悪人「悪党仲間の不幸自慢がすごすぎてついていけない」
ある居酒屋にて――
裏社会で名を上げつつある悪党三人が、仲良くビールを飲んでいた。
犯罪者「ぐへへへ……」
外道「クックック……」
悪人「ハッハッハ……」
犯罪者「オレたち、今年もたっぷり悪事を働いたよな!」
外道「ああ、来年もこの調子で頑張っていこう」
悪人「平和ボケした奴らや正義ヅラした奴らに、悪の恐ろしさを思い知らせてやろう!」
三人「オーッ!」
悪人「……ところで、一度聞きたかったんだけどよ」
悪人「お前らってなんで悪に走ったんだ?」
犯罪者「悪に走った理由、ねぇ……」
犯罪者「へっ、たまには不幸自慢ってのも悪くねえかもな」
悪人「不幸?」
犯罪者「ああ。オレは、生まれてすぐ……親に捨てられてな」
外道「ほう」
悪人(……え!?)
犯罪者「物心つく頃には、泥水をすすり、雑草を食うような生活をしてた」
犯罪者「生ゴミから肉をみっけた時にゃ、大喜びしたもんさ」
外道「たくましい子供だったのだな」
悪人(マジで……!? 泥水!? 雑草!? 生ゴミィ!?)
犯罪者「しかし、チンピラにとっつかまって、オレはある孤児院に売られちまった」
悪人(えええ……売られた……!?)
犯罪者「そこの院長は、表向きは子供好きな善人を装ってたんだが」
犯罪者「本性はガキを痛めつけるのが大好きっていう変態ヤロウでな」
犯罪者「特にオレみたいな浮浪児は、どうせ死んでもバレやしないからって」
犯罪者「徹底的に痛めつけられた……」
外道「ああいう施設を経営してる人間は、案外腹黒いというからな」
悪人(腹黒いってレベルじゃねーぞ!)
犯罪者「耐えきれなくなったオレは、なんとか孤児院を脱走した!」
犯罪者「んで、あちこちをさまよってるうちに可愛い恋人ができた……」
犯罪者「思えばあの時が、オレの人生の絶頂期だな」
外道「ふむ」
悪人「へえ~、よかったじゃん!」
犯罪者「――だが」
犯罪者「忘れもしないクリスマスイブ、オレの恋人が強盗に人質にされた」
犯罪者「オレはなんとかそいつを説得し、どうにか恋人を解放させることに成功した」
犯罪者「だが、その時……バカな警官が銃を放って、銃弾は恋人に当たっちまった」
悪人「な……!」
犯罪者「即死だったよ……別れの言葉をいう暇すらなかった」
犯罪者「しかも警察は正当な手段だったと一連の事件をもみ消した」
犯罪者「ま、あれが決定的なきっかけだな。オレが悪に走った理由としては」
外道「警察としては、勇敢な警官が凶悪犯を射殺、という絵が欲しかったのだろうな」
悪人(えええ……重すぎるよ……悪に走った理由)
犯罪者「さて、オマエはどうなんだ?」
外道「私か? 私は……子供の頃から両親に虐待されて育った」
悪人(え!?)
外道「毎日のように、ガソリンやインクを飲まされ、動物や虫の死骸を食わされてた」
犯罪者「おいおい、いきなり飛ばしてくるねえ!」
悪人(ウソだろ……!? そんなことする親がいるのかよ……!)
外道「そんなある日、私を高額で買いたいという中年女性が現れた」
外道「両親は私をあっさりと売った」
外道「もっともおかげで、私は地獄から解放されたわけだがな」
外道「その女性はとても優しく、私は生まれて初めて人の優しさというものを知った」
犯罪者「ふうん」
悪人「よかったじゃん」ホッ…
外道「しかし、そうではなかった」
外道「あの女は私を鎖につなぎ、監禁し、性のはけ口にしたかっただけなのだ」
外道「まだ当時10歳にも満たぬ私をな……」
犯罪者「ったく、とんだ変態ババアだな」
悪人(えええええ!?)
