転載元:勇者「停戦協定?」
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勇者「停戦協定?」【前編】【中編】【後編】
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・男「よりによって最後の村に生まれてしまった」
・医者「こりゃアレだね、一日30回くらいはオーガズム感じちゃう奇病だね」 俺「うわーん…やったぜ!!」
・【胸糞注意】女「痴漢です!」 男「えっ」 私服警察「えっ」
―――勇者出発当日 昼 奇術連合との国境付近―――
ザッザッザッ
企業連合不干渉区支社長「いやはや、奇術国の代表として、私がこれから案内をさせていただきますね」
支社長「よろしくお願いします」
勇者「ああ。よろしく」
支社長「準備はよろしいですね。それでは早速参ることにしましょう」
勇者「よし! それじゃあいってくるよ」
戦士「おう! 隊長A、隊長B、そして上級隊長。このヘボ勇者を頼んだぜ!」
隊長A「承知」
隊長B「ラジャーッ」
上級隊長「お任せあれでござる」
勇者「ははは。頼もしい限りだよ」
魔王「ふん!魔法使いのお陰でさらに強くなった私の力を見せてあげるわ!」
魔王「覚悟なさい!」ビリビリッ
勇者「君は誰と戦うつもりなのさ……」
ザッザッザッ
PARTY1
勇者
上級隊長
隊長A
隊長B
魔王
PARTY2
団長
外副長
―――…
支社長「いやはや、これからの日程を確認させていただきますとですね」
支社長「まずは、この森を抜けたところに自動車を用意してありますから、それに乗って『ヤマダ市』を経由し、電気の国の首都へと向かいます」
支社長「そこからは鉄道で一気に奇術の国の首都まで行きますので、到着は3日もかからないでしょう」
勇者「たった3日も!? 奇術の国の交通網はそこまで発達していたのかい?」
勇者「何度か行ったことはあったはずなのに……知らなかったな」
魔王「私でさえ徒歩で勇者の城へ行くのに3週間もかかったというのに……」
勇者「それは当たり前だろ。てか君は飛べたんじゃなかったっけ?」
魔王「あっ」
勇者「そういや魔術国を通って北部の荒れ地まで行ったときは1カ月はかかったな」
支社長「当然です。あのような非科学的な国々と一緒にされては困りますよ」
勇者「奇術国連合の国民はそこまで魔術連合を嫌っているのかい?」
支社長「ええ、まあ。この世界には科学で証明できないことなんてありえないんです」
支社長「もしそんなことがあればエントロピーは増大し、世界は滅びてしまう」
支社長「そんなことも知らずに魔法などという非科学的な現象を扱うというのは、脅威以外の何物でもないと思いませんか」
勇者「なるほど……それも面白い見方だね」
勇者「まあ僕も魔法を使わないわけじゃないけど……そこまで考えたことは無かったなぁ」
支社長「いやはや失礼しました。勇者様やこの不干渉区の皆様は科学のことも理解していただいているようなので恨む理由もありません」
支社長「あまり気になさらないでください」
魔王「でも、魔法もなしに一体どうやって暮らすつもりなのよ」
支社長「そのために科学があるんですよ。既に様々な物理法則や定理が先人の手によって発見されていますから、それを使って私たちは新たな技術を生みだしているのです」
魔王「ど、どこかで聞いたことがあるようなセリフね……」
支社長「?」
支社長「まあともかく、魔術と科学の対立は今に始まったことでもありませんし、今でも魔族と人間同様深い溝が隔たっているのです」
支社長「それはなかなか消えるものでもないでしょう」
勇者「なるほどね。対立は人の常ということかな」
支社長「そういうことです」
―――…3時間ほど後 森を抜けた先 ロードサイド
支社長「それではどうぞお乗りください」
勇者「実際に自動車に乗るのは生まれて初めてだなぁ」
魔王「何この四角くて黒い乗り物は? 爆発したりしないでしょうね!」
支社長「ははは……」
勇者「なんつーぶっそうな」
勇者「大丈夫、これは自動車と言ってね。人を運ぶ乗り物なのさ」
魔王「ふーん。まあいいわ。じゃあさっさと乗せなさい!」グイッ
勇者「わっ!押し込むなって!」ゴン
バタム
勇者「頭を打ったじゃないか……イテテテ」ヒリヒリ
魔王「あら御免あそばせ」
勇者「なんだか言葉遣いが魔法使いに似てきたよな」
魔王「ま、まさか!気のせいよ!」
支社長「それでは、ここからヤマダ市は15分ほどですので」
勇者「意外と近いんだね」
支社長「この自動車は馬車の10倍はスピードが出ますからね」
勇者「うお……そいつは目が回りそうだ」
支社長「おい、出してくれ」
運転手「はっ」
ブロロロロ
こうして、勇者一行は無事にヤマダ市へと至るのであった。
―――勇者出発の少し前 奇術連合上空―――
団長は勇者より先に、奇術の国の理事長に面会するため奇術の国の首都へと向かっていた。
バサッバサッ
団長「しかし、実行隊長の背中に乗って飛ぶのはずいぶん久しぶりじゃな」
団長「少しは重くなったじゃろ」
外副長「へへっ。団長はいつ乗せても同じ重さですぜ」
外副長「それは初めて団長をのせて敵の基地へ突撃した時から何も変わっていやせんよ」
団長「なんじゃ。もうちょっとお世辞くらい混ぜてはくれんのか」シュン
外副長「世の中のレディーはむしろ若いことを好むもんだって聞いていやしたがね」
団長「若いと幼いは別問題じゃろ」
外副長「そんなん似たようなもんじゃねえですか」
団長「似ておるものか。儂だっていつかあの魔王や副団長のようなナイススタイルを手に入れてじゃな……」
外副長「あれじゃあ団長の御顔に似合いやせんぜ」
団長「そういう問題じゃないじゃろ」
外副長「それより、団長はそのババ臭い喋り方を何とかした方がいいんじゃねえですかい?」
団長「あ、今ババ臭いって言ったな? 傷つくぞ。儂かなり傷つくぞ」
外副長「そんな怒らねえでくださいよ。冗談です冗談」
団長「冗談でも言ってもいいことといけないことはあるものじゃ」
団長「全く。昔からお前もそういう所だけは変わっておらんな」
外副長「お説教はやめてくださいよ。余計にババ……若さが廃れやすぜ」
団長「ふん。もう廃れてもらって結構じゃ」
団長「もともとこの喋り方を始めたのだって、こんな姿に少しでも威厳をもたせたかったからにすぎん」
団長「むしろその方が目的にあっているともいえる」
外副長「なあんだ。開き直っちまいましたか」
外副長「そういや確かに、あっしが団長に会った初めのころは普通の喋り方でいやしたような」
団長「うむ。そうじゃな。あの頃はまだ弱くて皆に迷惑ばかりかけておった」
団長「なんせ魔力だけが頼りじゃったからな。魔法石が切れたらただのか弱い少女じゃ」
団長「そんなものを守るために一体どれだけの半魔が犠牲になってくれたことか……」
外副長「そうですかねえ。あっしも含めて、死にかかったり戦いに負けて逃げてきた半魔を片っ端から救ったのは団長に他なりやせんからね」
外副長「もうあっしらの命はハナっから団長の命と同じようなもんだったってー訳でありやすよ」
団長「そうか。そう言ってくれると嬉しいな」
外副長「この実行隊長、命に代えても団長をお守りいたしやす。どうぞご安心を」
団長「な、なんじゃ、そういう時だけ格好つけおって」
団長「そんなことをしてもケーキはやらんぞ!」
外副長「あ、団長ったら照れていやすね!? いやあ可愛らしい」
団長「や、やめろ。そういうのにはあまり慣れておらんのじゃ」
外副長「団長はまだまだお子様でいやすねぇ。それじゃあ伸びるもんも伸びやせんぜ」
団長「ふん。悪かったな」
外副長「あ、いつもの団長に戻っちまいましたか。残念」
団長「何が残念じゃ」
団長「さて、そろそろ奇術の国本国に入るころかのう」
外副長「そのようですね。目下の景色も大分変わってきやしたし」
外副長「日暮れには着きそうですぜ」
団長「うむ。奇術の国の首都か……まだ行ったことは無いな」
団長「どんな町が広がっているんじゃろうか」
外副長「そうですねぇ。商人の話だと魔術連合とは全く異次元のような世界が広がっているそうでありやすが」
外副長「にわかには信じがたい話でありやすね」
団長「まあ、百聞は一見に若かずじゃ。行けばおのずとわかることじゃろう」
団長「理事長の考えも含めてな」
外副長「理事長ですか。やっぱり何か絡んでいるんですかね」
団長「分からんな。勇者もいくつか推測は出しておったが、まだ証拠はない」
団長「儂には戦略的な考え方の知識は備わっておらんし、どうとも言えんな」
外副長「そうでありやすか」
外副長「もし、絡んでいるんだとしたら……」
外副長「……殺しやすか?」
団長「馬鹿言え、そんなことをしたらそれこそ奴の思うつぼじゃ」
団長「あちらはあちらでリスクも負っておるわけだし、わざわざ儂らが首を突っ込むこともないじゃろう」
団長「まあ、もし暗殺計画が実在しているとしたら、急いで儂らは勇者の元へ戻らねばならん」
団長「全力で勇者を守り、帰還するのじゃ」
外副長「そうですねぇ。しかし、ここから恐らく勇者がいるあたりへ向かうにはまた4,5時間はかかりやす」
外副長「あっしが先に過労で倒れちまいますぜ」
団長「嘘つけ、実行隊の時は無休で諸侯国貴族の屋敷へ交渉しに飛び回っていたじゃろうに」
団長「そのガラの悪い口調で貴族の親どもを震え上がらせていたと聞いたぞ」
外副長「へへへ。そんなのは嘘偽りばかりですよ。あっしはあくまで優しく小金をくすねてやっただけでありやす」
外副長「あいつらもどうせ金が有り余ってたんだから、ばちは当たりやせんぜ」
団長「そうかのう……まあ、直属三部隊の中で唯一1人として死者を出したことがなかったのが実行隊の美点ではあるか」
外副長「まあ、とくに戦闘することもありやせんでしたからね」
外副長「他の隊からは楽なもんだってよく冷やかしを受けたもんです」
外副長「とくにあの情報隊長なんかは……おっとこれは失礼しやした」
団長「いや、いい。気にせんで欲しいのじゃ」
団長「勇者にも言われたが、情報隊長は情報隊長で正しいことをしたまでにすぎんのじゃよ」
団長「奴は儂に命の借りがあったわけでもないしな」
外副長「そうでありやすけどねぇ……」
団長「もう終わったことじゃ。今からどうこう言おうと何も変わるものでもないのじゃ」
団長「儂らは前を見続けねばならん。こんなご時世じゃ。そうでないと時代の波にさらわれかねんぞ」
外副長「それならあっしは飛べるんで心配も無いでありやすね」
団長「逃げてどうする」
外副長「時にはヒット&アウェイというものも必要ですぜ」
団長「それはちょっと意味が違うんじゃないのか?」
外副長「細かいことは気にしないもんです」
―――夕方 奇術国首都上空―――
奇術の国の首都は高層ビルが立ち並ぶ巨大都市であった。
そして、その中でも一際存在感を放つビルこそ、奇術国企業連合の本社である。
もとは王政であったこの国は、自然資源と流通資本の拡大による企業の台頭により政治制度を改革。
王政と民主制を半ば組み合わせたようなシステムを構築している。
バサッ
団長「うわぁーっ! これは凄いな!」
外副長「思った以上に異次元でありやしたね……」
団長「儂らが飛んでいる高さのすぐ下まで建物が届いておるぞ……いったいどんな材料が使われておるんじゃ」
外副長「副団長に見せたら失神しそうですね」
団長「うーむ。逆に目を輝かせて行政府の近くにこれくらい高い塔を建設しそうな気がするのじゃ」
外副長「ああ確かに。それも可能性がありやすねえ」
団長「しかし、ここまで形も整って継ぎ目すら見られんとは……奇術の国の『科学』とは侮れんものじゃな」
外副長「企業連合の本社とはどれでありやしょうかねえ」
団長「多分あれじゃろう。ほら、あの1番高いやつじゃ」
外副長「お、たしかにあれっぽいでありやすね」
外副長「屋上に止まってみやすか」
団長「頼む」
―――企業連合本社ビル 屋上―――
団長「お、誰かが待っておるぞ」
外副長「ここで間違いないようですね」
バサッ
シュタッ
外務理事「お待ちしておりました、北部不干渉区の外務代表……様?」
団長「儂が元半魔盗賊団の団長じゃ。ぼちぼち聞いておるじゃろう」
外務理事「おお。これは失礼いたしました。私は奇術の国『外務理事』を務める者です」
外務理事「理事長がお待ちです。案内しますのでどうぞ」
団長「うむ。よろしく頼むぞ」
外務理事「あ、もう一方のほうはここでお待ちください。外務代表以外の方は入れるなとの命令が出ておりますので」
外副長「なあんだ。あっしは門前払いですかい」
団長「すまんな。すぐ戻ってくるのじゃ」
外副長「分かりやした」
ガチャ
―――本社ビル最上階 廊下―――
コツコツ
スタスタ
外務理事「しかし、まさかこんな幼い方があの不干渉区の幹部をなさっているとは」
外務理事「この世は科学では説明できない不思議なものが絶えないものです」
団長「幼いとは少し違うな。儂は成長が止まっているだけで生まれてからの月日は20余年程経っておる」
団長「まさに頭脳は大人、見た目は子供というやつじゃ」
外務理事「なるほど。これは少し誤解がありましたね」
外務理事「それでは、ここが理事長室になります」
団長「ありがとう。次はお主とは平和会議で顔を合わせたいものじゃな」
外務理事「ごもっともです」ニコッ
ガチャ
―――理事長室―――
バタン
団長「お主が理事長か?」
そこにいたのは背もそこまで高くないやせ形の男。
スーツに身を包み、黒縁メガネを一拭きしていた。
デスクの後ろには、ガラス越しに夕焼けに包まれた大都市が寝そべっていた。
理事長「お、これはこれは」カチャ
理事長「その通りです。私が奇術の国企業連合理事会の代表『理事長』です」
理事長「どうぞよろしくお願いします」
団長「儂がここに来た理由は大体わかっておるな」
理事長「そうですね。勇者様の安全の確保と言ったところでしょうか」
理事長「先に申し上げましたように電気の国の首都には僧侶さんの配下の軍を配置しています」
理事長「そこから先は彼女らが護衛の任務に就くことになっていますから、ご安心ください」
団長「なんじゃ。それならよかったのじゃ」
団長「儂の心配は杞憂だったようじゃな」
団長(しかしこの男……武器も取り上げなかったし、一体何を企んでいるのやらわからんな)
理事長「そうかもしれませんね」
団長「『かも』じゃと?」
理事長「ええ。何事においても不測の事態という物は起こりえるものです」
団長「な、何を……」
理事長「まあいいでしょう。もう用件は済みましたね?」
理事長「私も忙しいので、そろそろ仕事に戻らねばなりません」
団長「……まあいい。勇者の安全が確保されるならそれでいいのじゃ」
理事長「そうでしょうか。誰も勇者様の安全が確保されたとは言っていませんよ?」
団長「何?」
理事長「確かに電気の国の首都到着以降は安全かもしれませんが、それまではどうです」
理事長「現在勇者様は国境付近のヤマダ市にて泊していらっしゃるそうですが……」
理事長「軍務理事によると、今夜その付近で大規模な軍事演習を行うということです」
理事長「どうです?タイミングが良すぎると思いませんか?」
団長「なっ!よすぎるも何も、お主が合わせたんじゃろう!」
理事長「ええ。その通りです」
理事長「勇者様には申し訳ないですが、ここで亡くなってもらわねばなりません」
理事長「全ては我が奇術連合の利益の為です」
団長「きっ貴様やはりっ!」シャキン
団長は剣を構えた。
理事長「私を斬りますか?おすすめはできませんね」
理事長「折角ここまで平和の道を開いてきたというのに、わざわざ閉ざす必要もないでしょう」
団長「ぐっ……」
理事長「貴女ならきっと分かるはずです。これから迫る危機と、それを打開する方法が」
理事長「もしそうでないなら……私の合理主義が完全性に欠けていたというだけです」サッ
バタン
タタタッ
理事長が手を挙げると、扉から銃を持った警備兵が数人入り込み、団長を取り囲んだ
チャキッ
団長「うっ……やはり初めから待機させておったか」
理事長「父親を……」
団長「ん?なんじゃ」
理事長「元上級魔族の父親を探してみてください」
団長「儂の父親を?」
理事長「ええ。魔国におそらく資料があるでしょう。あの魔王にでも頼んでみてください」
団長「な、どうして魔王のことを……!?」
理事長「そうすればこの危機の一部が見えてきます」
団長「な、何を言っておるのじゃ!」
理事長「……それでは、貴方には大人しくしていてもらいます」
理事長「反魔法錠をつけて拘束しておいてください」
警備兵「はっ」
団長(まずい……このまま捕まるわけにはいかん……)
団長(かといって理事長を殺せば半魔は暗殺者の汚名を着せられ今までの苦労は水の泡……)
団長(派手に暴れるわけにもいかん……)
団長(なにかここから脱出できる方法は……)
団長(!)
団長(そうかあれがあったか!)
団長(しかし……もし失敗でもすれば即死か)
団長(一か八かやってみるしかあるまい……)
団長(確かあの部分はこうで……あれをこうして……)
警備兵「大人しくしていろ」
団長「よし!」
警備兵「ん?」
理事長「……」
団長「転移魔法!!」
シュバッ
―――本社ビル外 理事長室の外側―――
シュバッ
団長「はっ!? せ、成功か!!」
ヒュウウウ
団長「実行隊長!!どこじゃ!」
外副長「ここにいやすぜ」
バサッ
ドテッ
団長「いたたた……なんじゃもうちょっとソフトに受け取れんかったのか」
外副長「団長こそもうちょっとスタイリッシュな着地をしてくだせえよ」
外副長「腰を痛めちまうじゃねえですか」
外副長「それに、突然外に現れた団長に上手く反応したあっしを誉めてもらいたいものですね」
団長「ふう……そうじゃな。ありがとう実行隊長」
外副長「しっかし、あんなとっから御退場ということは……」
団長「ああ。最悪のケースじゃ」
団長「やはり奴は暗殺を企んでおった」
団長「急げ!全速力で勇者を救いに戻るのじゃ!」
外副長「あいあいっさー!」
バササッ
―――理事長室―――
ザワザワ……
オイッキエタゾ!?
ソトダ!ソトニデタゾ!
理事長「なるほど……あれは転移魔法というものですか」
理事長「合理的ではありませんが、非常に興味深いですね」
スタスタ
軍務理事「おやおや、どうやら取り逃がしたようですねえ」
軍務理事「追いますかい?」
理事長「結構です」
理事長「彼女は純粋に保護をしておくつもりでしたが、わざわざ捕まえてまでする必要もありません」
軍務理事「そうですか……ところで、本当にこれでよかったんですかい?」
軍務理事「わざわざ自分を犠牲にしなくてもよかったのでは……」
理事長「それが一番合理的なのです」
理事長「私の役目はここまでで結構なのですよ」
理事長「軍務理事、あとは任せました」
理事長「これで彼らはかなり動きづらくなることでしょう」
理事長「しかし、まだ完全に危機が消え去ったわけではありません」
理事長「後のことは、僧侶様や勇者様にお任せせねばなりません」
軍務理事「さっき殺すと言っておいてちゃっかり勇者様がはいってますぜ……」
軍務理事「本当に死んだらどうするつもりなんだか」
理事長「そうなったらそうなったでプランはありますよ」
軍務理事「無責任な……」
軍務理事「ま、それもどうせ最も合理的なんでしょう」
理事長「その通りです」
理事長「と、言いたいところですが、最後の最後は勇気や感情、運というものに任せなければならない部分もあります」
理事長「古くから、計略に勇気が勝ることは幾度となくあったことです」
理事長「むしろ、そちらの方が強力なのかもしれません」
軍務理事「ガラに合っていませんな」ハハハ
軍務理事「最後の最後に合理主義の敗北を認めるとは」
理事長「認めたわけではありませんよ。ただ、そういう場合も少なからずあるという話をしただけです」
理事長「次は、貴方がた若者の番です」
理事長「期待していますよ」
軍務理事「ええ。お任せあれ」
―――同日夜 ヤマダ市ホテル テラス―――
勇者たちは夕食の後、それぞれ自由行動をとっていた。
もちろん憲兵隊の面々は警備に向かっていた。
勇者「ふーん。するともう一週間で魔王は魔導方程式の基礎をマスターしてしまったわけだ」
魔王「ま、私にかかればあれくらい容易いものよ!」エッヘン
魔王「でも、苦手だった炎系魔法や地面系魔法まで使えるようになったのはありがたいことね」
勇者「ははは。魔王も炎と地面が苦手だったのか。僕と同じだね」
魔王「ふん!雷系魔法しか使えない勇者と同じにされたくはないわね!」
勇者「げ、なんでそれを知ってるのさ」
魔王「魔法使いが嬉しそうに教えてくれたのよ」
勇者「あいつめ……」
勇者「それはともかく、どうだいこの奇術国連合の様子は」
勇者「新しい物が多すぎて目が回るんじゃないのかい?」
魔王「その通りね。もうはしゃぐ気力も失せてしまったわ」ハァ
勇者「そいつは何より」
勇者「相手と仲良くしようと思ったらまずその相手の中身を知らないといけない」
勇者「それは文化や伝統にだってあてはまる事さ」
魔王「本当に勇者の言うとおりね」
魔王「私もお父様も、何も人間のことを知らなかったからこそ敵対できたんだわ」
魔王「こんなに素晴らしい文化があるのに。こんなに美しいものであふれているのに。それに見向きもせずに滅ぼしてしまおうとしていた」
勇者「でももう魔王は僕と同じようにそれを知っているじゃないか。それもまた素晴らしいことだよ」
魔王「そうね。だったら次は人間が、私たちのことを知ってくれなければならない番ね!」
勇者「そういう面では人間は未発達な部分が多いからなあ」
勇者「でも大丈夫さ。時間をかけさえすればきっとそれは叶う。少なくとも敵対していた時よりはましだよ」
魔王「そう信じたいものね」
タッタッタッ
上級隊長「勇者殿、ちょっとよろしいでござるか」
勇者「ん?どうした上級隊長」
上級隊長「何やら奇術国の警備兵たちの様子がおかしいでござる」
上級隊長「隊長Aによれば、正面玄関を塞ぐようにして集まっているということでござる」
上級隊長「嫌な予感がするでござる。ここはひとまず隊長Bが見つけた裏口から抜け出した方がよろしいかと」
勇者「なんだって……?」
魔王「なんで私がコソコソ逃げ出さないといけないのよ!」
魔王「あっちからかかってくるなら上等よ!返り討ちにしてくれるわ!」
勇者「ははは。そう言ってくれると頼もしいんだけど、状況はそう単純じゃない」
勇者「ここは一般国民も多いし、派手に半魔や魔族と人間が争ったことになれば、各地で盛り上がっている親魔族思想と反魔族思想の形勢が一気に逆転することになりかねない」
勇者「彼らもそれを狙っている可能性が高いんだ」
勇者「いったん国境の森へ逃げ込む。しかしもしそこまで追ってくるようならば、多少の自己防衛はできるだろう」
勇者「その時は攻撃を許可するよ」
魔王「……ふん!仕方ないわね。そこまで言うなら従ってあげようじゃないの」
勇者「ありがとう」
ドタバタ
隊長A「大変です上級隊長!さきほど団長から伝聞魔法が届きました!」
隊長A「『今夜ヤマダ市周辺にて奇術国軍の軍事演習予定 勇者を狙う意思あり 直ちに逃れたし』だそうです!」
勇者「軍事演習か。個人の暗殺に軍を仕向けるとは、どうやら本気のようだね」
上級隊長「奇術国の軍とは……恐ろしい兵力を持つと聞いていたでござるが……」
魔王「ふん!私にかかれば軍だろうが国だろうが打倒してやるわよ!」
勇者「本当にできそうだから困る」
勇者「とはいえ彼らも大規模な動きにならざるを得ないか」
勇者「森まで行ったらこちら側も派手に応戦しなくてはならなくなるかもしれないな」
魔王「腕が鳴るわね!」
勇者「できれば鳴らしてほしくないけどね」
上級隊長「とにかく、裏口はこっちでござる!急ぐでござる!」ダダッ
タッタッタッタッ
勇者(しかしどうしてここまで派手にやる必要があるんだ?)
