はじめに
こんにちは、バーグハンバーグバーグのまきのです。めちゃめちゃな髪型で失礼いたします。
先日、とある異業種交流会に参加して初めて会った人々に20点ぐらいの小ボケを計8万回ぐらい繰り返していたんですが、その交流会の片隅で一人コーヒーをふるまっている方がおりました。
主催者がゲストとして呼んでいた方で、わたしもその人の淹れるブラックコーヒーを飲んでみたところ、一般的なイメージである「ブラック=苦い」ということが一切なく、めちゃめちゃ味わい深く飲みやすい、まさに伝説の黒い液体そのものでした(めちゃめちゃおいしかった、という意味です)。
詳しくその方の経歴を聞いてみると、何でもタリーズコーヒーで店長として働き商品開発なども携わりながらコーヒーの腕を磨いていき、新たに任された店舗が「完璧な店」に仕上がったタイミングで、お笑い芸人に転身したという異色な経歴の持ち主でした。
これは色々話を聞いてみたい!と思い、このようなインタビューの場を設けさせていただきました。
こちらがその人、松竹芸能所属のお笑いコンビ「コーヒールンバ」の平岡佐智男さん。「アメトーーク」のパクりたい1グランプリをはじめ、様々なネタ番組に出演しているので、知っている方もおられるのではないでしょうか。コーヒーを見つめる表情から優しさがにじみ出ている平岡さんに、色々話を聞いてみたいと思います!
その前にコーヒーを淹れてもらおう
お話を聞く前に、まずは平岡さんのコーヒーをもう一度飲んでみます。
「普段はインスタントばかりなので、豆から淹れるとこんなに器具が必要なんですね。全部揃えるとお金かかりそうだ〜」
「豆を粉砕するコーヒーミルと、重さと時間が測れるスケールが最低限あれば大丈夫ですよ。コーヒーは淹れる豆のグラム数とお湯を入れる時間は重要なので…」
「1グラムぐらい別にいいんじゃないですか?」
「いやいや!きっちり測った方がおいしく飲めるんですよ。いつもは18グラムの豆に対して200ccのお湯を2分半かけて淹れています。まあ見ててください」
「ハイッ」
ちなみにわたしはコーヒーに関する知識が一切無く、ただ漫然とした気持ちで日々消費しているコーヒー素人なので、ジモコロ編集長の柿次郎にも同行してもらいました。
彼はコーヒーにハマっているそうで、知識を深める勉強をしつつヒマさえあればオフィスで豆をゴリゴリ挽いてコーヒーを飲んでいます。本日は平岡さんがコーヒーを淹れる過程を勉強しようと、鬼のような形相になっています。
「こちらが僕が愛用しているコーヒーミルです。この『みるっこ』は臼の原理で豆をすりつぶしてくれるので、豆がきめ細やかになるんですよ」
「臼の原理かあ。色々試してこれに行き着いたんですか?」
「そうですね…。これさえあれば喫茶店をやれるほど、いい器具です」
「そんなに!」
「粉砕した豆!すごい!フワフワだ!」
「腐葉土?カブトムシ出てきそう!」
「そうでしょ。こちらは『LAS MORAS』というホンジュラス産のコーヒー豆で、浅煎りのスペシャルティコーヒーなんです」
「スペシャルティコーヒー…むっちゃいいコーヒーってこと?」
「むっちゃ平たく言えばそうですね。しかも『カップ・オブ・エクセレンス』の2014年度で4位になった豆なんですよ」
「カップオブ…むっちゃいい称号ってこと?」
「むっちゃ平たく言えばそうですね。ホンジュラスのコーヒー豆農家に思いを馳せながら作っていきましょう」
『サーバーにペーパーをセットします」
「あれ、今ペーパーにお湯かけましたね。僕はやったことないんですが」
「これは、ペーパーをあらかじめ濡らしておくことで一番おいしい最初の一滴目がペーパーに吸い取られなくなるようにしているんです」
「へー!そうなのか!」
「よく分からないけど、豆知識なんですね。コーヒー豆だけに」
「平岡さん、早く作ってくださいよ!」
「今のは豆知識とコーヒー豆で豆がかかってて…」
「お湯を入れます。200ccのお湯を2分半かけて、入れていきます…」
「うわああ」
「ガスがポコボコっと出るうう! 自分で入れるときはこんな風にフワフワに盛り上がっていくのはないです! この時点でもう違う〜! すごい〜!!」
「そうでしょう。『生きてるな』って感じがしますよね」
「これ、僕が追い求めていた光景です…すぐミル買います!」
「そんなになのかよ」
「(とっとと入れてくれ…)」
「はい、出来上がりです!」
「ウヒョ〜!」
「それではいただきます、ズズ…」
「いただきます!ズズズ…」
「…!」
「うまっ!!!! 砂糖もミルクも入れてないのに、果実的な香りがすごい!柑橘系の酸味もありますね!! 舌の上に乗っかる感じも優しくて、本当にめちゃめちゃ美味しいです!!」
