勇者「女神から能力を授かった」【後半】
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師範「な、ない! ないぞ!!」
けんし「おとうさん、あさからうるさい!」
師範「す、すまん」
天使「どうしたんですか?」
師範「実は我が家に代々伝わる剣が無くなっていたんだ!」
少女「それはそれは」
天使「大変ですね」
鬼娘「泥棒とか許せないッス」
師範「…あの剣が世に出たら恐ろしいことになるぞ」
師範「…おまえ、今でこそ落ちぶれたが、これでも昔は国で一番の流派だったんだぞ……」
けんし「そうなの?」
師範「…まあ、いい。この国には伝説の二振りの剣があると言われる」
けんし「…ふうん?」
師範「一つは『光の剣』という幾多も魔を打ち払ったと伝えられる剣。しかし、今ではその所在は分かっていない」
少女「…おや?」
天使「光の剣って……」
けんし「これのことかしら?」
けんしは『光の剣』を掲げた!
師範「…………」
師範「本物っ!?」
鬼娘「すげえ!」
師範「取り乱してすまない」
けんし「ごきんじょにめいわくよ」
師範「すまん…」
天使「まあまあ。お話の続きをお聞かせください」
師範「う、うむ。我が家に伝わっていたのは『闇の剣』。『光の剣』と対をなす呪われた剣だ」
鬼娘「呪われた武器ッスか?」
師範「凄まじい力がある代わりに、使い手の心を蝕み、殺戮を愛する殺人狂に変えてしまう。とても常人の扱えるものではないんだ」
天使「そんな剣が盗まれたのですか…」
師範「うむ。地下室に封印していたのに、封印が解かれていた。口外したことは一度もないんだが」
少女「頃合いからして犯人は勇者くんかもしれないね」
師範「…しかし、あの子も『闇の剣』のことは知らないはず」
けんし「…きのうのよる、したからこえがしたわ。だれかがよぶこえ。きもちわるいこえだった…」
鬼娘「耳はいいッスけど、そんなの聞こえなかったッスよ」
天使「きっと剣を使える人を呼んだのでしょう」
天使「……」
少女「まだ断定はできないけどね」
けんし「だいじょうぶかな…」
少女「なんにせよ、二週間後、僕たちは彼に会えるだろう」
天使「例の催し物ですか?」
師範「兵士と傭兵を集めてのパーティーとやらに参加するのか。税金の無駄遣いはやめろと言いたいが、今の国は明らかにおかしい」
鬼娘「……」
師範「…戦争の噂もあるし、この国はどうなっちまうんだ」
少女「鬼娘くんにも協力してもらうよ」
鬼娘「もちろんッスよ! オレはご主人の性奴隷ッスから!」
師範「う、うん?」
天使「あ、あはは、気にしないでください…」
少女「それ、良くない誤解を与えるからやめようか」
鬼娘「ほんとッスか? それならやめるッス」
天使「それで、どういう作戦でいきますか?」
少女「適当に傭兵と兵士側に混じろう」
鬼娘「なっ、どうやってッスか?」
少女「僕は『変身魔法』が使えるからね。適当な傭兵でも襲って、傭兵としての契約書を奪って成り代わるんだ」
天使「手荒ですね。以前の『透明魔法』でよろしいのではありませんか?」
少女「『変身魔法』の方が消耗が少ないのさ。潜り込み、相手の作戦を妨害。それとすでに中枢に入り込んでるであろう魔物の廃除だね」
少女「即座に魔物と判断できる方法があればいいのだけど」ちら
鬼娘「オレもたぶんすぐには分からないッス…すいません…」
天使「心の中でも読めればいいんですけどね」
少女「言っても始まらないさ。でも、やっぱり不意打ちされたくないね」
けんし「マモノは、なんとなくわかるわよ」
少女「うん?」
けんし「なんか、こう、びびっ…て」
鬼娘「ホントッスか?」
けんし「わるいマモノなら、すぐわかるわ!」
少女「信頼していいものかな」
天使「この子はかなり特別なようですし、ある程度は大丈夫な気もします」
少女「……うん、過信しなければ保険にはなるかもしれないね」
師範「待て、話についていけないぞ」
天使「その祭典に魔物が襲撃してくるそうなんです。だからそれを食い止めようという話です」
少女「僕たちにこの国の命運がかかっているみたいだね」
師範「そ、そんなところに着いていくことなんて許さんぞ!」
けんし「なら、おとうさんをたおして、むりやりいくわ!」
師範「な、生意気な! 勝てると思ってるのか……ま、まだこの時期の娘なら勝てるはず…」
試合!
師範「参りました」
けんし「まだまだ、しょーじんがたりないわ!」
師範「なんなんだよ…ウチの娘は…どうしてこんなに強いんだよ…」
鬼娘「うわあ…滅多打ちッスね」
少女「…彼が弱いんじゃなくて、あの子が強すぎるんだ」
天使「そうです、だからそんな目で見てはダメですよっ」
師範(もうやめて!)