勇者(奇術国では最早僧侶率いる親魔族派が優勢のはず。やりすぎれば窮地に陥るのは自分たちだ)
勇者(一体理事長は何を企んで……)
勇者(これは思った以上に事情は複雑かも知れないな)
―――裏口―――
タタタッ
支社長「勇者様! まだここまで軍は来ておりません。急いでください!」
勇者「支社長!迎えに来てくれたのかい」
支社長「ええ、私は勇者様に恩も多くありますからね」
支社長「それより早く!行きと同じく憲兵隊の方々はもう一台の方に乗ってください!」
上級隊長「かたじけないでござる!」
バタム
ダダダッ
奇術軍兵1「おい!勇者がいるぞっ!」
奇術軍兵2「撃て撃てっ」ジャキ
運転手「軍がもうここまで来たようです!」
支社長「ええい!急いでだせっ」
ブロロロ
ドカッ
奇術軍兵1「ぐわあああっ!」
ブロロロロ……
―――電気の国 北部不干渉区方面への国道 国境の森付近―――
勇者「ふう。このまま森まで戻れそうだね」
魔王「まったく、とんだ歓迎だったわね!」
魔王「もう少しぐらい丁重にもてなすべきなんじゃないの?!」
支社長「はい、どうやら軍は追ってきていないようですので……」
支社長「ん?あれは……」
支社長「空が赤い?」
魔王「まさか、夕焼けはもうとうに済んだはずよ」
勇者「あれは……森に火が!?」
支社長「そのようですね。どうやら先回りをされたかもしれません」
運転手「支社長!前方に軍のバリケードが!」
支社長「やはり……」
勇者「参ったな、何とか越えないと帰還できない……」
ブロロロ
奇術軍『前方の車両に告ぐ! 停止せよ! さもなくば攻撃する!』
勇者「止まれば地獄、行くも地獄、かな」
魔王「ええい!私に任せなさいっ!」バチバチ
魔王は窓から身を乗り出した。
勇者「わっ!待つんだ!」
魔王「くらえっ! 爆破魔法!」バシュッ
チュドーン
ウワアアアアアッ
ナンダナンダッ
ブロロロ
奇術国兵「まずい!避けろ!」
ドカカッ
ブワッ
魔王「よしっ!超えたわね!」
運転手「うっ!爆風で視界が!?」
支社長「持ちこたえろ! もう少しのはず……はっ!?」
勇者「危ない!!」
キキーッ
グシャアンッ
勇者の乗った車は森の木に激突した。
魔王「きゃああっ!?」ドタタッ
勇者「ぐあっ!」
プシュー
勇者「いつつつ……支社長!無事か」
支社長「がはっ!」ビシャ
運転手「」ガクッ
支社長「ぐ……は、はやく……お行きください……」ダラー
勇者「大丈夫だ!今回復する!」パァー
魔王「無駄よ!傷が深すぎるわ!」
支社長「げほっ」ビシャ
勇者「くっ……駄目か……」
支社長「軍が……来ます……私のことはいいですから……」ハァハァ
勇者「すまない……」
支社長「商人様に……」
勇者「何?」
支社長「商人様に……お気をつけて……」ガクッ
勇者「支社長!!」
ダダダッ
上級隊長「勇者殿!無事でござったか!」
勇者「上級隊長! そっちは大丈夫だったかい?」
上級隊長「もちろんでござる! しかし軍が真後ろにせまっているでござる!」
上級隊長「急ぐでござる!」
奇術国兵「いたぞ!!殺せ殺せっ!」ダダダダッ
魔王「勇者、急ぐわよ!」
勇者「ああ!」
ダダダッ
―――少し前 北部不干渉区電気国との国境付近の町 酒場―――
カラン
戦士「あーあ、一人の酒ってのはどーも寂しいもんだな」
戦士「せめてあの猫女でもいれば手合せでもできるんだが……」
副団長「お呼びかな?」ニュッ
戦士「うわぁっ!」ガタッ
戦士「どっから湧いてきやがった!」
副団長「いやあ、ボクもさっきようやくこの町に着いたんでね」
副団長「キミがいそうな場所に寄ってみただけさ」
副団長「そしたら案の定だったよ」
戦士「なんだ、いつの間に絶望の淵から蘇ってやがったんだ?」
副団長「ニュフフフ。団長の危機と聞いたらボクだっていつまでも落ち込んではいられないよ」
副団長「団長はこのボクがどんな敵からも守り抜いてみせるのさ!」
戦士「とか言って出遅れてるじゃねえか寝ぼすけめ」
副団長「なっ!ボクは寝坊したわけじゃないぞ!」
戦士「そういう意味じゃねえよ」
戦士「ははは。しかしこのノリも久しぶりだな」
副団長「な、何がおかしいのさ!」
戦士「いや、すまない。ついな」
戦士「一週間も会っていないとまた少し新鮮に感じるもんだよ」
副団長「ニャるほど……さてはこのボクが恋しかったんだね?」
戦士「なんでそうなる」
戦士「……とは言ったものの、全否定はできんな」
副団長「ほらみたことか」
戦士「お前がいないと毎晩手合せができる奴がいないからな。剣の腕が鈍ってしょうがない」
副団長「剣の手合せなら上級隊長がいるんじゃないのかい?」
戦士「あいつはクソがつく真面目でな。夕飯から2時間で必ず寝床に入っちまうからお前みたいに夜通しで付き合ってはくれんのだ」
副団長「ああ。そういえばそうだった」
副団長「上級隊長の生活リズムは多分5年くらいは全く変わっていないね」
戦士「よくぞまああそこまで合わせられるもんなんだか……」
副団長「キミもよく出仕に遅れて上級隊長に怒られるそうじゃないか」
副団長「部門長たるものが情けない」
戦士「う、それはお前と毎晩毎晩決闘しているからだろ」
戦士「お前だってよく遅刻するんじゃないのか?」
副団長「まさか。ボクがそんなくだらない失敗を犯すはずがないじゃないか」
戦士「何!?じゃあいつ寝てやがるんだ?」
副団長「さあね。他のみんなが疲れて居眠りをしている時かな」
戦士「な、それでよくもつな……」
副団長「半魔なんで」
戦士「それで片づけるなよ。じゃあもし寝ていやがったらそのうっとうしい尻尾を切り取ってやるからな」
副団長「ギニャッ!?な、なんてことを!」バッ
戦士「ははは。冗談に決まってるだろ。いちいち本気にするとは心底までピュアな奴だな」ケラケラ
副団長「な、ピュアじゃないし!半魔だし!」
戦士「ピュアをなんだと思ってやがるんだ」
副団長「そうだ、前の暗殺未遂事件の調査は進んだのかい?」
戦士「ん?それがさっぱりでな……」
戦士「いくら商人や入国者をチェックしても怪しい奴の1人もでてきやしない」
戦士「本当に転移魔法でも使ったんじゃないのか?」
副団長「うーん。もしそうなら調査のしようもないね」
副団長「魔術連合との国境の方もチェックしているのかな?」
戦士「何言ってんだ。どうやったら奇術国連合の刺客が敵国である魔術国連合に入り込めるんだよ」
副団長「ニャハハ。それもそうだね」
戦士「まさか戦争中の国境を越えてくるわけでもあるまいし……」
戦士「ん?まてよ?」
戦士「いや、ある! 奇術国連合から魔術国連合へと容易に入れる方法があるじゃねえか!」
副団長「ニャにっ!?一体どうやって?」
戦士「あの国だよ。俺達の故郷『幸の国』を通ればいい」
戦士「確かにあの国は検閲も厳しいが、もし内部に協力者がいるとすれば別だ」
副団長「ニャるほど……」
戦士「まずいことになったな……奇術国連合側の検問を厳しくした分、魔術国連合方面の検問はかなり甘めだったんだ」
戦士「もし刺客が幸の国を通って魔術国連合からここへ侵入しているとしたら、行政区にまで潜伏しているかもしれん……」
副団長「な、それはかなり危険なんじゃないのか!?」
戦士「ああ。その通りだ。今すぐにでも魔術国連合方面の検問を強化してみることにしよう」
戦士「このことはあまり広めるなよ。内通者に知られるかも知れんからな」
副団長「なんだ、やっぱりキミは内通者じゃなかったんだね」
戦士「馬鹿言え」
戦士「さて、久しぶりに手合せ願うことにしようか。体は鈍っちゃいねえだろうな」
副団長「もちろん。久しぶりに爆裂パンチをお見舞いしてあげるよ」
戦士「ああ、あの猫パンチか。それもちと久しぶりだな」
副団長「なっ!だから猫じゃない!」
戦士「ははは。一週間経ってもやっぱりお前はお前だな。安心したよ」
戦士「はぁ……俺としたことがどうしたんだろうな」
戦士「どうも俺にはどうしてもお前が必要らしい」
戦士「平和な時代が来るまで……いや、その後も、ずっとそのままで俺の側にいてくれよな」
テクテク
副団長「……!」
戦士(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてな)
副団長(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてね)
戦士「おい、いつまで座ってやがんだ。もう足腰が弱っちまったのか?」ハハハ
副団長「なっ!言ったな!?」
ダダッ
副団長(いつもいつも求めてばかりいたボクが求められることがあるなんて……)
副団長(不思議な気分だなあ)
―――外―――
ダダッ
隊長C「あっ、部門長!副団長!ちょうどよかった」
戦士「お、どうしたんだ隊長C?」
隊長C「それが、この国境の森に火が放たれたようなのです!」
隊長C「現在電気の国方面を中心に火の手は拡大していっています」
隊長C「これは出動すべきなのでは……」
副団長「な、なんだって!? 団長が危ない!」
戦士「どうやら手合せをしている場合じゃなさそうだな」
戦士「ぶっつけで悪いが実戦になりそうだ」
戦士「隊長C、憲兵隊を招集しろ」
戦士「準備ができ次第森を進むぞ!」
隊長C「はっ!」
―――国境付近の森―――
ガサッガサッ
勇者「ふう。まだ追ってはこないようだね」
上級隊長「しかし火の手が迫っているでござる!」
魔王「……」
勇者「どうした魔王? 顔色が悪いよ」
魔王「さっきは悪かったわね……私が先走ったせいで彼らを死なせてしまって」
魔王「爆破魔法に腐食魔法を混ぜたのが失敗だったわ……予想以上に粉じんが舞って視界を阻んでしまった……」
勇者「君は魔王の癖に優しい心を持っているようだね」
魔王「そうなのかしらね……でも、その『優しい心』とやらのせいで私はあの戦争でも多くの犠牲を出してしまったのよ」
魔王「優しい魔王っていうのも考えものね」ハァ
勇者「ははは。君はもう少し平和な時代に生まれるべきだったのかもしれないな」
勇者「まあ、過ぎたことはもうどうしようもないんだ。今は前を見続けるしかないのさ」
タッタッタッタ……
上級隊長「ん……後ろから足音が!?」
奇術国兵A「いたぞ!追えーっ!」
奇術国兵B「逃がすなっ」
パンパンパン
ダダダダダ
勇者「しまった!追いつかれたか」
魔王「ええい!浮遊魔法!」ボコッ
魔王は近くの岩を持ち上げ、盾にした。
ダダダダダ
ビシッビシビシビシッ
奇術国兵A「な、なんだあいつは!?」
奇術国兵B「岩が浮いてるぞ! これでは反魔法弾が弾かれて……!」
勇者「雷魔法(中)!」ズバババッ
奇術国兵A「ぐわああああっ!」
奇術国兵B「ぎゃあああっ」
ドサドサッ
上級隊長「さあ、また追っ手が来る前に急ぐでござる!」
勇者「ああ!」
ダダッ
―――…
ダダッ
奇術国兵C「……」ジャキ
上級隊長「そこかっ!?」ダッ
ズバッ
奇術国兵C「ぎゃあああっ」ドサッ
勇者「上級隊長!助かったよ」
上級隊長「このままではまずいでござるな……」
上級隊長「勇者殿、某はここに残り奇術国軍を足止めするでござる」
上級隊長「どうか先に不干渉区へ参られよ!」
勇者「なっ、それじゃあ上級隊長はどうするんだ!?」
魔王「まさか、死ぬつもりじゃないでしょうね」
上級隊長「安心されよ。必ず後から追いつくでござる」
上級隊長「隊長B、隊長A!あとの護衛は任せたでござる」
隊長A「いえ、私は最後まで上級隊長に仕えさせていただきます!!」
隊長B「私も同様です!」
上級隊長「な、何を……」
勇者「こっちは魔王もいるし、あまり心配はいらないよ」
魔王「こんな冴えない人間一人守れない魔王なんて魔王失格よ!」
魔王「勇者の安全は私が保証するわ!」
上級隊長「分かったでござる」
上級隊長「無事に帰られよ勇者殿」
勇者「ああ、君たちもだ上級隊長」
ガシッ
勇者「それじゃあ必ずまた後で会おう!」
上級隊長「もちろんでござる!」
タッタッタッタ……
上級隊長(勇者殿……団長を頼んだでござる……)
―――…
タッタッタッタ……
勇者「この辺りまでくればさすがに大丈夫かな」ハァハァ
魔王「大分火の手も収まってきたわね」
魔王「でもまだ不干渉区まであと半分はあるわよ」
勇者「まだそんなにあるのか……ふぅ」
勇者は木陰に座り込んだ。
勇者「まったく。こういう肝心な時にいつも僕の身体は言うことをきかなくなるんだ」
魔王「勇者の癖に情けないわね! 休む暇なんてない……」
勇者「! 静かに!」
シュバババババ
飛行兵1「その辺はどうだ!」
飛行兵2「いねーよ!ったくあのクソ中将め!」
飛行兵1「やめとけやめとけ、聞かれたら強制労働行きだぞ!」ハハハ
シュバババババ……
勇者「ふう。危ない危ない」
魔王「あれのお陰でろくに飛べもしないじゃない!」
勇者「まったくだね。『中将』っていうのは相当念入りに準備を固めていたようだ」
勇者「まあ、僕も休むのは少しだけにするさ。体力を回復できる魔法があったならどれだけ楽なことかといつも思うよ」ハハハ
魔王「傷を回復する魔法ならいくらでもあるのに、どうしてなのかしらね」
魔王「帰ったら魔法使いに聞いてみるわ」
勇者「お、どうだい?魔法使いとは上手くやってるかい?」
魔王「そうね、まあまあってところかしら」
魔王「『大賢者の定理』もほとんど理解したし、お陰で魔力の節約が本当に捗っているわよ」
勇者「あの複雑な定理ももうマスターしたのか!?さ、さすが化け物」
魔王「あら、褒めたって何も出ないわよ」
勇者「はは。まーたそういうところまで魔法使いに似てくる」
勇者「もともと口調も似てるからどっちが喋っているのかわからなくなるじゃないか」
魔王「別にそういうのじゃないって言ってるでしょ!」
魔王「あの変な助手とかいう女にも同じことをよく言われたわ!なんて生意気な小娘なのかしら!」
勇者「まあまあそう怒らずに……」
勇者「さて、疲れも癒えたしそろそろ行くことにしようか」ガサッ
魔王「おかげでまた火の手が追ってきたじゃない。このままじゃ自慢の服がすすで台無しよ!」
勇者「はは、それも自慢の魔法で綺麗にすればいいじゃないか」
ヒュルルルル ドカーン
ボガァァァン ドガァァン
魔王「何の音かしら?」
勇者「これは……奇術国軍が砲撃を始めたんだ!」
勇者「敵も味方も見境なしか……」
魔王「な、味方をなんだと思っているの!?」
魔王「どうしてそんなに平気で犠牲にできるのよ!」
勇者「はは、これじゃあ君の方が正義の味方に向いているみたいだよ」
勇者「人間はそういう面に関しては魔族より未熟なところがあるのさ」
勇者「つまり自分以外の視点に立つっていうことが少し苦手ってことだね」
魔王「……お父様が人間を滅ぼそうとしたのもこれが原因なのかもしれないわね」
魔王「人間がこんなことばかりしているから、皆と協力しようとしないから」
魔王「お父様は侵攻を『救済』と呼んだのよ……」
勇者「なるほどね。救済か。いい迷惑ではあるけど、もしかしたらあながち間違ってはいないのかもね」
勇者「まあ、僕達のやり方はそれとは違う訳だ。もちろん苦労こそ多いが、その分得る物は多いはず……」
ヒュルルルル
勇者「ん?まさか……」
魔王「直撃よ!! 防御ま……」
魔王(間に合わない!)
勇者「危ない!」ドンッ
魔王「きゃあっ!?」
ドガアアアアアアアアン
勇者「ぐわああああっ!」
ドカッ
ガ゙サッ
勇者「ぐ……まお……う……」
ガクッ
――――――
――――
――
パラパラパラ
ゴオオオ
勇者「ぐ……はっ!」ズキッ
勇者は済んでのところで砲撃の直撃を免れていた。
とはいえ、爆風で近くの木に衝突し、しばらく気を失っていた。
勇者(さっきよりも火が迫っている……どれくらい経ったんだろうか……)
勇者(魔王は……自力で帰ったかな)
勇者(頭が……割れそうだ……骨も何本かやられているな……)
勇者(なんとか不干渉区に戻らなくては……)
ズルズル
勇者(ははは……歴代の勇者でも、ここまで無様な勇者は他に例がないだろうね……)
勇者(魔族以外に勇者が殺されるとなれば……やはり最も恐ろしい生き物は人間なのかもしれないな)
勇者(皮肉な話だよ……)
勇者(戦士たちはもうこっちに向かっているんだろうか……)
勇者(う、さっきので魔法石まで落としたかな……これでは回復ができない……)
勇者(つくづく自分の身体能力と運のなさに呆れるね……)
勇者(もう……限界かな……)
勇者は倒れこむように近くの木の根元に座り込んだ。
勇者(参ったな……勇者として十数年、どんな先代魔王の卑劣な策略にも屈しなかった僕が……こんなところでとんだ計算違いでも犯したかな……)
勇者(せめて、陰謀の全てを明らかにしてから……団長ともう一度冗談をかわしてから……この世を離れたかった)
勇者(残念だな……)
ガサッ
勇者「!」
奇術国兵「お、お前は……!?」ガクガク
奇術国兵「ゆ、勇者か!?」
勇者「いかにも……僕が勇者さ……」
勇者「こんな姿からは想像がつかないかもしれないけどね……」
奇術国兵「ひぃっ!!」ビクッ
奇術国兵「ごめんなさいごめんなさい!!僕はただここを通りかかっただけで……」
勇者「はは……そこまで怖がる必要もないよ」
勇者「僕は見た目通り、死にかけた人間さ」
奇術国兵「へ……?」
奇術国兵「さっきの化け物とは違うのか……?」
勇者(化け物……上級隊長のことかな……)
勇者「化け物?」
奇術国兵「ああそうさ……僕は怖くて逃げてきたんだ……仲間が何人も目の前でアイツに切られていったよ……」
奇術国兵「撃っても撃っても死なないなんて……!」
奇術国兵「僕は仲間を見捨てたんだ! うわあああああっ!」
奇術国兵「帰ったらきっと中将閣下に殺されるんだ!」ガクガク
勇者「そうか……」
奇術国兵「いや、まてよ……!」
奇術国兵「目の前にいるのは死にかけた勇者じゃないか!」
奇術国兵「ここで殺して帰れば賞金も地位も欲しいまま!?」
奇術国兵「やった!やったぞ!! これで味方の仇が討てる!」
勇者(完全に混乱しているな……)
勇者(しかし上級隊長もおそらく……)
勇者「僕を殺すつもりかい?」
奇術国兵「ああそうさ!お前には1億の賞金と准将への昇格がかかっているんだ!」
勇者「そうか……なら殺すがいいとも」
奇術国兵「何? 抵抗しないのか!」
勇者「はは。見ての通り、僕は重傷だ。もはや歩くこともできない」
勇者「それに、勇者とは元来人々に幸をもたらす存在としてあり続けてきたんだ」
勇者「僕もまたそんな存在の一つとして消えていくだけさ」
勇者「君にも家族がいるんだろう?」
勇者「僕は生まれたときから両親もいない、兄弟もいない……孤児だった」
勇者「死んで悲しむ者もない」
勇者「僕が築いた平和の礎は必ず芽を出すはずさ」
勇者「もう十分役割は終えたとも」
奇術国兵「くくくくく……やったぞ!ははははははっ!!」ジャキ
勇者(次はまたあの世で先代魔王と知恵比べかな……)
パァン
ドシュッ
奇術国兵「がはっ!?」
ドサッ
勇者「!」
勇者「誰だ?」
?「死んで悲しむ者なら……少なくとも1人は知ってますよ」
勇者「奇術国兵?」
大佐「ええ、私は奇術国軍で、かの僧侶さんの副官を務めている『大佐』といいます」
大佐「この度は僧侶さんの密命で勇者様を保護しに来ました」
大佐「どうぞご安心を」
勇者「僧侶が? そうか……」
勇者「間一髪で命拾いをしたようだね」
大佐「申し訳ありません、敵の数が予想以上に多く、ここまで来るのに時間がかかってしまいました」
大佐「それじゃあ肩を……」
勇者「ありがとう」
ズルズル……
―――国境の森手前 上空―――
バサッバサッ
団長「ようやくここまで来たのはいいが、森がすごいことになっておるな……」
外副長「ええ、火が広がって空が真っ赤ですぜ団長」
団長「急ぐのじゃ、手遅れになってからではいかん」
外副長「へへ、言われなくても!」
バサッ
―――森付近 上空―――
外副長「森の手前にあんなに奇術国兵が待機していやすぜ……」
団長「ああ、奴らめ本気で勇者を狙ってきたとはな」
団長「もうすぐ森の上空じゃ、煙を避けて人影を探しながら行くぞ」
外副長「あいよ」
ナンダアレハ!
エエイウチオトセッ!
外副長「下もあっしたちに気付いたようでありやすな」
団長「大丈夫じゃ、あそこからでは攻撃は届かん」
団長「とにかく今は前へ進むのじゃ!」
団長(勇者……死んではならんぞ!)
―――森上空―――
外副長「ようやく火の手が収まってきやしたね」
団長「ああ、恐らくこの辺にいるはずじゃ、何とかして探し出すぞ!」
ズダダダ
パンパンッパン
団長「なんじゃ、まだ儂らを狙っておるのか」
外副長「やつらの通信技術は伝聞魔法なんかよりずっと発達していやすからね」
外副長「これではあまり高度を下げられやせんぜ」
団長「くっ……」
団長「じゃが、当たることも無かろう」
団長「なんとか地上兵がいないところを狙えば……ん?」
外副長「木の陰に何か……!?」
ガサッ
シュバババババ
飛行兵1「来たぞ!」
飛行兵2「へへ、中将の言うとおりだ!」
飛行兵2「撃ち落とせっ」ズダダダダダ
団長「な、なんじゃと!?」
外副長「団長、あぶねぇっ」ガバッ
ビシッビシビシッ
外副長「がはっ!」
団長「外副長!!」
飛行兵1「よしっ当たったぜ……なっ!?」
団長「火球魔法(中)!」ボッボッ
飛行兵1、2「ぐわああああっ!」ボカ‐ン
団長「おい、大丈夫か!」
外副長「へへっ……なんの」ダラダラ
外副長「団長が無事なら問題ないですぜ」
団長「今回復する!回復魔法(上)」
パァァァ
団長「な、効果がないじゃと……!?」
外副長「反魔法弾……ってやつですかい」
団長「くそっ馬鹿な、そんなはずは!」
外副長「いいんですよ団長、あっしはここでお別れってやつのようです」
外副長「団長は勇者たちと合流して下せえ」
団長「う……すまない……」
団長「儂が魔法しか能がないばかりに……」
外副長「そんなことはありやせんぜ団長」
外副長「団長は荒れきっていた荒れ地を統一して『国』を作り上げたではありやせんか」
外副長「きっと団長ならこのまま勇者と新しい平和な世界を作っていけやすよ」
外副長「あっしは信じていやす……がはっ」ハァハァ
団長「外副長!」
外副長「さあ、この辺りは敵がいないようですぜ」
外副長「今のうちに飛び降りて下せえ」
団長「飛び降りる……?お前はどうするのじゃ外副長!?」
外副長「へへ、あっしにはもう一つだけ仕事がありやすので、ここで失礼しやすぜ」
外副長「そろそろ理性ってやつが飛びそうなんで、一緒に行っても足手まといにしかなりやせん」
外副長「後は頼みやす団長!半魔の夢を叶えて下せえ!」
団長「……わかった、必ず、必ずやってみせるよ、外副長」
団長「いままでありがとう」ニコッ
外副長「こちらこそ」
バッ
外副長(へへへ……最期に『あの娘』の笑顔をまた見られてよかったぜ……)
外副長(もう二度とみられないもんだと思っていたが……)
外副長(へへ、やっぱりあれに勝る笑顔はそうそうねぇなぁ……)
外副長(そういや、あの笑顔に惚れてあっしも団長の下についたんだっけか)
外副長(随分懐かしいこった……これも……さいごの……あがきって……やつ……か……)
間もなく、外副長の身体は魔族の部分に完全に支配された。
―――森の中―――
ヒュウウウ ガサッ ドテッ
団長「いてててて……やはりあの高さでは重力軽減魔法もあまり役に立たんか……」
団長「しかし、今はとにかく勇者を……?」
ガサッ
団長「む、敵か!?」ジャキ
魔王「あーもう!勇者は一体どこへ行ったのかしら」
団長「あ」
魔王「あら?あなたは勇者の娘の……」
団長「娘ではない」
魔王「あらそうだったかしら……まあいいわ、勇者を知らないかしら」
団長「儂も今探しておるところじゃ。お主こそ勇者と一緒だったのではないのか?」
魔王「それが、さっきの砲撃ではぐれちゃってね」
魔王「勇者が私を突き飛ばしてくれたからなんとか直撃は免れたけど、勇者は……」
団長「なんじゃと……!」
団長「なんということじゃ……手遅れだったか」
魔王「でも、まだ死んだと決まったわけじゃないわよ」
団長「どういうことじゃ」
魔王「あの後敵に見つかってしまってね、そいつらを倒してから何とかもとのはぐれた場所に戻ったんだけど、勇者の姿が見当たらなかったのよ」
魔王「血痕を見つけたからその後を追っていったんだけど、それも途中で途絶えていたわ」
団長「と、いうことは……」
魔王「ええ、勇者は誰か味方に遭遇したようね」
団長「よかった……」
魔王「でも、まだ安心するのは早いわよ。急いで勇者を見つけないと……」
ガサリ
団長「今度は何じゃ!」ジャキ
奇術国兵「……」ニュッ
魔王「奇術国兵!……と」
勇者「おーい、無事だったかー」
団長「勇者!?」
―――……
勇者「……と、いう訳なんだ」
大佐「驚かせてしまって申し訳ありません」
団長「いや、我らが勇者を救ってくれたのならこれ以上のことはないのじゃ」
魔王「なによ、てっきり死体ごと敵に運ばれてるのかと思ったじゃない」
勇者「ははは、まあほとんど死にかけだったけどね」
大佐「それでは、そろそろ私は僧侶さんのところへ戻りますね」
大佐「勇者さん生存の一報を彼女にお伝えせねば」
勇者「あ、大佐、僧侶の様子はどうだい?」
勇者「元気にしているかな」
大佐「ええ、この上なく。しかし明日は忙しくなりそうです」
勇者「明日?」
大佐「ええ、まあそのうち知らせが届くでしょう。詳細はそれにて」
勇者「分かった。じゃあまた」
勇者「僧侶によろしく伝えておいてくれ」
大佐「はっ。ではこれにて失礼いたします」タタタッ
魔王「さて、私たちも帰路につきましょう」
団長「そうじゃ、戦士や副団長が待ちに待っておるじゃろうからな」
勇者「……!」
勇者「待ってもいられなかったみたいだね」
団長「?」
ドドドドドド
戦士「勇者ぁー!どこにいる!?」
戦士「まさかもうのたれ死んでるんじゃないだろうな!」
副団長「団長―!今すぐお迎えに上がりますよ!!」
勇者「ね」
魔王「何が『ね』、よ!」
団長「まあまあ、まさかもうこんなところまで来るとはな」
団長「さて、これで無事に帰れそうじゃ」
団長(外副長……)
こうして、勇者一行は無事に帰路に着いた。
――― 一方、森付近 奇術国軍本陣―――
中将「ええい!何をしておる!もっと火をつけて奴らを焼き殺さんか!」
中将「空中兵隊はまだ奴らを見つけられんのか!」
奇術国兵「報告!空中兵隊が先ほど上空を飛行していた半魔と接触、相討ちに終わったそうです!」
中将「そうか……よし」
中将「勇者はまだ死んでおらんのか!?」
奇術国兵「はっ、まだ報告はありません!」
中将「何が何でもここで撃ち殺すのだ!」
中将「そうすればワシの大将昇格も目の前じゃな……ハハハ」
バサッバサッ
ザワザワ
ナンダアレハッ
中将「ん?騒がしいな、どうした?」
奇術国兵「は、何やら上空に不審な飛行物体が……」
奇術国兵「あ、あれは!」
外副長「キシャァァァァァァッ!!」バサッ
奇術国兵「先ほどの半魔です!」
中将「何?ノコノコ戻ってきおったか」
中将「さっさと撃ち落とせ」
外副長「キシャァァァァァァッ!!」カッ
ドガァァァァァッ
奇術国兵「駄目です!一瞬にして第七、第八小隊が全滅しました!!」
中将「な、なんだと!?そんな馬鹿な!」
中将「ええい!集中砲火だ!戦車でも大砲でも何でもいい、とにかく撃ち落とすのだ!!」
ズダダダダダ
ズドォォォン
外副長「ガガッキシャァァァァァァッ!!」ボタボタ
中将「いいぞっ、着実にダメージを受けている!」
中将「このまま押し切れい!」
ズドドドドドド
奇術国兵「第七、第八小隊に続き、第四、五、六小隊も壊滅!」
奇術国兵「閣下、危険です!ここは退却を!」
中将「くっ、バケモノめ……」
中将「急げ、距離をとりつつ迎撃を……!」
外副長「キシャァァァァァァッ!!」ズアッ
奇術国兵「閣下!!危ない!」
中将「な……」
ドガァァァァァァ……
突然の半魔の奇襲により軍事演習本隊は壊滅。
なんとか半魔は撃破したものの、中将をはじめ多くの隊長が死亡した。
連合はこれを演習中の事故と発表。半魔の仕業であることは完全に隠ぺいされた。
―――数日後 帰還路中―――
魔王「それじゃあ勇者、私はこの辺りでお別れにするわね」
勇者「えっ、じゃあ何人か護衛をつけておくよ」
団長「そうじゃ。流石に一国の当主を丸投げで返すのはまずいのじゃ」
魔王「いや、必要ないわ」
魔王「これはあくまでお忍びよ。護衛なんかつけて帰ったら私の面目にも傷がついてしまうわ」
魔王「でもありがとう勇者。勇者のお陰で本当にたくさんの新しいことを学ぶことができたわ!」
勇者「かの魔王が勇者に感謝なんてね」ハハハ
団長「奇妙なもんじゃな」
魔王「たまにはいいじゃない」
魔王「魔法学も奇術国も人間族の文化も素晴らしいものばかりだったわ」
魔王「魔国に帰ってもきっと忘れない。そして、これから人間族と協調できる魔国を作り上げてみせるわ」
勇者「そう言ってくれると嬉しいね」
団長「そうじゃな、復興省なんかには負けてはならんぞ」
魔王「もちろんよ」
魔王「勇者に教えてもらった戦略さえあればあんな奴ら一捻りにしてやれるわ!」
勇者「まあ、くれぐれも悪用はしないようにね」
魔王「分かってるわよ!」
魔王「それじゃあまた会いましょう」
勇者「ああ。次は平和会議か独立宣言式でね」
魔王「そうね」
団長「あっ! 最後にちょっとだけお願いが……いいかのう?」
魔王「何かしら勇者娘?」
団長「まだその認識は変わらんのか……まあいい」
団長「耳を貸してほしいのじゃ」
魔王「ん、いいわよ」
団長「……ゴニョゴニョゴニョノゴニョナノジャ」
魔王「ふーん……分かったわ」
魔王「任せなさい」
団長「わぁっ!ありがとうなのじゃ!」
魔王「あれ?でもあなたの父親は勇者じゃ……」
勇者「え、僕?」
団長「わーっ! なるべく秘密にしてほしいのじゃ」
団長「個人的なことじゃからな。プライバシーというやつじゃ」
魔王「ふーん。じゃあそういうことにしておいてあげるわね!」
魔王「それじゃあ今度こそ」
勇者「ああ、また」
団長「よろしくなのじゃ!」
奇術国編はこれにて
乙!さぁ、次の展開がたのしみだ!
