【艦これ】キスから始まる提督業! ①巻下【ラノベSS】
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白銀の矢が敵陣を真っ直ぐに射貫いていく。
赤城さんの救援には間に合った。後はこれで、敵の司令塔を叩けばそれで終わり。
他の鎮守府の艦隊を包囲している深海棲艦の統制も乱れるだろう。
『ミカサ』を取り囲む敵を抜けて。
前衛の佐世保鎮守府艦隊を囲む敵を抜けて。
ボスへと続く路を塞ぐようにして蠢く敵群を抜けて。
敵陣の奥の奥の、そのまた奥まで突き進んでいくと…。
―抜けた。
(瑞鶴さん、ここが!)
ぽっかりと穴が空いたように、目の前には久しく見なかった碧い海が広がっていて。
あんなにうじゃうじゃといた深海棲艦たちが一体としていない―いや。
一体だけ、いた。
「はじめまして、来てあげたわよ」
(さっき見たとおりの、こいつが)
この海域にいる深海棲艦どものボス、こいつを倒せば…。
その正規空母ヲ級は、ただ静かに駆けつけた僕たちを見つめていた。
(こいつは今、どんな気持ちでいるんだろう?)
「化物にそんなのあるわけないでしょ?」
それはそうだろうか。
少なくともこいつには知性がある。
この戦いに備えて、人類と同じく補給ルートを構築して戦力の増強を図り。
深海棲艦側の最も強力な武器足りうるのが数の暴力だということを理解し。
その武器を活かしてこちらを効果的に押しつぶすために奇襲策まで扱ってみせた、知性が。
その、あらん限りの知性を振り絞って立てた戦略。
それが艦娘の力の覚醒なんていう戦術に踏みにじられたという…屈辱。
渾身の一手を放った後の盤上をひっくり返されて、それでもこいつは何も感じないのだろうか。
「ヲ…ヲ…」
「ヲヲヲ…」
「ヲヲヲヲオヲヲヲオオアアアアアアアアアアアアア!」
空母ヲ級が吠える。
「提督っ!」
(来るっ!)
戦術家としての屈辱なんていう、生易しいものじゃなかった。
僕の肉体は『ミカサ』の艦内…遥か遠くにあるというのに、ピリピリと張り詰めた痛みを感じた気がする。
そう、それは言うならば呪詛。
僕たち人間と艦娘に向けられた、耐えることのない深い憎しみがそこにあった。
むき出しの怨念をそのまま艦載機に載せて。
深海棲艦空母ヲ級は、僕と瑞鶴さんに襲いかかって来た。
「ようし、こっちも」
まずは下手に口を出すことなく、瑞鶴さんに任せることにする。
これに限っては艦娘たちの方が良く知っているから、おそらく応手は…。
そうして僕の予想通り、制空権を争うための戦闘機が瑞鶴さんから展開されていく。
その隙に僕は空母ヲ級とその周囲を観察することにする。
蹴散らしてきた深海棲艦たちがここへ追いつく様子もなく、瑞鶴さんと空母ヲ級の一騎打ちの様相を呈していた。
「提督、動くわよ」
(うん)
戦闘機が撃ち漏らした敵艦載機の爆撃を防ぐために、瑞鶴さんが小刻みに回避運動を始める。
この動きもいつもより正確で早くて、爆撃は瑞鶴さんにかすりもせずに不発に終わった。
迎撃と回避の成功と同時に、今度は瑞鶴さんが爆撃機を放って攻撃を敢行する。
回避しながら矢を番え、体勢を整えたところで素早く射出するという流れるような動作。
初戦で使った戦闘機を飛行甲板で回収しながら、瑞鶴さんが叫ぶ。
「第一次攻撃隊発艦。これでどう!?」
瑞鶴さんと違い、艦載機の回収に手間取った空母ヲ級は回避への初動が僅かながらに遅れた。
戦闘機を出して迎撃するか、回避に専念するか、一瞬の迷いが生まれたのだろう。
中途半端に展開された敵艦載機の合間を縫って、瑞鶴さんの爆撃機が空母ヲ級に追いすがる。
隊列の組めない敵艦載機を数機撃墜するも…。
「突破出来そうなのは4機くらいか、無理かなあ」
(あれ、もしかして…)
敵味方の正規空母が撃ち合うという初めての状況を前に、僕は冷静に分析を重ねていく。
空母同士の一騎打ち―しかも制空権が拮抗している―状況では、中々決着が着きにくい。
同時に操る艦載機が増えれば増えるほどそれらの動きは単調になるし、それ故にお互い回避がしやすくなる。
「このままやっててもらちがあかないわ」
(うん)
「まあ、これしか方法が無いからやるけどっ」
結果出来上がるのが、真正面から敵の艦載機を突破して爆撃を仕掛けるという今の戦況。
