明察です! でも、人間の部分が強すぎて魔法も剣もろくに使えないので、こうして案内役をやらせていただいてるんです」
勇者「なるほどね」
戦士「半魔にもいろいろいるってことか」
案内役「はい! それではどうぞ」
テクテク
129: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:09:36.21 ID:wtFNhqDU0
―――半魔盗賊団 本部基地 地下応接室―――
本部の中は石造りになっていたが、意外と雰囲気は明るかった。
恐らく魔法で装飾してあるのだろう。団長のお洒落ぶりがうかがえる様相であった
ガチャ
案内役「どうぞどうぞ! 普段は誘拐した人質を監禁しておく部屋なので、少し汚れていますが」
案内役「長旅で疲れていらっしゃると思うので、少しくつろいでください」
戦士「ふー」ギシッ
戦士「監禁部屋にしては、大分お洒落な部屋だな」
案内役「はい! ここに来るような方は領主や貴族クラスの御子息ですから」
130: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:10:23.09 ID:wtFNhqDU0
勇者「それはまた身代金も高くつきそうだね」
勇者「ところで、君は普段何をしているんだい?」
案内役「そうですね……掃除洗濯に料理、大体は雑用ですね」
案内役「さすがに強盗のために遠征することはないです」
勇者「なるほど。それは大変だね」
戦士「半魔の家事仕事とは、量がまた凄そうだな」ハハハ
勇者「君が言えたことじゃないだろう?」
勇者「4人パーティの時はどれだけ僧侶に迷惑をかけたと思って」
戦士「何を言う。俺は量だけじゃなくて質にもこだわるタチなんでね」
勇者「どうりでこれはタチが悪いわけだ」
ハハハハハハ……
131: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/27(木) 00:11:04.57 ID:wtFNhqDU0
―――……
勇者「さて、十分くつろいだし、団長にお目にかかろうかな。あまり待たせるわけにもいかないし」
戦士「剣術が達者だとは……これは一戦交えたいな!」
勇者「用事が終わってからにしてくれよ」
勇者「間違っても入った途端に切りかかったりしないようにね」
戦士「保証しかねちまうな。俺の戦士としての血が熱く燃え上がっちまうかもしれん」
案内役「いつも賑やかなんですね」クスクス
案内役「それではご案内しますよ」
ガチャ
137: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:12:14.78 ID:xr0+oMSo0
―――半魔盗賊団 本部基地 団長の間―――
案内役「ここが団長の間です。どうぞ」
ギィィ
バタン
大きな扉を開くと、広くて彩色豊かな部屋が広がっていた。
その様子は人間族諸侯国王城の玉座にも似ており、部屋の両側には幹部と思われる半魔が数人列をなしていた。
そして正面に据えられた装飾付きの椅子に、団長は腰を下ろしていた。
団長は人間の10代後半の女性のような容姿を基本に、猫耳、猫目、尻尾とどうやら猫型の魔族の血を引いているようだった。
そして、今まで見た中でも最も魔族の要素と人間の要素がバランスがとれた半魔であった。
138: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:13:01.18 ID:xr0+oMSo0
団長「おお、キミが勇者か! 待っていたよ」
勇者「初めまして、半魔盗賊団団長。ここまでの厚遇感謝いたします」
戦士「(なんだ?妙に華奢だな)」
勇者「(半魔は見た目によらないって言うだろ)」
勇者「今日は団長にお願いがあってきたのです」
団長「ほう。この付近で盗みを繰り返す悪党どもに、神聖なる勇者は一体どんなお願いがあるのかな?」ニヤリ
勇者「はい。噂にも流れていることをご存知だと思いますが、魔族人間族間の同盟と平等の先駆けとして、この地に新たな国を建国したいと思っているのです」
ザワザワ……
139: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:13:56.92 ID:xr0+oMSo0
勇者「魔族と人間族の戦争は先日終結し、停戦協定と称して、魔族と人間族の平等が約束されました」
勇者「しかし、互いの中には、長い対立に起因する根強い偏見が残っているはずです」
勇者「それでは、平等も協調もなしえません」
勇者「しかしここで、半魔である貴方がたが協力していただければ、魔族と人間両方の側面を持つ者として、両者をつなぐ仲介役となり、協調と平等はよりスムーズに進みうるでしょう」
勇者「是非、新国の建国に協力していただきたいのです」
団長「ニャるほど……」
140: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:15:01.16 ID:xr0+oMSo0
団長「キミがやろうとしていることは確かに立派なことだね」
団長「でも、ボクたち半魔には魔族と人間による禁断の恋や、猥褻の果てといった忌まわしい成り立ちと、
両族から嫌悪され、忌避され続けてきた悲しき歴史がある」
団長「そんなボクたちに、そのような役が務まると思うのかい?」
勇者「新しい世界には新しい歴史というものが作られていくものです」
勇者「古い歴史などというものは、古文書として、その影に埋もれていくだけでしょう」
勇者「それに、ちょうど盗人から足を洗い、聖職者となった者が同じ神の像を見たときのように、
価値観はその世界によって常々変わっていくのです」
勇者「今こそ新旧の境目に来ているのです」
141: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:16:45.66 ID:xr0+oMSo0
勇者「ここで古い歴史に捕らわれるか、新しい価値観と共に歴史を創生するか。どちらに利があるかは自明ではありませんか」
団長「そうだね……」
団長「でも、ボクたちは悪党だよ。今ここでキミたちを殺すことだってできるんだ!」ニヤァ
戦士「なんだと!?」
勇者「それならそれで結構です団長」ニヤリ
団長「…………何?」
勇者「僕も貴方に先手を打つだけですから」バチバチ
勇者「雷魔法(小)!」ズバッ
団長「なっ!?」ガタッ
バァン
案内役「きゃぁっ!?」
142: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:20:29.43 ID:xr0+oMSo0
勇者の放った雷魔法は、入口付近にいた案内役の足元に命中した。
団長「なんだ!?」
戦士「おい、どこ狙ってんだ勇者!」
勇者「まあまあ。僕はちゃんと『団長』に先手を打ったのさ」
勇者「そうでしょう?案内役改めまして団長」
部屋の中には緊張が立ち込めた。突然のことに側近たちも目を丸くして、棒立ちしていた。
それは団長(?)も例外ではない
案内役「…………」
143: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:21:21.87 ID:xr0+oMSo0
案内役「クク…………」
案内役「アハハハハハハ!!」
案内役「ご明察じゃ」
戦士「」ポカーン
案内役→団長「いかにも。儂が半魔盗賊団の団長じゃよ」
団長「しかしよくわかったのう」
団長「儂の仕草も剣術、魔法の痕跡も、全てごまかしたつもりじゃったのじゃが」
勇者「やはりそうでしたか。確かに、団長の誤魔化しも、団長の身代わりも全て完璧でした」
勇者「しかし、完璧すぎたのです」
団長「ほぅ」
144: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:22:16.32 ID:xr0+oMSo0
勇者「恐らく団長は僕があの基地長から団長の情報を聞くのも、南部支部長から半魔の特徴を聞くのも読んでいたのでしょう」
勇者「それによれば、団長は剣術に優れ、魔法に優れ、しかも人間と魔族が最もバランスよく混ざった半魔だということになる」
勇者「そして、その身代わりはその鏡ともいえる方でした」
勇者「恐らく副団長クラスの最上位幹部でしょうね」
勇者「そして、ここで身代わりを置くとなると、団長もその容姿を最高に生かした雑用につくのが最も手っ取り早く有効だ」
勇者「そこで、掃除や洗濯、料理の雑用を熟していると言ったわけです」
勇者「しかし、ここには止むを得ない欠点が存在した」
勇者「もちろん相手は剣術の手練れ、下手に動きや手を見せては自分が剣術に長けているとばれてしまう」
145: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:22:59.76 ID:xr0+oMSo0
勇者「そこで、団長は魔法を使ってそれを完璧に隠してしまった」
勇者「だから、手はかなり綺麗で、まさか剣術を使うなんてことは想像がつかない様子だ」
勇者「だけど、掃除や洗濯、料理の雑用を熟している形跡もなかったんです」
戦士「なるほど。消さないと剣術がばれるが、消せば雑用でないことがばれちまうわけだな」
勇者「そういうこと。それだと最下級の身分のはずなのに身なりがやたらと綺麗なのも説明がつくのさ」
戦士「はっ、確かに言われてみれば……」
団長「ほう……じゃがそれだけで儂が団長だと決めつけることもできまい」
団長「新米で入ったばかりの団員じゃったかもしれんじゃろ」
146: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:24:08.86 ID:xr0+oMSo0
勇者「まあそうですね。実際推測の域は出ていませんでした」
勇者「でも、僕はあらかじめ、団長はかなり人間よりの半魔なのだろうと予測していたんです。基地長以上にね」
団長「ほう、なぜじゃ?」
勇者「団長は相当頭のキレる半魔だと聞いていたからです」
勇者「そこまで頭が良いのなら、普段は人間のバランスを大きくしてその知恵の部分を最大限に生かせる半魔なのだろうとイメージしていたのです」
勇者「基地長はしかも、団長が変わった口調の持ち主で、お洒落だとも漏らしていました」
勇者「入口の酒場も、外見をもって欺くという点で共通しています」
147: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/28(金) 00:24:40.46 ID:xr0+oMSo0
勇者「そして僕があの真面目な身代わり団長と話した時に、案内役の矛盾と合わせてこれは挑戦だと確信したんです」
勇者「なんせ身代わり団長が完璧すぎたので」
勇者「まあ他にも細かいところはありますが、大筋はこんなところでしょう」
団長「ははは。知恵比べは完全に儂の負けのようじゃな」
団長「よいじゃろう。喜んで勇者の下についてやろう」
ザワザワ
アノダンチョウガ……
マジカヨ……
156: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:11:03.16 ID:zmgMPboL0
団長「半魔盗賊団の全員が、今この場の音声を無線で聞いておると思う!」
団長「皆の者、よく聞け!」
団長「今を持って、儂は半魔盗賊団の解散を宣言する」
団長「そして、勇者に全力を持って協力することを誓うのじゃ!」
ワァァァァァァ
ユウシャスゲー
ユウシャバンバンザーイ
北部の荒れ地は全土を持って興奮の渦に包まれた。
ついに忌まわしい過去から解き放たれる時が来たのだ!
