fcd5a585819acb433b886834ed32c624

真姫
maxresdefault (6)

1: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:15:05.31 ID:RI4K/mEO.net
真姫「吸血鬼…なんて」
http://hope.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1449588508/
真姫「猫が…なんてね」
http://hope.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1450280545/

の続きです

6: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:18:18.16 ID:RI4K/mEO.net
私たちの衣装は、多少皆も手伝いはするにしろ、ほとんどことりが、一人で9人分仕上げている。

そんな超人的なことをやってのけていることり。

前に、こっそり聞いたことがある。

…と言っても、希には聞かれてたみたいだったけど。



真姫「…ねえ、ことり」

ことり「どうしたの、真姫ちゃん?」


笑顔をこっちに向ける。

顔を逸らしても、ちくちくと細かい部分を手縫いするその手元はまったくブレない。

…すごい。


真姫「…大変じゃないの?」

ことり「大変?」

真姫「…みんなの衣装、ほとんど一人で作ってるじゃない?」

ことり「うーん、大変じゃない、って言ったらウソになるかもだけど…」

真姫「でしょう? もっと皆に手伝ってもらってもいいんじゃない?」

ことり「…ううん、いいの。この衣装を仕上げることが、ことりの気持ちの表現でもあるから」

真姫「…それって?」

ことり「…みんなへの愛、かなっ♡」


…正直、かっこよかった。

7: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:20:43.53 ID:RI4K/mEO.net
凛の事件から数日経ったある日の放課後。


ことりが久しぶりに、部室にやってきた。


花陽「…ことりちゃん!」

ことり「…あの、みんな…ごめんなさいっ!」


ことりは頭を下げて話し出す。


ことり「…ことり、最近、穂乃果ちゃんのことばっかり…」

にこ「…謝るくらいなら、これ見てもらえる?」

ことり「…ふぇ?」


部長の特等席に座ったにこちゃんが、むすっとした顔で言う。


にこ「もうすぐ仕上がるから。これ、ちゃんと出来てるかどうか見てもらえるかって言ったのよ」

ことり「え、えっと…」

絵里「にこのが終わったらこっちもお願いね。衣装のデザイン、考えておいたから」

ことり「え、あの…」

凛「凛もね、真姫ちゃんの家で色々勉強したんだよ! 裁縫もできるようになったにゃ!」

海未「その後はこっちをお願いします。真姫と新曲を仕上げましたので、絵里のデザインした衣装と合うかどうか見てください」

希「…ええんよ、ことりちゃん」

ことり「希ちゃ…」

真姫「…これは正式な活動じゃなくて、ただ私たちが部室に来て、ダラダラしてるだけ。それだけのことなんだから」

希「誰も怒ってたりせーへんよ」

ことり「…」

真姫「さ、早く入ってきて。手伝ってあげなさいよ」

ことり「…う、うんっ!」

穂乃果「いやぁ、よかったねぇ…」

真姫「…あなたもことりに連れ回されてただけで、何もしてないでしょうが」

穂乃果「えへ、バレた?」

8: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:24:17.60 ID:RI4K/mEO.net
前の吸血鬼騒動の後遺症で、しばらくの間穂乃果にメロメロになった被害者4人。

海未や絢瀬姉妹はそんなに時間がかからなかったけど、ことりが治るのには、あれからかなり時間がたった。


真姫「ことりも治ってよかったわね」

希「そやねぇ。やーっといつも通りの日常に戻ったなぁ」

真姫「…それにしても、なんでことりだけ治るのが遅かったのかしら」

希「…ん~。うちなりの推測なんやけど」


海未に関しては、私がその現場に遭遇したおかげで、吸血が中断された。

絵里は、亜里沙ちゃんがたまたま部屋に入ってきたから中断させられた。と、穂乃果…というか、吸血鬼が言っていたらしい。

亜里沙ちゃんは、絵里を助けに行った希が部屋に押し入ったところ、丁度吸われていたそうだ。

つまり、ことりだけは吸血が完全に終了していた。

ことりは、もう穂乃果の眷属になる直前で。

吸血鬼を倒すまで大人しく寝ていてくれたけど…もう一歩遅かったら、穂乃果の眷属…吸血鬼として、目覚めていたかもしれない。

…そこをドリームトリガーで撃ち抜いた。

穂乃果への忠誠が強かったことりは、それが消えるまで時間がかかってしまったのではないか。


…と、語ってくれた。


希「…ってことで、どうかな」

真姫「どうかなって…」


そんなこと言われても、納得するしかないわよね。他に判断材料がないんだから。


希「あとは…ほら、もともと穂乃果ちゃんラブなところあったやん? それも関係してたりしてね。怪異現象って、人間の心とか身体と共鳴しちゃうこともあるし」

真姫「…ふぅん」


凛に猫が憑りついたもの、いつもニャーニャー言ってるからだった…ってことかしら。


…ということで、ことりと穂乃果も加えて、また9人で、毎日部室に集まることとなった。

その日はことりと穂乃果が加わったこともあり、下校時刻ギリギリまで学校に居た。

ことりは1人で寄りたいところがある、と言って途中で別れた。


…何か、胸騒ぎがする。

…止めておけばよかったかしら。

9: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:26:40.73 ID:RI4K/mEO.net
翌日の早朝。


ぴろん。


…こんなに朝早くからメッセージ。…ことりから。


< みんな、今日一緒に学校行かない?


…ことりからこういうことを提案してくるのは珍しいわね。

肯定の旨を伝える。

他のみんなも、次々に賛成のメッセージを送ってくる。


…9人で登校するなんていつぶり? …はじめてかな。



神田明神で待ち合わせして、みんなで一緒に学校に行くことに。

少し遠回りになる人もいるけれど…皆それも気にせず、早くから集まっていた。

私も早めに家を出たんだけど、教科書を忘れて一度戻った。

…待ち合わせで穂乃果とか凛に負けるのはなんとなく悔しい。


…あれ?

何か様子がおかしい。


ことり「えへへ、えへへぇ~…♡ 真姫ちゃぁ~ん、おはよぉ~…♡」


恍惚とした表情を浮かべていることり。

妙に赤い顔でへたりこんでいる他7人。

…いったい、何が…?



