先代勇者「あの時のツケがやってきたか…」
よくある話だが、この剣と魔法の世界に魔王が現れた。
そして、これまたよくある話だが、王様は魔王の元に勇者を送ることになったのである。
王「期待しているぞい、現勇者よ」
現勇者「は、はい王様…か、必ずや魔王を討ちとって…」ガチガチ
王「ほっほ、そんなに怖がる必要はない。のう、先代よ」
先代「はい、現勇者は我が指南所いちの剣の使い手です」
王「先代の勇者がこう言っておるのだ、お主は太鼓判を押されたも同然じゃ」
現勇者「は、はい! 先生…俺、先生の顔に泥を塗らないよう頑張ります!」
先代「…あぁ」
>町の入口前
「頑張れよー現勇者!」「帰ってきたらチューしてあげるーっ」「現勇者、ばんざーい!」
先代「…」
先代(生きて帰ってこい)
彼の名は先代。20数年前に先代魔王と戦い、平和を勝ち取った英雄である。
帰還後は指南所を開き、次世代の戦士を育ててきたが…。
町民A「あっ先代勇者様!」
先代(目立たぬようにしていたが、気付かれてしまったか…)フゥ
町民B「先代勇者様、現勇者に同行しないのですか?」
町民C「貴方から太鼓判を押されたとはいえ…やはり若者に頼るのは不安があります」
先代「俺ももう50近いんだ、若い奴の方が元気がある。それに、家族もいるしな…」
町民A「あぁ、3人のお子さんがいらっしゃるんでしたね」
町民B「お子さん、おいくつでしたっけ?」
先代「上から16、10、8で…」
先代(あぁ人に囲まれるのは疲れる)
・
・
・
町民A「流石、先代勇者様です! それで~…」
先代「…悪いが、そろそろ帰らんと」
町民B「はっ、つい時間を忘れて」
町民C「ではご機嫌よう先代勇者様、またお話を聞かせて下さい!」
先代「あぁ」
先代(色々聞かれて、長引いてしまった…)
生真面目な性格のせいか、話を適当に切り上げることもできなかった。
帰り道を急ぐ。従順な性格の妻は、帰りが多少遅れた所でにこやかに待っていてくれるだろうが、待たせるのは気分が良くない。
急がねば――余裕が無くなっていたせいか、今すれ違った人間にも気を留めなかった。
「大人気ですねェ――英雄様」
先代「――」
背後から声をかけられて、立ち止まる。
振り返り、嫌な予感は的中した。
先代「お前は…!!」
黒「久しぶりィ~…グゲゲゲゲ」
全身真っ黒のその男は、先代と目が合うと不気味に笑った。
>食卓
先代「…」
黒『また来るぜェ♪』
先代(あの後、あいつはすぐ去っていったが…)
長女「こらっ、ちゃんと野菜も食べなさい」
長男「はーい」
先代(あいつ――何故、今になって俺の前に姿を現した?)