―――数日後 北部不干渉区 中央行政区行政府―――
その後、勇者一行はすぐに被害の整理をしながら帰還。
外副長のみならず、上級隊長、隊長A、Bの死は更に団長に衝撃を与えることとなった。
実質的に元半魔盗賊団の最高幹部がほぼ全滅してしまったのである。
勇者「……ということだ」
勇者「結局、奇術国へ向かったメンバーで生き残ったのは僕と団長、そして魔王だけだった」
戦士「あの上級隊長がやられたなんて……そんな馬鹿なことがあるか!!」バン
戦士「あいつは俺に劣らない超一流の剣士だったんだ!」
戦士「それが……それが……あんな卑怯な待ち伏せ野郎どもにやられるはずがない!」
副団長「し、しかし、あのあとこっそり向かわせた偵察隊は、確かに上級隊長の死亡を確認したと言っていたじゃないか」
副団長「無数の銃創を残した上級隊長の死体と、その周りに横たわるこれまた無数の奇術国兵の死体を軍は搬送していたと」
戦士「んなこたぁ分かってる!分かってるんだよ……」
戦士「クソッ!こんなことだったら俺が行くべきだった!」
戦士「そうすれば誰も死ななくて済んだはずだ!そうだろ勇者!?」
勇者「いや、そうとも言い切れない状況だったからこそ僕は君をここへ残した」
勇者「君は暫定でこの不干渉区で最強の人間だ」
勇者「君はこの先もずっとこの不干渉区に必要な人間なのさ」
勇者「上級隊長よりも……はてまた僕なんかよりもね」
魔法使い「それは言いすぎなんじゃないかしら」
商人「そうです。もし勇者様が亡くなられれば、すぐさまこの不干渉区は崩壊の一途をたどるでしょう」
勇者「まあ、この不干渉区もここまで成長したんだ。もう僕の役割は終わったも同然だよ」
戦士「納得いかねぇ! こうなったら奇術国の理事長を直接切り殺して……」
団長「その必要はもうないぞ」スタスタ
団長が会議室へと入ってきた。
戦士「何!?」
勇者「どういうことだい?団長」
団長「うむ。あの夜の次の日、奇術の国首都で大変な事件が起こったそうじゃ」
魔法使い「事件ですって?」
勇者「僧侶のセレモニー当日にかい?」
団長「ああそうじゃ。どうやら僧侶も関連しているらしい」
戦士「あの僧侶がだと!?」
団長「まあまあ質問は後にしてほしいのじゃ」
団長「情報によると、その日奇術国企業連合本部ビル会食場や理事長室周辺等数か所において大規模な爆発が起こったそうじゃ」
団長「それによってビルは炎上」
団長「セレモニー前の会食で本部ビルに集結していた、理事長をはじめとした理事の多くが死亡したということじゃ」
団長「じゃが幸い、爆発時理事以外の者は、ちょうど僧侶のセレモニーのために屋外へ出ていたため難を逃れておる」
団長「そして、その僧侶自身も無事だったようじゃ」
団長「これは僧侶との関わりがないとは到底思えん。推測には過ぎんがな」
勇者「なんだって……!?」
戦士「ということは……」
副団長「……明らかに理事らを狙った『爆破テロ』ということですね、団長」
団長「うむ。事件の後、残った理事たちは素早く理事会を立て直し、元軍務理事が理事長に、僧侶が軍務理事に就いたそうじゃ」
団長「そして新理事会はこのテロの実行犯は、現場で魔力の消費が確認されたことから魔術国連合のスパイだと断定」
団長「挙国一致で魔術国連合との更なる対立を約束したと」
勇者「な!? 僧侶が戦争の先導を?」
団長「まあ、そうなるな」
戦士「あの僧侶が自ら戦いを選ぶとはな……」
魔法使い「最早別人にでもなってしまったのかもしれないわね」
商人「これはまた経済情勢が荒れに荒れそうですね」
勇者「僧侶が奇術国連合の最上層に立ったのはいいことだけれど……あまりスッキリとはいかないようだね」
団長「ああ。じゃが、奇術国連合は今までとは打って変わって、儂らに友好的な姿勢を見せ始めたのじゃ」
団長「これも僧侶の意志と無関係では無かろう」
勇者「そうか……しかし必ず参戦要求を出してくるだろう」
勇者「これは、遂に不干渉区存続の境目に来ているのかもしれないな」
勇者「僕らも、こうなったらまずは独立を果たしてしまうべきだ」
勇者「そうすればこの不安定な状況も少しは改善するはずさ」
魔法使い「そうね。急いで準備を進めましょう」
団長「うむ。外交交渉はその後じゃな」
勇者「今回の被害で欠員がでた部門は部門ごとに補充を行ってほしい」
勇者「副団長は警務部門を少し手伝ってくれないか」
副団長「分かった」
戦士「なんで俺が!」ガタッ
戦士「……チッ。苦労を掛けさせて悪いな」
副団長「ニャハハハ。お安い御用さ」
勇者「それでは解散!」
―――時は遡ってテロ当日 奇術の国首都 本部ビル上層階会食場―――
ハハハハハ
ガヤガヤガヤ
財務理事「それにしても、あのどこの出身かも知れぬ小娘が一国の軍務を掌握するとは」
政務理事「理事長も一体何を考えていらっしゃるのか分かりませんな」
警務理事「全くだ!何か余計なことでも起こす前に処分してしまった方がよいのではないか?」
財務理事「これこれ、ここはその小娘を祝う場だぞ。軽率な発言は慎め」
警務理事「ふん!この傾国の危機に黙ってなどいられるか!」
政務理事「まあまあ落ち着いてくださいな。どうせ後々『あの方』から指示が出るでしょう」
政務理事「その時にもまた全権を持って潰しに行けばよいだけのことです」
財務理事「政務理事の言う通りだ。少し軍務理事に妬き過ぎではないのか?警務理事よ」
警務理事「ふん。奴もどうせあの小娘に肩入れをしていやがるんだ」
警務理事「わざわざ寿命を縮めるとは、感謝したいぐらいだとも」
財務理事「まあまあそう強がるな」
政務理事「そうです警務理事。お前はまだまだ若いんだから機会などこれからいくらでもありますとも」
政務理事「なくても私らが作ることになりますしね」
警務理事「ふん。まあそれもそうだな」
警務理事「ハハハ。今はあの小娘の短い栄華を祝ってやる事にするか」
財務理事「それでは乾杯といこうか」
政務理事「我らの未来に」
財務理事「奇術の国の未来に」
警務理事「そして、『幸の国』の未来に!」
「「「乾杯!!!」」」
ドガァァァァァァァン
ズン ズズズン
財務理事「何だ!? 何が起こっている!」
警務理事「爆発!?馬鹿な、ここの警備は万全だったはずだ!」
政務理事「あれは……」
キュウウウン
政務理事「空間が歪んで……?」
ドッガァァァァァァァァァン
テロによって本部ビルは会食場をはじめ数か所が爆破された。
その後の火は丸一日をかけて鎮火された。理事の中で生き残ったのは、
たまたま外に出ていた外務理事と、下層階で僧侶と共にいた軍務理事のみであった。
―――時は戻って、不干渉区警務部門本部―――
副団長「大丈夫かい?戦士」
戦士「ああ。悪いなさっきは取り乱しちまって」
戦士「上級隊長が勇者を守るために死んでいったのは仕方のないことだ」
戦士「もう仇も討てないんじゃあ、憤っていたって空しいだけってやつだ」
副団長「確かに」
副団長「なんだ、意外と物分りが良いんだね」ニャハハ
戦士「抜かせ。こんなこと魔国や戦場で幾度となく経験してきたことだ」
戦士「今更無駄に喚き散らすのも馬鹿馬鹿しいだろ」
副団長「ニャハハ。せっかく慰めてあげようと思ったのに、逆に自分語りなんかされちゃあその心配もなさそうだ」
副団長「その様子だと、もう要員補充のめどもついているんだろう?」
戦士「まあな。上級隊長には現在の隊長Cを当てる。ただそれだけだ」
副団長「ニャンとシンプルな……これじゃあボクの助けなんていらなかったようだね」
戦士「ああ、悪いなわざわざ来てもらってよ」
戦士「……ハハ。どうせ奴のことだ。俺とお前を一緒にしておけば自然となんとかなるのを見越していたんだろうよ」
戦士「全く小賢しい奴だ」
副団長「自然と、ねえ」
戦士「まあ、深い意味はねえよ」
戦士「さあて、この前お預けになったっきりの手合せをいっちょ願おうじゃねえか」
副団長「よし、いつでも来い!」
ガチャ
隊長C「大変です部門長!」
戦士「何だまたお前か!!」
隊長C「はっ!?これはまたいい雰囲気を邪魔してしまって……」
隊長C「なんて言ってる場合じゃないんです!」
隊長C「部門長の支持で強化していた魔術国側の検問で不審な馬車が捕縛され、その中から銃をはじめとした武器が大量に押収されました!」
隊長C「既に検挙数は6件にのぼっているそうです!」
戦士「な、なんだと!?」
副団長「この数日で6件だって!?」
副団長「これは予想以上の数だね」
戦士「ああ。まずいな……」
戦士「急いで捕まえた商人共を尋問しろ!」
戦士「なんとしてでも内通者を特定するんだ!」
隊長C「はっ!」
―――翌日 代表執務室―――
勇者「魔術国との国境で大量の武器が押収されただって!?」
団長「ああ。これはかなりまずいことになったぞ」
魔法使い「恐らく、既にそれをはるかに上回る量の武器が持ち込まれている可能性があるわね」
団長「そうじゃ。これではいつ大規模な反乱が起こってもおかしくないぞ!」
勇者「参ったな……もう独立宣言式へ向けて本格的な準備が始まっている」
勇者「恐らく彼らが狙うとしたらその式当日だろう」
勇者「早く内通者を特定してしまわないと厄介だね」
魔法使い「それなら、早めに『商人』をマークしておいた方がいいんじゃないかしら?」
勇者「そうだね。僕も支部長に気がかりなことを言われたんだ」
勇者「商人に気を付けてってね」
団長「やはりあやつが……?」
魔法使い「北部不干渉区成立と同時に不干渉区に入り、経済を握る」
魔法使い「そして魔法使用の疑いありとくれば、任意同行には十分すぎる理由になるんじゃないかしら」
勇者「確かに。しかしまだ確固とした証拠が……」
ガチャ
戦士「よう勇者」
勇者「やあ戦士、どうかしたのかい?」
戦士「どうしたもこうしたもねえ」
戦士「捕縛した商人が自白しやがったのさ」
戦士「『私を先導したのは紛れもなく財務部門長商人様だ』ってな」
団長「これは!」
魔法使い「急ぎましょう勇者」
勇者「ああ」
勇者「戦士、商人を逮捕するんだ」
戦士「言われなくても!」
ダダダッ
しかし……
―――財務部門庁舎 商人の部屋―――
財副長「商人様。勘付かれたようです」
財副長「現在憲兵隊がここへ向かっているそうです」
商人「ほう。あのカラクリに気付きましたか」
商人「警務部門長様もただの剣振り屋ではないようですね」
商人「しかし、少し遅かったようです」
商人「財副長、行きますよ」
財副長「はっ」
スタスタ……
―――……
ダダダダダッ
バタン
隊長C「商人!お前を逮捕す……!?」
憲兵「隊長!誰もいません!」
隊長C「馬鹿な、庁舎は完全に包囲しているはず……」
隊長C「まだ近くにいるはずだ!捜せ!」
ダダダダッ
結局、憲兵隊の決死の捜索にもかかわらず、商人は最後まで発見されなかった。
―――翌日 行政府 会議室―――
戦士「取り逃がしただと!?」
隊長C「申し訳ありません……私たちが到着したころには既にもぬけの殻でした」
勇者「そうか……やはり入念に準備をしていたようだね」
団長「どうするのじゃ勇者、このままでは……」
勇者「まあ、商人が黒幕ということは、逆に言えば反乱は必ず独立宣言当日に起こるってことだ」
魔法使い「確かに。商人はしきりに独立宣言をさせたがっていたみたいだしね」
団長「とはいえ、もう独立宣言は取りやめることはできんぞ」
勇者「ああそうだ。もうここまで公言してしまったからにはやるしかない」
勇者「もし中止にでもすれば、不干渉区内の不安は高まるばかり……」
勇者「下手をすれば反魔族派の動きを加速させかねないだろうね」
副団長「反乱が起こる日が分かっているなら警備もしやすいんじゃないのかい?」
戦士「まあな。しかしこのヘボ勇者のことだ」
戦士「分かっていても死にかねん。この前の奇術国連合での暗殺未遂のようにな」
勇者「まあ、あえて否定はしないよ」
勇者「とはいえ、黙って見ているわけにもいかないさ」
勇者「総員、全力を挙げて独立宣言を成功させるんだ!」
団長「儂は不干渉区内の各地と、他国に独立宣言を宣伝して回ることにするのじゃ。戦士は警備と商人の追跡、副団長は装飾と広報、魔法使いは魔法での追跡をそれぞれ頼みたいのじゃ」
戦士「おうよ!」
副団長「はいっ!全力でやらせていただきます!」
魔法使い「任せなさい」
勇者「それでは全員。無事と成功を祈るよ」
戦士「無事はお前だけで充分だろ」
勇者「まーた空気を壊す」
勇者「それじゃあ解散!」
――――……
こうしてそれぞれ、間近に迫った独立宣言式に向けて準備を進めていくのだった。
隊長C「おい、1班、2班、どうだ?」
1班長「だめです!」
2班長「こちらも気配すらありません!」
隊長C「これで北ブロックはすべて調査しましたが……駄目のようです」
戦士「チッ。それじゃあ次は東だ!いくぞ!!」
オーッ
――――……
副団長「それはそっちであれは看板の上ね」
副団長「あっ!これはやっぱもうちょっと右の方がいいや」
副団長(戦士も忙しそうだし、手合せはだいぶ先になりそうだなぁ)
副団長(はぁ……なんだか物足りないなぁ)
――――――……
魔法使い「うーん……」
助手「だめなんですか?」
魔法使い「ええ。分析魔法によると、この中央行政区中に隠蔽魔法がかかっているわ」
魔法使い「しかも何重にもね」
助手「な、何重にもですか……!?」
魔法使い「これでは魔法で足掛かりをつかむのは難しそうね……」
魔法使い(とはいえここまで高度な魔法を何重にも張り巡らせるなんて……)
魔法使い(あのチョークといい……まさか彼は……)
助手「えいっ!反隠蔽魔法!」シュパー
バリィン
シュウウン
助手「あぁやっぱりすぐ戻っちゃいました……」
魔法使い「さすが優等生ね、もうアンチスペルを唱えられるなんて」
助手「いえいえ、さっき師匠がやっていたのをまねただけですよ」
助手「自己再生魔法ですぐ戻っちゃいましたし」
助手「でも、魔法痕の隠蔽魔法まであるのは変ですね」
助手「あれって魔法陣を隠すのくらいしか役に立たないんじゃないでしたっけ?」
魔法使い「魔法痕の隠蔽魔法……?」
魔法使い「やはりね、浅はかだったわね商人」
助手「?」
魔法使い「見てなさい、目にもの見せてあげるわ」
魔法使い「助手、もう帰っていいわよ」
助手「は、はいっ!?」
魔法使い「あとは私がやるわ。私のことは私でケリをつけなきゃね」
スタスタ
助手「あっ!師匠〜!」
助手「いっちゃった……」
――――……
商人「それでは、この手筈通りにお願いしますよ」
情報隊長「なるほどな……これなら奴らを確実に狙えるな」
情報隊長「ふん。ずる賢さだけは一流と見える」
商人「いえいえ、それこそ商人には必須の条件というやつですよ」
情報隊長「まあいい」
情報隊長「それにしても、今更ながらお前が魔法を使えるのも不思議なもんだな」
商人「いえいえ、使えるのなんて魔法陣だけです」
商人「この前と同じように、発動のタイミングはお任せしますので」
情報隊長「言われなくてもそうするつもりだ!いちいち言うな!」
商人「これはこれはお厳しい……」
商人「あと、くれぐれも注意しておきますが、狙うのはあくまで勇者様ですよ」
商人「よろしいですね」
情報隊長「だから指図をするなと言っているだろう!」
情報隊長「それ以外は狙わん。これでいいだろ!」
商人「流石物分りがよろしくて……」
―――独立宣言前夜 塔最上階展望台―――
団長「やっぱりここにおったか」
勇者「やあ団長」
勇者「経済情勢の調整お疲れ様」
団長「まったく、商人の失踪で大混乱だったのじゃ」
団長「念のため元盗賊団の会計係を忍ばせておいて正解だったのじゃ」
勇者「さすが団長、ぬかりないね」
団長「初めから商人に頼り切るのはまずいと注意しておいたじゃろうに」
勇者「ははは。まあね」
勇者「でもあらかじめ財務部門は信用できる人間を集めておいたから、そこまで心配する必要は無かったのさ」
勇者「大体は旅の途中で知り合った人だよ」
勇者「まあ、あの商人に敵う手腕の持ち主もいなかったから彼を財務部門長にせざるを得なかったんだけどね」
団長「なんじゃ、どうりで儂の助言など気にも留めなかったわけじゃな」
勇者「ごめんごめん。言わない方が団長が頑張ってくれると思ってさ」
団長「まったく。人をなんだと思っておるのじゃ」
勇者「悪かったってば。お詫びにショートケーキ食べ放題を奢るよ」
勇者「僕が明後日まで生きていたらの話だけどね」
団長「ほ、本当か!?」
団長「……ゴホン。ま、せいぜい自衛に徹することじゃな」
勇者「なんだ、守ってくれないのかい?」
団長「勇者なんだから自分の身くらいは自分で守らんか」
勇者「はいはい、努力しますよ」
団長「……本当に大丈夫なのじゃろうな」
勇者「まあ、五分五分ってところかな。何が起こるかなんて結局は明日になってみないとわからないわけだし」
勇者「伝聞魔法で情報共有だけは万全にしておこう」
団長「そうじゃな。妨害されるといかんからな、チャンネルも5つ用意しておいたぞ」
勇者「お、さっすが団長」
団長「誉めてないで明日の対策を考えんか」
勇者「大丈夫さ、できる手は尽くしてある」
勇者「あとは相手の腕次第さ」
団長「そうか……」
団長「なあ勇者」
勇者「なんだい?」
団長「もし、もし明日上手くいったら……」
団長「一緒に、あの夢の秘密を解いてはくれんか?」
勇者「あの夢……この前言ってたあれかい?」
団長「ああそうじゃ。結局何もわからんままなんじゃ……」
団長「あの後魔法使いにも相談してみたんじゃが、魔法による呪いの類では無いそうなんじゃ」
勇者「そうか……分かった。団長の頼みとあらば僕もしっかり答えないとね」
団長「やった!ありがとうなのじゃ!」
勇者「ところで、魔王にはいったい何をお願いしたんだい?」
団長「それは……また話すことになるじゃろう。それまで待ってほしい」
勇者「明日失敗しても知らないよ」
団長「な、そんな縁起の悪いことを言うな!」
勇者「ごめんごめん」
団長「まったく、冗談に聞こえんぞ」
勇者「それはちょっと失礼だね」
勇者「ま、僕もまだ死ねない理由はあるにはあるし、お互い頑張ろうか」
団長「ああ。そうじゃな……」
結局、そのまま商人らが見つからないまま式当日を迎えることとなった。
―――北部不干渉区独立宣言当日 朝 市街地―――
ワイワイガヤガヤ
独立宣言当日、行政区は朝から各支部や不干渉区全土から詰めかけた半魔や人間そして魔族であふれかえっていた。
団長の広報活動により、不干渉区外からも多くの人々が集い、まさにお祭り騒ぎとなっていた。
その中で戦士率いる警務部門の面々は厳重な警戒態勢を崩していなかった。
隊長C「部門長、第1班から10班まで全員配置完了しました。東西南北全てのブロック異常なしということです」
戦士「よし、このまま警戒を続けるぞ!」
隊長C「はっ!」
戦士「しっかしよくもまあここまで人が集まったもんだな」
戦士「勇者め、これなら相手も派手な動きができないと予想しやがったんだな……?」
戦士「相変わらず小賢しい奴だ」
副団長「でも、これだとこっちも身動きがとりづらい」
副団長「この人ごみに潜られたら少し厄介だね」
戦士「大丈夫だ、そのために飛行部隊を……」
戦士「ってお前どっから湧いてきやがった!?」
戦士「隊長Cは!?」
副団長「さっきから近くにいたじゃないか……」
副団長「そんな視野の狭さで本当に大丈夫なのかい?」
戦士「大丈夫だ、視野は広いがちと障害物が多かっただけだからな」
副団長「また変な言い訳を……」
副団長「今日はボクも仕事がないから、元上級隊長の代わりとまではいかないけど、手伝わせてもらうよ」
戦士「おお、そいつは助かる!」
戦士「それじゃあお前は南ブロック方面へ回ってくれないか?」
戦士「俺と隊長Cだけでは南ブロックまで回りきれなくてな」
副団長「お安い御用さ」
副団長「ところで、やっぱり商人の足取りは……?」
戦士「さっぱりだ。あの魔法使いが両手を上げちまったらしいからな、相当巧妙に身を隠しているらしいぜ」
副団長「魔法じゃダメだったのか……」
戦士「まあ仕方ねえ。こうなった以上後手後手で回らざるを得ない」
戦士「その分迅速に対応してやらんとな」
副団長「そうだね。努力することにしよう」
副団長「十分気を付けてよ。相手は奇術国製の武器を使ってくる」
副団長「もし重傷でも負えば魔法では治せないからね」
戦士「おいおい誰の心配をしてやがんだ?」
戦士「俺様は暫定で最強の人間らしいからな、他の人間には負けるはずがない!」
副団長「だけど半魔や魔族には負ける可能性はあるわけだ」
戦士「な、そこまで真面目に帰されると俺も困っちまうぜ……」
戦士「ま、心配すんな。しばらく手合せができていなかった程度で腕が鈍ったりはせんだろうよ」
副団長「ならいいんだけどね」
戦士「なんだなんだ?お前は俺が死んでくれた方があの剣が手に入って得するんじゃなかったのか?」
副団長「な!そんなことは!」キッ
戦士「お、おいおいそんな目をすんなよ……」
戦士「俺が悪かった」
副団長「いや、謝ることは無いよ。初めは確かにそう考えていたしね」
副団長「でも今となっては……どうだろう」
副団長「天秤が反対側に傾いてしまったのかもしれない」
戦士「お、お前……」
副団長「なーんてね。そんなことあるわけないだろ!」
戦士「」
副団長「なんたってあの剣があれば一国の城主だって夢じゃないんだ」
副団長「その価値は万人の命なんかより価値があるのさ」
戦士「はは、まあそりゃそうだな」
ダダダッ
隊長C「部門長!大変です!!」
戦士「なんだまたまたお前か!!」
隊長C「はっ!これはまたいい雰囲気……」
隊長C「って何回やらせるんですか!緊急事態です!」
戦士「何!?」
副団長「ニャンだって!?」
隊長C「行政区郊外の石油貯蔵基地をはじめ、東西南部各ブロックにおいて不審な動きが次々と報告されています!」
隊長C「今すぐ部隊を四散して対応すべきかと!」
副団長「戦士、ボクも向かうことにするよ」
戦士「ああ、苦労をかけるな」
戦士「総員報告に準じて対応に当たれ!」
戦士「攻撃の意志があるなら斬殺もやむを得ん!」
戦士「解散だ!」
オーッ!
―――行政区 中央広場特設ステージ裏 勇者控え場兼情報統制所―――
団長「さて、あと一時間ってとこじゃな」
勇者「ああ。情報通信は上手くいっているかい?」
団長「もちろんじゃ。伝聞魔法東西南北各チャンネルに加え、非常用チャンネルも異常なしじゃ」
勇者「よし。式中は流石に僕は指揮をとれないから、団長に任せるよ」
団長「任せるのじゃ」
団長「ところで、魔法使いの姿が見えんようじゃが……」
助手「はい。魔術国からの来賓は、助手である私が代理人を務めるように命じられました」
助手「ししょ……大使は昨夜から行方をくらませていまして……」
勇者「魔法使いが?」
助手「はい。なんでも商人を探しに行ったようです」
団長「な、単独行動は危険じゃぞ!今すぐ探さんと……」
勇者「いや、その必要は無いだろう」
団長「なぜじゃ!?」
勇者「彼女は魔法のプロだよ。心配はいらないさ」
勇者「しかも、彼女が本気になるときはどっちにしろ誰も止められないのさ」
助手「はい!勇者様は師……大使をよく御存じですね!」
助手「この前も魔王に魔法を教えるとかなんとか言って、一週間も部屋に籠りっきりで授業していたんですよ!」
助手「そのせいでどれだけスケジュール調整に困ったことか……」ブツブツ
勇者「ま、こういう感じなんだ」
団長「な、なるほどのう……」
団長「いいじゃろう。長年の御仲間への信頼を信用することにするのじゃ」
勇者「悪いね。心配かけさせてしまって」
団長「いや、儂の情報不足の方が悪いのじゃ。気にするでないぞ」
団長「ん? 伝聞魔法じゃ」
勇者「誰からだい?」
団長「『ふいfhfほうwhっふゅえ』」
団長「な、なんじゃこれは……」
勇者「まさか……団長!ダメだ!」
団長「なっ!?」
キィィィィン シュバッ
団長「伝聞魔法が勝手に……?」
勇者「やられた……恐らくこちら側の情報を盗まれたんだ」
団長「なんじゃと!?それでは……」
勇者「ああ。伝聞魔法のチャンネル情報も盗られただろうね」
助手「ハッ!どうなさいましたかお2人とも!?」
勇者「恐らく伝聞魔法に見せかけた情報窃盗魔法にやられたんだ」
助手「それは……まずいですね」
助手「でも、今のその伝聞魔法の差出人を逆探知すればいいんじゃないですか?」
勇者(うーむ……団長へ伝聞魔法を送信できたということは恐らく送り主は情報隊長か……)
勇者「しかし、そんなことが可能なのかい?」
助手「もちろんです! お任せください」
助手は行政区の地図を取り出した。
助手「逆探知魔法!」
すると、地図に赤い点が浮かび上がる。
その場所は中央広場から南に逸れた市街地周辺であった。
助手「さっき偽伝聞魔法を送信したのがこの場所です」
勇者「さすが魔法使いの一番弟子だね」
勇者「今すぐ警務部門の面々を向かわせよう」
団長「じゃが、伝聞魔法は筒抜けじゃろうし最早使えるかも怪しいぞ」
勇者「それなら僕の警備兵を向かわせればいい」
勇者「僕の警備は団長がいれば十分さ」
助手「いざとなったら私も援護します!」
団長「うーむ……分かった。今は緊急事態じゃ。ことは急がなければな」
団長「情報伝達もなるべく伝達兵を走らせることにしよう」
団長「警備兵に伝えてくるのじゃ」スタスタ
勇者「よろしく」
助手「本当に大丈夫なんでしょうか」
勇者「多分ね」
勇者「とにかく僕の仕事は最後までやり遂げさせてもらうつもりだよ」
助手「そうですね、さすが勇者様です!」
勇者「そこまで言われるようなタチじゃないさ」
助手「勇者様ってどうしてそこまで謙遜なさるんですか?」
助手「魔術国の貴族たちみたいに威張ったりしないんですね」
勇者「ま、こんな作戦を立てるくらいしか能がないんだから仕方ないよ」
勇者「それに今回みたいに後手に回る勝負はめっぽう苦手だしね」
勇者「魔王軍との戦いは事前に戦場や相手の情報を事細かに収集していたから勝てたものを」
勇者「その分臨機応変な対応力なんてものは育ちづらかったのさ」
勇者「参ったもんだよ」
助手「そうなんですか……」
助手「でも私は魔法使い師匠と勇者様を信じます!」
勇者「それはどうもありがとう」
勇者「そういや君は魔術国の平民育ちなんだっけな」
勇者「貴族の名門育ちの魔法使いとはずいぶんかけ離れた経歴のようだけれど」
助手「ええ。でも師匠はそういうことに関係なく人を見てくださる方なので」
勇者「ははは。まあ、本人も権力闘争の邪魔になったから追い出されたようなもんだったしなぁ」
助手「そうだったんですか!?」
勇者「そうさ。そうでもなきゃ貴族の名門の娘がそんな死地に送らされるわけないだろう?」
勇者「今では彼女の妹がその家門の当主を継いでいるらしいしね」
勇者「ま、魔法大学校の校長になんてなっていたら大逆転の出世話だったろうけどね」ハハハ
助手「そうだったんですか……そこまでは知りませんでした」
勇者「そりゃ彼女だって進んで言いたいことじゃないだろうさ」
勇者「さて、僕も情報が入るまで準備でもしようかな」
助手「あ、私も何かお手伝いすることがあれば!」
勇者「そうだな……魔術国の独立容認についてはもう決定しているのかい?」
助手「もちろんです! 式で発表もしますし」
勇者「なら心配はなさそうだね。それじゃ原稿のチェックを……」
―――しばらく後 式開始20分前―――
ダダダッ
憲兵「報告します!」
憲兵「団長!勇者様!現在行政区校外石油基地など各ブロックより不審な動きが報告され始めました!」
憲兵「それを受けて、部門長以下全兵を持ってそれを調査しに散開しました!」
団長「なんじゃと!?」
勇者「憲兵、報告があった位置を地図に示せるかい?」
憲兵「え、はい。できますが……」
勇者「じゃあこれによろしく」ペラリ
憲兵「分かりました!」
―――…
地図上の点は行政区の郊外から市街地まで、中央市街地を囲んでドーナツ型に広がっていた。
団長「これは……!」
勇者「まずいな……これは揺動だ!」
ドガァァァァァァ……
遠方で爆音が鳴った。それに合わせて黒煙が立ち上る。
ザワザワ……
勇者「あの方角は?」
団長「石油貯蔵基地じゃな……」
勇者「攻撃を開始したか」
勇者「憲兵!急いで憲兵隊を、暴動鎮圧し次第中央に呼び戻してくれ!」
勇者「敵の狙いはこの中央広場だ!」
憲兵「はっ!」タタタ
団長「これでは式開始には間に合わんぞ!」
勇者「仕方ないさ。それに中央にこれだけ人やらが集まっていれば派手な動きもできない」
団長「じゃが……」
勇者「流石にこの場の全員を抹殺するなんて不可能さ」
勇者「中には半魔だって魔族だって魔法使いだっている」
勇者「言い方は悪いが……言わば皆が盾になってくれているのさ」
団長「なるほどのう。やけに人集めをやらせると思ったらそういうことじゃったか」
勇者「まあね。一応彼らも僕のやる事に賛同してくれた人々だ」
勇者「申し訳ないが多少の協力をしてもらうのは許されるだろう?」
団長「ギリギリのラインじゃな」ハァ
団長「まあ、緊急事態となったら仕方は無いか」
勇者「そういうこと」
勇者「それじゃあもうすぐ開式だ。用意しよう」
団長「そうじゃな」
スタスタ
勇者(確かにここの人々を全滅させる手段がないわけではない……)
勇者(しかしそうならば……)
勇者(仲間を信じるしかない、か……)
こうして、独立宣言式は開式を迎えた。
―――中央広場 特設ステージ―――
ザワザワ
式の開始時刻が迫り、いよいよ中央広場はざわつき始めた。
そして、その一角に特設されたステージ上に、ついに勇者が姿を現した。
ワーワー‼
ユウシャバンザイ‼
それと同時に、歓声が沸き起こった。
勇者『えーと……どうも、本日はこの不干渉区の独立宣言式にお集まりいただき、ありがとうございます』
勇者『僕は勇者、この不干渉区の代表を務めさせていただいております。よろしく』
勇者『それではさっそく本題に移ります』
勇者『人間族と魔族が100年間の間争い続けたかの百年戦争……』
勇者『その戦争が終結してはや4年が経過しました』
勇者『しかしどうでしょうか。戦争は終結したものの、100年かけて人間族と魔族の間に建てられた壁は、一向にその巨影をもって僕たちを飲み込んだままであります』
勇者『このままでは魔族と人間族の共和は実現せず、人間同士の争いののち、再び魔族と人間族の争いが始まることでしょう』
勇者『そこで僕は幸の国王より受けた命を完遂し、しかる後にここに人間族と魔族が共に暮らせる理想の国家を新たに建国することを目標として掲げました』
勇者『しかし、昨今の状況は緊張を極めています。各地における反魔族勢力が我々の存在を敵視し始めたのです』
勇者『両連合内の情勢も悪い方向に向かいつつあります』
勇者『よって、平和と協調を志す者として、ここは新たに不干渉区を独立させ、国家としての権威を高めることが第一に必要であると判断しました』
勇者『この状況ではまだ武力を持って自衛に徹することもやむをえません』
勇者『それだけは僕の不本意の残るところです』
勇者『しかし、僕は必ずや冬の後には春が訪れるということを信じています』
勇者『それでは、ここを持って不干渉区の『勇者の国』としての独立を宣言します!』
ワーワー‼
ユウシャバンザーイ‼
ユウシャノクニバンザイッ‼
コツ……コツ……
歓声はしばらくの間鳴り止むことを知らなかった。
しかし、そんな中で1つだけ、冷たい足音がステージの方へと向かっていることに気付く者は誰一人としていなかった。
ただ勇者のみを除いては。
勇者(? あれは……まさか)
勇者(やっぱりそう来たか)
勇者(やれやれ……また最悪の想定ばかりが当たる)
勇者(最近の僕は先代魔王の背後霊にでも憑かれているのかもしれないな)
勇者(さてどうしたものか……)ハァ
―――行政区郊外 暴動勃発地周辺―――
財副長「な、もう全滅したのですか!?」
財副長「ええい、こうなったら魔法陣を……」
戦士「遅いっ!」
ザンッ
財副長「ぐはっ!」バタッ
戦士「よし、鎮圧は完了したな!」
戦士「怪我人の搬送を急げ!奴らの武器の傷は魔法じゃ治らん、今すぐ奇術式の病院に搬送しろ!」
タタッ
憲兵「部門長!先ほど勇者殿から伝達兵が参りました」
戦士「伝達兵?なんで魔法を使わないんだ?」
憲兵「それが、どうやら魔法は傍受される危険があるらしく……」
戦士「なんだと?それで用件は何だ」
憲兵「この暴動は中央広場から注意をそらすための揺動であり、今すぐ憲兵隊を中央に呼び戻してほしいということです!」
戦士「な、揺動だと!?」
戦士「確かに、やけに中央広場周辺だけが狙われなかった……普通ならば狙うべきはそこのはずだ……」
戦士「分かった。伝令ご苦労だったな」
戦士「余力のあるやつは俺に続け!中央広場に急ぐぞ!」
戦士「俺たちのリーダーが危険だ!」
オーッ‼
ダダダダッ
―――同じく郊外―――
副団長「ニャンだって!?」
憲兵「はっ。今すぐ中央広場に戻るべきかと」
副団長「ボクたちはまんまとはめられたってわけだね……」
副団長「しかし、団長に手を出させるわけにはいかない!」
副団長「何としても団長をお守りするよ!」
オーッ‼
ダダダダッ
―――同刻 中央広場 特設ステージ付近―――
歓声がまだ鳴り止まぬ中、1人の黒いフードを纏った男が群衆の最前列に現れた。
そしておもむろに、黒く光る銃を勇者に向けたのだった。次の瞬間には、歓声は悲鳴へと変わった。
男「全員動くな!動けばすぐさま勇者を撃つ!」
キャァァァァ
ナンダッ‼
アレハジュウヨ‼
群衆は男から後ずさり、男の周りを半円状に囲った。
勇者「君は誰だい? いったい僕に何の用があるのかな?」
男「……」
男「ククク……」
男「何の用だと?今更聞くこともあるまい」
団長「その声は!?」
男「ああ、そうさ。地獄の淵から這い戻ってやったよ」
男「貴様らを葬ってやるためにな!」バサッ
そう言うと男はフードを脱いだ。そこにいたのは、かつて団長の配下であった情報隊長だった。
勇者「葬る……ねぇ」
勇者(まさか彼が還ってくるとは……これは益々まずいことになったな)
勇者(彼がわざわざ1人でここまで来たということは、1人で十分この広場の全員を抹殺する手段を整えてきたということ……)
勇者(そんなことが可能なのは最早魔法陣を使った最上級クラスの魔法しかありえない……)
勇者(そしてその魔法陣の発動条件はまず発動者が魔法陣の中にいることだ)
勇者(さらにかつて僕らを道連れにまでしようとした情報隊長がここに来たということは、最悪また同じことをやるために他ならないだろう……)
勇者(しかし魔法の傷は魔法で回復できる……)
勇者(僕や団長は強力な防御魔法を使える上、真っ先に回復魔法をかけられる対象となり、生存の確率は高い)
勇者(そこで今僕に向けている銃を使って予め致命傷を負わせておく……)
勇者(まあざっとこんなところだろう)
勇者(どっちが考えたのか知らないが、大層な策略だな……先代魔王もびっくりだよ)
勇者(しかし、その策略は僕の計算に狂いがなければ必ず2つの点で折れる)
勇者(間に合うかな……?)
