16世紀のドイツに実在した屈強なる騎士「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」は、フェーデという決闘をこよなく愛した人物だ。
彼は16世紀初頭にバイエルン公の為の戦いで、多額の報酬を得ている。しかし、その代償も大きなものだった。1504年、23歳の彼はドイツ南東のランツフート包囲戦でバイエルン公アルブレヒト4世側につき戦ったが、不運にも大砲が命中してしまう。これが元で彼は右腕を失うことになる。一説によれば、大砲はベルリヒンゲンの剣に当たり、弾みで右腕を切断してしまったとも伝えられている。
いずれにせよ、腕を失ったベルリヒンゲンは鋼鉄の義手を身につけるようになった。その最初のものは非常に簡素なものだ。掌の上部には2つの蝶番で指を模したフックが付いており、剣を握れるようになっている。見た目に配慮したのか、フックには爪や節のシワが刻まれている。
1504年の戦いから間もなく制作された最初の義手
こうして思い通りに動く手を失った彼であるが、それでも戦いから退くことはなく、その後も傭兵団を率いて戦場へ赴いている。ベルリヒンゲンの生涯は、戦いと博打と金貸しに彩られているのだ。敵から農民を守ったロビン・フッドとして有名になったが、実際には身代金目当ての貴族の誘拐や、商人を襲撃し商品を奪うなどの蛮行を繰り返しており、盗賊騎士と揶揄されていたようだ。
左の人物がベルリヒンゲン。戯言を聞く暇はないといった態度だ
実用的ではあるが、融通の利かない義手で数年間戦い続けたベルリヒンゲンは、やがて第二の義手を手にしている。これは肘の部分まではめることができ、皮のストラップで固定する。指の関節部にはジョイントが仕込まれ、よりしっかりと掴めるよう工夫されている。
これを左手で曲げることで、剣や馬の手綱を握ることができた。また、バネが仕込まれており、手錠のラチェット機構のような具合で、指の位置を固定することもできた。
第二の義手の仕組みを描いた19世紀の版画
64歳まで戦い続けたベルリヒンゲンは、戦の中で「鉄腕ゲッツ」という異名で呼ばれるようになる。神聖ローマ皇帝カール5世に従いトルコ戦争やフランス戦争にも従軍するが、やがて引退し、1562年に82歳で没した時、自伝を残した。これを読んだゲーテは感銘を受け、1773年にベルリヒンゲンの生涯を題材とした戯曲「鉄の手のゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」が発表された。
ヴァイゼンハイム・アム・ザントの飾り額
この戯曲でゲッツは、若くして死ぬ、悲劇的な英雄としてかなり美化されている。作中の彼は残忍さと、細やかな感性が同居する人物として描かれる。左手を振って挨拶する理由を修道士に説明する場面で、「我が右手は、戦では便利なれど、愛の手触りを感じることができぬ。小手で覆われておるゆえ。ご覧の通り、鉄製でござる」という彼のセリフからもそれが分かるだろう。
だが、戯曲の中でも最も印象的なセリフは、ヤクストハウゼン城の包囲戦において実在のベルリヒンゲンが発した言葉が元になったものだろう。降伏を迫られた彼は、「Er aber, sag's ihm, er kann mich im Arsche lecken(我が尻を舐めろと伝えよ)」と返答した。戯曲によってこれは非常に有名なセリフとなり、現在ドイツ語でGotz(ゲッツ)は同じ意味の侮辱語にまでなっている。
ドイツ南西のヴァイゼンハイム・アム・ザントの飾り額には、鋼鉄の腕を胸に当てたベルリヒンゲンの姿とその不朽の名台詞が刻まれる。また、彼の義手は現在博物館に改装されたホルンベルク城に保管され、16世紀当時の義手を知る貴重な資料となっている。
via:atlasobscur・translated hiroching / edited by parumo
▼あわせて読みたい
古くは紀元前から。義肢(義足・義手)の歴史と現在
騎士の時代から20世紀まで、面白奇妙な鎧兜(ヘルメット)の歴史
中世に発明され歴史を変えた、世界13の武器
生まれてきた時代が違っていたらと思うとぞっとする、中世の奇妙な10の医療行為
中世の人たちはがんばった。がんばったけど残念なことになってしまった科学的絵画
コメント
1. 匿名処理班
漫画ベルセルクの主人公、ガッツのヒントになったことで間違いないね。
2. 匿名処理班
ベルセルクの主人公のモデルだね
3. 匿名処理班
ベルセルクのガッツの元ネタだね。
さすがに大砲仕込んでたり竜殺しをぶん回したりはしないがw
4. 匿名処理班
彼の勇名は、武装親衛隊第17装甲擲弾兵師団が戴いていた。
騎士十字受章者4名輩出。
師団章は、彼に因んで拳を握った鋼鉄の籠手。
5.
