モバP「うちに駄サンタが居る」
『サンタ見つけた』
サンタクロース。
こう、子供の夢を乗せて真冬の空を駆けずり回る例のあのお方だ。
年に数回の出勤で暮らしていけるとは羨ましいやつめ。
そのサンタクロースが転がっていた。
比喩ではなく、本当に。
真っ赤で微妙に露出の激しいサンタが道路の端のアスファルトの上を転がっていた。
汚れにやや煤けたような白の髪。
顔つきは見えないが、どう見ても日本人ではないだろう。
俺は部屋の端に置きっぱなしだったぱんぱんに詰まった燃えるごみの袋を捨てに出して、カラス用のネットを掛ける。
なんとなく軽く手を払い、横たわりぴくりとも言わないサンタの横に膝を突く。
「成仏しろよ」
「わ゛だじ、し゛ゅ゛う゛ぎょうぢがいばずぅぅぅ!」
生きてたのか。
『冗談のセンスを疑う』
虚ろな目をした女サンタだった。
顔を上げた女は顔立ちこそ整ってはいたが、頬に大量の小石を貼り付けていた。
「ひでぇ顔だ……」
「真剣な面持ちで言うことがそれですかぁ!?」
半泣きのサンタが若干目を血走らせて叫んだ。
白の髪と黄金色の瞳が相まって割りと本気で恐い。
微妙に頬がこけているのが、その怖さに拍車を掛けていた。
「……悪い。良く見れば俺が子供の頃に涎掛けにしていた経年劣化で微妙に色の悪い等身大ピカ○ュウぬいぐるみのような愛嬌のある顔立ちだな」
「馬鹿にしてますぅ! 行き倒れにだって人権があるんですよぅ!」
俺の襟首を引っ掴んで揺さぶってくるサンタ。
おかしい。ちょっとした場を和ませるジョークのつもりだったんだが。
『ド畜生』
「で、なんでこんなところに倒れてんだ」
「……いや、それは聞くも涙、語るも涙のそれはもう」
女が時期を間違えただか国を間違えたとかサマーなんたらと矢継ぎ早に話す。
ふと、タイマーで炊いた米がそろそろ炊きあがる時間なのを思い出す。
「悪い、飯食ってからでいいか。まだ朝飯食ってないんだ」
「……あの、私もう何日もお水しか口にしてないんですけど」
「知ってた」
「う゛ぅぅぅぅぅぅ!!」
殆ど本気で泣きながらキレ、再び俺の襟首を掴もうとしてやめ、平手でアスファルトを叩き始める。
どうやら怒りのやり場が見つからないらしい。
『プライドバイバイ』
「捨てないでください」
「誤解を招きそうなことを言うのはやめろ」
俺のズボンの裾を引っ掴み動く姿勢を見せないサンタ。
流石に性格が悪いことに自覚のある俺でも無理矢理引きずるのは選択肢にはない。
「このままじゃお兄さんの捨てたゴミを漁って残飯を漁るかご飯を食べさせてくれるような弱みでも探してしまいますぅ」
「プライドはないのかプライドは!」
「……プライドでご飯は食べられませんでした」
サンタは真顔だった。
夢を配る仕事とは一体。
少なくとも子供には見せられない気がした。
『本気で飢えると人は凶暴になる』
……うっそだろ。
気づけば小分けして冷凍保存でもしておこうと思っていた五合も炊いておいた米が一粒も釜には残っていなかった。いや、別にまた炊けばいいのだが、とてつもない食欲だ。
コップを二つ出して、麦茶を注いだそれを一つ差し出してやる。
「はふぅ。ありがとうございますぅ~。お兄さんは私の命の恩人ですねぇ~♪」
「誰だよお前」
「お腹が満たされて心に余裕が出来ましたぁ~」
そこまで飢えた経験は流石になかった。
だが、ニコニコと笑うサンタを見ていると毒気が抜かれる。
『サンタジョーク』
「この熱いのにその暑苦しいサンタ服はどうにかならんのか」
時折麦茶を口に含みながら半眼でサンタを見やる。
サンタは顎に左手をやるとなにやら考えこむ。
「私からサンタ要素抜いたらなにが残るんでしょう?」
「やめろよ。真顔でそういう話題振るの」
「こう、なんというか水物というか、期間限定なお仕事なのでその季節以外だと結構疎外感がありますよねぇ」
「そのサンタあるあるみたいなのをサンタじゃない俺に言われても困るんだが」
「こう、普段から街でも「えっ、なんでサンタ……?」みたいな視線を時折……」
「お前それ、私服だったの……?」
「なーんちゃって♪ 冗談ですぅ~♪」
……。
…………。
「麦茶のおかわり俺のと一緒に入れてくるぞ」
「わー。ありがとうございますぅ」
入れるのはダバスコ、マヨネーズ、粉末緑茶と……あとなににするか。なんかあったっけ。
『口がひりひりしまふぅ……』
「ひろいれすっ! ひろいれすぅ!」
「一軒家だからな。広さはそこそこあるな」
「辛いって言ってるんれすぅ!別に一軒家自慢されたかった訳じゃらいれすぅ!」
違うのか。