次女「お父さん? なんか、ぼーっとしてるよ?」
先代「あ、いや…」
妻「今日はお父さんの生徒さんが旅に出たのよ。心配しているのよね、あなた」
先代「あ、あぁ…そんな所だ」
長男「その人も父さんみたいな英雄になるのかなー!」
長女「無事でいてくれるといいわね、父さん」
先代「そうだな」
先代(現勇者に危険が及ばんといいが…明日、招集をかけよう)
>翌日、茶飲み処
先代は、かつて共に旅した仲間たちを呼び出していた。
自警団長「どうした、何かあったかい」
元賢者。女性ながら男勝りな性格で、現在は自警団の団長を務めている。
社長「ひょっとして、ビジネスの話ですかい」
元盗賊。金に関してはシビアで、現在は全国チェーンの万事屋の経営者。
隠居「勿体ぶらずに話せ。時間が惜しい」
元武闘家。現在は隠居し近所の嫌われ者。バツ2。
先代「話というのは、魔王の件だ」
自警団長「あぁ、新しい魔王が現れたんだってな。お陰でこっちも大忙しだよ」
社長「こっちもっすよ。ま、この機会に稼がせて貰いますよ」
隠居「旅立ったのはお前の所の教え子だそうだな、まだ若造という話だが」
先代「そうなのだが…少し、気がかりがあってな」
自警団長「…気がかりってのは?」
先代「詳しくは言えん」
自警団長「そうかい」
かつての仲間達は追及をしなかった。
先代「お前達に頼みたいことがある」
社長「報酬次第っすよ」
隠居「仕方あるまい、力を貸してやろうではないか」
先代「自警団長。自警団で勇者へのサポートをしつつ、奴の行動を報告してくれないか」
自警団長「あぁ、いいよ」
隠居「最近の若造は、サポートでもしてやらんと頼りないからな」
先代「社長。現魔王の身辺調査を行ってくれるか」
社長「へいへい。盗賊時代の仲間に依頼してみます」
隠居「最近の若造は、自分の足で調べるということを知らんからな」
先代「隠居」
隠居「あぁ何だ、何でも言ってみろ」
先代「お前は何もするな」
隠居「何で呼んだ」
先代「お前だけ呼ばないと、すねるだろう」
社長「同感っす~」ハハハ
自警団長「流石の老害っぷりだ」
隠居「泣くぞ」
先代「では、俺はこれで」
自警団長「…何か隠しているねェ、あいつ」
社長「今更じゃないっすか~?」
隠居「それは、あの時からじゃないか」
>20数年前、魔王城
勇者(先代)『ようやくたどり着いたぞ…! あとは魔王を討ち取るのみ!!』
『そうはいかん』
勇者(先代)『!?』
幹部A『道中はるばるご苦労だったなぁ勇者よ』
幹部B『しかしお前を通すわけにはいかないのでな』
幹部C『我ら〝紅の三幹部”が貴様の相手をしよう』
勇者(先代)『くっ、こんな所で足止めを喰らっている暇はないのに…!』
盗賊(社長)『そいじゃ勇者さん、魔王ん所まで突っ切って下さいや』
勇者(先代)『何っ』
賢者(自警団長)『本当は魔王と戦いたかったが、私らはこいつらで我慢してやるよ』
武闘家(隠居)『さぁかかってこい、三幹部とやら…!』
勇者(先代)『…っ、すまん!』ダッ
自警団長「それから数時間して、奴は1人で戻ってきた。だが…」
勇者(先代)『討ち取ってきたぞ…魔王を』
社長「あん時の先代さんの面、な~んか怪しい匂いがプンプンしましたねェ」
隠居「余程、卑怯な手でも使ったのか、それとも…」
自警団長「…ま、どうでもいいわな。実際、世界は平和になったんだし」
社長「やましいことがあるのかもしれねぇけど、それを隠して英雄でいてくれる方が世界にとっちゃ都合がいい」
自警団長「元仲間つっても、魔王討伐という共通目的を掲げたビジネスの仲だ。いらんことに首を突っ込む道理はないね」
隠居「同意だ。それぞれ上手くやっている今、多少のことは見て見ぬフリするのが良いだろう」
社長(アンタは上手くやってねーだろ)
自警団長「つっても、万が一あいつの手に負えない問題に膨らんだら困るんだけどねェ…」
先代(何か不審に思われただろうか…まぁ「大人の対応」を心得ている連中だ、気にするまい)
先代(それより、あの男が俺の手に負えない問題を起こさないか…)
先代(とにかく自警団長と社長頼りだ。それまでは焦るな…)
先代「ただいま」ガチャ
黒「お帰り~♪」
先代「」