6. 匿名処理班
ドイツ人相手にゲッツやらないようにしよう
7. 匿名処理班
ベルセルクはよ新刊でんかな
8. 匿名処理班
こういう人漫画で見たな
義手に大砲仕込んでて、桁外れにでかいトゥーハンデッドソードブン回す人
9. 匿名処理班
大砲をつけよう
10. 匿名処理班
邦訳でとる自伝もおもろいな
血の気の多いオサーンだったんだな
11. 匿名処理班
三浦健太郎氏はゲッツのことは知らなかったんじゃなかったかな
ソースは覚えてないが
12. 匿名処理班
三浦先生はちゃんと考証しているんだね。
だからあんなリアルな世界観で描けるんだね。
13. 匿名処理班
Fateでサーヴァント化しそう
14. 匿名処理班
「俺のケツをなめろ!」
の次は
「情け無用ファイアー!」
ですねわかります
15. 匿名処理班
ガッツのモデルになっただけにこのおっさんも生前は不死者や魑魅魍魎と戦ってた
俺にはわかる
16. 匿名処理班
ゲッツというお笑い芸人いたよね。
17. 匿名処理班
ゲッツ!!
18. 匿名処理班
現代なら黄色いスーツを着てそう
19. 匿名処理班
小林源文による「黒騎士物語」、バウアー中尉の「俺のケツをなめろ」の元ネタだね
史実でヒトラーは、ビスマルク級(戦艦F.G)に続く戦艦Hをゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン、戦艦J をウルリッヒ・フォン・フッテンと命名するつもりだった
20. 匿名処理班
ベルセルくに元ネタがあったとは知らなかった・・・
21. 匿名処理班
出すんだ!ロケットパンチ〜
22. 匿名処理班
自伝の翻訳あるからね。研究者の間じゃわりかし知られてる
23. 匿名処理班
俺はサイコガンが欲しいな
24. 匿名処理班
鉄腕ゲッツの名は水曜どうでしょうで知った
25. 匿名処理班
郁恵のロビン・フッド様は最高
26. 匿名処理班
俺の尻をなめろはモーツァルトが最初ではないみたいね。
27. 匿名処理班
三浦建太郎はこの話知らなかったって答えてガッツのモデル説を否定してるぞ
28. 匿名処理班
鉄腕ガッツで検索したら画面いっぱいにガスコンロ出てきた
29. 匿名処理班
ガッツの義手に元ネタがあったなんて驚きなんだけど
30. 匿名処理班
ガッツって思ってコメ欄見たら、やっぱりガッツだった
31. 匿名処理班
史実は小説よりも…的な
「ケツ舐め」で「神に会えたら言っとけ!放っとけってなッッ!!」を思い出した。なんとなく
32. 匿名処理班
途中で義手がアップグレードするのがカッコいい
33. 匿名処理班
因みにドイツ語だと「射て」は「フォイア」に聞こえるよ。
Uボートの「魚雷発射」は「ロォーーース」。
戦艦の主砲や機銃も「フォイア」なのかな?