ぞくり。


真姫「ひぃっ…!?」

10: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:30:11.96 ID:RI4K/mEO.net
お尻を撫でられた。


真姫「こ、ことり…」

ことり「真姫ちゃん、だぁいすきぃ…♡」


耳元で囁かれる。


身体中の力が抜ける。


…なんか、気持ちいい…






あやうく、μ`s揃って集団遅刻するところだった。


待ち合わせ場所に来た順番から、ことりの囁きと妖しい手つきで、みんな骨抜きにされてしまっていた。

セクハラに定評のある、あの希まで一本取られていた。(本人曰く、セクハラではないらしいけれど)

あの後ことりがちゃんと現実に引き戻してくれたからいいけれど…

予鈴ギリギリに登校なんて、生まれて初めてよ。


…穂乃果ラブ強化月間が終わったと思ったら、標的がμ`s全員に変わった。


…まさか?

11: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:34:10.25 ID:RI4K/mEO.net
休み時間、たまたま海未と穂乃果とすれ違った。

…二人とも、なんだかげっそりしている。


真姫「ちょっと…顔色悪いわよ? 大丈夫?」

海未「え、ええ…その…」

穂乃果「…ことりちゃんから…」

真姫「ことり? ことりがどうか…」


ダレカタスケテー!


真姫「…今の、花陽の声?」

海未「うっ…わ、私は教室に戻ります!」

穂乃果「わ、私もっ! 花陽ちゃんごめんっ!」


いつも廊下は走るなと注意する側の海未が、穂乃果と共に廊下を猛ダッシュしていった。

…いったいなにが…


花陽の悲鳴が聞こえた女子トイレに入ってみると、ことりが花陽の頭やら頬やらを撫でまわしていた。

…うわぁ。


ことり「花陽ちゃん、やわらかぁい…」

花陽「う、うぅ…」


真姫「…ちょ、ことり…」

ことり「あぁ…っ♡ 真姫ちゃん…♡」

真姫「ひっ…」


ごめん、花陽。


花陽「ま、真姫ちゃん!? なんで逃げるのぉ!?」

真姫「…私にも、できないことくらい、あるわ…」

花陽「えええぇぇ!?」


私は女子トイレを後にした。

12: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:39:11.05 ID:RI4K/mEO.net
昼休み、ことりを除いたμ`sのメンバーが生徒会室に集まっていた。

…というか、避難してきていた。部室だと、ことりが来る可能性があるから。


穂乃果「ことりちゃん、どうしちゃったんだろ…」

海未「隙あらば耳元で囁き、身体を触ってきて…ことりの声、すごくくすぐったいんですよ…」

凛「おかしくなっちゃいそうだにゃ…」

花陽「うぅ…」

にこ「まったく…どういうことなのよ」

絵里「…帰りたいわ」


みんなそれぞれにトラウマを背負ってしまった。

こういう時に頼れる彼女も…


希「…うち、もうワシワシマックスとかするのやめよかな…」


…。

でも、このままいたって仕方ないわよね。



真姫「…ねえ、希」

希「…ん?」

真姫「…まさかとは思うんだけど」

希「…うちもその線で考えてみたけど、現時点では何も思い当たらん…それに、手がかりも少ないし」

真姫「…そう」


希もよくわかっていないらしい。

こうなればもうお手上げだ。ことりのされるがままになるしかない。

…というわけにもいかない。

同じクラスの海未と穂乃果なんかは、1週間徹夜したみたいな顔になっている。


花陽「…ことりちゃんも、色々溜めこんでたのかなぁ…」


…今までたしかに、ことりはあまり自分を表に出さない人だった。

色々溜まってしまうのも分かる。

…でも、これは度が過ぎていないかしら?

13: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:41:07.09 ID:RI4K/mEO.net
放課後。


…あれ?

ポケットに、入れた覚えのないハンカチが一枚。

…これ、ことりちゃんのハンカチだ。printempsの練習の時、大事にしてたからよく覚えてる。

間違って持ってきちゃったんだ…届けてあげないと。

…で、でも、またほっぺぷにぷにされたり、胸をワシワシされたり…


うぅ…


いや、でも、やっぱり、届けにいこう。

ことりちゃん、困ってるかもしれないし。



ことり「あっ、いらっしゃぁ~い! 花陽ちゃん♡」

花陽「ことりちゃん、私、いつのまにかハンカチ持ってきちゃってて…」

ことり「…ふふっ、そうだったんだぁ~…ありがとう! あっ、せっかくだから…お茶とか、飲んでいかない?」

花陽「え、でも…」

ことり「いいからいいからっ」

花陽「…じ、じゃあ…ちょっとだけ…」

ことり「うんっ! じゃあ、あがってあがって~♡」

花陽「お邪魔しま~す…」


ことり「こっちだよ~っ」

花陽「うんっ」

ことり「それじゃあ、ちょっと待っててね♪」




ことり「…うふふっ♡」

14: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:45:26.52 ID:RI4K/mEO.net
部屋でごろごろしていたら、お母さんに呼ばれた。

そろそろご飯かにゃ?


凛ママ「凛ちゃーん」

凛「なにー?」

凛ママ「うちにかよちん来た?」

凛「今日? 今日は来てないよー」

凛「そっか。…うん、うちには来てないってさ。…あー…そだね。うん、わかった。それじゃ」

凛「どうかしたの?」

凛ママ「んー、なんかかよちん、ことりちゃん家に忘れ物届けに行って、帰ってこないんだってさ」

凛「かよちんが…?」

凛ママ「そ。…かよちんもヤンチャしたいお年頃なのかなぁ」

凛「…」


ことりちゃんの、家…


…かよちんが危ないかも…!


凛ママ「あっ、ちょっ! どこ行くの!?」

凛「かよちんのとこ!」



急がないと…っ!

15: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:47:26.18 ID:RI4K/mEO.net
どんっ。


「きゃっ…」

凛「にゃっ!」


誰かにぶつかってしまった。交通事故にゃ…!


凛「ご、ごめんなさいっ!」

「…ちょっと、気を付けなさいよ!」

凛「…真姫ちゃん!」

真姫「…凛? そんなに急いでどうしたのよ? しかもこんな時間に…」

凛「真姫ちゃんこそ…」

真姫「私はちょっと希のところに。…で、凛は?」

凛「凛は…あっ、そう! かよちんが危ないかもしれないの!」

真姫「花陽が…?」

凛「そうなのっ!」

真姫「…私も行くわ」

凛「うんっ、一緒に…」


そうだ、この前も凛とかよちんのこと、真姫ちゃんと希ちゃんが助けてくれたんだし…


…いや!