157: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:11:43.41 ID:zmgMPboL0
身代わり団長→副団長「やれやれ、まさかあの団長に勝るとは……見事だね」
副団長「ボクも、副団長として、団長の意とあらば喜んで忠誠を誓うことにするよ」
戦士「」ポカポカーン
勇者「あ、ありがとうございます」
団長「さて、これからはどうするつもりなのじゃ?」
団長「勇者ともあろう者じゃ、もう次の一手も考えてあるんじゃろう?」
勇者「ええ、まあ」
勇者「まずは、この盗賊団の解散と僕による平定を宣言しなければなりません」
158: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:12:34.34 ID:zmgMPboL0
勇者「そして、その後に都市の整備と、国境付近でくすぶっている商人等人口の呼び込みを行うのです」
勇者「先行投資が何よりも大好きな彼等ですから、新たな、そしていかにも上手そうな商業地ができたとあらばすぐにでも飛び込んでくるでしょう」
団長「ほほう。まさに国作りじゃな」
団長「あ、それと、もう敬語なんて取るがよい。儂は勇者の臣下なのじゃからな」
勇者「分かった。僕らも、役割分担してそれぞれ仕事を進めようと思うんだ」
勇者「勝手ながら半魔盗賊団の幹部も当てさせてもらうけれど、構わないかな? 今一番不足しているのは人手だからね」
団長「ははは。さっきの宣言をもう忘れたか?」
団長「もう半魔盗賊団は儂よりも手腕の勝る勇者のものじゃ。好きにするがよい」
159: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:13:08.25 ID:zmgMPboL0
勇者「ありがとう」
勇者「じゃあ、いま決まっている分だけで行くと……」
勇者「戦士は盗賊団の戦闘部隊を率いて警察の代表に、副団長は都市建設やインフラ整備の総指揮を、団長は立法、外交及び新しくなる組織の役職や人事整備を担当してほしい」
勇者「ここまで見事な統制システムを敷けるということは、団長には十分な教養もあるようだしね」
勇者「この基地の構造といいデザインといい、副団長は建設に向いていそうだ」
団長「ふふ、そこまでお見通しじゃとはな」
160: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:13:38.04 ID:zmgMPboL0
勇者「それぞれの支部長はそのまま支部長として残って分権を図ることにしよう」
勇者「どうだろうか?」
団長「うむ。特に口出しするところもないようじゃ」
団長「よし、善は急げじゃ。早速取り掛かることにしようかの」
戦士「なんだ、こっちに来てもやっぱり憲兵隊なのか」
副団長「街づくり〜♪街づくり〜♪」ニュフフフ
161: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:14:35.89 ID:zmgMPboL0
―――後日 元・半魔盗賊団本部 地上中央広場―――
勇者『これより、私勇者は宣言します!』
勇者『私は団長との平和的な談話の結果、半魔盗賊団を解散させることに成功しました』
勇者『盗んだ品物は全てもとの国に返還することを約束します』
勇者『そして、元半魔盗賊団も、人間及び魔族にもこれから一切の危害を加えることはありません』
勇者『これから、この地を【北部不干渉区】と命名して開拓し、都市や交通、法を整備しようと思います』
162: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:15:16.99 ID:zmgMPboL0
勇者『魔術国連合、奇術国連合、魔国全ての勢力からの移民を歓迎いたします』
勇者『そして、魔族、人間、そして半魔全ての種族が平等に、平和に暮らせることを、全力を持って保証します』
勇者『それでは、元・半魔盗賊団の団長からも一言を……』
この宣言は、ラジオ放送と伝聞魔法で大陸全土に伝えられ、この新たな時代に一つの旋風を巻き起こすこととなった。
魔族と人間との戦いが終わったこの世界は、さらなる平和の歴史を創生していくことになるのだろうか。
163: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:15:54.18 ID:zmgMPboL0
―――しばらくして 幸の国 玉座―――
ドタバタ
顔を真っ青にした宰相が、あわてて玉座に駆けてきた。
宰相「大変です国王陛下!」
宰相「勇者がかくかくしかじかでセグウェイで半魔でのじゃロリの猫娘だと!」
幸の国王「なんだと?」ガタッ
幸の国王「まさかこんなに早く……」
幸の国王「監視を置く暇もなかっただと!?」
宰相「はっ。何せ荒れ地に入って2日後の高速占領だったもので……」
164: ◆9GmoiQGLItwN 2014/03/29(土) 00:16:28.36 ID:zmgMPboL0
幸の国王「ちぃっ。侮りすぎたか」
幸の国王「宰相、奴との連絡はとれておるか?」
宰相「は、御心配なく。既にあの不干渉区に潜入したとのことです」
幸の国王「よろしい。なんとしても奴を葬らなければ」
幸の国王「全ては我らが計画のため……」ボソリ
宰相「……?」
176: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:50:37.75 ID:kpRCfbWp0
―――3か月後 北部荒れ地→北部不干渉区 半魔盗賊団本部→中央行政区 仮行政府―――
団長はあの後すぐに新たな政治体制を構築し、見事に統制した。
執政は行政、外務、財務、警務、建設、の5つの部門に分けられ、それぞれに部門長がつくこととなった。
そのほかにも、東西南北各支部や支部長にはより強い権限が与えられ、分権体制も整えられた。
建設部門長となった副団長の活躍により、1か月のうちに、中央行政区の行政府新設を軸とした大型都市構想が完成し、各支部、交通の要所への新たな都市建設も決定した。
177: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:52:42.44 ID:kpRCfbWp0
勇者「商人以外はいるね、それじゃあ部門長会議を始めようか」
代表である勇者の下、各部門長は
行政、外務部門長に元半魔盗賊団長
建設部門長に副団長
警務部門長に戦士
財務部門長に商人
が就いていた。
商人とは、宣言後に真っ先に荒れ地へ駆け込み、貿易網及び経済基盤の確立を誓った大商人である。
178: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:53:49.38 ID:kpRCfbWp0
ちなみに、元盗賊団メンバーの呼び名はしばらくのうちは括弧書きで新役職を示しておきます。
勇者、戦士はそのままです。
179: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:54:41.76 ID:kpRCfbWp0
勇者「団長、魔術奇術両国との和平は図れそうかい?」
団長(行政外交部門長)「うーむ。魔術国連合は割と友好的な姿勢を見せておる。すぐにでも同盟を誓ってくれるじゃろう」
団長(行政外交部門長)「魔法があれば、副団長の都市構想も上手く捗りそうじゃな」ニコッ
副団長(建設部門長)「あ、ありがとうございます!」ニュフフ
団長(行政外交部門長)「一方なんじゃが……奇術の国はどうもあまり都合がよくないようじゃ」
団長(行政外交部門長)「世論もこの不干渉区に対して後ろ向きらしい」
団長(行政外交部門長)「最大限努力はするが、期待はせん方が良いじゃろう」
180: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:55:49.11 ID:kpRCfbWp0
戦士「なんだなんだ? 奇術連合の理事長め、勇者にビビッているんじゃないのか?」
副団長(建設部門長)「そこは団長にも、だろう」
戦士「うむ。そうとも言う」
勇者「ははは。あの冷静沈着と噂の理事長のことだ、何か企んでいるのかもしれないね」
団長(行政外交部門長)「儂もそれを心配しておったのじゃ。十分用心せねばな」
団長(行政外交部門長)「それと、もう2つ知らせがある」
181: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:56:37.00 ID:kpRCfbWp0
団長(行政外交部門長)「元勇者パーティーの魔法使いが、魔術国外務省の大使として不干渉区に滞在することになったそうじゃ」
団長(行政外交部門長)「明日にでも到着するとの連絡じゃ」
戦士「魔法使いだと!? まじかよ……」
勇者「屁理屈のセンスを磨くチャンスじゃないのかい?」クスクス
戦士「いや、今の俺なら魔法使いの屁理屈になど負けはしない……はず」
副団長(建設部門長)「魔法使いとはどんな人なんだい?」
戦士「どんなもこんなもない! 1ミリ足を上げたら360度大回転の揚げ足を食らうような奴だ」
182: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:57:15.24 ID:kpRCfbWp0
戦士「俺も一体何度メンタルをつかれたことか……」
勇者「それじゃあ一回転してるじゃないか」ハハハ
副団長(建設部門長)「ニャるほど、それは危険人物だね」
副団長(建設部門長)「魔法使いの前では摺り足を心掛けておこう」
勇者「しかし、いくらなんでも誇張が過ぎるよ」
勇者「彼女は使う魔法は超一流の魔法使いさ。歴史と魔法学にも長けているインテリだよ」
戦士「そういや、奴を仲間にしたときはまだまだ未熟な魔法使いだったよな」
183: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 00:58:29.54 ID:kpRCfbWp0
戦士「一体旅路のいつどこで勉強なんかしたんだか」
勇者「まあ、それはみんなに言えたことではあったさ」
勇者「魔王軍との過酷な戦いを通してここまでレベルを上げられたんだ。前代魔王が最後まで生きていたら、今ここにいられるかもわからないくらいだったしね」
副団長(建設部門長)「前代魔王っていうのはそんなに凄かったのか!?」
団長(行政外交部門長)「はいはい。雑談は一旦お休みじゃ」
184: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 01:03:47.47 ID:kpRCfbWp0
団長(行政外交部門長)「もう一つの報告じゃが、また元勇者パーティの者についての情報じゃ」
戦士「なんだ、僧侶もここへ来るのか?」
団長(行政外交部門長)「こちらはそうではない。連合同士の戦局自体はかなり拡大しておるが、先日勃発した水の国による光の国侵攻については、なんと光の国の勝利でもう終結したのじゃ」
団長(行政外交部門長)「初戦光の国は水の国に大敗を喫していたはずだったのじゃが……」
団長(行政外交部門長)「光の国に配属されていた、大隊参謀長『僧侶』准将が考案した作戦が功を得たというということじゃと……」
勇者「えっ?あの僧侶が軍人に!?」
戦士「嘘だろ……血どころかトマトジュースを見ることすらできなかったあの僧侶がだぞ!」
185: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 01:04:20.69 ID:kpRCfbWp0
団長(行政外交部門長)「連合はそれを大々的に報じ、軍は僧侶の少将への昇格を決定したそうじゃ」
団長(行政外交部門長)「間違いはないぞ」
勇者「これは予想外だったな。確かに才能を生かしてほしいとは言ったけれど、そこまで存分に奮ってくるなんてね」
戦士「不思議なことは尽きるものじゃないな」
副団長(建設部門長)(ニャるほど……僧侶も戦闘が苦手なのか……)
団長(行政外交部門長)「まあ、外交面での報告はこれで終わりじゃ」
勇者「うん。ありがとう。団長の情報網の広さにはこれからも頼ることになりそうだよ」
団長(行政外交部門長)「任せておくがよい」フフン
186: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/07(水) 01:04:56.02 ID:kpRCfbWp0
勇者「それじゃあ、全員持ち場に着こう。これからも忙しくなるぞ!」
副団長(建設部門長)「団長と一緒にいられないのが残念だけど……我慢するよ」
副団長(建設部門長)「でも、もし手を出そうものなら勇者、キミを許さないからね」ジロッ
勇者「も、もちろん大丈夫さ(これは怖い)」
戦士「ははは。勇者は年上か年下か分からない半端な女には興味が……」
副団長(建設部門長)「何か言ったかな?」ギロッ
戦士「……さーて俺は警務に戻ることにしよう」スタスタ