敵もこれに終始すると思い込んでいるのなら、チャンスかもしれない。
(瑞鶴さん)
「何、今は私に任せて―」
(試したいことがあるんだ)
「へ?」
この輝きの効果が切れる前に戦闘を終わらせる。
その為には、チンタラやってても仕方ないんだ。
何度目かの攻撃権の交代が来て、その間に僕たちは準備を終わらせていた。
僕の目論見通りに事を運ぶことができれば、これで僕たちの勝ちが決まる。
敵の爆撃機を撃ち落とし、あるいは攻撃を躱して、今度は瑞鶴さんが攻める番だ。
矢を放ち、所持している戦闘機以外の全ての艦載機を大空へと解き放つと。
攻撃機に彗星と、今度は天山を混ぜた群れが空母ヲ級目掛けて飛び立って行った。
(瑞鶴さん、天山は)
「分かってる、全部右翼に展開させたわ!」
数の多い彗星は全体に、少数の天山はその全てを右翼に展開して隊列を構成する。
そうして瑞鶴さんの指示通りに艦載機たちが、一つの獣になって獲物に追いすがって行く。
対する空母ヲ級はというと、今までどおり迎撃に戦闘機を展開。
最初よりも幾分数を減らしたそれらの合間を縫って、まずは彗星が敵戦闘機を突破し予定通りの爆撃を仕掛ける。
さあ、決着の刻だ。
空母ヲ級に襲いかかるこちらの爆撃を前にして。
僕は冷静にこの戦いの最後を想像して瑞鶴さんに指示を出していく。
(旋回、旋回、旋回…もっと、もっと大きく。まだだ、まだだよ)
「うん」
重要なのはタイミング。空隙を突く一瞬の煌き。
僕は先遣隊の彗星の爆撃を空母ヲ級が滑らかな動きでいなすのを見届ける。
そして、先遣隊の動きに集中する瑞鶴さんに次の指示を出した。
(瑞鶴さん、ここで天山を)
「うんっ!」
魚雷を積んでいる分、彗星と比べて動きの鈍い天山もこれで十分な射程範囲に入った。
今まで全ての攻撃を彗星で行ってきたから、突然のこの魚雷攻撃はヲ級も意識してなかったはずだ。
回避行動を終えたばかりの奴はすぐさま次の動作に移れないだろうというのが僕の見立て。
これだけの数があれば十分その隙をつける。爆撃の回避に気を取られた空母ヲ級にとっては左側から―。
「行くわよ、天山、魚雷発射っ」
(旋回、旋回…角度を修正して)
瑞鶴さんの天山から発射された魚雷たちが、これもまた真っ直ぐにヲ級へと襲いかかった。
爆撃の回避に気を取られていたヲ級は、別の角度からの攻撃への対処が遅れるハズ…。
碧い海に、まるで飛行機雲の様に真っ白い空の軌跡を描いて。
全てを決める鍵となる魚雷たちが、ヲ級を屠らんと刃を向ける。
彗星の回避のために体勢を崩していた奴を、この攻撃で仕留めることが出来たら―。
「さあ、これでどう!?」
(瑞鶴さん、集中を切らさないで)
「ヲ…」
しかしながら敵もさるもの。僕が思ってもみなかった手法を繰り出した。
空母ヲ級は致命的な一撃を喰らうことをなんとしても阻止しようと、残った艦載機―既に展開している戦闘機以外のもの―を自身の周りに出現させる。
当然、それらは防衛に向かない爆撃機ばかりなわけで。
(今更艦載機を?)
「いっけえええ!」
もう魚雷は発射されていて、天山を迎撃しても遅い…といった僕の常識を。
奴はとんでもない方法で打ち砕いた。
「ヲ…アア…!」
(なっ!?)
「何あれ!?」
空母ヲ級の指示のもと、奴の艦載機が次々と急降下して海へと消えていく。
ああ、なる程。これで天山でトドメを刺すのは不可能になったわけだ。
(瑞鶴さん、奴の動きは無視して。角度を修正、全速だ)
「う、うん」
瑞鶴さんが艦載機に指示を出すのを見届けて僕は思う。
ああ、こいつの知性は本物だ、本物だったって。
天山の魚雷が爆発し、水しぶきが高らかに上がる。
空母ヲ級の僅か手前で、海に沈んだ奴の艦載機にぶつかって。
型破りな奇策に…天山の攻撃の、その全てが防がれてしまった。
不意を突かれた一撃にすぐさま対応してみせるその機転。
(本当に頭が良いよ、奴は)
「そうね、私なんか敵わないかも」
『ミカサ』を脅威に陥れたあの艦隊運営の手腕。
自身の生存を優先して型破りな作戦を思いつく発想力。
(本当に、手ごわい)
正面に展開した全ての艦載機が役目を終えたのを見届けて、僕は呟いた。
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