響「我那覇響探検隊!」雪歩「地底王国に謎の生物を見た! ですぅ」
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「ふぇぇ……だいぶ山奥まで来ちゃいましたねぇ……」
「確かに……普段あまり見ない分、この緑の濃さは強烈だよな」
車道を覆うように立つ木々を見て何気なく呟いた私に、運転席に座るプロデューサーが相槌をうちます。
「本当にこの道であってるの、プロデューサー?」
「そのはずなんだけどなぁ……ほら、ナビにもこっちだって出てるし……」
「それさっきも言ってたよ、プロデューサー。自分、そろそろ疲れてきたぞ……ふわぁ……」
大きなあくびをすると響ちゃんはそのまま、後部座席にゴロンと横になります。
「おいおい、今から疲れてもらっちゃ困るなぁ。まだ現場に着いてさえいないってのに」
そんな響ちゃんを見て、プロデューサーが笑いました。私達三人は今、
プロデューサーの運転するワゴン車に乗って、番組の収録の為に奥深い山道を進んでいるところなんです。
「しょうがないですよプロデューサー。響ちゃん、今日のロケを楽しみにしていましたから」
「分かってるさ、なんてったって久々の『我那覇響探検隊シリーズ』だもんな」
「そうだぞっ! ホントーに久しぶりさー!」
プロデューサーの言葉に、転がったままで返事をする響ちゃん。
実を言うと私も……このシリーズのファンだったので、今回の収録、楽しみだったりするんです。
あっ! 『我那覇響探検隊シリーズ』っていうのは、時々テレビで放送されている特番のタイトルで……
探検隊に扮した響ちゃんが日本中の秘境を探検するっていう内容の番組なんです。
毎回探検隊を襲う様々なアクシデントと、それに対する響ちゃんのリアクションが見どころの人気番組なんですよ!
「自分、楽しみすぎて探検隊の衣装も着てきちゃったもんね! そのぐらい、やる気バッチシなんだぞー!」
「ふふっ。本当に楽しみなんだね?」
「そういう雪歩も、探検隊の格好、似合ってるじゃないか」
「あぅ! ……こ、これはその! 私も一緒に出演するから、き、気合を入れようと思いまして!」
「うんうん。雪歩みたいな優秀な隊員が参加してくれて、隊長の自分も鼻が高いさー!」
「はっはっは! 雪歩なら春香と違って事故を起こす心配もないだろうな~!」
「ふ、二人とも……春香ちゃんに悪いですよぅ~」
この『我那覇響探検隊』には、隊長の響ちゃんの他に毎回ゲストの方が新米隊員役で出演しますが、
ゲストとは別に、時々春香ちゃんが先輩隊員役として出てるんです。いわゆる準レギュラーっていうやつですね。
普段は頼りになる先輩役なんですけど、大事な場面ではいつもドンガラ――アクシデントを引き起こすのがお約束になっています。
でも、今回はスケジュールの都合でお休み。その代わりとして白羽の矢がたったのが私だったんです。
「ほんと、『呪われ地蔵』を春香が引っくり返した時なんて、自分、心臓が止まるかと思ったぞ」
「あー、あれはその後も衝撃だったな。一緒にいた霊能力者の人が……」
「「この人には既に強力な『芸』が憑いているので、地蔵の呪いなど通用しないでしょう」」
「なんだよ! 強力な『芸』って! うちの春香はアイドルだってーのっ!」
「それを聞いた春香も、春香だぞ! 『探検前に、受身の練習をして来たのが役に立ったんですかね?』って!」
「カメラが回ってるのに真顔だったからな。ロケが終わった後もしばらく練習を続けていたみたいだし」
そう言って笑いあう二人……そういえば自主レッスンの時、
真ちゃん達が踊ってる横でマットを敷いた春香ちゃんが受身を取っていたのには、そんな理由があったんだ……。
「まぁ、実際何事も起きなかったからいいとして――おっと」
その時、ガクンと音を立てて車が止まりました。何かあったのかと、前を見てみると……。
「おいおい……ほんとにココを通らないとダメかぁ……?」
私達の行く手には、物凄く古いトンネル――いいえ、トンネルと言っていいのでしょうか?
目の前に現れたそれは、普段トンネルと聞いて想像するコンクリートで舗装された物ではなく、
山にそのまま穴を開けたかのような――そう、坑道の入り口と言った方がしっくりくる見た目をしていました。
「や、やっぱり道を間違えたんじゃ……」
「いや、ナビはこの道であってる……大体、今までずっと一本道だったんだ、間違えようもない」
響ちゃんの問いかけに、プロデューサーが答えます。でも、それにしてもこれは……。
「見た目が悪いだけで、使われてないって事はないだろ……多分」
そう言うと、プロデューサーは再び車を動かし始めました。
私達を乗せた車が、ゆっくりとトンネルの中へと入って行きます……
まるで、この不気味なトンネルに飲み込まれていくような……そんな奇妙な感覚に、その時の私は捕らわれていました。
「うぅ……真っ暗だぞ……」
「ライトもつけてるのに、この暗さは確かにキツイな……」
「トンネルの壁も、そのまま土がむき出しですぅ……」
トンネルの中は暗く、車のライトもほんの数メートル先を照らすのが精一杯。
まるで、全ての明かりを闇が吸い込んでいるようです。
おまけに、舗装されていない道路が車体をがたがたと揺らします。
「照明もないみたいだし、そんなに長いトンネルじゃないと思うんだが……」
「自分、なんだか嫌な予感がするぞ……」
「そうだな……来ないとは思うが、対向車なんか来たらぎりぎりだぞ。この幅じゃ……」
響ちゃんが不安そうに呟いた瞬間、不意に車体の揺れが大きくなったかと思うと、私達の体に衝撃が走りました――!
