言峰「聖壺戦争」
言峰「諸君、はるばるご足労頂き感謝する」
凛「珍しいじゃない、綺礼。あなたが私にお願いをするなんて」
士郎「俺や桜まで呼んで…一体何の用だ?」
言峰「実は…聖堂教会も最近は資金繰りに苦しんでいてな。新たな資金源を確保する必要に迫られているのだ」
凛「随分生々しい話じゃない…。ま、平和な世界だからもう存在意義もないものね」
士郎「まさか俺たちに金を貸せとか言う訳じゃないだろうな」
言峰「教会もそこまで落ちぶれてはいない。しかし、かなり切迫した状況なのも事実だ。従来の発想にとらわれずに資金を調達する必要がある」
言峰「そこで私が目を付けたものの一つがオンラインゲームだ。正直に話してしまえば最初はただの上の連中をからかうための冗談に過ぎなかったのだがね」
言峰「実際に提案したところ何故か食いつきがよく…あれよあれよという間にプロジェクトが進んでしまった」
アーチャー「聖堂教会には暇人しかいないのか…?」
言峰「無論、ただのゲームではない。参加するためには魔力が必要となる。当然、参加できるのは魔術師のみということになる」
言峰「ハッカーと魔術師が協力し、ネットワーク上に結界を作り出し、固着させた。いわば、人工的な固有結界のようなものだな」
士郎「無駄にすごいことしてるな…」
言峰「参加者は、PCを通じて魔力を流すことで、その空間内に肉体ごと取り込まれる。ヘッドマウントディスプレイでも実現し得ないほどの臨場感が味わえる仕組みだ」
桜(某SA○のような感じでしょうか…?)
言峰「そこから試行錯誤の末、出来上がったのが…ネットの世界で聖杯戦争の疑似体験ができるオンラインゲーム『聖壺戦争』だ」
言峰「モチーフにしたのは、ネット上で最大の掲示板サイト『2ちゃんねる』――お前たちも名前くらいは聞いたことがあるだろう」
士郎「まぁ、名前くらいは…あんまりいい印象はないけどな」
言峰「その『2ちゃんねる』上で有名になった人物、逸話を元にサーヴァントを召喚し、競い合わせるのがこのゲームの趣旨だ」
士郎「なんか…ろくでもないような奴が召喚されそうだな」
ライダー「そして最後まで生き残ったものが勝者となる…と?そう聞くと聖杯戦争と変わりありませんね」
言峰「その通りだ。基本的なルールは聖杯戦争と変わらない。が、これはあくまでゲームだ。ゲーム内で死亡しても影響はない。ただゲームの外に排出されるだけだ」
言峰「お前たちへの依頼というのはそのテストプレイだ。サーヴァントが戦うことによって生じる鯖への負荷等を検証したい」
セイバー「本来サーヴァントである私達が、マスターの気分を味わえるというのは面白いかもしれないですね」
アーチャー「…それに我々が参加するメリットはあるのか?教会の事情などこちらとしてはどうでもよいのだがね」
言峰「勿論、タダでとは言わん。謝礼は出す。食い扶持が増えた分の生活費にでも当ててくれたまえ」
アーチャー「くっ…」
言峰「せっかくだ。本気で競い合ってもらうために…生き残った順位によって謝礼の額も変えようか」
凛「――いいわ、引き受けましょう、アーチャー。たかがゲームよ、気にすることないわ。すぐにクリアして、謝礼を貰っちゃえばいいのよ」
アーチャー「君のことだ。当然狙うのは優勝だろう?」
凛「あら、よくわかってるじゃない」
士郎「…謝礼が出るなら、俺も受けよう。これ以上バイト増やすのはキツイしな…」
セイバー「士郎が参加するのなら、当然私も参加します」
桜「あ、あの私も…参加します!」
ライダー「桜が参加するのなら私も参加しましょう」
言峰「決まりだな。私を含めて、ちょうど7人。今ここに、『聖壺戦争』の開始を宣言する」
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士郎「あれ?さっきまで教会にいたはずなのに」
そこは無人の荒野だった。
周りには7人以外の人影はなく、静寂に包まれていた
辺りを見回すと、遠くの方にうっすらと森や、山の影が見えた
凛「ここがさっき言ってた結界…?すごいわね。本当に架空の世界を創りだすなんて…」
アーチャー「…肉体の再現度も完璧だ。ただし、サーヴァントとしての力は失われているようだがな」
言峰「お前たちに直接戦われては本末転倒なのでな。当然、調整してある。最も一般の魔術師程度の魔術行使は可能だ」
セイバー「それで…どうやってサーヴァントを呼ぶのですか?」
言峰「そうだな、ここらでゲームシステムの説明をするとしよう。サーヴァントを呼び出すためには『触媒』と呼ばれるアイテムが必要となる」
ライダー「『触媒』…ですか。セイバーに対するアヴァロン、アーチャーに対するペンダントに相当するものですね」
言峰「サービス開始時には『触媒』の奪い合いも実装予定だが…今回は戦闘データ収集がメインのためそこは割愛する」
言峰「各々に1つずつ『触媒』を割り当てている。場所は支給されている液晶端末で表示できる。確認してくれ」
桜「あ、本当だ…ポケットにいつの間にかスマートフォンのようなものが入ってます」
士郎「えっと方向は…ここから北にずっと行った場所だな」
凛「私は南西の方角…成程、ここで解散ってわけね?」
言峰「そういうことだ。各自、『触媒』を手に入れたらその場で召喚を行ってくれ。全員の召喚が完了したら、ゲームの開始だ。自由に殺しあってくれ給え」
言峰「どんなサーヴァントが出るかは…まぁ、お楽しみというわけだ」
セイバー「士郎とは別行動ですか…残念ですが仕方ありませんね」
凛「次会うときは、敵同士ってことね…覚悟しておきなさいよ、アーチャー。普段のいやみったらしい説教の恨み、ここで晴らしてあげるんだから」
アーチャー「おお、怖い怖い。せいぜい一抜けしないよう気をつけるとしよう」
ライダー「桜、気をつけてください。ゲームとはいえ、あの神父のことです。なにか企んでいるとも限りませんから」
桜「うん、ありがとう。ライダーも気をつけて」