情報隊長「もう一度同じことを説明してやることもあるまい」
情報隊長「俺は今ここでお前を自らの手で葬り、最後にはこの広場ごと真の平和の礎となってもらう」
情報隊長「3族の協調など夢想に過ぎない」
情報隊長「いづれは人間も魔族も半魔を敵視し、阻害し始めるのだ」
情報隊長「半魔の平和は半魔によってしかもたらされることはあり得ない!」
情報隊長「貴様の行動などただの自己利益のための偽善行為に過ぎることはないのだ!」
情報隊長「そんなものに簡単に騙される馬鹿はここで死ぬがいい!」
情報隊長「この土地にはまだわが同胞が存在している」
情報隊長「彼らは暗い地下で暮らし、半魔の平和という夜明けを今か今かと待ち望んでいるのだ」
情報隊長「さあ勇者、いや、ただの幻想を喚き皆をたぶらかす最大の悪党よ、わが同胞のためにここで散るがいい!!」ジャキ
勇者「まあいいさ、それなら殺すがいい」
情報隊長「何?」
勇者「残念ながら僕がいなくなったところで何も変わりはしないよ」
勇者「今この世界は歴史の境目に来ているんだ」
勇者「僕が死んだところで誰かがこの役目を新たに引き受けてくれる」
勇者「協調の種はをもうその芽を出してしまったんだ」
勇者「いづれは必ず3族の平等は成立するだろうよ」
勇者「君が僕を殺すのは結構だが、それはただ歴史はテロによって動くことはあり得ないという事実を証明するための確固たる証拠になるだけのことだろう」
情報隊長「ふん!今更負け惜しみなど片腹痛いわ!」
勇者(負け惜しみとはまた散々な言われようだな……)
―――広場周辺―――
ダダダダダッ
戦士「あれは……!?」
戦士「勇者が銃を向けられているだと!?」
戦士「くそっこれでは間に合わん!!」
戦士「勇者あああああぁぁぁぁっ!!」
―――同―――
ダダダダダッ
副団長「あれは、情報隊長!?」
副団長「団長が危ない!」
副団長「しかしこれでは間に合わない……」
副団長「いったいどうしたら……」
副団長「団長は絶対に守らなくてはいけないのに……!!」ギリ
―――特設ステージ―――
団長「勇者!!」
情報隊長「ハハハハハハッ!!」グッ
勇者「大丈夫さ」
団長「なんじゃと?」
勇者「どうやら間に合ったようだよ」
情報隊長「ん?」
ヒュオッ
突如情報隊長の背後に飛びかかる影があった。
情報隊長の敏感な危機察知能力をかいくぐって近づいたその影は、一見したらただの人間の少女にしか見えない、
しかしその角と赤い目によってようやく魔族だと判別できる容姿であった。
ズバァァァァァッ
パァン
勇者「うっ」ビッ
ドテッ
情報隊長「がはぁっ!!??」ドバッ
ドサッ
情報隊長の放った弾丸は、斬撃に一瞬遅れたため、辛うじて勇者の左ほほをかすめただけであった。
情報隊長「ば……馬鹿な……全く気付かなかっただ……と……」ゼェゼェ
勇者「ふう。随分遅かったじゃないか、魔王」
魔王「悪かったわね、そこのちっこいのの頼みで手間取ったのよ」
団長「ち、ちっこいの言うな! ……なのじゃ!」
魔王「それにしても、この困った目立ちたがり屋は何なの?」
魔王「勇者を本気で殺そうとしていたわよ。まあ思わず斬撃魔法で切っちゃったけどね」
勇者「思わずだなんて、素直じゃないな」
魔王「さあ何のことかしら」
魔王「この魔王がかの勇者を助けたなんてなっちゃ一族の恥だわ!」
勇者「分かった分かった」
情報隊長「く……おの……れ……」
団長「残念じゃったな情報隊長。お主の負けじゃ」
団長「お主の策略など、先代魔王の策略をかわし切った勇者に通じるはずがなかったのじゃよ」
勇者「ま、ギリギリだったけどね」
情報隊長「フ……フフ……」
情報隊長「何を勘違いしている……」
情報隊長「さっきも言ったはずだ……この広場ごと平和の礎になってもらうと……」
情報隊長「この広場には商人の仕掛けた爆破魔法陣が展開されている……」
情報隊長「死ぬのは貴様らも同じことだ……発動せよ!爆破魔法陣!」
魔王「少し黙りなさい!斬撃魔法!」ザンッ
情報隊長「がぁっ!」バタッ
情報隊長「」
ゴゴゴゴゴゴゴ
突然広場全体に地響きが鳴り始めた。かと思うと広場に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
団長「いつの間にこんな巨大な魔法陣を……!?」
勇者「僕らが遠征に行ったりしている間ってとこかな。深夜にも商人が外出していることはよくあったし、すべて合わせれば時間は十分にあったろう」
魔王「どうするのよ勇者!このままじゃあ……」
勇者「ああそうだね。あとは彼女に任せることにしよう」
団長「彼女?」
勇者「ああ。貴族出身の小探偵が犯人のところまでたどり着いていることを祈るのさ」
魔王「?」
―――少し前 半魔盗賊団旧地下基地 最深部 元玉座 現魔法石貯蔵室―――
商人「さて、そろそろでしょうか」
商人「私もこの転移魔法陣でここを離れることにしましょう」
商人「次にここへ戻ったときは、この地は『陣術の国』となることでしょう」
商人「あの魔術の国の貴族どもに思い知らせてやらねば……陣術師の、世代をも超える真の恐ろしさを!」
?「貴方、やはり陣術師の一族だったのね」
すっかり放置されて淀んでしまった暗闇から現れたのは、魔法使いであった。
商人「ほう?まさかここまで来るとは」
魔法使い「まず貴方は、自らの痕跡を断つために、魔法痕の隠蔽魔法をかけていた」
魔法使い「あれは魔法陣を隠すことにしか使えない魔法よ」
魔法使い「あの魔法陣形成チョークといい、あれだけの上級な魔法を魔法陣のみで発動させる手腕といい、貴方が相当手練れの魔法陣の使い手であることは確定するわ」
魔法使い「そして、魔法陣はその強力さゆえに消費する魔力も莫大なもの」
魔法使い「それだけの魔力を供給するには大量の魔法石が必要になるものよ」
魔法使い「となれば、いくら魔法陣を隠しても、魔法石が大量に存在する所に魔法陣が存在すると推理できる」
魔法使い「となれば、そんなところはこの魔法石貯蔵室しかありえないのよ」
魔法使い「この場所は以前行方不明者がでて使用禁止になり、更に中央広場の真下にもあたるわ」
魔法使い「独立宣言式で中央広場に大勢の人が集まることも考えると、魔法陣の場所も貴方が潜んでいる場所も見えてくるというわけよ」
商人「ほう……」
ゴゴゴゴゴゴ
魔法使い「あら、魔法陣が発動したようね」
―――地上 中央広場―――
ゴゴゴゴゴ
ザワザワ
中央広場は緊張に包まれ、大いにざわつき始めた。勇者もこれを止めることもできず、ただ見守るだけであった。
カッ
勇者「!」
突然閃光が日中の広場をさらに明るく照らした。
ドドーン ドドドン
団長「こ、これは……」
閃光の源は空高く昇り、青空一面に花火を咲かせた。
そして、その無数の花火は勇者の国の独立を祝うかのように広場を明るく照らすのであった。
オオオオーッ‼‼
コンナサプライズヲヨウイスルナンテ‼
サスガユウシャサマダ‼‼
群衆も一連の騒動がショーであったと解釈したのか、歓声を上げ始める。
魔王「綺麗ね……」
勇者「ね、言っただろう?」
ワーワーッ‼
ユウシャバンザイ‼
ユウシャノクニバンザイッ‼‼
花火はさまざまに色を変え形を変え、1時間以上も花を咲かせ続けたという。
―――地下 魔法石貯蔵室―――
ドン……ドドドン……
魔法使い「どう?ただ魔法陣を消すだけじゃもったいないから、ちょっとだけいじらせてもらったわ」
商人「フフ……名推理お見事でした」
商人「それにしても、貴族出身のご令嬢がこんな汚い場所へよくもずかずかと入れたものですね」
魔法使い「あいにく私はそういう建前とか礼儀とかいう下らないものが苦手でね」
魔法使い「かつては、あんな家を継ぐくらいなら死んでやろうと決心したものよ」
魔法使い「まあ、そこに運よく勇者一行の知らせを聞いたわけだったけれど」
商人「ほほう。それでは私と貴方は似通ったところがおありのご様子で」
魔法使い「そうかもしれないわね。でも、貴方と私は敵よ。それは変わらないわ」
魔法使い「貴方の野望のために平和の象徴を失うわけにはいかないのよ」
商人「そうですか……まあ、私も貴方は後々消さねばならないと思っていましたよ」
商人「いつの時代も、我々商人に最も大きな利益を与えるのは戦争……」
商人「私もそのうちの一人として純粋に利益を求めるのは必然」
商人「しかしそれだけではない」
商人「そう。我が『陣術師の一族』を滅ぼしたのはまさに貴方の家門の貴族なのですからね」
魔法使い「今から50年ほど前まで……魔術連合に存在した『陣術の国』」
魔法使い「魔法陣を扱うことに特化した陣術師はかつて強力な魔術師の一派だった……」
魔法使い「しかし50年前に魔王軍への内通と反逆の策謀が発覚し、当時魔術軍の全権を支配していた我が家門が全軍を挙げて討伐した……」
魔法使い「その歴史が偽りであったというの?」
商人「そうです。貴方の家門はただ我らの力を恐れたがゆえに我らを滅ぼしたのです」
商人「結局陣術の国から王族を含めた極少数の者が幸の国に亡命」
商人「今では王族の子孫である私と、その一家は奇術の国まで至って細々と暮らしています」
商人「そして私は先代の敵を討つため、魔法の存在しない奇術の国で魔法を使って実績を挙げ、『あの方』に見初められてここまで辿り着きました」
商人「今少しは失敗しましたが……幸の国へ戻った後、いずれはここに陣術の国を再興するのです」
商人「最後には必ずあの憎き魔術の国を滅ぼして差し上げましょう」
魔法使い「そんなにうまくいくものかしら」
魔法使い「背後には奇術の国だっているのよ?」
商人「もちろん対策は練ってあります」
商人「さて、そろそろお喋りは終わりにしましょう」
商人「貴方には消えてもらいます」
魔法使い「あら、転移魔法で消えるつもりの貴方がよく言うわね」
商人「どこまでも口の減らないお方ですね!」バッ
商人は、背負っている鞄からホワイトボードのようなものを取り出した。
商人「火炎陣!」ボォォォッ
そして一瞬のうちに魔法陣を描くと、強力な炎が魔法使いに向かって放たれた。
魔法使い「炎には水ね。水彩魔法……!?」スカッ
魔法使い「く……封魔魔法!?」バッ
魔法使いは済んでのところで襲い掛かる炎をかわした。
商人「残念、避けられましたか。念のために魔法封じの魔法をかけておいたんです」
商人「これでこの部屋の中では魔法陣しか使用できませんよ?」
魔法使い「……ここがダメなら……ここをこうして……これを代入して……よし」
魔法使い「さあどうかしら? 氷柱魔法!」ドシュッ
商人「!?」
商人「ちっ、防御陣!」カキィィィィン
商人「馬鹿な!魔法陣はまだ崩壊していないはず……」
魔法使い「甘かったわね商人」
魔法使い「封魔魔法というものも、所詮は魔導方程式に依存するもの」
魔法使い「その仕組みは魔導方程式の一部を遮断して、魔法を使用不可にするというのが普通よ」
魔法使い「それならその遮断された部分を避けて方程式を書き直せばいいだけのこと」
魔法使い「私にかかればそんなことはお安い御用というわけね」
商人「ぐぬぬ……やはり一筋縄ではいきませんか」
商人「それなら、これはどうです!」
商人「発動せよ!『無重力魔法』!」ヴン
突如部屋一面に魔法陣が現れた。
そして、商人の周りを除いた、部屋中のあらゆるものがふわふわと浮かびだした。
魔法使い「しまっ!? まさかこんな最上級魔法を用意しているなんて……」フワフワ
魔法使い(身動きが取れない!?)
商人「何日も前から準備していたんです。これくらいの襲撃は想定の範囲内でしたよ」
商人「さあ、これで攻撃の回避はできませんよ?」
商人「いつまで魔法の相殺だけで持ちますかね!」
商人「水龍陣!」ザパァァッ
商人が唱えると、龍を象った大量の水が魔法使いに襲い掛かる!
魔法使い「くっ、水ならば氷ね」
魔法使い「氷結魔法!」ズババッ
カチーン
水は瞬時にして凍り付き、氷の粒が魔法使いの周りを浮遊した。
魔法使い「……しまった!」
商人「鋭いですね」
商人「氷弾陣!」バリィィィン
ヒュンッビュンッ
商人の魔法陣で、今凍ったばかりの氷が弾け、一斉に魔法使いの方へと向かっていく!
魔法使い「それなら、爆破魔法!」ボガーン
魔法使いは小規模な爆発を起こすと、その反動で天井の方へと飛び去り、辛うじて氷弾のクロスポイントから逃れた。
商人「逃がしませんよ!追いなさい!」
無数の氷弾は軌道を変え、魔法使い1人を執拗に追ってゆく。
魔法使い「一気に行くわよ!」クルッ
魔法使い「それっ、爆破魔法」ボガーン
魔法使いは天井まで達すると、思いっきりそれを蹴った。
と同時に爆破魔法で勢いを増したまま側壁まで達し、再びその壁を爆破魔法付きで蹴る。
ビュンッ
商人「まさか!」
商人「無重力を逆手に取られたか!」
魔法使い「もう遅いわよ! 斬撃魔法!」
商人「まずい!」バッ
無重力を利用して魔法使いは商人との距離を一気に縮めた。
しかし、商人はギリギリのところで攻撃をかわした……と思われた。
ズバァッ
商人「何!?陣製ボードが!」
魔法使いは初めから商人を狙ってはいなかった。
商人の攻撃の要であるホワイトボードを狙っていたのである。そして……
商人「……しまった!」
商人の目の前に現れたのは、コントロール不能になり、商人の方へと向かう無数の氷柱であった。
商人「うわぁぁぁぁっ!魔法陣解除っ!!」
バリバリバリィンッ
無重力状態が消え、無数の氷柱は地面へと墜落し、砕け散っていった。
ドテッ
魔法使い「いたたた……いきなり解除しないでほしいわね」
魔法使い「重力の下だとあまり運動神経がいいほうじゃないのよ」
魔法使い「ふふふ。無重力だからって油断したようね」
商人「はぁ……はぁ……」
魔法使い「あらどうしたの?顔色が真青よ」
商人「クッ……」
商人「貴族の娘風情がなぜそこまで平和にこだわる!」
商人「勇者であれ戦士であれ、貴様らこそ戦うために生まれてきた存在であろう!」
商人「人の争いなど消えることはあるまい!」
商人「そんな永遠ならざる平和のためにどうして自らの存在意義を投げ捨てようとするのだ!」
魔法使い「永遠ならざる平和、ね。まあそうかもしれないわね」
魔法使い「でも、争いは当事者のうちで片づけてもらうのが筋ってものよ」
魔法使い「私たちも乗りかかった船を最後まで港に返したい。ただそれだけのこと」
魔法使い「また後世で争いが起こったならその当時の勇者に委ねることにするわ」
魔法使い「私たちには関係のないことよ」
商人「ぐぬう……」
商人「あまり遊んでいるわけにもいきませんね」
商人「今日のところは退かせていただきます」
商人「次こそはこの国を乗っ取ろうなどと甘いことは考えずに、本気で瓦解へと追い込むことにしましょう」
商人「それでは、貴族出身の大層お上品なお嬢さん」サッ
商人「発動せよ、転移魔法陣!」ヴン
商人が合図すると、再び部屋中に魔法陣が浮かび上がった。
今度のものは先ほどの魔法陣よりもかなり複雑に描かれている。
ゴゴゴゴゴゴ
商人「さあ、早くここから逃げたほうがいいですよ!」
商人「何せこの魔法陣は繊細なもの。中心以外にある物体がどこに転移するかは私にもわかりません!」
商人「中心には間に合わないでしょうが、まだ部屋の入り口なら間に合うのではないですか?」
商人「まあ、貴方の運動神経では保証しかねますがね!ハハハハハ!」
魔法使い「いちいち高笑いしなくても分かってるわよ!」タタタッ
魔法使いは部屋の入り口に向かって全力疾走した。
魔法使い(確かに、入り口までは間に合いそうね……)
魔法使い(彼を生かしておくのも危険だけど、ここは諦めることに……!?)ガッ
ドテッ
魔法使い「あいたたた……やっぱりこのローブの丈は短くしておくべきだった……」
魔法使い「!」
商人「ハハハ!転んでいる暇なんてありませんよ!?」
商人「さあ、あと5秒です!」
魔法使い「くっ!」ダダダダダッ
魔法使い(ギリギリ間に合うかしら……?)
ゴゴゴゴゴ
ついに魔法陣が作動し始めた。
商人「ハハハハハハ……」
魔法使い「えいっ!」ダッ
ズザザザッ
魔法使いは部屋の入り口に差し掛かったところで廊下へと飛び込んだ。
シュバッ
そして、そのすぐ後に、商人は忽然と消え去ってしまった。
魔法使い「間に合った……!?」ズキッ
魔法使い「うぐぁっ……まさか……」
魔法使いは、突然襲ってきた激痛に顔をゆがめた。恐る恐る足の方を見やると、右足の踝から下が消え去っていた。
魔法使い「あ……ぐぅぅ……」ドクドク
魔法使い「ま、間に合わなかったようね……回復魔法」ポウッ
魔法使いはあくまで冷静に処理をこなした。回復魔法で傷は塞がったものの、もはや歩ける状態では無くなってしまった。
魔法使い「はぁ……はぁ……再生魔法はまだ研究段階……まあ、いい実験体ができたということにでもしておきましょうか」
魔法使い「でも、もう戦闘に出るのは無理、かな」
魔法使い「……私の意思は次の世代へってとこかしら」
魔法使い「それにしても、ズッコケたところが転移魔法陣の出力座標指定部位だったなんて」
魔法使い「彼も不運なものね」
魔法使い「今頃は、空中浮遊でも楽しんでくれている頃かしら」
魔法使い「……悪く思わないでほしいわね。これも、あくまで平和のためよ……」
―――少し後 幸の国王城 玉座―――
宰相「国王様!大変です!」
ドタバタ
玉座に、青い顔をした宰相がまた駆けてきた。
幸の国王「なんだ宰相。やけに城内が騒がしいが、どうかしたのか?」
宰相「それが……あの商人が空から降ってきたのです!」
幸の国王「何?」
宰相「そのままの意味でございます。恐らく、しくじったのかと」
幸の国王「なぜ分かる」
宰相「先ほどラジオ放送にて一時中断した独立宣言式ですが、再開した模様です」
宰相「さらに、落下地点周辺にいた多くの者が、彼の叫びを聞いていたことから、生きたまま上空に転移したようです。もちろん、彼は即死でした」
宰相「極め付けに、商人のものではない踝より下のみの足が一緒に落ちていたということです」
幸の国王「チッ。役立たずめが!」
幸の国王「まあよい。奴もいずれは消すつもりだったのだ。手間が省けたというものだ」
幸の国王「だが勇者を消し損ねるとは……余の目が甘かったとでもいうのか」
幸の国王「やはりまだ本来の力が……」ボソ
宰相「?」
幸の国王「いや、何でもない」
幸の国王「こうなればそろそろ本格的に動くことにしよう」
幸の国王「あの理事長とかいう青二才め。よくも計画を狂わせよって」
幸の国王「宰相。準備はできておるな?」
宰相「はっ。ひと月ほどで実行に移せるかと」
幸の国王「よし。頼んだぞ」
宰相「御意」
―――その夜 新生勇者の国 首都 行政府宴会場―――
ワイワイガヤガヤ
独立宣言式当日の夜、行政府では、魔術の国や奇術の国からも来賓を招いたパーティーが行われた。
団長「まったく。一時はどうなることかと思ったのじゃ!」
戦士「そうだそうだ!結局俺たちも間に合わなかったじゃねえか!」
副団長「団長に何かあったらどう責任を取るつもりだったのさ!」
勇者「まあまあ、結局は一件落着したんだから、それで無罪放免ということで……」
勇者「それに、今回は本当にギリギリの戦いだった。少しでも隙を見せたら被害はさらに大きくなっていたんだ」
勇者「魔法使いについては悪いと思っているけど、まあそれだけで済んでよかったと思っているよ」
魔法使い「それだけだなんて、ひどい言いぐさね」
魔法使いが車椅子で現れた。
魔法使い「優秀な魔法戦士を失ったくせに随分と余裕そうじゃない?」
助手「せめて私をお付きにしてくださればこうはならなかったじゃないですか〜」
助手「そんなに勇者様を責めないで下さいよ師匠」
魔法使い「貴方は自分の仕事があったでしょ?それに彼とはちょっとした因縁があってね、そんなことに他人を巻き込むわけにはいかなかったのよ」
助手「まあそうかもしれないですけど……」
戦士「ったく。商人も足じゃなくて口を狙えばよかったのにな」
魔法使い「まあ、自分ができないからって人にやってもらおうなんて、弱い人間がすることじゃないかしら?」
戦士「ぐぬぬ……」
副団長「さ、流石魔法使い様……!」
勇者「魔法使いの副団長内ランクがどんどん上昇していくね」ケラケラ
団長「まあ、獣は自分より強いものには忠誠を誓うというものじゃしのう」
団長「しかし猫はどうじゃったかな……」
副団長「でもボクの本当の主人は団長ただ一人ですよ!」
団長「ま、儂には遠く及ばんがな」フン
魔王「あ、ここにいたのね勇者娘」
そこに、魔王が現れた。
団長「なんじゃ魔王か。どうじゃ、部屋の整理は終わったか?」
魔王「まあ大体ね」
勇者「いきなり自分用の部屋がほしいなんて、随分大胆な要求じゃないかい?」
魔王「そんなこともないわよ。本当はこの国にもう一つ城でも欲しかったんだけれど、よさそうなところが無いみたいだったし」
魔王「当分はここを別荘代わりとしてでも使わせてもらうわ」
勇者「そんなにここの居心地を気に入ってくれたのかい?」
魔王「な、そんなんじゃないわよ!あくまで視察のためよ!」
団長「なんで赤くなってるんじゃ……」
団長「そうじゃ、あの件はどうじゃったかのう?」
魔王「ああ、結構難航したけど、禁書の中にいくつか資料を見つけたわ。後で話すわね」
団長「すまんな……」
勇者「さて、そろそろ乾杯と行こうかな」
勇者「役者も全員揃っただろう?」
団長「いや、ちょっと待ってほしいのじゃ」
団長「奇術の国からの来賓の姿がまだ見えておらん」
団長「どうも国内の情勢がまだ不安定で式には来られんかったそうじゃが、この祝宴には出席するといっておったのじゃ」
勇者「なんだ、そうだったのか」
勇者「誰が来るんだい?」
団長「恐らく外務理事じゃろう。彼は生き残ったと聞いておるしな」
スタスタ
?「お久しぶりです勇者様」
勇者「!」
魔法使い「!」
戦士「お前は!!」
僧侶「お元気そうで何よりです」ニコッ
勇者「僧侶!?……とあの時の」
大佐「御無事そうで」ペコリ
魔法使い「まさか貴方が直接出向くなんてね」
副団長(これがあの僧侶か……)
僧侶は、奇術の国の正装を纏い(言わば男物のスーツ)、大佐を引き連れて現れた。
僧侶「ええ。少し我がままを通させてもらいました」
僧侶「久しぶりに皆さんの顔が見たくなりましたしね」
戦士「なんか雰囲気が変わってねえか?」
勇者「確かに、以前はもっと若々しかったような……」
僧侶「人というものは時間を経て変わっていくものです」
僧侶「私だってその流れから抜け出せるわけではありませんよ」
大佐「僧侶さん」
僧侶「……そうでしたね」
僧侶「今日ここに来たのは他でもありません。あることを伝えに来たのです」
僧侶「奇術の国は勇者の国の独立を正式に認めます」
勇者「なんだって!?」
団長「と、唐突じゃな」
僧侶「すみません……こちらでも大分揉めまして」
僧侶「しかし条件があります」
僧侶「魔術の国との同盟を破棄して、奇術の国と新たに同盟を結んでほしいのです」
助手「そんな!」
魔法使い「まあ、そうなるわよね」
助手「師匠!」
勇者「うーむ。その回答はすぐには出しかねるな」
勇者「確かに、魔術連合の情勢はかなり不安定だ。場合によってはそのことも検討しようとは思っていたところさ」
魔法使い「私もそれをお勧めするわね」
助手「な、なんでですか師匠!」
魔法使い「ちょっと静かになさい」
僧侶「流石は勇者様です! そこまで考えが及んでいらっしゃるなら話が早いですね」
僧侶「まあ、詳しい話は後々させていただきますね」
勇者「よろしく頼むよ。それじゃあ今日は祝宴を楽しんでくれ!」
僧侶「ええ。そうさせてもらいます!」キラキラ
戦士「やっぱり雰囲気が変わっても僧侶は僧侶だったな……」
魔法使い「ま、彼女にも事情というものはあるものよ戦士」
魔王「これがお父様の策略を凌駕した勇者パーティーなのね……」
勇者『それでは皆さん、本日は独立記念の式及び祝宴に参加していただきありがとうございます!』
勇者『それでは勇者の国の建国を祝って』
魔法使い「建国を祝って」
戦士「建国を祝って!」
僧侶「建国を祝って」
団長「建国を祝って」
副団長「建国を祝って!!」
魔王「ふん……祝ってやるわよ」
隊長C「建国を祝って」
助手「建国を祝って」
大佐「建国を祝いまして」
カンパーイ!!
ワイワイガヤガヤ
――――――
―――――
―――
―――そのころ 幸の国 王城 バルコニー―――
幸の国王「今頃奴らも祝宴に酔いし頃か」
幸の国王「謀略とはやはり一筋縄では達成できぬある種の芸術……」
幸の国王「元の体を失った余にその資格はないとでも言うのか……?」
宰相「国王陛下。よろしいでしょうか」
幸の国王「なんじゃ宰相。そこにおったのか」
宰相「失礼を承知で参上いたしました。一つだけお聞き申し上げたいことがありまして……」
幸の国王「何だ」
宰相「いえ、非常に馬鹿馬鹿しいことではあるのですが……」
宰相「国王陛下は、本当に陛下自身であらせらるるのありましょうか」
宰相「失礼ながら、以前の温厚な国王陛下とは随分とお変わりになってしまったと思い申し上げまして」
宰相「何かお悩みでもございますなら私に何なりとお申し付けいただければ幸いかと……」
幸の国王「なんだそんなことか」
幸の国王「……フフ。お前は観察眼の鋭い奴だな」
宰相「はは、何とぞ御恐縮なお言葉を……」
幸の国王「だが、そんなことを城内の者に耳打ちされても困る」
幸の国王「もう少し役立ってもらいたかったが……まあよいだろう」
宰相「へ?」
幸の国王「やれ」
?「はっ!」
ザシュッ
幸の国王が合図すると、暗闇から何者かが飛び出し、宰相が悲鳴を上げる間もなく切り捨ててしまった。
宰相「がはっ……馬鹿……な……」ガクッ
幸の国王「準備はできておるか?側近」
側近「はっ。すべては手筈通りに」
幸の国王「うむ。しばらくは宰相に化けて行動せよ」
幸の国王「大分予定は狂ったが……まあよい。想定の範囲内だ」
幸の国王「あの小娘め、勝手なことを好きにやりおる」
側近「恐れながら、それもお父上である『先代魔王』様。貴方に似なさったものであると」
幸の国王(先代魔王)「フフ……お前も言うようになったな」
側近「ははっ。これはとんだお耳汚しを」
幸の国王(先代魔王)「娘といえど容赦はせぬ」
幸の国王(先代魔王)「卿もそれを忘れるなよ」
側近「ははっ。我が忠誠は先代魔王様、貴方様ただお一人に」
国王の『知恵のペンダント』が、赤黒く淡い光を放っていた。
建国編 END
ということで、次回更新は少し遅めになるかもです。
おつかれさま!