「あ〜…詳しくは説明できないけど、おいしいのは分かる!!」
「ホッ…よかったです。アプリコットやダークチェリーのような風味がウリなので、果実の香りっていうのは合ってますね!」
「やっぱりそうでしたか。クリーミーさもあって本当においしかったです。もっと飲みたい!」
「毎朝自宅に淹れてきて〜!!」
「どこにでも淹れにいきますよ!」
「いや、やっぱり毎朝自宅に来るのはちょっと…」
「ですよね」
「適当に口走るな」
スペシャルティコーヒーはA5ランクの肉と同じ?コーヒーの話をもうちょっと聞いてみよう
「ちょっとコーヒーの話をしてもいいですか。最近主流になってきているサードウェーブコーヒーって、浅煎りって淹れるの難しくないですか? 深煎りの方が味が安定するな〜と飲み比べて思うんですが」
※サードウェーブコーヒーとは、生産地の価値に注目し、豆の素材や淹れ方などの工程にこだわる、要するにむっちゃ良いコーヒーのこと
「それは好みですね。サードウェーブの浅煎りの風味が現代人にとって慣れてなくて、『果たしてこれでいいのか…?』となっている段階なんです。なので浅煎りでも飲み続ければ美味しさや楽しみ方が分かってくると思いますよ」
「へええ。一回浅煎りが浸透して、深煎りがまた来るだろうという予測なんですか?」
「(浅煎り、深煎り…??)」
「江戸時代から明治時代辺り、初めて日本にコーヒーが入ってきたときは『こんな苦いもの飲めない!』っていうところから始まりました。でも現代は苦いものが普通になってますよね? それと同じで今は『サードウェーブコーヒーなんて、こんな酸っぱいもの飲めない!』てなってるんですよね」
「おお、確かに今は酸っぱいです」
「お店で飲んだらおいしいのに自分で作ろうとすると再現性が無かったり、これでいいのかな…というのが『今』なんです。なので、飲み続けて一般的になっていくことでいずれ酸っぱいのが当たり前になってくると思います。今は浅煎りの味わいにびっくりしているだけですね。それを伝えるのも僕の仕事かなと」
「なるほど! 我慢して飲み続ければそのうち味に慣れてくるってことですね」
「新しい文化がきて拒否反応を出している人もいますけどね。だから僕が今つたえたいのは、サードウェーブと呼ばれるスペシャルティコーヒーこそ砂糖とミルクを入れるべきだということです」
「入れちゃっていいんですか!? 何かサードウェーブコーヒーに砂糖とミルク入れるのは邪道、みたいな空気があるんですよね…」
「(そんな空気感じたことない)」
「その方がアプリコットやチェリーの風味がより引き立って飲みやすくなります。そこから入っていくべきなんですけど、その『邪道だ』という流れをサードウェーブコーヒーにのっけるからブラックのまま飲んで『こんな酸っぱいの…』ってなっちゃってるんです。だからサードウェーブコーヒーにも無理せず砂糖とミルク入れましょう。すごくおいしくなりますよ」
「へええ…いいんだ…! なんかワインのような高尚な趣味になっていきそうだな〜と思ってるんですよ」
「浅煎りのスペシャルティコーヒーは、お肉でいうと『A5ランク』なんですよね。良いお肉って、さっと炙るだけでもジューシーさを感じられるじゃないですか?それと一緒だと思ってます」
「あ!!その考え、めちゃくちゃ腑に落ちました!!!! 味付けにしても、塩がおいしいかもしれないけど普通にタレつけてもうまいよってことですよね!?」
「なので自分の好みで無理せず砂糖とミルクを入れて飲むと、違うコーヒー感がやってくるかもしれません」
「スペシャルティコーヒーを普及する人も、ブラックでそのまま飲めっていうのを押しつけるべきではないんですね…!」
「ですね!」
「コーヒー文化を伝える一番クリティカルな考え方だわ…!」
「(そんなに?)」
「こだわりが強いカルチャーって、オタクがオタクらしい勧め方をすることでそのカルチャー自体をつぶしちゃうことがありがちですよね。コーヒーも今ちょっとオタク的な世界になりそうで、オシャレな人が飲んでるからオシャレじゃない人が入り込みづらくなってますしね」
「コーヒーは本来身近なものですからね…スペシャルティコーヒーはおしゃれじゃない! 上下スウェットで飲みに行きましょう!」
コーヒーの話がキレイにまとまったところで、一旦休憩!
次の記事では、平岡さんのこれまでの経歴をおうかがいします。
書いた人:まきのゆうき
株式会社バーグハンバーグバーグで働く人。姉妹メディア「オモコロ」で開設当初から「うさねこ」という4コマ漫画を連載中。髪の毛がもじゃもじゃで異形の存在なのか、電車内で赤ちゃんと目が合う確率が異常に高い。 Twitterアカウント→@yuuki