456プロのアーニャちゃん
【AM 05:45】
――おはようございます。
「ドープラエ ウートラ。おはよう、ですね」
CGプロの朝は早い、という訳でもないらしい。
この時間を指定してきたのは何を隠そう彼女自身である。
――いつもこの時間に起きているんですか?
「いつもはもうちょっと遅い、ですね。今日は、見せたいものがあるから」
部屋の前に佇む彼女はスリッパにパジャマ姿だ。
ナイトキャップはお気に入りの一品らしい。
――見せたいもの、ですか。
「ダー。静かにお願いしますね?」
シンデレラガールズプロダクション所属アイドル、アナスタシアさん。
彼女の長い一日が、いま始まる。
― = ― ≡ ― = ―
総力取材シリーズ
『ノーメイク』
⑥ / CGプロダクション・アナスタシアさんの場合
― = ― ≡ ― = ―
【AM 05:50】
――お邪魔します。
「どうぞ」
静かに玄関の扉を開け、足音を忍ばせてお部屋にお邪魔する。
夜も明けない内であるため薄暗いが、年頃の女の子らしい可愛らしい部屋だ。
むやみやたらと良い匂いがする。本当に良い匂いである。
「しーっ」
アナスタシアさんが口に指を立て、そのまま床を指し示した。
「くー……すぅ…………すやぁ……」
カメラを向けた先には布団が一組。
銀髪の、しかしアナスタシアさんとは別の少女が眠っていた。
実に安らかな表情で寝息を立てている。世界平和である。
「見てください」
――この娘は?
「蘭子です。可愛いです」
神崎蘭子さん。
二代目シンデレラガールにも輝いた人気アイドルである。
普段の勇ましい彼女からは想像も出来ないような光景がここにはあった。
――それで、見せたいものとは?
「? 蘭子です。すごく可愛いです」
――なるほど。
意外にもベッドではなく布団に寝そべっている神崎さん。
床に脇腹を預け、ごろりと横になって大きな熊のぬいぐるみを抱き締めている。
ふかふかの首元へ神崎さんが鼻を埋めていた。
「このコの名前はくまちゃん君です」
――くま君、ですか
「ニェート。くまちゃん君、です」
――くまちゃん君。
その後、アナスタシアさんによる神崎さんの可愛さ講座が十五分程度続いた。
実に興味深い内容であったのだが、ここは涙を飲んで割愛させて頂こう。
「……ん……むゅ……」
神崎さんが動き出して、ゆっくりと上半身を起こした。
寝ぼけ眼を擦りながらアナスタシアさんへ目を向ける。
「ドープラエ ウートラ。おはようです、蘭子」
「……おはよぅー…………?」
次いで我々取材班へ目を向け、もう一度アナスタシアさんへ。
そして三度我々へ顔を向けると、
「……ばっ、ばばばばばかばかばか! えっち!」
慌てて布団へ潜り込んで完全な防御態勢をとった。
「痴れ者っ! 我が居城を荒そうとは何たる粗暴な輩か!」
(何なんですかぁ! 早く出てって~~っ!!)
「アー、蘭子。取材で」
「来るなら来るって言ってよー!」
くまちゃん君でぽこぽこと叩かれ、我々はたまらず一時待避した。
【AM 06:50】
「……」
「お待たせしました」
アナスタシアさん達が身支度を整えて食堂へとやって来る。
神崎さんは頬を膨らませてこちらを見ようとしない。
アナスタシアさんに耳元で何かを囁かれ――それにしても近い――ようやくこちらを向いてくれた。
「……煩わしい太陽ね」
(おはようございます……)
――我が漆黒の翼にて覆い尽くさん。
(おはようございます)
「…………!?」
朝食はどうやらバイキング形式のようだ。
他のアイドルの皆さんもめいめいトレーを手に楽しげな表情をしている。
それにしても良い匂いがする。出来ればここに住みたい。
「蘭子の分、持って来ました」
「あ……ありがとうっ」
神崎さんのトレーにはクロワッサンに牛乳など、やや少なめの洋食が並ぶ。
アナスタシアさんの方はご飯や味噌汁など、意外にも純和風の彩りだ。
――お二人とも、朝はいつもこういったメニューで?