ふむふむ、面白い。
勇者「停戦協定?」【後編】へつづく
・SS速報VIPに投稿されたスレッドの紹介でした
【SS速報VIP】勇者「停戦協定?」
・管理人 のオススメSS(2015/07/04追加)
・極小透けブラの篠崎愛のチクビの位置wwwwwwwwww (画像あり)
・【コスプレ】篠崎愛がピッチピチのふとましい”キャットウーマン”にwwwww【画像あり】
・【鬼畜】俺に冷たい元グラビアアイドルの派遣社員への腹いせに下着盗撮してた結果
・【マ●コ&ケツ丸見え】 外で下半身丸出しにしてる恥ずかしい女がコチラですwwwwww【画像30枚】
・【画像】やっべーもん顔につけて歩いている奴がいるwwww
・【悲報】ΛV女優が鍵開けたまま眠った結果がヤバすぎるwwwwwwwwwwww
・【R-18】弟「……ッ!」パンパンパン 姉「……ッ////」 母さん「あなたたち何してるの!」& lt;/a>
・【R-18】娘「勝手に部屋に入ってこないでよ、パパ!」
・男「これより……貴様のケツをさわる」 女「ほう……」
・【マジキチ注意】俺「セックス、、ノート、、?」
・特殊部隊員「き!木村カエラが近付いてきます!」リングディンドン…
・【工口 グ口 胸糞注意】勇者「魔物とセ○クスした」
・中学の頃プールの時間に女子のパンツの匂い嗅ぎに行ったら親友ができた話
・男「これより……貴様のケツをさわる」 女「ほう……」
・バーン「ハドラーよ、今期オススメのアニメは何だ」
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508: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:48:47.12 ID:Uc161fWJ0
―――勇者出発当日 昼 奇術連合との国境付近―――
ザッザッザッ
企業連合不干渉区支社長「いやはや、奇術国の代表として、私がこれから案内をさせていただきますね」
支社長「よろしくお願いします」
勇者「ああ。よろしく」
支社長「準備はよろしいですね。それでは早速参ることにしましょう」
勇者「よし! それじゃあいってくるよ」
戦士「おう! 隊長A、隊長B、そして上級隊長。このヘボ勇者を頼んだぜ!」
隊長A「承知」
隊長B「ラジャーッ」
509: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:50:14.01 ID:Uc161fWJ0
上級隊長「お任せあれでござる」
勇者「ははは。頼もしい限りだよ」
魔王「ふん!魔法使いのお陰でさらに強くなった私の力を見せてあげるわ!」
魔王「覚悟なさい!」ビリビリッ
勇者「君は誰と戦うつもりなのさ……」
ザッザッザッ
PARTY1
勇者
上級隊長
隊長A
隊長B
魔王
PARTY2
団長
外副長
510: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:51:02.29 ID:Uc161fWJ0
―――…
支社長「いやはや、これからの日程を確認させていただきますとですね」
支社長「まずは、この森を抜けたところに自動車を用意してありますから、それに乗って『ヤマダ市』を経由し、電気の国の首都へと向かいます」
支社長「そこからは鉄道で一気に奇術の国の首都まで行きますので、到着は3日もかからないでしょう」
勇者「たった3日も!? 奇術の国の交通網はそこまで発達していたのかい?」
勇者「何度か行ったことはあったはずなのに……知らなかったな」
魔王「私でさえ徒歩で勇者の城へ行くのに3週間もかかったというのに……」
勇者「それは当たり前だろ。てか君は飛べたんじゃなかったっけ?」
魔王「あっ」
511: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:51:54.08 ID:Uc161fWJ0
勇者「そういや魔術国を通って北部の荒れ地まで行ったときは1カ月はかかったな」
支社長「当然です。あのような非科学的な国々と一緒にされては困りますよ」
勇者「奇術国連合の国民はそこまで魔術連合を嫌っているのかい?」
支社長「ええ、まあ。この世界には科学で証明できないことなんてありえないんです」
支社長「もしそんなことがあればエントロピーは増大し、世界は滅びてしまう」
支社長「そんなことも知らずに魔法などという非科学的な現象を扱うというのは、脅威以外の何物でもないと思いませんか」
勇者「なるほど……それも面白い見方だね」
勇者「まあ僕も魔法を使わないわけじゃないけど……そこまで考えたことは無かったなぁ」
支社長「いやはや失礼しました。勇者様やこの不干渉区の皆様は科学のことも理解していただいているようなので恨む理由もありません」
512: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:52:46.34 ID:Uc161fWJ0
支社長「あまり気になさらないでください」
魔王「でも、魔法もなしに一体どうやって暮らすつもりなのよ」
支社長「そのために科学があるんですよ。既に様々な物理法則や定理が先人の手によって発見されていますから、それを使って私たちは新たな技術を生みだしているのです」
魔王「ど、どこかで聞いたことがあるようなセリフね……」
支社長「?」
支社長「まあともかく、魔術と科学の対立は今に始まったことでもありませんし、今でも魔族と人間同様深い溝が隔たっているのです」
支社長「それはなかなか消えるものでもないでしょう」
勇者「なるほどね。対立は人の常ということかな」
支社長「そういうことです」
513: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:53:23.37 ID:Uc161fWJ0
―――…3時間ほど後 森を抜けた先 ロードサイド
支社長「それではどうぞお乗りください」
勇者「実際に自動車に乗るのは生まれて初めてだなぁ」
魔王「何この四角くて黒い乗り物は? 爆発したりしないでしょうね!」
支社長「ははは……」
勇者「なんつーぶっそうな」
勇者「大丈夫、これは自動車と言ってね。人を運ぶ乗り物なのさ」
魔王「ふーん。まあいいわ。じゃあさっさと乗せなさい!」グイッ
514: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:54:35.05 ID:Uc161fWJ0
勇者「わっ!押し込むなって!」ゴン
バタム
勇者「頭を打ったじゃないか……イテテテ」ヒリヒリ
魔王「あら御免あそばせ」
勇者「なんだか言葉遣いが魔法使いに似てきたよな」
魔王「ま、まさか!気のせいよ!」
支社長「それでは、ここからヤマダ市は15分ほどですので」
勇者「意外と近いんだね」
515: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/11(木) 23:55:06.69 ID:Uc161fWJ0
支社長「この自動車は馬車の10倍はスピードが出ますからね」
勇者「うお……そいつは目が回りそうだ」
支社長「おい、出してくれ」
運転手「はっ」
ブロロロロ
こうして、勇者一行は無事にヤマダ市へと至るのであった。
520: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:48:38.09 ID:nXFmVJta0
―――勇者出発の少し前 奇術連合上空―――
団長は勇者より先に、奇術の国の理事長に面会するため奇術の国の首都へと向かっていた。
バサッバサッ
団長「しかし、実行隊長の背中に乗って飛ぶのはずいぶん久しぶりじゃな」
団長「少しは重くなったじゃろ」
外副長「へへっ。団長はいつ乗せても同じ重さですぜ」
外副長「それは初めて団長をのせて敵の基地へ突撃した時から何も変わっていやせんよ」
団長「なんじゃ。もうちょっとお世辞くらい混ぜてはくれんのか」シュン
外副長「世の中のレディーはむしろ若いことを好むもんだって聞いていやしたがね」
団長「若いと幼いは別問題じゃろ」
521: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:49:23.33 ID:nXFmVJta0
外副長「そんなん似たようなもんじゃねえですか」
団長「似ておるものか。儂だっていつかあの魔王や副団長のようなナイススタイルを手に入れてじゃな……」
外副長「あれじゃあ団長の御顔に似合いやせんぜ」
団長「そういう問題じゃないじゃろ」
外副長「それより、団長はそのババ臭い喋り方を何とかした方がいいんじゃねえですかい?」
団長「あ、今ババ臭いって言ったな? 傷つくぞ。儂かなり傷つくぞ」
外副長「そんな怒らねえでくださいよ。冗談です冗談」
団長「冗談でも言ってもいいことといけないことはあるものじゃ」
団長「全く。昔からお前もそういう所だけは変わっておらんな」
外副長「お説教はやめてくださいよ。余計にババ……若さが廃れやすぜ」
団長「ふん。もう廃れてもらって結構じゃ」
522: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:50:04.27 ID:nXFmVJta0
団長「もともとこの喋り方を始めたのだって、こんな姿に少しでも威厳をもたせたかったからにすぎん」
団長「むしろその方が目的にあっているともいえる」
外副長「なあんだ。開き直っちまいましたか」
外副長「そういや確かに、あっしが団長に会った初めのころは普通の喋り方でいやしたような」
団長「うむ。そうじゃな。あの頃はまだ弱くて皆に迷惑ばかりかけておった」
団長「なんせ魔力だけが頼りじゃったからな。魔法石が切れたらただのか弱い少女じゃ」
団長「そんなものを守るために一体どれだけの半魔が犠牲になってくれたことか……」
外副長「そうですかねえ。あっしも含めて、死にかかったり戦いに負けて逃げてきた半魔を片っ端から救ったのは団長に他なりやせんからね」
外副長「もうあっしらの命はハナっから団長の命と同じようなもんだったってー訳でありやすよ」
523: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:50:47.77 ID:nXFmVJta0
団長「そうか。そう言ってくれると嬉しいな」
外副長「この実行隊長、命に代えても団長をお守りいたしやす。どうぞご安心を」
団長「な、なんじゃ、そういう時だけ格好つけおって」
団長「そんなことをしてもケーキはやらんぞ!」
外副長「あ、団長ったら照れていやすね!? いやあ可愛らしい」
団長「や、やめろ。そういうのにはあまり慣れておらんのじゃ」
外副長「団長はまだまだお子様でいやすねぇ。それじゃあ伸びるもんも伸びやせんぜ」
団長「ふん。悪かったな」
外副長「あ、いつもの団長に戻っちまいましたか。残念」
団長「何が残念じゃ」
524: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:51:21.44 ID:nXFmVJta0
団長「さて、そろそろ奇術の国本国に入るころかのう」
外副長「そのようですね。目下の景色も大分変わってきやしたし」
外副長「日暮れには着きそうですぜ」
団長「うむ。奇術の国の首都か……まだ行ったことは無いな」
団長「どんな町が広がっているんじゃろうか」
外副長「そうですねぇ。商人の話だと魔術連合とは全く異次元のような世界が広がっているそうでありやすが」
外副長「にわかには信じがたい話でありやすね」
団長「まあ、百聞は一見に若かずじゃ。行けばおのずとわかることじゃろう」
団長「理事長の考えも含めてな」
外副長「理事長ですか。やっぱり何か絡んでいるんですかね」
525: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:51:54.17 ID:nXFmVJta0
団長「分からんな。勇者もいくつか推測は出しておったが、まだ証拠はない」
団長「儂には戦略的な考え方の知識は備わっておらんし、どうとも言えんな」
外副長「そうでありやすか」
外副長「もし、絡んでいるんだとしたら……」
外副長「……殺しやすか?」
団長「馬鹿言え、そんなことをしたらそれこそ奴の思うつぼじゃ」
団長「あちらはあちらでリスクも負っておるわけだし、わざわざ儂らが首を突っ込むこともないじゃろう」
団長「まあ、もし暗殺計画が実在しているとしたら、急いで儂らは勇者の元へ戻らねばならん」
団長「全力で勇者を守り、帰還するのじゃ」
外副長「そうですねぇ。しかし、ここから恐らく勇者がいるあたりへ向かうにはまた4,5時間はかかりやす」
外副長「あっしが先に過労で倒れちまいますぜ」
団長「嘘つけ、実行隊の時は無休で諸侯国貴族の屋敷へ交渉しに飛び回っていたじゃろうに」
526: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:52:26.49 ID:nXFmVJta0
団長「そのガラの悪い口調で貴族の親どもを震え上がらせていたと聞いたぞ」
外副長「へへへ。そんなのは嘘偽りばかりですよ。あっしはあくまで優しく小金をくすねてやっただけでありやす」
外副長「あいつらもどうせ金が有り余ってたんだから、ばちは当たりやせんぜ」
団長「そうかのう……まあ、直属三部隊の中で唯一1人として死者を出したことがなかったのが実行隊の美点ではあるか」
外副長「まあ、とくに戦闘することもありやせんでしたからね」
外副長「他の隊からは楽なもんだってよく冷やかしを受けたもんです」
外副長「とくにあの情報隊長なんかは……おっとこれは失礼しやした」
団長「いや、いい。気にせんで欲しいのじゃ」
団長「勇者にも言われたが、情報隊長は情報隊長で正しいことをしたまでにすぎんのじゃよ」
団長「奴は儂に命の借りがあったわけでもないしな」
外副長「そうでありやすけどねぇ……」
527: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:52:57.60 ID:nXFmVJta0
団長「もう終わったことじゃ。今からどうこう言おうと何も変わるものでもないのじゃ」
団長「儂らは前を見続けねばならん。こんなご時世じゃ。そうでないと時代の波にさらわれかねんぞ」
外副長「それならあっしは飛べるんで心配も無いでありやすね」
団長「逃げてどうする」
外副長「時にはヒット&アウェイというものも必要ですぜ」
団長「それはちょっと意味が違うんじゃないのか?」
外副長「細かいことは気にしないもんです」
528: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:53:36.46 ID:nXFmVJta0
―――夕方 奇術国首都上空―――
奇術の国の首都は高層ビルが立ち並ぶ巨大都市であった。
そして、その中でも一際存在感を放つビルこそ、奇術国企業連合の本社である。
もとは王政であったこの国は、自然資源と流通資本の拡大による企業の台頭により政治制度を改革。
王政と民主制を半ば組み合わせたようなシステムを構築している。
バサッ
団長「うわぁーっ! これは凄いな!」
外副長「思った以上に異次元でありやしたね……」
団長「儂らが飛んでいる高さのすぐ下まで建物が届いておるぞ……いったいどんな材料が使われておるんじゃ」
外副長「副団長に見せたら失神しそうですね」
団長「うーむ。逆に目を輝かせて行政府の近くにこれくらい高い塔を建設しそうな気がするのじゃ」
外副長「ああ確かに。それも可能性がありやすねえ」
529: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:54:10.75 ID:nXFmVJta0
団長「しかし、ここまで形も整って継ぎ目すら見られんとは……奇術の国の『科学』とは侮れんものじゃな」
外副長「企業連合の本社とはどれでありやしょうかねえ」
団長「多分あれじゃろう。ほら、あの1番高いやつじゃ」
外副長「お、たしかにあれっぽいでありやすね」
外副長「屋上に止まってみやすか」
団長「頼む」
530: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:54:44.89 ID:nXFmVJta0
―――企業連合本社ビル 屋上―――
団長「お、誰かが待っておるぞ」
外副長「ここで間違いないようですね」
バサッ
シュタッ
外務理事「お待ちしておりました、北部不干渉区の外務代表……様?」
団長「儂が元半魔盗賊団の団長じゃ。ぼちぼち聞いておるじゃろう」
外務理事「おお。これは失礼いたしました。私は奇術の国『外務理事』を務める者です」
外務理事「理事長がお待ちです。案内しますのでどうぞ」
団長「うむ。よろしく頼むぞ」
外務理事「あ、もう一方のほうはここでお待ちください。外務代表以外の方は入れるなとの命令が出ておりますので」
外副長「なあんだ。あっしは門前払いですかい」
団長「すまんな。すぐ戻ってくるのじゃ」
外副長「分かりやした」
ガチャ
531: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:55:13.97 ID:nXFmVJta0
―――本社ビル最上階 廊下―――
コツコツ
スタスタ
外務理事「しかし、まさかこんな幼い方があの不干渉区の幹部をなさっているとは」
外務理事「この世は科学では説明できない不思議なものが絶えないものです」
団長「幼いとは少し違うな。儂は成長が止まっているだけで生まれてからの月日は20余年程経っておる」
団長「まさに頭脳は大人、見た目は子供というやつじゃ」
外務理事「なるほど。これは少し誤解がありましたね」
外務理事「それでは、ここが理事長室になります」
団長「ありがとう。次はお主とは平和会議で顔を合わせたいものじゃな」
外務理事「ごもっともです」ニコッ
ガチャ
532: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:55:57.21 ID:nXFmVJta0
―――理事長室―――
バタン
団長「お主が理事長か?」
そこにいたのは背もそこまで高くないやせ形の男。
スーツに身を包み、黒縁メガネを一拭きしていた。
デスクの後ろには、ガラス越しに夕焼けに包まれた大都市が寝そべっていた。
理事長「お、これはこれは」カチャ
理事長「その通りです。私が奇術の国企業連合理事会の代表『理事長』です」
理事長「どうぞよろしくお願いします」
団長「儂がここに来た理由は大体わかっておるな」
理事長「そうですね。勇者様の安全の確保と言ったところでしょうか」
理事長「先に申し上げましたように電気の国の首都には僧侶さんの配下の軍を配置しています」
理事長「そこから先は彼女らが護衛の任務に就くことになっていますから、ご安心ください」
団長「なんじゃ。それならよかったのじゃ」
団長「儂の心配は杞憂だったようじゃな」
533: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:56:34.12 ID:nXFmVJta0
団長(しかしこの男……武器も取り上げなかったし、一体何を企んでいるのやらわからんな)
理事長「そうかもしれませんね」
団長「『かも』じゃと?」
理事長「ええ。何事においても不測の事態という物は起こりえるものです」
団長「な、何を……」
理事長「まあいいでしょう。もう用件は済みましたね?」
理事長「私も忙しいので、そろそろ仕事に戻らねばなりません」
団長「……まあいい。勇者の安全が確保されるならそれでいいのじゃ」
理事長「そうでしょうか。誰も勇者様の安全が確保されたとは言っていませんよ?」
団長「何?」
534: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:57:09.87 ID:nXFmVJta0
理事長「確かに電気の国の首都到着以降は安全かもしれませんが、それまではどうです」
理事長「現在勇者様は国境付近のヤマダ市にて泊していらっしゃるそうですが……」
理事長「軍務理事によると、今夜その付近で大規模な軍事演習を行うということです」
理事長「どうです?タイミングが良すぎると思いませんか?」
団長「なっ!よすぎるも何も、お主が合わせたんじゃろう!」
理事長「ええ。その通りです」
理事長「勇者様には申し訳ないですが、ここで亡くなってもらわねばなりません」
理事長「全ては我が奇術連合の利益の為です」
団長「きっ貴様やはりっ!」シャキン
団長は剣を構えた。
535: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:58:04.09 ID:nXFmVJta0
理事長「私を斬りますか?おすすめはできませんね」
理事長「折角ここまで平和の道を開いてきたというのに、わざわざ閉ざす必要もないでしょう」
団長「ぐっ……」
理事長「貴女ならきっと分かるはずです。これから迫る危機と、それを打開する方法が」
理事長「もしそうでないなら……私の合理主義が完全性に欠けていたというだけです」サッ
バタン
タタタッ
理事長が手を挙げると、扉から銃を持った警備兵が数人入り込み、団長を取り囲んだ
チャキッ
団長「うっ……やはり初めから待機させておったか」
理事長「父親を……」
団長「ん?なんじゃ」
理事長「元上級魔族の父親を探してみてください」
団長「儂の父親を?」
理事長「ええ。魔国におそらく資料があるでしょう。あの魔王にでも頼んでみてください」
団長「な、どうして魔王のことを……!?」
536: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:58:38.37 ID:nXFmVJta0
理事長「そうすればこの危機の一部が見えてきます」
団長「な、何を言っておるのじゃ!」
理事長「……それでは、貴方には大人しくしていてもらいます」
理事長「反魔法錠をつけて拘束しておいてください」
警備兵「はっ」
団長(まずい……このまま捕まるわけにはいかん……)
団長(かといって理事長を殺せば半魔は暗殺者の汚名を着せられ今までの苦労は水の泡……)
団長(派手に暴れるわけにもいかん……)
537: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:59:21.49 ID:nXFmVJta0
団長(なにかここから脱出できる方法は……)
団長(!)
団長(そうかあれがあったか!)
団長(しかし……もし失敗でもすれば即死か)
団長(一か八かやってみるしかあるまい……)
団長(確かあの部分はこうで……あれをこうして……)
警備兵「大人しくしていろ」
団長「よし!」
警備兵「ん?」
理事長「……」
団長「転移魔法!!」
シュバッ
538: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 22:59:59.96 ID:nXFmVJta0
―――本社ビル外 理事長室の外側―――
シュバッ
団長「はっ!? せ、成功か!!」
ヒュウウウ
団長「実行隊長!!どこじゃ!」
外副長「ここにいやすぜ」
バサッ
ドテッ
団長「いたたた……なんじゃもうちょっとソフトに受け取れんかったのか」
外副長「団長こそもうちょっとスタイリッシュな着地をしてくだせえよ」
外副長「腰を痛めちまうじゃねえですか」
外副長「それに、突然外に現れた団長に上手く反応したあっしを誉めてもらいたいものですね」
539: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 23:00:28.75 ID:nXFmVJta0
団長「ふう……そうじゃな。ありがとう実行隊長」
外副長「しっかし、あんなとっから御退場ということは……」
団長「ああ。最悪のケースじゃ」
団長「やはり奴は暗殺を企んでおった」
団長「急げ!全速力で勇者を救いに戻るのじゃ!」
外副長「あいあいっさー!」
バササッ
540: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 23:01:02.40 ID:nXFmVJta0
―――理事長室―――
ザワザワ……
オイッキエタゾ!?
ソトダ!ソトニデタゾ!
理事長「なるほど……あれは転移魔法というものですか」
理事長「合理的ではありませんが、非常に興味深いですね」
スタスタ
軍務理事「おやおや、どうやら取り逃がしたようですねえ」
軍務理事「追いますかい?」
理事長「結構です」
理事長「彼女は純粋に保護をしておくつもりでしたが、わざわざ捕まえてまでする必要もありません」
541: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 23:01:37.17 ID:nXFmVJta0
軍務理事「そうですか……ところで、本当にこれでよかったんですかい?」
軍務理事「わざわざ自分を犠牲にしなくてもよかったのでは……」
理事長「それが一番合理的なのです」
理事長「私の役目はここまでで結構なのですよ」
理事長「軍務理事、あとは任せました」
理事長「これで彼らはかなり動きづらくなることでしょう」
理事長「しかし、まだ完全に危機が消え去ったわけではありません」
理事長「後のことは、僧侶様や勇者様にお任せせねばなりません」
軍務理事「さっき殺すと言っておいてちゃっかり勇者様がはいってますぜ……」
軍務理事「本当に死んだらどうするつもりなんだか」
理事長「そうなったらそうなったでプランはありますよ」
軍務理事「無責任な……」
542: ◆9GmoiQGLItwN 2014/12/27(土) 23:02:13.38 ID:nXFmVJta0
軍務理事「ま、それもどうせ最も合理的なんでしょう」
理事長「その通りです」
理事長「と、言いたいところですが、最後の最後は勇気や感情、運というものに任せなければならない部分もあります」
理事長「古くから、計略に勇気が勝ることは幾度となくあったことです」
理事長「むしろ、そちらの方が強力なのかもしれません」
軍務理事「ガラに合っていませんな」ハハハ
軍務理事「最後の最後に合理主義の敗北を認めるとは」
理事長「認めたわけではありませんよ。ただ、そういう場合も少なからずあるという話をしただけです」
理事長「次は、貴方がた若者の番です」
理事長「期待していますよ」
軍務理事「ええ。お任せあれ」
550: ◆9GmoiQGLItwN 2015/01/31(土) 00:37:05.04 ID:O+Sx9fSI0
―――同日夜 ヤマダ市ホテル テラス―――
勇者たちは夕食の後、それぞれ自由行動をとっていた。
もちろん憲兵隊の面々は警備に向かっていた。
勇者「ふーん。するともう一週間で魔王は魔導方程式の基礎をマスターしてしまったわけだ」
魔王「ま、私にかかればあれくらい容易いものよ!」エッヘン
魔王「でも、苦手だった炎系魔法や地面系魔法まで使えるようになったのはありがたいことね」
勇者「ははは。魔王も炎と地面が苦手だったのか。僕と同じだね」
魔王「ふん!雷系魔法しか使えない勇者と同じにされたくはないわね!」
勇者「げ、なんでそれを知ってるのさ」
魔王「魔法使いが嬉しそうに教えてくれたのよ」
勇者「あいつめ……」
勇者「それはともかく、どうだいこの奇術国連合の様子は」
勇者「新しい物が多すぎて目が回るんじゃないのかい?」
551: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:38:19.70 ID:O+Sx9fSI0
魔王「その通りね。もうはしゃぐ気力も失せてしまったわ」ハァ
勇者「そいつは何より」
勇者「相手と仲良くしようと思ったらまずその相手の中身を知らないといけない」
勇者「それは文化や伝統にだってあてはまる事さ」
魔王「本当に勇者の言うとおりね」
魔王「私もお父様も、何も人間のことを知らなかったからこそ敵対できたんだわ」
魔王「こんなに素晴らしい文化があるのに。こんなに美しいものであふれているのに。それに見向きもせずに滅ぼしてしまおうとしていた」
勇者「でももう魔王は僕と同じようにそれを知っているじゃないか。それもまた素晴らしいことだよ」
魔王「そうね。だったら次は人間が、私たちのことを知ってくれなければならない番ね!」
勇者「そういう面では人間は未発達な部分が多いからなあ」
勇者「でも大丈夫さ。時間をかけさえすればきっとそれは叶う。少なくとも敵対していた時よりはましだよ」
魔王「そう信じたいものね」
タッタッタッ
552: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:39:01.11 ID:O+Sx9fSI0
上級隊長「勇者殿、ちょっとよろしいでござるか」
勇者「ん?どうした上級隊長」
上級隊長「何やら奇術国の警備兵たちの様子がおかしいでござる」
上級隊長「隊長Aによれば、正面玄関を塞ぐようにして集まっているということでござる」
上級隊長「嫌な予感がするでござる。ここはひとまず隊長Bが見つけた裏口から抜け出した方がよろしいかと」
勇者「なんだって……?」
魔王「なんで私がコソコソ逃げ出さないといけないのよ!」
魔王「あっちからかかってくるなら上等よ!返り討ちにしてくれるわ!」
553: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:40:04.05 ID:O+Sx9fSI0
勇者「ははは。そう言ってくれると頼もしいんだけど、状況はそう単純じゃない」
勇者「ここは一般国民も多いし、派手に半魔や魔族と人間が争ったことになれば、各地で盛り上がっている親魔族思想と反魔族思想の形勢が一気に逆転することになりかねない」
勇者「彼らもそれを狙っている可能性が高いんだ」
勇者「いったん国境の森へ逃げ込む。しかしもしそこまで追ってくるようならば、多少の自己防衛はできるだろう」
勇者「その時は攻撃を許可するよ」
魔王「……ふん!仕方ないわね。そこまで言うなら従ってあげようじゃないの」
勇者「ありがとう」
ドタバタ
隊長A「大変です上級隊長!さきほど団長から伝聞魔法が届きました!」
隊長A「『今夜ヤマダ市周辺にて奇術国軍の軍事演習予定 勇者を狙う意思あり 直ちに逃れたし』だそうです!」
554: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:41:19.58 ID:O+Sx9fSI0
勇者「軍事演習か。個人の暗殺に軍を仕向けるとは、どうやら本気のようだね」
上級隊長「奇術国の軍とは……恐ろしい兵力を持つと聞いていたでござるが……」
魔王「ふん!私にかかれば軍だろうが国だろうが打倒してやるわよ!」
勇者「本当にできそうだから困る」
勇者「とはいえ彼らも大規模な動きにならざるを得ないか」
勇者「森まで行ったらこちら側も派手に応戦しなくてはならなくなるかもしれないな」
魔王「腕が鳴るわね!」
勇者「できれば鳴らしてほしくないけどね」
上級隊長「とにかく、裏口はこっちでござる!急ぐでござる!」ダダッ
タッタッタッタッ
勇者(しかしどうしてここまで派手にやる必要があるんだ?)
勇者(奇術国では最早僧侶率いる親魔族派が優勢のはず。やりすぎれば窮地に陥るのは自分たちだ)
勇者(一体理事長は何を企んで……)
勇者(これは思った以上に事情は複雑かも知れないな)
555: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:42:01.24 ID:O+Sx9fSI0
―――裏口―――
タタタッ
支社長「勇者様! まだここまで軍は来ておりません。急いでください!」
勇者「支社長!迎えに来てくれたのかい」
支社長「ええ、私は勇者様に恩も多くありますからね」
支社長「それより早く!行きと同じく憲兵隊の方々はもう一台の方に乗ってください!」
上級隊長「かたじけないでござる!」
バタム
ダダダッ
奇術軍兵1「おい!勇者がいるぞっ!」
奇術軍兵2「撃て撃てっ」ジャキ
運転手「軍がもうここまで来たようです!」
支社長「ええい!急いでだせっ」
ブロロロ
ドカッ
奇術軍兵1「ぐわあああっ!」
ブロロロロ……
556: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:42:44.94 ID:O+Sx9fSI0
―――電気の国 北部不干渉区方面への国道 国境の森付近―――
勇者「ふう。このまま森まで戻れそうだね」
魔王「まったく、とんだ歓迎だったわね!」
魔王「もう少しぐらい丁重にもてなすべきなんじゃないの?!」
支社長「はい、どうやら軍は追ってきていないようですので……」
支社長「ん?あれは……」
支社長「空が赤い?」
魔王「まさか、夕焼けはもうとうに済んだはずよ」
勇者「あれは……森に火が!?」
557: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:43:20.51 ID:O+Sx9fSI0
支社長「そのようですね。どうやら先回りをされたかもしれません」
運転手「支社長!前方に軍のバリケードが!」
支社長「やはり……」
勇者「参ったな、何とか越えないと帰還できない……」
ブロロロ
奇術軍『前方の車両に告ぐ! 停止せよ! さもなくば攻撃する!』
勇者「止まれば地獄、行くも地獄、かな」
魔王「ええい!私に任せなさいっ!」バチバチ
魔王は窓から身を乗り出した。
勇者「わっ!待つんだ!」
魔王「くらえっ! 爆破魔法!」バシュッ
558: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:44:05.98 ID:O+Sx9fSI0
チュドーン
ウワアアアアアッ
ナンダナンダッ
ブロロロ
奇術国兵「まずい!避けろ!」
ドカカッ
ブワッ
魔王「よしっ!超えたわね!」
運転手「うっ!爆風で視界が!?」
支社長「持ちこたえろ! もう少しのはず……はっ!?」
勇者「危ない!!」
キキーッ
グシャアンッ
勇者の乗った車は森の木に激突した。
559: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:44:41.62 ID:O+Sx9fSI0
魔王「きゃああっ!?」ドタタッ
勇者「ぐあっ!」
プシュー
勇者「いつつつ……支社長!無事か」
支社長「がはっ!」ビシャ
運転手「」ガクッ
支社長「ぐ……は、はやく……お行きください……」ダラー
勇者「大丈夫だ!今回復する!」パァー
魔王「無駄よ!傷が深すぎるわ!」
支社長「げほっ」ビシャ
勇者「くっ……駄目か……」
支社長「軍が……来ます……私のことはいいですから……」ハァハァ
勇者「すまない……」
支社長「商人様に……」
勇者「何?」
支社長「商人様に……お気をつけて……」ガクッ
勇者「支社長!!」
ダダダッ
560: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:45:19.29 ID:O+Sx9fSI0
上級隊長「勇者殿!無事でござったか!」
勇者「上級隊長! そっちは大丈夫だったかい?」
上級隊長「もちろんでござる! しかし軍が真後ろにせまっているでござる!」
上級隊長「急ぐでござる!」
奇術国兵「いたぞ!!殺せ殺せっ!」ダダダダッ
魔王「勇者、急ぐわよ!」
勇者「ああ!」
ダダダッ
561: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:45:51.46 ID:O+Sx9fSI0
―――少し前 北部不干渉区電気国との国境付近の町 酒場―――
カラン
戦士「あーあ、一人の酒ってのはどーも寂しいもんだな」
戦士「せめてあの猫女でもいれば手合せでもできるんだが……」
副団長「お呼びかな?」ニュッ
戦士「うわぁっ!」ガタッ
戦士「どっから湧いてきやがった!」
副団長「いやあ、ボクもさっきようやくこの町に着いたんでね」
副団長「キミがいそうな場所に寄ってみただけさ」
副団長「そしたら案の定だったよ」
562: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:46:20.37 ID:O+Sx9fSI0
戦士「なんだ、いつの間に絶望の淵から蘇ってやがったんだ?」
副団長「ニュフフフ。団長の危機と聞いたらボクだっていつまでも落ち込んではいられないよ」
副団長「団長はこのボクがどんな敵からも守り抜いてみせるのさ!」
戦士「とか言って出遅れてるじゃねえか寝ぼすけめ」
副団長「なっ!ボクは寝坊したわけじゃないぞ!」
戦士「そういう意味じゃねえよ」
戦士「ははは。しかしこのノリも久しぶりだな」
副団長「な、何がおかしいのさ!」
戦士「いや、すまない。ついな」
戦士「一週間も会っていないとまた少し新鮮に感じるもんだよ」
副団長「ニャるほど……さてはこのボクが恋しかったんだね?」
戦士「なんでそうなる」
戦士「……とは言ったものの、全否定はできんな」
副団長「ほらみたことか」
戦士「お前がいないと毎晩手合せができる奴がいないからな。剣の腕が鈍ってしょうがない」
副団長「剣の手合せなら上級隊長がいるんじゃないのかい?」
563: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:47:05.51 ID:O+Sx9fSI0
戦士「あいつはクソがつく真面目でな。夕飯から2時間で必ず寝床に入っちまうからお前みたいに夜通しで付き合ってはくれんのだ」
副団長「ああ。そういえばそうだった」
副団長「上級隊長の生活リズムは多分5年くらいは全く変わっていないね」
戦士「よくぞまああそこまで合わせられるもんなんだか……」
副団長「キミもよく出仕に遅れて上級隊長に怒られるそうじゃないか」
副団長「部門長たるものが情けない」
戦士「う、それはお前と毎晩毎晩決闘しているからだろ」
戦士「お前だってよく遅刻するんじゃないのか?」
副団長「まさか。ボクがそんなくだらない失敗を犯すはずがないじゃないか」
戦士「何!?じゃあいつ寝てやがるんだ?」
副団長「さあね。他のみんなが疲れて居眠りをしている時かな」
戦士「な、それでよくもつな……」
副団長「半魔なんで」
戦士「それで片づけるなよ。じゃあもし寝ていやがったらそのうっとうしい尻尾を切り取ってやるからな」
副団長「ギニャッ!?な、なんてことを!」バッ
564: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:47:37.71 ID:O+Sx9fSI0
戦士「ははは。冗談に決まってるだろ。いちいち本気にするとは心底までピュアな奴だな」ケラケラ
副団長「な、ピュアじゃないし!半魔だし!」
戦士「ピュアをなんだと思ってやがるんだ」
副団長「そうだ、前の暗殺未遂事件の調査は進んだのかい?」
戦士「ん?それがさっぱりでな……」
戦士「いくら商人や入国者をチェックしても怪しい奴の1人もでてきやしない」
戦士「本当に転移魔法でも使ったんじゃないのか?」
副団長「うーん。もしそうなら調査のしようもないね」
副団長「魔術連合との国境の方もチェックしているのかな?」
戦士「何言ってんだ。どうやったら奇術国連合の刺客が敵国である魔術国連合に入り込めるんだよ」
副団長「ニャハハ。それもそうだね」
戦士「まさか戦争中の国境を越えてくるわけでもあるまいし……」
戦士「ん?まてよ?」
565: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:48:11.67 ID:O+Sx9fSI0
戦士「いや、ある! 奇術国連合から魔術国連合へと容易に入れる方法があるじゃねえか!」
副団長「ニャにっ!?一体どうやって?」
戦士「あの国だよ。俺達の故郷『幸の国』を通ればいい」
戦士「確かにあの国は検閲も厳しいが、もし内部に協力者がいるとすれば別だ」
副団長「ニャるほど……」
戦士「まずいことになったな……奇術国連合側の検問を厳しくした分、魔術国連合方面の検問はかなり甘めだったんだ」
戦士「もし刺客が幸の国を通って魔術国連合からここへ侵入しているとしたら、行政区にまで潜伏しているかもしれん……」
副団長「な、それはかなり危険なんじゃないのか!?」
戦士「ああ。その通りだ。今すぐにでも魔術国連合方面の検問を強化してみることにしよう」
戦士「このことはあまり広めるなよ。内通者に知られるかも知れんからな」
566: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:49:20.54 ID:O+Sx9fSI0
副団長「なんだ、やっぱりキミは内通者じゃなかったんだね」
戦士「馬鹿言え」
戦士「さて、久しぶりに手合せ願うことにしようか。体は鈍っちゃいねえだろうな」
副団長「もちろん。久しぶりに爆裂パンチをお見舞いしてあげるよ」
戦士「ああ、あの猫パンチか。それもちと久しぶりだな」
副団長「なっ!だから猫じゃない!」
戦士「ははは。一週間経ってもやっぱりお前はお前だな。安心したよ」
戦士「はぁ……俺としたことがどうしたんだろうな」
戦士「どうも俺にはどうしてもお前が必要らしい」
戦士「平和な時代が来るまで……いや、その後も、ずっとそのままで俺の側にいてくれよな」
テクテク
副団長「……!」
戦士(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてな)
副団長(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてね)
戦士「おい、いつまで座ってやがんだ。もう足腰が弱っちまったのか?」ハハハ
副団長「なっ!言ったな!?」
ダダッ
副団長(いつもいつも求めてばかりいたボクが求められることがあるなんて……)
副団長(不思議な気分だなあ)
567: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:49:47.03 ID:O+Sx9fSI0
―――外―――
ダダッ
隊長C「あっ、部門長!副団長!ちょうどよかった」
戦士「お、どうしたんだ隊長C?」
隊長C「それが、この国境の森に火が放たれたようなのです!」
隊長C「現在電気の国方面を中心に火の手は拡大していっています」
隊長C「これは出動すべきなのでは……」
副団長「な、なんだって!? 団長が危ない!」
戦士「どうやら手合せをしている場合じゃなさそうだな」
戦士「ぶっつけで悪いが実戦になりそうだ」
戦士「隊長C、憲兵隊を招集しろ」
戦士「準備ができ次第森を進むぞ!」
隊長C「はっ!」
568: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:50:48.47 ID:O+Sx9fSI0
―――国境付近の森―――
ガサッガサッ
勇者「ふう。まだ追ってはこないようだね」
上級隊長「しかし火の手が迫っているでござる!」
魔王「……」
勇者「どうした魔王? 顔色が悪いよ」
魔王「さっきは悪かったわね……私が先走ったせいで彼らを死なせてしまって」
魔王「爆破魔法に腐食魔法を混ぜたのが失敗だったわ……予想以上に粉じんが舞って視界を阻んでしまった……」
勇者「君は魔王の癖に優しい心を持っているようだね」
魔王「そうなのかしらね……でも、その『優しい心』とやらのせいで私はあの戦争でも多くの犠牲を出してしまったのよ」
魔王「優しい魔王っていうのも考えものね」ハァ
勇者「ははは。君はもう少し平和な時代に生まれるべきだったのかもしれないな」
勇者「まあ、過ぎたことはもうどうしようもないんだ。今は前を見続けるしかないのさ」
タッタッタッタ……
569: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:51:25.12 ID:O+Sx9fSI0
上級隊長「ん……後ろから足音が!?」
奇術国兵A「いたぞ!追えーっ!」
奇術国兵B「逃がすなっ」
パンパンパン
ダダダダダ
勇者「しまった!追いつかれたか」
魔王「ええい!浮遊魔法!」ボコッ
魔王は近くの岩を持ち上げ、盾にした。
ダダダダダ
ビシッビシビシビシッ
奇術国兵A「な、なんだあいつは!?」
奇術国兵B「岩が浮いてるぞ! これでは反魔法弾が弾かれて……!」
勇者「雷魔法(中)!」ズバババッ
奇術国兵A「ぐわああああっ!」
奇術国兵B「ぎゃあああっ」
ドサドサッ
上級隊長「さあ、また追っ手が来る前に急ぐでござる!」
勇者「ああ!」
ダダッ
570: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:51:55.68 ID:O+Sx9fSI0
―――…
ダダッ
奇術国兵C「……」ジャキ
上級隊長「そこかっ!?」ダッ
ズバッ
奇術国兵C「ぎゃあああっ」ドサッ
勇者「上級隊長!助かったよ」
上級隊長「このままではまずいでござるな……」
上級隊長「勇者殿、某はここに残り奇術国軍を足止めするでござる」
上級隊長「どうか先に不干渉区へ参られよ!」
勇者「なっ、それじゃあ上級隊長はどうするんだ!?」
魔王「まさか、死ぬつもりじゃないでしょうね」
上級隊長「安心されよ。必ず後から追いつくでござる」
上級隊長「隊長B、隊長A!あとの護衛は任せたでござる」
571: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:52:24.54 ID:O+Sx9fSI0
隊長A「いえ、私は最後まで上級隊長に仕えさせていただきます!!」
隊長B「私も同様です!」
上級隊長「な、何を……」
勇者「こっちは魔王もいるし、あまり心配はいらないよ」
魔王「こんな冴えない人間一人守れない魔王なんて魔王失格よ!」
魔王「勇者の安全は私が保証するわ!」
上級隊長「分かったでござる」
上級隊長「無事に帰られよ勇者殿」
勇者「ああ、君たちもだ上級隊長」
ガシッ
勇者「それじゃあ必ずまた後で会おう!」
上級隊長「もちろんでござる!」
タッタッタッタ……
上級隊長(勇者殿……団長を頼んだでござる……)
572: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:52:51.40 ID:O+Sx9fSI0
―――…
タッタッタッタ……
勇者「この辺りまでくればさすがに大丈夫かな」ハァハァ
魔王「大分火の手も収まってきたわね」
魔王「でもまだ不干渉区まであと半分はあるわよ」
勇者「まだそんなにあるのか……ふぅ」
勇者は木陰に座り込んだ。
勇者「まったく。こういう肝心な時にいつも僕の身体は言うことをきかなくなるんだ」
魔王「勇者の癖に情けないわね! 休む暇なんてない……」
勇者「! 静かに!」
573: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:53:23.86 ID:O+Sx9fSI0
シュバババババ
飛行兵1「その辺はどうだ!」
飛行兵2「いねーよ!ったくあのクソ中将め!」
飛行兵1「やめとけやめとけ、聞かれたら強制労働行きだぞ!」ハハハ
シュバババババ……
勇者「ふう。危ない危ない」
魔王「あれのお陰でろくに飛べもしないじゃない!」
勇者「まったくだね。『中将』っていうのは相当念入りに準備を固めていたようだ」
勇者「まあ、僕も休むのは少しだけにするさ。体力を回復できる魔法があったならどれだけ楽なことかといつも思うよ」ハハハ
魔王「傷を回復する魔法ならいくらでもあるのに、どうしてなのかしらね」
魔王「帰ったら魔法使いに聞いてみるわ」
勇者「お、どうだい?魔法使いとは上手くやってるかい?」
574: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:53:52.53 ID:O+Sx9fSI0
魔王「そうね、まあまあってところかしら」
魔王「『大賢者の定理』もほとんど理解したし、お陰で魔力の節約が本当に捗っているわよ」
勇者「あの複雑な定理ももうマスターしたのか!?さ、さすが化け物」
魔王「あら、褒めたって何も出ないわよ」
勇者「はは。まーたそういうところまで魔法使いに似てくる」
勇者「もともと口調も似てるからどっちが喋っているのかわからなくなるじゃないか」
魔王「別にそういうのじゃないって言ってるでしょ!」
魔王「あの変な助手とかいう女にも同じことをよく言われたわ!なんて生意気な小娘なのかしら!」
勇者「まあまあそう怒らずに……」
勇者「さて、疲れも癒えたしそろそろ行くことにしようか」ガサッ
魔王「おかげでまた火の手が追ってきたじゃない。このままじゃ自慢の服がすすで台無しよ!」
勇者「はは、それも自慢の魔法で綺麗にすればいいじゃないか」
ヒュルルルル ドカーン
ボガァァァン ドガァァン
575: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:54:32.63 ID:O+Sx9fSI0
魔王「何の音かしら?」
勇者「これは……奇術国軍が砲撃を始めたんだ!」
勇者「敵も味方も見境なしか……」
魔王「な、味方をなんだと思っているの!?」
魔王「どうしてそんなに平気で犠牲にできるのよ!」
勇者「はは、これじゃあ君の方が正義の味方に向いているみたいだよ」
勇者「人間はそういう面に関しては魔族より未熟なところがあるのさ」
勇者「つまり自分以外の視点に立つっていうことが少し苦手ってことだね」
魔王「……お父様が人間を滅ぼそうとしたのもこれが原因なのかもしれないわね」
魔王「人間がこんなことばかりしているから、皆と協力しようとしないから」
魔王「お父様は侵攻を『救済』と呼んだのよ……」
勇者「なるほどね。救済か。いい迷惑ではあるけど、もしかしたらあながち間違ってはいないのかもね」
勇者「まあ、僕達のやり方はそれとは違う訳だ。もちろん苦労こそ多いが、その分得る物は多いはず……」
576: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/31(土) 00:55:23.57 ID:O+Sx9fSI0
ヒュルルルル
勇者「ん?まさか……」
魔王「直撃よ!! 防御ま……」
魔王(間に合わない!)
