戻る

このページは以下URLのキャッシュです
http://elephant.2chblog.jp/archives/52147496.html


奉仕部の三人は居場所について考える 続きと終わり|エレファント速報:SSまとめブログ

TOP

奉仕部の三人は居場所について考える 続きと終わり

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:09:44.08 ID:kAKMmD4ho

※注意点

・「奉仕部の三人は居場所について考える」の続きのエンドのみ書かれたスレです
・なのでできればそっちから見てもらえると嬉しいです

奉仕部の三人は居場所について考える【後半】

・他の注意点は前と同じ



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:19:34.60 ID:kAKMmD4ho

これから比企谷君が忘れたスマホを取りに来るらしい。

皆が帰宅の途に就いたことで気が緩み、楽な部屋着に着替えたところだったので慌てて同じ服に着替え直すことになった。

今日の楽しかった素敵な出来事を一人思い返し余韻に浸っていると、どこからかくぐもった音が聞こえてきた。

耳を頼りに音の発生源を追うと、ソファの下で微かに見覚えのある電話が振動していた。

あまり触っているところを見ないが、確かこれは比企谷君のものだ。拾い上げ画面を見ると、そうしないわけにもいかなかったのに、そうしたことを悔いたくなった。

ディスプレイには『★☆ゆい☆★』と表示されていた。



3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:21:29.34 ID:kAKMmD4ho

彼の連絡先を知っていて、傍にいるはずの由比ヶ浜さんが電話をかけるのは自然な流れだ。このポップで親近感のある登録名も彼女自身がしたものであろうこともわかる。

私には、彼が未だにこの登録名を残し変更していないことに、特別な意味があるように思えた。

それに対し私は、彼の直接の連絡先すら未だに知らない。

当然だ。これまで私は何もしてこなかったのだから。

一方彼女は最初から、どうしようもない彼に自分から近づこうとしていたし、なかなか歩み寄れない私のことを辛抱強く待ってくれていた。

自業自得でしかないのに、何を悔いているというのか。何に痛みを感じているのか。

やっぱり、私には…………。



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:22:42.72 ID:kAKMmD4ho

急にエントランスからの呼び出し音が鳴り響き、飛び上がりそうな勢いで背筋が伸びる。

来ることはわかっていたのに、何をそんなに驚いてるんだか……。

インターホンの通話ボタンを押すと、私が話すより先に彼のおどおどした声がスピーカーから聞こえてきた。

「あ、ん?いいのかこれ……雪ノ下?聞こえてる?」

液晶モニタを見れば、カメラに映されていることを知ってか知らずか、そわそわと忙しなく動く彼の姿があった。

おもわずくすりとした微笑が漏れてしまう。

「……聞こえてるわよ」

「あ、えー、あのー……比企谷ですけど……。開けてもらえませんかね……」

「どうぞ」



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:23:45.19 ID:kAKMmD4ho

鍵マークの開錠ボタンを押すと、やがてカメラの範囲から外れて液晶モニタから姿を消した。何故彼はあんなに挙動不審なのかしら……。

しばらく待つと今度はドア前からの呼び出しベルが聞こえ、彼のスマホを手に玄関に向かう。

開錠して半分だけ扉を開くと、気まずそうな顔をした比企谷君が立っていた。

「あー、えー……忘れものをした」

「知ってるわよ。はい、これでしょ。大事なものなんだから……忘れないようにね」

そう。彼が由比ヶ浜さんと連絡を取るのに必要なものだ。彼は控えめにそっと受け取り、まじまじと手の中のスマホを眺める。

「そうだな。大事だな……」

そうよね。あなたは、それでいいの。



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:25:17.58 ID:kAKMmD4ho

「それじゃあ、またね」

俯いて短い別れを告げ、閉まらないように押さえていた、彼と私を分かつぶ厚いドアから手を離す。

ドアクローザによりゆっくりと扉が閉まり始める。姿が見えなくなるその瞬間、彼の手が閉まろうとする扉の動きを遮った。

見上げると、唇を引き結んでいる彼と目が合った。

そのまま待っていると、固まっていた筋肉が解きほぐされるようにゆっくりと唇が動き、予想していなかった言葉が紡がれる。

「……あの、何もしねぇから、いやこの表現はおかしいな。ここじゃなんだから、玄関でいいから上げてくんねぇか。少しだけ、話がある」

「え、ええ。別に、構わないわよ」

深刻そうだが、いったいなんの話だろうか。



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:26:38.20 ID:kAKMmD4ho

彼に何か、犯罪まがいのことをされるとは微塵も思わない。だが、くだらない被害妄想とも言い切れない、考えるだけで吐き気を催すような拒絶の言葉が、想像が頭をよぎる。

彼を玄関に招き入れて、またすぐに鍵を掛けた。そうする癖がついているからで、別に他意はない。

「あー、なんか悪いな」

「気にしないで。それよりここでいいの?上がっても別に……」

「いや、ここでいい。すぐ、なるべく早く終わらせるつもりだから」

「ああ……。みんな、由比ヶ浜さんが待っているのね」

忘れ物を取りに来るついでに伝えるだけ、ということが強調されたように感じた。

ならばそう重要なことではないかもしれないと、そう期待した。しかし彼はまだ言いにくそうに電話を握りしめている。



