戦後の闇市から始まり、ラジオ・家電・パソコン・アニメ・アイドルとオタクカルチャーの発信地として進化を続ける街『秋葉原』。
最近の秋葉原といえばアニメやメイド喫茶といった萌えの街のイメージですよね? しかし今でも高架下には電子パーツ店が軒を連ね、電気街としての秋葉原はちゃんと残っているんです。
「ラジオストアー」が2013年に閉店したり、老舗の「鈴商」が店舗販売をやめて通信販売のみの営業になってしまったりと、数は減っているのですが、休日になればどこの電子パーツ店もお客さんで混み合っています。
というわけで、こんにちは。秋葉原に週2〜3回は通っているマンスーンです。
僕が趣味として電子工作を始めてもう5年くらい経ちます。ジモコロや他メディアでも電子工作系の記事を作ってきました。ザッと紹介すると…
福島の「赤べこ」をヘビメタ化! 高速ヘドバンさせてみた - イーアイデムの地元メディア「ジモコロ」
実際に草が生えるキーボードを作ってみた結果www(1/3) - オモトピア
女の子に拾って欲しいから自分で机から落ちる消しゴムを作ってみた(1/3) - オモトピア
などなど、誰の役にも立たない電子工作を作りつづけてきましたが、いまだに電子工作の知識は初心者レベル。電子パーツ店に入るのにも緊張してしまいます。でもそんな僕でも入りやすい『楽しくて安い不思議なお店』があるんです。
秋葉原駅から徒歩10分程の細い路地にあるaitendoさんです。
普通のオフィスビルにあるので「こんなところに店が!?」と最初はビックリしますが、自分だけが知っている秘密基地みたいでワクワクします。
入り口こそ怪しいですが、明るくて広い店内にはところ狭しと電子パーツやキットが並べられて品揃えはバツグン。他の電子パーツ店に比べて通路が広いので買い物がしやすいところがうれしい!
しかも、なぜか店員さんが若い女性ばかりなんです!
というわけで今回はいろんな意味で電子パーツ屋の常識を覆している「aitendo」さんに、お話を聞いてきました!
美人広報さんに気になる事を聞いてみた
電子パーツ店だしどうせオッサンが出てくるんだろうと思ってたら美人なお姉さんが出てきて緊張してしまいました。こういうお店によくある怪しげな雰囲気を感じないのはこれが原因なのでしょうか。
「この店はいつから始めたんですか?」
「今年で10年になります。最初の店舗が手狭になったので、事業拡大のために去年この場所に移転したんですよ。近いうちに同じビルの地下一階にも店をオープンする予定です」
「え! 今でも十分広いのに更に広くなるんですか!?」
「はい。より多くの商品を取り扱いたいので!」
ちなみに移転前の店舗はこのビルの1階にありました。
ゲームやアニメ好きな人ならわかるかもしれませんが、このビルは人気作品『シュタインズゲート』に出てくる未来ガジェット研究所があるビルのモデルになった場所なんです。
つまりブラウン管工房があったところにaitendoさんはあったんです!(以前はCoCoNet液晶工房という名前で液晶部品を中心とした店でした。まさにブラウン管工房!)
