戻る

このページは以下URLのキャッシュです
http://ggsoku.com/2015/11/future-japanese-mobile-phone-industry/


携帯電話業界、変えるのは「政府の指示」か「SIMロックフリー市場」か | GGSOKU - ガジェット速報

携帯電話業界、変えるのは「政府の指示」か「SIMロックフリー市場」か

今年から来年にかけて、携帯電話業界が大きく動くかもしれない。注目を集めているのは、日本政府が主導して、携帯電話料金の引き下げと端末購入時などに新規利用者と長期利用者の間にある不公平感を正そうとするものである。今年9月の経済財政諮問会議で安部首相が携帯電話通信料の引き下げを指示したことに端を発し、現在有識者会議などで議論が重ねられている。

このような動きはこれまでにもあった。2006年には携帯電話番号ポータビリティ(MNP)制度が開始されている。最近では昨年総務省がSIMロック解除の義務化を決定し、今年5月以降に発売された端末は条件付きながら原則SIMロックの解除が可能となった。政府は携帯各社に健全な競争を促そうと試みている。

そもそもなぜ日本の携帯電話業界はこのような状況に陥ってしまったのか。今回のコラムでは、その原因に立ち返り、日本の携帯電話業界のあるべき姿を読者の皆さんと考えていきたい。

日本市場の特殊性が生んだ悲劇

まずは、これまでの日本の携帯電話業界を簡単に振り返っておきたい。日本ではNTTドコモをはじめKDDI、ソフトバンクの3社が携帯電話業界を築き上げてきた。周囲を海に囲まれた日本の携帯電話業界は、その端末をガラケーと揶揄されるほどに独自の進化を遂げてきた。その進化に欠かせなかったのは間違い無くキャリアの存在である。

F-06B

画像は筆者が最後に使っていたガラケー「F-06B」

日本の携帯電話はキャリアが主導し、独自のサービスに適応した機種を端末メーカーと開発してキャリアモデルとして販売してきた。その結果3社の間で端末の競争が激化し、海外に比べ携帯電話の高機能化が著しく進んだ。

しかし、これが仇となった。日本市場でガラケーを販売していた国内メーカーは、スマートフォンの開発で遅れをとり、米アップルの「iPhone」をはじめとする海外メーカーの端末に軒並みシェアを奪われてしまった。そして、キャリアのロードマップに乗せられていた国内メーカーは海外市場に向けた競争に打って出る余力もなく、パイを獲得することができなかったNECやパナソニックなどのメーカーはスマートフォン事業からの撤退を余儀なくされた。

「iPhone」の販売方法は悪くない

日本の携帯電話業界というとキャリアに目が行きがちだが、ここで端末とそのメーカーに目を向けてみて欲しい。日本市場に流通しているスマートフォンは、海外に比べ未だに特殊であると言わざるをえない。日本のキャリアが販売している端末を見てみると、グローバルモデルとして発表された端末のはずなのに、キャリア独自の仕様にカスタマイズされていたり、(特にNTTドコモとKDDIでは)端末本体にキャリアのロゴを入れたりといったことも見受けられる。※キャリアロゴの挿入は、米携帯電話大手のAT&Tの取り扱う端末などでもよく見られる。

Xperia Z5 SO-01H

NTTドコモの「Xperia Z5(SO-01H)」

これは実質的にガラパゴス化が続いているということもできる。日本ではグローバルモデルが “ある例外” を除いては販売されていない状況なのである。その例外とはご存知アップルのiPhoneである。

iPhoneシリーズは、ソフトバンクが先陣を切って国内で販売し、「iPhone 4S」でKDDIが、「iPhone 5s / 5c」でNTTドコモが取り扱いを開始した。現在では3社が同時に販売しているiPhoneだが、キャリア独自のカスタマイズやロゴの挿入などは行われておらず、キャリアから端末への干渉は購入時のオプション(拒否できる)を除いては皆無と言える。「キャリアのiPhone」ではなく、「アップルのiPhone」として販売されているのである。iPhoneを購入したい消費者は、純粋にキャリアの通信品質やサービス、その料金などを比較してキャリアを選ぶことができ、中には MVNO(仮想移動体通信事業者)のSIMカードを使用する者も多くいる。iPhoneはメーカーが発表から発売までを主導するグローバルモデルの最たる例なのである。

グローバルモデルの利点としては、製造コストの低下と迅速なOSのアップデートなどが挙げられる。日本の場合、iPhoneや「Nexusシリーズ」などを除き、OSのアップデートがグローバルモデルから著しく遅れることや、サポートが早期に終了するなどといったことがよくある。日本のキャリアは端末をガラパゴス化させたがるが、古い端末へのサポートには手が回っていない状況である。

アップルがキャリアに “不平等条約” なるものを結ばせ、キャリアにiPhoneを押し売りさせているとの見方もあるため特殊な例かもしれないが、iPhoneの販売方法自体は消費者の理にかなったものと言えるのではないだろうか。

