奉仕部の三人は居場所について考える【前半】
- 2015年11月14日 22:10
- SS、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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※注意点
・原作から少し選択を変えたif的な話です
・モノローグ多い上に死ぬほど長いです、覚悟して読んでください
・想像と自己解釈で書いてる部分が多いので、他の人と解釈が違う部分もあるかと思います
・視点はコロコロ変わります
お互い話を切り出すタイミングを窺いながら淡い陽光の中を歩いていると、不意に由比ヶ浜が口を開いた。
「ゆきのんさ、出るんだね。選挙」
「ああ」
「……あたしも。あたしもやってみようと思うの」
その言葉の正確な意味を頭で理解するよりも先に、胸の内に不快感と焦燥感が訪れた。
雪ノ下が立候補すると言った生徒会長選挙に、由比ヶ浜も出ると言っている。
雪ノ下の話を聞いたときもそうだった。
頭での理解よりも先に拒絶反応があった。そうさせてはならない、と。
だが俺に感情の押し付けなどできない。まずそう考えた。
だから、それに肉付けをするように理屈を、論理を、合理性を重ねて取り繕い、俺の意思とする。さっきそうして雪ノ下に反対をしたばかりだ。
いや、明確な反対の意思は伝えていないに等しい。なんとかして対案を挙げようとしていただけだ。
先ほどの俺は否定できるだけの十分な理由を自分の中に見つけられなかった。だから俺が最初に抱えた、自分でも言葉にし難い拒絶反応は何も伝えられていない。
雪ノ下の場合は、そこに本音があるのではないかという考えが頭をよぎったから、というのもあるが。
由比ヶ浜に関しても、同様に認めることなどできない。そうさせたくないと俺の中のなにかが求めている。
だが、雪ノ下も由比ヶ浜も俺の許可など必要としていないし、理屈の上では彼女たちのほうがよほど合理的な判断をしている。だから、そんな無機質なもので覆われた言葉では彼女たちに届かないのだろう。
ならば、頭での理解より先に訪れたものが、俺のどこから来たものなのか考えねばならない。
それはきっと、感情というものだ。そのぐらいはいくらなんでも、俺にでもわかる。
ここで考えなければならないのはそれよりも前。その感情が、俺のどういった思いから発せられたのかだ。
今、由比ヶ浜と話しながらでも考えなければ手遅れになりそうな気がした。
「は?お前、なんで……」
「あたしさ、なんもないから。あの部活でできることも、やれることもなーんもないんだなって。だから、逆にそういうのもありかなーとか」
そんなこと、あるわけがない。
俺が、雪ノ下が、由比ヶ浜の存在に、言葉に、優しさにどれだけ助けられて、救われてきたのか。
こいつがこんな風に思うのは、きっと俺たちが悪いのだ。
不器用だから。照れ臭いから。恥ずかしいから。すべて自分可愛さの、偏狭な自己愛の成れ果ての言い訳。そんなくだらないことで、由比ヶ浜にきちんとした言葉を伝えていないからだ。
俺は否定しなければならない。事実、そんなことはないのだから。
「んなことねぇだろ。お前、よく考えたのか」
「考えたよ。考えて……あたしが好きな奉仕部を守るには、これしかないって思ったの。三人の中で、いなくても奉仕部が成り立つとしたらあたしだけだから」
「それは違う」
由比ヶ浜が自分をそんな評価しかしていないということが、俺の胸に締めつけるような痛みを与える。
「違わないよ。あたし、あの部活でなにもできてないもん。だから……」
弱々しく話す由比ヶ浜の目尻には涙が浮かんでいた。
否定しないと。俺の知っている、俺の期待している、俺の居心地のいい奉仕部の光景には由比ヶ浜が必ずいる。
それだけはなんとしても伝えないと。
「違う。絶対に違う。あの部活は三人じゃないと、もう成り立たないんだ。お前がいなくなったらもう奉仕部じゃない。形の上では残ったとしても、それは別のなにかだ」
「ありがと、ヒッキー。そう言ってもらえて嬉しいよ。けど、もう決めたんだ」
今さら取り繕ったような言葉を重ねる俺なんかに向かって感謝の気持ちを述べる由比ヶ浜の言葉は優しくて、力強かった。そして、瞳には決意の色が見てとれた。
俺の言葉は、願望はまだ、届いていない。そして由比ヶ浜は理解した上で言っている。生徒会長になれば自分が奉仕部に行けなくなる可能性を。
考えろ。俺が今そこにいる由比ヶ浜に、生徒会長になってほしくない理由を。
「…………俺は今までお前らのことも、自分のこともよく考えずに勝手にやってきたから、また勝手に言わせてもらう。それはやめてくれ由比ヶ浜。お願いだ」
こんなのはただの願望の押し付けでしかない。まだ明確に思考になっていない、言葉にできていないものがある。探せ。言葉にするんだ。
「やめてよヒッキー……。せっかく決意したのに、ヒッキーにお願いとか言われたら、揺らいじゃうじゃん……」
「俺が今までさんざんおかしなことやってきたのはわかってる。けど俺は……お前や雪ノ下が犠牲になって守られる奉仕部なんかいらない」
自分の言葉にハッとなる。
そうだ。俺は彼女たちの犠牲が、悲しむ姿が見たくないのだ。たったそれだけの話なんだ。
きっと由比ヶ浜は選挙に当選すれば立派な生徒会長になる。由比ヶ浜は誰よりも素敵な女の子だ。みんなにも慕われる。
最初はうまく奉仕部との掛け持ちができても、生徒会の連中も無碍にできなくなる。そしていずれ限界が訪れるだろう。
そうなると奉仕部は失われる。今の俺と雪ノ下だけでは維持はできない気がするから。
由比ヶ浜は自分が行けなくなることも覚悟して大事な奉仕部を守り、その結果守ろうとしたもの、そのものを失う。そんなの自己犠牲にもなっていない。ただの悲劇だ。
こんなにも素敵な女の子に、そんな思いをさせることをわかっていてじっとできるほど、俺は無関心じゃないし鈍感でもない。
由比ヶ浜がこう決意せざるを得ないほどに追い込まれているのは俺のせいだ。今回の依頼に対して、俺にできることがあまりにもないのだ。
雪ノ下にも言われたが、応援演説で一色を不信任にすることがどれだけ非現実的なのかは自分でも理解している。
俺にできることは本当にもうないのか?
