モバP「ミッドナイト・ランナー」【モバマスSS】
諸注意
・車を題材にしたモバマスSSです。
・劇中劇の設定になります。
・舞台は1992年頃の東京になります。丁度、漫画湾岸ミッドナイトの1~3巻辺りの世界観です。
・モチーフは、福野礼一郎著『バンザイラン』です。
・各キャラクターの搭乗する車両は、個人的な主観が多々含まれています。似合っているかどうかは、ちょっと解りません。
・この作品の演出の様な走行は、絶対に真似しないで下さい。捕まりますし、下手したら死にます。
最後に。
日本全国フェラーリ党のプロデューサーの皆様、及びヘレンさん大好きのプロデューサーの方々。お待たせいたしました。
では、お楽しみください。
モバP「ついに、試写会ですか。いやー、たのしみだなぁ」
千川ちひろ「制作会社の方から、完成品のDVDが送られてきたんですよ。だから、事務所で見られるんですよね」
今西部長「……懐かしいね。昔、首都高速トライアルというVシネマがあってだね。今の自分と同じ年齢位の車好きなら、皆知ってるんだ」
モバP「へぇ~……」
今西部長「第一作目は、俳優の大鶴義丹や的場浩司のデビュー作でもあったんだ」
千川ちひろ「そんな映画が、合ったんですね」
今西部長「まあ、昔の話だよ。では、見てみますか」
モバP「はい……タイトルは『ミッドナイト・ランナー』か……」
1.
1992年、夏。まだ、バブル経済の余韻に浮かれていた頃。
深夜の首都高速湾岸線、市川パーキングエリア。長距離輸送の大型トラックと、ドライブ帰りのマイカーが、数えられるほどしか停車していない中。
パーキングの一角は、異様な雰囲気を作っていた。
十数台のスポーツカーに占拠され、真面な神経なら間違いなく近づく気にはならない。丸で戦場の基地かと思う程、殺伐とした空気が漂う。
毎週末の深夜。湾岸高速を舞台に、時速250kmオーバーのバトルが繰り広げられていた。遊び半分に命を賭ける、狂気の公道グランプリ。
自動車雑誌編集部でアルバイトする向井拓海は、毎週の様に取材に訊ねていた。最初の内は、先輩編集部員に言われ渋々着いていくだけだった。
しかし、その走り屋達と触れていく内、その熱狂、その魔力に取り憑かれていった。
元々、地元ではワルだった拓海にしてみれば、反社会行為を犯す事に大した抵抗は無い。むしろ、その反社会行為に命を賭ける走り屋達に、尊敬の念さえも抱くようになっていた。
毎週の様に、戦場に出向いていれば、自然と顔見知りになって行く人間も多い。
たびたびギャラリーに出向くヘレンと言う女性も、拓海と自然と会話を交わす仲になっていた。海外出身の彼女もまた湾岸に魅せられた一人だ。
仕事兼ギャラリーに来ていた拓海は、スチールカメラのフィルムを交換しながら、ヘレンに言葉を投げた。
「……なあ、ヘレン。今日は、何時に無く楽しそうじゃねぇか」
「フフ……。やはりあなたには解るのね」
もったいぶるヘレンに、拓海は思わず呆れる。
「お前さぁ……。顔に出てるの、自分でわからねぇのか?」
「…………来週なれば解るわ。世界レベルにふさわしいマシンが拝めるわ」
自信有り気にヘレンは断言した。
その翌週。
今週はプライベートで拓海が市川パーキングに顔を出すと、度肝を抜かれた。
「……お前……マジか?」
「……ええ。この私にふさわしいマシンでしょう」
ピニン・ファリーナがデザインした、深紅に染まるグラマラスなボディ。それほど身長の無いヘレンでも、肘をかけられる低いシルエット。
アイドリングだけでも響く咆哮は、今宵のパーキングで一番目立っていた。そのマシンの周囲を、走り屋達が興味深々で見つめる。無論、拓海もその一人。
フェラーリ・テスタロッサ。これが、ヘレンの言う世界レベルのアンサーだった。
「……どう?」
得意顔のヘレンは、拓海に回答を求める。
「どうもこうも……答えようがねぇぞ」
拓海は、開いた口がふさがらないと言った様子だ。
「拓海。一つだけ相談があるのよ。私の横に乗ってくれないかしら?」
「……別にかまわねぇよ。今日は、仕事じゃねぇし」
二つ返事で了承した。
時刻は1時を少し回った時。
パーキング内に、数台のマシンのエキゾーストノートが響き出した。
直6ターボにV6ツインターボ。ロータリーにフラット6ツインターボ。そして、バンク角180度の水平対向12気筒。鋼の野獣達が、雄叫びを上げる。
テスタロッサの周囲をグルリと一周してから、拓海は助手席に滑り込んだ。
横長のコクピットは、革張りの内装でイタリアらしく気品に溢れる。しかし、室内になだれ込むアイドリングの音は、対極的にけたたましい。
ヘレンの右足が、小刻みにアクセルペダルを煽る。リズミカルにフリッピングすると、敏感なほどタコメーターが反応し、ケーニッヒ製のエキゾーストから快音が奏でられる。
丸いシフトノブを握りしめ、フェラーリ独特のゲート式シフトをファーストギアに入れる。カチン、と金属音が鳴り、鼓動が高ぶる。
丁寧にクラッチを繋ぎ、はやる気持ちを抑える様にゆっくりと。馬鹿でかい跳ね馬は動き出した。
テスタロッサは、2番目に腰を据える。前を行くポルシェのテールランプを拝む。
