がん検診、受けても受けなくても生存率に変化なしか?
ウソでしょう?
思わず、そうつぶやきたくなる衝撃的な研究発表が、医学ジャーナルのBritish Medical Journal(BMJ)の最新号に掲載されましたよ。複数の大学教授、医師、腫瘍学者などからなる研究チームがまとめた同発表は、がん検診の精度そのものを疑問視するものではありません。しかしながら、がん検診によって、実際に患者の生存率に変化があるのかどうかは疑問視する内容となっていますね。
例えば、同研究チームは、検診によって大腸がんと診断された患者1万人を、30年間にわたって追跡調査。大腸がんが原因で死亡した患者は128人だったそうです。1万人における大腸がんによる死亡者数は192人ということですから、早期検診は効果があるように見えます。しかし、大腸がん以外の原因も含めると、調査期間中に死亡した人数は7,109人に達していました。早期のがん検診を受けなかった大腸がん患者層1万人に関しても、同じように追跡調査したところ、なんらかの事情で同期間中に死亡した人数は7,111人でした。
さらに、ほかの身体部位のがん検診に関しても、似たような手法で診断患者の追跡調査を実施。全10種類の検診内容分析のうち、特定のがんと診断された患者層が、そのがんを直接原因として死亡する例が減ったのは3種類にとどまりました。とはいえ、別の原因も含めた、調査期間中に死亡した患者総数は、早期の検診を受けなかった患者層の全体的な死亡率と比較して、まったく変化がなかったと報告されています。
この数字だけでは確たることは示されませんけど、がん検診を受けると格段に生存率がアップするわけではないのでは? そんな疑問が呈されていますよ。
研究発表では、早期のがん検診によって、がんによる死亡率が減っても全体の死亡率が減らない理由について、3つの憂慮すべき点をあげています。まず、がん発見後の治療が、患者の身体に与えるダメージが大きく、その治療が原因で命を縮めてしまう患者が少なくないことです。次に、がんと診断されることの精神的なダメージです。例えば、前立腺がんと診断された男性は、その診断後1年に自殺する危険性が、同年齢層の男性全体と比較して極めて高まることが明らかにされていますよ。精神的な苦痛から、結果として、かえって死を早めてしまうがん患者が多いことも懸念されていますね。
がん検診が全体的な患者の生存率に劇的な違いをもたらさない3つ目の理由は、乳がん検診で多用されているマンモグラフィーを例に説明されています。検診技術が向上し、非常に小さな腫瘍の段階から、乳がんが発見される率も高まりました。とはいえ、こうした小さな腫瘍が、すべて実際にその後も生死に影響を与えるほど大きくなっていくわけではありません。そのまま置いておいても、死につながらない腫瘍もあることがわかっています。つらい治療を受けさせることで、かえって患者に身体的、精神的なダメージを与えてしまい、早期の発見が生存率を高める効果を発揮するにはいたっていないのでは? そんな意見が発表されていますよ。
検診によって、がんの腫瘍が非常に早い段階で発見されるようになっても、すぐにがん治療を開始すべきかに関しては誤診も少なくないそうです。治療そのものが、健康な身体部位に与えるマイナス面でのインパクトも過小評価できません。なによりも、早くがんと診断されたことから受ける精神的ストレスの度合いは計り知れない……。決してがん検診の精度が悪いわけではないのですが、人の命を救うという観点で考えた時には、早期検診の是非を含め、まだまだ改善点が多い。そんな厳しい現代医療の課題が浮き彫りになった形ですね。
source: BMJ
Esther Inglis-Arkell - Gizmodo US[原文]
(湯木進悟)