瞳に涙を浮かべてテーブルをダンダンと乱打するサンタ。
といか、明らかに麦茶に赤いのが浮いてても飲んじゃうのか。飲食物の扱いは慎重にせねばならぬというのに。これも職業病の一種だろうか。
ぼんやりと視線をテレビに向けると、何時も通りウサミンハートウェーブをぴるりるさせながら天気キャスターの仕事を全うしていた。
「あぁ、ウサミン、ウサミン世界一可愛いよ」
「うわっ、真顔で言われると結構気持ち悪いですぅ……」
「……」
おのれ小娘め。
小娘には分からんのだ。ウサミンの可愛らしさは地球規模ではないというに。
「え、えと。言い過ぎました。そんな泣きそうな目で見ないでくださいよぉ……」
気持ち悪いのは自覚があるからいい。別に傷ついてなんていないのだ。
『熱狂的なウサミン星人』
「あのウサミンさんってアイドルさんなんですよねぇ」
「今世紀最大のアイドルだな」
「別にそこまで聞いてないです」
「タペストリーとかタオルとかポスターも買ったんだ。こういうのの置き場所に困らないから一軒家は最高だよな。引っ越した甲斐がある」
「まさかそんなことのために!? そんなことのために一軒家に住んでたんですかぁ!?」
なにを今更。
「そんなにウサミンさんっていいものなんですか?」
「……俺が当時十七歳で当時のウサミンが十七歳の頃から追いかけてるからな」
「……んぅ? でも、さっきの自己紹介でもウサミンさん十七歳って……」
「そりゃお前、あれだろ。サンタが子供の夢を運ぶのと一緒でウサミン星人は大人になってしまった子供の願望と意地の体現なんだよ」
「な、なんだかウサミンさんが凄く立派なお方に見えて来ましたぁ」
「だろう?」
粉末茶をお湯で溶いて喉に流し込む。
今日もウサミンが可愛いので世界は平和である。
『サンタの飼い方、育て方』
「というか、お前、これからどうすんだ」
「……ど、どうしましょう?」
俺から露骨に視線を外してぷーぷー吹けない口笛を吹くサンタ。
こいつ微妙に白々しいな。流石の俺もこのまま投げ出すには少し気を許しすぎだ気がする。
そして、このサンタ、この手の展開を期待しているような気がしないでもない。
追い出せば普通に出て行くんだろうが、なんか嫌だ。後味も悪いしもやもやする。
「……ふむ」
サンタの頬に触れ、軽く引っ張る。
「いふぁいれふ」
顔立ちは悪く無い。いや、全然良い。
問題は肉付きが良くないことか。これは食生活の問題か。別に痩せている分にはいいのだが、不健康レベルだとちょっとな。肉、肉を喰え。クッキーとか歌詞ばっか喰うのは論外。
「飼ってみるか、サンタ」
「すっごい犯罪的なセリフですねぇ……」
「サンタの飼い方、育て方とか本屋に売ってないかね」
「どういう需要の本なんですかね、それ……」
世の中以外とそんな需要ねーよというものに限って需要があるものである。
『サンタは丸洗い出来ません』
「とりあえず風呂だな」
「……なるほど。私の裸体をじっくりと鑑賞したいと~」
「女の子用の子供服と俺のジャージの予備くらいしか着れるものないんだが、どっちがいい?」
「うぅ。……無視ですかぁ。じゃあジャージで。……ん!? 子供服!? なんで子供服があるんですか!? お兄さん子持ち!? 嘘、年齢的にはおかしくはないですけど! ですけどぉ!」
うるさい。
ジャージを喚くサンタの手に押し付け、脱衣所に押し込む。
ふと、サンタの座っていた椅子に目をやると、小石やら砂やらが散乱していた。
……そうだよな。こいつアスファルトに転がってたんだもんな。
最初に風呂に放り込んでおくべきだった。失敗した。
ということはあっちもか。
扉の奥からシャワーの音が聞こえる。
脱衣所に放ってあるサンタの汚れた衣服を纏めて洗濯機に放り込む。
……いや、この服って丸洗いしていいのだろうか。触ってみた感じナイロンっぽかったので多分大丈夫だと思う。
念のため、おしゃれ着用の洗剤を放り込んで洗濯機をスタートさせる。
その時だった。
浴室の扉が勢い良く開き、濡れた銀色の髪が視界一杯に広がった。
「う゛ぅぅー。おにいざぁーん、石鹸が小さくて上手く泡立たないですぅ! 新しいせっけ……ん?」
最初に真っ白な髪と肌に目が行った。
黄金色の瞳が見開かれ、洗濯機のボタンに手をやったままの俺を視界に入れて固まる。
「……」
「……」
「これは、大当たりを引いたか?」
想像以上だ。磨けば光るとかそんなレベルではない。
エロいとかそれ以前に綺麗だと感じた。
「あの、女の子の裸を見て、その反応っておかしいですよぉ! おかしいですよぉ! ホモですか! ホモなんですかぁ!?」
