龍驤「ぴりっと隠し味」
……なんてのは、まあ軽いジョークや。軽空母だけに
ええい、そんなのはどうでもええんよ
うち、割かし新しく興った鎮守府に配属されたんやけど
最近は気が気じゃない毎日を送ってます
というのも、秘書艦かつ鎮守府最大練度のうちと
この間届いた(のを覗き見してしもた)書類……
これがうちをそわそわさせる全て
そう、ケッコンカッコカリ!
限界値とケッコンに必要な値は揃って99、うちの練度は97
新興の鎮守府にはうちほど高い練度の艦は他にはおらへんのや
鎮守府の古参でかつ、そんな魅力的な言葉を見てしもたからには
乙女のうちとしては毎日が気が気じゃないってわけ!
……今、乙女の部分に突っ込み入れた奴、手挙げてみぃ
でもでも
秘書艦で練度最大、これはもはや相思相愛!
……と思われても仕方ないねんで、提督
***
「龍驤ー」
「ん、コーヒーでええ?」
「助かる」
「はいよー……ふふんふーん」
ヒトフタマルマル、午後の執務の途中
明日は出撃、そして練度の数値の更新の予定日
執務の途中に鼻唄はどうなんやろ……とは自分でも思うんやけど、癖になってしもて
しかも提督も特に注意とかせぇへんから、まあいいか!とか思ってしもてるんやけど
会話も最低限、騒ぎは後ろで見守るタイプ、縁の下の力持ち
提督なんていう仕事は……まぁ確かに、性には合ってるのかもしらん
そんなところも、見てたら可愛く思えてきて
今では言いたいこともだいぶ察することが出来るようになったと思う
通じ合ってるー、なんて、駆逐艦の子達に言われるのも、なんや嫌な気はせぇへんしな
ベタ惚れとか言うてくれるなや。そんなの本人が一番自覚してるわ
だから気が気じゃない、なんて言ってるんや
「ほい、コーヒー」
「ありがたい」
「どいたしまして。ほな、うちも書類に取り掛かりますか」
……まだ焦る時やないで、龍驤
うちかてやれば出来る子や、タイミングはしっかり見計らって
然るべき時にアタックするんや
「ん……そんな時間か」
そんな時間て、よう時間も気にせず提督業務まるなぁ
……なんて言うのは、意地悪が過ぎるんかな
提督の身辺や計画の管理も、秘書艦の仕事や!
なーんて
「キミ、今日は何食べたい?」
「なんでも」
「もおー、そういうのが一番困るんやでー?」
思わず苦笑い
本当に困るんやで……でもま、全幅の信頼を寄せてくれてるってわけやし
頑張ろかな、とは思うけど
うちの提督は、艦娘同士の交流は大切とか言って、わざわざ食事の時間を後にずらす
最初は面倒なやっちゃなー、とか思ったりしたけど
逆に考えたら色々なチャンスになるやん
そんなわけで、フタサンマルマル
この時間の食堂の厨房は、うちの独壇場になるんや
さて、何をお出しして差し上げましょうかね
***
とんとんとんとん
ざくざくざく
ぴーっ ぴーっ
じゅわーっ
龍驤が厨房で調理している様子が見える
小柄ながらも、無駄のない完璧な動きでひとつひとつをこなしていっているのが、素人目にも分かる
……割烹着姿は、眼福だ
***
「はい出来た!」
「餃子か」
「ニラで中華スープも作ったでー」
鳳翔さん、餃子の皮余らせるって何に使ったんやろ
まぁともあれ、今日の晩御飯は餃子、中華スープ、そして白米
狙ったように冷蔵庫に入ってた杏仁豆腐はデザートにぴったり
「いただきます」
「たんと食べやー」
もちろんうちも食べてないわけで
お腹ぺこぺこやし、手合わせていただきますして、目の前で一緒させてもらう
「どや? 旨い?」
「ん」
「そーかそーか。ひひ」
なかなか好評なようで
「おー、瑞鳳か」
ご飯も食べ終わって、提督を風呂に無理くり送り出して少しすると、瑞鳳が食堂にやってきた
「なんや、銀蝿かいな」
「そ、そんなんじゃないよ!」
手を広げてぱたぱたさせる。かわええなぁ
瑞鳳はうちよりちっこい見た目の癖して、艦隊のナンバーツーとして頑張ってる
練度もそうやし、うちが調子悪い時は秘書艦代理としても
艦隊をまとめるうちから見ても、瑞鳳はなかなかすごい子やと思う
ま、うちほどではないけど!