師範「だ、だが、可愛い娘を危険な目に遭わせるのとは、話が別だ」
けんし「まけたくせに、おうじょーぎわがわるいわね!」
師範「うるさいっ!」
けんし「…アタシは、しなないわよ。ぜったい、もどってくるんだから」
師範「…だが、お前まで失ったら、俺は…」グスッ
けんし「あまえないでっ!」べちんっ
師範「いでえっ!」
けんし「じぶんだけが、かなしいとおもわないで! アタシだって、おとうさんと、いっしょにいたいわ!」
けんし「でも、ほうっておけないわ! アタシも、ちからになりたいの! このままなにもしないでいることなんて、できないのよっ!」
師範「…………」
少女「なんだか勇者くんみたいだね」
天使「…幼馴染だから似通うところがあるのかもしれませんね」
鬼娘「あのチビ、かっこいいッスね!」
少女「ああ見えて、実は勇者くんの剣の先輩だよ。ご主人の先輩は敬っておくのがベターさ」
鬼娘「そ、そうなんスか? 分かったッス」
少女「しかし、彼といい彼女にはといい、どうやら何かに依存する傾向があるのかな。強いけど、脆いね」
天使「あんなに優しくて強い娘が、勇者さんに酷いことをしたとは到底思えませんが…」
少女「誰が本当はどんな人間かなんて、分からないものなのかもね。勇者くんもそうさ」
天使「……そう、なのかもしれません」
師範「…まったく」
けんし「……」
師範「……好きにしなさい」
けんし「!」
師範「ただし、絶対無事に帰ってこいよ」
けんし「…おとうさん、ありがとう!」ぎゅぅ
師範「はは、まったく。母さんに似たな。敵わない敵わない」ぽんぽん
師範「はあ、それにしても『闇の剣』、大丈夫か…」
少女「お茶がおいしいね」
天使「…こんなに寛いでいていいんですかね」
少女「慌てたってしようがないさ。勇者くんを見かけたという人もいないし、新しい情報もない。大人しく待つほかないだろう」
天使「そうなんでしょうか…」
鬼娘「オレは道場の子どもたちに差し入れ届けてくるッス」
少女「ああ、うん。君と天使くんが作ったんだよね。きっと喜ぶよ」
鬼娘「えへへ、行ってくるッス」
けんし「もっと、こしをふかく! たたきわるつもりで、うちこみなさい!」
教え子A「お、おっす!」
けんし「そこっ、ちゅうとはんぱなきもちで、けんをふらない!」
教え子B「す、すんません!」
教え子C「あの女の子、誰だ? すげえ偉そうだけど」ボソボソ
教え子D「師範の親戚だってさ。 アネさんに似てるよな」ボソボソ
教え子C「そういえば確かに」ボソボソ
けんし「しゃべってるよゆうがあるなら、はしりこみをさせるわよっ」
教え子C・D「ま、まじめにやります!」
師範「…あいかわらず厳しいなあ」
鬼娘「おやつ持ってきたッスよ!」
師範「おっ、それじゃあ休憩にするか」
教え子E「やっと休めるー」
教え子F「厳しくなったなぁ。最近、ぬるかったのに」
鬼娘「頑張るッスよっ。ほらもっと食うッス」
教え子G「おっ、おっす」
鬼娘(こうやって、ニンゲンを見てみると悪いヤツらって感じがしないッスね)
鬼娘(ニンゲンを殺すのが、オレたちの本能ッス。でも本能だってうまく扱えば……やっぱり難しいッスかね)
鬼娘「……」ちらっ
教え子G「……」かあっ
鬼娘(まあ、何とかなるッス!)
鬼娘「……」
鬼娘(…戦いかぁ)うずうず
・・・
少女「うーん、今日も良い天気だね」ごろごろ
天使「もうっ…少しは手伝ってくださいよ」
少女「僕は家事炊事はできないんだ。全部アステリオスにしてもらってたしね」
天使「あの魔牛、そんなに家庭的だったんですか!?」
少女「ふふ、君に拷問を加えてるだけではなかったんだよ」
天使「……」
少女「…あー、うん。その件については、仕事とはいえ悪かったと思ってるよ」
天使「分かってますよ。私も他人のことは言えませんから」
少女「…エセ幼女の父親さんは?」ぐてー
天使「村役員の集会だそうです。二人は教え子くんたちと外で遊んでくるって朝から出かけてましたよ」
少女「子どもたちは元気だね。鬼娘ちゃんも中身は子どもだし」
天使「それでも、家事はどこかの引き篭もりさんよりはこなしてくれますけどね」
少女「嫌味な言い方だね。君は小姑か」ごろごろ
天使「……」
天使は『即死魔法』を唱える!