「やっぱりイケるな」
「……いや、イケてもそれはそれで問題というか、その……ちょっと困りますぅ……」
サンタはすすすと後ろ足に下がると浴室の扉に体を隠しながら頬を染めて、こちらを半眼で見てくる。
お前は一体なんなんだ。
『三秒スリーピング』
「とりあえず服か」
とろあえず衣類がないとマトモにこいつ出歩けんぞ。
事が済んだらサンタ服は暫く封印だな。目立つのはいいのだが、それで我が家を出入りされるとちょっと困る。
「……面目ないですぅ」
テーブルにぐでんと項垂れながらぼやくサンタ。
うぅむ、寛いでやがる。
「いへぇ、にゃんかお腹一杯になってお風呂入ったらにぇむくなってきまひは」
「いやいや、ここでは寝るなよ」
「……すぅ」
「……寝るなよ?」
反応がない。うっそだろお前。寝付き良すぎだろこいつ。
『ウサミンパワー(♂)』
二階に上がるとすぐにブルーの札のついた部屋が真向かいにある。
やや殺風景というか、個人の部屋にしては物が少ない。まぁ、この部
コメント一覧
-
- 2015年10月03日 20:54
- お薬出しときますね
-
- 2015年10月03日 20:56
- これ本当に面白かった
終わってしまったのが残念
-
- 2015年10月03日 21:14
- 数少ない担当アイドルのssで嬉しい
-
- 2015年10月03日 21:21
- 等身大のぬいぐるみを涎掛けにする子どもって一体……
-
- 2015年10月03日 21:48
- なかなか面白かった
久しぶりに続きを書いて欲しいと思ったssだった
-
- 2015年10月03日 21:52
- ほんと続きが気になる
-
- 2015年10月03日 22:21
- はいここまで自演
とりあえず面白いっていっとけばいいから楽だねー
アニメはゴミだけど
-
- 2015年10月03日 22:28
- いちいち鼻につくねっとりした文章さえ我慢すれば面白い
-
- 2015年10月03日 22:40
- 面白いっちゃあ面白いがちょいゴチャついて読みづらいかネ
-
- 2015年10月03日 22:40
- はいここまで一匹だけ荒らし
とりあえずゴミっていっとけばいいから楽だねー
SSは読んでないけど
-
- 2015年10月03日 22:46
- くだらんコメ書くくらいならシコって寝てろよ
久々に面白いスレ見ていい気分だったのに台無しだわ
-
- 2015年10月03日 22:52
- 気にくわない※程度で気分が悪くなるなら※欄に開くなカス
やっぱデレマス信者クソだわ
-
- 2015年10月03日 22:55
- SSを貶すためにアニメを持ち出してて草
-
- 2015年10月03日 23:00
- イヴが何か無自覚に話を転がすのかと思ったらそうでもなく
タイトル詐欺かって言うとそうでもない
-
- 2015年10月03日 23:09
- ※13
だって実際ゴミじゃんw
-
- 2015年10月03日 23:11
- 本編には直接出てないのにヘイトがたまっていくウサミン・・・。
-
- 2015年10月03日 23:12
- よくこれ理解出来るな
レベルが違いすぎてさっぱり情景が浮かんでこないわ
-
- 2015年10月03日 23:18
- ※15
それSSに関係ある?
-
- 2015年10月03日 23:26
- ※12
夏休み明けて暫く経ったもんね。また寂しくなっちゃったかな?それとも他所で虐められちゃったかな?
大丈夫ですよ。例え以前の様にまた皆に相手にすらされなくなっても私は貴方を1人にしませんから。
だから貴方を維持を張らず寂しい、構ってほしいと素直に文字にしましょう?
-
- 2015年10月03日 23:38
- 誤字るなwwwwwwww
あ、内容は好きでした
-
- 2015年10月03日 23:46
- 面白かったが才能の差や劣等感やらが絡む話は精神的にきついな
俺も劣等感まみれだからな……
-
- 2015年10月03日 23:55
- ※19
なに言ってるのかよくわからんけど構ってるのはそっちなんだよなぁ
だってアニメゴミだもんw
-
- 2015年10月03日 23:56
- 何時もの煽りの流れと一緒だぞ
-
- 2015年10月03日 23:57
- よしのんの圧倒的正妻感
イブSSとかあんまり見ないからとてもありがたい
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