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士郎「地図によるとここら辺だよな…」
士郎「お、なにか落ちてる。どれどれ」
士郎「…ネックレス?しかも指輪が通ってる」
士郎「うーん…?どんなサーヴァントなんだ?」
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セイバー「地図によると間違いなくここなのですが…」
セイバー「…まさかこれが触媒ですか?このお皿の中に入ったコレが…?」
セイバー「しかもこれは…食品じゃないですか。何故こんなものが触媒に?」
セイバー「たしか…以前大河の誕生日に振る舞われた食べ物の容器の中に、これと同じものが入っていましたね」
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凛「…世界の作り込みはすごいけど、肝心のシステムは雑じゃない?」
凛「まさかこのちゃっちいお守りが、触媒だっていうの…?」
凛「勝つためには最強のカードを引き当てないといけないっていうのに…」
凛「本当に性格悪いわねあのエセ神父!」
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桜「触媒らしきものを見つけたのはいいんですけど…」
桜「…紙?文字がびっしりと書かれていますね…」
桜「…わざとでしょうか。文字化けしてて内容がわかりません」
桜「雰囲気的には、何かの契約書のような気がしますけど…」
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ライダー「…まさかとは思いますが」
ライダー「この折れた木片が…触媒なのですか?」
ライダー「いや…ただの木片ではないですね。持ち手が存在する。何かの武器のようです」
ライダー「木刀…?いえ、棍棒でしょうか…?」
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アーチャー「――やれやれ、あの神父のことだ。どうせろくでもないことを考えているとは思ったが」
アーチャー「まさか触媒が紙切れ一枚とは…全く恐れ入る」
アーチャー「…いや、よく見ると端に線が印刷されている。これは…ノートの切れ端か?」
アーチャー「ますます持ってわからんな。この程度の触媒で呼び出せるサーヴァントがどれほどのものか。果たして戦いになるのかね」
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士郎「触媒を手に入れたから…いよいよ召喚か」
士郎「あっ…俺、自分でサーヴァント召喚したことないから、詠唱わかんないぞ…」
言峰『その点に関しては心配不要だ』
士郎「うわっ!今のは…端末からか?」
言峰『そうだ。今回はテストプレイということで、私が管理者としてこの端末を通じてある程度のサポートと監視を行う』
言峰『聖壺戦争に於いては、詠唱は不要だ。触媒に対しサーヴァントを召喚したいと念じれば良い。召喚の意思さえあれば、サーヴァントを呼び出すことができる』
言峰『ちなみに、この端末では一応私との通信が可能だが…余程のことがない限りはそちらからこちらへの通信は認められない』
言峰『それでは健闘を祈る』プツッ
士郎「…一方的に言って切りやがったな」
士郎「念じればいい、か。試してみるか」
士郎「…」スッ
その瞬間、触媒を中心に魔法陣が広がった
魔法陣は白く輝き、眩しさで一瞬視界を奪われた
士郎「…!?」
その一瞬の間に…魔法陣の中の触媒は消滅していた
触媒があったはずの場所には、一人の『騎士』が立っていた
全身に白き鎧を纏い、その手には黒く輝く剣が握られている
――間違いない。このサーヴァントは、セイバー…!
そう、確信した
「…」
その騎士もこちらに気づいたようだ
こちらに視線を向け…ある一点を見つめている
それは、腕に刻まれた『令呪』
サーヴァントと魔術師の契約の証である
目の前にいる男が、自分のマスターだと悟った騎士は
静かに、契約の言葉を口にした
「――お前がどうやって俺のマスターだって証拠だよ」
士郎「…はい?」
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「アンタが、俺のマスターか?お嬢ちゃん」
凛「…ええ、そうよ。不本意だけどね」
「おいおい、不吉なこと言うなよ。せっかくの機会だ。仲良くやろうぜ」
――お守りを触媒として召喚されたこのサーヴァント
そいつは、明らかに異質だった
鎧を身にまとっているわけでも無ければ、法衣に身を包んでいるわけでもない
それどころか、武装の痕跡すら無い
その格好は…明らかに現代の日本人の私服であり
年齢も自分より少し上くらい
そう、こいつは明らかに『普通の人間』だった
少なくとも、見た目だけは
凛「一応聞いておくけど…あなた、クラスは何?会話ができるってことはバーサーカーではないでしょうけど、得物も何も持って無いみたいだし」
凛「ものすごい格闘の達人…ってわけでもないわよね」
「残念ながらな。まぁなんとなく察しはついてるかもしれんが」
「――俺は『キャスター』だ。よろしくな」
凛「…私の知っているキャスター像とは随分違うわね。アンタ、それで魔術師だって言うの!?」
壺キャスター「うーん…正確には違うな。俺の使うのは、魔術じゃない」
凛「じゃあ一体何なのよ!…そうだ、アンタの真名を」
壺キャスター「…待った、マスター。いきなりだが…客が来たみたいだぜ」
凛「…!」
凛(敵襲!?早すぎる!
セイバー「――迂闊ですよ、凛。言われていたでしょう。『サーヴァントが全員召喚完了したら、戦いの開始』だと」
凛「…!セイバー!?」
セイバー「支給された端末には、サーヴァントが召喚された履歴が情報として残るのですよ。召喚