凛「…やっぱり、大丈夫!」

真姫「え?」

凛「今度は凛がかよちんを助ける! 真姫ちゃんは、もし凛が帰ってこなかったら、また助けて!」

真姫「ちょっと、凛! どこに…」

凛「ことりちゃん家ーっ!!」


おどおどしてる真姫ちゃんなんて構わない。

凛はことりちゃんの家に、一直線に駆け出した。

16: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:49:07.72 ID:RI4K/mEO.net
ききーっ。


急ブレーキをかける。

…ここだ。

…ケータイを取り出して、真姫ちゃんとの個人チャットを開く。

短いメッセージを打ち込んでおく。

もし何かあったら、この送信ボタンを押せば…真姫ちゃんが助けてくれるはずにゃ。


ぴんぽーん。


チャイムを鳴らす。


『は~い』

凛「…ことりちゃん?」

ことり『そうだよ~』

凛「あの、星空凛ですっ」

ことり『…凛ちゃん? うふふっ、いらっしゃい』


ドアがゆっくり開いて、ことりちゃんが出てきた。

17: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 21:51:27.05 ID:RI4K/mEO.net
凛「ねえねえ、かよちん来てない?」

ことり「花陽ちゃん? …うん、来たよ」

凛「本当に!? 今どこにいるの!?」

ことり「うちにいるよ」

凛「ほんと!? かよちんに言って! かよちんのお母さんも心配してるよって! 早く帰らないと…」

ことり「…」

凛「…ことりちゃん?」

ことり「凛ちゃんは、花陽ちゃんを、迎えに来たの?」

凛「そうだよ?」

ことり「つれてかえるの?」

凛「…そうだけど」

ことり「…そっか」

凛「…?」

ことり「…」

凛「…ね、ねえ、ことりちゃん? そんなに怖い顔しないで…?」

ことり「…凛ちゃん、花陽ちゃんは帰りたくないって言ってるから」

凛「な、なんで…」

ことり「凛ちゃん、おいで」

凛「…」

ことり「花陽ちゃんもいっしょだよ」

ことり「いっしょに」


凛「…っ」



背筋が凍る、ってこういう感じだと思う。


ことりちゃんはお面みたいな笑顔で、凛をまっすぐ見つめて、こっちに手を伸ばしてる。

…手を掴んだら、そのまま全部、なにもかも持っていかれちゃいそう。


凛「…じゃあ、お邪魔します」



ことり「うん おいで」

19: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 22:02:34.14 ID:RI4K/mEO.net
凛「…えっ」


ことりちゃんに案内されたのは、ことりちゃんのお部屋…の、隣のお部屋。

薄暗くて、でも綺麗にお掃除されたそのお部屋には―――――



凛「…こ、ことりちゃん…何したの…!?」


ことり「うふふっ♡」



凛がそう聞いても、ことりちゃんは笑うだけ。



花陽「りんちゃん」

凛「か、かよちん…」

花陽「ずっといっしょだよ」

凛「? 何言って…」


ことり「…すぅっ」

29: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:23:36.68 ID:RI4K/mEO.net
凛と別れて希の家に向かう途中、雪穂ちゃんから電話があった。


雪穂『…忘れ物届けるとかなんとかは言い訳で、家出かと思ったんですけど…いつもの家出先の海未ちゃんも、家に居ないらしくて』

真姫「ことりの家は?」

雪穂『とも思ったんですけど…ことりちゃんも電話出なくて』

真姫「…じゃあ、こっちでも連絡取ってみる。何かわかったら教えるわ」

雪穂『ありがとうございます』



希の家に着いてしばらく話していると、凛からチャットが届いた。


『助けてにゃー!>ω</』


…凛に何かあったのは間違いないみたいね。

メッセージだけ見ると、だいぶ余裕そうだけど。


真姫「消えた花陽と穂乃果に海未、そして凛からのメッセージ…これで、ことりに何か憑いてるのは確定と見てよさそうね」

希「…そうやね。ただ、何の怪異が憑りついているのか、まだよくわからないんよ」

真姫「そうなの?」

希「うん…誰かを連れてっちゃう、とか、監禁する、みたいなのはいっぱいいるんやけど…ことりちゃんからの愛情がバーストしたことと結びつかなくて」

真姫「…つまり、何か他に推理するきっかけがつかめればいいのね」

希「それは、まあ…」

真姫「…じゃあ、私が囮になるわ」

希「真姫ちゃん!? またっ…」

真姫「凛が自分の身を懸けて知らせてくれたSOSよ。今度は私が…」

希「真姫ちゃん」

真姫「…何よ」

希「…真姫ちゃん。自己犠牲は尊いことだけど、正しいことじゃないんよ」


べしっ。


希「お゛っ…」


希の腕を軽く叩く。

30: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:36:55.42 ID:RI4K/mEO.net
真姫「自己犠牲が云々なんて、どの腕で言うわけ?」

希「…うちの身体はどうにでもなる。でも、やっぱり真姫ちゃんには囮になんてなってほしくないし…それに、きっかけが掴める保障なんて…」

真姫「あーもう、うるさいわね! あなたも見てたでしょう? 穂乃果の時も凛の時も、私が捨て身でなんとかしてきたじゃない」

希「それは…」

真姫「正しくないなんて、何をいまさら、って感じよ。大丈夫、今回だってなんとかなるわ」


そう吐き捨て、ドアを開ける。


希「待って!」

真姫「…?」

希「…どうやってうちに情報を伝えてくれるん?」


希から小型のコードレスのイヤホンを投げ渡される。


希「これで電話すれば、バレずに情報交換できるやろ」

真姫「…ありがと」

希「帰ってきたらお説教やからね」

真姫「考えておくわ」


私は希の家を飛び出した。

31: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:39:51.70 ID:RI4K/mEO.net
…途中、ことりの裁縫セットを持った絵里に会った。


真姫「…絵里、それどうしたの?」

絵里「ああ、なんか私、間違って持ってきちゃったみたいで…これ無いと困るだろうし、届けに行こうかなって…」

真姫「…今はダメよ」

絵里「え?」

真姫「…さっき、不審者がうろついてたのよ。危ないから、帰った方がいいわ」

絵里「…そうなの…? じゃあ、帰ろうかしら…真姫も一緒に帰る?」

真姫「…ええ」


ここで私が反対方向に進んでいったら、絵里に怪しまれる。

仕方ない。いったん引き返して、それからまたことりの家に向かおう。

とりあえず、希に報告。スマホを取り出し…

…?

