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絵里
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1: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:24:07.43 ID:7SuZoEhZ.net
矢澤にこと言う同世代の女の子をどう思っているか?

まずは真っ先に思いつくのは黒い髪を左右でまとめたツインテール。小柄な体と可愛い顔。後は料理がとっても得意でにっこにっこにー。

成績は決して良いものではないけどそういうところも含めて、概ね好感を抱いている。

だけど、きっと私にその質問をしてくる人たちはそういう答えを望んでいるのではないことくらいは重々承知だし、

何度もそんな質問をされるくらいだから、自分でだってその疑問を幾度と無く自問自答してきている。

で、その答えは今もこうやって自問していることから分かるように出てない。

2: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:25:55.99 ID:7SuZoEhZ.net
にこのことが好きかどうかと聞かれれば、もちろん好き。

それが友達としてだけなどという、お決まり文句を言うつもりは無いけど、

私が抱いているこれが果たして恋愛感情と呼べるものかと言えば、それもいまいち頷けない。

そりゃあ、にこと一緒に居るのは楽しいし、離れ離れになったらと考えたら――もちろん今だって――哀しい。

だけどそれは友情でも同じことが言えるのではないだろうか、希にだってそう思っているのだし。

3: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:28:01.63 ID:7SuZoEhZ.net
手を繋いで歩いたりキスをしたり、あるいはその先のごにょごにょする事が、もしくはしたいと思うことが恋情だというのならば、

私がにこに抱いているこの感情はやはり友情なのだろうか。

だって、練習中に手を繋いだ事はあっても街で腕を組んで歩いたことはないし、この口でお喋りした事はあってもキスした事は無い。

もちろん、その先のことなんてあるはずが無い。合宿で同じ部屋で一緒に寝ることはあってもね。

想像してみてもドキドキしたりキュンキュンせず、プッと噴出してしまう。それは愉快だからではなく、とても滑稽だと思うから。

でも、それでも私が抱くこの感情は友情と言うにはあまりにも苛烈だと思う。

4: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:30:01.92 ID:7SuZoEhZ.net
「って、鏡の前で自問自答するのってかなり恥ずかしいわねこれ」

答えの出ない自問自答も、たまにはちょっと変わった方法でやってみれば何かしらの進展があるかとも思って試してみたけど、

かなり痛々しいような気がする。おまけに結局答えはでないままだし。

鏡の前に映るのは当然ながら私の姿。ポニーテールで纏めた金色の髪。

同世代の女の子に比べて、大柄とまでは言わないまでもそれなりの長身にプロポーションはそれなりに悪くは無いとは思っている、

って言ったらにこに怒られそうね。でも容姿に関してはもう少し妹の亜里沙のような可愛げが欲しかったわ。

もっとも亜里沙は亜里沙で私を羨んでいみたいだけど、やっぱり姉妹ってことね。

そんな自問自答もまた、鏡の中の私は答えてくれない。ただただ、あきれ返った表情を返すばかりだ。

7: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:32:39.09 ID:7SuZoEhZ.net
「お姉ちゃん、何してるの?」

代わりに部屋のドアの向こうから亜里沙の声が掛かる。

ああ、もうそんな時間。本当に、時間を忘れて何をやってるんだか。

「ごめんなさい、今行くから」

うん、という答えと共に足音が遠ざかっていく。恐らく先に玄関で待っているんだろう。

8: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:34:15.24 ID:7SuZoEhZ.net
時計を見れば、既に約束の時間まであまり余裕のあるような時間ではない。

むこうが我が家へと来るのだから遅刻と言うことはありえないが、それでも来訪者くらいは余裕を持って迎えたい。

「本当に、何してるのかしら……」

答えの出ない自問自答。

それでもここまで頭を悩ませるのだから、やはりただの友情と言うには些か度が過ぎている。

10: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:36:20.40 ID:7SuZoEhZ.net
「っと、いけないいけない。また遅れたら亜里沙に怒られちゃう」

さすがにそれはまずい。そんな事になったら亜里沙にどれだけ拗ねられてしまうか。

普段子供っぽいところが強いが――いや、だからこそ亜里沙はこういうことにはとてもうるさい。

約束事はきちんと守るべきだと、まったく誰の影響かしらね。

そうこうしている内に下から来訪者を継げるチャイムの音。

しまった。予定時刻にはまだ早いが、相手が時間より早く来ることくらい想定してしかるべきだった。

私は慌て気味に部屋を出て、玄関へと向かう。

11: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:38:10.34 ID:7SuZoEhZ.net
これで来訪者が新聞の勧誘とかだったらどうしようかとも思ったが、どうやらその心配は無さそうだ。

そこには既に亜里沙によって中に通された見知った顔。

「早かったわね、にこ」

「ええ、絵里って待つのは苦手でしょ?」

なるほど、やはりと言うか私の事を良く分かっている。

さすがは、それでこそ私の悩みの種だ。

12: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:40:16.95 ID:7SuZoEhZ.net
―――――――――――――――

