英国レコード産業協会(BPI) CEO ジェフ・テイラーが、英国ゲイツヘッドで開催された Music Futures カンファレンスで『YouTubeからの収益はアナログ盤にも満たない』と発言しました。テイラー氏は正確な数字をあげませんでしたが、2014年の YouTube における音楽の再生回数が140億回あったとしています。
BPI によれば2013年の英国でのアナログレコード売り上げは1210万ポンドでした。この数字は1994年に現在の集計方法を開始して以来最高の結果とされます。この結果には、最近のアナログレコード再評価の流れに加えて、恒例となりつつあるレコード・ストア・デイイベントなどによる売上も大きく貢献していると見られます。
ただ、ジェフ・テイラー CEO が主張する「アナログレコードのほうが YouTube よりも収益をあげている」というのは少々不正確かもしれません。
YouTube は全世界の数字ではあるものの、これまで音楽産業に対して30億ドル(約19億7000万ポンド)を支払ってきたとしており、その数字は年を経るごとに増加しているとしています。
ただ、音楽産業が動画サイトや音楽ストリーミングサービスから得る収益の低さがたびたび話題にのぼるのも事実。たとえば "ぽっちゃりシンガー" メーガン・トレイナーのヒット曲 "All About That Bass" の作曲者は「100万回の再生で約32ドルしかもらえない」と嘆いていました。
また、"ぽっちゃりじゃないシンガー"テイラー・スウィフトは Apple Music の開始の際に無料トライアル期間中の支払いを要求するためカタログを引き上げたり、当時の最新作『1989』をあらゆる音楽ストリーミングサービスに提供しないというパフォーマンスを展開しました。
ジェフ・テイラー CEO は「YouTube や音楽ストリーミングサービスは急速に発展しているのに、その広告モデルは音楽産業に充分に還元されていない」「もしそれが有料サービスへの足がかりだとしても、最低限許容できる額の支払いはあるべきだ」と話しました。
もしかすると冒頭にアナログレコードを引き合いに出したのも、売り上げが収益に直結するアナログレコードにくらべて、YouTube や音楽ストリーミングサービスは再生回数からの支払い率が低すぎると言いたかったのかもしれません。たしかに消費者は音楽を何度も聴いているのに、そこから音楽産業への還元が発生しなければ、それはビジネスモデルとして成立しません。
iTunes ユーザー全員にアルバムをプレゼントした(そして批判された) U2 のボノは、後にアップルからしっかりと代金を徴収していたことを明かした際「無料の音楽なんてありえない」と語っていました。
YouTube は先週、音楽専用アプリ YouTube Music を米国でリリースし、YouTube Red ユーザーに向け広告なしで音楽聴き放題見放題のサービスを開始しました。
YouTube の目論見どおり Red ユーザーが増えていくなら、そこから音楽産業に還元される額も同様に増加していくと思われます。ただ、すでに広告が表示される YouTube のシステムに慣れきったユーザーがどの程度有料サービスに登録するかはしばらく時間を経てみないことにはわかりません。
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