勇者(戦士を視線で圧倒するとは……見事だ)
196: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:27:49.24 ID:TAh1LTyc0
―――同 行政部門長の執務室―――
団長(行政外交部門長)「うーむ……独学で学んだとはいえ、法律というのはいざ作るとなると難しいものじゃのう……」
団長(行政外交部門長)「……ブツブツ…………ブツブツ……」カリカリ
ガチャ
勇者「ちょっといいかい?」
団長(行政外交部門長)「なんじゃ勇者」
勇者「ちょっと質問があってね」
団長(行政外交部門長)「ふむ。まあかけるがよい」
ギィッ
197: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:31:06.67 ID:TAh1LTyc0
勇者「机、高すぎじゃないか」クスクス
団長(行政外交部門長)「うるさいのう。手ごろな台はこれしかなかったんじゃ」
団長(行政外交部門長)「副団長に注文しておかねばな」
勇者「それをおススメするよ」
勇者「で、団長は生まれたときからここにいたのか?」
団長(行政外交部門長)「唐突じゃな」
勇者「少し気になってさ」
198: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:32:43.25 ID:TAh1LTyc0
団長(外交副部門長)「はぁ。まあよい。この際だから話すことにするのじゃ」
団長(行政外交部門長)「……儂は元は花の国で生まれたのじゃ」
団長(行政外交部門長)「そして儂の母は儂を人間として育ててくれたのじゃ」
団長(行政外交部門長)「父親はもともといなかった。まさか上級魔族だったとは、想像もできんかったがの」
勇者「やはり人間領出身だったか……それでその十分な教養も説明がつく」
団長(行政外交部門長)「うむ。儂は初等魔法学校へも普通に通っていたし、中等学校へも進学した。こんな身なりじゃからな、誰も儂が半魔だとは疑っていなかったのじゃ」
勇者「すると、それは生まれつき人間にほど近い姿だったと」
団長(行政外交部門長)「そうじゃな。儂は魔力こそ上級魔族並ではあるが、今でも人間と魔族の割合を変えることができん」
199: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:33:47.09 ID:TAh1LTyc0
団長(行政外交部門長)「魔法で表面くらいは誤魔化せるが、形から変えるのは無理じゃ。例えば羽をはやしたりな」
勇者「ふーむ。さすがにそこまでは予測していなかったなぁ」
フワッ
団長(行政外交部門長)「それに、姿なんて変えなくても、十分成りすましはできるんですよ! 勇者様っ」ニコッ
一瞬にして雰囲気が変わった。体にかけている魔法を少しいじったらしい。
勇者「お、久しぶりの案内役だね」
勇者「潜入捜査にも使えそうだ」
団長(行政外交部門長)「はい! これからもよろしくお願いしますね!」ニコッ
シュン
200: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:34:41.46 ID:TAh1LTyc0
団長(行政外交部門長)「…………やっぱりこれは疲れるのじゃ」ハァ
勇者「お疲れ様」クスクス
団長(行政外交部門長)「ふう。話を戻すが、儂の周りの者たちはいつまでたっても成長もしない、強すぎる魔力を持った儂を次第に遠ざけ始めたのじゃ」
団長(行政外交部門長)「そしてある日、家は焼打ちに遭い、母は殺され、儂は魔術国の軍に捕まりそうになったのじゃ」
団長(行政外交部門長)「儂はそこで初めて自分の正体を知ったのじゃよ。今までずっと真実を写していたと思っていた鏡が、一瞬にして砕け散るようにな」
団長(行政外交部門長)「儂は死に物狂いで魔術国から逃亡し、荒れ地に逃げ込んだ」
団長(行政外交部門長)「その頃はまだ荒れ地の中も勢力争いが絶えておらんかった頃じゃからな。そこでも何度も人間に間違えられて命の危機が迫ったものじゃ」
団長(行政外交部門長)「副団長に出会ったのもその頃じゃったか。大型の半魔に襲われているところを、儂が火炎魔法で助けてやったのじゃ」
201: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:37:40.69 ID:TAh1LTyc0
団長(行政外交部門長)「以来副団長は儂に過剰なまでの忠誠を誓っておる」
団長(行政外交部門長)「そして、儂は魔族由来の魔力と、人間由来の知力を使って、荒れ地を統一したのじゃ」
団長(行政外交部門長)「剣はその頃に護身のため練習したものじゃが、結局は魔法に頼る『魔法剣士』といったところじゃな。素の実力は大したことは無い」
団長(行政外交部門長)「じゃが儂は『繊細な』魔法が得意でな。いくつもの細かい魔法をセットで唱えておいて、剣の軌道、速度、バランス、重量、体制などに張り巡らすことができる」
団長(行政外交部門長)「こうやって『幻視魔法』と『屈折魔法』を組み合わせて、体の表面を覆い隠すのを応用してな」
団長(行政外交部門長)「本気を出せば、五分五分の勝負にはなると思うぞ」ニコッ
勇者「なるほど、通りでいつも身なりが清潔なわけだ」
勇者「成りすましの時限定で魔法で誤魔化しているんだと思ったら、常にそうなんだものね」
202: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:38:22.52 ID:TAh1LTyc0
団長(行政外交部門長)「まあ、あまり堂々と見せたいものでもないからのう」
団長(行政外交部門長)「ちなみに魔法なしだとこうじゃな」シュン
団長は右腕だけ魔法を解いた。
勇者「うっ、これは……!」
右腕は刃物の傷跡から魔法による裂傷まで大小さまざまな、いくつもの傷で覆われていた。
団長(行政外交部門長)「このほとんどは亡命して間もないころか、荒れ地統一の最終決戦の時にできたものじゃ」
団長(行政外交部門長)「回復魔法というものはあまり回復速度を上げすぎたり、魔力が強すぎたりすると再生が雑になって傷跡がひどく残ってしまうものでな」
団長(行政外交部門長)「今のところ完全に消す方法は魔法学の最先端でも見つけ出されておらんとのことじゃ。幻影、屈折魔法」シュン
元の腕に戻った。
203: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:39:05.35 ID:TAh1LTyc0
勇者「またまた予想以上だな……まさか荒れ地がそこまでひどい状況だったとは」
団長(行政外交部門長)「まあ、その状況もここまで良くなったのじゃ。今更振り返ることもない。勇者もこの前言っておったようにな」
勇者「そうだね。団長がそう言ってくれるなら何よりだよ」
団長(行政外交部門長)「しかし、勇者こそよく魔族と手を結ぼうと思い立ったものじゃな」
団長(行政外交部門長)「勇者や人間は魔族を憎むものとばかり思っていたが」
勇者「まあね。確かに僕も最初のうちはそうだったよ」
勇者「幸の国の勇者選別方法は、今思っても本当によくできているんだ」
団長(行政外交部門長)「ほう」
204: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:40:02.59 ID:TAh1LTyc0
勇者「表向きには神の御加護だとか発表してはいるけれど、実際は僕や戦士のように両親を魔族に殺された孤児を集め、教育、訓練し、最も優秀な者を選ぶというものだったのさ」
団長(行政外交部門長)「な、なんと……じゃが確かに効率はよいな……」
勇者「そう。そうやって裏切られる心配もなく、同情させることもなく魔族を虐殺させることができたんだ。少なくとも百年戦争まではね」
勇者「百年戦争で6人もの勇者を失った幸の国は流石に焦ったんだろう。幸の国は戦闘に対する優秀さはともかく『先代魔王』に対応できるほどの知力を持った僕を7人目として選んだんだ」
勇者「でも僕は前の6人とは違った感情を持った。人間族と何も変わらずに文化を、生活を築いている彼らの姿に、僕の憎しみは次第に消えて行ったのさ」
団長(行政外交部門長)「なるほどのう。結局は騙されていたんじゃもんな」
団長(行政外交部門長)「まあ、必然ではあるがな」
勇者「まあ、勇者の宿命ってやつさ」
205: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:41:05.21 ID:TAh1LTyc0
勇者「今となっては、僕は彼らの文化を守りたいとも思っているよ」
勇者「確かに『先代魔王』は悪の権化だったかもしれないけれど、もう彼自身もその周りの上級魔族も死んだんだ」
勇者「もう戦う理由は無いと思うね」
団長(行政外交部門長)「うむ。勇者の言うことはどれをとっても正しい物じゃ」
団長(行政外交部門長)「しかし、そこまで魔族を好いているのもまだ少し腑に落ちんのう」
団長(行政外交部門長)「いくら文化や生活が同じと言えども積年の恨みがそれだけできれいさっぱり消え去るものじゃろうか?」
団長(行政外交部門長)「仮に勇者がそうであったとしても他の仲間について説明がつかん」
勇者「まあね」
勇者「まあきれいさっぱりという訳にはいかないけど……僕らの感情を大きく変えてしまった要因は主に2つあるんだ」
206: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:43:05.81 ID:TAh1LTyc0
勇者「1つ目は言語。団長もそうであるように、この大陸に生きる人間族、半魔、魔族全てが全く同じ言語を話している」
勇者「お陰で、敵であるはずの魔族と十分以上のコミュニケーションをとれた訳だけど」
勇者「それがもし良い方向に働けば、さっきのような効果をもたらすことは言うまでもないだろう」
団長(行政外交部門長)「確かに……もし人間を好む魔族でも存在していたとしたらありえることじゃ……」
勇者「ま、それだけではなかったけれどね」
207: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:43:56.27 ID:TAh1LTyc0
勇者「そして2つ目は魔族の起源さ」
勇者「今魔族についてわかっていることと言えば、魔物を従え、人間と同程度の知能を持つ生物ということくらい……」
勇者「だけど、ここで団長、君の存在が大きな意味を持つことになるのさ」
団長(行政外交部門長)「儂がじゃと?」
勇者「ああ。君をはじめとする『半魔』が存在するということは、人間族と魔族で子を残すことが可能ということになる」
団長(行政外交部門長)「まあな。じゃがそれがなんだというのじゃ?」
勇者「僕らが以前奇術国に赴いた時に知ったんだけれど、どうやら彼らの定義における『同種の生物』というものは、『子孫を残すことができる生物同士』らしいんだ」
団長(行政外交部門長)「……まさかそれは……!」
勇者「少なくとも、魔族と人間族が同じ起源をもっているということを意味するだろうね」
208: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:44:26.52 ID:TAh1LTyc0
団長(行政外交部門長)「なんということじゃ! そんなことが……」
勇者「僕らも初めは信じられなかったさ」
勇者「でもさっきの件といい、僕らは少しづつ確信へと近づいて行った」
勇者「それに、考えてみれば現在奇術国と魔術国という全く異質な国家が同時に成立しているわけだ」
勇者「早期に隔てられた人間族と魔族が全く異質に姿形を変えていったとしても不自然なことではないだろう」
団長(行政外交部門長)「うーむ。言われてみれば……」
団長(行政外交部門長)「しかし憶測には過ぎないのじゃろう?」
勇者「まあね。まだまだ矛盾も多いとは思う」
勇者「とはいえ全くの見当違いでもないだろうし、またこれからぼちぼち調べていくことにでもするよ」
209: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/12(月) 00:45:10.43 ID:TAh1LTyc0
勇者「ま、今は過去のことより現在のこと、未来のことの方が大事だ」
勇者「半魔の未来のために全身全霊をかけて行かなくちゃね」
団長(行政外交部門長)「確かにその通りじゃ」
団長(行政外交部門長)「まあよい。儂もようやく希望の光が現れたのじゃ。感謝が尽きんものじゃのう」
勇者「ははは。そこまでのものでもないよ。僕こそ団長の力あってこその『勇者の国』だと思うし」
団長(行政外交部門長)「もうちょっとカッコいい名前が良いのじゃ」クスクス
勇者「うるさいなもう。折角の良いとこだったのに」
勇者「それじゃあ、僕もそろそろ仕事に戻ろうかな」
団長(行政外交部門長)「またのう」