スマホを取り出すと同時に、ポケットからリップが零れ落ちた。

私、こんなリップ持ってたっけ。これ、ことりのよね。


絵里「…真姫、なんか夕方ってちょっと不安にならない?」

真姫「そうね。お化けでもでるかもね」

絵里「おっ…おばけ…」

真姫「…あ、ちょっと電話。待ってて」

絵里「え、ええ…は、早くね? 早くしてね?」

真姫「うるさい」

絵里「はい…」


しつこい絵里を叱りつけ、希に電話をかける。

32: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:41:09.65 ID:RI4K/mEO.net
真姫「…希。ことりの裁縫セットを持った絵里に会ったわ」

希『そうなの?』

真姫「ええ。届けに行こうとしてたから、止めておいた。今から絵里の家にいったん寄ることにするわ」

希『そっか。…実はうちも、ポッケにことりちゃんのいつも使ってるシャーペンが紛れ込んでたんよね』

真姫「…私も、ことりのリップがポケットに入っていたわ」

希『多分、朝から帰るまでの間、どこかのタイミングで入れられたんやろね。…ことりちゃんのアイテム自体に何か仕掛けがあるのか、それとも…』

真姫「…何よ?」

希『これ自体には仕掛けは無くて、ことりちゃんの家に届けさせるのが目的か』

真姫「…」

希『まあ、とりあえず絵里ちの件は了解。気を付けて』

33: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:46:17.24 ID:RI4K/mEO.net
妙に夜道を怖がる絵里を送り届けた後、再びことりの家に向かった。


チャイムを押す。数秒待って、ことりが出てくる。


真姫「…こんばんは」

ことり「あ、真姫ちゃん! いらっしゃ~い♪ どうしたの?」

真姫「…ちょっとことりに会いたくなったのよ」

ことり「えっ…?」


何よ、その間は。

ことりは、ぱぁっと笑顔になり、


ことり「…嬉しい…! 真姫ちゃんっ!」

真姫「ゔぇぇ…」


私は抱き付かれる。

ことりの甘い匂いと声、柔らかさが全身を襲う。

通りすがりの男子高校生が鼻の下を伸ばしてこちらを見ていたり、買い物帰りのおばさんがクスクスと笑っていたりする。


真姫「…ち、ちょっと…人に見られてるから…」

ことり「あっ…ごめんねっ。どうぞ、あがってあがって~」

真姫「ええ…お邪魔します」

ことり「えへへ、嬉しいなぁ…真姫ちゃんから、ことりに会いたいって言ってくれるなんて」

真姫「まあ、ちょっとね…」


怪しまれることなく、ことりの家に乗り込むことに成功した。

今のところ、変わった様子はない。


…希には、電話を繋ぎっぱなしにしてリアルタイムに情報を共有。

左耳に装着したイヤホンは、ことりにはバレていないようだ。


真姫「ことりの家にあがったわ 今のところ何もない」

希『了解』

34: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:47:27.83 ID:RI4K/mEO.net
ことり「こっちへどうぞ~」

真姫「…ええ」

ことり「今、お茶とお菓子持ってくるね」

真姫「いいわよ、ご飯食べてきたもの」

ことり「まあまあっ」

真姫「…あ、そうだ。ことり、これ」

ことり「あ、リップ?」

真姫「…ええ。私のポケットに紛れ込んでたみたい」

ことり「ありがとぉ~…届けてくれるって思ってたよぉ! じゃあ、ちょっと待っててね」



真姫「聞こえた? お茶とお菓子が出てくるわ。どうするべき?」

希『食べないでおいて。そこにも何かあるかもしれんし、様子を見よ。…それと』

真姫「ええ。…届けてくれるって思ってた、ね」

希『…ことりちゃんの私物は、やっぱりみんなをおびき寄せるためのエサ…ってことなんやろね』

35: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:50:17.38 ID:RI4K/mEO.net
ことり「それでね、海未ちゃんが…」

真姫「…」


希『…どう?』

真姫「変わったところはないわ。ずっと衣装とか、曲とか、μ`sのメンバーのことばかり喋ってる」

希『…うーん』

真姫「どう、何か…」

ことり「…真姫ちゃん?」

真姫「あっ!? な、なに? どうかしたの?」

ことり「…食べないの?」

真姫「…あ、あぁ…だから、さっきいいって言ったじゃない…お腹いっぱいなのよ」

ことり「…そっか」

真姫「…?」


真姫「…様子が変ね」

希『警戒を怠ったらあかんよ』

真姫「わかってるわ。…とにかく、帰るフリをしてみる。隙が見えたら"撃つ"わ」

希『…気を付けて』


真姫「…ねえ、ことり。そろそろ帰るわ」

ことり「…真姫ちゃん」

真姫「?」

ことり「…帰るの?」

真姫「ええ…せっかくお茶もお菓子も出してもらって申し訳ないけど」

ことり「なんで?」

真姫「…なんでって、もうそろそろこんな時間だし」

ことり「…帰ること、ないよ」

真姫「…どういうことよ」

ことり「みんないっしょだもん…ずっと…」


真姫「会話がすれ違ってる気がするわ」

希『たしかに…』

36: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:52:37.09 ID:RI4K/mEO.net
ことり「…真姫ちゃん、帰るの?」

真姫「え、ええ…そう言ってるじゃない」

ことり「…そっか」

真姫「じゃあ、お邪魔したわね」

ことり「うん」

真姫「…っ」


ぞくりとしたなにかを感じながら、部屋を出る。



…?


今、この隣の部屋から何か聞こえなかった?


