SIGGRAPH Asia 2015レポート:「Haptic」な技術で身体を遊ぶ
学会とお祭りのあいだ。
SIGGRAPH(シーグラフ)はアメリカで毎年開かれているコンピューターグラフィック(CG)の学会。ディズニーやピクサーなどの企業から学生までが参加し、さまざまなCG技術の論文や作品が発表される世界最大の国際会議です。
その分科会といえる、SIGGRAPH Asia(シーグラフアジア)。2008年からアジアで開催されてきました。今年の開催都市は神戸で、日本で開かれるのは2回目です。初日(11月2日)は、主に講義やワークショップ、シンポジウムなどが行なわれ、2日目から展示やデモンストレーションが始まりました。
初日、ゲームの研究開発やヘッドアップ・ディスプレイなど、さまざまな分野のワークショップが行なわれるなか「Haptic(ハプティック)」セクションでは実際に体験の機会がありましたよ。
Hapticなメディアとコンテンツのデザイン
「Haptic(ハプティック)」とは、ものに触れたときの感覚、触覚のこと。そういった触覚を擬似的に提示するテクノロジーは「ハプティック技術」とよばれています。たとえば任天堂が開発した「振動パック」もハプティック技術といえます。
CGだけでなくインタラクティブ技術の祭典でもあるシーグラフアジア。「Haptic Media and Contents Design」ワークショップには、世界各地から最新のハプティック技術とそのアプリケーションが集結しました。
やわらかロボット
「ロボットはどうしても固いっていうイメージがありますよね」と話す、東京工業大学 長谷川研究室のチームが作ったのは、可愛いクマのロボット。触ると動いて応えてくれます。からだのほとんどが布と綿で作られていて、腕を握っても中がゴツゴツしていないし、まったくロボットという感じはしません。
この「芯までやわらかいロボット」の秘密は糸。腕の部分に張られた糸が引っ張られることによって、加わった力を2方向のセンサーで計測します。それに応じて腕の付け根部分のモーターが糸を巻き取り、腕を動かしているんです。
こういう仕組みなので、やわらかいぬいぐるみらしさを保ったままロボットにすることができているんですね。研究チームによれば、将来的にはペットセラピーのような効果をもたらす、感情移入しやすいロボットにしたいと考えているそうです。
詳しい研究/論文はこちらから読むことができます。
テクスチャの科学
なんだこれ...?と不思議に思っていると、研究チームの森永さよさんが川や建物など、種別によって触覚が異なるパリの地図であることを教えてくれました。そう言われて触ってみると、場所によってギザギザしていたりつるつるしていたりすることに気づきます。
森永さんのチームが解き明かそうとしているのは、「感覚差異を反映する刺激の組み合わせ」。触覚のみによって、素材(刺激)の違いを数値化することは難しいですよね。そこで彼らは人間の類似性判断(似ている、似ていないの判断)から、違いを感じやすい刺激の組み合わせを探そうとしているんです。
実験は既存の触感選択法を拡張した方法で行なわれました。異なる刺激パターンをアクリル板に彫り、指で触れて「似ている」と「似ていない」を被験者に判断してもらい、そこからグループ分けと分析を繰り返し、最終的に5つのパターンに絞り込みました。
そうして選んだ5つの差異パターンから構成されているのが、こちらの地図だったんです。地図やずらりと並んだサンプルをみんな興味深そうに指で触っていました。
ウサギ、箱に詰めました
ウサギ…? 「やわらかい物体」の感触を描写するのは難しいことです。Haiyang Dingさんが展示したのは、ウサギのようにやわらかい複数の物体の衝突を体験できる装置。
2011年にNVIDIAの研究者らが発表したOriented Particles(OP)法は、物理シミュレーションにおいて、複数の変形する物体を高速で処理できる方法とされています。そのひとつの難点は、素材の剛性への影響が計算できないこと。つまり、硬いものもやわらかいものも同じように曲がってしまう、というようなことが起こりうるんです。