今日、何故にこが私のところに来たかというと、それは今日が私の誕生日で、それを祝わせるためだ。

そう、彼女の自主的にではなく、私からのお願い。もっとも、拒んではいないので無理強いではない。

そんな悪辣な真似を私は決してやらない。……多分。でも我ながらちょっと苦しかったかなと思う、少しだけね。

「にこ、今度の私の誕生日は予定を空けておいて。あなたに祝ってもらうから」

「別にいいけど、どうしたのよ絵里?」

13: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:41:58.43 ID:7SuZoEhZ.net
それが、数日前の会話。

実際は他にも色々と話したことがあったり、そもそもそのセリフを言う踏ん切りがつくまで、そして実際に言うまでに色々と悩みや葛藤が延々とあったりしたが、そこは割愛。

それにパーティーを企画してくれていたμ'sの皆には悪いことをしちゃったわ、今度埋め合わせをしないと。

話が逸れたわね、で、何でこんなことになったかと言えば、もちろん祝ってもらえるのならそれに越したことは無いけど、

それ以上に聞きたいことがあったからで、それはこれからどこに行くにせよ先に聞いておくべきだと思う。

「ねえ、にこ。結局のところ私達の間にあるのは友情かしら?それとも恋情かしら?」

「はあ?」

14: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:44:30.47 ID:7SuZoEhZ.net
私の至極真面目な質問に、すっとんきょうな声で返すと焦ったような顔でこちらを見返してきた。

「え、えーと、とりあえずレンジョウってなに?聴きなれない言葉なんだけど。い、いや、何となく意味は分かるのよ!?」

「恋心と言う意味よ」

「あ、っそ……」

落ち込んだ調子のにこ。きっと考えていた意味と違っていて、自分の知識の少なさに落ち込んでしまったのかもしれない。

まったく、知らないことは知らないでそんなに恥ずべきことじゃないのに、意外と繊細なのよね。

15: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:47:20.55 ID:7SuZoEhZ.net
「それで?」

気持ちを取り直すように、にこは疲れた様子で問う。

「どうしたのよ、急に」

「急にって訳でも無いと思うけど。多分にこだって皆から似たような質問をされたことあるんじゃない?」

「……むぅ」

16: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:48:42.52 ID:7SuZoEhZ.net
やはり心当たりはあるようだ。

さもありなん。私だけ聞かれてにこは質問されていないと言うことは無いだろう。

特に、女子高生はこの手の話題に飢えているし。

そういうお年頃なのだ。私たちは。

17: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:51:13.43 ID:7SuZoEhZ.net
「ほら、私達ってもう少しで卒業じゃない。進路もバラバラだし今までのように手軽に合えるって訳にはいかなくなるわけだし。

その前にそこら辺をハッキリしておかないと気持ち悪そうだから。色々と私も考えてみたんだけど、

やっぱり一人で考えても中々答えは出なくて、にこの意見も聞こうと思って……」

「唐突すぎるのよあんたは」

「で、にこはどう思う?私としては友情と言うには執着が強すぎるし、

恋情と言うには求めてるものが違うと思う、ってところだけど」

「どう思うって言われてもね」

19: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:53:10.45 ID:7SuZoEhZ.net
質問に対してにこは言いよどむ。それは答えを考えてるとか、言うことを躊躇っていると言うよりも、

あきれ返っているように見えるのは、果たして私の被害妄想だろうか。

「私はその逆って言うか……、友情も恋情もどっちもあるって思ってるわ」

「両方?」

「あくまで、私の心情だけどね」

20: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:54:57.29 ID:7SuZoEhZ.net
ふんふん、なるほど。私がそのどちらでもないような気がしていたのとは確かに逆と言えば逆ね。

というか、その答えだと――。

「にこは私に恋心を抱いていると言うこと?」

「ゔ……、まぁそうなるわ……って、なんでそこだけ分かりやすいほうに言い直すのよ!」

拗ねたようにそっぽを向くが、赤くなっている顔が、顔をそらした本当の理由を明確に物語っている。

22: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:57:12.08 ID:7SuZoEhZ.net
それを責めるつもりは私には無い。その気持ちはよく分かる。きっと今の私の顔色も似たようなものだろう。

うん。やっぱり改めて考えるとかなり恥ずかしい。

「それじゃあ、にこは私と腕を組んで歩いてみたいとか思ったりもするの?」

「もう、そうよ!」

「私とキスしてみたいとか」

「そうね」

「その先の――」

「はいストップ!その先はダメダメ!そしてその答えもイエスよっ!」

私の言葉は最後まで言わさずに慌てて遮られた。

24: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 22:59:19.24 ID:7SuZoEhZ.net
自分の事ながら何てことをを口走ろうとしていたの。どうやら思った以上に混乱しているみたい。

それにしてもにこも随分と素直に答えるのね。

最後の質問とか、聞いておいてなんだけど普通真っ正直に応えたりするものかしら。これはにこも混乱している、と考えるべきなのかな。

「そっか、そんなこと考えてたんだ」

「絵里は……さっきの言い方だとそんなこと無いみたいね」

「うーん。想像すると滑稽さに吹き出しそうになっちゃうわ」

25: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:01:36.22 ID:7SuZoEhZ.net
正直に答えたら、にこはがっくり項垂れてしまった。なにやら小声でぶつぶつ言っているが良くは聞こえない。

もしかしてもしかしなくても、結構悪い事を言ってしまったかしら。

「はぁ、じゃあこれでにこは失恋?」

そういうことに、なるのだろうか?

