亡命者 ∞ 牧瀬章一【シュタゲSS】
- 2015年10月11日 23:10
- SS、シュタインズ・ゲート
- 0 コメント
- Tweet
2010年8月21日 モスクワ
シュタインズ・ゲート
「……認めん。認めんぞぉ……ッ!!」
「この私を、こんなところに閉じ込めおって……」
「人類の損失だ! バカな学会の奴らにはそれがわからんのだ!」
「たかが火事のせいで……」
「タイムマシンは完成しないというのか……」
「……幸高。……橋田教授」
「不甲斐ないこの私を……俺を、許してほしい……」
「俺は、2人を守れなかった……」
「私は……私は……」
「世紀の大発明家、ドクター中鉢だ……」
――――――――
――――
――
※シュタインズ・ゲート世界線なのに橋田鈴さんが居る世界観
その理由 : 鈴羽「そして『あたし』は生まれ変わる」
1967年1月13日、青森。
私が生まれたのは雪の降り積もる銀世界だった。
青森と言っても津軽や下北のような田舎ではない。
私は函館への連絡船の出る港と市街地の間で生まれ育った。
戦争が終わって20年は過ぎていたというのに、場末の街には未だソレが流れ着いた。
身寄りの無い者、犯罪者、怪しげな商売人やヤクザな人種……
私の祖父はそういうヤカラと取り引きして、ガラクタを蓄えるのが趣味だった。
ついぞ詳しく聞いたことは無かったが、どうやら満州で技術屋をやっていたらしい。
そんな祖父の背中を見て過ごした幼少期だった。
「じいちゃん、それ、何?」
「これか? これ、カラーテレビだ。色も映る」
「……なんもねハコに、なして映る」
「そりゃおめぇ、ブラウン管はこれから拾ってくるに決まってる。丁度いい、章一も手伝え」
「お、おらもか?」
「じいちゃんにかかれば絶対に映るからよぉ。映ったらアポロの月の石、見れるぞ」
3歳の頃。これが私の中で最も古いモノづくりの記憶だ。
祖父はゴミを拾っては使えるモノにして近所に売っていた。
機械いじりの天才だった。
そんな魔法のような所業に幼いながらも感動を覚えた。
「爺ちゃんはなんでも作れるな」
「なんでもはできねぇよ。仕組みのわかるもんだけだ」
「仕組みのわからねもんってなんだ」
「そりゃおめぇ……空飛ぶ車とかだ」
「爺ちゃんなら作れるんでねか」
「無理なもんは、どもなんね。夢見過ぎだ、章一は」
小学生の頃、祖父に苛立ちを覚えたことがあった。
人類は既に月へ行くロケットを発明したというのに、
どうして空飛ぶ車程度のものを発明できないのか。
祖父の手先ならなんでも作れると信じていた当時の私は、
祖父が簡単に諦める姿を否定したかったのだ。
空飛ぶ車を作れないと誰が決めたのだ、と私は童心ながらに怒った。
祖父が作れないのならば自分が作ってやろうと息巻いて本屋へ駆け込んだ。
「おばちゃん、空飛ぶ車の作り方の本、ねぇか?」
「あぁ、それならたしか……この辺にあるんでねか」
案内されたのはSF小説のコーナーだった。
私が初めて手にしたその本の名は、一生忘れ得ぬ。
H・G・ウェルズ作、SF小説の金字塔、『タイム・マシン』。
その世界に描かれた未来は、まさにディストピアであった。
人類が技術力の先に迎える絶望的な未来。
終わりの見えないベトナム戦争の行きつく先を暗示しているかのように思えた。
祖父なら、あるいは祖父を超えた私なら、そんな未来を変える事ができる。
少年牧瀬章一は本気でそう信じていた。
『タイム・マシン』の未来では、支配層の食人種族と、被支配層の無能人類に分かれていたが、
そもそも、人類は何をもって人類なのだろうか。
言語か、社会性か、あるいは二足歩行だろうか。
私は、人類は『技術』を開発し続けることが人類たらしめる要素であると考える。
他の動物種と一線を画すようになったのはまさしく火を自在に扱えるようになったこと。
火を恐れず、その仕組みを正しく理解して、応用し、生活に役立てる。
これこそが、人類の本質であると私は思っていた。
人類が火を起こした時こそ、技術革命の始まりだったはずだ。
それからというもの、中学高校時代はひたすら空想小説に浸った。
数々の空想的技術を現実のものにするにはどうすれば良いか。
通常の物理学を超越した理論がなければ、夢の技術など獲得は不可能だ。
理系の教師どもに質問をして回ったこともある。
宇宙エレベーターの作り方、テレポーテーションの仕組み、光学ステルスの実現性について。
どいつもこいつも私を頭のおかしいクソガキ扱いするばかりで、まともに取り合おうとするやつなど居なかった。
量子力学、相対性理論、世界線理論……
当時の私に光明を与えた師は、他でもない、アルベルト・アインシュタインだった。
ブラックホールという名称をホイーラーが命名したのは奇しくも私の生まれた年であった。
反物質、ワームホール、タキオン粒子、エキゾチック物質、モノポール……
どれも見つかれば革命的な技術革新をもたらすはずのものだ。
米ソの宇宙開発競争がスペースシャトル時代へと移行していたこの時期、
私は、幼い頃、ブラウン管越しに見た月の石の姿が瞼から離れないでいた。
周りが漫才だアイドルだと騒いでいた青春時代、