外道「監禁生活が何年か続いたある夜、やっと待ちに待ったチャンスが訪れた」
外道「あの女は酔っ払って、私を鎖でつなぐのとドアに鍵をかけるのを忘れたのだ」
外道「すかさず私は脱出し、両親のもとにも戻らず、一人暮らしを始めた」
外道「あの頃は本当に楽しかった……」
外道「逃亡中に拾った野良犬と、穏やかな日々を過ごした……」
悪人「犬って可愛いもんなぁ」
外道「だが、まもなくあの女と私の両親が、私の居場所を探り当てた」
外道「そして逃げた罰として、私の親友だった犬をバットで殴り……命を奪った……!」
犯罪者「とことん腐ってやがるな、そいつら」
悪人「ひでえ……ひどすぎる……」
外道「私は激怒し……その三人に重傷を負わせた」
外道「すぐに警察に逮捕されたが、取り調べ中にスキを突いて脱走に成功し――」
外道「あとはずるずると人の道を外れ、悪党街道まっしぐらというわけだ」
犯罪者「なるほどねえ」
悪人「そうだったのか……」
悪人(重い、重すぎるよ……)
犯罪者「さてと、言い出しっぺのオマエはどうなんだよ」
悪人「え、俺!?」
外道「仲間にここまで話させたんだ。自分だけ話さないってのは無しだぞ」
悪人「わ、分かってるよ!」
悪人(やべえ、俺両親とは仲悪かったけど、高校卒業するまで普通に育ててもらったし)
悪人(別に変なもん食ったとか食わされたとかないし)
悪人(変態のもとに売られたとかそういうこともないし)
悪人(大切な人やペットが死んだなんてことももちろんないし)
悪人(なんとなくかっこいいから、で悪に走っちゃったんだよな)
悪人(どうしよう……)
悪人(こんなつまんない話をしたら、二人に幻滅されちゃうかも……)
悪人(こうなったら……しょうがない!)
悪人「俺には……両親はいないんだ」
外道「ほう」
犯罪者「つまり、オレみたく捨てられたってことか?」
悪人「いや……俺は無から生まれたんだ」
犯罪者&外道「!?」
犯罪者「無から生まれた!?」
外道「……どういうことだ!? そんなことがありえるのか!?」
悪人「ま、まぁ……それは置いておいて」
犯罪者「置いとくのかよ!」
外道「すごく気になるんだが……」
悪人「えぇと、話すと長いんだよ、これがまた……うん」
犯罪者「そりゃあ、一言じゃ済みそうもねえけどよ……」
悪人「そして……空気を食って生きてきた!」
犯罪者「空気!?」
外道「固体ですらないのか!」
悪人「そう、俺は空気だけで生きていけるからな!」
外道「たしかに仙人は、かすみを食っているだけで生きていけるというが……」
悪人「そっ、そうなんだよ! 俺、仙人なんだよ! 実は!」
犯罪者「すっげーっ!」
悪人「だけど、この特異体質に目をつけられて……悪い奴にブックオフに売られた!」
外道「ブックオフ!?」
犯罪者「よく買い取ってもらえたなぁ」
悪人「あ、ああ……なんとかな。50円ぐらいだった」
犯罪者「安っ!」
悪人「そんでもって……大切にしてたアリさんを踏まれた!」
犯罪者「アリさんを!」
外道「踏まれた!」
悪人「以上! これが俺が悪に走ってしまった経緯だ……」
犯罪者「すげー! やっぱオマエ、オレたちの中で格が違うよ!」
外道「うむ……驚きの人生だったぞ」
悪人「ハ、ハハハ……ありがとな」
悪人(俺のメチャクチャな嘘をこんなにもあっさり信じてくれるなんて……)
悪人(やっぱ、こいつらいい仲間だわ……悪党だけど)ジーン…
悪人「さて、盛り上がったところで追加のビールを頼も――」
ドゴォン!!!
正義マン「フハハハッ! 正義の味方、正義マン! 天井を破壊しながら参上!」スタッ
正義マン「若き悪党どもよ! 今ここで三人まとめて駆除してくれるわ!」
犯罪者「ゲッ……!」
外道「しまった! まさか、こんなところに現れるとは……!」
悪人「せ、正義マン……!」
悪人(どんな小さな悪でも滅するっていう、今話題のヒーローじゃないか!)
コメント一覧
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- 2015年11月06日 19:47
- 面白かった
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- 2015年11月06日 19:47
- めでたしめでたし
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- 2015年11月06日 19:50
- ギャグかと思って油断してた
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- 2015年11月06日 19:52
- ブックオフわろた
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- 2015年11月06日 19:59
- ブックオフにすら買い取ってもらえない俺らは無価値なんだな…うわあああああ
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- 2015年11月06日 20:10
- こういう夢落ちは良いね。
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- 2015年11月06日 20:30
- 座談系でもこういう勢いあるの好き
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- 2015年11月06日 20:42
- 締め方が上手い
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- 2015年11月06日 21:57
- 犯罪者「アリさんを!」
外道「踏まれた!」
くそっwwwww
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- 2015年11月06日 22:23
- なかなかに面白かった。
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- 2015年11月06日 22:38
- 最初のやり取りはコントにありそう
-
- 2015年11月06日 23:01
- よくできてやがるぜ…
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