相良宗介「とてもやさしいパンツァー・フォー」【前半】
- 2016年01月22日 23:40
- SS、フルメタル・パニック
- 0 コメント
- Tweet
桃「馬鹿げている!!」
柚子「桃ちゃん……」
杏「落ち着け、かわしまぁ」
桃「ですが、会長!! これでは約束が違います!! 私たちは何のために戦車道をやってきたのか……!!」
杏「向こうの言い分はこうだ。『優勝したら統廃合の話を白紙にするという約束はしていない。ただ考慮はすると言っただけ』って」
桃「詭弁です!! 今から学園艦教育局に乗り込みましょう!!」
杏「私たちがギャーギャーいっても、事態は変わんないって」
桃「学園のこともありますが、こんな結果では西住の努力はどうなるのですか!!」
柚子「西住さんが一番頑張ってたもんね」
桃「西住に申し訳が立たない……」
杏「……あいつに頼んでみっかぁ。少し癪だけどな」
桃「あいつ?」
杏「陣代高校のかいちょー」
柚子「えぇ!? あの人にですか!?」
蓮「お電話です」
敦信「誰かな。性質の悪いセールスや会議の申し出なら美樹原君の判断で断ってくれて構わないが」
蓮「学園艦『大洗女子学園』の会長さんからです」
敦信「ほう。予想外だな。代わろう」
蓮「どうぞ」
杏『もっしもーし、角谷杏ぅ』
敦信「久しぶりだね、角谷君。まさか、君から連絡をもらえるとは思わなかったよ。最後に会ったのは、いつだったかな」
杏『去年の高校自治連絡会じゃない?』
敦信「君が議長を務めると言って大揉めした会のことだね。思い出した」
杏『林水だって退かなかったじゃん』
敦信「そうだったかな。忘れてしまった」
杏『ま、そんなことはどーでもいいんだよね』
敦信「だろうね。君が意味のない電話をするとは思えない」
杏『察しがいいねぇ。実はそっちの噂が偶然、私の耳に入っちゃってさぁ。その確認をしたいんだ』
杏『万年一回戦負けだったラグビー部が強豪の硝子山高校に圧勝したってやつ』
敦信「事実だ。非公式ではあるがね」
杏『ふぅん。ま、別に疑ってたわけじゃないんだけど』
敦信「なるほど。誰がラグビー部を指揮したのかを知りたかったわけか」
杏『理由は分かる?』
敦信「大洗女子学園は今年度の戦車道大会優勝校だ。有能な指揮官が欲しいわけでもあるまい」
杏『それがあるんだよねぇ』
敦信「話が見えてこないな。はっきり言いたまえ。君らしくもない」
杏『大洗女子学園が統廃合されそうになっていた話は知ってる?』
敦信「ああ。歴史ある学園艦ではあるが、生徒数の減少、また目立った実績もないという理由で廃校へ進んでいたはずだ」
杏『あと、維持費の問題ね』
敦信「しかし、目立った実績は今年、生まれた。戦車道全国大会優勝という輝かしい実績がね」
杏『それだけじゃ納得しなかったみたいだねぇ』
敦信「そういうことか。一度決定したことを覆すためには優勝の二文字では足りなかったか。残念だ」
敦信「……君が文部科学省に突きつけた条件とは何だね?」
杏『さっすが、林水。もう私の言いたいことは分かったか』
敦信「現状では戦車道以外での実績は作れない。部活動でも細やかな活動に留まっているようだからね」
杏『大洗女子学園の統廃合を白紙にする条件、それは戦車道オールスターチームに勝つこと。で、どう?』
敦信「ほう。その相手は?」
杏『黒森峰にプラウダに、聖グ口リアーナ、サンダース。どう。いいっしょ』
敦信「全て君の対戦相手だったチームからか。何か意図でもあるのか」
杏『単に頼みやすいってだけだけどね』
敦信「各校から1輌ずつ選出か」
杏『そう。5対5のガチバトル。その条件なら問題ないって言わせる』
敦信「全てはこれからなのに、既に実現しているかのようだな。流石は学園艦を統べる者だ。そうでなくては務まらないか」
杏『褒めてもなーんもでないよ。手伝ってくれたら、干し芋ぐらいはあげるけど』
敦信「その報酬なら、こちらも喜んで協力させてもらおう。まずはその条件を相手に呑ませるところからか」
杏『そこまで林水に甘える気はないって。やってほしいことは、一つだけだからねぇ』
杏「おっけぇ。んじゃ、よろしくぅ」
桃「話はまとまったのですか」
杏「ああ。これから私は話をつけてくるけどな」
桃「それなら私も一緒に」
杏「いいから、いいから。河嶋と小山はこの件を西住ちゃんだけに伝えて」
桃「西住だけですか?」
杏「あんまり言いふらして変な噂が流れても嫌だからね」
桃「分かりました」
杏「それじゃ、行ってくるよ」
柚子「はいっ。会長、お気をつけて」
杏「うん」
柚子「私たちもいこっか、桃ちゃん」
桃「桃ちゃんと呼ぶなっ!」
桃(会長はどう話をつけるつもりなんだ……?)
