少年「買い物くらい、俺が行ってくるよ」母さん「わざわざごめんね…」
母さんはこのところ体調を崩していて、そんな母さんの代わりにその日俺は買い物に出掛けることにした。
「行ってきます」
そう言って玄関から出ていく時、母さんは微笑みながら俺を送り出した。
「行ってらっしゃい。よろしくね」
それが、母さんの最後の言葉だった。
声をかけても、揺すっても、もう起きることはなかった。
そこから先はよく覚えていない。
気がついたら、警察や、救急車が来ていて、それは自分が呼んだものだと後から気づいた。
急いで帰って来たのだろう。
父さんは作業着のままだった。
母さんは既に近くの病院に搬送されていたので、父さんは俺を車に乗せて病院に向かった。
道中、父さんは一言も喋らず、俺もどう切り出したらいいかわからず俯いていた。
「ごめん…今日は俺、ちょっと出掛けてて…帰って来たら母さんはもう…」
すると父さんは俺の髪をくしゃくしゃかき回しながら、諭すようにこう言った。
「お前のせいじゃない。実はこの前、医者からいつどうなるかわからないから覚悟しておくようにと言われてたんだ」
初耳だった。
母さんの体調が良くないことは知っていた。
だけど、まさか命に関わることだとは思ってなかった。
「だから、お前のせいじゃない」
父さんはそう言ってもう一度俺の髪をくしゃりとかき回すと、それっきり黙って運転に集中した。
俺も必死で後を追う。
受付で手続きを済ませた俺達は霊安室へと向かった。
扉を開くと部屋は線香の匂いで満たされていて、まるで病院の中の一室とは思えない異質な雰囲気だった。
母さんはその部屋の真ん中に置かれたベットの上に横たわっていて、顔には白い布がかけられていた。
その手は震えていた。
父さんが布を取ると、母さんはまるで眠っているかの様に穏やかな顔をしていた。
家で母さんが死んでいるのを見つけたのは俺だったけど、その時は気が動転していて、母さんがどんな表情をしていたかなんて見る余裕はなかったから、この時初めて死に顔に対面したようなものだった。
苦しそうな顔じゃなかったのが、せめてもの救いだと漠然とそう思う。
そんなことを考えていると、父さんはその場に崩れ落ち、大きな泣き声と共に号泣した。
綺麗な母親だった。
絹のような黒髪は長く、目鼻立も整っていて、これまで何度父親似でぱっとしない自分の顔面を呪ったことかわからない。
しかし、俺がマザコンかと言えばそうではないと断言出来る。
そんな綺麗な母親にも短所があったのだ。
俺は小さな頃から母さんに無理難題を言われ、翻弄される父さんの姿を見てきた。
時には父さんに対し、殴る蹴るの暴力(原因は大抵父さんの方にある)も振るっていた。
そんな母さんの凶悪な一面を知っている俺がマザコンになどなる筈ないのだ。
しかし父さんはそんな母さんのわがままを、いつもヘラヘラ笑って受け入れていた。
俺はそんな父さんが嫌いだった。
なぜ言い返さないのかと聞いたこともあったが、父さんは俺の質問に決まっていつもこう答えた。
「いつかお前も大切な人が出来たら大事にするんだぞ」
なんだそれ。
母さんは美人だったから、どうせ惚れた弱みで何も言い返せないのだとそう思っていた。
俺の中で父親は情けない存在だった。
高校に進学してから父親への嫌悪感は顕著になり、最近はろくに言葉も交わしてなかった。
時には父さんがビビるくらいに叱ることもあったが、父さんに対してするように無理難題を俺にふっかけることはなかった。
そんな母さんはこんな父さんのどこを好きになったのだろうか。
今更ながら、そんなことを思った。
俺は泣かなかった。
いや、泣けなかったというほうが正しいか。
嫌いな父さんがいる前で、涙を流したくなかったのだ。
わんわん泣いている情けない父さんの背中をじっと見つめていると、徐々に怒りが湧いてきた。
いつまで泣いてるんだよ。
シャキッとしろよ。
一言言ってやろうかと思ったその時、数回のノックの後に部屋の扉がガラリと開いた。
部屋に入って来たのは1人の女性の看護師だった。
歳は父さんよりも上のようだ。
『裕一』というのは父さんの名前である。
名前を呼び捨てるということは父と親しいのだろうかと、おばさんにしてはなかなか若々しく見えるその看護師を訝しげに眺めていたら、その看護師は俺の視線に気づいてにっこり笑ってこう言った。
「あら?あなたが裕一の子?へぇ~裕一のガキの頃にそっくりね。ちなみに今度私のことおばさんだとか頭の中で考えやがったらぶっ飛ばすからね」
完全に思考を見透かされた俺は、震えながら何度も頷くことしか出来なかった。
そんな父さんの背後に立った看護師は、父さんの肩を叩いて再び声をかけた。
「裕一。先生が呼んでる。気持ちはわかるけど、しっかりしな」
けれど父さんはそんな声に耳を貸さずに、母さんの傍から離れようとはしなかった。
そんな父さんの態度に苛立ったのか、舌打ちをした看護師はあろうことか父さんの背中に蹴りを見舞った。
「シャキッとしろ裕一!!あんたにはまだやらなきゃならないことが残ってんだろうが!?」
あまりの暴挙に俺が呆然としていると、悶絶していた父さんがむくりと起き上がった。
「うぐっ…ッ…あ、亜希子…さん?すみません…俺、聞いてなくって…」
どうやら蹴りのショックで気を持ち直したらしい父さんに、看護師は改めて要件を話した。
「だから、医者が呼んでるから来なって。あと、色々書類も書いてもらうから。あんたがしなきゃならないことは…あんたがしっかりやりな」
そう言って父さんは、看護師と一緒に部屋を出て行った。
父さんが亜希子と呼んだ看護師のあまりの暴挙に、しばし固まっていると、母方の祖母と父方の祖母が部屋に来た。
母方の祖母は母さんの亡骸の前で泣き崩れ、それを父方の祖母が支えた。
ちなみに俺に祖父はいない。
父方の祖父も、母方の祖父もどちらも俺が産まれる前に亡くなっていた。
また、涙を流す機会を逃してしまった。
別に祖母達が居るからといって、泣くことが憚られるかと言えばそうではないのだが、それでもやはり泣けなかった。
俺は母さんが死んだという実感が未だに持てなかったのだ。
床の間に横になった母さんは、やはり今にも起きだしそうなほど綺麗な顔をしていた。
祖父母は葬儀屋とこれから行われる葬儀について話し合い、父さんは警察に事情を聞かれていた。
そんな慌ただしい中、悲しみに暮れる暇もなく、1日が過ぎていった。
どうやら寝ずに線香の番をしていたらしい。
起こしてくれれば、俺が代わってやったのに…
そう思いながら身体を起こすと、父さんは俺が起きたことに気づいた。
「ん?あぁ…おはよう。そうか…もう朝か…。それじゃあ、飯にしよう」
そう言って父さんは立ち上がり、俺を引き連れて台所へと向かった。
台所では既に起きていた祖母達が朝食を用意してくれていた。
コメント一覧
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- 2016年02月06日 22:24
- どっかで読んだことあるような内容
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- 2016年02月06日 22:36
- 長い
くさい
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- 2016年02月06日 23:02
- ほとんど内容忘れとるわ
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- 2016年02月06日 23:15
- よくもまあここまで文全体から「腐女子が書いた泣ける話」を滲み出せるもんだと感心した
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- 2016年02月06日 23:33
- なにこの駄文
気持ちわるっ
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