真姫「…希? 何か聞こえなかった?」

希『え? 何かって?』

真姫「…気のせいかしら」


後ろを黙ってついてくることりに聞いてみる。


真姫「…ねえ、ことり」

ことり「…なに?」

真姫「この部屋って」

ことり「入ってくれる?」

真姫「…くれる?」


入ってみる、じゃなくて…入って「くれる」?


ことり「…みんな…真姫ちゃんも、来てくれたよ…」

真姫「…みんな?」


ことりはその扉を開ける。

37: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:55:04.15 ID:RI4K/mEO.net
薄暗い部屋に、何かが蠢いている。

その正体は、凛、花陽、穂乃果、海未。

虚ろな目でこちらを見つめている。


凛「まきちゃん やっときたの? おそいよ」

真姫「…凛、ごめんなさい」

花陽「まきちゃん、いらっしゃい」

真姫「…いえ、もう帰るわよ。穂乃果、海未、あなたたちもことりの家に泊まるなら、ちゃんとお家に連絡しなさい」

穂乃果「なんで?」

海未「そのひつようはありませんよ」


その部屋から背を向けた私の足を、海未が掴む。


真姫「なっ…何するのよっ…」


隠し持っていたドリームトリガーに手をかける。

こうなれば強行突破しかない。


穂乃果「かえっちゃだめだよ」

花陽「もうかえれないよ」

凛「みんないっしょだよ」


…けれど、花陽にもう片方の足。凛と穂乃果に両腕を掴まれる。


真姫「ひっ…」


…表情が無いのに笑っている、と言えばいいのかしら。

とにかく不気味な表情の4人に、恐怖を感じた。


希『真姫ちゃん? 真姫ちゃん! 何が起きてるん!?』

真姫「くっ…離しなさいよっ…」



ことり「…すぅっ」


…ことりが大きく息を吸い込んだ。

38: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:57:36.39 ID:RI4K/mEO.net
「かごのなか とじこめて」


希『…これ、ことりちゃんの歌?』


ことりは取り押さえられる私をよそに、歌を歌い始めた。


小夜啼鳥恋詩。そのワンフレーズ。


「あなただけのために」


真姫「…っ!」

希『…なんか、気分が…?』

真姫「…だめだわ…身体のちからが抜けて」

希『…真姫ちゃん?』

真姫「歌…うたを、きいちゃダメよ…希、早く…電話を、切って…」

希『真姫ちゃん? 真姫ちゃん!』

真姫「いいから早く切りなさい! きっかけはきっと、この歌…むぐっ!」

海未「しずかにききましょう、まき」

穂乃果「そうだよ ほら、きもちよくなっていたでしょ?」


海未と穂乃果に口を抑えられる。


ぶつっ。


でん話が切れた。


…これでいい。

39: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/18(月) 23:59:20.01 ID:RI4K/mEO.net
両手両足にかかっていた力が抜ける。


この歌だ。


このうたがきっと、ことりに憑りついた「なにか」の能りょくであり、穂乃かとう未、花よや凛がこうなった原いん…


私がきづけたんだから、希だってちゃんと気づけるわよね。


…あたまがフワふワしてきた。



「うたいたいの いまのメロディー」


おとりのやく目ははたしたわ。


あとはたのんだわよ、のぞみ…


…のぞみ?


のぞみ

わたし

えり

にこちゃん

ほのか

うみ

りん

はなよ

ことり

みゅーず



「それは こいのうた」

40: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:01:53.26 ID:hEAP+2rO.net
…真姫ちゃんに言われるまま、電話を切ってしまった。



あの歌。



ことりちゃんの声は脳を溶かす、なんてファンの間で囁かれてるらしいけど…


本当に溶かしているのかもしれない。


…歌で人を惑わす怪異も、色々いるけれど…今回は――――




にこ『…どうしたのよ、希?』

希「もしもし、にこっち? あのさ、にこっちって…」


にこっちに電話して、使っている「ブツ」の種類を聞く。


にこ『え? えーっと…』


にこっちの使っている「ブツ」は、うちの探しているものとぴったり合致していた。


希「よしっ、ナイスや!」

にこ『は?』

希「ねえ、にこっち! 今からそれ、借りに行ってもいい?」

にこ『なんでよ』

希「…にこっちがいつも聞いてる曲がどんなものか、教えてほしくて!」

にこ『…な、なによ、やぁ~~~~っと希も、アイドルの素晴らしさがわかってきたのねぇ~~~~!』

希「そういうのいいから。とにかく行くから、用意して待っとって」

にこ『しょ~~~~~がn』


ぶつっ。


にこっちは語り出すと止まらないので、そこそこのところで電話を切る。

…さあ、にこっちの家に急ごう。

41: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:03:26.11 ID:hEAP+2rO.net
にこ「いらっしゃい」


にこっちがドアから顔を出す。


希「例のブツは?」

にこ「ブツって…これよ。…まあまあ、そう焦らないで、まずはこの」

希「ありがとっ!」

にこ「アルバムから…えっ、ちょっ、希!?」


にこっちの手から「それ」をひったくる。


やんやん、家までダッシュ。ごめんで東條!



ということで、ことりちゃんの家にやってきた。


ぴんぽーん。


チャイムを鳴らす。


ことり『はぁ~い』

希「ことりちゃん? うち、希やで~」

ことり『希ちゃん?』


ぱたぱたと足音が聞こえ、ドアが開く。


ことり「希ちゃん! どうしたの?」

希「…あはは、ちょっとことりちゃんと直接会ってお話ししたくて」

ことり「ほんとに? 嬉しい…じゃあ、あがっていいよっ」

希「ありがとな~」

42: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:05:18.24 ID:hEAP+2rO.net
ことりちゃんの家に上がる。


ことり「…それで、お話って?」

希「…真姫ちゃんたちはどこ?」

ことり「…もしかして、希ちゃん…真姫ちゃんたちを、連れて帰ろうとしてるの?」

希「…話が早いね」

ことり「…駄目だよ」

希「駄目と言われても、うちはそのためにここに来たし」

ことり「…」

希「…で、どこにおるん? みんなは」

ことり「…隣の部屋だよ」

希「そっか。ありがと」

ことり「…」


立ち上がり、ことりちゃんの部屋を出る。


…隣の部屋のドアを開けると、薄暗い部屋の中で、死んだ目で笑う真姫ちゃんがお出迎えしてくれた。


真姫「あら、のぞみもきたのね」

希「や、真姫ちゃん。お待たせ」

43: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:06:39.00 ID:hEAP+2rO.net
真姫ちゃんを見ていると、