「世の理は絶え間なく揺らぎ、一つとして同じ須臾は無い」
(気分で色々かなー)
「私はだいたい同じです。朝はお味噌汁、ほっとしますね」
ここで改めてご紹介といこう。
彼女はアナスタシアさん。現在17歳、ロシアと日本とのハーフだ。
生まれはロシア、現在は日本暮らし。CGプロダクションには2年前から所属している。
神崎さんがシンデレラガールとなった先程の話を覚えておいでだろうか。
何を隠そう、彼女はその時の第二位に輝いた実力者でもある。
神崎さんとはユニットを組んでいる訳ではないものの、ご覧の通りとても仲睦まじいようだ。
「蘭子は今日もシンパチーチナ……可愛いですね」
「ふむぐっ」
クロワッサンを喉に詰まらせたのか、神崎さんが急いで牛乳を流し込む。
とても仲睦まじいようだ。
【AM 07:25】
天気は快晴。
プラットフォームに立つアナスタシアさんもどこか機嫌が良さそうだ。
我々が立っているのはホームの端である為、初夏の風がよく通る。
――電車通学なんですね。
「ダー。五駅ぶん乗って、それから歩いて十分くらいですね」
しばらく神崎さんの可愛さ講座の続編を伺っていると電車がやって来た。
だが扉が開いた瞬間に我々は驚かされた。
「……あ、アーニャちゃんおはよー」
「……どぷらえうとらー! 何かの撮影?」
「ダー。夜までだそうです」
「……ふーん」
「……そうなんだー。あ、今日の三限なんだけどさ――」
電車の最後尾に乗っていたのはアナスタシアさんと同じ制服を身に着けた女子高生たち。
いつものように待ち合わせていた友達の皆さんだろう。
だが彼女たちの目付きは鷹も怯む程の鋭さだった。
スポーツ強豪校で、彼女たちは各部のエースなのかもしれない。
アナスタシアさんの周りを彼女たちが取り巻くように囲む。
そしてドアが閉まり、電車が走り出していく。
それを我々は見送って、車で学校へと先回りする事にした。
【AM 08:10】
――どうも。
昇降口で待機していた我々に気付き、アナスタシアさん達がぺこりとお辞儀をしてくれた。
脱いだ靴をしまおうとアナスタシアさんが下駄箱を開けると、何やら薄い物がぱらぱらと落ちる。
――これは?
「ンー、ファンレター……ですね。よく、貰います。嬉しいです」
――実際の所、どれぐらい?
「だいたい毎日、二、三枚入っているのが多いですね」
今日の分は三通のようだ。
アナスタシアさんは学校でも人気者なのだろう。
いずれもハートマークの目立つ便箋は実に綺麗に整えられていた。
――中身、見せてもらう事は出来るでしょうか。
「シトー? アー……お名前を、隠してもらえるなら、多分だいじょうぶ」
アナスタシアさんに許可を貰い、中身を見せて頂いた。
『拝啓、アナスタシア様。あなたの事が大』
――もう結構です。
「そうですか? みんな、一生懸命書いてくれます。アイドルの私が好きって、いっぱい言ってくれてます」
便箋を振ってアナスタシアさんが笑う。
彼女のお友達の眼は、相変わらず鷹よりも鋭かった。
【AM 10:40】
出られない日がある分、一生懸命やります。
そう本人の語る通り、アナスタシアさんは真面目な生徒である。
学生は学業第一、とは彼女の担当プロデューサーの言葉だ。
「……」
苦手だと言っていた古文の授業。
アナスタシアさんは難しい顔をして教科書と黒板とを見比べている。
気を紛らわすようによく晴れた窓の外を見て、彼女は柔らかく微笑んだ。
『……』
やはりと言うべきだろうか、アナスタシアさんはとても目立つ。
髪の色もそうだが、とにかく彼女の周りの雰囲気はどこか違うのだ。
そして何よりもまず途轍も無い美少女である。
アナスタシアさんの方をちらちらと見ては溜息をつく男子も多い。青春である。
失礼、よく見ると女子も多い。
実に青春である。
【AM 11:30】
「では、今日はテストをしますよー。まずは相川君から――」
アナスタシアさんの選択科目は音楽だ。
後で聞いた所によると、この学年は美術と書道選択者がやたらに少ないらしい。
一人一分程度の歌唱テストでもこの人数をこなすとなれば一苦労だ。
「最後はアナスタシアさん、お願いします」
「ダー!」
名前の順で呼ばれていたが、アナスタシアさんだけは最後に回されていた。
今回の課題曲は『星の界』。賛美歌を基とした歌である。
教室のキャパシティを明らかに超えている人数の前に、アナスタシアさんがゆっくりと進み出た。
「……月無き美空に、煌めく光――♪」
一分少々のテストが終わると、教室は万雷の拍手で満たされる。
中には感動の余り涙ぐむ女子生徒も何名か見受けられた。
「バリショエスパシーバ。ありがとうございました」
昼の鐘が鳴る。
歌はまだまだ練習中です、とは彼女の言葉だ。
【PM 12:20】
昼時になり、校内の賑やかさも増した。
――普段、お昼はどうするんですか?
「お弁当とカフェテリィ……食堂が半分ずつです。今日は、お弁当を」
コメント一覧
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- 2016年01月03日 21:42
- 346じゃなかった?
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- 2016年01月03日 21:45
- 456…ジゴロ?
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- 2016年01月03日 21:59
- チンチロ…地下…うっ頭が
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- 2016年01月03日 22:09
- 456プロなのかシンデレラガールズプロダクションなのかCGプロなのか
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- 2016年01月03日 22:16
- 禁呪の書も解さねば我が言の葉は空虚に移ろう(熊本弁のコメントがしたいんだが、勉強不足だ!)
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- 2016年01月03日 22:17
- 戦車道やってそう(小並感)
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- 2016年01月03日 22:21
- ジゴロのプロ(あだ名的なもので所属関係なし) アナスタシア
CGプロ所属
って感じでOK?
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- 2016年01月03日 22:22
- スタッフが何気なく熊本弁返してて草
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- 2016年01月03日 22:37
- ジゴロというか、ガチで百合なだけというか
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- 2016年01月03日 22:50
- 茄子さんのも書いてくださいなんでもしまむら。
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- 2016年01月03日 23:40
- ①~⑤は誰だったんだ…?