メーカーのジレンマ

アップル以外にも、グローバルモデルをそのまま日本で発売したいと考えている端末メーカーがいる。HTCは先月、「Desireシリーズ」を提げ国内SIMロックフリー市場への参入を発表した(過去記事)。狙いはグローバルモデルをそのまま日本で発売することにある。HTCはキャリアを通さず、家電量販店やオンラインショップでSIMロックフリー端末を販売し、SIMロックフリーに関する相談の受付やサポートをする専用のサービスセンターまで立ち上げている。

htc-1001-2015

今年10月に開催されたHTC NIPPONの発表会

しかし、HTCは今後もフラッグシップモデルをキャリアモデルとして提供し、SIMロックフリー端末にはミッドレンジ級モデルを提供していく予定であるという。

HTC NIPPONの玉野社長は、「日本のスマートフォン市場はキャリアが主導している。グローバルとは異なりシーズンごとにキャリアが端末を発表するという独特なものである。消費者はキャリアが出すフラッグシップモデルを追っているが、国内SIMロックフリー市場が成熟したら日本でもすぐに旬なグローバルモデルを提供できるようにしていきたい」と話している。端末メーカーは国内市場にもグローバルなフラッグシップモデルを出したいが、キャリアとの兼ね合いもありそれを素直にそのまま提供することができないというジレンマがあるようだ。

また、シーズンごとにキャリアが端末を発表するために、国内でスマートフォンを販売するメーカーはキャリアに翻弄され、グローバルモデルとしての競争力を失ってしまった(または失ってしまう可能性がある)と見ることもできそうである。

余談だが、ソフトバンクは一時「今後新製品の発表会は行わない」とする意思を表明していた。結局2015年の冬・春モデルの新機種発表会は開催されたが、「発表会を開催しない」という意思表示には、米携帯電話大手のスプリントや携帯端末卸売事業大手のブライトスターを買収した背景から、グローバルモデルを日本でも提供していこうとする意図があったのかもしれない。キャリアの慣習を断ち切るのはまたしてもソフトバンクの可能性がある。

携帯電話業界の今後

ガラパゴス化による旨味を知っているキャリアは、そう簡単にそれを手放すことはできないだろう。したがって、政府主導でキャリアに健全な競争を促そうとしているが、キャリアが端末の主導権を握っている現状ではあまり期待することはできないようにも思える。

一つの望みとしては、先にも記述したSIMロックフリー市場が成熟することが挙げられる。キャリアを問わない端末を消費者が選び、通信品質やサービス、その料金でキャリアを比較できるようになれば、キャリアの健全な競争が促されるかもしれない。国内SIMロックフリー市場への参入を果たしたHTC NIPPONの玉野社長は、「2015年5月以降は、国内SIMロックフリースマートフォンのシェアが携帯電話端末全体の1〜2割に達する兆しが見えた」との観測を10月の発表会で明らかにしている。しかしそのためには、魅力的な端末がSIMロックフリー市場に多く登場する必要がある。

国内では「Windows 10 Mobile」スマートフォンについても動きがある。先月には、マウスコンピューターとプラスワン・マーケティング(FREETEL)、サードウェーブデジノスの3社に加え、トリニティ(NuAns)、日本エイサー、VAIOの3社がWindows 10 Mobileスマートフォンの開発を表明し、今後国内で発売する計画であるという(過去記事)。今年3月には京セラも開発を表明している。

これらのメーカーの多くは、現在の国内SIMロックフリー市場の主要なプレイヤーである。Windows 10 Mobileスマートフォンを待望する声は国内の法人から多く挙がっているようだが、一般の消費者にとってもWindowsには馴染みがあり、魅了は高いように感じる。

これらの状況から、今後はキャリアからの購入に加え、SIMロックフリースマートフォンの購入も多くの人の視界に入ってきそうだ。

キャリアの販売するスマートフォンは、データ通信とセットにして割引や特典などが付けられているためお得感が強く、安心感もある。また、来年には電力の小売自由化に伴い、電力とスマートフォンのセット販売も始まる見込みで(KDDIはすでに表明している)、ますますインフラとしての価値を高めていきそうである。

キャリアのスマートフォンとSIMロックフリースマートフォンは、それぞれ魅力があり甲乙つけがたいものがある。一消費者としては、SIMロックフリー市場が成長し選択の幅が広がることは嬉しいが、端末メーカーの首を絞める状況を再現して欲しくはない。

今後の携帯電話業界について、皆さんは何を望むでしょうか。

[日本経済新聞]
[NTTドコモ][KDDI][ソフトバンク]

著者

K.Onodera

K.Onodera

プロフィール画像は飼い猫。2013年1月20日よりGGSOKUに加わり、2015年8月から編集を兼任しています。興味のあるもの全てに首を突っ込んで守備範囲を広げていきます!

コメント投稿

Latest Posts