私は本気で新時代のエジソンになるつもりだった。
1985年、3月。私は雪の積もる青森を後にして、首都東京へと向かった。
陸軍上がりの祖父の知人に標準語を仕込まれた私のしゃべり方はまるで軍人のソレになっていた。
「いやぁ、東京帝大とは、どってんこいだなぁ」
「だから東京電機大学だと言っているではないか!」
「東京さ行ったら、どっちもおんなじだべな」
「違う! もういい、俺は行く。ついてくるな!」
「仲間作って楽しくな」
にへらと笑う祖父に見送られながら私は、
日本における発明の父、丹波保次郎氏が初代学長となった東京電機大学へと入学した。
膝元にある秋葉原は今も昔も技術屋の街として有名だ。
ここでなら、私は夢を実現することができると確信していた。
奴と出会ったのは入学式の日だった。
下宿先の片付けに追われ、私は初日から遅刻しそうになっていた。
「ど、どけ! 貴様ら! 俺を入学式に出させない気か!?」
「痛っ! な、なんだ君は。ちょっと待て!」
「離せ! 貴様に構っているヒマなど無いのだ!」
「そうじゃない。僕だって入学式に出るよ」
「ならば、なぜそうも悠長に構えている!」
「1時間延期されたんだ。そんなことも知らないのか?」
「なに……? 貴様、讒言でこの俺をたばかろうという腹だな? そうはいかんぞ!」
「君は誰と戦っているんだ……」
この時ぶつかったいけすかない……いや、好青年の男こそ、秋葉幸高だ。
私の永遠の相棒であり、腹心の友であった。
「まったく、これからの時代は情報だよ? 最新のデータをキャッチできない人間は置いてかれるのさ」
「フン! その出で立ち、どこぞのボンボンかは知らんが、何が目的だ? 言え!」
「そうだな……目的ってほどじゃないけど、ここに入学するのは趣味、みたいなものかな」
「しゅ、趣味だと!? 貴様、なめているのか!」
「違う違う。もう僕は親父の事業を引き継ぐって決まってるから、大学ではやりたい勉強をやって自主性を養うんだ」
「財界の手先か、貴様」
「もうなんでもいいよ。僕は幸高。秋葉幸高。君は?」
「俺か?……ククク、見ず知らずの他人に名を教えると思っているのか?」
「面倒臭いな、もう。牧瀬章一、だろ?」
「なっ!? 貴様、まさかソ連が秘密裏に養成しているというESPerか!?」
「さっきぶつかった時にジャケットの内側が見えたんだよ。律儀に名前まで書いてあるなんてね」
「ぬかった……。その人を見透かす能力、褒めてやろう」
「それはどうも」
幸高の言う通り、インターネットによる情報化は既に始まっていた。
と言っても、日本では慶應義塾大学と東京工業大学、それに東京大学が300bpsで繋がれただけだが。
奴には未来を見通す力があった。
そして、どういうわけか幸高は私に興味をもった。
ディスコだなんだとろくに将来を考えず遊び回っている周りの学生と比べて、
私のように野望を持っている人間は少なかった。
そういうところに惹かれたらしい。まったく変なやつだ。
夏休みが終わって、私たちはますます互いの意見を交換するようになっていた。
「君が作りたいのはタイムマシンや空飛ぶ車、か。ロマンがあっていい」
「わかってくれるか! 俺は人類史にその名を残す、偉大な発明家になるのだよ! "人類の夢"を叶えようじゃないか!」
「実際、科学技術はとんでもないスピードで進歩している。現在では夢物語でも、未来では当然のようになっているかもしれない」
「そうだ! 俺はそんな世界が見てみたい! もちろん絶望的な未来ではなく、まさに夢のような未来!」
「『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる』、か……。章一と一緒に居ると飽きないね」
「そう言えば幸高はロストテクノロジーの収集が趣味だったな。俺が技術革新を進めなければ、新たなロストテクノロジーは生まれないと思うが?」
「乗った、君の言う"人類の夢"に投資しよう」
「言ったな? 約束だぞ!」
「ああ、約束だ」
「そう言えば、理論物理学の助教に変な人が居るってウワサ、知ってるかい?」
「諜報は幸高の担当だろう。俺は理論家であってだな……」
「ふふ、そうだった。『橋田鈴』っていう若い女性の助教授が居るんだけど、この人の論文や研究が不思議なんだ」
「若い女性がこの男性社会で研究職をやっているのか……。ともかく、もったいぶるな、教えろ」
「なんでも、信じられないような機能を持った機械と、それが社会に浸透した未来を考察してるらしいんだ」
「信じられないような機能?」
「例えばインターネットが日本中どころか海底ケーブルを通して世界中と繋がり、海外の情報にコンマ数秒でアクセスできる、とか」
「……真面目にそんなことを考えている教授が居るとは、驚きだ」
「ああ、僕だって信じられなかった。だけど、その論文を読んだっていうやつから聞いたんだが、妙にリアルなんだそうだ」
「ほう……他には?」
「電話を無線にして全国の中継局から電波を飛ばし、手に収まるサイズの無線電話にする
スポンサードリンク
ウイークリーランキング
最新記事
アンテナサイト
新着コメント
QRコード
スポンサードリンク