凛「のぞみちゃんだ」

穂乃果「やっときたぁ」

希「あらら、凛ちゃんに穂乃果ちゃん」


後ろからふらふらと、凛ちゃんと穂乃果ちゃんも迎えてくれた。


花陽「みんなずっといっしょだよ」

海未「おそかったですね なにしてたんですか」

希「ふむふむ」


海未ちゃんと花陽ちゃんも、うちを歓迎してくれているみたい。


背後に気配を感じて振り返る。



ことり「…すぅっ」



ことりちゃんが息を吸い込むのが見えた。



「かごのなか とじこめて」


…真姫ちゃんは、歌を聴いちゃダメって言ってたなぁ。


「あなただけのために」


…ことりちゃん、歌いはじめちゃった。


「うたいたいの いまのめろでぃー」





「それは こいのうた」



ことり「…うふふっ♡」

44: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:09:46.11 ID:hEAP+2rO.net
希「…あ、終わった?」


ことり「…えっ…!? な、なんで歌が…!?」


希「歌に秘密があるとしても…聞かなければ、そんなのは関係ないやん?」


ことり「それっ…」


ポケットから、にこっちに借りてきた「ブツ」を取り出す。


ウォークマン。


うちは家を出る前、真姫ちゃんに貸しだしたのと同じコードレスのイヤホンを耳に装着。

そして、ことりちゃんの部屋を出る直前、音量を上げまくったウォークマンの再生ボタンを押した。

いやー、耳が痛かった。

にこっちの聞いてるアイドルソングが頭にガンガン響いてた。

正直キツかった。


ことり「それを止めてっ!」


ことりちゃんが何か言っている。でも大音量で歌を聴いてるので、相手が何を言っているかわからない。

痺れを切らして飛びかかってきたことりちゃんを軽く受け流し、うちは薄暗い部屋の中に入る。

ことりちゃんの歌を聴いたみんなはうっとりとした顔で、幸せそうに自分の世界に浸っている。

邪魔されなくて都合がよろしい。

…さてさて、ドリームトリガーはどこいったかな。

ことりちゃんに没収されてないといいんやけど。

45: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:11:54.55 ID:hEAP+2rO.net
ことり「…希ちゃん、曲を止めて。じゃないと…」

希「…ないなぁ」

ことり「…希ちゃん?」

希「…ねえ、真姫ちゃん? ドリームトリガーはどこにやったん?」

ことり「希ちゃんってば!」

希「ねえ、真姫ちゃ~ん」

ことり「…」


いつもならウザがられるレベルの絡みを真姫ちゃんにしていると、トントンと肩を叩かれる。


希「あ、ことりちゃん。うちのこと呼んでたんや、ごめんごめん…あっ」


振り向くと、ドリームトリガーを構えたことりちゃん。


ははぁ、なるほど。回収されちゃってたか。


ことり「…早く曲を止めてっ。撃っちゃうよ」

希「あ、ごめん。なんて言ってるかわからんなぁ」


曲を止めようにも、また歌い出されても困るし。


ことり「~~~ッ!! もうっ! もうっ!!」


ことりちゃんは可愛い仕草でぷんすか怒った後、耳の聞こえないうちの為にスケッチブックを持ってきてくれた。


ことり『歌を止めて! じゃないと撃っちゃうよ!』


と、可愛い文字で書いてある。


希「ほほう。その銃で、うちを撃つと」


ことりちゃんはコクコクと頷く。


希「撃てばええやん?」

ことり「えっ…」

46: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:13:06.51 ID:hEAP+2rO.net
希「それでことりちゃんが満足するなら、うちを撃てばいいやん」

ことり「そ、それは…」

希「うちは脅しになんて屈しないよ。曲は止めない」


そもそもその銃に怯える理由がないし。


ことり「…」

希「…じゃあ、こうしよう? その銃をこっちに渡してくれたら、曲を止めてあげる」


ことり『本当に?』


泣きそうな顔でスケッチブックを見せ、そしてうちの顔を見つめることりちゃん。…憑りつかれてても可愛いって、罪やなぁ。


希「ホントホント。うち、約束は破らへんよ」

ことり「…わかったよ」


ことりちゃんはこっちに近づいてきて、しぶしぶドリームトリガーを渡してくれた。

47: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:15:43.59 ID:hEAP+2rO.net
希「ん、ありがと。約束通り、曲は止めるね…あ、でもこの銃のせいで手がふさがってるから、ことりちゃん止めてくれへん?」


怪我した腕を挙げ、ことりちゃんにアピール。

別にドリームトリガーを仕舞えばいいんやけど、ことりちゃん、優しいから。

頼まれたことは、ほとんど断らない。


ことり『どのポケット?』


希「胸のポケットやで~」


うちの胸ポケットをまさぐることりちゃん。


希「やん、恥ずかしい♡」


ウォークマンを見つけ、少し嬉しそうなことりちゃん。

ことりちゃんはその停止ボタンを押し、「ピッ」という停止音が鳴る。


停止ボタンが押されるのと同時に、トリガーを引く。


その直後に、ことりちゃんが床とごっつんこした音が聞こえた。


希「ふーっ…」


少しかっこつけて、ドリームトリガーの銃口に息を吹きかける。ちなみに、ドリームトリガーから硝煙は出ない。

…物語の結末っていうのは、意外とあっさりしたものなんよ。










その後、ことりちゃんを含めてみんな、無事正気に戻った。

ことりちゃんはやったことを覚えているらしく、顔を真っ赤にして皆に謝りまくっていたけど…

当の皆はというと、歌を聴く直前のことまでしか覚えてないらしい。

凛ちゃんと真姫ちゃんは苦笑しつつ慰めの言葉をかけ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、花陽ちゃんは頭にハテナマークを浮かべている。

ま、平和に終わってよかったよかった。

…っと、まだもうちょっとだけ、仕事が残ってたね。

48: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:24:16.24 ID:hEAP+2rO.net
ことり「…その、お話って、えっと…」

