■儀式までは本当の”死”ではない
トラジャが亡くなると、その家族はランブーやソロックと呼ばれる葬儀の儀式を行わなければなりません。 ただし、資金不足が理由で、ほとんどが死後すぐにその儀式を行うことができません。
2~3週間、1ヶ月、半年、時には1年も待たなくてはいけない時もあります。 その間故人は資金が集まるまで、家族の家にある特別なスペースで時を過ごします。 でもご安心下さい。その特別な一角は防腐処置が施されているので、故人を痛めずに保留しておくことができるのです。
そして儀式が行われるまでの数週間また数ヶ月の間は、故人はまだ ” 死んでいない ” こととされ、逆に病気や痛みから解放されていく期間だと見なされます。 儀式が行われてやっと ” 死 ” が確認されるという訳です。
■儀式開始
資金もようやく集まりいよいよ儀式の開始ですが、どのように儀式が行われるのでしょうか?
最初、バッファローと豚を殺める行為を行います。 若い男子がその周りで踊りを踊ります。 踊りながらこの若い男子は飛び散るバッファローと豚の血を集め長い竹筒に入れます。 この時、権力の強かった人間ほど、殺めるバッファローの数が増えます。いわゆる「死の祝宴」です。
ちょっと残虐なイメージが湧いた方も多いと思いますが、タナ トラジャの儀式ではバッファローが10頭殺められるのはごく普通のこと、豚に関しては100頭に上ることもあります。 たくさんの動物が犠牲になりますが、儀式の後、最後にその動物達の肉を葬儀に訪れた人達に振る舞うという流れなのです。
山間の岩壁に掘られた墓。 故人をかたどった木の人形が並ぶ
■変わった埋葬方式
葬式の儀式が終わると、今度は埋葬の儀式が行われます。 しかし、トラジャの人々は土葬はほとんどしません。
2つ方法があって、1つは洞窟のような穴を岩壁にくりぬいて埋葬する、2つ目は木の棺桶に故人を寝かし崖から吊るすことです。墓を用意するのにも費用と日数がかさみ、およそ2~3ヶ月はかかります。
岩壁に掘られた墓の数々
崖から吊るされた木の棺桶の数々
故人をかたどった木の人形は ” タウタウ ” と呼ばれ、いつもこのタナ トラジャを見渡せるようにくりぬいた岩の上に並んで置かれます。 時間が経つと共に、この木の人形も腐りはじめ、崖に吊るされた白骨化した故人の骨も棺桶と共に最終的には土壌に落ちてしまいます。
故人をかたちどった木の人形達
■ 乳幼児は別
乳幼児については、先に述べた2つの埋葬方式はとらず、まだまだ成長過程にある若い木の空洞やくぼみに埋葬します。 その小さい故人は布で綺麗に包まれて木という自然の中で眠るのです。
空洞は乳幼児と共にヤシの木でできたドアで封じます。 1本の木に10人以上の乳幼児の魂が眠っており、最終的にその小さな故人は木に吸収されると信じられています。 また同時に木も命を新しく授かったとされ、更に健康に長生きすると言われています。
乳幼児の墓。 小さい命は木という自然に還るのです。 カンブリア村
乳幼児の墓。 ドアはヤシや木の枝でできています。
■2~3年に1度、8月に
埋葬の儀式が終わると宴が始まり、それが終わると皆帰宅の途につきます。しかし、タナ トラジャの儀式はまだまだ続きます。2~3年ごとの訪れる ” マネーネ ” という儀式が8月に行われるのですが、これは故人を掘り起こすものです。マネーネでは故人を洗浄し、正装させ、そして綺麗にメイクアップをして村内をゾンビのように歩いて回るのです。
マネーネ の儀式。 新品の服を着せます。
女性は綺麗にお化粧そしてもらいます。
ドレスアップしていろいろパレード開始。 村内を歩きます。
■バリ島と続く人気の地
タナ トラジャの死に関する一風変わった儀式に、毎年多くの観光客や人類学者が興味を寄せ、事実1984年には、バリ島に続き2番目に人気の観光スポットとしてその名を上げました。
タナ トラジャのプライドは今も健在、インドネシアの奇怪ながらも誇るべき風習として今も生き続けているのです。
インドネシアに住む先住民トラジャは、誰よりも自然への感謝の気持ちを忘れない素晴らしい人達ですね。 赤ちゃんが木に還るという考えは、とても自然で共感できるものがありました。