未だに私がにこに抱いているのが恋情なのかは分からない以上、性急に過ぎる判断だとも言えるけど。

26: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:03:33.84 ID:7SuZoEhZ.net
「それじゃあ試してみましょうか?」

「は?何を?」

「だから、腕を組んだり、キスしたり……さすがにその先はマズイとしても、それらをやったら心情的に何か変わるかもしれないわ。

ほら、良く言うじゃない。まずは形からって」

「にこは絵里より国語の成績も悪いけど絶対、こういう時に言う言葉じゃないと思うわ……」

27: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:05:57.16 ID:7SuZoEhZ.net
そうかもしれない。

だけどそれで分かったのならば――特ににこにとっては、儲けモノじゃない、上げ膳据え膳だっけ?

よし、思い立ったら即吉日。善行も悪行も俊敏さこそが大事だ。

「ほらにこ、私の手を握って」

「なんなのかしら、ここ最近酷く流されっぱなしな気がするわ」

28: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:07:23.81 ID:7SuZoEhZ.net
「何言ってるの、いつもの事じゃない」

「…………」

とても不満そうだったが、結局にこは私が差し出した手を握る。

うん、やっぱりにこは小さいわ、私の手がにこの手を包み込む。

さて、それじゃあ次のステップね。

29: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:09:23.29 ID:7SuZoEhZ.net
私は膝を落として目を閉じる。あとはにこ次第。

その感触は、予想よりもずっと早くにやってきて――、

予想よりも滅茶苦茶早くに消え去った。

「…………」

「…………」

「…………チキン」

「うるっさい!」

30: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:11:29.35 ID:7SuZoEhZ.net
目を開けた先に居る少女を、一方的になじるのはどうかとも思うが、そうも言いたくなる。

いきなり舌とか入れられても困るけど、だからってアレは無いでしょう。

手だけは離さずに握ったままと言うのはそれなりに評価してもいいのかもしれないが、もしかしたらただ単に忘れているだけの可能性もありそう。

さて、実際にキスしてみた感想だけど――。

31: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:12:08.26 ID:7SuZoEhZ.net
「やっぱり滑稽よね」

「ひどい」

「キスの仕方にも問題あるみたいね」

「このシチュエーションで滑稽にならないキスの仕方があるのなら教えてちょうだい」

「それはつまり、今度は私の方からキスをして欲しいってことかしら?」

32: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:15:08.46 ID:7SuZoEhZ.net
それはまだ勘弁願いたい。にことキスするのが嫌だとかではなく、私だってキスの作法と言う奴には心得が無い。

なにせ、今さっきのキスがファーストキスなんだもの。偉そうな事を言って、私まで失敗するわけには行かないもの。

「結局、何も分からずじまいってことね」

「そう?絵里がにこに恋心を抱いてないことだけはハッキリ解った気がするわ」

握っている手を離して、声のトーンを落とし――と言うか荒ませてにこはぼやいている。

まったく、キスの仕方一つケチ付けられたからって、ここまで拗ねることは無いと思う。

33: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:16:50.71 ID:7SuZoEhZ.net
「それじゃあ、行きましょうか」

「どこに?」

もう、まったく。何をとぼけたことを聞いてるの?

「私の誕生日を祝ってくれるんでしょう?」

「あ、それまだ有効だったの?」

「当然よ」

34: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:18:22.32 ID:7SuZoEhZ.net
何で無効になんかしなくちゃけないのか聞きたいくらい。

質問は事のついで。元々はそっちが本命なんだから。

「それじゃあ、きっちりエスコートしてね?にこ」

そう言って私は手を差し出す。

35: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:20:11.58 ID:7SuZoEhZ.net
「自信はバラバラにされたけど……まぁ、努力はしてみるわよ、絵里」

苦笑しながらにこは手を取る。

さあて、問題の解答は出なかったけど、悩むのはここまでにしましょう。

折角、誕生日を祝ってもらうのだから楽しまなければ損だ。

36: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:23:38.92 ID:7SuZoEhZ.net
それも、にこが祝ってくれるんだから嬉しいじゃない。

結局、私が抱いているのが友情か恋情かは解らなかったけど、

間違いなく言えることとして、にこに対する愛情だけはたっぷりあるんだもの。

そして、いつかこの想いの名が分かる時まで――――

37: 名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/ 2015/06/19(金) 23:27:03.59 ID:7SuZoEhZ.net
あ、終わりです