最近新作も発売されて、この前のアニメ版再放送ではまさかの改変で世界線が変わっ・・・
「そろそろ本題に戻ってくれる?」
「すいません…。ちなみに取り扱い商品は何個あるんですか」
「7000~から8000個くらいあります。目標は1万個ですね」
「バチカン市国の人口の10倍の数! そんなに商品があったら仕入れが大変じゃないですか?」
「仕入れに関しては仕入れ専門のスタッフがいて、一日中取り引きしています。おもに中国や台湾・韓国などから仕入れていて、国内でも4~5社とやり取りをしています」
「ちなみにネットショップと店舗だとどっちのほうが売上があるんですか?」
「今まではネットの方が上でしたが、店舗を拡大してからは店舗での売上の方が少し上になりました」
「aitendoさんのお客さんはどういった人が多いんですか? 電子工作に携わるプロの人も来たりします?」
「プロの人もたまに来ますけど、趣味で電子工作を楽しんでいる人が多いですね。あとは大きな会社や大学とも取引をしています。ネットショップがあるので全国の大学から注文をいただいて、授業でキットを使ってもらっているんです」
「あ、僕も大学の授業で簡易ミキサー(音をミックスする機械)を作りました。電子工作っておもしろいなって思いましたよ」
取材に同行した、電子工作にまったく興味がないジモコロ編集長の柿次郎は「え、何がおもしろいの?」という一切意味が分からない様子です。
「本当に意味がわからない。これ何に使うの? これとこれってどう違うの?」
「マンスーンくんはなぜ生きているの?」
電子工作に興味がない人は大体こういった反応になると思いますが、無視して続けます。
aitendoさんは特にラジオ作りのキットが充実していて様々な種類のラジオを自作することができます。
「ていうかさ、なんでわざわざ自分でラジオ作るの? 最初から完成品を買えばよくない? そっちの方が品質いいでしょ」
「なに言ってるんですか。自分で作るのが楽しんですよ! aitendoさんの看板に“喜びと楽しさがいっぱい”って書いてあったじゃないですか!! 作る楽しさと完成した時の喜び! 人生に喜びと楽しさ以外いります? いらないですよね?」
「ごめん」
「aitendoさんはオリジナルの電子工作キットがたくさんあるので柿次郎さんも何か作ってみませんか? このLED懐中電灯キットなんかは初心者でも簡単に作れますよ」
「作るのに何時間ぐらいかかるの?」
「30分くらいですね」
「へぇ〜〜。思ってたより早いんだ。じゃあ、いつかなにか機会があれば作りますね。そのときはこっちから連絡するから」
柿次郎さんにやんわりと断られたので自分で作りました。20分くらいであっという間に完成。LED懐中電灯キット、350円なのにめちゃくちゃ明るい!!
今売れているのはマイコン関連の商品
「売れ筋の商品って何ですか?」
「MP3プレーヤーキット、液晶パーツは昔から売れてますね。最近だと『IchigoJam(イチゴジャム)※1』『Arduino(アルドゥイーノ)※2』の互換機『びんぼうでいいの』などのマイコン(マイクロコンピューター)※3、マイコン用のモジュールが売れ筋ですね」
「いちごジャム? 食べ物? ここって食べ物も売ってるの? なんなの?」
※1:IchigoJam…キットなら1500円で買える安価なマイコンボード。BASICで開発することができる
※2:Arduino… LEDやモーター、センサーなどを簡単なプログラミングで制御することができるマイコン
※3: CPUやメモリを1つのLSIチップに集積した回路。近年では小さいコンピューターのことも指す
「ほら見てくださいよ。基盤がロケットの形をしたai.shuttle.jamとかロボットの形をしたai.robot.jamみたいに、遊び心溢れたaitendoオリジナルのIchigoJam互換機も販売されてるんですよ」
「ちょっと待って。本当にひとつも意味がわからないから、待って」
「Arduinoの互換機『びんぼうでいいの』は基盤とバーツが別売りになっていて自分でハンダ付けをする必要があるんですけど、全部そろえても正規品の1/3程の値段で手に入れる事ができるんですよ~!(IchigoJamやArduinoはオープンソースプロジェクトなので互換機が多く出ています)」
「さっきからなにも頭に入ってこない」
「ロケット型の基盤はすごいおもしろいですね。これはどうやって生まれたんですか?」
「うちの開発スタッフが流行っているものや新しいものが好きな人で、基盤にもデザインがあったらおもしろいと思ってこういう形のを作ったんです。電子パーツ類って無機質な感じのイメージですが、ひと手間加えればかわいいものもできるんですよ」
一番安いパーツは何と◯円!?
