二宮飛鳥「死にいたる病あるいは乾燥させた葉を煮出し雌牛の分泌する液体を混ぜた物」
夢を見ている。とても幸せな夢を。
二宮飛鳥(14)
南条光(14)
飛鳥「愛という名の言葉は苦手だ。どれだけ望んでも手に入らないから」
光「アスカは本当に馬鹿だなあ」
飛鳥「そう愛と光は神と同じさ。信じる者の心にしかないところもね」
光「アタシはアスカを絶対に信じられる。大切な相棒だから」
飛鳥「絶対なんて、絶対にないのさ。人の心はうつろうもの。
今日のボクは昨日のボクではなく、今日の光は明日の光じゃない」
光「アスカは本当に馬鹿だなあ。
何があってもアタシはアタシだし、アスカはアスカじゃないか」
飛鳥「相変わらず痛いコトを言ってるなって顔だね。
揺れる想いは、ヒトである証さ……」
飛鳥「意思を持ったヒト……だから、かな」
光「アタシはアスカと一緒にいたい。
アスカはアタシと一緒にいたい? それとも一緒にいたくない?
それだけでいいじゃないか」
飛鳥「やれやれだ……仕方ないね、全く。
ああ、ボクはそうしたい。それだけさ。
光はボク以上にボクのコトを知っているみたいだ。己を知ったかい?」
光「アタシはアスカの定点観測者だからな。
アスカが努力し頑張る背中を見守って、その姿へ声援を送るんだ!」
飛鳥「光といると、ボクはボクを本当に矮小な存在だと感じるよ。
光の言葉は賢く聞こえる。だからボクは正義の言葉を聴きたいのさ。
絶対に間違えない光のね」
光「わ……い……しょーう?」
飛鳥「ちっぽけであることさ」
光「アスカは小っちゃくない!!! 154cmもある!」
飛鳥「光は本当に馬鹿だなあ。
あぁ、気分を害したのなら謝るよ。
だからまた昨日のボクへやさしくしておくれ」
喉が渇いた。
最初にボクが手に入れたものは、渇望。
「ボクはアスカ。二宮飛鳥」
幾度も繰り返す永劫の中で、特定の時点を最初と定義するのは勇気を求める決断だ。
なぜこんなにも渇いているのだろう? ボクは泥の中にいるのに。
静かに自覚する。そうか、ボクは泥の中にいるのか。
ゆっくりと体を揺する。寒いけど……寒くは感じない。
ゆっくりと体を揺する。大丈夫、体は泥で出来ている。
静かに自覚する。ここには全てがある。
手を振る。泥の中へとエクステが沈んでくる。
長さは上々、色はピンク。きっとこれはボクのものだ。
これにはどんな服を合わせようか? エクステを身に付け思案する。
「これを使えばボクの世界は変わるだろう。ささやかな抵抗だ」
手を振る。泥の中へと自由帳が沈んでくる。
きっとあれはボクのものだ。
泥の中をもがき、手を伸ばす。色は青。
不可思議。ボクが漫画を描いていた自由張は緑のはずだ。
それとも……ボクが漫画を描いていた自由張は金色なのだろうか?
「これはアスカの道標だ。ボクが触れてはいけない」
すんでのところで手を引き戻す。
「砕けよ」
手を振る。自由張は泥の中へと沈み、溶けて消えた。
「あれはボクには似合わない。眩し過ぎる」
なぜ触れてはいけないのだろう? きっとあれはボクのものなのに。
「ボクはアスカ。二宮飛鳥」
静かに自覚する。
なぜボクが自由帳を秘密のままにしていたのか。
秘密をアスカに知らせるというコトは、弱みをアスカに握られると言うコト。
ボク利用する為に、突け込ませる余地を与えるというコト。
アスカ以外は全て敵。
ボクにも心を許せない世界を生きてきたアスカにとって、それはどれだけの恐怖、どれほどの危険か。
喉が渇いた。
今も悔やむ。
泥の中には全てがあった。なぜ見抜けなかったのか。
なぜもっと深く考えようとしなかったのか。
アスカにとってボクの存在は、アスカに害をなすかなさないかでしかなかった。
孤独でいる為の作り笑いの背後から、ボクをじっと観察していた。
それでも、ボクは思う。アスカはボクを信じたかったのだろう。
共犯者が欲しかったのだろう。アスカはアスカ以外を助けない。
ボクへ知っていて欲しかったのか? 本当のアスカを葬り去る場所が欲しかったのか。
あれはボクがさびしさを知る為の自由帳。泥の中にいるボクはさびしさを理解できない。
「ボクは此処にいて、全て世は事もなし」
ゆっくりと体を揺する。大丈夫、孤独こそが本当の寒さだから。
体は泥で出来ている。
それでもアスカは自由帳へと書き記したのだ。アスカの行いを、アスカの罪を。
アスカの祈りをボクへとさらけ出すコトで、ボクへさびしさを伝えている。
泥の中にいるボクが孤独であるというコトに気付けないからだ。
アスカはアスカが孤独であるコトを自覚し、そしてさびしさを身に纏った。
けれどアスカには解らない、そのさびしさを消す方法が解らない。
その姿は孤独でも、動きを止めるコトはない。
「闇は消える。闇に飛び込めばね」
手を振る。泥の中へとアスカが沈んでくる。
手を振る。泥の中へとアスカが沈んでくる。
手を振る。泥の中へとアスカが沈んでくる。
手を振る。泥の中へとアスカが沈んでくる。
一度目は喜びだった。
二度目は驚愕。
三度目は恐怖、四度目は困惑。
「……あれはアスカだ」
五度目の疑問は泥を押し固め、アスカを泥土へ横たえる。
ここは泥の中だ。
泥土の全てにアスカが並べられている。
もう死んでいて動かないアスカ。ただの泥の塊。
なのにその死に顔は誰もが満足げな笑みを浮かべていた。
青いエクステを身に付けたアスカ。
紫のエクステを身に付けたアスカ。
