【艦これ】キスから始まる提督業!【ラノベSS】【後半】
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第八章 すれ違う二人
「や~~っぱ、赤城さんは流石よねえ」
鎮守府の中にある食堂【間宮】にて。
注文の料理を机に置いて席に着きつつ、瑞鶴さんがため息をもらす。
「そんな事はありません、日々の精進です」
自分に寄せられる賞賛を、さも当然のように流すのも含めて流石だ。
自分の実力に対する絶対の自信と、自負。空母のエースとしての誇り。
やはり『一航戦・赤城』は別格だ、と僕は思う。
同じ一航戦である加賀さんでさえ及ばない絶対的な何かを感じるんだ。
だって・・・。
「結局赤城さんには私と一緒で、何の効果もなかったのに・・・」
「昨日の私と同じくらいの威力を出すんだもん、かなわないなあ」
そう、赤城さんは翔鶴さんと一緒で僕のキスの効果が見られなかったのに・・・。
昨日の、覚醒した瑞鶴さんと同等の爆撃をやってのけたのだ。
「当然です、赤城さんはそう容易く超えられる壁ではありませんから」
だから何で赤城さんよりも加賀さんが誇らしげに話すのかなあ。
でも、と切り出す赤城さんの口調は重い。
「私も何かしらのパワーアップが出来るかと思ったのですが・・・残念です」
「もし私にも恩恵があるのなら・・・提督に毎日キスされても良かったのですが」
「それも、指先だけでなく・・・唇の方に。ふふっ」
冗談めかした彼女の声は、それ故に冗談では無い事を物語っている。
赤城さんにここまで言われて・・・僕はドキリとするよりも、危うさを感じた。
少し生き急いでいるような気がしてしまったのは・・・どうやら僕だけのようだ。
他の3人は赤城さんの言葉を額面通り受け取っている様だから。
「ちょっとアンタ、今残念だとか思わなかったでしょうね!?」
「お、思ってない。思ってないよ!?」
「・・・そうですか、残念です。提督にとって私なんて眼中に無いですよね」
「頭に来ました。赤城さんを馬鹿にするなど、例えあなたでも許せません」
さっそくいつもどおりの板挟み、どっちに転んでもこの有様!?
残る翔鶴さんに助けを求めようと、チラリと視線を向けると。
「ま、毎日キス・・・また唇に・・・!?」
口に手を当てて、顔を赤くして混乱している。
うん、それは僕のせいだ本当にごめんなさい!
「いずれにしよ、艦娘があなたのキスで覚醒するというのは事実の様です」
「根拠はありませんが・・・私の中に、そんな確信が生まれつつあります」
『艦娘』としての、感覚。今日の成功をもって新たな感覚が加賀さんに芽生えたようだ。
確かに爆撃の成功という事実がある以上、その感覚はおそらく正しい。
でもそれだけじゃあ、安定してこの力を使いこなすことは出来そうにない。
「せめて、何で瑞鶴さんと加賀さんにだけ効果があったのかが分からないと」
「持続時間もそうです、加賀のあの輝きが続いたのは・・・20分ほどでしたか?」
「ええ、そうね。それくらいです」
「うん、となると実戦投入しても・・・」
「敵と出会う頃にはいつも通りね。やる意味ないんじゃない?」
瑞鶴さんの言うことも最もだ。戦闘が始まるまでに持たないんじゃあ意味がない。
そうやって真剣に考えるフリをして、僕は彼女と向き合うのを放棄していたんだ。
いや、それは今に限ってじゃなくて、爆撃の実験をした時からそうだった。
だから僕たちは、ここですれ違うことになる。
「それならば色々と・・・もっと実験してみる必要がありそうです」
「明日、明後日と続ければ・・・私や翔鶴にも効果が出るかもしれませんし」
そんな赤城さんの・・・当然とも言える意見に、僕は何も返せない。
何故なら赤城さんの意見を採用するということは・・・これからも僕が艦娘たちにキスをし続けるということ。
唇じゃない、例えば今日の様に指先だけだとしても・・・問題は同じことだ。
僕は良い。
こんなに可愛い女の子ばかりなんだから、嫌がる要素がない。
でも、彼女たちからしてみれば・・・どうだろう。やっぱり嫌なんじゃないかな。
そう思ったのも束の間、僕が一番恐れていた人が口を開く。
それは、先ほど勇気を出して踏み出さなかったツケなのかもしれない。
「冗談じゃないわ、これからもコイツにキスされ続けろって言うこと!?」
「瑞鶴?」
「あなた、どうしたの?」
突然の瑞鶴さんの叫び声に、みんながびっくりしているのが分かる。
・・・やっぱり瑞鶴さん、僕とキスしたのが嫌だったんだ。
そう思うと、胸の奥がたまらなく痛くなる。
「私、本当に迷惑してるんだから。これ以上コイツにキスされるなんてありえない!」
その言葉は、久々に僕の心の深いところに突き刺さった。
ここに来て二日目に、僕は赤城さんに叱られて感じた痛みとは、全く違った痛みが僕を締め付ける。
・・・なんだろう、これは?