216: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:40:52.28 ID:38k8vLJ70
―――翌日 中央行政区街 建設部門作業現場―――
カンカンカンカン
ギイーッ
「浮遊魔法っ!」ブワッ
副団長(建設部門長)「商人、この通りのそばにはやっぱり宿を設置した方がいいかな」
商人「そうですねぇ。ここは武器屋や防具屋が集まる場所なので、このまま銀行の予定地でいった方がいいかと」
副団長(建設部門長)「ニャるほど……それならこっちは―――で……の:::じゃないかい?」
商人「やはり:::は^^^ですので“”“が得策かと」
217: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:46:21.47 ID:38k8vLJ70
―――…
副団長(建設部門長)「ふぅー。一通り終わったね、キミの商売のノウハウは本当に役に立つよ」
商人「いえいえ、まさかこんなところでお役にたてるとは思ってもいませんでした」
商人「これも商売に使えそうです」
副団長(建設部門長)「キミは本当に金欲が尽きないものだね」
副団長(建設部門長)「いったいどこから湧いてくるんだい?」
商人「いえいえ滅相もない。欲こそ人の原理たる要素なのです」
商人「私はそれを有用な形に変換して合理的に使っているだけなのですよ」
218: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:47:35.63 ID:38k8vLJ70
商人「それに、建設部門長も大層な物欲をお持ちだと聞きましたが」
副団長(建設部門長)「ニャハハハ、まあね。収集だけは団長にいくら怒られてもやめられないんだよねぇ」
商人「それならば、いくつか穴場をお教えしますが」
商人「良い品物も手に入ったら格安でお譲りしますよ。十分利益は頂いていますので、特別割引です!」
副団長(建設部門長)「ニャにぃっ!? それはありがたいことこの上ない!」
商人「それではそろそろ私は財務の方へ戻りますので」
副団長(建設部門長)「あ、そうだ、魔法石もそろそろ無くなりそうなんだけど……今あるかな」
この世界には、魔力の回復などに使用が可能な『魔法石』という特殊な石が存在している。
219: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:52:42.77 ID:38k8vLJ70
商人「おお、これはタイミングがよろしいこと限りないですね」ピーン
商人「ちょうど先日手に入れた純度99.99999999%の超高級魔法石が手元にあるのです!」
商人「これさえあれば1年は平気で魔法を使い放題の優れもの!」
商人「さらに今回は樹齢1200年物の杖とマントをつけてお値段!!」
副団長(建設部門長)「」
商人「……って、ついついいつもの癖が出てしまいました」
商人「代金は結構ですよ、どうぞ貰ってください」
副団長(建設部門長)「おお、流石商人!」
商人「これからもよろしくお願いいたしますね」
商人「それでは」
副団長(建設部門長)「またニャー」ムフフフ
220: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:54:36.59 ID:38k8vLJ70
副団長(建設部門長)「そうだ、行政府にコレクションルームも追加しておかなきゃ!」
副団長(建設部門長)「えーっと確かこの辺に空き部屋が……」
ソローリ
ヒュッ
副団長(建設部門長)「敵襲ッ!?」キィン
副団長は、背後から振り下ろされた剣を素手で受け止めた。
221: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:55:31.43 ID:38k8vLJ70
戦士「おわっ、俺の剣を素手で受けるとは……相変わらず見事だな!」バッ
副団長(建設部門長)「なんだキミか。邪魔しないでくれるかな」プイッ
戦士「全く、お前の趣味部屋造りの邪魔をして何が悪いんだか」チン
戦士「人が公務で忙しいときに、一体何をしていたのかな猫女?」
副団長(建設部門長)「なっ!ボクは猫じゃない!そういうキミこそどうせ暇だからぶらぶら遊びに来ただけなんだろう?」
戦士「うぐ……ま、まあつまるところ仲間同士ってことだ。仲良くしようじゃねーか」
副団長(建設部門長)「仲間だって? 冗談も甚だしいね」
副団長(建設部門長)「ボクはボク自身が認めた人にしか絶対に従わない。仲間にもしたりしないのさ」ツーン
222: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:56:32.38 ID:38k8vLJ70
戦士(さすが猫だな。なかなかの気まぐれ野郎だぜ)
戦士「自分で言うか……まあいい。ならば、剣術で認めさせてやろうじゃないか!」
副団長(建設部門長)「言うじゃないか。でも、ボクは剣は使わないよ」
副団長(建設部門長)「素手で返り討ちにしてやる!」ザッ
戦士「ほう、良いだろう」
戦士「さあ、いつでも来い!」スラリ
副団長(建設部門長)「よーし…………!!?」
223: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:57:08.98 ID:38k8vLJ70
副団長(建設部門長)「ギニャッ!?そ、その剣は!!!」
戦士「なんだ?この剣の価値が分かるのか」
戦士「確か魔族領の牢獄跡で手に入れたんだが、どうも出所が分からなくてな」
戦士「切れ味が頗るよくて重用したんだ」
副団長(建設部門長)「分かるも何も、それは密かに伝説として存在を語られていた、『第十三代勇者の剣』じゃないか!!」
戦士「」
224: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:57:44.93 ID:38k8vLJ70
副団長(建設部門長)「かの伝説の名工によって生み出され、出征に向かう勇者に渡されたという最高傑作!」
副団長(建設部門長)「何でも十三代勇者が戦死してしまって行方が分からなくなっていたと聞いていたけど……まさかこんなところでお目にかかれるとは!!」
副団長(建設部門長)「あわわわわわわ、興奮が鳴りやまないいいいいい!!」
戦士「これ、ほしいのか?」
副団長(建設部門長)「ほしい!喉から手が出るほどほしい!!!」キラキラ
戦士「じゃああーげないっ!」
副団長(建設部門長)「」
225: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:58:26.90 ID:38k8vLJ70
戦士「おいおい、冗談だっつの。そんな怖い顔をしないでくれ」
戦士「剣を大事にするやつは良い奴だ。そうだな、俺を仲間に入れて守ってくれるんだったらいいぞ」
戦士「俺が万が一死んだときにでもくれてやる!」
副団長(建設部門長)「するするする仲間でも王様にでもしますしちゃいますニャー!!」バッ
戦士「うわわっ、抱きつくなよ!」ギュー
戦士「しかし。途中で暗殺しようなんて企んでくれるなよな」
副団長(建設部門長)「大丈夫。ボクは仲間が傷つくことがいっちばん嫌いなんだ」
226: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 00:59:32.16 ID:38k8vLJ70
副団長(建設部門長)「まあ仲間といっても上から団長>>>>>>戦士>勇者だけだけどね。その他のみんなは死んじゃった」
戦士(勇者に勝った!!)グッ
戦士「そいつは安心したよ。じゃあ……」
戦士「そろそろ離してくれ」ギュー
副団長(建設部門長)「うわっごめん! ついやっちゃった」バッ
副団長(建設部門長)「でも、キミとボクは気が合いそうだ。今まで誤解していたみたいだね」
戦士(道具で釣れるとは……意外とチョロい奴)
戦士「やっぱり素直だな。まあ動機不純なのは目をつぶることにしよう。よろしく頼むよ」
副団長(建設部門長)「こちらこそ!」
227: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/16(金) 01:00:35.60 ID:38k8vLJ70
戦士「ところで、これいくらになるんだ?」
副団長(建設部門長)「ふーむ。場合によっては国が買えるかもよ」
戦士「」
戦士「そんなにすごいのか……俺としたことが全く知らなかった」
副団長(建設部門長)「まあ……価値には似合わないけど、かなりのレベルの収集家じゃないと知らないようなマイナー品でもあるし」
戦士「今日は暇だろ?ちょっと剣についてでも語らねぇか」
戦士「勇者はそういうのにはめっきりのつまらん男なんだ」
副団長(建設部門長)「じゃあ、仕事が終わったらボクのコレクションを紹介しよう!」
戦士「お、そうこなくっちゃ」
231: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/17(土) 01:28:15.84 ID:FdebPBAN0
とりあえずwikiに主な登場人物まとめてみました。
もうしばらく日常パートでグダりますがご勘弁を。
http://ss.vip2ch.com/ss/%E5%8B%E8%85%E3%8C%E5%9C%E6%A6%E5%8D%E5%AE%9A%EF%BC%9F%E3%8D#.E4.B8.BB.E3.81.AA.E7.99.BB.E5.A0.B4.E4.BA.BA.E7.89.A9
今日は続きません
232: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/17(土) 03:17:15.53 ID:kjuCyEz30
乙
だいぶキャラを掴めやすくなってありがたいぜ
234: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:22:26.94 ID:ZOnFCfin0
―――その頃 代表執務室―――
ガチャ
ヒョコ
突然、団長が扉から顔を出した。
団長(行政外交部門長)「勇者、魔法使いが到着したぞ!」
勇者「おっ、通して通して」
団長(行政外交部門長)「ちょっと待っておれ」
バタン
235: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:23:20.10 ID:ZOnFCfin0
―――…
ガチャ
魔法使い「失礼するわ」
スタスタ
魔法使い「お久しぶりね勇者」
勇者「お久しぶり!わざわざ戻ってきてくれて本当にうれしいよ!まあ、まだ4か月くらいしか経っていないけどね」
魔法使い「あらそうだったかしら。貴方が出世するのは50を超えてからだと思っていたものだけどね。ちょっと老けたんじゃない?」クスクス
勇者「まーた相も変わらず痛いことを言う。僕はまだ20代だよ。そんな魔法使いは『四賢人』昇進を断ったそうじゃないか」
236: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:24:09.01 ID:ZOnFCfin0
勇者「一体何時の間に魔法学の勉強をしていたんだ? 戦士が嫌に不思議がっていたよ」
魔法使い「そうね……でも、努力というのは人前に見せるものじゃないわよ?」
魔法使い「ある人は隠れて剣術を、ある人は薬草学を、そしてある人は魔法学を学んでいただけに過ぎないわ」
勇者「なるほどね、あれ?それだと一人足りないような……」
魔法使い「気にしたら負けね」
勇者「ま、いいか。それより、魔術国連合から労働者を派遣してほしいという旨は伝わっているかな?」
勇者「人手不足はやっぱり一番の問題だよ。人は石垣、人は城、なんても言うしね」
魔法使い「もちろん伝わっているわよ。花の国王が鼻を真っ赤にして勇者に協力することを誓っていたわ」
237: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:24:50.53 ID:ZOnFCfin0
勇者「それはよかった。これからも魔法使いには魔法学校の創設などを頼みたい」
魔法使い「お安い御用ね」
勇者「それと、まだ大使事務所が完成していないから、しばらくはこの仮行政本部の空き部屋で我慢してほしいんだ」
魔法使い「それはちょっとお安くないわね。まあいいわ。無いよりはましということにしておきましょう」
魔法使い「それじゃあ、書物の整理をしなくてはいけないから、また後でね」
勇者「あ、今日は歓迎会を開くから、後で食堂に来てくれよ!」
魔法使い「心得たわ」
スタスタ
238: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:25:54.50 ID:ZOnFCfin0
―――夜 行政本部食堂 歓迎会―――
歓迎会とはいえ、それは小規模であった。食堂には、商人以外の不干渉区部門長が集まり、魔法使いを迎えることとなった。