勇者「危ない!」ドンッ
魔王「きゃあっ!?」
ドガアアアアアアアアン
勇者「ぐわああああっ!」
ドカッ
ガ゙サッ
勇者「ぐ……まお……う……」
ガクッ
――――――
――――
――
581: ◆9GmoiQGLItwN 2015/02/05(木) 15:54:42.79 ID:hqXmfp7s0
パラパラパラ
ゴオオオ
勇者「ぐ……はっ!」ズキッ
勇者は済んでのところで砲撃の直撃を免れていた。
とはいえ、爆風で近くの木に衝突し、しばらく気を失っていた。
勇者(さっきよりも火が迫っている……どれくらい経ったんだろうか……)
勇者(魔王は……自力で帰ったかな)
勇者(頭が……割れそうだ……骨も何本かやられているな……)
勇者(なんとか不干渉区に戻らなくては……)
ズルズル
582: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 15:55:12.92 ID:hqXmfp7s0
勇者(ははは……歴代の勇者でも、ここまで無様な勇者は他に例がないだろうね……)
勇者(魔族以外に勇者が殺されるとなれば……やはり最も恐ろしい生き物は人間なのかもしれないな)
勇者(皮肉な話だよ……)
勇者(戦士たちはもうこっちに向かっているんだろうか……)
勇者(う、さっきので魔法石まで落としたかな……これでは回復ができない……)
勇者(つくづく自分の身体能力と運のなさに呆れるね……)
勇者(もう……限界かな……)
勇者は倒れこむように近くの木の根元に座り込んだ。
勇者(参ったな……勇者として十数年、どんな先代魔王の卑劣な策略にも屈しなかった僕が……こんなところでとんだ計算違いでも犯したかな……)
勇者(せめて、陰謀の全てを明らかにしてから……団長ともう一度冗談をかわしてから……この世を離れたかった)
勇者(残念だな……)
ガサッ
勇者「!」
583: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 15:55:57.77 ID:hqXmfp7s0
奇術国兵「お、お前は……!?」ガクガク
奇術国兵「ゆ、勇者か!?」
勇者「いかにも……僕が勇者さ……」
勇者「こんな姿からは想像がつかないかもしれないけどね……」
奇術国兵「ひぃっ!!」ビクッ
奇術国兵「ごめんなさいごめんなさい!!僕はただここを通りかかっただけで……」
勇者「はは……そこまで怖がる必要もないよ」
勇者「僕は見た目通り、死にかけた人間さ」
奇術国兵「へ……?」
奇術国兵「さっきの化け物とは違うのか……?」
勇者(化け物……上級隊長のことかな……)
勇者「化け物?」
584: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 15:56:42.33 ID:hqXmfp7s0
奇術国兵「ああそうさ……僕は怖くて逃げてきたんだ……仲間が何人も目の前でアイツに切られていったよ……」
奇術国兵「撃っても撃っても死なないなんて……!」
奇術国兵「僕は仲間を見捨てたんだ! うわあああああっ!」
奇術国兵「帰ったらきっと中将閣下に殺されるんだ!」ガクガク
勇者「そうか……」
奇術国兵「いや、まてよ……!」
奇術国兵「目の前にいるのは死にかけた勇者じゃないか!」
奇術国兵「ここで殺して帰れば賞金も地位も欲しいまま!?」
奇術国兵「やった!やったぞ!! これで味方の仇が討てる!」
勇者(完全に混乱しているな……)
勇者(しかし上級隊長もおそらく……)
勇者「僕を殺すつもりかい?」
奇術国兵「ああそうさ!お前には1億の賞金と准将への昇格がかかっているんだ!」
勇者「そうか……なら殺すがいいとも」
奇術国兵「何? 抵抗しないのか!」
585: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 15:57:23.43 ID:hqXmfp7s0
勇者「はは。見ての通り、僕は重傷だ。もはや歩くこともできない」
勇者「それに、勇者とは元来人々に幸をもたらす存在としてあり続けてきたんだ」
勇者「僕もまたそんな存在の一つとして消えていくだけさ」
勇者「君にも家族がいるんだろう?」
勇者「僕は生まれたときから両親もいない、兄弟もいない……孤児だった」
勇者「死んで悲しむ者もない」
勇者「僕が築いた平和の礎は必ず芽を出すはずさ」
勇者「もう十分役割は終えたとも」
奇術国兵「くくくくく……やったぞ!ははははははっ!!」ジャキ
勇者(次はまたあの世で先代魔王と知恵比べかな……)
パァン
586: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 15:58:32.73 ID:hqXmfp7s0
ドシュッ
奇術国兵「がはっ!?」
ドサッ
勇者「!」
勇者「誰だ?」
?「死んで悲しむ者なら……少なくとも1人は知ってますよ」
勇者「奇術国兵?」
大佐「ええ、私は奇術国軍で、かの僧侶さんの副官を務めている『大佐』といいます」
大佐「この度は僧侶さんの密命で勇者様を保護しに来ました」
大佐「どうぞご安心を」
勇者「僧侶が? そうか……」
勇者「間一髪で命拾いをしたようだね」
大佐「申し訳ありません、敵の数が予想以上に多く、ここまで来るのに時間がかかってしまいました」
大佐「それじゃあ肩を……」
勇者「ありがとう」
ズルズル……
587: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 15:59:22.85 ID:hqXmfp7s0
―――国境の森手前 上空―――
バサッバサッ
団長「ようやくここまで来たのはいいが、森がすごいことになっておるな……」
外副長「ええ、火が広がって空が真っ赤ですぜ団長」
団長「急ぐのじゃ、手遅れになってからではいかん」
外副長「へへ、言われなくても!」
バサッ
588: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:00:04.93 ID:hqXmfp7s0
―――森付近 上空―――
外副長「森の手前にあんなに奇術国兵が待機していやすぜ……」
団長「ああ、奴らめ本気で勇者を狙ってきたとはな」
団長「もうすぐ森の上空じゃ、煙を避けて人影を探しながら行くぞ」
外副長「あいよ」
ナンダアレハ!
エエイウチオトセッ!
外副長「下もあっしたちに気付いたようでありやすな」
団長「大丈夫じゃ、あそこからでは攻撃は届かん」
団長「とにかく今は前へ進むのじゃ!」
団長(勇者……死んではならんぞ!)
589: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:00:41.47 ID:hqXmfp7s0
―――森上空―――
外副長「ようやく火の手が収まってきやしたね」
団長「ああ、恐らくこの辺にいるはずじゃ、何とかして探し出すぞ!」
ズダダダ
パンパンッパン
団長「なんじゃ、まだ儂らを狙っておるのか」
外副長「やつらの通信技術は伝聞魔法なんかよりずっと発達していやすからね」
外副長「これではあまり高度を下げられやせんぜ」
団長「くっ……」
団長「じゃが、当たることも無かろう」
団長「なんとか地上兵がいないところを狙えば……ん?」
外副長「木の陰に何か……!?」
590: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:01:32.31 ID:hqXmfp7s0
ガサッ
シュバババババ
飛行兵1「来たぞ!」
飛行兵2「へへ、中将の言うとおりだ!」
飛行兵2「撃ち落とせっ」ズダダダダダ
団長「な、なんじゃと!?」
外副長「団長、あぶねぇっ」ガバッ
ビシッビシビシッ
外副長「がはっ!」
団長「外副長!!」
飛行兵1「よしっ当たったぜ……なっ!?」
団長「火球魔法(中)!」ボッボッ
飛行兵1、2「ぐわああああっ!」ボカ‐ン
団長「おい、大丈夫か!」
外副長「へへっ……なんの」ダラダラ
591: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:02:42.18 ID:hqXmfp7s0
外副長「団長が無事なら問題ないですぜ」
団長「今回復する!回復魔法(上)」
パァァァ
団長「な、効果がないじゃと……!?」
外副長「反魔法弾……ってやつですかい」
団長「くそっ馬鹿な、そんなはずは!」
外副長「いいんですよ団長、あっしはここでお別れってやつのようです」
外副長「団長は勇者たちと合流して下せえ」
団長「う……すまない……」
団長「儂が魔法しか能がないばかりに……」
外副長「そんなことはありやせんぜ団長」
外副長「団長は荒れきっていた荒れ地を統一して『国』を作り上げたではありやせんか」
外副長「きっと団長ならこのまま勇者と新しい平和な世界を作っていけやすよ」
外副長「あっしは信じていやす……がはっ」ハァハァ
団長「外副長!」
592: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:04:20.03 ID:hqXmfp7s0
外副長「さあ、この辺りは敵がいないようですぜ」
外副長「今のうちに飛び降りて下せえ」
団長「飛び降りる……?お前はどうするのじゃ外副長!?」
外副長「へへ、あっしにはもう一つだけ仕事がありやすので、ここで失礼しやすぜ」
外副長「そろそろ理性ってやつが飛びそうなんで、一緒に行っても足手まといにしかなりやせん」
外副長「後は頼みやす団長!半魔の夢を叶えて下せえ!」
団長「……わかった、必ず、必ずやってみせるよ、外副長」
団長「いままでありがとう」ニコッ
外副長「こちらこそ」
バッ
外副長(へへへ……最期に『あの娘』の笑顔をまた見られてよかったぜ……)
外副長(もう二度とみられないもんだと思っていたが……)
外副長(へへ、やっぱりあれに勝る笑顔はそうそうねぇなぁ……)
外副長(そういや、あの笑顔に惚れてあっしも団長の下についたんだっけか)
外副長(随分懐かしいこった……これも……さいごの……あがきって……やつ……か……)
間もなく、外副長の身体は魔族の部分に完全に支配された。
593: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:05:09.61 ID:hqXmfp7s0
―――森の中―――
ヒュウウウ ガサッ ドテッ
団長「いてててて……やはりあの高さでは重力軽減魔法もあまり役に立たんか……」
団長「しかし、今はとにかく勇者を……?」
ガサッ
団長「む、敵か!?」ジャキ
魔王「あーもう!勇者は一体どこへ行ったのかしら」
団長「あ」
魔王「あら?あなたは勇者の娘の……」
団長「娘ではない」
魔王「あらそうだったかしら……まあいいわ、勇者を知らないかしら」
団長「儂も今探しておるところじゃ。お主こそ勇者と一緒だったのではないのか?」
魔王「それが、さっきの砲撃ではぐれちゃってね」
魔王「勇者が私を突き飛ばしてくれたからなんとか直撃は免れたけど、勇者は……」
594: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:05:54.37 ID:hqXmfp7s0
団長「なんじゃと……!」
団長「なんということじゃ……手遅れだったか」
魔王「でも、まだ死んだと決まったわけじゃないわよ」
団長「どういうことじゃ」
魔王「あの後敵に見つかってしまってね、そいつらを倒してから何とかもとのはぐれた場所に戻ったんだけど、勇者の姿が見当たらなかったのよ」
魔王「血痕を見つけたからその後を追っていったんだけど、それも途中で途絶えていたわ」
団長「と、いうことは……」
魔王「ええ、勇者は誰か味方に遭遇したようね」
団長「よかった……」
魔王「でも、まだ安心するのは早いわよ。急いで勇者を見つけないと……」
ガサリ
595: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:06:42.48 ID:hqXmfp7s0
団長「今度は何じゃ!」ジャキ
奇術国兵「……」ニュッ
魔王「奇術国兵!……と」
勇者「おーい、無事だったかー」
団長「勇者!?」
596: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:07:22.78 ID:hqXmfp7s0
―――……
勇者「……と、いう訳なんだ」
大佐「驚かせてしまって申し訳ありません」
団長「いや、我らが勇者を救ってくれたのならこれ以上のことはないのじゃ」
魔王「なによ、てっきり死体ごと敵に運ばれてるのかと思ったじゃない」
勇者「ははは、まあほとんど死にかけだったけどね」
大佐「それでは、そろそろ私は僧侶さんのところへ戻りますね」
大佐「勇者さん生存の一報を彼女にお伝えせねば」
勇者「あ、大佐、僧侶の様子はどうだい?」
勇者「元気にしているかな」
大佐「ええ、この上なく。しかし明日は忙しくなりそうです」
勇者「明日?」
大佐「ええ、まあそのうち知らせが届くでしょう。詳細はそれにて」
勇者「分かった。じゃあまた」
勇者「僧侶によろしく伝えておいてくれ」
597: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:08:00.00 ID:hqXmfp7s0
大佐「はっ。ではこれにて失礼いたします」タタタッ
魔王「さて、私たちも帰路につきましょう」
団長「そうじゃ、戦士や副団長が待ちに待っておるじゃろうからな」
勇者「……!」
勇者「待ってもいられなかったみたいだね」
団長「?」
ドドドドドド
戦士「勇者ぁー!どこにいる!?」
戦士「まさかもうのたれ死んでるんじゃないだろうな!」
副団長「団長―!今すぐお迎えに上がりますよ!!」
勇者「ね」
魔王「何が『ね』、よ!」
団長「まあまあ、まさかもうこんなところまで来るとはな」
団長「さて、これで無事に帰れそうじゃ」
団長(外副長……)
こうして、勇者一行は無事に帰路に着いた。
598: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:08:37.97 ID:hqXmfp7s0
――― 一方、森付近 奇術国軍本陣―――
中将「ええい!何をしておる!もっと火をつけて奴らを焼き殺さんか!」
中将「空中兵隊はまだ奴らを見つけられんのか!」
奇術国兵「報告!空中兵隊が先ほど上空を飛行していた半魔と接触、相討ちに終わったそうです!」
中将「そうか……よし」
中将「勇者はまだ死んでおらんのか!?」
奇術国兵「はっ、まだ報告はありません!」
中将「何が何でもここで撃ち殺すのだ!」
中将「そうすればワシの大将昇格も目の前じゃな……ハハハ」
バサッバサッ
ザワザワ
ナンダアレハッ
中将「ん?騒がしいな、どうした?」
奇術国兵「は、何やら上空に不審な飛行物体が……」
奇術国兵「あ、あれは!」
599: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:09:29.66 ID:hqXmfp7s0
外副長「キシャァァァァァァッ!!」バサッ
奇術国兵「先ほどの半魔です!」
中将「何?ノコノコ戻ってきおったか」
中将「さっさと撃ち落とせ」
外副長「キシャァァァァァァッ!!」カッ
ドガァァァァァッ
奇術国兵「駄目です!一瞬にして第七、第八小隊が全滅しました!!」
中将「な、なんだと!?そんな馬鹿な!」
中将「ええい!集中砲火だ!戦車でも大砲でも何でもいい、とにかく撃ち落とすのだ!!」
ズダダダダダ
ズドォォォン
600: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:10:11.87 ID:hqXmfp7s0
外副長「ガガッキシャァァァァァァッ!!」ボタボタ
中将「いいぞっ、着実にダメージを受けている!」
中将「このまま押し切れい!」
ズドドドドドド
奇術国兵「第七、第八小隊に続き、第四、五、六小隊も壊滅!」
奇術国兵「閣下、危険です!ここは退却を!」
中将「くっ、バケモノめ……」
中将「急げ、距離をとりつつ迎撃を……!」
外副長「キシャァァァァァァッ!!」ズアッ
奇術国兵「閣下!!危ない!」
中将「な……」
ドガァァァァァァ……
突然の半魔の奇襲により軍事演習本隊は壊滅。
なんとか半魔は撃破したものの、中将をはじめ多くの隊長が死亡した。
連合はこれを演習中の事故と発表。半魔の仕業であることは完全に隠ぺいされた。
601: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:10:52.50 ID:hqXmfp7s0
―――数日後 帰還路中―――
魔王「それじゃあ勇者、私はこの辺りでお別れにするわね」
勇者「えっ、じゃあ何人か護衛をつけておくよ」
団長「そうじゃ。流石に一国の当主を丸投げで返すのはまずいのじゃ」
魔王「いや、必要ないわ」
魔王「これはあくまでお忍びよ。護衛なんかつけて帰ったら私の面目にも傷がついてしまうわ」
魔王「でもありがとう勇者。勇者のお陰で本当にたくさんの新しいことを学ぶことができたわ!」
勇者「かの魔王が勇者に感謝なんてね」ハハハ
団長「奇妙なもんじゃな」
魔王「たまにはいいじゃない」
魔王「魔法学も奇術国も人間族の文化も素晴らしいものばかりだったわ」
魔王「魔国に帰ってもきっと忘れない。そして、これから人間族と協調できる魔国を作り上げてみせるわ」
勇者「そう言ってくれると嬉しいね」
602: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:11:34.72 ID:hqXmfp7s0
団長「そうじゃな、復興省なんかには負けてはならんぞ」
魔王「もちろんよ」
魔王「勇者に教えてもらった戦略さえあればあんな奴ら一捻りにしてやれるわ!」
勇者「まあ、くれぐれも悪用はしないようにね」
魔王「分かってるわよ!」
魔王「それじゃあまた会いましょう」
勇者「ああ。次は平和会議か独立宣言式でね」
魔王「そうね」
団長「あっ! 最後にちょっとだけお願いが……いいかのう?」
魔王「何かしら勇者娘?」
団長「まだその認識は変わらんのか……まあいい」
団長「耳を貸してほしいのじゃ」
魔王「ん、いいわよ」
団長「……ゴニョゴニョゴニョノゴニョナノジャ」
魔王「ふーん……分かったわ」
603: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:12:00.73 ID:hqXmfp7s0
魔王「任せなさい」
団長「わぁっ!ありがとうなのじゃ!」
魔王「あれ?でもあなたの父親は勇者じゃ……」
勇者「え、僕?」
団長「わーっ! なるべく秘密にしてほしいのじゃ」
団長「個人的なことじゃからな。プライバシーというやつじゃ」
魔王「ふーん。じゃあそういうことにしておいてあげるわね!」
魔王「それじゃあ今度こそ」
勇者「ああ、また」
団長「よろしくなのじゃ!」
604: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 16:12:26.80 ID:hqXmfp7s0
奇術国編はこれにて
605: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/05(木) 18:30:29.68 ID:cL3SFBE40
乙!さぁ、次の展開がたのしみだ!