長女「あ、お父さん。こちら、お父さんにお客さん」
長男「おじちゃーん、もっとお話聞かせてくれよ~」
次女「おじさんのお話、とっても面白~い」
黒「おうおう、いいぜェ! じゃあ次は邪神の鼻歌が大陸を滅ぼした話でも…」
先代「おい」グイ
黒「アイタタタ、耳つかまんでくれ~」
先代「…来い!!」ギュウウゥゥゥ
黒「あだだだだ~!!!」
長男「どうしたんだろ、父さん」
長女「親しいご友人かしら?」
>町外れ
先代「お前なあああぁぁ!!!」
黒「グゲゲゲ、怒らないでぇ~」
先代「お前、俺の子供達に何もしていないだろうな…?」
黒「可愛い子供らじゃな~い。ちょっと一緒に遊んだだけだよ、そう目くじらたてんな!」グゲゲ
先代「不穏な動きをするようなら、牢獄に縛り付けてやってもいいんだぞ」
黒「睨むなよォ」
黒い男は口元に笑みを浮かべていたが、目をギラつかせ、強引に先代の肩に手を回した。
黒「知られたくないだろォ…テメーが倒したはずのオレが、実は生きてたってよォ」
先代「……っ!!」
>20数年前、魔王戦
魔王(黒)『グギャッ…こ、この野郎……ッ!』
勇者(先代)『遂に追い詰めたぞ、魔王…!!』
1対1の戦いを制したのは先代だった。
魔王は今、正にその命に終止符を打たれようとしている。
魔王(黒)『グッ…』
勇者(先代)『魔王たる者が、まさかこの後に及んで命乞いなどという見苦しい真似はするまい?』
魔王(黒)『とっとと殺りな…魔王らしい最期で頼むぜ……』
勇者(先代)『…あぁ』チャキ
魔王(黒)『…と言うとでも思ったかァ♪』ニッ
勇者(先代)『!?』
先代が一瞬油断していた隙を付き、魔王は手をかざす。
しまった――そう思った時には遅かった。
魔王(黒)『邪神よ我に力を!! こいつに、ありったけの呪いをおおぉぉ!!』
カッ―――
勇者(先代)『…っ?』
何か攻撃を仕掛けられたと思った。
だが、自分の体にこれといった変化は見られない。
魔王(黒)『グゲゲ…やったぜ……!!』
勇者(先代)『お前…俺に何をした? まぁいい…今度は油断せずにお前を』
魔王(黒)『いいのか? テメーにかけた呪いの効果を知らねーままで…』グゲゲ
勇者(先代)『なら答えろ。俺に何の呪いをかけた』
魔王(黒)『道連れ』
勇者(先代)『っ!?』
魔王(黒)『オレが死ねば、呪いをかけた相手も道連れに殺せる呪いだよ!! オレを殺して英雄様~って呼ばれたかったぁ~? グギャギャギャ、ざ~んね~んで~した! グギャギャギャギャ!』
黒「あん時のテメーの面、思い出しただけで傑作だぜ…」グゲゲ
先代「……」
黒「つってもテメーも甘くはなかった。秘技だか何だか知らねぇが、オレは魔力を封じられて弱体化させられた」
黒「そんな恥ずかしい状態で魔王城に居続けるわけにもいかず、オレは死んだことにしてひっそり生きてきた
コメント一覧
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- 2015年09月18日 21:22
- 微妙
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- 2015年09月18日 21:44
- わりと嫌いじゃない
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- 2015年09月18日 22:19
- ガンダムの種運命じゃないけど
先代を生かすにはやはり現代のキャラをころすって方向になるな
上手い事どちらも立てられれば良いけど難しいね
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- 2015年09月18日 22:31
- 嫌いじゃないけど現魔王だけ死んでるのは可哀想だなぁ。
というか魔王は年取るのか。何時までも若いのかと思ってた。
-
- 2015年09月18日 22:53
- 面白かった
-
- 2015年09月18日 23:39
- 何気に現勇者1人で魔王城までこれる強さ
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