勇者「それじゃあ紹介しよう。彼女が元僕のパーティーの一員にして、現魔術国外務省のお役人さんである魔法使いだ!」
魔法使い「よろしくお願いするわ。魔法使いでいいわよ」
団長「わざわざご苦労じゃな」
副団長「……」スリアシ
戦士「……」スリアシ
魔法使い「フフフ。それにしても、可愛いお友達が増えたものね」
239: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:29:16.10 ID:ZOnFCfin0
魔法使い「幼女に猫なんて、勇者の右腕にはまず見えないわね」クスクス
団長「なっ。儂は一応勇者と似たり寄ったりの歳じゃ!」←幼女
副団長「ギニャッ!? ボボボボボボクは猫じゃないし!」←猫
魔法使い「これは失敬したわね」
団長「それにしても、魔法だけでなく歴史にも通じているとは、大層なものじゃな」
魔法使い「あら、大したことは無いわよ。故事の中になにか面白いことがないか探していただけに過ぎないわ」
魔法使い「旅中も『遠視魔法』を使って本を読んでいたものよ」
240: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:31:46.07 ID:ZOnFCfin0
戦士「いつの間に勉強なんかしたのかと思ったらそういうことだったのか」
魔法使い「そうよ。寝る間も惜しんでね。誰かさんとは違って」
戦士「うぐ……俺はだな、昼行性の健康的な生活を送っていただけだぜ」
魔法使い「さあどうかしら。町に着くたびに酒場に入り浸ったのは貴方じゃなかったかしらね」
魔法使い「お陰でいつも予算不足で僧侶が泣いていたわよ?」
戦士「うぐぐ……」
魔法使い「まだまだ口じゃ負けないわね」
団長「そうじゃ、その僧侶というのはどんな人間だったのじゃ?」
241: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:32:44.36 ID:ZOnFCfin0
団長「どうも詳しく聞いたことはなかったのう」
勇者「お、確かにそうだね」
勇者「僧侶はパーティの中で一番の『縁の下の力持ち』だったんだ」
魔法使い「そうね。身の回りのことは食事から予算の勘定までまかせっきりだったわ」
魔法使い「いつもだらしない男二人が叱られていたわ」クスクス
戦士「おいおい、俺を勇者と一緒くたにしてくれるなよ!俺は時々僧侶の手伝いもしてやッたんだぜ」
魔法使い「ごく稀にね」
242: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:33:33.23 ID:ZOnFCfin0
勇者「僕だって手伝っていたさ。でも彼女の本領は戦術の方にもあっただろうね」
魔法使い「ええ。勇者の作戦も素晴らしい物ばかりだったけれど、それを応用して改良するセンスは、私や戦士には持ち合わせていなかったわ」
魔法使い「かの魔王軍最強にして最終の防衛ラインだった『死の谷』を攻略できたのもそのお陰だったしね」
戦士「俺たちはあくまで実行部隊だろ!」
魔法使い「良く言えばそうね」
団長「なるほどのう。それであの光水戦線のスピード決着も説明がつくということじゃな」
副団長「それは是非敵に回したくはないものだね」
243: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:34:36.62 ID:ZOnFCfin0
魔法使い「猫ちゃんの言うとおりよ」
副団長「なっ!ボボボボボボクは猫じゃないし!半魔だし!!」カァー
魔法使い「まあ照れちゃって。かわいらしいわね」クスクス
団長(初対面の相手に副団長が翻弄されるとは……珍しいこともあるもんじゃな)クスクス
勇者(戦士<副団長<魔法使い か)
副団長「あーっ!団長まで笑わないでください」
団長「悪かったのう」
244: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:36:41.88 ID:ZOnFCfin0
店員「おー!みんな盛り上がってるじゃないか!」
店員「待たせたね、ほら、今日はごちそうだよ!」
テーブルに様々な料理が並べられた。
戦士「酒場の店員なのに料理ができたのか……」
店員「おうよ。昼は店員、夜はシェフ、それがアタシさ!」
魔法使い「台本形式のセリフがややこしくなりそうな肩書きね」
団長「店員、デザートは何かの」
店員「お、デザートは団長の大好物のイチゴショートケーキだよ!」
245: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:37:50.00 ID:ZOnFCfin0
団長「ケーキ!? やったぁっ」
勇者「えっ」
戦士「えっ」
団長「はっ!?」
団長「いや……これはじゃな……成りすましの練習でな……」カァー
副団長(照れてる団長も可愛いなぁ……)ニュフフフ
店員「そういう所だけはまだまだ子供っぽいんだよなー団長は」
団長「こら!余計なことを言うな!」
魔法使い「いいじゃないの。私も甘いものは大好きよ」
246: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:38:25.75 ID:ZOnFCfin0
戦士「そういう問題なのか……?」
団長「まったく、そろそろ食べんと料理が冷めてしまうぞ」
副団長「いっただっきまーす!」
戦士「あっ!抜け駆けするなっ」
勇者「そう慌てない慌てない」
魔法使い「慌てないと水しか残りそうにないわね」
勇者「それは困るっ!」
ワイワイガヤガヤ
247: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:41:30.81 ID:ZOnFCfin0
団長「賑やかでなによりじゃな」
店員「ははは。団長も幸せそうじゃないか」
店員「付き合いは長いつもりだけど、団長がそんなに幸せそうにしてるのは初めて見るかもしれないよ」
団長「そうじゃな」
団長「ようやく、解放されたのじゃろうか……」
団長「儂は、未だに『人間であった頃』のことを覚えておる」
団長「あの時奪われた幸せを、儂は取り戻すことができたじゃろうか」
248: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/20(火) 00:42:59.36 ID:ZOnFCfin0
店員「さあね。団長が幸せなら幸せでいいんじゃないのか?」
団長「最もなことじゃな」クスクス
団長「平和な世界……か……」
副団長「団長!ぼーっとしてるとイチゴ貰っちゃいますよ!」
団長「ああああっ!ダメっ!それだけはダメっ!!」
魔法使い「キャラが崩れてるわよ」クスクス
ハハハハ
ワイワイガヤガヤ……
253: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:14:11.73 ID:lBDRyipG0
―――歓迎会後 副団長の部屋前廊下―――
スタスタ
副団長「いやー食べた食べた。やっぱり店員の料理は最高だなぁ」
戦士「全くだ。あんな美味い料理は宮廷料理でも珍しいぞ」
戦士「しかし、イチゴをとられそうになった時の団長の慌てっぷりといったらなかったな」
副団長「団長は昔から甘い物にだけは目がなくてね」
副団長「一度団長のプリンを食べちゃったときは、3日間口を聞いてくれなかったんだ」
戦士「そこまでするか……」
254: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:15:14.41 ID:lBDRyipG0
副団長「まあ、ボクも大切な剣を折られた時に、3日間この部屋に籠っちゃったんだけどね」
戦士「お前も大概だな」
副団長「おあいこさまということで」
戦士「なーにがおあいこさまだ」
副団長「それにしても、ボクの部屋に入れるのなんて団長以外はキミだけだよ」
副団長「それ以下は絶対にドアノブも触らせないからね」
戦士(今『以下』って言ったよな……)
戦士「そうだったのか。そいつはありがたいことだな」
255: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:16:04.27 ID:lBDRyipG0
戦士「早く元盗賊団副団長閣下のお手並みを拝見したいものだ。戦闘も含めてな」
戦士「憲兵隊じゃ上級隊長くらいしか物足りる奴がいなくてな」
副団長「お、そうだね。そういえばまだ決着がついてなかったっけ」
副団長「といってもボクにはその剣を傷つけることは到底できないから、適当なのを貸してあげることにするよ」
戦士「そいつは助かる」
戦士「細工は無いだろうな」ジトー
副団長「ご心配なく」ニュフフフ
256: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:16:52.78 ID:lBDRyipG0
―――コレクションルーム―――
ガチャ
パチッ
戦士「こ、これはっ!」
コレクションルームには壁中に剣から鎧、珍植物に至るまでがびっしりと並んでいた。
副団長「これがコレクションルーム1さ。まだ4つ奥に部屋があるよ」
戦士「これは凄いな……町の商店で売っていたものも中々の名品ぞろいだったが、比べ物にならないぞ」
戦士「これなんてあの『大魔王の剣』じゃないか!まさかこんなところに本物があるとは……」
257: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:17:51.60 ID:lBDRyipG0
副団長「お、キミは随分目利きのようだね。ボクの最高のコレクションを一瞬で見抜くなんて」
副団長「でも『13代勇者の剣』はそれに次ぐ名品と言っても過言じゃないね」
戦士「なるほど……ようやくその価値が分かった気がするぜ」
副団長「他にもこれ!……の^^^さ!」
戦士「これは&&&の“”じゃないのか!?」
258: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:19:16.69 ID:lBDRyipG0
戦士「かぁー! これは何時までもいても居たりないな!」
戦士「ここに住めたらどんなに幸せだろうか……」
副団長「おいおい、ボクの部屋に住むのはやめてくれよ」
戦士「その点だけは安心していいぞ」
戦士「しかし、お前がいつも着ているそのブレザーも気になるな」
戦士「何かのアンティークなのか?」
副団長「ああこれ? これはボクが気に入ってる服装ってだけさ」
259: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:20:07.34 ID:lBDRyipG0
副団長「特に意味は無いね」
戦士「ないのかよ。変なところで無頓着だな」
戦士「ま、いいや。そろそろ一太刀やろうじゃねえか」
副団長「ん、そうだね」
副団長「んーと、はいっ」ヒュッ
戦士「ありがとよ」パシ
副団長「それは『戦士の剣』って言うんだ。あれ……戦士?」
戦士「って俺のじゃねえか!」
戦士「荒れ地で失くしたと思っていたらこんな奴に盗られていたのかよ!」
260: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:21:03.63 ID:lBDRyipG0
副団長「な、こんな奴とは失礼な!」プンスカ
副団長「この上ない丁重なもてなしをしてあげたというのにひどい言いようだね!」
戦士「わ、悪い悪い。ともかく、これは俺が師匠から譲り受けた大切な剣だったんだ」
戦士「戻ってきてよかったよ」
副団長「そらみたことか」フン
副団長「さて、表に出よう。こんなところでやりあったらボクのコレクションが台無しだからね」
戦士「おう。そうだな」
261: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:31:01.46 ID:lBDRyipG0
―――地上 新行政府庭園予定地―――
副団長「うーむ、この芝生はもうちょっと茂らせた方がいいかな……」
戦士「こらこらこら。仕事をしに来たんじゃないんだぞ」
副団長「あ、ごめんごめん。つい気になっちゃってね」
副団長「いろんな美しいものを集めるのは好きだけど、自分の手で何かを作るのもたまには楽しいものだよ」
戦士「面白い小説を読むと自分も書きたくなっちゃうっていうあれか」
副団長「キミは小説なんて読まないだろうに」
戦士「大当たり!」
262: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:33:03.32 ID:lBDRyipG0
副団長「なんだそりゃ……とにかく、ボクは本気で行くからね」
副団長「あまりボクに回復魔法を使わせないでよね」
戦士「おいおいそりゃあどっちの意味で言ってるんだ?」
戦士「俺だって手加減は無しだ」
副団長「身体強化魔法!」ブワッ
ダッ
戦士(速いっ!?)