608: ◆9GmoiQGLItwN 2015/02/09(月) 01:10:22.88 ID:rHR/I6u+0
―――数日後 北部不干渉区 中央行政区行政府―――
その後、勇者一行はすぐに被害の整理をしながら帰還。
外副長のみならず、上級隊長、隊長A、Bの死は更に団長に衝撃を与えることとなった。
実質的に元半魔盗賊団の最高幹部がほぼ全滅してしまったのである。
勇者「……ということだ」
勇者「結局、奇術国へ向かったメンバーで生き残ったのは僕と団長、そして魔王だけだった」
戦士「あの上級隊長がやられたなんて……そんな馬鹿なことがあるか!!」バン
戦士「あいつは俺に劣らない超一流の剣士だったんだ!」
戦士「それが……それが……あんな卑怯な待ち伏せ野郎どもにやられるはずがない!」
副団長「し、しかし、あのあとこっそり向かわせた偵察隊は、確かに上級隊長の死亡を確認したと言っていたじゃないか」
副団長「無数の銃創を残した上級隊長の死体と、その周りに横たわるこれまた無数の奇術国兵の死体を軍は搬送していたと」
戦士「んなこたぁ分かってる!分かってるんだよ……」
609: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:11:31.42 ID:rHR/I6u+0
戦士「クソッ!こんなことだったら俺が行くべきだった!」
戦士「そうすれば誰も死ななくて済んだはずだ!そうだろ勇者!?」
勇者「いや、そうとも言い切れない状況だったからこそ僕は君をここへ残した」
勇者「君は暫定でこの不干渉区で最強の人間だ」
勇者「君はこの先もずっとこの不干渉区に必要な人間なのさ」
勇者「上級隊長よりも……はてまた僕なんかよりもね」
魔法使い「それは言いすぎなんじゃないかしら」
商人「そうです。もし勇者様が亡くなられれば、すぐさまこの不干渉区は崩壊の一途をたどるでしょう」
610: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:12:08.81 ID:rHR/I6u+0
勇者「まあ、この不干渉区もここまで成長したんだ。もう僕の役割は終わったも同然だよ」
戦士「納得いかねぇ! こうなったら奇術国の理事長を直接切り殺して……」
団長「その必要はもうないぞ」スタスタ
団長が会議室へと入ってきた。
戦士「何!?」
勇者「どういうことだい?団長」
団長「うむ。あの夜の次の日、奇術の国首都で大変な事件が起こったそうじゃ」
魔法使い「事件ですって?」
勇者「僧侶のセレモニー当日にかい?」
団長「ああそうじゃ。どうやら僧侶も関連しているらしい」
戦士「あの僧侶がだと!?」
団長「まあまあ質問は後にしてほしいのじゃ」
611: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:12:49.42 ID:rHR/I6u+0
団長「情報によると、その日奇術国企業連合本部ビル会食場や理事長室周辺等数か所において大規模な爆発が起こったそうじゃ」
団長「それによってビルは炎上」
団長「セレモニー前の会食で本部ビルに集結していた、理事長をはじめとした理事の多くが死亡したということじゃ」
団長「じゃが幸い、爆発時理事以外の者は、ちょうど僧侶のセレモニーのために屋外へ出ていたため難を逃れておる」
団長「そして、その僧侶自身も無事だったようじゃ」
団長「これは僧侶との関わりがないとは到底思えん。推測には過ぎんがな」
勇者「なんだって……!?」
戦士「ということは……」
副団長「……明らかに理事らを狙った『爆破テロ』ということですね、団長」
団長「うむ。事件の後、残った理事たちは素早く理事会を立て直し、元軍務理事が理事長に、僧侶が軍務理事に就いたそうじゃ」
団長「そして新理事会はこのテロの実行犯は、現場で魔力の消費が確認されたことから魔術国連合のスパイだと断定」
団長「挙国一致で魔術国連合との更なる対立を約束したと」
勇者「な!? 僧侶が戦争の先導を?」
団長「まあ、そうなるな」
戦士「あの僧侶が自ら戦いを選ぶとはな……」
魔法使い「最早別人にでもなってしまったのかもしれないわね」
612: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:13:20.40 ID:rHR/I6u+0
商人「これはまた経済情勢が荒れに荒れそうですね」
勇者「僧侶が奇術国連合の最上層に立ったのはいいことだけれど……あまりスッキリとはいかないようだね」
団長「ああ。じゃが、奇術国連合は今までとは打って変わって、儂らに友好的な姿勢を見せ始めたのじゃ」
団長「これも僧侶の意志と無関係では無かろう」
勇者「そうか……しかし必ず参戦要求を出してくるだろう」
勇者「これは、遂に不干渉区存続の境目に来ているのかもしれないな」
勇者「僕らも、こうなったらまずは独立を果たしてしまうべきだ」
勇者「そうすればこの不安定な状況も少しは改善するはずさ」
魔法使い「そうね。急いで準備を進めましょう」
団長「うむ。外交交渉はその後じゃな」
勇者「今回の被害で欠員がでた部門は部門ごとに補充を行ってほしい」
勇者「副団長は警務部門を少し手伝ってくれないか」
副団長「分かった」
戦士「なんで俺が!」ガタッ
戦士「……チッ。苦労を掛けさせて悪いな」
副団長「ニャハハハ。お安い御用さ」
勇者「それでは解散!」
613: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:14:30.35 ID:rHR/I6u+0
―――時は遡ってテロ当日 奇術の国首都 本部ビル上層階会食場―――
ハハハハハ
ガヤガヤガヤ
財務理事「それにしても、あのどこの出身かも知れぬ小娘が一国の軍務を掌握するとは」
政務理事「理事長も一体何を考えていらっしゃるのか分かりませんな」
警務理事「全くだ!何か余計なことでも起こす前に処分してしまった方がよいのではないか?」
財務理事「これこれ、ここはその小娘を祝う場だぞ。軽率な発言は慎め」
警務理事「ふん!この傾国の危機に黙ってなどいられるか!」
政務理事「まあまあ落ち着いてくださいな。どうせ後々『あの方』から指示が出るでしょう」
政務理事「その時にもまた全権を持って潰しに行けばよいだけのことです」
財務理事「政務理事の言う通りだ。少し軍務理事に妬き過ぎではないのか?警務理事よ」
警務理事「ふん。奴もどうせあの小娘に肩入れをしていやがるんだ」
警務理事「わざわざ寿命を縮めるとは、感謝したいぐらいだとも」
財務理事「まあまあそう強がるな」
614: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:15:59.60 ID:rHR/I6u+0
政務理事「そうです警務理事。お前はまだまだ若いんだから機会などこれからいくらでもありますとも」
政務理事「なくても私らが作ることになりますしね」
警務理事「ふん。まあそれもそうだな」
警務理事「ハハハ。今はあの小娘の短い栄華を祝ってやる事にするか」
財務理事「それでは乾杯といこうか」
政務理事「我らの未来に」
財務理事「奇術の国の未来に」
警務理事「そして、『幸の国』の未来に!」
「「「乾杯!!!」」」
ドガァァァァァァァン
ズン ズズズン
財務理事「何だ!? 何が起こっている!」
警務理事「爆発!?馬鹿な、ここの警備は万全だったはずだ!」
政務理事「あれは……」
キュウウウン
政務理事「空間が歪んで……?」
ドッガァァァァァァァァァン
テロによって本部ビルは会食場をはじめ数か所が爆破された。
その後の火は丸一日をかけて鎮火された。理事の中で生き残ったのは、
たまたま外に出ていた外務理事と、下層階で僧侶と共にいた軍務理事のみであった。
615: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:16:41.65 ID:rHR/I6u+0
―――時は戻って、不干渉区警務部門本部―――
副団長「大丈夫かい?戦士」
戦士「ああ。悪いなさっきは取り乱しちまって」
戦士「上級隊長が勇者を守るために死んでいったのは仕方のないことだ」
戦士「もう仇も討てないんじゃあ、憤っていたって空しいだけってやつだ」
副団長「確かに」
副団長「なんだ、意外と物分りが良いんだね」ニャハハ
戦士「抜かせ。こんなこと魔国や戦場で幾度となく経験してきたことだ」
戦士「今更無駄に喚き散らすのも馬鹿馬鹿しいだろ」
副団長「ニャハハ。せっかく慰めてあげようと思ったのに、逆に自分語りなんかされちゃあその心配もなさそうだ」
副団長「その様子だと、もう要員補充のめどもついているんだろう?」
戦士「まあな。上級隊長には現在の隊長Cを当てる。ただそれだけだ」
副団長「ニャンとシンプルな……これじゃあボクの助けなんていらなかったようだね」
616: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:17:07.39 ID:rHR/I6u+0
戦士「ああ、悪いなわざわざ来てもらってよ」
戦士「……ハハ。どうせ奴のことだ。俺とお前を一緒にしておけば自然となんとかなるのを見越していたんだろうよ」
戦士「全く小賢しい奴だ」
副団長「自然と、ねえ」
戦士「まあ、深い意味はねえよ」
戦士「さあて、この前お預けになったっきりの手合せをいっちょ願おうじゃねえか」
副団長「よし、いつでも来い!」
ガチャ
隊長C「大変です部門長!」
戦士「何だまたお前か!!」
隊長C「はっ!?これはまたいい雰囲気を邪魔してしまって……」
隊長C「なんて言ってる場合じゃないんです!」
隊長C「部門長の支持で強化していた魔術国側の検問で不審な馬車が捕縛され、その中から銃をはじめとした武器が大量に押収されました!」
隊長C「既に検挙数は6件にのぼっているそうです!」
617: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:17:43.34 ID:rHR/I6u+0
戦士「な、なんだと!?」
副団長「この数日で6件だって!?」
副団長「これは予想以上の数だね」
戦士「ああ。まずいな……」
戦士「急いで捕まえた商人共を尋問しろ!」
戦士「なんとしてでも内通者を特定するんだ!」
隊長C「はっ!」
618: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:18:53.50 ID:rHR/I6u+0
―――翌日 代表執務室―――
勇者「魔術国との国境で大量の武器が押収されただって!?」
団長「ああ。これはかなりまずいことになったぞ」
魔法使い「恐らく、既にそれをはるかに上回る量の武器が持ち込まれている可能性があるわね」
団長「そうじゃ。これではいつ大規模な反乱が起こってもおかしくないぞ!」
勇者「参ったな……もう独立宣言式へ向けて本格的な準備が始まっている」
勇者「恐らく彼らが狙うとしたらその式当日だろう」
勇者「早く内通者を特定してしまわないと厄介だね」
魔法使い「それなら、早めに『商人』をマークしておいた方がいいんじゃないかしら?」
勇者「そうだね。僕も支部長に気がかりなことを言われたんだ」
勇者「商人に気を付けてってね」
619: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:19:23.61 ID:rHR/I6u+0
団長「やはりあやつが……?」
魔法使い「北部不干渉区成立と同時に不干渉区に入り、経済を握る」
魔法使い「そして魔法使用の疑いありとくれば、任意同行には十分すぎる理由になるんじゃないかしら」
勇者「確かに。しかしまだ確固とした証拠が……」
ガチャ
戦士「よう勇者」
勇者「やあ戦士、どうかしたのかい?」
戦士「どうしたもこうしたもねえ」
戦士「捕縛した商人が自白しやがったのさ」
戦士「『私を先導したのは紛れもなく財務部門長商人様だ』ってな」
団長「これは!」
魔法使い「急ぎましょう勇者」
勇者「ああ」
勇者「戦士、商人を逮捕するんだ」
戦士「言われなくても!」
ダダダッ
しかし……
620: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:19:59.04 ID:rHR/I6u+0
―――財務部門庁舎 商人の部屋―――
財副長「商人様。勘付かれたようです」
財副長「現在憲兵隊がここへ向かっているそうです」
商人「ほう。あのカラクリに気付きましたか」
商人「警務部門長様もただの剣振り屋ではないようですね」
商人「しかし、少し遅かったようです」
商人「財副長、行きますよ」
財副長「はっ」
スタスタ……
621: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/09(月) 01:20:28.70 ID:rHR/I6u+0
―――……
ダダダダダッ
バタン
隊長C「商人!お前を逮捕す……!?」
憲兵「隊長!誰もいません!」
隊長C「馬鹿な、庁舎は完全に包囲しているはず……」
隊長C「まだ近くにいるはずだ!捜せ!」
ダダダダッ
結局、憲兵隊の決死の捜索にもかかわらず、商人は最後まで発見されなかった。
626: ◆9GmoiQGLItwN 2015/02/17(火) 22:42:33.00 ID:tIcGIaq70
―――翌日 行政府 会議室―――
戦士「取り逃がしただと!?」
隊長C「申し訳ありません……私たちが到着したころには既にもぬけの殻でした」
勇者「そうか……やはり入念に準備をしていたようだね」
団長「どうするのじゃ勇者、このままでは……」
勇者「まあ、商人が黒幕ということは、逆に言えば反乱は必ず独立宣言当日に起こるってことだ」
魔法使い「確かに。商人はしきりに独立宣言をさせたがっていたみたいだしね」
団長「とはいえ、もう独立宣言は取りやめることはできんぞ」
勇者「ああそうだ。もうここまで公言してしまったからにはやるしかない」
勇者「もし中止にでもすれば、不干渉区内の不安は高まるばかり……」
勇者「下手をすれば反魔族派の動きを加速させかねないだろうね」
627: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:43:01.68 ID:tIcGIaq70
副団長「反乱が起こる日が分かっているなら警備もしやすいんじゃないのかい?」
戦士「まあな。しかしこのヘボ勇者のことだ」
戦士「分かっていても死にかねん。この前の奇術国連合での暗殺未遂のようにな」
勇者「まあ、あえて否定はしないよ」
勇者「とはいえ、黙って見ているわけにもいかないさ」
勇者「総員、全力を挙げて独立宣言を成功させるんだ!」
団長「儂は不干渉区内の各地と、他国に独立宣言を宣伝して回ることにするのじゃ。戦士は警備と商人の追跡、副団長は装飾と広報、魔法使いは魔法での追跡をそれぞれ頼みたいのじゃ」
戦士「おうよ!」
副団長「はいっ!全力でやらせていただきます!」
魔法使い「任せなさい」
勇者「それでは全員。無事と成功を祈るよ」
戦士「無事はお前だけで充分だろ」
勇者「まーた空気を壊す」
勇者「それじゃあ解散!」
628: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:43:30.21 ID:tIcGIaq70
――――……
こうしてそれぞれ、間近に迫った独立宣言式に向けて準備を進めていくのだった。
隊長C「おい、1班、2班、どうだ?」
1班長「だめです!」
2班長「こちらも気配すらありません!」
隊長C「これで北ブロックはすべて調査しましたが……駄目のようです」
戦士「チッ。それじゃあ次は東だ!いくぞ!!」
オーッ
629: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:44:03.24 ID:tIcGIaq70
――――……
副団長「それはそっちであれは看板の上ね」
副団長「あっ!これはやっぱもうちょっと右の方がいいや」
副団長(戦士も忙しそうだし、手合せはだいぶ先になりそうだなぁ)
副団長(はぁ……なんだか物足りないなぁ)
630: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:44:31.67 ID:tIcGIaq70
――――――……
魔法使い「うーん……」
助手「だめなんですか?」
魔法使い「ええ。分析魔法によると、この中央行政区中に隠蔽魔法がかかっているわ」
魔法使い「しかも何重にもね」
助手「な、何重にもですか……!?」
魔法使い「これでは魔法で足掛かりをつかむのは難しそうね……」
魔法使い(とはいえここまで高度な魔法を何重にも張り巡らせるなんて……)
魔法使い(あのチョークといい……まさか彼は……)
助手「えいっ!反隠蔽魔法!」シュパー
バリィン
シュウウン
631: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:45:29.73 ID:tIcGIaq70
助手「あぁやっぱりすぐ戻っちゃいました……」
魔法使い「さすが優等生ね、もうアンチスペルを唱えられるなんて」
助手「いえいえ、さっき師匠がやっていたのをまねただけですよ」
助手「自己再生魔法ですぐ戻っちゃいましたし」
助手「でも、魔法痕の隠蔽魔法まであるのは変ですね」
助手「あれって魔法陣を隠すのくらいしか役に立たないんじゃないでしたっけ?」
魔法使い「魔法痕の隠蔽魔法……?」
魔法使い「やはりね、浅はかだったわね商人」
助手「?」
魔法使い「見てなさい、目にもの見せてあげるわ」
魔法使い「助手、もう帰っていいわよ」
助手「は、はいっ!?」
魔法使い「あとは私がやるわ。私のことは私でケリをつけなきゃね」
スタスタ
助手「あっ!師匠〜!」
助手「いっちゃった……」
632: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:45:55.48 ID:tIcGIaq70
――――……
商人「それでは、この手筈通りにお願いしますよ」
情報隊長「なるほどな……これなら奴らを確実に狙えるな」
情報隊長「ふん。ずる賢さだけは一流と見える」
商人「いえいえ、それこそ商人には必須の条件というやつですよ」
情報隊長「まあいい」
情報隊長「それにしても、今更ながらお前が魔法を使えるのも不思議なもんだな」
商人「いえいえ、使えるのなんて魔法陣だけです」
商人「この前と同じように、発動のタイミングはお任せしますので」
情報隊長「言われなくてもそうするつもりだ!いちいち言うな!」
商人「これはこれはお厳しい……」
633: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:46:28.21 ID:tIcGIaq70
商人「あと、くれぐれも注意しておきますが、狙うのはあくまで勇者様ですよ」
商人「よろしいですね」
情報隊長「だから指図をするなと言っているだろう!」
情報隊長「それ以外は狙わん。これでいいだろ!」
商人「流石物分りがよろしくて……」
634: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:47:05.18 ID:tIcGIaq70
―――独立宣言前夜 塔最上階展望台―――
団長「やっぱりここにおったか」
勇者「やあ団長」
勇者「経済情勢の調整お疲れ様」
団長「まったく、商人の失踪で大混乱だったのじゃ」
団長「念のため元盗賊団の会計係を忍ばせておいて正解だったのじゃ」
勇者「さすが団長、ぬかりないね」
団長「初めから商人に頼り切るのはまずいと注意しておいたじゃろうに」
勇者「ははは。まあね」
勇者「でもあらかじめ財務部門は信用できる人間を集めておいたから、そこまで心配する必要は無かったのさ」
勇者「大体は旅の途中で知り合った人だよ」
勇者「まあ、あの商人に敵う手腕の持ち主もいなかったから彼を財務部門長にせざるを得なかったんだけどね」
団長「なんじゃ、どうりで儂の助言など気にも留めなかったわけじゃな」
635: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:47:38.61 ID:tIcGIaq70
勇者「ごめんごめん。言わない方が団長が頑張ってくれると思ってさ」
団長「まったく。人をなんだと思っておるのじゃ」
勇者「悪かったってば。お詫びにショートケーキ食べ放題を奢るよ」
勇者「僕が明後日まで生きていたらの話だけどね」
団長「ほ、本当か!?」
団長「……ゴホン。ま、せいぜい自衛に徹することじゃな」
勇者「なんだ、守ってくれないのかい?」
団長「勇者なんだから自分の身くらいは自分で守らんか」
勇者「はいはい、努力しますよ」
団長「……本当に大丈夫なのじゃろうな」
勇者「まあ、五分五分ってところかな。何が起こるかなんて結局は明日になってみないとわからないわけだし」
勇者「伝聞魔法で情報共有だけは万全にしておこう」
団長「そうじゃな。妨害されるといかんからな、チャンネルも5つ用意しておいたぞ」
636: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:48:10.67 ID:tIcGIaq70
勇者「お、さっすが団長」
団長「誉めてないで明日の対策を考えんか」
勇者「大丈夫さ、できる手は尽くしてある」
勇者「あとは相手の腕次第さ」
団長「そうか……」
団長「なあ勇者」
勇者「なんだい?」
団長「もし、もし明日上手くいったら……」
団長「一緒に、あの夢の秘密を解いてはくれんか?」
勇者「あの夢……この前言ってたあれかい?」
団長「ああそうじゃ。結局何もわからんままなんじゃ……」
団長「あの後魔法使いにも相談してみたんじゃが、魔法による呪いの類では無いそうなんじゃ」
勇者「そうか……分かった。団長の頼みとあらば僕もしっかり答えないとね」
637: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/17(火) 22:48:40.09 ID:tIcGIaq70
団長「やった!ありがとうなのじゃ!」
勇者「ところで、魔王にはいったい何をお願いしたんだい?」
団長「それは……また話すことになるじゃろう。それまで待ってほしい」
勇者「明日失敗しても知らないよ」
団長「な、そんな縁起の悪いことを言うな!」
勇者「ごめんごめん」
団長「まったく、冗談に聞こえんぞ」
勇者「それはちょっと失礼だね」
勇者「ま、僕もまだ死ねない理由はあるにはあるし、お互い頑張ろうか」
団長「ああ。そうじゃな……」
結局、そのまま商人らが見つからないまま式当日を迎えることとなった。
643: ◆9GmoiQGLItwN 2015/02/22(日) 17:28:12.01 ID:ryssxFng0
―――北部不干渉区独立宣言当日 朝 市街地―――
ワイワイガヤガヤ
独立宣言当日、行政区は朝から各支部や不干渉区全土から詰めかけた半魔や人間そして魔族であふれかえっていた。
団長の広報活動により、不干渉区外からも多くの人々が集い、まさにお祭り騒ぎとなっていた。
その中で戦士率いる警務部門の面々は厳重な警戒態勢を崩していなかった。
隊長C「部門長、第1班から10班まで全員配置完了しました。東西南北全てのブロック異常なしということです」
戦士「よし、このまま警戒を続けるぞ!」
隊長C「はっ!」
戦士「しっかしよくもまあここまで人が集まったもんだな」
戦士「勇者め、これなら相手も派手な動きができないと予想しやがったんだな……?」
戦士「相変わらず小賢しい奴だ」
副団長「でも、これだとこっちも身動きがとりづらい」
副団長「この人ごみに潜られたら少し厄介だね」
戦士「大丈夫だ、そのために飛行部隊を……」
644: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:28:43.02 ID:ryssxFng0
戦士「ってお前どっから湧いてきやがった!?」
戦士「隊長Cは!?」
副団長「さっきから近くにいたじゃないか……」
副団長「そんな視野の狭さで本当に大丈夫なのかい?」
戦士「大丈夫だ、視野は広いがちと障害物が多かっただけだからな」
副団長「また変な言い訳を……」
副団長「今日はボクも仕事がないから、元上級隊長の代わりとまではいかないけど、手伝わせてもらうよ」
戦士「おお、そいつは助かる!」
戦士「それじゃあお前は南ブロック方面へ回ってくれないか?」
戦士「俺と隊長Cだけでは南ブロックまで回りきれなくてな」
副団長「お安い御用さ」
副団長「ところで、やっぱり商人の足取りは……?」
戦士「さっぱりだ。あの魔法使いが両手を上げちまったらしいからな、相当巧妙に身を隠しているらしいぜ」
645: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:29:21.16 ID:ryssxFng0
副団長「魔法じゃダメだったのか……」
戦士「まあ仕方ねえ。こうなった以上後手後手で回らざるを得ない」
戦士「その分迅速に対応してやらんとな」
副団長「そうだね。努力することにしよう」
副団長「十分気を付けてよ。相手は奇術国製の武器を使ってくる」
副団長「もし重傷でも負えば魔法では治せないからね」
戦士「おいおい誰の心配をしてやがんだ?」
戦士「俺様は暫定で最強の人間らしいからな、他の人間には負けるはずがない!」
副団長「だけど半魔や魔族には負ける可能性はあるわけだ」
646: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:30:16.63 ID:ryssxFng0
戦士「な、そこまで真面目に帰されると俺も困っちまうぜ……」
戦士「ま、心配すんな。しばらく手合せができていなかった程度で腕が鈍ったりはせんだろうよ」
副団長「ならいいんだけどね」
戦士「なんだなんだ?お前は俺が死んでくれた方があの剣が手に入って得するんじゃなかったのか?」
副団長「な!そんなことは!」キッ
戦士「お、おいおいそんな目をすんなよ……」
戦士「俺が悪かった」
副団長「いや、謝ることは無いよ。初めは確かにそう考えていたしね」
副団長「でも今となっては……どうだろう」
副団長「天秤が反対側に傾いてしまったのかもしれない」
戦士「お、お前……」
647: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:30:51.75 ID:ryssxFng0
副団長「なーんてね。そんなことあるわけないだろ!」
戦士「」
副団長「なんたってあの剣があれば一国の城主だって夢じゃないんだ」
副団長「その価値は万人の命なんかより価値があるのさ」
戦士「はは、まあそりゃそうだな」
ダダダッ
隊長C「部門長!大変です!!」
戦士「なんだまたまたお前か!!」
隊長C「はっ!これはまたいい雰囲気……」
隊長C「って何回やらせるんですか!緊急事態です!」
戦士「何!?」
副団長「ニャンだって!?」
隊長C「行政区郊外の石油貯蔵基地をはじめ、東西南部各ブロックにおいて不審な動きが次々と報告されています!」
隊長C「今すぐ部隊を四散して対応すべきかと!」
副団長「戦士、ボクも向かうことにするよ」
戦士「ああ、苦労をかけるな」
戦士「総員報告に準じて対応に当たれ!」
戦士「攻撃の意志があるなら斬殺もやむを得ん!」
戦士「解散だ!」
オーッ!
648: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:31:42.79 ID:ryssxFng0
―――行政区 中央広場特設ステージ裏 勇者控え場兼情報統制所―――
団長「さて、あと一時間ってとこじゃな」
勇者「ああ。情報通信は上手くいっているかい?」
団長「もちろんじゃ。伝聞魔法東西南北各チャンネルに加え、非常用チャンネルも異常なしじゃ」
勇者「よし。式中は流石に僕は指揮をとれないから、団長に任せるよ」
団長「任せるのじゃ」
団長「ところで、魔法使いの姿が見えんようじゃが……」
助手「はい。魔術国からの来賓は、助手である私が代理人を務めるように命じられました」
助手「ししょ……大使は昨夜から行方をくらませていまして……」
649: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:32:13.25 ID:ryssxFng0
勇者「魔法使いが?」
助手「はい。なんでも商人を探しに行ったようです」
団長「な、単独行動は危険じゃぞ!今すぐ探さんと……」
勇者「いや、その必要は無いだろう」
団長「なぜじゃ!?」
勇者「彼女は魔法のプロだよ。心配はいらないさ」
勇者「しかも、彼女が本気になるときはどっちにしろ誰も止められないのさ」
助手「はい!勇者様は師……大使をよく御存じですね!」
助手「この前も魔王に魔法を教えるとかなんとか言って、一週間も部屋に籠りっきりで授業していたんですよ!」
助手「そのせいでどれだけスケジュール調整に困ったことか……」ブツブツ
勇者「ま、こういう感じなんだ」
650: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:32:47.11 ID:ryssxFng0
団長「な、なるほどのう……」
団長「いいじゃろう。長年の御仲間への信頼を信用することにするのじゃ」
勇者「悪いね。心配かけさせてしまって」
団長「いや、儂の情報不足の方が悪いのじゃ。気にするでないぞ」
団長「ん? 伝聞魔法じゃ」
勇者「誰からだい?」
団長「『ふいfhfほうwhっふゅえ』」
団長「な、なんじゃこれは……」
勇者「まさか……団長!ダメだ!」
団長「なっ!?」
キィィィィン シュバッ
651: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:33:29.10 ID:ryssxFng0
団長「伝聞魔法が勝手に……?」
勇者「やられた……恐らくこちら側の情報を盗まれたんだ」
団長「なんじゃと!?それでは……」
勇者「ああ。伝聞魔法のチャンネル情報も盗られただろうね」
助手「ハッ!どうなさいましたかお2人とも!?」
勇者「恐らく伝聞魔法に見せかけた情報窃盗魔法にやられたんだ」
助手「それは……まずいですね」
助手「でも、今のその伝聞魔法の差出人を逆探知すればいいんじゃないですか?」
勇者(うーむ……団長へ伝聞魔法を送信できたということは恐らく送り主は情報隊長か……)
勇者「しかし、そんなことが可能なのかい?」
助手「もちろんです! お任せください」
助手は行政区の地図を取り出した。
652: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:34:24.77 ID:ryssxFng0
助手「逆探知魔法!」
すると、地図に赤い点が浮かび上がる。
その場所は中央広場から南に逸れた市街地周辺であった。
助手「さっき偽伝聞魔法を送信したのがこの場所です」
勇者「さすが魔法使いの一番弟子だね」
勇者「今すぐ警務部門の面々を向かわせよう」
団長「じゃが、伝聞魔法は筒抜けじゃろうし最早使えるかも怪しいぞ」
勇者「それなら僕の警備兵を向かわせればいい」
勇者「僕の警備は団長がいれば十分さ」
助手「いざとなったら私も援護します!」
団長「うーむ……分かった。今は緊急事態じゃ。ことは急がなければな」
団長「情報伝達もなるべく伝達兵を走らせることにしよう」
団長「警備兵に伝えてくるのじゃ」スタスタ
勇者「よろしく」
653: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:34:56.94 ID:ryssxFng0
助手「本当に大丈夫なんでしょうか」
勇者「多分ね」
勇者「とにかく僕の仕事は最後までやり遂げさせてもらうつもりだよ」
助手「そうですね、さすが勇者様です!」
勇者「そこまで言われるようなタチじゃないさ」
助手「勇者様ってどうしてそこまで謙遜なさるんですか?」
助手「魔術国の貴族たちみたいに威張ったりしないんですね」
勇者「ま、こんな作戦を立てるくらいしか能がないんだから仕方ないよ」
勇者「それに今回みたいに後手に回る勝負はめっぽう苦手だしね」
勇者「魔王軍との戦いは事前に戦場や相手の情報を事細かに収集していたから勝てたものを」
勇者「その分臨機応変な対応力なんてものは育ちづらかったのさ」
勇者「参ったもんだよ」
助手「そうなんですか……」
助手「でも私は魔法使い師匠と勇者様を信じます!」
勇者「それはどうもありがとう」
勇者「そういや君は魔術国の平民育ちなんだっけな」
勇者「貴族の名門育ちの魔法使いとはずいぶんかけ離れた経歴のようだけれど」
助手「ええ。でも師匠はそういうことに関係なく人を見てくださる方なので」
勇者「ははは。まあ、本人も権力闘争の邪魔になったから追い出されたようなもんだったしなぁ」
助手「そうだったんですか!?」
654: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:35:43.52 ID:ryssxFng0
勇者「そうさ。そうでもなきゃ貴族の名門の娘がそんな死地に送らされるわけないだろう?」
勇者「今では彼女の妹がその家門の当主を継いでいるらしいしね」
勇者「ま、魔法大学校の校長になんてなっていたら大逆転の出世話だったろうけどね」ハハハ
助手「そうだったんですか……そこまでは知りませんでした」
勇者「そりゃ彼女だって進んで言いたいことじゃないだろうさ」
勇者「さて、僕も情報が入るまで準備でもしようかな」
助手「あ、私も何かお手伝いすることがあれば!」
勇者「そうだな……魔術国の独立容認についてはもう決定しているのかい?」
助手「もちろんです! 式で発表もしますし」
勇者「なら心配はなさそうだね。それじゃ原稿のチェックを……」
655: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:36:24.45 ID:ryssxFng0
―――しばらく後 式開始20分前―――
ダダダッ
憲兵「報告します!」
憲兵「団長!勇者様!現在行政区校外石油基地など各ブロックより不審な動きが報告され始めました!」
憲兵「それを受けて、部門長以下全兵を持ってそれを調査しに散開しました!」
団長「なんじゃと!?」
勇者「憲兵、報告があった位置を地図に示せるかい?」
憲兵「え、はい。できますが……」
勇者「じゃあこれによろしく」ペラリ
憲兵「分かりました!」
656: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:37:02.75 ID:ryssxFng0
―――…
地図上の点は行政区の郊外から市街地まで、中央市街地を囲んでドーナツ型に広がっていた。
団長「これは……!」
勇者「まずいな……これは揺動だ!」
ドガァァァァァァ……
遠方で爆音が鳴った。それに合わせて黒煙が立ち上る。
ザワザワ……
勇者「あの方角は?」
団長「石油貯蔵基地じゃな……」
勇者「攻撃を開始したか」
勇者「憲兵!急いで憲兵隊を、暴動鎮圧し次第中央に呼び戻してくれ!」
勇者「敵の狙いはこの中央広場だ!」
憲兵「はっ!」タタタ
団長「これでは式開始には間に合わんぞ!」
657: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:37:32.60 ID:ryssxFng0
勇者「仕方ないさ。それに中央にこれだけ人やらが集まっていれば派手な動きもできない」
団長「じゃが……」
勇者「流石にこの場の全員を抹殺するなんて不可能さ」
勇者「中には半魔だって魔族だって魔法使いだっている」
勇者「言い方は悪いが……言わば皆が盾になってくれているのさ」
団長「なるほどのう。やけに人集めをやらせると思ったらそういうことじゃったか」
勇者「まあね。一応彼らも僕のやる事に賛同してくれた人々だ」
勇者「申し訳ないが多少の協力をしてもらうのは許されるだろう?」
団長「ギリギリのラインじゃな」ハァ
団長「まあ、緊急事態となったら仕方は無いか」
勇者「そういうこと」
658: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/22(日) 17:38:04.82 ID:ryssxFng0
勇者「それじゃあもうすぐ開式だ。用意しよう」
団長「そうじゃな」
スタスタ
勇者(確かにここの人々を全滅させる手段がないわけではない……)
勇者(しかしそうならば……)
勇者(仲間を信じるしかない、か……)
こうして、独立宣言式は開式を迎えた。
664: ◆9GmoiQGLItwN 2015/02/25(水) 00:30:37.39 ID:JBs7Qnno0
―――中央広場 特設ステージ―――
ザワザワ
式の開始時刻が迫り、いよいよ中央広場はざわつき始めた。
そして、その一角に特設されたステージ上に、ついに勇者が姿を現した。
ワーワー‼
ユウシャバンザイ‼
それと同時に、歓声が沸き起こった。
勇者『えーと……どうも、本日はこの不干渉区の独立宣言式にお集まりいただき、ありがとうございます』
勇者『僕は勇者、この不干渉区の代表を務めさせていただいております。よろしく』
勇者『それではさっそく本題に移ります』
勇者『人間族と魔族が100年間の間争い続けたかの百年戦争……』
勇者『その戦争が終結してはや4年が経過しました』
勇者『しかしどうでしょうか。戦争は終結したものの、100年かけて人間族と魔族の間に建てられた壁は、一向にその巨影をもって僕たちを飲み込んだままであります』
665: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:31:18.91 ID:JBs7Qnno0
勇者『このままでは魔族と人間族の共和は実現せず、人間同士の争いののち、再び魔族と人間族の争いが始まることでしょう』
勇者『そこで僕は幸の国王より受けた命を完遂し、しかる後にここに人間族と魔族が共に暮らせる理想の国家を新たに建国することを目標として掲げました』
勇者『しかし、昨今の状況は緊張を極めています。各地における反魔族勢力が我々の存在を敵視し始めたのです』
勇者『両連合内の情勢も悪い方向に向かいつつあります』
勇者『よって、平和と協調を志す者として、ここは新たに不干渉区を独立させ、国家としての権威を高めることが第一に必要であると判断しました』
勇者『この状況ではまだ武力を持って自衛に徹することもやむをえません』
勇者『それだけは僕の不本意の残るところです』
勇者『しかし、僕は必ずや冬の後には春が訪れるということを信じています』
勇者『それでは、ここを持って不干渉区の『勇者の国』としての独立を宣言します!』
666: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:35:44.72 ID:JBs7Qnno0
ワーワー‼
ユウシャバンザーイ‼
ユウシャノクニバンザイッ‼
コツ……コツ……
歓声はしばらくの間鳴り止むことを知らなかった。
しかし、そんな中で1つだけ、冷たい足音がステージの方へと向かっていることに気付く者は誰一人としていなかった。
ただ勇者のみを除いては。
勇者(? あれは……まさか)
勇者(やっぱりそう来たか)
勇者(やれやれ……また最悪の想定ばかりが当たる)
勇者(最近の僕は先代魔王の背後霊にでも憑かれているのかもしれないな)
勇者(さてどうしたものか……)ハァ
667: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:36:46.03 ID:JBs7Qnno0
―――行政区郊外 暴動勃発地周辺―――
財副長「な、もう全滅したのですか!?」
財副長「ええい、こうなったら魔法陣を……」
戦士「遅いっ!」
ザンッ
財副長「ぐはっ!」バタッ
戦士「よし、鎮圧は完了したな!」
戦士「怪我人の搬送を急げ!奴らの武器の傷は魔法じゃ治らん、今すぐ奇術式の病院に搬送しろ!」
タタッ
憲兵「部門長!先ほど勇者殿から伝達兵が参りました」
戦士「伝達兵?なんで魔法を使わないんだ?」
668: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:37:46.57 ID:JBs7Qnno0
憲兵「それが、どうやら魔法は傍受される危険があるらしく……」
戦士「なんだと?それで用件は何だ」
憲兵「この暴動は中央広場から注意をそらすための揺動であり、今すぐ憲兵隊を中央に呼び戻してほしいということです!」
戦士「な、揺動だと!?」
戦士「確かに、やけに中央広場周辺だけが狙われなかった……普通ならば狙うべきはそこのはずだ……」
戦士「分かった。伝令ご苦労だったな」
戦士「余力のあるやつは俺に続け!中央広場に急ぐぞ!」
戦士「俺たちのリーダーが危険だ!」
オーッ‼
ダダダダッ
669: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:42:01.19 ID:JBs7Qnno0
―――同じく郊外―――
副団長「ニャンだって!?」
憲兵「はっ。今すぐ中央広場に戻るべきかと」
副団長「ボクたちはまんまとはめられたってわけだね……」
副団長「しかし、団長に手を出させるわけにはいかない!」
副団長「何としても団長をお守りするよ!」
オーッ‼
ダダダダッ
670: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:42:50.95 ID:JBs7Qnno0
―――同刻 中央広場 特設ステージ付近―――
歓声がまだ鳴り止まぬ中、1人の黒いフードを纏った男が群衆の最前列に現れた。
そしておもむろに、黒く光る銃を勇者に向けたのだった。次の瞬間には、歓声は悲鳴へと変わった。
男「全員動くな!動けばすぐさま勇者を撃つ!」
キャァァァァ
ナンダッ‼
アレハジュウヨ‼
群衆は男から後ずさり、男の周りを半円状に囲った。
勇者「君は誰だい? いったい僕に何の用があるのかな?」
男「……」
男「ククク……」
男「何の用だと?今更聞くこともあるまい」
団長「その声は!?」
男「ああ、そうさ。地獄の淵から這い戻ってやったよ」
男「貴様らを葬ってやるためにな!」バサッ
そう言うと男はフードを脱いだ。そこにいたのは、かつて団長の配下であった情報隊長だった。
671: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:43:26.37 ID:JBs7Qnno0
勇者「葬る……ねぇ」
勇者(まさか彼が還ってくるとは……これは益々まずいことになったな)
勇者(彼がわざわざ1人でここまで来たということは、1人で十分この広場の全員を抹殺する手段を整えてきたということ……)
勇者(そんなことが可能なのは最早魔法陣を使った最上級クラスの魔法しかありえない……)
勇者(そしてその魔法陣の発動条件はまず発動者が魔法陣の中にいることだ)
勇者(さらにかつて僕らを道連れにまでしようとした情報隊長がここに来たということは、最悪また同じことをやるために他ならないだろう……)
勇者(しかし魔法の傷は魔法で回復できる……)
勇者(僕や団長は強力な防御魔法を使える上、真っ先に回復魔法をかけられる対象となり、生存の確率は高い)
勇者(そこで今僕に向けている銃を使って予め致命傷を負わせておく……)
672: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:43:59.72 ID:JBs7Qnno0
勇者(まあざっとこんなところだろう)
勇者(どっちが考えたのか知らないが、大層な策略だな……先代魔王もびっくりだよ)
勇者(しかし、その策略は僕の計算に狂いがなければ必ず2つの点で折れる)
勇者(間に合うかな……?)
