糸使い「ある糸使いの一日」
- 2015年10月25日 23:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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強盗A「うぐっ!」ピシッ…
強盗B「ぐげっ!」ピシッ…
強盗C「か、体が……動かねえ……!」ピシッ…
糸使い「お前らの体は完全に縛り上げた」グイッ
糸使い「ケガしたくなきゃ動くなよ……体が切れちまうからな」ピーン…
強盗A「うぎゃっ! ち、血がぁっ!」ブシュゥ…
糸使い「だから動くなっつっただろうが。耳がついてねーのか、お前は」
糸使い「憲兵たちが来るまで、大人しく反省してろ」
憲兵「はっ! ご協力ありがとうございました! 謝礼は後日、上の方から……」
市民A「糸使いさんって、かっこいいよなぁ……」
市民B「戦い方もスマートかつスタイリッシュで、かっこいいしな」
市民C「きっと普段から、かっこいい生活をしてるにちがいないぜ」
さて、糸使いの一日とは、一体どのようなものなのだろうか。
……
……
……
糸使い「ふぁぁ……」クイッ
糸使い「さぁて、ソーメンでも茹でるか……」ムクッ
糸使いの全身にくくりつけてある起床用の糸。
これを操ると、全身が勝手に起き上がるという仕組みである。
ベッドから出た糸使いは、朝食を作るためにキッチンに向かう。
糸使い「いただきます」チュルチュルッ
糸使い「うーん、やっぱり朝はソーメンに限る」
ソーメンのさわやかな味に、糸使いが涼しげな笑みを浮かべる。
糸使い「…………」シーハーシーハー
糸使い「キレイになったぞ!」キラキラッ
糸使いは歯磨き用の糸で、歯の間の汚れも逃さず取る。
自分の歯の美しさを、何度も何度も鏡で確認してしまう。
糸使い「川!」バッ
糸使い「ほうき!」ババッ
糸使い「タワー!」バババッ
一人で延々と、あやとりに熱中する糸使い。
あやとりは、糸を武器にする者にとって、非常にいい鍛錬となるという。
ようするに、趣味と鍛錬を兼ねた遊びなのである。
ちなみに、糸使いには憧れのあやとり名人がいる。
その名人は通称“ミスター・N”というらしい。
糸使い「よーし、どっちが先に相手の全身に糸を巻きつけられるか、勝負だ!」
巨大グモ「…………」コクッ
庭で、ペットであり相棒である巨大グモと、実戦的な一騎打ちを行う。
巨大グモ「…………」カサカサ
互いに激しく動き回りながら、相手に糸を巻きつけようとする。
訓練とはいえ、糸使いの目は真剣そのものである。
毎日のようにこうした鍛錬を続けているからこそ、
先に強盗相手に披露したような捕縛術を身につけることができるのだ。
グルグルッ!
糸使い「ま、参った……」
巨大グモ「…………」ピョンピョン
糸使い「くそー、やられちゃったなぁ……昨日は俺が勝ったのに……」
一瞬のスキを突き、本日の勝負は巨大グモに軍配が上がった。
ちなみにこの巨大グモも、糸使いからの命令さえあれば、
単独で小さな盗賊団を壊滅できるほどの実力者である。
糸使い「いただきます」ズルルルッ
糸使い「うーん、やっぱり昼はラーメンに限るな!」
ラーメンのこってりした味に、糸使いが力強い笑みを浮かべる。
糸使い「…………」ソワソワ…
コンコン……
糸使い(きたーっ!)
ノックの音に、糸使いの心臓が高鳴る。
針使い「ごめんね、いきなり今日来たいだなんて」
糸使い「いや……いいんだよ! ささ、どうぞ!」
針使いは、糸使いのガールフレンドである。
彼女の生業は針で人々を治療する治療師であるが、彼女自身の戦闘力も高い。
ひとたび戦闘となれば、大小さまざまな針を投げつけ、敵を仕留めるのだ。
そのため、糸使いは彼女と一緒に仕事をしたこともある。
糸使い「し、刺繍でも……どう?」
針使い「いいね! やろっか!」
糸使いにとって、彼女と裁縫や刺繍をしている時間はなによりの至福である。
糸使いは巨大な龍を、針使いはお祭りの風景を、手慣れた手つきで完成させていく。
針使い「糸と針を動かすだけで、どんな世界だって作れちゃうんだもの」チクチク
糸使い「ホ、ホントだね」チクチク
俺たちも糸使いと針使いだし、一緒になにか作れるかもね、といおうとするが、
かろうじて思いとどまる糸使い。
糸使い「俺も!」バッ
針使い「じゃ、交換しよっか!」
糸使い「しようしよう!」
二人の刺繍は、並みの職人ならば裸足で逃げ出すほどの完成度であった。
針使いの刺繍は、賑やかなお祭りの光景が表現されており、
糸使いの刺繍は、巨大な龍が大迫力で唸っていた。
糸使い「ま、またね!」
巨大グモ「…………」バイバイ
夕方になり、針使いは帰宅する。夜中に診察が控えているのだという。
彼女は治療師として非常に多忙であり、
今日のように午後丸々一緒にいられる日というのは極めて珍しいのだ。
糸使い(俺たち本格的に付き合わないか、っていおうとしたけど……できなかった……)
糸使い(ま、今日は一緒に刺繍ができただけで良しとしよう)
巨大グモ「…………」
己の勇気のなさにため息をつく糸使い。
糸使い「はしご!」バッ
糸使い「山!」ババッ
糸使い「橋!」バババッ
自分の不甲斐なさを払拭するかのように、再びあやとりに興じる。
糸使い「いただきます」ハムッ
糸使い「うーん、やっぱり夜はパスタに限るね」
パスタの上品な味に、糸使いが気品のある笑みを浮かべる。
糸使い「よぉーし、遊ぼう!」
巨大グモ「…………」カサカサ
朝のような真剣勝負ではなく、糸を使って互いに絡め合ったり、自ら絡まったりして遊ぶ。
糸使いがもっともリラックスできる時間である。
巨大グモ「…………」ジッ…
糸使い「ん? 彼女の刺繍を見てるのか」
糸使い「クモでも、彼女の刺繍の美しさは分かるんだな」
巨大グモ「…………」ムスッ
糸使い「ごめんごめん、“クモでも”は失礼だったな。許してくれ」
巨大グモ「…………」コクッ
たっぷり遊んだことで、糸使いは心身ともにリフレッシュされた。
糸使い(ベッドを整えて、と……)
巨大グモ「…………」クイックイッ
糸使い「――ん、どうした?」
巨大グモ「…………」ヒョイッ
糸使い「針使いちゃんの刺繍……?」
糸使いがベッドに布団を敷いていると、巨大グモが針使いの刺繍を持ってきた。
糸使い(脚で、刺繍のある一点を指し示してる……)
糸使い「!!!」
糸使い「こ、これは……!」
針使いの刺繍には、大勢の客でごった返す“祭り”の風景が描かれていたが――
その中に見覚えのある客が二人いた。
糸使いと針使いである。
人混みの中、手をつないで、楽しそうに祭りを楽しんでいる。
糸使い「なぁ、これって、どういう意味かな? どういう意味なんだろ?」
巨大グモ「…………」カサカサカサ
糸使い(ええええ、どういう意味なんだ……?)
ここからは自分で考えろ、といわんばかりにクモは寝床に走り去ってしまった。
糸使い「…………」ソワソワ…
ベッドに入り、目をつむる糸使い。
しかし、この日の糸使いがきちんと眠りに
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- 2015年10月26日 00:00
- 短かったけど、面白かった!
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