雪ノ下が、由比ヶ浜が生徒会長になれば、奉仕部は終わってしまうのか?
奉仕部がなくなると、俺たち三人が自然に居られる場所はなくなってしまうのか?
三人の居場所。
そうだ。居場所、それは必ずしも奉仕部である必要はないんじゃないのか。
雪ノ下が生徒会長になり、生徒会から奉仕部に来れなくなるのであれば。
俺たちもそこに行くことができるなら、それは三人の居場所に成り得るのではないか。
「でも、今回は……なにも失わずに守るのは無理だよ……」
由比ヶ浜は困惑しきったような表情を浮かべ、力なく項垂れた。そんな顔、しないでくれ。
「いや、無理じゃないかもしれない。お前が生徒会長に立候補しようとしてる理由はなんだ?」
順番に考えるんだ。そうすることで見えてくるものがあるはずだ。
「それは、あたしが……好きだから。あの部活が」
「そうじゃないだろ。よく考えろ」
「なんでそんなこと言うの……。ほんとに好き、大好きなの、あたし」
「あ、いや、えっと。その……」
自分のことを言われているわけがないのに、こんなときにまでその言葉に反応してしどろもどろになってしまった。慌てて話を続ける。
「好きなのは、その、なんとなくわかってる。けどそれは奉仕部ってわけじゃないだろ。例えば、仮に雪ノ下と俺がいなくてもお前は奉仕部を守るのか」
「それは、違うかな……。あたしが好きなのは、ゆきのんとヒッキーのいる奉仕部だから」
「だろ。なら奉仕部にこだわらなくてもいいんじゃないのか」
「どういうこと?」
由比ヶ浜は首を傾げながら怪訝な表情をこちらに向ける。
「俺たち三人は奉仕部がなくなったらおしまい、関係はそこで切れてそれまでだって、お前はそう思ってるのか」
俺はそう望んでいない。由比ヶ浜もそうであってほしい、そうであってくれとささやかな祈りを込めて話す。
「ううん、そんなことない。そんなの、やだし。先のことなんてわかんないけど、卒業してもずっと一緒がいい……」
「それならなおさら、奉仕部にこだわることなんかねぇだろ。守るべきなのはあの場所じゃない、この繋がりだ」
自分の言っていることはまちがっていないか。もう一度心に問いかける。
……まちがってはいないはずだ。彼女の願いを、俺の思いを順番に考えていくとこうなる。奉仕部自体はただのラベルで、ただの部屋だ。
一緒のメンバーで同じことをやり続けたい、このままでいたい。それがお互いの求めるものであれば、きっとまちがいではない。そのはずだ。
「ヒッキー……そんな風に思ってくれてるんだ、嬉しいな……。けど、どうするの?部活とかなんか理由がないとヒッキーは帰っちゃうし、ゆきのんは生徒会にかかりきりになるじゃん……」
「あの部活がなくなったとしても別の形で、同じようにいられる手段ってあるんじゃねぇか。例えば……生徒会とか」
「……えっと、三人で生徒会に入るってこと?」
「そう、要は奉仕部の場所を生徒会に移すだけだ。もともと依頼にしてもほとんど平塚先生とか生徒会絡みなんだから、今までとそんな変わんねぇだろ」
「そっか……。それならゆきのんが生徒会長になっても、今まで通りみたいにやれるかも……」
「生徒会のことは当然生徒会全員でやる。けど個別の依頼は生徒会とは無関係なんだから、これまで通り三人でやればいい。……どうだ、無理な話か?」
「む、無理じゃないかも……。じゃあ、ゆきのんはもう引き留めないんだね?」
「ああ。雪ノ下が自分で決めたことだから、もうそれは止めない、止めちゃいけない気がする……。だから生徒会長になってもらう」
雪ノ下が生徒会長をやるのを私の意思と言ったことが、やってもいいと言ったことが本音なら。
過去に俺がやった、欺瞞を認めるような解決策を、それはまちがっていると教えようとしてくれているなら。
それは否定すべきじゃない。俺にそんな資格はないから。
その考えはきっと、最初から頭の片隅にあった。
だが今こうして立ち止まって、雪ノ下が生徒会長でもという前提で考え直したから、それに気付くことができた。
きっと俺のやり方を押し付けたままでは、彼女たちの選択を単純に否定したままでは素通りしていたのではないかという気がした。
「あ、あたしはどうすればいいのかな?副会長、とか?立候補?」
「そうだな。なんかの役職に立候補すればいいんじゃねぇか。副会長か…