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「デザイナー・ベビー」がくる : ギズモード・ジャパン

「デザイナー・ベビー」がくる

2015.12.11 21:30
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先日アメリカで歴史的な「ヒト遺伝子編集サミット」が開かれ、米国内のヒト遺伝子実験にGOサインが出ました、「妊娠に至らなければ」という条件付きで。

先進的でビックリ仰天ですが、現実問題、ヒトの特性選別がくるのはもう時間の問題です。遺伝子操作の「デザイナー・ベビー」は結局、未来の現実として受け入れなければならないところまでいくんではないかと思います。以下に、その理由を詳しく見ていきます。


きっかけは中国、CRISPRの衝撃


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(Credit: Wellcome Images)


3日に渡ってワシントンDCで開かれた「ヒト遺伝子編集国際サミット」では、世界を代表する遺伝子学と生物倫理学の権威が集まり、ヒトゲノム編集の未来を語り合いました。

招集のきっかけは、今春中国がヒト胚のゲノム編集による実験成果を発表したことです。パワフルで驚くほど単純なDNAのカット&ペースト用ツール「CRISPR」を使って、致命的な血液異常の原因となる遺伝子を操作した例の実験ですね。ヒト胚(受精卵)は廃棄処分したとのことですが、なんせ受精卵、つまり次世代まで受け継がれる「生殖細胞系列」に関わるゲノム編集は世界初。世界中がオイオイ!となりました。

サミット主催委員会は会議の内容を声明にまとめて発表妊娠につながらないことを条件にヒト遺伝子配列の編集をOKとしました。中国の事件以来、風当たりが強くなっていたことを考えると、先手で攻めてる印象ですね。CRISPR開発を支援した研究者を含む一部の専門家からは、ヒト遺伝子編集にモラトリアムを求める声もあがっていましたので、なおさらです。

ただし、「デザイナー・ベビー」の未来を認める用意はまだないというスタンスです。理由は、テクノロジーがまだ恐ろしく未熟だから(これはそう)。技術・実践・倫理の問題もあるのでずっと認められないかもしれない、と論じています。

まーそうは言ってもヒトの特性選別はもう待ったなしですよ。GMOベビー(GMO=遺伝子組み換え作物)を作っちゃならんと禁じることは、今は100%正しい。しかしその今の状況が未来永劫続くかというと、そうじゃない。そんなはずがないんです。


この研究はOK


因みに委員会が認めたのは基礎研究、前臨床実験です。以下の領域なら、適正な取り締まりの枠組みを設けさえすれば、禁じる理由は特にないということです。

  1. ヒト細胞の遺伝子配列の編集を行なう技術開発
  2. 提案された臨床用途の潜在的メリット&リスクの特定
  3. ヒト胚と生殖細胞系列細胞の生物学研究

なお、研究でできたヒト胚(受精卵)や、遺伝子操作した細胞は妊娠に使ってはいけない、という条件つき。


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(Credit: NIH)


今は海外でも研究に使わせてくれっていう声が盛んになってますからね。ロンドンのフランシス・クリック研究所も先ごろ、英国ヒト受精・胚研究認可庁(HFEA)にヒト胚操作に遺伝子編集技術の使用許可を求める申請を提出したばかりです。

委員会ではさらに、次世代に遺伝しない体細胞の遺伝子編集ならOKとしました。こちらは比較的有効で安全だと認めてる科学者も多いので、特に問題視されることもなさそうです。体細胞の遺伝子編集には、嚢胞性線維症、筋ジストロフィー、一部のがん、その他の遺伝子異常の症状を和らげる効果もありますからね。ただ体細胞の治療法は、症状改善が長続きしないことも多く、治癒効果を維持するには一生何度も繰り返し治療を受けなければならない、という問題が。

それもあって、否応なく生殖細胞系列の治療法に大きな期待がかかっているのです。


生殖細胞系列が越えてはならない一線


今回の委員会では、この生殖細胞系列の操作が最大の争点となりました。

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まだこれがOKなところまではいっていない(映画『ガタカ』より)