希「あ、そんなに硬くならんくてもええよ」

ことり「う、うん…」

希「ほら、食べて食べて。せっかくのチーズケーキ、乾いちゃうよ?」


うちはことりちゃんを連れて、近くのファミレスに来ていた。

別にお説教するわけじゃない。お説教されなくちゃいけないのは真姫ちゃんだ。


ことり「…」

希「美味しい?」

ことり「…うん」

希「それはよかった」


にひひ、と笑ってみせる。

すると少し安心したように、ことりちゃんも笑い返してくれた。

よかったよかった。


希「それでね、お話なんやけど」

ことり「うん」

希「…ことりちゃん、最近神田明神に行かなかった?」

ことり「あ、行ったよ…昨日の夜」

希「…そこであったこと、話してもらっても、ええかな?」

ことり「…うん」

49: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:29:05.52 ID:hEAP+2rO.net
ことり、みんなと別れた後…一人で神田明神に行ったんだ。

あのくらいの時間になると、もうあんまりお客さんもいなくて…って、これはどうでもいいよね。

…あの時は、お願いごとをしに行ったんだ。


―――――「μ`sのみんな」と、ずっと一緒にいられますようにって。


あの日まで、みんなのことを気にもしないで、穂乃果ちゃんと遊び歩いていて…

久しぶりに部室に行ったそんな私を、みんなは嫌な顔ひとつしないで、許してくれて。

…なんで、穂乃果ちゃんのことばかりしか見ていなかったんだろう。

自分でも理由はよくわからないけど、悪いのはことりだ、って反省して…

これからは、前と同じように、μ`sのみんなのことを大好きなことりで居たいと思って。


だから神様に、ちょっと手伝ってください、って…お願いしたの。


…そしたら、階段を下りる途中で、歌が聞こえて。


すごく綺麗な声で…


その声を聴いたら、なんだか気分がフワっとして。


ことり「そこからは、希ちゃんも知ってるとおり…あんなことを…ううぅ」


顔を真っ赤にして俯いてしまった。


希「…ふむ、なるほど。ありがとう、ことりちゃん。おかげでいろいろわかったよ」

ことり「…あの、ことりは…」

希「大丈夫、ことりちゃんは何も悪くないんよ。悪いのはその、歌を歌う怪異」

ことり「かいい…?」

希「…怪物、やね。…セイレーン、っていうんやけど」

50: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:38:43.26 ID:hEAP+2rO.net
~のぞみん講座 セイレーン編~


それじゃあ今回は、セイレーンについて説明するよ。


セイレーンは…

・半分が人間、もう半分は鳥の、海の怪物。…海未ちゃんじゃないよ?
・海の岩礁から美しい歌声で人を惑わす。
・歌声に魅惑されて海に飛び込んだ人を食い殺す。その骨は、島に山をなしたという。
・彼女の歌を聴いて、生きて帰れる者はいない。

…って感じの、外国の怪物。


で、セイレーンに関して、二つほどお話を紹介させてもらいたいんやけど。


まず一つ目。

――船旅の帰路、セイレーンの歌を聞きたがった人がいた。

――その人は自分の身体をマストに縛らせ、船員には蝋で耳栓をさせ、セイレーンの歌を聞いた。

――彼はセイレーンの歌を聴いて、海に飛び込もうと暴れ出すが、縛られていて身動きはできない。

――船員は歌に惑わされているのだと判断して船を進める。彼らは無事に帰還した。

――歌で惑わせなかった人間が現れたら死ぬ運命となっていたセイレーンは、海に身を投げて自殺した。



もうひとつのお話。

――小さなセイレーンは、海の真ん中でさみしく、一人で暮らしていた。

――彼女の歌声はとても素晴らしく、船乗りはみんな彼女に会うために海に飛び込む。しかし、たどり着く前に溺れ死んでしまう…

――ある日、とある船長が、セイレーンを引き上げる方法を見つけた。

――船員全員分のウォークマンを用意し、耳に入れる。

――こうして誰一人海に身を投げることなく、静かに彼女の元に辿り着き、ボートに乗せて帰った。それ以降、オペラ座では毎日、彼女の歌声が響いている。



どちらにも共通しているのは、「人を魅了する歌声を持っている」ということ。

違うのは、歌う目的。

前者のセイレーンは人を魅了して食べちゃうため。

後者は、寂しさを紛らわすため、人間に近づいてきてもらうため。

51: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:42:48.02 ID:hEAP+2rO.net
今回のことりちゃんの場合は、後者やね。


…ただ、みんなと一緒に居たい。ただそれだけ。

μ`sへの愛、みんなとずっと一緒に居たい、という気持ちを、憑りついたセイレーンに利用されかけていた。

でも、ことりちゃんは逆に能力を利用して、その想いを実現させていた。

つまり、怪異の力を完全に自分のモノにしてた、ってことやね。

…いやぁ、凶暴な怪異じゃなくてよかった。



あ、ちなみに対策について。

・曲を聞かなければいい。
・曲を聴いても、惑わされなければいい。

…長々と喋っちゃったけど、結局この2つに尽きるわけやね。

うちがウォークマンを用意したのは、曲を聞かないため。

お話の中に、「ウォークマン」って単語が出てくるくらいやから、こだわってみた。

もしかしたらipodとか、他の機種でもよかったのかもしれんけど。



…ちょっと今回は、あんまり参考にならない感じだし、スリルも少ないお話になっちゃった…ごめんな~。


…というわけで、のぞみん講座でした。

52: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:47:10.77 ID:hEAP+2rO.net
ことり「セイレーン…」

希「そう。今回、ことりちゃんに憑いてた悪い怪異。…それに、ことりちゃんが穂乃果ちゃんにお熱だったのも…」


ここまで話しちゃったし、どうせならスッキリさせといたほうがいいかな~って思って、穂乃果ちゃんの件から今回の事まで、詳しく説明してあげた。

うんうん、と一生懸命相槌を打ってくれたり、驚いたり、笑ったり、色々反応してくれていた。…ことりちゃんは聞き上手やなぁ。


ことり「そ、そうだったんだ…穂乃果ちゃんと、凛ちゃんも…で、でも、それでも、やっぱり、ことりは悪いことをしちゃったし…」

希「…んー、そこまで言うんやったらしゃあない」

ことり「…どうす…ぴゃぁっ!?」


うちはわしわしマックスを解禁した。

今日の昼頃に封印を検討していたような気がするけど、別にそんなことはなかった。

ことりちゃんにするのは初めてだっけ?