ギィィィン
副団長が助走をつけて放った拳の一撃を、戦士は咄嗟に剣で受け止めた。
263: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:34:59.35 ID:lBDRyipG0
戦士「魔法とはちょっと反則じゃないのか?」ギリギリ
副団長「剣のハンデということで」
戦士「言ってくれるぜ!」バッ
戦士は一度距離をとる。
戦士(それにしても、華奢なくせになんて重い攻撃だ。まだ手がしびれてやがる)ビリビリ
ダッ
キィン
カキィン
バキッ
副団長「ボクの速さについてくるとは中々やるじゃないか!」
264: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:36:05.38 ID:lBDRyipG0
戦士「チッ、褒められても嬉しくはねえな」
戦士「全く。鎧も着ていないくせにやけに堅いったらありゃしない」
副団長「当然さ、防御力増強魔法を一点に集中すれば剣なんて簡単に防げる!攻撃もまた然り!」
戦士「防いでもらっちゃ困るってな!」
カァン
キィン
ガンッ
265: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:36:49.51 ID:lBDRyipG0
―――…
戦士「そらっ!」ブン
副団長「まだまだ遅いねっ!」ヒラリ
副団長「そろそろ決着をつけさせてもらうよ!」
副団長は戦士の真上に高くジャンプした。
副団長「……ブツブツ……ブツブツ……」
戦士「自分から攻撃を避けられない体制に入るとはご苦労なこったな!」
戦士もそれめがけてジャンプした。
266: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:37:47.53 ID:lBDRyipG0
副団長「かかったね! 石柱魔法!」
ズズズズズズズ
戦士「はっ。 下か!」
副団長「これで挟み撃ちだ!」
戦士「ぐっ!」ダッ
戦士は迫る石柱を逆に足場に利用した。
副団長「いけええええええ!」
戦士「うおおおおおおお!」
ズババッ
267: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:38:31.71 ID:lBDRyipG0
―――……
副団長「回復魔法」パァー
戦士「悪いな」
戦士「結局引き分けか……」
副団長「そのようだね」
副団長「やっぱり勇者一行だ。咄嗟の判断力は群を抜いているよ」
戦士「そいつはどうも」
268: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:39:03.08 ID:lBDRyipG0
戦士「お前こそ、猫譲りの反射神経だな」ハハハ
副団長「だから猫じゃないっ!」
副団長「しかし、ここまで本気を出せたのも久しぶりだったよ」
戦士「俺も同様にだ。これからもまた相手を頼むぞ」
副団長「喜んで!」
副団長「それにしても、ボクと石柱魔法の挟み撃ちをかわしてくるなんて……ん?」
269: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/25(日) 21:40:57.44 ID:lBDRyipG0
副団長「ギニャアアアアアアッ!!!」
副団長「ぼ、ボクの芝生がっ! 庭園がぁっ!」
庭園には、先ほどの石柱魔法によって生成された石の柱が芝生を貫いてそびえていた。
戦士「あーあ。熱くなるからだ」
副団長「一様に芝を張るのに2か月もかけたのに……またやり直しじゃないかあああああ」
戦士「そこまでするか」
戦士「ま、俺も同罪だ。手伝ってやるよ」
副団長「うわあああっさすが戦士! ありがとうニャーッ!」ギュー
戦士「のわああっ!だから抱き着くなぁっ!!」
こうして勇者一行にはしばらくの間平穏の日々が流れて行った。
274: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:12:36.09 ID:RX/hXIct0
―――…
ソローリ
団長「むふふ……この日のために隠しておいた秘蔵のケーキ……」
団長「さすがの副団長でも見つけ出せはせんかったじゃろう……」パカッ
スカッ
団長「」
副団長「まーたこんな夜中に何をやっているんですか?」
団長「はっ!? 貴様!」
275: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:13:24.75 ID:RX/hXIct0
副団長「健康に悪いですよ。罰としてケーキはボクが成敗しておきました」
副団長「さあさあ早く寝てくださーい」
団長「むぅぅ……副団長のばかぁっ!」
ダッ
副団長(涙目の団長もいいなぁ……)ニュフフ
副団長「はっ!? これでまた3日も口がきけないじゃないか!」
副団長「しまったああああああああああああ」
しかし、それも長くは続くものではない。
276: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:14:15.34 ID:RX/hXIct0
―――……
魔法使い「あの魔法は『究極破壊魔法』というのね……」パラパラ
魔法使い「しかし、名前だけ大層な割に記録がほとんどないわね」ポム
魔法使い「でも、あの大賢者の最高傑作に対しての反魔法なんて……柄にも合わず熱くなってきたわ」
魔法使い「必ず完成させてやるわよ」カリカリカリ
277: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:15:07.64 ID:RX/hXIct0
―――……
勇者「ナイトをここに。チェックメイトだね」
戦士「何っ!? 待った待った待った!」
勇者「もう何回待たせてあげたと思ってるのさ。いい加減勝たせてくれたっていいんじゃないのかい?」
戦士「ま、まだだ。 まだ……キングをこうすれば……」
勇者「ふっふっふ。こうすればそこもチェックメイトだよ」
戦士「ぬああああああ!」
戦士「駄目だ! 俺は頭脳より肉体派なんだよ!」
勇者「はいはい」
278: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:15:54.27 ID:RX/hXIct0
戦士「ところで、行政府を新設した後は、あの地下基地をどうするつもりなんだ?」
戦士「どうも迷路じみていて使う気にはなれんのだが……」
勇者「ああ、あれは商人の助言で貯蔵庫にでもするつもりだよ」
勇者「玉座は魔法石、台所は石油、コレクションルームは……何だったかな」
戦士「おいおいまじかよ」
戦士「それじゃあ資源を取りに行ったっきり帰ってこなくなる奴が続出しそうだぜ」
勇者「はは。まあそうなったらまた新しく倉庫でも作ることにしよう」
279: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:39:49.31 ID:RX/hXIct0
―――…
団長「どうかの……」
魔法使い「なるほど、回復魔法による再生失敗ね」
団長「治せるか?」
魔法使い「もちろんよ。私は新しい魔法を作り出すのが生業なんだから」
魔法使い「努力するわ」
団長「か、感謝するのじゃ!幻影、屈折魔法」パッ
魔法使い「それにしても、そこまで酷く跡が残るなんて、相当無理したわね」
280: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:43:19.57 ID:RX/hXIct0
魔法使い「常に強力な回復魔法をかけながら、敵中に突入でもしたのかしら?」
団長「ご明察じゃ。しかし、そのお陰で平和が訪れたというのなら、儂は後悔などしておらんよ」
魔法使い「あら。じゃあなぜ私にその治療をお願いしに来たのかしらね」
団長「そ、それはじゃな……いつも魔力を保っておくのが面倒でな……」
魔法使い「ま、いいわ。そういうことにしておいてあげるわね」
団長「頼むぞ魔法使い」
魔法使い「お任せあれ」
281: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/26(月) 23:44:22.49 ID:RX/hXIct0
―――…魔国 魔王城
魔王「今日は星がきれいだなぁ」
魔王「平和、か」
魔王「綺麗ごとだけ並べておいて、結局は自分たち同士で戦争を始める」
魔王「人間っていうのは理解に苦しむ生き物ね……滅ぼしてしまいたいほど」
魔王「はぁ。復興省が来てからろくに外も出歩けないし。つまんないなぁ」
魔王「あれ? 南の丘の向こうが明るい……?」
魔王「あの方角は奇術国連合でもないし……確か勇者が建てた不干渉区、だったっけな」
魔王「…………行ってみようかな」
282: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 00:48:32.00 ID:GcpFferK0
―――…
『火炎魔法っ!』ボォッ
『相手は強力な魔力を持つ半魔だ!心してかかれい!』
『絶対に逃がすな! 母親もろとも処分するのだ!』
『お母さん。どうして外が騒がしいの?』
『早く逃げなさい! ここは私が食い止めます』
『あなたは絶対に生き延びるのです。幻影魔法をかけておきますから、とにかく森の中を進みなさい』
283: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 00:49:11.60 ID:GcpFferK0
『そうすれば必ず道は開けます』
『え、嫌だよお母さん! お母さんも一緒に来てよ!』
『それはできません。私はしてはいけないことをしてしまったんですよ』
『私の罪はあくまでも私の罪であって、貴方の罪ではありません』
『あの父親を持つ貴方ならわかるはずです』
『どうして? どうして私だけ……』
『どうして……』
ゴォォォォォ
284: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 00:49:46.44 ID:GcpFferK0
――…――
「はっ!ここは……」
『…………』
「誰?」
『……………』
「何を言っているの……?」
『…………』
「何を……」
『…………』
――――――
―――――
―――
285: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 00:50:36.35 ID:GcpFferK0
―――建設中新行政府 外交行政部門長執務室―――
団長「はっ!? つい寝てしまっておったか」
団長「またあの夢か。新行政府に移ってから回数が増えたようじゃな……」ゴシゴシ
団長「父親か……まだ生きておるのじゃろうか……」
団長「……まさかな」
団長「はぁ。もう夜か」
団長「あそこにでも行ってみるかな」
290: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:23:11.53 ID:GcpFferK0
三日目です
291: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:40:16.53 ID:GcpFferK0
―――塔最上階展望台―――
ヒュオオオ
団長「うぅっ……さすがにこの季節では肌寒いなぁ……炎魔法(極小)」ボォッ
勇者「おっ。団長じゃないか。どうしたんだいこんな時間に?」
団長「勇者こそよくこんなところに毎日いられるものじゃ」
団長「こちらが聞きたいものじゃな」
勇者「いやあ。こうして夜の街を見下ろすのもいいものだよ」
勇者「一日一日ごとに光が増えていくんだ。この光が増えれば増えるほど平和に近づいてているんだと思うとなんだか自分のやっていることに自信を持てる」
勇者「僕は間違っていなかったんだってね」
292: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:40:43.53 ID:GcpFferK0
団長「はは。勇者がそんな小心な部分を持ち合わせている覚えはなかったのじゃ」
勇者「僕だって自分のやる事成す事全てが正しいと思ったことは無いさ」
勇者「もしかしたらここに国を作るせいで犠牲になる者も出てしまうかもしれない」
勇者「いや、必ずでてしまうだろう」
勇者「平和のためにまた血を流すことが本当に正義なのだろうか。本当にここで流れた多くの血の償いとなり得るんだろうか」
勇者「どうしてもそんなことばかり引っかかってしまうんだよな」
293: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:41:17.52 ID:GcpFferK0
団長「そうじゃな。儂もそれはわからんでもないことじゃ」
団長「しかし、現に儂は多くの半魔の骸の上に半魔盗賊団の旗を掲げていたのじゃ」