沙織「それでね、このお店の人にナンパされちゃったんだぁ。もー、どうしよー」
みほ「そうなの!?」
華「沙織さん。あれはそういった類のものではなく、沙織さんがどの洋服を買おうか悩んでいたからでは?」
沙織「でもでも! あれは多分、私情も挟まってたと思うもん!!」
みほ「あはは……」
桃「西住はいるか」
みほ「あ、はい。どうしたんですか?」
桃「話がある」
みほ「分かりました」
沙織「あのー、私と華は?」
桃「西住だけで良い」
柚子「ごめんね。楽しく話していたみたいなのに」
華「いえ、気にしないでください」
桃「話はすぐに終わる」
優花里「ふっふふーん」
優花里(良い雑誌が手に入りましたぁ。西住殿も喜んでくれるでしょうか)
優花里「おや?」
みほ「お話ってなんですか」
桃「実はな……」
優花里(なにやら重大なお話をされているみたいですね……)
みほ「えぇぇ!?」
桃「静かにしろ」
優花里(こ、これはかなりの事件ですか……。あの西住殿の様子では……)
優花里(もう少し聞いていたいけどいわば将校同士での密談ですし、これ以上盗み聞きはいけません!)
優花里(でも……気にもなりますし……。あぁー!! どうしたらいいのですかー!! 西住どのー!!)
柚子(あれ、秋山さんが頭を抱えてる……。どうしたんだろう……)
桃「私たちもそう思っていた。しかし、当局はどうしてもこの学園艦を失くしたいらしい」
みほ「そんな……みんな、あんなにがんばったのに……」
桃「会長も想いは同じだ。既に動き出している」
みほ「何をするつもりなんですか」
桃「悔しいことだが、この学園の存在を認めさせるには戦車道しかない。戦車道で全国大会優勝以外の箔をつけるしかないんだ」
みほ「大会以外でどうするんですか」
桃「戦車道国際大会強化選手に選ばれた者のみで固めたチームと我々大洗チームが対戦し、勝利する」
みほ「な……!?」
桃「無論、連盟にも頼み込み公認試合ということにする。戦車道全日本オールスターチームに勝利できれば来年度の生徒数も確実に増える」
みほ「優勝しただけでも増えそうな気がしますけど」
桃「何度も言うが、優勝だけではダメなんだ。それ以上の成果が欲しい」
みほ「オールスターってことは、お姉ちゃんも……」
桃「西住まほだけでなく、聖グ口リアーナやサンダース、そしてプラウダからも参加予定だ」
みほ「いくらなんでも戦力に差がありますし、各校とも一度私たちと試合をしています。データを取られた状態では、圧倒的に不利としか言えません」
みほ「弱小校だからという相手の油断も多分にあった大会当時とは違います」
桃「それでもやるんだ。学園を守るために」
みほ「……」
柚子「ダメかな? こんなことを頼めるのは西住さんしかいないの」
みほ「でも、私たちで各校のエースを相手にするなんて……」
桃「お前が不安になるのもわかる。お前に全てを負担させてしまっているのも承知の上だ。だからこそ、今回は会長が助っ人を用意してくれている」
みほ「助っ人?」
柚子「なんでも弱小だったラグビー部をとっても強くさせた教官がいるらしいの」
みほ「それは蝶野さんではないんですか」
桃「蝶野教官はどちらかと言えば中立だ。大会のときも我々に直接的指導をしてくれた回数は数えるほどだっただろう」
柚子「あくまでも蝶野一等陸尉は特別講師だったから」
桃「その所為で、西住には大きな荷を、いや、全ての荷を背負わせたといってもいい」
みほ「そんなことはありません。生徒会のみなさんだって、私の知らないところでたくさん苦労していたはずです」
桃「我々のことなどどうでもいい。全ては西住の双肩にかかっていたのだからな。そして、今回もまたお前に全てを任そうとしている。だからこその助っ人要請だ」
みほ「いくらなんでも、お姉ちゃんやケイさんが一緒のチームと試合なんて……」
桃「……頼む、西住。他には誰にも頼れないんだ」
みほ「や、やめてください。優勝したのだって、私だけの力じゃない。みんながいたからこそなんです」
桃「頼む」
みほ「……」
柚子「西住さん、おねがいっ」
みほ「私は……」
優花里「あ、あの!! それはずるいと思います!!」
みほ「優花里さん!?」
桃「お前、話を聞いていたのか」
優花里「勝手に盗聴したことは謝ります!! でも、お二人は卑怯ではないでしょうか!!」
桃「なんだと」
優花里「西住殿にかかる重圧は私などでは測り知れません……。隊長を務めない、試合に参加しないという選択肢があってもいいと思います!!」
みほ「優花里さん……」
優花里「それは嫌です!! 私だって断固として、この大洗を死守したいです!!」
桃「ならば、西住の協力は必要不可欠だ」
優花里「そんなことはありません」
桃「西住を抜いてもオールスターチームに勝てるというのか」
優花里「勝ち負けの問題ではありません。学園が無くなるかどうかの責任を西住殿一人に背負わせたくな