「あとaitendoさんはとにかく価格が安いですよね。最初来たときびっくりしましたもん。え? こんなに安いの!って。でも電子パーツって元々一つの単価が安いのに販売価格がこんなに安くて大丈夫なんですか?」
「う~ん。それは仕入れを頑張ることでなんとか対応してます(笑)」
「最近秋葉原の電子パーツ屋もネットショップだけにしてしまったり高架下のラジオストアーが閉店したりしてますよね。その中で生き残っていけている理由って何なんでしょうか」
「商売の基本ですが、安くて品質の良い商品を揃えることだと思います。安いだけでは何度も来ていただけないですから。あとは商品の数ですね。ここに来れば何でも揃ってしまうようなお店を目指しています」
「なるほど。ちなみに、この店で一番高い商品ってどれですか?」
「このHDMIモニター自作セットなんかは7,500円で高い方です」
「高い方で1万円以下! じゃあ一番安い商品は10円とかですか...?」
「安いのはこちらですね」
「LED……さ、3円!?」
「昔の駄菓子屋かよ」
女性店員が多い理由
「電子パーツ店の店員というとガンコそうなおじさんとかメガネをかけた男子大学生が多いんですけど、aitendoさんって女性店員が多いじゃないですか。何か理由はあるんですか?」
「昔、電子パーツ屋さんに行った時にパーツの場所を聞いたら、男性店員さんにとてもそっけない返事をされた事があったんです」
「あぁ~。こういう専門性の高いお店って店員さんがそっけなくてぶっきらぼう、みたいなイメージありますね」
「うちの店では接客サービスもきちんとやりたいんです。パーツの場所を聞かれてもただ『あっちです』って言うだけじゃなくて、ちゃんとその場所まで案内するようにしています。女性店員ならではの、そういう細やかな心遣いができればと思ってます」
「これだけ商品が多いと値段覚えるの大変じゃないですか? 小さいパーツは商品自体に値段が書いていないですし」
「大体3ヶ月あれば覚えますよ。ちなみにうちの店長は値段をほぼ全部覚えています」
「すごい...」
「俺がここのバイトだったら1日でクビになる自信あるわ」
「地下の店舗もオープンする予定とのことですが、aitendoさんの今後の展望はありますか?」
「今はとにかくどんどん店を拡大していきたいです。あとは関西の人から大阪にも店舗をオープンして欲しいという要望があるのでいつか出せればいいなと思っています」
取材を終えて
今回の取材は店舗の定休日に伺ったのですが、インタビュー中に定休日と知らずに来てしまったお客さんにもちゃんと対応していて驚きました。
「商品の品質」「圧倒的な安さ」「接客・サービスの向上」という商売の基本に立ち返ったような価値を見出しているaitendoさん。中国ブランドといえば「安かろう、悪かろう…」のイメージをもってる人も多いのかもしれませんが、すでに秋葉原の電子パーツという市場においては勝ち組になっているようです。
もしこの記事で少しでも電子工作に興味を持ってもらえたらaitendoさんに行って自分でなにかを作ってみてはどうでしょうか?。ただLEDを光らせるだけの簡単な電子工作でもそこには絶対「喜びと楽しさがいっぱい」あるはずです。
ちなみに、なぜかタイヤも売っていたので、小さいタイヤに興味のある方も是非aitendoさんへ!
●店舗情報
店名:aitendo
住所:東京都台東区上野3-3-8 ワイゼムビル3F
営業時間:PM13:00~PM19:00
定休日:月曜日・木曜日
書いた人:マンスーン
「ハイエナズクラブ」「オモコロ」などで記事を書いています。理系大学出身をまったく生かせていない低い技術力で役に立たない電子工作をしたり、B級映画のVHSテープを収集したりしています。
Twitter:http://twitter.com/mansooon
HP:http://man-sooon.tumblr.com/
●マンスーンの記事をもっと読む