……こほん
「銀蝿でもなかったら、何しに来たん? うち以外に誰もおらんで?」
「あ、それはいいの。龍驤ちゃんが目的だから」
「んん?」
「一緒にお風呂、どうかなと思って!」
後ろ手を組んで、満面の笑顔で顔を寄せてくる
……なかなかあざといポーズ覚えてくるやんけ
それでも
「……洗い物終わるまでに準備しときーや」
「やったっ」
こんないい笑顔見せられたら、断れるもんも断れんわ
うちは苦笑いしながら返すしかなかった……いや、可愛いって罪やなぁ
***
「はあー、龍驤ちゃんとお風呂ってなんか久しぶりじゃない?」
「んあぁぁー……せやなぁー、最後が先週になるんかなー?」
湯船に身を沈める……のと一緒に、しょーもない声まで出てまう
やっぱお風呂は気持ちええわ。癒される
隣でも瑞鳳が「はぁぁ~~」なんて、よく分からん声を上げとるし
「気持ちえーなー……」
「ねー……」
しーんとする浴場
ただ、それはほんの一瞬の話だった
「あっ、ねぇねぇ龍驤ちゃん」
「んぁー、なんやー」
「えいっ」
むにっ
「!?」
違和感の先は──うちの、胸
「ちょっ、ばっ、急に何するんや!」
「ふふふ……龍驤ちゃんのバストサイズが、先週からどうなったのか気になりまして」
「たかだか一週間ちょっとで変わりなんかせんわドアホ!」
「あー、ドアホってひどい! 湯船に入ってる間ずっともみもみの刑だー!」
「おいっ、このエ口軽空母! ほんとやめっ……ひんっ」
「おっ、可愛い声聞いちゃった!」
「おまっ、ホントやめ、あんっ!」
……
……その後瑞鳳には、ゲンコツ三つをくれてやった
調子に乗ったのが悪いんや。ふんっ
***
それから数日
今日は提督が珍しく、街の視察──とは名ばかりの、オフの日
そら、いくらあの無口提督ゆーても、産みの親が人間である以上人間やから疲れもするんやろうけど
ずいぶん前に、親父さんの葬式と墓参りで休んだ以外でオフなんか見たことあらへん
「あの提督がオフか……」
「何だよ、未来のダンナサマがいなくて臨時提督は膨れっ面か?」
「ばっ、何言うとんのや!」
同じく臨時で秘書艦の摩耶が独り言に横槍を入れる
……気にするに決まっとるやろ。悪いか
『今日は恐らく、夜まで帰らない。留守を頼む』
なんて、珍しいこともあるもんやな
何しに出掛けとるんやろ
「ん、そういや龍驤、お前もしかすると今日で」
「あ、せや。まぁあちらさんの面子にもよるけど、今日で練度最大かもしらん」
「はー、うちの鎮守府から練度最大がねぇ」
「うちもあんまし実感ないんよ」
苦笑して返答
鎮守府興りたての頃から主戦力だったと考えたら、何ら不思議ではない
けど、逆に考えればそれだけあの無口提督に重用されてるってこっちゃ
当然とは言え、その当然が嬉しいね
結果から言うと、練度最大には届かなかった
相手さんが新顔ばっかりやったし、正直物足りない感じはした
まぁそんなのはいつものことや。タイミングが重なっただけで
暫く演習も出撃の予定もないし、練度最大は先の話かなぁ
***
夜
「あれ、龍驤さん」
「んー? いはうひふぁ」
「うん、とりあえず口の中のもの飲み込んでからにしましょ……」
盆を持った雷に苦笑いで突っ込まれたので、かっ食らっていた焼きそばをもぐもぐ
雷の盆は……カレーセットに牛乳か
「それはこっちの台詞よ、普段見かけない人がいるんだもの。あ、隣座るわね」
……そういや、この時間に一人で晩ご飯も、いつぶりやろ
専ら作る側だったしなぁ
「ま、提督もおらんし。頼まれ事は終わったし、時間もいい感じやし」
「ふーん。でも、秘書艦さんとお話出来るのはいい機会よね!」
「話すことなんか何もないでー」
笑って言いながら、焼きそばにぱくつく
雷もカレーを頬張る。……やったな鳳翔、雷の最上級の笑顔やで
そうこうしてるうち、だんだん食堂にやって来る艦娘も増えてきた
うん、やっぱり珍しがられるなぁ……提督の晩ご飯の時間、ずらすように具申してみるか
みんな提督と話したがっとるもん、ぽろぽろそんな声が聞こえる
「あーっ、龍驤さん食べ終わるの早い!」
「そら、雷より先に食べ始めたもん」
何故か急いでカレーをかきこもうとする雷を宥めながら、食堂を見渡す
……ん?
「そういや、瑞鳳がおらんな」
すると、カレーをかっ食らっていた雷が
「んっ、ふいほーふぁんっへ」
「飲み込んでからな」
「もぐ
コメント一覧
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- 2016年01月29日 22:33
- いや、ほんまええなぁ(エセ関西弁)
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- 2016年01月29日 23:11
- なんやかんやRJは可愛いよね。
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- 2016年01月29日 23:25
- 慢心したまま絶望の淵に叩き落とされる展開じゃなくて本当に良かった・・・
平たい胸族の軽空母ってみんな年齢不詳感あるよね
ちっこいのに空母の中でも古参な龍驤とかすごく好き
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- 2016年01月29日 23:29
-
よし!!
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- 2016年01月29日 23:32
- RJはうちでも最高練度誇っとるぞ
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