真姫「満月の誘惑」【SS】
毎年この満月を見るとふと、あの日を思い出してしまう
あの日の私は……私たちはどうかしてたんだと思う
むしろどうかしていなかったら困る
そう、あれは十年前、今日みたいな満月が夜空に浮かんでいた………
「………はぁ」
ため息一つ。何に対して吐いたわけでもない、ただのため息
理由をあげるとするなら、そこで呑気に寝転がっている穂乃果みたいに寝られないことに……かな
でもそんなのはただの言い訳で、本当は…
「………?…真姫?」
寂しかったのかもしれない
そんな中一人、無音の暗闇の中でこの世の終わりとか自分の死とかを考えると眠れなくなっちゃうことってあるじゃない
私はμ'sの事。μ'sが終わったらどうなっちゃうんだろうって
いてもたってもいられず、こうしてベランダに逃げ込んだわけ
べ、別に泣いてなんかないけど!欠伸とかで目に涙が溜まっただけ!
「海未?」
そろそろ眠れるかなと思っていた矢先、海未が少しふらふらとした足取りで私の元に近づいてきた
あ、言い忘れたけど、今は海未の家でお泊り会の最中
穂乃果とことりに押し切られ、なんだかんだあって結局他のメンバーも泊まることに
加えて、人の家だと眠れなくなる事もよくあるわよね
閑話休題
「えぇ…ちょっと夜風に当たりたくて、ね」
もちろんこんな子供じみたこと、海未に言えるわけがない
他のみんなにはもっての外。馬鹿にされるのが目に見えるもの
「海未は?もしかして起こしちゃったかしら」
「……いえ、私も、そんな感じです」
海未にしては言い淀んだ言い方。多分眠気と相まって思考が回らなかったんだろう
「そう………じゃあ私もう寝るわ」
海未とほんの少しだけ話して安心した私はベッドに戻ろうとした
でも戻れなかった
「あっ真姫」
「ん?何よ」
「…もう少しお話しませんか」
月明かりに照らされ、にこりと微笑む海未に止められて
「……別にいいわよ。なんだか目が覚めちゃったし」
「ふふっありがとうございます。私も目が覚めてしまいました」
この時不覚にも、増してくすくすと笑う海未にどきりとしてしまった
……恐らく雰囲気のせいだ
煌めく満月。ひっそりと沈んでいる夜。微笑む美少女と二人きり
男なら間違いなくイチコロね
だから私は悪くない。悪いのは海未と満月のせいだ
それからは他愛もない話が何事も無く行われていった
時々光る唇や微かに動く首筋に目がいってしまうが、それはただ海未が客観的に見て上位に位置する美しい女性なだけであって普通な事
……そう、思ってたのに
「なっ…」
いきなり何を……
「あ、あぁすみません。今のはそう言う意味ではなくてですね」
海未が素早く否定する
「……何なのよもう。びっくりさせないでよ」
ちょっとどきっとしちゃったじゃない
「でも以外ね。海未もその言葉の意味を知ってたなんて」
「私からすれば真姫がそっちの意味で解釈してしまう事に驚きです」
ぐっ……言い返せない……
でも仕方ないじゃない。雰囲気のせいよ雰囲気のせい
でももう一つ驚いたのは………
「やけに冷静ね。いつもなら『破廉恥ですっ』って騒いでる癖に」
ちょっと反抗の意味を込めて言い返す
周りが寝ているから配慮した。なんて素っ気ない言葉が帰ってくると思いきや
「確かに。それは私も不思議です。どうしてこうも冷静でいられるのでしょうか」
逆に問いかけられてしまった
それこそ逆に知っていたら可笑しい
海未自身がわからない事が私にわかるわけないじゃない
海未は口元に手を当て、クスクスと笑った
「それもそうですね」
そのさりげない動作にすら絵になってしまうほど綺麗で、再び胸の内が大きく鳴った
本当に、何なのよ……
一瞬の静寂の後、海未に対する呆れ混じりにくぁっと欠伸が漏れた
思ったよりも時間は早く流れていたみたい
海未とのお喋りはここまで。さっさと寝てしまおう
何よりこの雰囲気と今の海未から逃げ出したかった
私と海未の周りに訪れた、不思議で浮ついた雰囲気なんて一度布団に潜ってしまえば消えてなくなるはず
「じゃあ、もう寝るから」
素っ気ない返事を残し眠気に駆られ、体を布団の方に傾けた
でも彼女は私を眠らせてくれなかった
それどころか
「真姫」
右腕を掴まれたと同時に、体ごとベランダへと引っ張られる
「ふふふ……」
気づいた時には、私と海未の間には空気の入る隙間すらなくなっていた
混乱していた割に、私は比較的落ち着いていた
それは皆が寝静まっていたおかげか、あるいは雰囲気のせいか
