雪美「……野獣……先輩?………」
一人の少女が街を歩いていた
雪美「……………………」
その姿はまるで着ぐるみの様だ
厚着に厚着に重ねもこもこと着ぶくれしている
雪美「………………………」
寒くないように風邪をひかぬようにと
彼女のためを想ったのだろうその衣装は
彼女が愛されている証拠であり見るだけで暖かさを感じる
雪美「………P……どうして…」
しかし、そんな彼女の心は今、冷え切っていた
雪美「…………お見合い…………何て……」
それは少し前の話
【事務所】
P「お見合いの話がきやがりましたのです」
ちひろ「幼児退行しても駄目ですよ?」
P「したくもなりますって、寝耳に水もいい所です」
ちひろ「こういう仕事してると付き合いも多くなりますしちゃちゃっと会うだけ会ってきてくださいな」
P「えぇー断るだけなのに…会う前に断れないもんですかね?」
ちひろ「相手方に失礼です、それにひょっとしたらいい相手かもしれないですよ?」
P「はははそれ以前の話ですよ、お見合いとかそんな歳じゃないですから俺」
ちひろ「そうですか?プロデューサーさんのお友達とかに結婚しちゃってる人いないんです?」
P「そりゃそう言われると確かに少しは結婚してる奴もいますけど…それでも俺はまだまだ実感ないですよ」
ちひろ「そんな事言ってるとずっと独身ですよー?」
P「うぐっ、恐ろしい事を言いますね」
ちひろ「あはは」
ちひろ「幾つに見えますか?」
P「えっ」
ちひろ「幾つに見えますか?うふふ」
P「これは女性から一番聞かれるけど一番答えるのが難しいあの質問!」
ちひろ「…プロデューサーさん?」
P「…………お、俺よりちょっと下くらい!とか、うふふ!」
ちひろ「…………合格点はあげましょう」
P「やったぜ」
何処にでもある日常の会話
話題は普段よりややピーキーではあるが朗らかないつもだった
しかし下で聞いてしまった彼女にこの話題を見過ごすことは出来なかった
雪美「……P………待って………」
P「…ん?ああ今日は雪美だったのか、珍しいな」
唐突に机から這い出てくる少女に驚く事無く対応する事もここではまた日常である
雪美「……今の話…………本当………?」
P「今のって…聞いてたのかああお見合いの事、厄介な話だけど本当なんだなこれが」
雪美「……………っ!………」
P「とはいえこうなってしまったのはしょうがない、これも経験になるしとりあえずは受けてみるよ」
雪美「…………駄目…………」
P「おう?」
雪美「…………そんなの…………駄目」
P「………………」
ちひろ「あらあら」
そういった気持ちと決めるには彼女にはまだ早すぎる
だがそれでも彼の存在は彼女の中での特別であった
ずっと一緒に居て欲しいと、傍にいて欲しいと
お見合い何て行って欲しくない心から思うほどには
雪美「………行っちゃ………駄目…………」
ちひろ「こら駄目ですよ雪美ちゃん、プロデューサーさん困っちゃいますよ」
P「そうか、そうだな!雪美がそう言うならしょうがないな!行かない事に決め」
ちひろ「───プロデューサーさん?」
穏やかに事務員が微笑む
笑顔とは本来攻撃的な物である
P「ごめん雪美、これも付き合いなんだ」
雪美「………っ!………」
ちひろ「うふふ」
喋るのは得意ではない彼女なりに彼らを説得しようとする
雪美「…でも………約束…………」
P「約束?」
雪美「…………P…………私と一緒……ずっと……………」
ちひろ「…………」
雪美「…お見合いしたら…私……そんなの…………駄目…………」
P「…………そうか」
アイドルの中でも特に大人しい彼女が必死に訴える
その姿にようやく真剣な事に気づく
P「そうだったな、うん、すまん適当に相手して」
ちひろ「はい、ごめんなさい雪美ちゃん」
雪美「…………あ………」
P「いやお見合いは受ける」
雪美「…………え………」
P「でも大丈夫だ、雪美が心配する事にはならない」
P「元々俺は乗り気じゃないし受けるつもりも無い、今回は本当に受けるだけだ」
雪美「…………本当………?……」
P「本当だ!それに相手に良いと思われるほど優良な物件じゃないからな俺は!」
ちひろ「あはははは」
P「笑ってないで待遇上げて下さい」
ちひろ「やだなープロデューサーさんったらーただの事務員に何言ってるんですかー?」
P「う、胡散臭い!」
雪美「…………あ……ふふ………」
ちゃんと自分の言った事が伝わったのだと
しかし
P「そもそも俺が雪美のプロデューサー辞めるとかあり得ないって、心配するな」
雪美「…………うん………うん!…」
P「それにだ」
雪美「…………?…………」
P「万が一に上手くって俺が結婚してもそれは変わらないさ、ずっとプロデューサーやり続けたいからな!」
雪美「……………………………………………………」
心に影が落ちた
自分の気持ちが致命的に伝わっていない事を知った
【街中】
雪美「……………………」
おぼつかない足取りの中、彼女は考える
雪美「…………私じゃ…………駄目…………なの………?…」
以前から気づいていた
自分が彼を想った言動を言えども
彼からの反応は何処かズレていると
雪美「…………P…………私は………」
それは間違いなく好意的であるし
彼女を子供と軽く扱っている訳でもない
だがそれはまるで彼女の母や父が向ける視線であって
微笑ましい物を見る者の目であって
彼女が望む反応とは、違うのだ
雪美「…………そうじゃない…………のに………」
大きくなった後でもいい、ずっと傍にいてくれるのだから
今はただ私の事を見て私のプロデューサーをしてくれる
それだけで彼女は幸せだった
雪美「……………………」
彼女は忘れていた、彼がその間待っていてくれない事を
雪美「………P…………」
一般的な常識からして彼は正しいだろう
世間的にだって当然の事だろう
彼女が望む答えを返していたのならどんな波乱が起きる事か
しかし彼女にとっては常識も波乱も関係は無い