団長「勇者が間違いだというなら、それ以前に儂が間違っていたことになるじゃろう」
団長「そうなれば……一体儂は何をしてきたのかわからなくなってしまうのう」
勇者「そうだね。その通りだ」
勇者「団長の為にも頑張ることにするよ」ニコッ
294: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:41:56.32 ID:GcpFferK0
団長「そうしてくれるとありがたいのじゃ」
団長「……最近夢の中で誰かが儂に話しかけてくるのじゃ」
団長「何もない意識だけが存在する世界で……何を言っているかも聞き取れん」
勇者「夢か……」
勇者「確か魔法使いが言っていたんだけど、どうやら他人の夢に何らかのメッセージを残す魔法もあるらしいんだ」
勇者「僕も一度先代魔王の策略で『夢』に干渉されたことがある」
勇者「その時は戦士の気合の一発で目を覚ますことができたんだけどね」
295: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:42:37.81 ID:GcpFferK0
勇者「あと一歩で僧侶に切りかかっているところだったよ」
勇者「だから、もしかしたら何らかの支障をきたすかもしれない」
勇者「十分用心した方がいいかもしれないよ。夢の力はかなり強力だからね」
団長「そうじゃな……心に留めておくことにするのじゃ」
団長「すまんな。いきなり変な相談を持ち掛けてしまって」
勇者「相談位だったらいくらでも乗るさ」
勇者「折角だから酒場にでも行ってゆっくり語らないかい?」
勇者「ケーキもおごるよ」
296: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:43:30.07 ID:GcpFferK0
団長「ほ、本当かっ!?」
団長「行こう! 飲もう! ゆっくり語ろう!」
勇者「団長は未成年だろう」
団長「うるさいのう。未成年なのは外見だけなのじゃ」
勇者「ははは。この身長じゃあまだまだ育ちざかりなんじゃないのかい?」
団長「うっ。頭をぽんぽんするのはやめんか。身長が縮む」
勇者「伸びはしなくても縮むことはあるんだね」
団長「まあ……万が一じゃ」
団長「さて、早く行こう! ケーキが儂を待っているのじゃ!」グイッ
勇者「わわっ。ひっぱるなって」
297: ◆9GmoiQGLItwN 2014/05/27(火) 23:44:04.85 ID:GcpFferK0
―――…
着実に、背後に影は忍び寄っているのだった。
商人「……はい……はい。そうですね………そのようです」
商人「……もちろんです……はい………分かりました。ありがとうございます」
商人「はい……それでは」
ガチャ
商人「ふう。あのお方もどうして突然活発に動き出したんだか……」
商人「まあ、平和が来てしまっては私も困ります」
商人「これも利益の為です。勇者様には悪いですが、仕方ありませんね」ニヤリ
事件が起こったのは、不干渉区発足から3年が経とうとした頃であった。
301: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:29:25.49 ID:Hcs5mSNf0
―――不干渉区発足から3年後 中央行政区 新中央行政府 代表執務室―――
不干渉区発足から約3年が経ち、不干渉区内にはいくつもの都市が完成していた。
中央行政区も例外ではなく、諸侯国の王城をモチーフにした新行政府を中心に首都機能を備えた大規模都市が発達していった。
各部門も次々と体制の整備が進み、副部門長もほとんどの部門で配置されるに至っていた。
302: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:30:12.72 ID:Hcs5mSNf0
団長「今月だけで銀行が13件、魔法薬局が21件、企業連合の支社が10件、魔法学校が7件この不干渉区に進出してきたのじゃ」
団長「貿易額も月を経るごとに上向いておる。景気がいいものじゃな」
勇者「まあね。ここは魔国、奇術連合、魔術連合三勢力の中間にあたる三角地帯だ」
勇者「三角貿易には最適な場所ということさ」
勇者「それに、どうしてあの両連合が幾度となくこの土地を取り合ってきたか分かるかい?」
団長「まあ、ここが戦略的要所であることは自明の理じゃろうが……」
勇者「まあそれもある。でも、もっと重要なのはこの土地が、偏在性の強い『魔法石』と『天然資源』が同時に眠る資源のクロスポイントだということなのさ」
303: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:31:25.07 ID:Hcs5mSNf0
勇者「商人にお願いして開発を進めてもらっているけど、その埋蔵量は相当な物らしい」
勇者「僕がここに国を作ろうと思ったのもそれが結構大きかったんだ」
勇者「幸の国王に直接左遷されなくてもいずれはここに来る予定だったしね」
団長「そういえば商人も同じことを言っておったのぅ」
勇者「ははは。彼のお陰で経済基盤が完成したようなものさ」
勇者「ありがたいかぎりだね」
304: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:32:11.75 ID:Hcs5mSNf0
団長「しかし、あまり彼一人に経済の大部分を任せすぎるのも問題じゃな」
団長「商人はあくまで利益のために動く男じゃ。いつ儂らを裏切ってもおかしくは無いぞ」
勇者「そうだね。考えておこう……」
ドタドタ
バタン
戦士が扉をはねのけて入ってきた。
305: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:33:07.79 ID:Hcs5mSNf0
戦士「おい、大変だ! 西部支部周辺で反乱が起こったそうだ!」
戦士「なんでも昨日西部支部を襲撃し、今は近くの洞窟を本拠地にして立て籠っているそうだぞ」
団長「なんじゃと!?」
勇者「反乱だって?」
戦士「ああ。さっき憲兵隊を派遣したが、俺達も行った方がいいんじゃないのか?」
戦士「どうも反乱の首謀者並びにメンバーは元半魔盗賊団のメンバーらしい」
戦士「この不干渉区に不満があった奴らが潜伏して集まったんだろう」
団長「な、なんということじゃ……」
団長「ぐ……避けられるものでは無かったか……」
団長「儂が甘かったようじゃな」
勇者「団長……」
勇者「よし、部門長を急きょ招集しよう」
306: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:33:44.27 ID:Hcs5mSNf0
―――会議室―――
勇者「……ということだ」
商人「それは一大事ですね」
商人「下手に武力で押さえつければ、平等を謳うこの不干渉区の政策に反します」
商人「そうなれば今までの苦労が水の泡ですよ」
勇者「その通りだ商人」
勇者「僕らはこれをできるだけ平穏な形で収めなくてはならない」
魔法使い「しかし、話し合いで解決できるとも限らないわね」
307: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:34:41.99 ID:Hcs5mSNf0
副団長「一体誰が反乱なんて……」
団長「元情報隊長だそうじゃ。最近顔を見んと思っていたら……」
団長「盗賊団の時は最も信頼のおける部下じゃったというのに」
団長「どうしてなのじゃ……」
戦士「しかし、現に反乱を起こしているわけだ。昔のよしみじゃどうにもならんぞ」
勇者「うむ。そこで、部門長の中から4人ほどが出て反乱の解決にあたろうと思う」
勇者「1人は僕として、後3人はどうしようか」
団長「元はと言えば儂のせいなのじゃ。儂が行こう」
副団長「団長が行くならボクも行かなくちゃね!」
308: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:35:27.70 ID:Hcs5mSNf0
勇者「そうだね。それじゃあ……あとは戦士、君は西部支部で憲兵隊の統率に当たってくれ」
勇者「僕らに何かあったらいつでも出動できるようにね」
戦士「いいだろう」
勇者「それじゃあ、一時この行政区に部門長が4人もいなくなる」
勇者「商人、ゲストではあるけど魔法使い。あとはお願いするよ」
商人「どうぞお任せを」
魔法使い「仕方ないわね」
勇者「それじゃあ明日には出発しようか」
戦士「おうよ!」
商人「……」ニヤ
309: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:41:26.32 ID:Hcs5mSNf0
―――2日後 北部不干渉区 西部支部―――
ざわざわ……
西部支部には、中央行政区から派遣された憲兵隊が集結していた。
西部支部は奇術国よりに存在していることもあって魔法都市の面影は薄く、むしろ車が通りを走るような科学都市の影響を強く受けていた。
上級隊長「警務部門長殿、各隊集合を完了したでござる!」ザッ
上級隊長「このまま待機するでござる」
戦士「おう。ご苦労だったな上級隊長」
上級隊長とは、半魔盗賊団時代に警備隊長を務めていた犬型魔族の血を引く半魔である。
その剣の腕前は戦士とほぼ互角であり、部下の統制力も高い。
310: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:42:32.90 ID:Hcs5mSNf0
戦士「さて、こっちの方は準備万端だぜ勇者」
勇者「ありがとう戦士、こっちの方もそろそろ行くことにするよ」
団長「わざわざすまんのう」
副団長「ま、キミの出番は今回はお預けだろうけどね〜」
勇者「まあ、それが一番いいことではあるさ」
団長「その通りじゃな……」
戦士「ま、無事に帰ってくるこったな」
戦士「ちょうどいいからかい仲間と武器オタクがいなくなっては俺も少し寂しいからな」
副団長「まったく、誰の心配をしてるんだか」
団長「それじゃあ行くぞ。戦士、上級隊長、後衛は任せたのじゃ」
戦士「おうよ!」
上級隊長「お受け奉るでござる!」
311: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 00:44:47.62 ID:Hcs5mSNf0
ここまで。投稿スピード加速とは何だったのか
ちなみに西部支部の実際の文明レベルは幸の国とほぼ同等な20世紀初頭レベルです。
あと西部支部は通常は都市の名前です。
不干渉区と半魔盗賊団の組織図はそのうちまた詳細が出てきますのでそのあたりでいちど整理します。
313: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 23:27:24.04 ID:Hcs5mSNf0
―――西部支部付近 洞窟―――
団長「さて、ここのようじゃな」
小高い山の麓に大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。
団長「ここは元々盗賊団情報隊の本拠地だった場所じゃ」
団長「おそらく、反乱のメンバーは情報隊だった面々がメインなのじゃろう」
副団長「彼らは特に戦闘能力に長けた連中じゃなかったけれど、もしかしたら罠を張って待ち構えているかもしれないよ」
勇者「そうだね。反乱軍の本拠地にしては静かすぎる」
勇者「警備の1人や2人くらいおいていてもおかしくは無いのに……」
団長「しかし、ここで帰るわけにもいかんじゃろう」
団長「罠と分かっていても飛び込まねばならんことはあるものじゃ」
勇者「確かにそうだね。しかし、罠に嵌める最も効率的な方法は、罠に飛び込まざるを得ない状況に追い込むことだ」
副団長「十分用心した方がいいねぇ」
314: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 23:29:20.10 ID:Hcs5mSNf0
―――…内部
コツ……コツ……
団長「誰もおらんな……」
勇者「本当に静かだね」
副団長「もうそろそろ広場に出るはずだよ」
勇者「あれ? 何か向こうが明るい……?」
団長「広場じゃな。遂にお出ましのようじゃ」
315: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 23:38:02.18 ID:Hcs5mSNf0
―――…広場
勇者「これは……!」
ザワザワ……
広場には大勢の半魔たちが待ち構えていた。そして、正面にはかなり人間に近い容姿の半魔が一人。どうも猿型の魔族の血を引いているようだ。
情報隊長「ようこそいらっしゃいました北部不干渉区の大幹部様方」
情報隊長「私は新半魔盗賊団の情報隊長です」
彼は紳士的な振る舞いで3人を迎えた。
