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オオカミは社会性の高い動物である。オオカミはオスとメスのペアを中心とした平均8〜15頭ほどの社会的な群れを形成し、群れはそれぞれ縄張りを持つ。この群れは「パック」と呼ばれている。
だが仲間とうまくコミュニケーションがとれなかったり、群れのリーダーを決める争いに敗れ、単独で活動しているオオカミもいる。いわゆる「一匹狼」というやつだ。オオカミの群れ社会は、人間社会にとても良く似た部分もある。現代の人間社会における歪を解決する糸口が隠されているかもしれない。
オオカミに関する事実を知れば知るほど、ニホンオオカミが絶滅してしまったことが悔やまれてならない。
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オオカミ社会は序列制
ウルフパック(オオカミの群れ)には順位制がある。通常は繁殖ペアが最上位であるが、順位交代もする。最上位から順にアルファ、ベータ、オメガと呼ぶ。順位は常に儀式的に確認しあい維持されている。
アルファ(最上位の個体)のペアはパックの中で最大の社会的自由を有するが、人間的な意味における「リーダー」ではない。アルファが他の狼を指示することはないからだ。単純に行き先、行動、そのタイミングを選ぶ自由があるだけだ。残りの狼は普通これに従う。アルファに従属する狼の最下位がオメガだ。狼というよりも子供のようなものだ。
大きなパックでは、アルファに次ぐベータが存在することもある。また1匹がオメガの役割を引き受ける。こうした個体はパックのメンバーから様々な侵害を受け、個体の権利を享受することはほとんど無い。
以下の動画は飼育下のオオカミではあるが、群れの最下位であるオメガが、群れからいじめを受けているものだ。
Wolfpack attack on omega wolf!
大抵のアルファペアは一雄一雌であるが、例外もある。アルファの中には下位のメンバーと交尾する個体もいる。これは特に他方のアルファが兄弟や姉妹であるなど、近縁である場合に起きる。
片方のアルファが死んでも、他方のアルファの地位には影響せず、このアルファはすぐに他の配偶者を見つける。通常子育てができるのはアルファペアだけだ(他の個体も交尾し出産することはあるが、子供を育てるための自由や食料が不足しているため、成体まで育てるのは困難である)。パックの狼全員が子育てを手伝う。大人になった狼は、特に雌の場合パックに残って子育てを助ける。一方、大抵の雄は群れから離れる。
オオカミの順位は体の強さよりも性格や態度で決まる
順位は、儀式的な戦いや威嚇を通して形成、維持される。狼は物理的な戦いよりも心理戦の方を好むのだ。つまり、順位の高さは、身体の大きさや肉体的な力強さよりも性格や態度によって決まりやすいということだ。順位の決め方はパックや個体によって大きく異なる。暢気な個体が多いパックや若い狼が多いパックでは、ほとんど常に順位が変動している。AはBを支配し、BはCを支配し、CはAを支配するといった具合に、循環することすらある。
順位の変動は時間をかけて起きることも、突然起きることもある。流血を避けるために、老いた個体が若い挑戦者に素直に譲り渡すこともある。挑戦を挑まれた個体が戦いで応じることもある。戦いの多くは相手を傷つけることのない儀式的なものだが、一度本格的な戦いになればお互いに怪我を負う可能性は高い。敗者は群れを追われるが、稀に他の攻撃的な狼が戦いに加わって殺されることもある。こうしたことは繁殖期である冬に起きることが多い。
狼にはテリトリーを守る習性があり、パックは一丸となってクマなどの大型動物に対抗する。グリズリーですら殺されることがあるが、ほとんどの場合は動物が逃げればそれ以上攻撃することはない。狼が出くわす可能性がある動物たちには以下のような種類がいる。
コヨーテ ー ほとんどは狼を避けようとするが、遭遇すると攻撃的になる。
グリズリー ー 子狼を食べるため、狼は巣穴に近づけないよう追い払う。
クーガー ー 自然界では珍しいが、一匹クーガーが狼のパックと戦うのは極めて不利だ。
狐 ー 狐は狼の獲物を盗む。一方で狼も狐の巣穴から盗んだり、稀に殺したりもする。ただし、北極圏の狼は日常的に発見した狐を殺している。
ワタリガラス ー 狼とワタリガラスの関係は、動物同士のものでは最も驚くべきものの一つだろう。死肉を漁るオオガラスは、おこぼれに与ろうと狼のパックを尾ける。そして、狼の側はオオガラスが旋回する場所は食料のサインであることを知っている。
犬 ー 狼は生理学的に犬と交尾することが可能だが、こうした交雑は通常飼育下でしか起きない。犬と狼が自然界で遭遇すれば、ほとんどが緊張をはらんだものになる。犬が狼のテリトリーを犯したような場合だ。
狼のコミュニケーション
●ボディランゲージ