そこでDingさんは2段階での衝突検知を試みました。
OP法におけるパーティクル(物体を構成する粒)はメッシュの頂点を内包しています。つまり外側にあるってことです。まずこのパーティクルとの衝突を1レイヤー目とします。そして内部のメッシュとの衝突を2レイヤー目としたんです。
ワイヤーによって支えられたボールのコントローラーを動かすと、画面上でウサギが箱の中を動きます。他のウサギにぶつかると上で説明したような原理でやわらかい触覚が返ってきます。仕組みとしては、ワイヤーをモーターが引っ張っているんですね。
詳しい研究/論文はこちらから読むことができます。
押すのが楽しすぎるボタン
カチッと押したら気持ちよさそうな普通の赤いボタン。
さっそく押してみるとゲームの動きにあわせて押したときに感じる振動が変化します。なんだかとても新鮮な感覚です。ボタンの押しこみ距離を計算することで、バイブレーションを調節しているのだそう。
デモではノコギリをぎこぎこ切ったり風船を割ったり。どちらのゲームでもリアルタイムで押し心地が変わっていくので、ふつうにボタンを押しているだけなのに、自分の手で動かしている感じがあります。風船を割るのにも異様にどきどきしてしまいました。
今後このボタンを使うことでコンテンツへの没入感が変わるのかについても調査予定とのことです。
詳しい研究/論文はこちらから読むことができます。
ディスプレイ削れてないよね...?
思わず不安になってしまうくらいリアルな凹凸を感じられるのがこちらのディスプレイ。人差し指をのせるパッドはワイヤーでモーターにつながっています。あらかじめ記録した振動情報(加速度情報)と指の移動位置をもとにワイヤーのひっぱり具合を調節してくれる仕組み。
デモでは写真のサンドペーパーだけでなくスポンジやアイスモールドなども試すことができました。
詳しい研究/論文はこちらから読むことができます。
吸うことで外からの力を表現
ペンを動かして物体に触れると擬似的に触覚フィードバックを感じられるペンが「TAKO-Pen」。親指と人差し指を部分的に吸引することで、外からの力が加わったときの指の変形を再現しています。
親指と人差し指で隠れた部分はこんな感じ。指の腹のやわらかさで吸引される力の感じ方は多少ちがってくるそうです。
詳しい研究/論文はこちらから読むことができます。
お箸型インターフェース
HapSticks: Tool-mediated Interaction with Grounding-free Haptic Interface"by Ginga Kato, Graduate School Of Information Science And Technology, Osaka University et al.
お箸を握る力と先っぽにかかる重さを擬似的に提示する箸型インターフェース。画面のなかでジェンガや小さなブロックなどを掴んだり置いたりしていると、じっさいに手で握っているお箸でもしっかり重さを感じられます。空中で箸を操っているだけなのに...!
なにかを操る動作を擬似的に体験するときは、ユーザーがデバイスなどを装着することが多いのだそうですが、「HapSticks」はただ握るだけで使えます。
詳しい研究/論文はこちらから読むことができます。
モバイルハプティックデバイス
ハプティック技術をもっと身近に!というコンセプトから生まれたのがこちらのデバイス。イヤホンジャックにスピーカーを改造したデバイスを接続してワイヤーの繋がれたリングに指を通したら準備完了。アプリなどが出す音をデバイスが取り込み、それに応じてモーターの回転が変わり、それぞれちがうフィードバックを指で感じられます。
ギターアプリでは太い弦を弾くと強く、細い弦だと弱いフィードバックに変化。じっさいに楽器を弾く感覚により近い体験です。スマホで音楽を聴いたりゲームをしたりするときに、これまでとは一味ちがう体験を届けてくれそうですよね。
詳しい研究/論文はこちらから読むことができます。
source: シーグラフアジア2015
(Haruka Mukai、撮影/斎藤真琴)