316: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 23:41:31.77 ID:Hcs5mSNf0
団長「『新』、じゃと?」
団長「どうして反乱など起こしたのじゃ情報隊長!」
団長「今すぐにこんなくだらないことを止めて儂の下に帰ってくるのじゃ!」
副団長「そうだそうだ! 戦ってこの3人に勝とうとなんて思わないでよ!」
勇者「僕達は戦いを望んではいないんだ。今すぐに反乱を止めるなら今後の身分も保証する」
勇者「不干渉区のメンバーとして、いや、幹部として尽力してはくれないかな」
情報隊長「……」
情報隊長「やれやれ。くだらないとは物言いが悪いものですね」
317: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/03(火) 23:56:12.82 ID:Hcs5mSNf0
情報隊長「私はがっかりしたんですよ」
情報隊長「なあ団長。お前はもう忘れたのか」
情報隊長「俺達は長い間人間と魔族、両方に迫害され、こんな惨めな何もない土地へと強制的に追いやられてきた」
情報隊長「そしてその中でも争いは絶えず、いつ死ぬかもわからない状況で生き延びてきたんだ」
情報隊長「俺はある日お前に出会い、お前なら争いを収め、半魔が安住できる『半魔の国』を作ってくれるものだと確信した」
情報隊長「そして、俺はお前に仕え、情報隊長という幹部職を持ってそれに尽力し、遂にその目標の寸前まで達成したんだ」
318: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:00:12.72 ID:6BcAb8iE0
情報隊長「それがなんだ? 勇者?不干渉区?」
情報隊長「ふざけるな! どうしてここまで来て人間に支配されなくてはならんのだ!」
情報隊長「ついに『半魔の国』が建ち、平和が訪れるはずだったのに!」
団長「それはじゃな……」
情報隊長「人間は必ずまた俺達半魔を迫害し始めるだろうよ」
情報隊長「これでもう半魔の平和は永く失われてしまったのだ」
情報隊長「ならば、俺は自分で再び平和を勝ち取ってやるまでさ」
319: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:13:15.54 ID:6BcAb8iE0
団長「そ、そんなことは無い!」
団長「お前も聞いたはずじゃ……勇者が半魔だけでなく、魔族、人間三族間の平和を誓った『三族平和宣言』を!」
団長「儂が半魔の国を建てれば、それこそまた迫害の時代への始まりに違いはなかったのじゃ!」
団長「だから儂は盗賊団を解散せずに勇者が……儂よりもふさわしい『王』が現れるのをずっと待ち望んでいたのじゃ」
団長「彼さえいれば必ず平和は訪れる。儂は彼と会った時点でそれを確信したのじゃ。お前が儂と出会った時と同じようにな!」
情報隊長「そんなことがあってたまるものか! 俺は、俺達は自らの手で平和を手に入れなければならんのだ!」
情報隊長「迫害され、争い、命がけで戦ってきたあの日々を忘れたお前に何が分かる!」
団長「忘れてなんかおらん! 儂は『人間』としての生を奪われたあの日から、これまでの日々を一日たりとも忘れたことは無い。いや、忘れられるはずがない!」
シュン
団長は体の表面を覆う魔法を全て解いた。
320: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:14:25.08 ID:6BcAb8iE0
ザワザワ……
情報隊長「ぐ……!」
体の傷は顔にまで及んでいた。大きな石をぶつけられた様な跡が生々しく残っている。
副団長「団長……ああ悲しいことよ……」ハラリ
勇者(あの時は右腕だけだったけれど……やはり全身となると……)
団長「これは全て迫害と争いによってできた傷に他ならん」
団長「儂はこの記憶をこの身に刻んで残りの一生を過ごしてゆかねばならないのじゃ」
団長「これで気は済んでくれんものか情報隊長」
団長「儂はお前を失いたくはないのじゃ。幻影、屈折魔法」
元に戻った。
321: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:15:16.47 ID:6BcAb8iE0
情報隊長「うるさいうるさい!!」
情報隊長「お前などに邪魔はさせん! かかれっ!この半魔の裏切り者を殺せええええっ!!」
ウオオオオオオオオ!!
団長「情報隊長!!」
副団長「駄目だったようですね」
副団長「うぐぐ。ちょっと数が多いかな……」
勇者(ここで派手に戦う訳にはいかないね……)
勇者「団長、ちょっといいかい?」
322: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:21:18.74 ID:6BcAb8iE0
団長「なんじゃ!」
勇者「……ゴニョ……ゴニョゴニョ……」
団長「……分かった。それが最善じゃろう」
団長「副団長。20秒だけ時間を稼いでくれんか」
副団長「お安い御用です!」
ウオオオオオオオオ!!
副団長「数が多けりゃいいってもんじゃないよ!身体強化魔法!」ダッ
バキッ
ドガッ
323: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:31:29.15 ID:6BcAb8iE0
半魔1「ぐわああああああっ!」
半魔2「ええい! 回り込んで団長を狙えっ!」
勇者「……ブツブツ……」
団長「……ブツブツ……ブツブツ……」
半魔3「グオオオオオオオッ!」ダッ
副団長「しまった! 回り込まれたっ!?」
副団長「団長っ!!」
団長「……詠唱完了じゃ」
勇者「こっちも完了したよ」ガシッ
2人は手をつなぎ、逆の手をそれぞれ高く掲げた。
324: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:32:20.18 ID:6BcAb8iE0
勇者「せーのっ」
団長・勇者「「雷魔法(大)!!」」バリバリバリバリ
ズバババババッ
グワアアアアアアアッ
広場内にいた半魔は、情報隊長を除いて全員が雷魔法によって失神した。
情報隊長「……なんだとっ!!?」
情報隊長「ば、馬鹿なっ! 全滅したというのか!?」
団長「ふう。久しぶりの上級魔法じゃったな。コントロールが上手く出来てよかったのじゃ」
325: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:33:20.07 ID:6BcAb8iE0
勇者「全員失神でとどめてあるね。さすが団長の魔法コントロールだ」
団長「分かったかのう情報隊長。このように人間と半魔が手を取ってゆくことも十分に可能なのじゃよ」
団長「人間はもう二度と半魔を迫害することは無い。魔族も同様にじゃ。必ず平和は訪れる!それは儂が誓ってやろう」
団長「儂はお前を責めたりはせん情報隊長」
団長「もう一度儂の下で任を全うしてはくれんかの」
団長「ちょうど行政部門長の席を空けようと思っておるのじゃ」
情報隊長「ぐぐ……」ガクッ
情報隊長「俺は……俺は……」
情報隊長「俺は…………」
326: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:37:45.83 ID:6BcAb8iE0
情報隊長「俺は人間の下になどつきはしないいッッ!!!」チャキッ
勇者「なっ! 銃だと!?」
銃とは、魔術国でいう『魔法の杖』にあたる武器である。ちなみに、不干渉区では徹底的な禁輸政策がとられていた。
団長「いかん!!」
副団長「動体視力、反射神経向上魔法!」
情報隊長「死ねえええええええええ!!」
327: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:39:03.09 ID:6BcAb8iE0
>>>>>>スロー>>>>>>
バ゙ァァァァァァァン
長い銃声の中、副団長の周りの世界は減速していく。
反射神経向上魔法により、その元から並はずれている反応速度は更に10倍以上に上がっているのである。
副団長(よし、見える! このままいけば十分間に合う!)
副団長(よーしこのままこのまま……左腕で庇って、防御魔法を集中すれば……)
副団長(これで防いだ……!!?)
<<<<<<<常速<<<<<<
328: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:40:19.69 ID:6BcAb8iE0
ビシィッ
弾は、勇者と団長を庇った副団長の左腕に命中した。
副団長「ぐああああああっ!!」
団長「副団長!」
勇者「防御魔法を貫通した!?」
副団長「っつう……一体どんな小細工を……」ポタポタ
情報隊長「はははははは!! この銃は『ある男』が俺に渡した、奇術国の最新の武器なのさ!」
情報隊長「この銃には、魔法を打ち消す『反魔法弾』が込められているのだ!」
329: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:41:01.72 ID:6BcAb8iE0
情報隊長「この弾で撃たれれば防御は不可能、回復もできん!」
情報隊長「さあどうする? お得意の魔法は使えんぞ! それとも俺を殺すか?」
情報隊長「はははははは!! 半魔の平和を犯すお前たちはここで皆死ぬのだ!!」チャキ
勇者「団長! 危ない!」
団長「そんな……」
副団長「くっ、岩壁魔法!」ポタポタ
ズドドドドド
情報隊長「何ッ!?」
情報隊長と勇者たちの間に岩の壁が高くせりあがった。壁は情報隊長を取り囲んでしまった。
330: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:41:48.09 ID:6BcAb8iE0
副団長「ぐっ……これで手出しはできないだろう」ポタポタ
団長「すまん副団長。儂のせいで……」
団長「今止血してやるのじゃ」ビリッ
副団長「あ、ありがとうございます!」ギュッ
副団長「でも大丈夫ですよこれくらい! 団長が傷つくことに比べたら安いものです!」
勇者「西部支部ですぐに手当てしよう。奇術連合出身の医者も増えているし、『奇術式』の治療なら対応できるはずだよ」
勇者「しかし、魔法を無効化する間接武器とは……奇術の国も厄介なものを発明したものだ」
団長「そうじゃな。じゃが問題は……!?」ハッ
ゴゴゴゴゴ
団長「この魔力は!?」
勇者「しまった、まだ罠が……?」
331: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/04(水) 00:44:02.24 ID:6BcAb8iE0
てなわけでここまで
ちなみに、この世界の魔法はその威力に応じて5ランクに分かれています。用語の参考までに
5 最上級魔法 魔法陣だけでなく、魔法の実力者複数人の同時詠唱がなければコントロールできないほどの威力。
4 超上級魔法 発動に魔法陣と多大な魔力を必要とする。基本、移動ができないため罠として使われることが多い。
3 上級魔法 どんな熟練者であってもそれなりの時間を詠唱に費やさねばならない。
2 中級魔法 熟練すれば下級魔法と同様に扱える
1 下級魔法 ほとんど詠唱なしで唱えることが可能
333: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/11(水) 22:40:43.09 ID:ONli8eTm0
―――……洞窟 上空
バサッバサッ
偵察係1「まーだ帰ってこないな勇者」
偵察係2「ほんとだよなー。あの3人のことだからパパッと行ってパパッと帰ってくるものだと思っていたんだけどな」ハハハ
偵察係1「まったくだよな。あのメンツじゃあ魔王軍の1つや2つ簡単につぶれちまうぜ」
ゴゴゴゴ
偵察係2「!? なんだこの魔力は!?」
偵察係1「こ、ここまで魔力が漏れ出てくるとは……『超上級魔法』か!?」
偵察係2「まずい、警務部門長に伝聞魔法を送れっ、早く!!」
334: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/11(水) 22:43:36.24 ID:ONli8eTm0
―――洞窟付近 憲兵隊待機場所―――
ダダダッ
隊長A「大変です部門長!!」
隊長A「洞窟上空の偵察係から伝聞魔法が入ったのですが……」
上級隊長「何やら騒がしいでござるな」
戦士「なんだ? なにかあったのか」
隊長A「『偵察隊より 洞窟上空にて強力な魔力の漏洩を確認 超上級魔法が内部にて発動した疑いあり 応援を要請する』 だそうです!」
戦士「超上級魔法だぁっ!?」
上級隊長「な、反乱軍にそのような魔法の使い手がおったというのでござるか!」
335: ◆9GmoiQGLItwN 2014/06/11(水) 22:44:06.08 ID:ONli8eTm0