シンジ「…カヲル君、カミソリ没収ね」
- 2015年09月17日 23:40
- SS、新世紀エヴァンゲリオン
- 1 コメント
- Tweet
カヲル「……どうして」
シンジ「…もってたらまた手首、切るじゃないか」
カヲル「……」
シンジ「しかも、こんな歯こぼれして錆びたカミソリで…また膿むよ?」
カヲル「……うん。いいよ」
シンジ「…とにかく、これは没収だから」
カヲル「…うん」
シンジ「これ、捨ててくるね」
シンジ(カヲル君は絶対に僕の言葉を否定しないから、素直にしたがってくれる)
シンジ(…でも、また隠れてやっちゃうんだろうな。消毒液、補充しとかないと)
………
カヲル「は…ぁ…」ガタガタ
カヲル(あと一回だけ、あと一回だけ切ったらもう止めよう。このハサミも、すぐに片付けるから…)
カヲル「……」
すっ
ぽたっ
カヲル「…ぅ…」 ビクッ
カヲル(…駄目だ、全然足りない…)
ぐりぐりっ
カヲル「ぁ゙…っ!ぐっ、ふぅぅっ…!」ビクン
ごりごり
ぶちぶち
カヲル「い゙っ、ぎ…ぁ、!」ギリギリ
カヲル(傷口が熱い、身体が熱い、脳が…熱い)
カヲル(痛い、痛い痛い痛い)
カヲル(僕、今……こんなに必死に、生きてるんだ…)
シンジ「…カヲル君?」
カヲル「っ…!?し、シンジ君…!?」ハッ
カヲル「み、見ないで!!違うんだ、これは…違う!僕は、僕は…!!」
シンジ「落ち着いてカヲル君!…起こったりしないから、…ね?」
カヲル「…ぅっ、シンジ、君……」
シンジ「カヲル君……」
シンジ「大丈夫だよ、カヲル君…ほら、見せて」
カヲル「シンジ君…ごめん、ごめん…なさい…」ボロボロ
すっ
シンジ「…また派手にやったね。こんなに抉れて…骨まで見えてる」
カヲル「……ごめん」
シンジ「…謝らないで。僕が勝手に、君に構ってるだけなんだから」
カヲル「……」
カヲル「本当にありがとう、シンジ君…でももういいよ」スッ
カヲル「治療なんてしてもしなくても…すぐに治ってしまうんだから」
シンジ「……」
シンジ(カヲル君は傷の治りが異様に早い。それは本来、いいことなんだろうけど)
シンジ(でもそれは結果として、彼の自傷を加速させてる。もっと傷が残れば、もう少しは自傷のペースが落ちるんだろうけれど……)
シンジ「…カヲル君、今日は何があったの?」
カヲル「……」
カヲル「…子猫がね、死んでたんだよ」
シンジ「うん」
カヲル「可哀想に、痩せ干そって…餓死したみたいだったんだ…」
カヲル「…それで、ね」
シンジ「…うん」
カヲル「……その、子猫…が…」プルプル
カヲル「……ッ!」
シンジ「…もういいよ、カヲル君。ごめんね、嫌なこと聞いたよね」
カヲル「……ごめん、シンジ君…ごめん…」
……………
カヲル「……」
シンジ「…こんなところにいたの、カヲル君」
カヲル「……」チラッ
シンジ「何してるの?」
カヲル「…星をみてるんだよ」
シンジ「…そっか」
シンジ「…僕も見よっかな」
カヲル「……不思議だよ、シンジ君」
シンジ「?」
カヲル「…こうして二人で、星を見上げたことがあった気がしないかい?」
シンジ「あったかな?」
カヲル「……それはずっとずっと、昔の…いや、未来…ううん」
カヲル「……きっと、僕の思い違いだね。忘れてくれ」
シンジ「カヲル君…?」
カヲル「シンジ君、知ってるかい」
シンジ「…?」
カヲル「…今見えてる星はね、何万年も…何億年も昔の姿なんだよ」
シンジ「距離の関係で、だっけ」
カヲル「そう。…僕達が今見てる光は、気が遠くなるほど太古に爆ぜた…星の断末魔かもしれない」
シンジ「……」
カヲル「もしかしたら、僕ももう、とっくに」
シンジ「…止めてよ、そんなの」
カヲル「……ごめん」
シンジ「カヲル、君…星見るのって楽しい?」チラッ
カヲル「……」ジッ
カヲル「…どうだろうね」
シンジ「……」
シンジ(この、寝たまま肘を立ててるカヲル君…どこかで)