「瑞鶴、言い過ぎよ?」
翔鶴さんのフォローも、沈んだ僕の心には届かない。
そんな状態で大した解決策を出せる訳もなく。
「そうだね、ごめん」
「あっ・・・そ、そうよ。分かればいいのよ」
だから、こんな見当違いの応えを引きずり出す。
「今後は、瑞鶴さんにはキスしないようにする」
「えっ」
「強くなれるとはいえ・・・こんな方法、試そうとしちゃ迷惑だったよね」
「・・・・・・・・・」
だから、これが今の僕に思いつく精一杯。
「嫌な思いさせちゃって、ごめんね?」
「・・・そ、そうよ。分かればいいのよ!」
瑞鶴さんが嫌がることなんて、したくない・・・例えもう、僕が嫌われていたとしてもだ。
だからそう言ったのに・・・なんで、泣きそうな顔、してるのさ。
「提督・・・」
翔鶴さんたちの、気遣いの表情が逆につらい。
「ああ、翔鶴さんたちもね。嫌だったら言ってくれていいから」
「私は構わないわ」
そう答えてくれたのは、僕にとって一番意外な人物。
「加賀さん・・・本当に?」
「ええ、指先にキスされるくらい、なんてことないもの」
「それに艦娘の力がそれで開放されるというなら・・・試すべきです」
「そうですね、先ほど言った様に・・・私は構いません」
「・・・私も嫌じゃないですから。瑞鶴は、本当にいいの?」
他のみんなには嫌がられていなかったことにホッとしつつも、僕の視線はやはり瑞鶴さんの方へ。
「・・・か、勝手にすれば!」
「良かったじゃない、私みたいなのとキスせずにすんで。他のみんなはオーケーしてくれて!」
「嫌な相手とじゃなくて、翔鶴ねえたちとキスできるんだから嬉しいでしょ!?」
「そ、そんな・・・瑞鶴さんとするのが嫌だったわけじゃ」
「この期に及んで嘘なんてつかないでいいもん!」
ガシャガシャと乱暴に食器をたたんで、瑞鶴さんが席を立つ。
「瑞鶴っ!?」
「先に部屋、帰る!」
そうして瑞鶴さんが立ち去ったあと残ったのは。
気まずい沈黙と、僕を気遣うような三人の視線だけだった。
私、最低だ。
自分の部屋へと繋がる廊下を、瑞鶴は今一人で駆けている。
なんでいつもこうなるのだろう。加賀さんと衝突していた頃もこうだった。
いや、あの頃の方がマシだった。あんなにも相手が傷つく事なんて言わなかったから。
なんでだろう、少年の事になると自分は冷静な判断が出来なくなる。
ううん、なんでだろうなんて・・・そんなの誤魔化しだ。
本当は理由なんてとっくに気づいてるのに、いつも自分は言い訳ばかりで素直になれない。
昨日の夜は、寝付けなかった。
爆撃が成功したことへの興奮で、日中は誤魔化すことができたけれど。
また、少年にキスされたんだ、今度は指先に・・・。
まるで忠誠を誓う騎士に傅かれた、物語の中のお姫様のように。少年と、私が。
一度そのことに気づいてしまうと、もう駄目。一晩中胸のドキドキが止んでくれなかった。
少年にキスされたのが嫌じゃなかったなんて、そんなこと恥ずかしくて誰にも言えない。
だって、それを誰かに言ってしまったら。もしも言葉に出してしまったら。
嫌じゃない、嫌じゃない、嫌じゃない。
それすらも誤魔化しの言葉だと・・・自分自身が気付いてしまうから。
一度認めてしまうと・・・嫌じゃないなんて言葉は簡単に姿を変えてしまう気がするのだ。
丁度瑞鶴が放った矢が、一瞬で艦載機に姿を変えて大空の向こうへと飛んでいってしまう様に。
そして、そうやって姿を変えた言葉が少年のもとへと飛んでいった時、いったい彼はどんな顔をするのだろう?
あの時の言葉と、全く同じことを思うのだろうか?
もし、そうだったら。それを考えると、瑞鶴はたまらなく怖くなってしまう。
だから、声を荒らげた。自分は迷惑したんだとアピールする為に、加賀に告げ口した。
そうして少年がどういう反応を見せるか、知りたかったのだ。自分のことを、自分とのキスをどう思っているのか、知りたかったのだ。
自分は本心を晒さないくせに