雪美「…………どうしたら……いいの……?…」
子供の頃は大人に憧れるだとか
皆そういう経験をする者だとか
そんな言葉も意味は無い
今の彼女には、今しかないのだ
雪美「…………………」
もしPが私と同じ子供だったら
もし私がもっと大人だったら
考えてもどうにもならない事が頭を巡る
考えても解ける事が無いから巡り続ける
雪美「…………………」
だから気づけなかったのだろう
フードをすっぽりかぶり視界の減った中
自分が何処を歩いているのかを
ビィー!!!!
雪美「……え………?……」
甲高いクラクションに気づいた時ようやく、自分が轢かれる直前だと気づいた
雪美「……………………………」
このまま自分は死んでしまうのだろうか?
大好きな人に想いを伝える事もできないままに
雪美「…………P…………」
こんな事ならもし駄目でも私の本当の気持ちだけでも解って欲しかった
彼女は最後にそう思った、そしてトラックが小さな体に当たる…その刹那
「やっぱり僕は…公道を征く!」
雪美「…………え……?…………」
何かが彼女を救った
ドガッ!!!…ガガガガガガガ!!
大きく鈍い音と甲高い叫びが辺りに響く
雪美「…………え…………え……」
身一つで正面衝突を抑える謎の人物
そんな現実離れした光景に見る事しか出来なかった
ガガガ……ガ……
気づけば煙を上げながらトラックは止まっていた
体感した時間は長かったが、あっという間の事だったのだろう
「fooー疲れた」
雪美「…………あ…大丈夫…?……」
「痛いですね…これは痛い…」
身体で止めれば当然であろう、というより止めたこと自体が奇跡ではあるが
「でも」
雪美「…………?…………」
鍛えられた逞しい肉体、浅黒い肌、甲高い声
「…ま、人を助けるなら多少の無茶はね?」
野獣の様な男がそこにいた
【公園】
野獣「成る程ねえ、道理でねえ」
雪美「…………うん…………」
あれからしばらく、衝撃も冷めやらぬので二人はとりあえず近くの公園に腰を落ち着けていた
雪美に追突してきたトラックは疲れからか不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまい何処かに連れ去られてしまった
雪美「…………野獣は………どう思う?………
コメント一覧
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- 2016年01月30日 23:25
- 汚いクロスオーバーだなぁ
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- 2016年01月30日 23:25
- あのさぁ…
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- 2016年01月30日 23:25
- やりますねぇ!
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- 2016年01月30日 23:26
- YKMぃ・・・もう許さねぇからなぁ?
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- 2016年01月30日 23:27
- かこにもこういう作品あったけどさ
ら抜き言葉が気になるとかの以前に
ていぞくなんだな、って思うわ
ぶっちっぱ
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- 2016年01月30日 23:30
- 最初に淫夢くんのクッソ汚い声がない-114514点。
しかし豊富な語録、YJSNPIだけでなくGOやMUR、KMRなどの迫真空手部まで出させるところに多大なるリスペクトを感じる。+1145141919点。
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- 2016年01月30日 23:30
- 悪くなかった
インヴィジュの淫夢パロSSは名作だからみとけよみとけよ〜
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- 2016年01月30日 23:31
- 雪美が野獣と化すSSは
ありす「待てますか?」モバP「待てない」
以来かな?優しくて汚い世界すき
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- 2016年01月30日 23:32
- 汚いけどきれい…これが人間ってやつなんですね
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- 2016年01月30日 23:35
- 雪美が可愛いのでひでしね
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- 2016年01月30日 23:36
- いいゾ〜コレ
あっそうだ(唐突)、去年の暮れ辺りに某所で一般通過爺そっくりのおじさん見たゾ
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- 2016年01月30日 23:41
- 支援絵がシュール過ぎて草。
とりあえず白菜かけますねぇ〜
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- 2016年01月30日 23:44
- 一方この舞台裏ではあのクッソ汚い一幕が…
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- 2016年01月30日 23:48
- ※9
笑った
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