情報隊長「もう一度同じことを説明してやることもあるまい」
情報隊長「俺は今ここでお前を自らの手で葬り、最後にはこの広場ごと真の平和の礎となってもらう」
情報隊長「3族の協調など夢想に過ぎない」
情報隊長「いづれは人間も魔族も半魔を敵視し、阻害し始めるのだ」
情報隊長「半魔の平和は半魔によってしかもたらされることはあり得ない!」
情報隊長「貴様の行動などただの自己利益のための偽善行為に過ぎることはないのだ!」
情報隊長「そんなものに簡単に騙される馬鹿はここで死ぬがいい!」
情報隊長「この土地にはまだわが同胞が存在している」
情報隊長「彼らは暗い地下で暮らし、半魔の平和という夜明けを今か今かと待ち望んでいるのだ」
情報隊長「さあ勇者、いや、ただの幻想を喚き皆をたぶらかす最大の悪党よ、わが同胞のためにここで散るがいい!!」ジャキ
673: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:44:30.17 ID:JBs7Qnno0
勇者「まあいいさ、それなら殺すがいい」
情報隊長「何?」
勇者「残念ながら僕がいなくなったところで何も変わりはしないよ」
勇者「今この世界は歴史の境目に来ているんだ」
勇者「僕が死んだところで誰かがこの役目を新たに引き受けてくれる」
勇者「協調の種はをもうその芽を出してしまったんだ」
勇者「いづれは必ず3族の平等は成立するだろうよ」
勇者「君が僕を殺すのは結構だが、それはただ歴史はテロによって動くことはあり得ないという事実を証明するための確固たる証拠になるだけのことだろう」
情報隊長「ふん!今更負け惜しみなど片腹痛いわ!」
勇者(負け惜しみとはまた散々な言われようだな……)
674: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:45:09.51 ID:JBs7Qnno0
―――広場周辺―――
ダダダダダッ
戦士「あれは……!?」
戦士「勇者が銃を向けられているだと!?」
戦士「くそっこれでは間に合わん!!」
戦士「勇者あああああぁぁぁぁっ!!」
―――同―――
ダダダダダッ
副団長「あれは、情報隊長!?」
副団長「団長が危ない!」
副団長「しかしこれでは間に合わない……」
副団長「いったいどうしたら……」
副団長「団長は絶対に守らなくてはいけないのに……!!」ギリ
675: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:45:59.36 ID:JBs7Qnno0
―――特設ステージ―――
団長「勇者!!」
情報隊長「ハハハハハハッ!!」グッ
勇者「大丈夫さ」
団長「なんじゃと?」
勇者「どうやら間に合ったようだよ」
676: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:47:00.55 ID:JBs7Qnno0
情報隊長「ん?」
ヒュオッ
突如情報隊長の背後に飛びかかる影があった。
情報隊長の敏感な危機察知能力をかいくぐって近づいたその影は、一見したらただの人間の少女にしか見えない、
しかしその角と赤い目によってようやく魔族だと判別できる容姿であった。
ズバァァァァァッ
パァン
勇者「うっ」ビッ
ドテッ
情報隊長「がはぁっ!!??」ドバッ
ドサッ
情報隊長の放った弾丸は、斬撃に一瞬遅れたため、辛うじて勇者の左ほほをかすめただけであった。
677: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:47:40.71 ID:JBs7Qnno0
情報隊長「ば……馬鹿な……全く気付かなかっただ……と……」ゼェゼェ
勇者「ふう。随分遅かったじゃないか、魔王」
魔王「悪かったわね、そこのちっこいのの頼みで手間取ったのよ」
団長「ち、ちっこいの言うな! ……なのじゃ!」
魔王「それにしても、この困った目立ちたがり屋は何なの?」
魔王「勇者を本気で殺そうとしていたわよ。まあ思わず斬撃魔法で切っちゃったけどね」
勇者「思わずだなんて、素直じゃないな」
魔王「さあ何のことかしら」
魔王「この魔王がかの勇者を助けたなんてなっちゃ一族の恥だわ!」
勇者「分かった分かった」
情報隊長「く……おの……れ……」
団長「残念じゃったな情報隊長。お主の負けじゃ」
678: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:48:30.34 ID:JBs7Qnno0
団長「お主の策略など、先代魔王の策略をかわし切った勇者に通じるはずがなかったのじゃよ」
勇者「ま、ギリギリだったけどね」
情報隊長「フ……フフ……」
情報隊長「何を勘違いしている……」
情報隊長「さっきも言ったはずだ……この広場ごと平和の礎になってもらうと……」
情報隊長「この広場には商人の仕掛けた爆破魔法陣が展開されている……」
情報隊長「死ぬのは貴様らも同じことだ……発動せよ!爆破魔法陣!」
魔王「少し黙りなさい!斬撃魔法!」ザンッ
情報隊長「がぁっ!」バタッ
情報隊長「」
ゴゴゴゴゴゴゴ
突然広場全体に地響きが鳴り始めた。かと思うと広場に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
団長「いつの間にこんな巨大な魔法陣を……!?」
679: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/25(水) 00:49:00.36 ID:JBs7Qnno0
勇者「僕らが遠征に行ったりしている間ってとこかな。深夜にも商人が外出していることはよくあったし、すべて合わせれば時間は十分にあったろう」
魔王「どうするのよ勇者!このままじゃあ……」
勇者「ああそうだね。あとは彼女に任せることにしよう」
団長「彼女?」
勇者「ああ。貴族出身の小探偵が犯人のところまでたどり着いていることを祈るのさ」
魔王「?」
683: ◆9GmoiQGLItwN 2015/03/06(金) 22:57:27.20 ID:kw2nlEwz0
―――少し前 半魔盗賊団旧地下基地 最深部 元玉座 現魔法石貯蔵室―――
商人「さて、そろそろでしょうか」
商人「私もこの転移魔法陣でここを離れることにしましょう」
商人「次にここへ戻ったときは、この地は『陣術の国』となることでしょう」
商人「あの魔術の国の貴族どもに思い知らせてやらねば……陣術師の、世代をも超える真の恐ろしさを!」
?「貴方、やはり陣術師の一族だったのね」
すっかり放置されて淀んでしまった暗闇から現れたのは、魔法使いであった。
商人「ほう?まさかここまで来るとは」
魔法使い「まず貴方は、自らの痕跡を断つために、魔法痕の隠蔽魔法をかけていた」
魔法使い「あれは魔法陣を隠すことにしか使えない魔法よ」
684: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 22:58:36.59 ID:kw2nlEwz0
魔法使い「あの魔法陣形成チョークといい、あれだけの上級な魔法を魔法陣のみで発動させる手腕といい、貴方が相当手練れの魔法陣の使い手であることは確定するわ」
魔法使い「そして、魔法陣はその強力さゆえに消費する魔力も莫大なもの」
魔法使い「それだけの魔力を供給するには大量の魔法石が必要になるものよ」
魔法使い「となれば、いくら魔法陣を隠しても、魔法石が大量に存在する所に魔法陣が存在すると推理できる」
魔法使い「となれば、そんなところはこの魔法石貯蔵室しかありえないのよ」
魔法使い「この場所は以前行方不明者がでて使用禁止になり、更に中央広場の真下にもあたるわ」
魔法使い「独立宣言式で中央広場に大勢の人が集まることも考えると、魔法陣の場所も貴方が潜んでいる場所も見えてくるというわけよ」
商人「ほう……」
ゴゴゴゴゴゴ
魔法使い「あら、魔法陣が発動したようね」
685: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 22:59:33.43 ID:kw2nlEwz0
―――地上 中央広場―――
ゴゴゴゴゴ
ザワザワ
中央広場は緊張に包まれ、大いにざわつき始めた。勇者もこれを止めることもできず、ただ見守るだけであった。
カッ
勇者「!」
突然閃光が日中の広場をさらに明るく照らした。
ドドーン ドドドン
団長「こ、これは……」
閃光の源は空高く昇り、青空一面に花火を咲かせた。
そして、その無数の花火は勇者の国の独立を祝うかのように広場を明るく照らすのであった。
686: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:00:23.58 ID:kw2nlEwz0
オオオオーッ‼‼
コンナサプライズヲヨウイスルナンテ‼
サスガユウシャサマダ‼‼
群衆も一連の騒動がショーであったと解釈したのか、歓声を上げ始める。
魔王「綺麗ね……」
勇者「ね、言っただろう?」
ワーワーッ‼
ユウシャバンザイ‼
ユウシャノクニバンザイッ‼‼
花火はさまざまに色を変え形を変え、1時間以上も花を咲かせ続けたという。
687: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:01:23.00 ID:kw2nlEwz0
―――地下 魔法石貯蔵室―――
ドン……ドドドン……
魔法使い「どう?ただ魔法陣を消すだけじゃもったいないから、ちょっとだけいじらせてもらったわ」
商人「フフ……名推理お見事でした」
商人「それにしても、貴族出身のご令嬢がこんな汚い場所へよくもずかずかと入れたものですね」
魔法使い「あいにく私はそういう建前とか礼儀とかいう下らないものが苦手でね」
魔法使い「かつては、あんな家を継ぐくらいなら死んでやろうと決心したものよ」
魔法使い「まあ、そこに運よく勇者一行の知らせを聞いたわけだったけれど」
商人「ほほう。それでは私と貴方は似通ったところがおありのご様子で」
魔法使い「そうかもしれないわね。でも、貴方と私は敵よ。それは変わらないわ」
688: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:02:12.67 ID:kw2nlEwz0
魔法使い「貴方の野望のために平和の象徴を失うわけにはいかないのよ」
商人「そうですか……まあ、私も貴方は後々消さねばならないと思っていましたよ」
商人「いつの時代も、我々商人に最も大きな利益を与えるのは戦争……」
商人「私もそのうちの一人として純粋に利益を求めるのは必然」
商人「しかしそれだけではない」
商人「そう。我が『陣術師の一族』を滅ぼしたのはまさに貴方の家門の貴族なのですからね」
魔法使い「今から50年ほど前まで……魔術連合に存在した『陣術の国』」
魔法使い「魔法陣を扱うことに特化した陣術師はかつて強力な魔術師の一派だった……」
魔法使い「しかし50年前に魔王軍への内通と反逆の策謀が発覚し、当時魔術軍の全権を支配していた我が家門が全軍を挙げて討伐した……」
魔法使い「その歴史が偽りであったというの?」
689: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:02:39.80 ID:kw2nlEwz0
商人「そうです。貴方の家門はただ我らの力を恐れたがゆえに我らを滅ぼしたのです」
商人「結局陣術の国から王族を含めた極少数の者が幸の国に亡命」
商人「今では王族の子孫である私と、その一家は奇術の国まで至って細々と暮らしています」
商人「そして私は先代の敵を討つため、魔法の存在しない奇術の国で魔法を使って実績を挙げ、『あの方』に見初められてここまで辿り着きました」
商人「今少しは失敗しましたが……幸の国へ戻った後、いずれはここに陣術の国を再興するのです」
商人「最後には必ずあの憎き魔術の国を滅ぼして差し上げましょう」
魔法使い「そんなにうまくいくものかしら」
魔法使い「背後には奇術の国だっているのよ?」
商人「もちろん対策は練ってあります」
商人「さて、そろそろお喋りは終わりにしましょう」
商人「貴方には消えてもらいます」
690: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:03:06.28 ID:kw2nlEwz0
魔法使い「あら、転移魔法で消えるつもりの貴方がよく言うわね」
商人「どこまでも口の減らないお方ですね!」バッ
商人は、背負っている鞄からホワイトボードのようなものを取り出した。
商人「火炎陣!」ボォォォッ
そして一瞬のうちに魔法陣を描くと、強力な炎が魔法使いに向かって放たれた。
魔法使い「炎には水ね。水彩魔法……!?」スカッ
魔法使い「く……封魔魔法!?」バッ
魔法使いは済んでのところで襲い掛かる炎をかわした。
商人「残念、避けられましたか。念のために魔法封じの魔法をかけておいたんです」
商人「これでこの部屋の中では魔法陣しか使用できませんよ?」
魔法使い「……ここがダメなら……ここをこうして……これを代入して……よし」
魔法使い「さあどうかしら? 氷柱魔法!」ドシュッ
商人「!?」
商人「ちっ、防御陣!」カキィィィィン
691: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:03:49.48 ID:kw2nlEwz0
商人「馬鹿な!魔法陣はまだ崩壊していないはず……」
魔法使い「甘かったわね商人」
魔法使い「封魔魔法というものも、所詮は魔導方程式に依存するもの」
魔法使い「その仕組みは魔導方程式の一部を遮断して、魔法を使用不可にするというのが普通よ」
魔法使い「それならその遮断された部分を避けて方程式を書き直せばいいだけのこと」
魔法使い「私にかかればそんなことはお安い御用というわけね」
商人「ぐぬぬ……やはり一筋縄ではいきませんか」
商人「それなら、これはどうです!」
商人「発動せよ!『無重力魔法』!」ヴン
突如部屋一面に魔法陣が現れた。
そして、商人の周りを除いた、部屋中のあらゆるものがふわふわと浮かびだした。
692: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:04:41.18 ID:kw2nlEwz0
魔法使い「しまっ!? まさかこんな最上級魔法を用意しているなんて……」フワフワ
魔法使い(身動きが取れない!?)
商人「何日も前から準備していたんです。これくらいの襲撃は想定の範囲内でしたよ」
商人「さあ、これで攻撃の回避はできませんよ?」
商人「いつまで魔法の相殺だけで持ちますかね!」
商人「水龍陣!」ザパァァッ
商人が唱えると、龍を象った大量の水が魔法使いに襲い掛かる!
魔法使い「くっ、水ならば氷ね」
魔法使い「氷結魔法!」ズババッ
カチーン
693: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:06:17.16 ID:kw2nlEwz0
水は瞬時にして凍り付き、氷の粒が魔法使いの周りを浮遊した。
魔法使い「……しまった!」
商人「鋭いですね」
商人「氷弾陣!」バリィィィン
ヒュンッビュンッ
商人の魔法陣で、今凍ったばかりの氷が弾け、一斉に魔法使いの方へと向かっていく!
魔法使い「それなら、爆破魔法!」ボガーン
魔法使いは小規模な爆発を起こすと、その反動で天井の方へと飛び去り、辛うじて氷弾のクロスポイントから逃れた。
商人「逃がしませんよ!追いなさい!」
無数の氷弾は軌道を変え、魔法使い1人を執拗に追ってゆく。
694: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:07:21.89 ID:kw2nlEwz0
魔法使い「一気に行くわよ!」クルッ
魔法使い「それっ、爆破魔法」ボガーン
魔法使いは天井まで達すると、思いっきりそれを蹴った。
と同時に爆破魔法で勢いを増したまま側壁まで達し、再びその壁を爆破魔法付きで蹴る。
ビュンッ
商人「まさか!」
商人「無重力を逆手に取られたか!」
魔法使い「もう遅いわよ! 斬撃魔法!」
商人「まずい!」バッ
無重力を利用して魔法使いは商人との距離を一気に縮めた。
しかし、商人はギリギリのところで攻撃をかわした……と思われた。
695: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:08:35.31 ID:kw2nlEwz0
ズバァッ
商人「何!?陣製ボードが!」
魔法使いは初めから商人を狙ってはいなかった。
商人の攻撃の要であるホワイトボードを狙っていたのである。そして……
商人「……しまった!」
商人の目の前に現れたのは、コントロール不能になり、商人の方へと向かう無数の氷柱であった。
商人「うわぁぁぁぁっ!魔法陣解除っ!!」
バリバリバリィンッ
無重力状態が消え、無数の氷柱は地面へと墜落し、砕け散っていった。
ドテッ
魔法使い「いたたた……いきなり解除しないでほしいわね」
魔法使い「重力の下だとあまり運動神経がいいほうじゃないのよ」
魔法使い「ふふふ。無重力だからって油断したようね」
商人「はぁ……はぁ……」
魔法使い「あらどうしたの?顔色が真青よ」
商人「クッ……」
696: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:09:28.34 ID:kw2nlEwz0
商人「貴族の娘風情がなぜそこまで平和にこだわる!」
商人「勇者であれ戦士であれ、貴様らこそ戦うために生まれてきた存在であろう!」
商人「人の争いなど消えることはあるまい!」
商人「そんな永遠ならざる平和のためにどうして自らの存在意義を投げ捨てようとするのだ!」
魔法使い「永遠ならざる平和、ね。まあそうかもしれないわね」
魔法使い「でも、争いは当事者のうちで片づけてもらうのが筋ってものよ」
魔法使い「私たちも乗りかかった船を最後まで港に返したい。ただそれだけのこと」
魔法使い「また後世で争いが起こったならその当時の勇者に委ねることにするわ」
魔法使い「私たちには関係のないことよ」
商人「ぐぬう……」
商人「あまり遊んでいるわけにもいきませんね」
商人「今日のところは退かせていただきます」
商人「次こそはこの国を乗っ取ろうなどと甘いことは考えずに、本気で瓦解へと追い込むことにしましょう」
商人「それでは、貴族出身の大層お上品なお嬢さん」サッ
商人「発動せよ、転移魔法陣!」ヴン
商人が合図すると、再び部屋中に魔法陣が浮かび上がった。
今度のものは先ほどの魔法陣よりもかなり複雑に描かれている。
ゴゴゴゴゴゴ
697: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:10:09.37 ID:kw2nlEwz0
商人「さあ、早くここから逃げたほうがいいですよ!」
商人「何せこの魔法陣は繊細なもの。中心以外にある物体がどこに転移するかは私にもわかりません!」
商人「中心には間に合わないでしょうが、まだ部屋の入り口なら間に合うのではないですか?」
商人「まあ、貴方の運動神経では保証しかねますがね!ハハハハハ!」
魔法使い「いちいち高笑いしなくても分かってるわよ!」タタタッ
魔法使いは部屋の入り口に向かって全力疾走した。
魔法使い(確かに、入り口までは間に合いそうね……)
魔法使い(彼を生かしておくのも危険だけど、ここは諦めることに……!?)ガッ
ドテッ
魔法使い「あいたたた……やっぱりこのローブの丈は短くしておくべきだった……」
魔法使い「!」
商人「ハハハ!転んでいる暇なんてありませんよ!?」
商人「さあ、あと5秒です!」
魔法使い「くっ!」ダダダダダッ
魔法使い(ギリギリ間に合うかしら……?)
698: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:10:57.18 ID:kw2nlEwz0
ゴゴゴゴゴ
ついに魔法陣が作動し始めた。
商人「ハハハハハハ……」
魔法使い「えいっ!」ダッ
ズザザザッ
魔法使いは部屋の入り口に差し掛かったところで廊下へと飛び込んだ。
シュバッ
そして、そのすぐ後に、商人は忽然と消え去ってしまった。
魔法使い「間に合った……!?」ズキッ
魔法使い「うぐぁっ……まさか……」
魔法使いは、突然襲ってきた激痛に顔をゆがめた。恐る恐る足の方を見やると、右足の踝から下が消え去っていた。
魔法使い「あ……ぐぅぅ……」ドクドク
魔法使い「ま、間に合わなかったようね……回復魔法」ポウッ
699: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/06(金) 23:11:28.12 ID:kw2nlEwz0
魔法使いはあくまで冷静に処理をこなした。回復魔法で傷は塞がったものの、もはや歩ける状態では無くなってしまった。
魔法使い「はぁ……はぁ……再生魔法はまだ研究段階……まあ、いい実験体ができたということにでもしておきましょうか」
魔法使い「でも、もう戦闘に出るのは無理、かな」
魔法使い「……私の意思は次の世代へってとこかしら」
魔法使い「それにしても、ズッコケたところが転移魔法陣の出力座標指定部位だったなんて」
魔法使い「彼も不運なものね」
魔法使い「今頃は、空中浮遊でも楽しんでくれている頃かしら」
魔法使い「……悪く思わないでほしいわね。これも、あくまで平和のためよ……」
703: ◆9GmoiQGLItwN 2015/03/25(水) 00:41:00.60 ID:M5FnGCQ60
―――少し後 幸の国王城 玉座―――
宰相「国王様!大変です!」
ドタバタ
玉座に、青い顔をした宰相がまた駆けてきた。
幸の国王「なんだ宰相。やけに城内が騒がしいが、どうかしたのか?」
宰相「それが……あの商人が空から降ってきたのです!」
幸の国王「何?」
宰相「そのままの意味でございます。恐らく、しくじったのかと」
幸の国王「なぜ分かる」
宰相「先ほどラジオ放送にて一時中断した独立宣言式ですが、再開した模様です」
宰相「さらに、落下地点周辺にいた多くの者が、彼の叫びを聞いていたことから、生きたまま上空に転移したようです。もちろん、彼は即死でした」
704: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:41:43.02 ID:M5FnGCQ60
宰相「極め付けに、商人のものではない踝より下のみの足が一緒に落ちていたということです」
幸の国王「チッ。役立たずめが!」
幸の国王「まあよい。奴もいずれは消すつもりだったのだ。手間が省けたというものだ」
幸の国王「だが勇者を消し損ねるとは……余の目が甘かったとでもいうのか」
幸の国王「やはりまだ本来の力が……」ボソ
宰相「?」
幸の国王「いや、何でもない」
幸の国王「こうなればそろそろ本格的に動くことにしよう」
幸の国王「あの理事長とかいう青二才め。よくも計画を狂わせよって」
幸の国王「宰相。準備はできておるな?」
宰相「はっ。ひと月ほどで実行に移せるかと」
幸の国王「よし。頼んだぞ」
宰相「御意」
705: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:42:25.42 ID:M5FnGCQ60
―――その夜 新生勇者の国 首都 行政府宴会場―――
ワイワイガヤガヤ
独立宣言式当日の夜、行政府では、魔術の国や奇術の国からも来賓を招いたパーティーが行われた。
団長「まったく。一時はどうなることかと思ったのじゃ!」
戦士「そうだそうだ!結局俺たちも間に合わなかったじゃねえか!」
副団長「団長に何かあったらどう責任を取るつもりだったのさ!」
勇者「まあまあ、結局は一件落着したんだから、それで無罪放免ということで……」
勇者「それに、今回は本当にギリギリの戦いだった。少しでも隙を見せたら被害はさらに大きくなっていたんだ」
勇者「魔法使いについては悪いと思っているけど、まあそれだけで済んでよかったと思っているよ」
魔法使い「それだけだなんて、ひどい言いぐさね」
魔法使いが車椅子で現れた。
706: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:42:54.31 ID:M5FnGCQ60
魔法使い「優秀な魔法戦士を失ったくせに随分と余裕そうじゃない?」
助手「せめて私をお付きにしてくださればこうはならなかったじゃないですか〜」
助手「そんなに勇者様を責めないで下さいよ師匠」
魔法使い「貴方は自分の仕事があったでしょ?それに彼とはちょっとした因縁があってね、そんなことに他人を巻き込むわけにはいかなかったのよ」
助手「まあそうかもしれないですけど……」
戦士「ったく。商人も足じゃなくて口を狙えばよかったのにな」
魔法使い「まあ、自分ができないからって人にやってもらおうなんて、弱い人間がすることじゃないかしら?」
戦士「ぐぬぬ……」
副団長「さ、流石魔法使い様……!」
勇者「魔法使いの副団長内ランクがどんどん上昇していくね」ケラケラ
団長「まあ、獣は自分より強いものには忠誠を誓うというものじゃしのう」
707: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:43:29.51 ID:M5FnGCQ60
団長「しかし猫はどうじゃったかな……」
副団長「でもボクの本当の主人は団長ただ一人ですよ!」
団長「ま、儂には遠く及ばんがな」フン
魔王「あ、ここにいたのね勇者娘」
そこに、魔王が現れた。
団長「なんじゃ魔王か。どうじゃ、部屋の整理は終わったか?」
魔王「まあ大体ね」
勇者「いきなり自分用の部屋がほしいなんて、随分大胆な要求じゃないかい?」
魔王「そんなこともないわよ。本当はこの国にもう一つ城でも欲しかったんだけれど、よさそうなところが無いみたいだったし」
魔王「当分はここを別荘代わりとしてでも使わせてもらうわ」
勇者「そんなにここの居心地を気に入ってくれたのかい?」
魔王「な、そんなんじゃないわよ!あくまで視察のためよ!」
団長「なんで赤くなってるんじゃ……」
団長「そうじゃ、あの件はどうじゃったかのう?」
708: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:44:04.53 ID:M5FnGCQ60
魔王「ああ、結構難航したけど、禁書の中にいくつか資料を見つけたわ。後で話すわね」
団長「すまんな……」
勇者「さて、そろそろ乾杯と行こうかな」
勇者「役者も全員揃っただろう?」
団長「いや、ちょっと待ってほしいのじゃ」
団長「奇術の国からの来賓の姿がまだ見えておらん」
団長「どうも国内の情勢がまだ不安定で式には来られんかったそうじゃが、この祝宴には出席するといっておったのじゃ」
勇者「なんだ、そうだったのか」
勇者「誰が来るんだい?」
団長「恐らく外務理事じゃろう。彼は生き残ったと聞いておるしな」
スタスタ
?「お久しぶりです勇者様」
勇者「!」
魔法使い「!」
戦士「お前は!!」
709: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:44:34.13 ID:M5FnGCQ60
僧侶「お元気そうで何よりです」ニコッ
勇者「僧侶!?……とあの時の」
大佐「御無事そうで」ペコリ
魔法使い「まさか貴方が直接出向くなんてね」
副団長(これがあの僧侶か……)
僧侶は、奇術の国の正装を纏い(言わば男物のスーツ)、大佐を引き連れて現れた。
僧侶「ええ。少し我がままを通させてもらいました」
僧侶「久しぶりに皆さんの顔が見たくなりましたしね」
戦士「なんか雰囲気が変わってねえか?」
勇者「確かに、以前はもっと若々しかったような……」
僧侶「人というものは時間を経て変わっていくものです」
僧侶「私だってその流れから抜け出せるわけではありませんよ」
大佐「僧侶さん」
710: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:45:00.24 ID:M5FnGCQ60
僧侶「……そうでしたね」
僧侶「今日ここに来たのは他でもありません。あることを伝えに来たのです」
僧侶「奇術の国は勇者の国の独立を正式に認めます」
勇者「なんだって!?」
団長「と、唐突じゃな」
僧侶「すみません……こちらでも大分揉めまして」
僧侶「しかし条件があります」
僧侶「魔術の国との同盟を破棄して、奇術の国と新たに同盟を結んでほしいのです」
助手「そんな!」
魔法使い「まあ、そうなるわよね」
助手「師匠!」
勇者「うーむ。その回答はすぐには出しかねるな」
勇者「確かに、魔術連合の情勢はかなり不安定だ。場合によってはそのことも検討しようとは思っていたところさ」
魔法使い「私もそれをお勧めするわね」
助手「な、なんでですか師匠!」
魔法使い「ちょっと静かになさい」
711: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:45:36.46 ID:M5FnGCQ60
僧侶「流石は勇者様です! そこまで考えが及んでいらっしゃるなら話が早いですね」
僧侶「まあ、詳しい話は後々させていただきますね」
勇者「よろしく頼むよ。それじゃあ今日は祝宴を楽しんでくれ!」
僧侶「ええ。そうさせてもらいます!」キラキラ
戦士「やっぱり雰囲気が変わっても僧侶は僧侶だったな……」
魔法使い「ま、彼女にも事情というものはあるものよ戦士」
魔王「これがお父様の策略を凌駕した勇者パーティーなのね……」
勇者『それでは皆さん、本日は独立記念の式及び祝宴に参加していただきありがとうございます!』
勇者『それでは勇者の国の建国を祝って』
魔法使い「建国を祝って」
戦士「建国を祝って!」
僧侶「建国を祝って」
団長「建国を祝って」
副団長「建国を祝って!!」
魔王「ふん……祝ってやるわよ」
隊長C「建国を祝って」
助手「建国を祝って」
大佐「建国を祝いまして」
カンパーイ!!
ワイワイガヤガヤ
――――――
―――――
―――
712: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:46:18.19 ID:M5FnGCQ60
―――そのころ 幸の国 王城 バルコニー―――
幸の国王「今頃奴らも祝宴に酔いし頃か」
幸の国王「謀略とはやはり一筋縄では達成できぬある種の芸術……」
幸の国王「元の体を失った余にその資格はないとでも言うのか……?」
宰相「国王陛下。よろしいでしょうか」
幸の国王「なんじゃ宰相。そこにおったのか」
宰相「失礼を承知で参上いたしました。一つだけお聞き申し上げたいことがありまして……」
幸の国王「何だ」
宰相「いえ、非常に馬鹿馬鹿しいことではあるのですが……」
宰相「国王陛下は、本当に陛下自身であらせらるるのありましょうか」
宰相「失礼ながら、以前の温厚な国王陛下とは随分とお変わりになってしまったと思い申し上げまして」
宰相「何かお悩みでもございますなら私に何なりとお申し付けいただければ幸いかと……」
幸の国王「なんだそんなことか」
幸の国王「……フフ。お前は観察眼の鋭い奴だな」
宰相「はは、何とぞ御恐縮なお言葉を……」
713: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:47:52.31 ID:M5FnGCQ60
幸の国王「だが、そんなことを城内の者に耳打ちされても困る」
幸の国王「もう少し役立ってもらいたかったが……まあよいだろう」
宰相「へ?」
幸の国王「やれ」
?「はっ!」
ザシュッ
幸の国王が合図すると、暗闇から何者かが飛び出し、宰相が悲鳴を上げる間もなく切り捨ててしまった。
宰相「がはっ……馬鹿……な……」ガクッ
幸の国王「準備はできておるか?側近」
側近「はっ。すべては手筈通りに」
幸の国王「うむ。しばらくは宰相に化けて行動せよ」
幸の国王「大分予定は狂ったが……まあよい。想定の範囲内だ」
幸の国王「あの小娘め、勝手なことを好きにやりおる」
側近「恐れながら、それもお父上である『先代魔王』様。貴方に似なさったものであると」
幸の国王(先代魔王)「フフ……お前も言うようになったな」
側近「ははっ。これはとんだお耳汚しを」
幸の国王(先代魔王)「娘といえど容赦はせぬ」
幸の国王(先代魔王)「卿もそれを忘れるなよ」
側近「ははっ。我が忠誠は先代魔王様、貴方様ただお一人に」
国王の『知恵のペンダント』が、赤黒く淡い光を放っていた。
714: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:48:36.36 ID:M5FnGCQ60
建国編 END
ということで、次回更新は少し遅めになるかもです。
715: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 00:56:59.25 ID:M2XwjJgYO
おつかれさま!
716: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 01:49:17.65 ID:OofE8aXeo
ふむふむ、面白い。
勇者「停戦協定?」【後編】へつづく
・SS速報VIPに投稿されたスレッドの紹介でした
【SS速報VIP】勇者「停戦協定?」
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