青空と大理石と少数民族と。
中国に大理という町がある。大理石の産地の町で、大理石工場が町に点々とある。なんとなくのんびりとした町だ。
この町にはかつて日本人旅行者が沢山いたという。でも今はいろんな理由があって日本人旅行者はいない。
日本人旅行者は何もしなかった。1部屋にベッドがいくつもあるドミトリーに1泊2、300円くらいで泊り、100円程度の食事を食べ、地元の外国語を勉強したい人と話したり、日本人同士でダラダラしたりしていた。それを専門用語で”沈没”という。
大理はアジア屈指の沈没地だった。彼らがいた証を探したら、”本塚”にたどり着いた。
ライスマウンテン(ライスマウンテン)
変なモノ好きで、比較文化にこだわる2人組(1号&2号)旅行ライターユニット。中国の面白可笑しいものばかりを集めて本にした「 中国の変-現代中国路上考現学 」(バジリコ刊)が発売中。
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沈没地には本がある
有吉弘行が猿岩石としてアジアをヒッチハイクで横断した頃、それを見てモチベーションがあがって、アジアを横断する日本人が続出した。電波少年だけでなく、沢木耕太郎の小説「深夜特急」も有名どころ。
今よりも汚くて雑な中国を横断し、疲れた先に西の果てにあったのが大理という天国だった。
長く住むなら、今ならネットがあれば問題ないが、当時はネットもそう速くなくて不便だ。だから皆、好きな本を何冊か荷物にいれて旅をした。
今も地元民の生活空間にはユルい空気が流れている
日本人と話したい旅行者は、日本人が集まる安宿や、カフェに集まった。集まっているうちに、日本の本がたまっていった。
これをかつて日本人がいた証拠「貝塚」にならって、「本塚」と呼ぶことにする。ぼくの造語だ。この本塚を探したくなったんだ。
大理・太陽島カフェ
これが太陽島カフェ。英語名は変わったが、昔と変わらぬ店構え
この左側の本棚に多数の日本語の本があった!本塚だ!
2階のスペースにもあった!数人では運びきれないほどの本がある。
ぼく自身も大理は好きで、これも何回目かの訪問となる。記憶だと割と最近まで日本人がいたような気がするが、日本人がいたのは随分前らしい。
オーナーに聞いたら「10年前くらいから減って、5年前にもいたけど今はいないね。日本人はほとんどこない」という。店には愛犬とオーナーの息子がいた。日本人がいたころも彼らと遊んでいたのだろうか。
「それがね、ここにいた5人の日本人たちはクスリやっちゃって全員逮捕されたのよ」と普通に話すオーナー。同じ日本人としてなんだか申し訳ない。
そうすると最新でも5年前の本でストップしているのだろうか。本塚から数年間誰も手に取らなかったかもしれない、日に焼けて埃をかぶった本をとりだした。
長い旅の中でじっくり読みたいのか小説が多い。
小説のほかにも、ガイドブックや漫画も目立つ
長居する気まんまんで持ってきたのだろうか
WindowsMeに対応のウィンドウズ便利帳!
今はなきムツゴロウの学習ノート! 地元の人なのか、最初に1ページだけにひらがなを練習した跡があった。 あとは真っ白だった。
そうそう、こんな感じのあてもない旅行スタイルも本が出るほど定番だった。
開いてみる。ワールドワイドでだらしない旅行をするための情報が詰まってる。
小学生の子供がカンフーを勝手に披露していた
大理・菊屋
もうひとつ大理には当時定番だった食堂がある。洋人街という通りの近くにある「菊屋」という食堂だ。懐かしいカツ丼の味を求めて、多くの日本人がやってきて、談笑した。
菊屋はまだ健在だった。できたのは1996年で、そろそろ店ができて20年になる。最初の10年は沢山の日本人がやってきた。
「まったく来ないよ、ゼロだよ。中国人観光客がどんどん街にやって来たかわりに外国人観光客はいなくなった」
大理の菊屋。内装は変わったが昔の雰囲気は残る。
洋人街。その名の通り、西洋人や日本人旅行者だらけ…だった。 今は中国人旅行客ばかりだ。
ぼくもこの店にはお世話になったので、いろいろ思い出話をした。日本人を相手にしていたので、オーナーは普通の中国人の感覚ではなく、どことなく今でも日本人っぽい素振りがある。
「なんで日本人が減ったんです?」オーナーはやはりそこが気になる。
「日本人の中で旅行自体がブームでなくなったのかも」「中国のイメージが悪くなりましたねぇ」「貧しくなったのかもしれません」
ぼく自身、これといった答えは思いつかなかった。
話をかえて「日本の本は今でもありますか?」ときくと、「あるよ!誰も見てないけど(笑)」との答え。見させてください!
菊屋の1階にある本棚は日本の本がズラリ。 やはり小説・漫画・ガイドブックがメインで、1990年台後半の本も目立つ。
旅行人という、個人旅行者に人気の雑誌が何冊かおいてあった。懐かしい。
新しめの本も発見!(5年前)タイやベトナムを旅した後に大理に来たのだろうか
時間が止まった本棚の使いみち
本塚には、最近の本ではなく、5年前10年前それ以上前の本ばかりがあった。
本塚をいろいろさぐって思ったのは、昔の地球の歩き方などの旅行ガイドブックが、おそらく高確率で各国の沈没地の本塚にあって、昔の状況を読むのが、それが生々しくて面白い。
しかも旅行のハウツー本だから、誰でも読めるようにわかりやすく書かれているのだ。
数年前、十数年前と現在を比較しながら読むと、より理解に深みを増す旅行となるだろう。
92年度版のガイドブック!これは古い!
物価が今と比べて10分の1くらいの安さ!やっすいなあ
でもって今の中国人の所得は今の10分の1以下である
写真にしても建物からファッションから全てが今とはぜんぜん違う!
当時の旅行者の書き込みがあるのが味があっていい。 持ち主は長崎の人だろうか。北朝鮮の民主主義のところに赤丸してあった。
いつか日本も通った道かもしれない
長崎といえば洋館だ。神戸にも軽井沢にも洋館があり、西洋人が集まっていた。
大理も外国人旅行者の町から中国人旅行者の町になった。軽井沢が外人から日本人の観光地になったときの外人の心境を共感したつもりになった。
日本の建物があるわけではないけど、日本人がいたところには日本の本がある。日本人がたむろっていた店がいつなくなるかわからないので、観光地にいったら、まず本塚を探す、それも一つの旅のスタイルなのだ。