狼は唸り声や遠吠えなどの音声以外にも、ボディランゲージも使用する。これは重心の軽い移動といった微妙なシグナルから、服従の合図として仰向けになって寝転がるなど分かりやすいシグナルまで様々だ。以下は、狼のボディランゲージの一例である。
優位 ー 優位な狼は足と尻尾に力を漲らせる。耳は前を向いてピンと立ち、首の周りの毛が軽く逆立つ。尻尾はしばしば垂直に保たれ、背中に向かって巻かれる。このディスプレイはその個体の順位をパック全体に向かって表示したものだ。優位な個体が下位の個体に対して、凝視、地面も抑えつける、肩の上に乗るといったことをするほか、後ろ足で立ち上がることもある。
服従(能動的) ー 能動的な服従のしぐさは、身体全体を低め、唇と耳を後ろに引くという行動だ。舌をさっと突き出したり、腰を低めることもある。尻尾は下げられたり、足の間に入れられたりする。マズルは優位個体に向けられる。背中が曲げられることもある。大きく曲げられる程、服従の度合いが強い。
服従(受動的) ー 受動的な服従のしぐさは、能動的なものより分かりやすい。仰向けになって転がり、弱点の喉と腹を見せる。手は身体まで引かれ、クンクン鳴くこともある。
怒り ー 耳を立て、被毛が逆立つ。唇がめくれ上がって歯をのぞかせたり、唸ったりすることもある。
恐怖 ー 目立たないように身体を縮める。耳は寝かされ、尻尾は足の間にしまい込まれる。クンクン鳴いたり、背中を丸めることもある。
威嚇 ー 唸りながら、被毛を逆立てる。身を屈め、攻撃に備えることもある。
疑念 ー 耳を後ろに引き、目を細める。危険を察知した狼の尻尾は地面と水平に伸ばされる。
リラックス ー 尻尾が垂れ下がり、スフィンクスのように伏せたり、横に寝そべったりする。尻尾を振ることもある。尻尾が垂れ下がる程、リラックスの度合いが高い。
喜び ー 犬と同じく、尻尾を振る。舌が口から垂れ下がることもある。
狩り ー 狼は緊張し、尻尾が水平にまっすぐ伸びる。
遊び ー 尻尾を上げて振る。はしゃいだり、腰を上げたまま前足を伏せることもある。人間に飼われている犬にも良く見られる行動だ。
●臭いによるコミュニケーション
狼は非常に優れた嗅覚を持っており、3km先の獲物の臭いを察知することもできる。この嗅覚はコミュニケーションにも利用される。例えば、狼のテリトリーは尿や糞でマーキングされ、外部の狼はこの臭いからテリトリーの存在を知ることができる。
●鳴き声によるコミュニケーション
狼が遠吠えする理由はいくつかある。一つには連絡が挙げられる。うっそうとした森林や遠くにいる仲間とも効果的にコミュニケーションを図ることができる。また、特定の場所にパックの仲間を呼ぶうえでも役に立つ。テリトリーの宣言である場合もある。これは獲物の肉など、パックが守らなければならないものがある場合には盛んに行われる。大雑把に言うと、大きなパックの方が自らに注意を引きつけようとする頻度が高い。弱いパックがお互いの遠吠えに対応する場合、弱いパックにとってのトラブルを意味することがある。したがって、狼は遠吠えの際に細心の注意を払う。
また、異なる集団間で社会的な絆や仲間意識を強めるために利用されることもあるようだ。こうした遠吠えにおいては、狼は様々な声色と音程を出す。こうすることで、これを耳にした個体がパックの数を正確に把握できないようにしている。ライバル関係にあるパックは相手の数が分からないため、行動を取る際には慎重にならざるをえない。
パックの観察から、遠吠えが良く行われるのは、夕暮れ時と、狼が狩りに出発する前や帰還した後であると判明している。また、繁殖期とその後の子育ての間にも遠吠えの頻度が上がるようだ。
子狼は7月の終わり頃から遠吠えをするようになり、それから2ヶ月は比較的安易に遠吠えのセッションに参加する。こうした無分別な遠吠えには伝達意図があり、若い狼に悪影響を及ぼさない。しかし、パックの仲間とライバルの遠吠えを区別できるようになると、無分別な遠吠えは次第に減っていく。
「アラスカのタナナの遥か向こう、我々の1、2マイル南で狼の群れが歌っている。そう、歌だ。遠吠えではない。声は三つ、いや四つだろう。震わせたり、音程を上げたり、お互いに続いたり、不可解なコーラスは彼らがいなくなるまで続く。遠吠えは凍った川に遠くこだまとなって沈んでは、また響いてくる。柔らかくぼんやりとした風が吹いている。空気が我々のところへ乗せながら、あるいは南方へ運び去りながら、音が盛り上がっては褪せてゆく。氷や風で固められた雪の数千年を越えて届いてきたのかもしれない。まるで最早存在しない光源から届いた星の光のように」
- 『星々、雪、炎』詩人ジョン・ヘインズ
via:wolfcountry・Translated hiroching- 『星々、雪、炎』詩人ジョン・ヘインズ
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コメント
1.