「な、何だ――」
驚いたプロデューサーの声が、轟音にかき消されたのと、私の意識が途切れたのはほとんど同時だったと思います。
そのまま、私は気を失ってしまいました――。
――どのくらいの間、気を失っていたんでしょうか?
私が意識を取り戻した時には、辺りは完全に闇で包まれていました。
それだけではありません、身体のあちこちに、鈍い痛みも感じます。
「な……何が起きて……」
私はまだ少しぼぉーっとする頭で、自分達に何が起きたのかを思い出そうとします
――トンネルに入って、強く車が揺れた後、投げ出されるような衝撃を受けて……それで、プロデューサーが――。
「!!……そうだ……プロデューサー……!」
私は、痛む頭を押さえながら運転席のプロデューサーの方へ手を伸ばしました。
でも、私の手は何も無い空間を通り過ぎ、そして……。
「……プロデューサー……どこにいっちゃたんですか……?」
――そのまま、私の手はプロデューサーが座っていたはずのシートの上に……。
べちゃりと、嫌な感触が手のひらに伝わります。それに、この臭いは……。恐る恐る、私は自分の手を確認し――。
その手についた大量の血を見た時――私は再び、気を失ってしまいました――。
「――カットォッ! はーいオーケーでぇーすッ!!」
監督の声が現場に響いて。その瞬間、緊張していた周りの空気がフッと軽くなる。
一仕事終えた心地良い疲労感が、自分の身体を満たしていく――。
「お疲れ様! 撮影、なんとか上手くいったね!」
隣に立つ雪歩が笑う。
「ホントだよ。春香がセットを崩したときはどうなるかと思ったが……いや、終わりよければすべて良しだな、うん!」
プロデューサーが大げさに頷くその隣で、春香が顔を真っ赤にする。
「だ、だからあれは事故でして……ワザとじゃないんですよぉ~!!」
「いやぁ、自分も倒れて来たセットに埋められた時は生きた心地がしなかったぞ!」
「うぅ……ごめんね、響ちゃん……」
「ま、まぁまぁ春香ちゃん! セットは崩れちゃったけど、誰も怪我はしませんでしたし……そんなに落ち込まないでくださいぃ」
落ち込む春香をフォローする雪歩。それを見て、自分も続ける。
「雪歩の言うとおりさー。それに自分、完璧だからなっ! あれくらいどぉってことないぞ!」
そう、笑いかけた時だった。
「――ほんとに?」
急に、その場の雰囲気が変わった。返事をした春香の声が、別人のように低く、重い。
「ど、どうした? 春香……急にそんな怖い声出したりして……」
気がつけば、辺りはなぜか真っ暗で……雪歩達も居なくて……目の前には春香だけ……。
「――ほんとに、なんともないの?」
春香が、伏せていた顔を上げる。
その目は、自分じゃなくて、どこか別の場所へと向けられていた。不意に、足を鋭い痛みが走りぬける。
「――まだ……埋まったままなのに?」
にこりと笑う春香の顔はまるで……まるで……。
耳をつんざくような悲鳴で、目を覚ます。
それと同時に、酷くなる左足の激痛。後部座席から転げ落ち、
自分が座席と座席の間にある狭い隙間に挟まっている事に気がつくには、さらに数秒の時間が必要だった。
「――ッ! ~ッ! ぅがぁ……ッ!!」
左足の痛みからか、自然に声が漏れる。そこでようやく、さっきの悲鳴が、自分の物だった事に気づく。
「うぅ……何が……起きたの……」
コメント一覧
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- 2016年02月05日 22:18
- おいおいおいおい
あずきがいないってぇのはどういうことだい?
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- 2016年02月05日 22:23
- 自演を指摘されると真っ赤になって長文で否定しだすやーつ
文体変えても直後に擁護してたらバーレバレ
普通の人は他人の喩え方なんていちいち気にしねーよw
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- 2016年02月05日 22:43
- アイマス10周年と騒がれる昨今、ジャンルやカテゴリを無視して成立するSSを作れるコンテンツは流石「アイマス」。
稀有な市場だと思う。
資金も計画もなく、既存のキャラを活躍させるのはユーザーであり素人。
設定やスタッフ、声優達キャストはその中で影響された話題を元にアイドル達を進化させ、ユーザー達は迎合する。
まさに金の卵の永久機関。
アイマス二期若しくはデレマス二期を望む無課金でした
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- 2016年02月05日 23:03
- うさぎの時点で杏がいるとわかった
主人公は雪歩なのな