カヲル「…僕は、何のために生まれてきたんだろうね」
シンジ「……」
シンジ「…そろそろ帰ろう。風邪引くよ」
カヲル「うん、分かった」
シンジ「…カヲル君、今何か持ってる?」
カヲル「……、」
シンジ「…僕に渡して」
カヲル「…………うん」
カヲル「……はい」
シンジ(…今度はカッターか。そうとう刃が減ってる)
シンジ(でもこれで、とりあえず家に帰るまでは大丈夫だ)
シンジ「…ありがとう。ほら帰ろ、カヲル君」
カヲル「…どこに」
シンジ「…?…君の家に決まってるでしょ?」
カヲル「…そうだね」
シンジ「さ、立って」
カヲル「うん」
すたすた
カヲル「ここまでで、いいよ」
シンジ「で…でも」
カヲル「…一人でも大丈夫だよ。もう何も持ってないから」
シンジ「……そういうことじゃ…」
カヲル「…シンジ君は優しいね。真っ白な真綿のように繊細で汚れやすくて…そして優しい」
カヲル「……でもね、どんなに柔らかい真綿でも、傷口に当てれば痛いんだよ」
シンジ「…カヲル君?」
カヲル「…シンジ君のことは好きだよ。でも、僕達は一緒にいるべきじゃないと思うんだ」
カヲル「…僕といると、君はきっと不幸になるよ。シンジ君は幸せになるべきだ」
シンジ「……それは、僕が決めることだろ」
カヲル「ごめん…」
シンジ「謝らないでってば」
カヲル「……」
シンジ「…ごめん。……また明日」
カヲル「…うん、また明日」
…………
タタタッ
シンジ(カヲル君…今日は学校にも来なかった)
シンジ(心配だ。とりあえずカヲル君の家に行ってみよう)ハァハァ
シンジ(…学校の鞄に救急セットつめてるから…重いな)ハァハァ
シンジ「…着いた。カヲル君、カヲル君?いるの?」ガチャガチャ
シンジ「……またドアが開いてる…」
シンジ「…あがるよ」
タタタッ
シンジ「カヲル君、いるよね…カヲル君……!」ハァハァ
カヲル「……ふっ、ぐぅ…ぅ…」
シンジ「カヲル君の声だ!あっちの…寝室?」
シンジ(……泣いてる?)
シンジ「…なんだ、この匂い…」ピクッ
シンジ(…鉄臭い)
シンジ「いた…カヲル君!…っ!?」ビクッ
シンジ(…酷い、ベットが一面血塗れだ)
カヲル「ふうっ、うぅ…ぐっ…シンジ君……」
シンジ「カヲル君、大丈夫!?」バッ
カヲル「……こっちに、来ないでよ…見ないでよ…お願いだから」
シンジ「カヲル君…」
シンジ「…カヲル君、こっち向いてよ。顔も、傷も……そうやって隠さなくたってもいいんだ」
カヲル「……嫌だ」フルフル
シンジ「……」
シンジ(カヲル君にはっきり拒否されるなんて、初めてだ)
シンジ「…カヲル君、ごめん」
カヲル「ッ!?」
ガバッ
カヲル「何するんだ、シンジ君…離して、離してよ!!」バタバタ
シンジ「…うぅっ、」
シンジ(……何だこれ、本当に酷い…)
シンジ(左胸の皮膚と筋肉が掘り返したみたいになくなってる…
露出してる肋骨も、欠けて……こっちなんか、完全に折って放り出してる)
カヲル「…あ、はは…見られちゃったね…参ったなぁ……はは」
カヲル「……おかしいよね、これだけやったのに生きてるんだよ。平気なんだよ」
シンジ「……」
シンジ「…!」ハッ
シンジ(き、救急車!何を呆然としてるんだ、早く呼ばないと…!)バッ
ガシッ
カヲル「待ちなよ、シンジ君」
シンジ「は、離してよカヲル君!このままだと死んじゃうんだよ!?」
カヲル「…それが何か、いけないことかい?」
シンジ「……!!」
カヲル「どうして、…生きなければならないんだ」
シンジ「…もう、カヲル君は…僕の言うこと聞いてはくれないんだね」
カヲル「…!」ハッ
シンジ「…いつも僕、言ってたよね…死なないでって」
カヲル「……違う、違うんだよ、シンジ君…僕は…」スッ
シンジ「離してくれたね、ありがとう……ごめんね、僕のわがままに付き合わせて」
シンジ(…僕がこうやってひき止めなければきっと、カヲル君は一思