8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:28:17.97 ID:kAKMmD4ho

「……あいつらには先帰ってくれって言っといた」

他の人が近くにいないということを聞かされると、急に胸が早鐘のように躍り始めた。彼の行動の意図が、目的が読めない。

「そ、そう。いいの?」

「いいんだ。…………その、れ……」

「れ?」

れ……恋愛、相談?かしら。それはちょっと困るのだけれど……。

「れ、連絡先、教えてくれねぇか」

「……そうね。そういえばあなたのだけ知らないから丁度いいわ。生徒会で連絡が必要な時もあるものね」

比企谷君のほうから聞いてくれたのは意外だった。生徒会云々は照れ隠しに咄嗟に出てきた建前だが、生徒会長になったときにこうして聞いておけばよかったと思った。



9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:30:10.75 ID:kAKMmD4ho

さほど大事でもないのにそらで言える電話番号を伝えると、彼はスマホを操作して私にワンコールしてくれた。

彼はどういう名称で私の番号を登録をしたのか、少しだけ気になった。

「……そんな、生徒会の連絡とかで聞いたんじゃねぇんだけどな」

「?……では、何かしら」

「お前の電話番号知らないと、休みに誘ったりできないだろ」

「それ、は、どういう……?」

「あー、違う。そもそもこんなこと話しにきたんじゃねぇ。ちゃんと伝えるから。聞いてくれ」

「え、え?あ、うん……」

どうしよう、頭が全然働いていない。さっきから心臓が煩いせいだ。

比企谷君は頭を掻いたりして落ち着きがないのに、目だけは逸らさず、ずっと私を見据えている。彼はそのままの視線で私に語りかける。



10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:31:08.20 ID:kAKMmD4ho

「雪ノ下、あのな……。よかったら、俺と…………」

ああ、そうか。ここまで言われて、やっとわかった。

この言葉の続きを私は知っている。

生徒会室での彼の本音を聞き、理解し、今からそれが告げられようとしているということは、予想通りということだ。

つまり、私の恋はまた実らない。

どうしようもないな、私は。

二人を祝福しようと決めたのに、どうしようもなく、耐えようもなく、痛い。胸を棘でかきむしられているようだ。

でも、これでいいの。悪いことばかりじゃないから。

これなら私は彼女と友人で居られる。私の居場所は守られる。寄る辺を失わずに済む。



11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:32:14.86 ID:kAKMmD4ho

あとは断ち切って、痛みを飲み込んでしまえばいい。守るために、失わないために必要な代償なのだから、受け入れるしかない。

そう自分に言い聞かせ、逡巡する彼に言葉をかぶせ、遮る。

「待って。その先は、私から言わせて」

「い、いやそんなわけにいくか」

「ごめんなさい。これは私の我儘だけど、どうしてもそうしたいの。私から……お願い」

彼への想いを断ち切るために。彼に言われたから仕方なく受け入れたのだという、弱い自分への言い訳を残さないために。

私から伝えねばならない。

「……そうか。お前がどうしてもって言うなら……わかった。でも、俺もちゃんと自分の口で伝えたいから、一緒に言おう」



12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:33:20.92 ID:kAKMmD4ho

「……わかったわ」

思えば、一度目は純粋な拒絶だった。彼の人となりを知らなかったし、向上心のまったくないただのろくでなしとしか思えなかったから。

二度目は、彼とそんなもので関係に線を引きたくなかった。まだもう少し続けたかった。ようやく彼と知り合うことができ、特別な何かを感じ取っていたから。

そしてこれからの三度目は、言いたくもないのに、それで終わらせるために言わなければならない。

「雪ノ下、よかったら俺と……」

「比企谷君。よかったら、私と……」

彼に続いて、掠れるような声を重ねる。

自分の声が震えているのがわかった。嗚咽が漏れそうになるのを必死に飲み込む。このまま痛みも、言葉も一緒に飲み込めたらどれだけ楽だろう。



13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:34:12.85 ID:kAKMmD4ho

皮肉なものだ。今まで散々すれ違いを続けてきた彼と私の言葉が、こんなことで重なり合うなんて。

彼は紛うことなき本音を、私は欺瞞に覆い隠された建前を。これで重なり合うのなら、私と彼はそうなるべくしてそうなっていたのだろう。

まるで出来の悪い、笑えない喜劇だ。

そして二人同時に、最後の言葉を吐き出した。

「付き合ってくれねぇか」

「友達になってもらえ……」

溢れそうな涙を堪えながら必死に絞り出した言葉は、最初の一文字目からまったく重なり合わず、最後まで言い切ることができなかった。

「………………」

彼は、おそらく私もだが、魂が抜け出たかのように呆け、二人とも口が半開きになった間抜けな表情で見つめ合う。



14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/10/17(土) 17:35:08.68 ID:kAKMmD4ho

え?比企谷君はなんて言ったの?

「いや、お前な……。会話の流れおかしいだろ。なんでそこで友達って言葉が出てくんだよ」

「わ、私はてっきり、以前あなたから言われたことをまた言われるのかと……」

「嫌だよ俺は、そんなの。お前とそれで終わらせたくない」

まずい、パニック寸前だ。わからないことが多すぎて何から話せばいいのかもよくわからない。

「ええと……まず、聞こえなかったから確認させてもらえるかしら。さっき比企谷君はなんて言ったの?」

「聞こえてね