委員会としては反対の立場です。CRISPRをはじめ今のゲノム編集技術は、まだ実用にはとても耐えられないものであり、DNA編集でミスが生じる確率も非常に高く、狙ったのとぜんぜん違う突然変異、胎生初期の細胞編集不全につながる恐れもあるっていうんですね。そこの辺りを含めて科学的・技術的問題が解決できない限り、デザイナー・ベビーつくろうなんてゆめゆめ思っちゃいけないよ、と。

まあ、ハッキリ書いているのはそこぐらいで、ほかの問題のスタンスはわりと曖昧です。ゲノム編集は遺伝性の病気を減らすのに使えるじゃろうと言ったかと思えば、まかり間違えばヘンな人間のキャパ高めるのにも使われかねないと警鐘を鳴らしてみたり。要するに、むちゃくちゃ長生きする人間、頭脳明晰な人間、身体能力が高い人間も作れちゃう、という危惧ですね。

これはやっぱり誰もが考えることみたいで、研究者の間からはトランスヒューマニスト(超人主義者)の気がある人がこんな遺伝子操作の技術を手にしたら、ほぼ間違いなく自分の遺伝子操作してエンハンスした子どもつくるだろう、親同士の「軍備拡大レース」がおっぱじまっちまうぜ!と未来を憂える声も出ました。

委員会はまた、遺伝する遺伝子操作はもっと大局的視野に立って考えないとだめだと力説しています。一度操作したら子や孫の代まで脈々と受け継がれていくので、人類からおいそれとは排除できなくなる。それに一部の集団だけ孫ひ孫の代まで恒久的に能力UPできるってことになったら、「ますます社会の不平等が進んでしまったり、強制的にやらざるを得ない状況が生まれる」し、「人類の進化の道筋をこのテクノロジーで意図的に変えてしまうことには道義的・倫理的な問題もある」と書いています。

ただ、そんな不安をいくら書き連ねたところで、遺伝子操作で得られる大きなメリットの前には無力と言わざるをえません。逆にそれだけのメリットがありながら禁じるのは道義的責任に逆らうこと、という言い方もできます。


得るものが多い


「なんせ途方もないメリットだからね。途方もなくデカい」

こう語るのは、ニューヨーク大学付属ランゴンメディカルセンターの生命倫理学者のArthur Caplanさんです。

取材で氏が真っ先に挙げたメリットは、医療費の大幅削減です。あと遺伝病で悩む人の多くも、もしかしたら子どもに病気が遺伝する心配抜きで自由に恋して結婚して子どもをつくることができるようになるメリット。子孫はもっと健康で長生きになって、人間のエンハンスメントが起これば人はもっと「強く賢く速く健康で、よく休めて、もっと社会に順応するようになる」とCaplanさんはバラ色の未来を展望していました。

法律の専門家で生命倫理学者のLinda MacDonald Glennさんも氏と同意見です。ゲノム編集で人間の潜在能力と生産性は高まり、苦しみは減り、人類全体の状況が改善されるだろうと言います。

オックスフォード大学の生命倫理学者Julian Savulescuさんも、嚢胞性線維症やサラセミアのような遺伝病の治療や、ほかに対処がない難病の解決に役に立つんだから、ヒト胚のゲノム編集は推奨すべきだし、いわゆる「遺伝の宝くじ」にもこれでやっと終止符が打たれる、と語っています。

みんなこの技術で、金髪碧眼の「アーリア人」みたいな支配民族の競争が生まれるのではないかと心配している。だがね、そうみんなが論じるときには重要な点を見落としている。体の宝くじ、つまり自然淘汰には平等なんてもの最初から一欠片もないという点だ。ある者は才能に恵まれて生まれ、ある者は短命で苦しい人生、重度の障がいを背負って生まれる。遺伝的に優れた支配階級の誕生はそりゃ心配だよ。だけど遺伝的に貧乏くじを引く人たちのこともちゃんと考えてやらないといかん。


とうぜん、良いことばかりではありません。先のCaplanさんが指摘していたのは、ゲノム編集で「持てる者」と「持たざる者」の格差がますます広がることです。さらに、障がいや不完全なものを受容できない社会になって、人間の多様性が「狭まる」ことも警戒しなければならない、と述べていました。