(……最強のイエローバードね)
先陣は、ポルシェだがポルシェに非ず。その名を世界中に轟かす、ルーフCTR。イエローバードの異名を持つマシンだ。
(……こりゃ、言葉もねぇな。すげえ迫力だ……)
右側のナビシートから、拓海は圧倒された。前方に広がる、だだっ広いアスファルトに。そして、迫りくる後ろからのプレッシャーの津波に。
CTRがジワリと加速を始めると、ヘレンもそれに倣う。
3速に入れてヘレンはアクセルを踏み込む。
タコメーターは7000rpmを指した。ミュージックと称される、テスタロッサのエキゾーストノートが脳天からつま先までの細胞を刺激する。
(この音、たまんねぇわ……)
拓海は、酔いしれていた。
5リッターのNAエンジンは、甲高い咆哮を放ちながら、1600キロオーバーの巨体をグイグイと引っ張り上げる。メーターは220キロを超えた。
しかしだ。
「どうなってるのよ……」
ヘレンは思わず言葉を溢した。
「……」
拓海は何も答えない。
何せ、テスタロッサを嘲笑うかの様に、後続のマシンたちは次々に追い抜いて行く。
時速は230キロ。スピードメーターはぐんぐん上昇していく。しかし、先行するテールランプの群れはあっという間に離れていく。他のマシンに置いて行かれる跳ね馬。
「……遊ばれてるのかしらね」
「先頭のルーフだけならまだしも……国産チューニングカーにここまでコケにされるとはな……」
二人の口ぶりは、嘆きに近いものだった。
「……このままじゃ終わらないわ」
ヘレンは、そう呟いた。
2.
湾岸線で走り屋達が最高速を競い合う様になったのは、ごく自然な成り行きだった。
70年代から80年代初頭にかけて。東名高速を舞台にして、走り屋達が最高速を競い合っていたと言うルーツが有る。現在では東名レースと呼ばれる、違法競争行為だ。
当時はポルシェターボやパンテーラ等のスーパーカー。トランザムやコルベット等のアメリカンスポーツ。そして、SA22型RX-7やS130型フェアレディZを改造した国産チューニングカー達がしのぎを削っていた。
80年代に入り、チューニングカーを取り扱う雑誌の企画で、最高速トライアルと言う物が有った。茨城県谷田部の自動車性能試験所において、チューニングされたマシンでの最高速に挑戦するという企画だ。
日本のチューナー達は、夢の大台である300キロを目指した。
特にターボチャージャーの搭載がポピュラーとなってから、最高速はとどまる事無く跳ねあがって行った。
いつしか最高速300キロを超える様になってから、国産車のチューニングカーは凄まじい勢いで進化を続けていく。
伝統の日産L28、トヨタの主力戦艦7M、唯一無二のマツダ13B等。チューナー達は、得意のエンジンを極限までチューンナップしていった。
この頃になると、高価な外国産スポーツカーと国産チューニングカーの立場は逆転していた。
その谷田部への試験場として、長い直線と広い道を持つ首都高速湾岸線は、格好の舞台だった。
夜な夜な、チューニングカーを仕上げる為に湾岸をぶっ飛ばす。
気が付けば、湾岸を走る為に皆チューニングカーを仕上げる様になっていた……。
そして、1989年の秋。BNR32スカイラインGT-Rの登場。
グループAレースで勝つ為に生まれたこのマシンは、チューナーにとっても走り屋にとっても、大きな衝撃をもたらしていた。
軽くいじれば、400馬力を絞り出す強靭なRB26DETT。これまでの常識を覆すトルクスプリット4WDシステム、アテーサET-S。
それまで首都高で優位を保ってきた、フェアレディZ、スープラ、RX-7を過去の物へしてしまった……。
拓海は、湾岸を時折突っ走る程度だ。本気でやっている連中とタメを張れるような根性も金も無い。
愛車のMZ20ソアラで、ベストは精々220キロ程度。競争ごっこで、後ろから眺めるのが関の山。
ただ、遅くとも湾岸ランナーの端くれになった事は、拓海にとっては大きな一歩だった。
湾岸に通っていく内に、ギャラリーに訪れるヘレンとは、妙にウマが合った。
ヘレン曰く、一番古い記憶で覚えているのは、横須賀ベース(横須賀米軍基地)の中だったそうだ。何を隠そう、拓海も横須賀で若気を至っていた。些細な事から、ヘレンとは奇妙な連帯感が生まれた。
時々、湾岸ランナー達のケツ持ち代わりでソアラを走らす時は、ヘレンが隣に乗るようになった。
ラリーの様にコ・ドライバーの役目は果たさない。ヘレンが「全開で走りなさい!!」と捲し立てれば、拓海は「とっくに全開だバカ!!」と罵る。
強いて言えば、喋る重しが乗っかっている様な物。それを差し引いても、殆どノーマルの7M-GTUで、着いていける訳が無いのだが。
ともかく、二人はスピードの持つ魔力に魅せられていった。
「ヘレンは、車買わないのか?」
拓海はたびたびヘレンに聞く。
「いずれ買うわ。世界レベルにふさわしいマシンをね」
そう返すのが、ヘレンの口癖だった。何を根拠に世界レベルと口走るのか、拓海
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