希「…ん~、いい揉み具合?」

ことり「なっ、ななな…なんで…」

希「…仕返しや」

ことり「…仕返し?」

希「そ、仕返し。ことりちゃんがセクハラしてきたから、うちもセクハラ。これでおあいこやろ?」

ことり「希ちゃん…」

希「はい、これでうちは許したってことでええよね?」

ことり「…セクハラって自覚、あったんだ」

希「あ…それは、言葉の綾ってことで」

ことり「…うふふっ」

希「ふふっ」

ことり「…ありがとう、希ちゃん」

希「お礼なんてええって。ま、他のみんなにどうするかは…ふふっ」

希「明日、考えよか。朝、迎えに行ってもええかな」

ことり「そこまでしてもらわなくても…」

希「まあまあ、アフターケアもゴーストバスターのお仕事やから。うちに任しとき!」


…とカッコつけて、お店を出た。

…さてさて、最後のひと仕事に向けて準備しますか。

53: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:48:16.67 ID:hEAP+2rO.net
次の日の朝。


希「やあやあ、ことりちゃん。おはよう」

ことり「おはよう、希ちゃ…あれ?」

真姫「おはよう、ことり」

絵里「今日は随分とゆっくりね」

穂乃果「えー、でも穂乃果よりは早いよ?」

海未「あなたが遅いんです…」

凛「そうにゃそうにゃ! 凛より早起きにゃ!」

花陽「あはは…凛ちゃんも、もう少し早く起きようね…」

にこ「はいはい、いつまでもここでコントしてる場合じゃないわよ。近所迷惑でしょ」

希「ほな行こか~」

ことり「え…」


何が起こったのかわからない、といった顔のことり。


凛「ねえねえ、ことりちゃ~んっ」

ことり「ぴゃぁっ!?」


凛がことりに抱き付き、頬ずりしている。ことりは変な声を上げて顔を赤くしている。


凛「凛、お菓子作りの勉強したいんだけど…ことりちゃん、教えてくれるかにゃ?」

ことり「い、いいけど…」

54: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:49:38.87 ID:hEAP+2rO.net
絵里「…凛、一人だけ抱き付いてずるいわよ!」

花陽「わ、私もーっ…!」


ぎゅーっ。


花陽と絵里も、ことりに飛びつく。


ことり「ふぇええええ…???」


にこ「…まったく、朝からベタベタ暑苦しいわね」

海未「ふふっ、そうですね」

真姫「にこちゃんも行けば?」

穂乃果「そうだよっ! さあにこちゃん、いくぞーっ!」

にこ「え? の、のわあぁ~っ!!」

穂乃果の勢いに巻き込まれるにこちゃん。


希「ほらほらっ、海未ちゃんと真姫ちゃんもーっ!」


そして、海未と私の手を取ってことりに突撃する希。


どしゃあああ。


勢い余って、全員巻き込んで倒れてしまった。



絵里「つ、潰れる…」

凛「希ちゃん、勢い付けすぎにゃ!」

希「あはは、ごめんごめーん」


…なんて、みんなで朝から大騒ぎ。

55: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:52:41.75 ID:hEAP+2rO.net
ことり「…ね、ねえ、みんな」


みんなそれぞれに立ち上がったところで、ことりが切り出す。


ことり「…なんで? …ことり、昨日、あんなこと…しちゃったのに…」

凛「えっへへー…仕返しだよっ」

ことり「へ…?」

絵里「そうよ、ことり。みんな好き放題やられたんだから、その仕返し」

ことり「…希ちゃん」

希「にひひ」

真姫「ことり」

ことり「?」

真姫「ことりは私たちのこと、好き?」

ことり「え…」


ことりは少しモジモジとして、私の質問に答える。


ことり「…だいすき、だよ…」


小鳥のさえずりのような小さな声だったけれど、その言葉と気持ちはみんなに届いたみたいで。


海未「なら、それでいいじゃないですか」

穂乃果「そうだよっ! 私たちも、ことりちゃんのことだ~い好きだもんっ!」

花陽「もちろん、μ`sみんなのこともねっ」

にこ「…昨日ははしゃぎたかったんでしょ?」

ことり「へ?」

にこ「希から聞いたわよ」

凛「希ちゃんも、ももう少し考えてほしかったにゃ!」

希「はーい、ごめんなさーい」

絵里「ことりも。希にそそのかされたからって言って、やりすぎは禁物よ? 節度を持ってね?」

ことり「は、はぁ…?」

56: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:55:24.11 ID:hEAP+2rO.net
海未「ことりはいつも、一人で抱え込むから…」

穂乃果「もっと私たちを頼っていいんだよっ!」

ことり「…みんな」


みんな、ことりの顔を見て笑いかける。

ことりは安心したみたいで、ふにゃっと笑みをこぼす。


希「…ことりちゃん。うちらはどこにも行ったりしないよ。みんな、ずっと一緒や」

ことり「希ちゃん…」

真姫「…ここにいるみんなが、あなたと同じ気持ちよ。μ`sのことが、大好きなの」

ことり「真姫ちゃん…」

希「…よーしっ、皆のものかかれーっ!」

「「おーっ!!」」

ことり「やっ…やぁ~ん♡」


希の号令で、再びみんながことりに襲い掛かる。

ことりは、幸せそうに悲鳴を上げていた。



…タネ明かし…というわけでもないけれど。

昨日の夜、ことりと別れた希からメッセージが届いた。


ことりが、ストレスを溜めこんでいたこと。

それを爆発させてみたらいい、とアドバイスしたのは自分だということ。

ことりもやりすぎたと反省しているようだし、明日の朝みんなで仕返しして、チャラにしよう―――――と。


凛と私には、「ってことにしといてな♪」という一文が追加されていたけれど。

ことりから皆に怪異のことを話させるのも面倒だし、これが妥当な落としどころかしらね。



…ま、みんなμ`sのことが大好きだってことも、改めて認識できたし、ことりも幸せそうだし。

ハッピーエンドね。



…あ。

希からのお説教が待ってること、忘れてたわね。

57: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/01/19(火) 00:56:08.78 ID:hEAP+2rO.net
おわり