故なき恐怖


委員会が今回目指したのは、未知の害を未然に防ぎ、予防原則を再確認することです。

ただ、予防原則には融通が効かない面があるのが難点だと、Glennさんは言ってます。「予防原則は、無問題なことを証明しなければならないのよ。[...]現代生活のすべて(自転車、電子レンジ、携帯電話)に予防原則を当てはめてたら、技術の進化なんてとてもじゃないけど無理ね」


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(Credit: sabianmaggy/Flickr, CC BY-SA)


また、委員会の「人類の進化の道筋をこのテクノロジーで意図的に変えてしまうことには道義的・倫理的な問題もある」という姿勢も問題で、換言すれば「人類はもうそこまできてしまった。道筋を変える道義的責任があるのではないか」という言い方もできないことはないんですよね。むしろそれをしないのはダーウィンの唱える自然淘汰に屈することではないか。自然淘汰なんて残酷なトライアル&エラーの繰り返しではないか。理想とほど遠い結果につながることだってあるのだし、と。

Glennさんはさらに、ゲノム編集を禁じることは医療の目的そのものに関わることだと言っています。「医療の目的は病気を治すこと。病気が治せないなら、その苦しみを和らげること。患う人に安らぎとケアを与えたいという思いやりの心がコアにありますからね」

あと、アメリカには「生殖の自由(reproductive freedom)」とか「妊娠選択権(procreative choice)」というのがあるんだそうでして。「これは子作りの人数と方法に政府は干渉しないというものですね。干渉すると妊娠の自由に抵触し、一部の州が”精神的に薄弱”な人に避妊手術をした戦前のBuck vs Bellの時代に逆戻りですよ」とGlennさんは言ってましたよ。

遺伝子操作は子孫に悪影響を残す、根絶が難しいという主張も、本当かどうかは未知数です。人の特徴は、能率に応じて取捨選別(廃棄)されてゆきます。親にいいことは、たぶん子どもにもいいだろうし、もしダメなら子ども世代が、その時代のテクノロジーと時流に合わせて元の遺伝子のブループリントに「先祖返り」して復元すれば済む話ではないかと(訳注: ちょっと! )。

それに…修正とエンハンスメントは密室で起こることではありません。親が医師と話し合って、ガイドラインと政府の規制を守りながら、進めますよね。遺伝子操作解禁→遺伝子エンハンスメントが野放しに広まる未来、というのはない気がしますよ。

最後にひとつ。「ヒトゲノムは世界中のすべての国が共有する」という委員会の話も、どうかなーと思いました。個別のヒトゲノムは個人のものであり、「世界中のすべての国」のものではありません。だいたい決定的な1体の「ヒトゲノム」と呼べるようなものがあるかどうかも怪しいです。今年、遺伝学者が世界中の2,504人のゲノムをスキャンしたら、何通りの違いがあったと思います? 8800万通りですよ。人間のDNAは99.9%共通で、残りたったの0.1%で個体差が出るんだけど、その0.1%の中に8800万通りの違いがあったんです。まあ、委員会が言ってるのはそういう意味の「共有」ではないかもしれないけど。


是々非々で規制する


そんな感じで、いろいろああでもないこうでもないと書いてはいますが、委員会も未来永劫絶対ずっと許されないと書いているわけではなく、可能性はあくまでもオープンという結論です。

人類の健康と幸福を推進し、許容されない活動を阻止するためには、国際委員会がヒトの生殖細胞系列の編集について許容範囲の基準を決め、規制の足並みを揃えるべきだ。

本サミット共催団体が率先して、ゲノム編集の臨床活用の可能性を話し合う国際的な議論の場をつくり、国会に情報提供し、指針とガイドラインをまとめ、諸外国の調整を図るものとする。


モラトリアムではなく、対話を続けていこうじゃないか、と。実に建設的で前向きな結果報告ですね。正反対の結論に転んで、このクリティカルな研究領域で米国を後退させていても不思議ではなかったのに、そうはなりませんでした。このまま数年、数十年で科学が進んだ暁には、安全で効果的で万人に開かれた遺伝子介入のいとぐちが見えてくるやもしれません。


George Dvorsky - Gizmodo US[原文
(satomi)
 

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