何度思い返しても未だ解らずじまい
「ちょっと海未。これは何のつもり」
強引に扱われたため、当然溜まっていた眠気は吹っ飛び
ほんのちょっと顔が熱くなりながら警戒と軽蔑の意を込めた視線を送る
「可愛いですね。好きですよ、その顔」
しかし海未は動じていない。というか全く話を聞いていない
普段の海未からは考えられない言動の数々
やっぱりおかしい。絶対におかしい
防衛本能が働き力づくで距離をとろうとしても、私の運動神経のなさは折り紙つき
アイドル活動外でも鍛えている海未にはなす術もない
頭も冷静になり、段々と怒りが何をされるかわからない恐怖へと変わっていく
手首を両方捕まれ、体は密着、なのに海未はただ私の顔をじっと見つめるだけ
毎日笑いあってた友達が恐怖の対象になるなんて、思ってもみなかった
「や……やめ…て…っ……」
やっとの思いで吐き出した声も震え、頬の辺りに水滴も感じる
それが海未の加虐心を刺激したのか、あろうことか
「んっ………」
半開きで震えている私の唇に優しく、自分の唇を重ねた
もう何がなんだかわからない。頭の中がぐちゃぐちゃになる
理解できるのは、本人の意思に反し、にゅるりと口内に忍び込んでくる柔らかい感触のみ
その後はなされるがまま。抵抗する気を失った私の頭と腰を逃げられないよう抱きしめ、口の中へと侵食を始めた
「っはぁ……ん、ちゅる……」
歯茎、頬の奥、舌の裏、次々と侵されていく
次第に嫌悪感は薄れてゆき、膨らんでいく快楽に身を委ねてしまった
「…ん、ふあっ……ちゅっ………」
どうして海未が手馴れているのか、どうして私はキスをしているのか
どうでも良かった。考えたところで頭が回るはずがない
ただ潤んだ瞳に映る海未の姿が綺麗で、とても綺麗で、見とれていて
「…っぁ…!………っはぁ……はぁ……」
海未が離れた瞬間、朦朧とした意識は闇の中へと消えていった
満月を見る度思い出してしまう。憂鬱
幸い、誰にも目撃はされなかった
まぁ見られたとしてもこんな事、誰にも言えないし夢だということにしてしまえるんだけど
本当に夢であって欲しかった
夢ならば海未に会うたび多少意識してしまうだけで済んだのに
翌朝、私は何事も無かったかのように自分の布団で寝ていた
しばらくぼーっとして、あぁあれは夢だったんだと半ば自分に言い聞かせるようにした
海未も普段と変わらない態度で接していたしね
でもあのときの事は今でも鮮明に覚えていて、定期的に思い出すってことは夢じゃなかったんだと我に返るにはそう遠くなかった
そして今日は十年目の満月。流石にこの歳になれば耐性もできるわね
十七、八の頃の私なんか………
「っ……あぁもう!!」
耐性なんか出来ていなかった
こんな日はいつも通り、やけ酒をして知らぬ間に寝てしまおう
これで三缶目。いつもよりも数段早いペースで空にしている
明日も仕事があるっていうのに、何してるんだろ私………
お酒には強い方だけど、それでも飲みすぎてしまえば朝が辛いのは変わらない
歩いて通える範囲で良かったわ……
「……………」
火照る顔を上に向け瞼が半開きなまま、無駄に白く光る蛍光灯を見つめる
テレビはただ付けているだけ、おつまみもなくなった。テーブルにあるのは余ったお酒とプラスチックの袋
頭から拭えきれないあの日の記憶と海未の事
思い出そうとしているわけじゃないのに、どうしても消えない
「んっ……」
自然と左手がブラウスの中へ
下着の上から優しく包み込み、力を入れた
「…はっ………ぁん……」
左手の動きに合わせ、段々と火照りも体全体に広がってゆく
疎かになっていた右手は、疼く下半身へと指を伸ばす
「んぁぁっ…!」
体がびくっと跳ねる
はしたないと解っていつつも止められない
暑さを鎮めるためにいくら身をよじっても、溢れてくる欲望と熱は抑えきれない
惰性的に体をまさぐっても快感が快感を呼び、果てるまで動き続ける
そして両手はその熱と欲望で湿った下着の中へ
ぬちゃ。くちゅ。艶かしい水の音が部屋に響き、私を高揚させる
「ん、んっ!っくぅ…あぁっっ!」
指の動きが早くなる。体に溜まっている切なさが増していく
「いっ………くぅっ……」
快感に身を委ねる体制に入った。その時
ぴんぽーん
と、体から漏れでる音とは全く異なる、機械的な音が玄関から鳴った
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