細部は違えど、これは全てアスカであったはずのものだ。
見たコトがない、だけど最初から知っているアスカが泥の中へと沈んでくる。
ふと思い立ち、アスカを積み上げる事にした。
全ては泥の中へと沈んでくる。ならば泥の中にも外の概念があるはずだ。
泥の塊を組み合わせ、泥の中の外へと届く塔を建設する。
「命の温度を知るいい機会、か」
もはや逃れる術はなく、詫びるべき咎もない。
大丈夫、もう死んでいて動かないアスカはどこにでも―――幾らでも存在する。
「凍える前に……抜け出さないと」
手を振る。体は十分に冷えている。
夢を見ている。とても幸せな夢を。
飛鳥「地球に優しく。これほどに理性と本能が対立する概念はない」
光「アスカは本当に馬鹿だなあ」
飛鳥「ヒトが獣と共に生きるのは。
泥にまみれて裸足で猿や猪と共に戯れるコトは、そんなにも良いコトなのかな」
光「自然は操作できるものじゃないだろう。嵐には勝てないし、日差しは止められないんだ」
飛鳥「だけどボクはそうは思わない。嫌だ。
だからと言って光はボクを殺すのかい?」
光「アスカは本当に馬鹿だなあ。
アタシにアスカを殺せるはずがないじゃないか」
飛鳥「フフッ……相変わらず痛いヤツだと思っているのかな。
まぁ、光の前だからいいだろう……光も同類さ」
光「どうしてそんな風にわざと間違えようとばかりするんだ?」
光「このジャングル……原生林にいると自然の力を感じる。地球のエネルギーだ!
アタシはもらってばっかりだ。この地球、ジャングルから。そしてもちろん、池袋博士からも。
だからこそ胸を張って言える。変身ベルトがあったほうが、カッコイイじゃないか」
飛鳥「まったくだ、ヒトには文明がある。ボクは自然主義者ではないからね……コンビニ万歳さ。
ボクらじゃここで生きていくのは難しいかな。住むなら都会だし、虫除けがなかったらここに1時間といられないよ。
光がボクにとって当たり前の存在になる……喜ぶべきか、おそれるべきか。悩ましいよ、まったく」
光「アタシとアスカ、コンビを組んで手を取り合う。
ふたりのパワーが結合し生命を守る力になるんだ!」
飛鳥「光といると、ボクはボクを本当にちっぽけな存在だと定義するよ。
光の言葉は賢く聞こえる。ボクらの結合はボクの悩みをたやすく吹き飛ばす。
これぞまさしくコンビニエンス。願わくばボクも光にとって好都合な存在でありたい」
光「アスカは小っちゃくない!!! 154cmもある!」
飛鳥「光は本当に馬鹿だなあ。
あぁ、気分を害したのなら謝るよ。
だからまた昨日のボクへやさしくしておくれ」
添付 アポトーシスファイル
この時間と空間の序列に左右されない自由帳へ対し、アポトーシス処理を施す。
自由帳の所有者であるボクが自由帳を開こうとした場合、アポトーシスが行われる。
アポトーシスの対象は以下である。
自由帳の所有者であるボク
自由帳の製作者であるアスカ
自由帳そのもの
罪人の歩む道は平坦な石畳であるが、その行き着く先は陰府の淵である。
これは悲しみの市への入り口。
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コメント一覧
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- 2015年12月07日 20:16
- 読んでないが紅茶の哲学かな?
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- 2015年12月07日 20:36
- 18ページて
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- 2015年12月07日 20:47
- LeafのBGMと自動ページ送り機能があれば没入できそう
残念だが、SSという形体では俺には辛かった
でも好きな文体
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- 2015年12月07日 21:05
- ラノベってこんな感じなの?
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- 2015年12月07日 21:10
- ※4
少なくともイズルのラノベはこんな感じ
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- 2015年12月07日 21:10
- 作者読み返してないだろ
最悪に近い
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- 2015年12月07日 21:47
- 話は好みじゃないけど、過去テキストの読み込みがとてつもない。ミッシングピース飛鳥とミンナノミカタ光って、対応してるセリフが多いんだな。
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- 2015年12月07日 21:54
- ヘレンが出てきた所まで読んだけどもう無理
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- 2015年12月07日 22:01
- ※8
もうちょい頑張れ
16ページ辺りが一番面白いぞ