2. 匿名処理班
トリビアの泉だったか、一匹狼の遠吠えをバウリンガルしたらどうなるか、で
「オレはどうしたらいい?」
という結果が出ていて中々深い物を感じたのを思い出した。
3. 匿名処理班
動画可哀相だね。どんな気持ちでいじめるんだろう・・・
4. 匿名処理班
オメガの話で「かっこよく見える狼も所詮は畜生なんだな…」と残念になる
野生を美化したがる人もいるけどいろいろ知ると人間社会以上に理不尽で
「生」とか「命」って努力とか心がけとかじゃなくとことん「運試し」のような気がする
5. 匿名処理班
ウルフパックで脊髄反射的に武藤しか出て来なかった。
申し訳ないw
6. 匿名処理班
ニホンオオカミは本当に絶滅してしまったんでしょうか?
自分はまだいるんじゃないかなと思う・・・・
九州や長野や近畿地方では鹿が急激に
増加して環境破壊が大変らしい
狼が居ないかららしい
東北地方ではあまり聞かない
クマやタヌキだけ生き残り
オオカミだけ絶滅なんてあるのかな?
白神山地あたりに生きてる事を願う・・・
7. 匿名処理班
オメガの動画、こんなん泣くわ
8.
9.
10. 匿名処理班
※4
さかなクンも魚類に関して同じこと言ってたが
いじめが起きるのは閉じられた環境だからって持論がほぼ確信に変わったわ
野生環境だとこうなる前に群れから離れて一匹狼なるはず
11. 匿名処理班
日本でオオカミを復活させようとしてる愚かな集団があるけれど
はた迷惑この上ない
ああいう自分たちに都合の悪い現実から目を逸らして妄想や理想に逃げ
それを土台に事を成そうとする自分勝手で甘えた未熟を何とかすることが
今後の日本社会の課題だろうね
12. 匿名処理班
俺は農業をする人ですわ
農民から奪うオオカミの様な奴ら多い
13. 匿名処理班
魔法使いの弟子を思い出す
14. 匿名処理班
いじめっていうのは別に人間特有のものじゃないんだな。この前のカモメがアザラシの目玉をくりぬく記事もそうだけど残虐性を備えているのは別に人間だけじゃないんだね。
15. 匿名処理班
※10
水槽に入れられた魚達は一匹を虐めるって話か
確かにオメガの動画にもフェンスがあるし、これも閉じられた環境なんだろうね
16.
17. 匿名処理班
一匹狼として生きるのはかなりリスクが高くて、難しいみたいだよ
オオカミって野生的なんだけど、なんか人間くさくて大好きだ
18. 匿名処理班
全然関係無いんだが、「俺はやるぜ俺はやるぜ」を思い出しちまった。
19. 匿名処理班
オメガの狼しっぽが足の間に挟まって怯えきってるな
一匹狼になるのとどっちがマシなんだろう
20. 匿名処理班
集団で暮らしてると順位付けといじめって出てくるんだなあ
オタマジャクシ飼ってた時のこと思い出したわ
水槽で卵から孵化させると弱い個体が共食いの標的にされるんだよ