キョン「なぁ佐々木、ちょっとはみらせてくれないか?」佐々木「は?」
受験を控え、いよいよ切羽詰まってきた冬季講習の帰り道での出来事だった。
佐々木は俺の同級生であり、クラスメイトでもあり、親友と呼べる存在だった。
そんな佐々木に何故こんなお願いとも呼べぬ妄言を吐いてしまったのかは、まぁ追々説明しよう。
佐々木「キョン。すまないが、君がなんて言ったのかよく聞き取れなかった。もう一度繰り返して貰っても構わないかい?」
キョン「はみらせてくれ」
キョン「いや、れっきとした日本語であり、特に方言というわけでもない」
この時俺は本気でそう思っていたが、実は関西地方に『はみる』という方言があり、特定個人を除け者にしたりはみ出し者にしたりするという胸糞悪い意味があると知ったのは、ずっと後になってからだ。
佐々木が浅学なんてとんでもない。
こいつは俺のスポンジみたいな脳みそよりもずっと密度の高い頭脳と知識を有している。
まぁ、女のくせに一人称が『僕』だったり、クラスの女子と話す時は普通に『私』と言ったりと、いろいろおかしなところは多々あるが、同学年の中では唯一尊敬出来る存在であると言っても過言ではない。
なかなか質問に答えない俺に、佐々木は拗ねたようにそう言った。
キョン「いや、別に無下にするつもりなんかない。ただ、少し意外でな…まさか俺が佐々木に何かを教える日が来ようとは」
佐々木「君は僕のことを全知全能か何かだと勘違いしている節があるが、そんなことはない。僕にだって知らないことが沢山ある」
それもそうか。
人の知識の引き出しの中身なんてのは、何に興味を持つかによってその内容が大きく変わるものだろう。
俺にとっての『はみる』とは、つまりこういう意味だ。
キョン「上唇と下唇で何かを挟む時に使われる言葉だ。虫が葉を喰むのと同じ意味だと思ってくれ」
我ながら単純明解な回答である。
これに疑問を持つ者などそうそう居る筈は…
佐々木「は?」
なんとここに居た。
佐々木「いや、解せないね。上唇と?下唇で…何だって?」
どうにも埒があかないな。
まさか佐々木がこうも話が通じない奴だとは思わなかった。
キョン「だから、上唇と下唇で挟むんだよ。えーと…ほら、こんな感じに…はむっ」
百聞は一見に如かずということで、俺は自分の手の甲をはみって実演してみせた。
手の甲をはみる俺を見て、佐々木そんなアホなことを抜かしやがった。
やれやれ…これのどこをどう見たら甘噛みに見えるんだ。
だんだん腹が立ってきたぞ。
キョン「アホか!よく見ろって!歯は使わないんだよ!こうやって…上唇と…下唇だけで…はむっ!わかったか!?」
佐々木「わかった!わかったから!!それで、『はみらせてくれ』とはどういう意味なんだ!?」
結局佐々木は何もわかっちゃいなかった。
佐々木「ご、ごめん。僕も少しばかり熱くなってしまっていたみたいだ。声を荒げるなんて…やはり、らしくないことはするものではないな」
そう言って佐々木はくくく、と笑った。
佐々木は基本的に冷静沈着であり、今回のように声を荒げることなんてほとんどない。
そう考えると何か貴重なものを見れた気がして、俺も先ほどの苛立ちを忘れることが出来た。
俺の願いは変わらない。
キョン「最初に言った通りだ。佐々木、はみらせてくれ」
佐々木「この場合においての『はみる』とは、さっき君が実演してみせてくれたものに相違はないかい?」
キョン「あぁ。もちろんだ」
ようやく佐々木が持ち前の理解力を発揮してくれたおかげで、先程までとは打って変わりスムーズに話が進んでいく。
ん?
佐々木の様子がおかしい。
なぜ顔を赤らめる?
キョン「そういう事で間違いないが、佐々木?どうかしたか?」
佐々木「べ、別になんでもない。しかしそうか…フフッ…君は口下手だからなぁ…なるほど。だから、『はみらせてくれ』などと…全く、遠回しにも程があるというか…」
よくわからないが、何やら佐々木は得心がいったようだ。
キョン「あぁ。公衆の面前ではみるなんて以ての外だからな」
佐々木「それじゃあ、この先の公園なんてどうだい?あそこなら日が暮れると滅多に人なんて来ない筈さ」
さすが佐々木だ。
頼りになる。
キョン「決まりだな」
画して俺達は公園を目指し、はやる気持ちを抑えながら歩き始めたのだった。
目的地に到着した俺達は、まず公園内をぐるりと一周して人がいないかどうかを確かめた。
佐々木「どうだいキョン。人っ子ひとりいないだろう?」
キョン「そのようだな。まぁ、こんな寒空の下、公園でたむろする奴なんてまずいないだろうからな」
冬の公園は思った以上に寒々しく、葉の落ちた広葉樹も相まって、何処となく寂しげに見えた。
何故ならば…
佐々木「キョン、このベンチがいい。ちょうど大通りから見て茂みに隠れるベストスポットだ」
くくっく、と喉を鳴らして笑う佐々木が傍に居る。
そしてこれから俺は、そんな佐々木をはみるのだから。
そんなジジ臭い言葉と共に俺はベンチにどっかり腰を下ろす。
すると佐々木も
佐々木「よいしょっと」
と、言って座った。
俺の膝の上に。
佐々木「え?」
あまりのことに思考が追いつかない。
なんだこれは。
一体どういうことだ?
繰り返し言うが、ベンチに座った俺の膝の上に佐々木は座った。
しかも、向かい合わせである。
どうにか声を絞り出す。
佐々木「なんだいキョン?」
佐々木は首を傾げて俺を見つめる。
近い。
目と鼻の先とはよく言ったもので、まさに俺の目と鼻の先に佐々木の形の良い鼻や、パッチリとした目や、プルンとした唇が…って!
キョン「何やってんだお前!?」
随分と時間がかかったが、ようやく俺はまともなリアクションを取ることに成功した。
くそっ…可愛いじゃねぇかこの野郎。
いやいや、そうじゃなくてだ。
キョン「お前、何で膝の上に乗ったんだ?」
そう。これだ。
今聞くべき最大の質問はこれである。
佐々木「なぜって…キョンがはみり易いようにと思ったのだけど?」
は?
何を言ってるんだこいつは。
キョン「はみり易いって、この体制が?」
佐々木「隣に座ったところで、君はなかなかタイミングが掴めないだろうと思ってね。長い付き合いだ。君のことは熟知しているつもりさ。とはいえ、僕もこういったことは初めてだから、変に慣れてるなんて誤解だけは勘弁してくれ」
そう言って佐々木は得意げにくくっく、と笑った。
慣れてる?
なんのことだ。
キョン「待ってくれ。意味がわからない。とりあえず俺の膝の上から降りt」
佐々木「今更やっぱり無しなんて蛇の生殺しも良いところだ!!君は女心を踏みにじるつもりかい!?ほらっ!さっさとはみりたまえよ!僕ならもう準備は出来てる!!」
俺の言葉を遮ってまくし立てた佐々木は、唇を突き出して目を瞑った。
まるで『マジでキスする5秒前』みたいな状況ではないか!!
そ
コメント一覧
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- 2016年02月16日 23:46
- 俺のアレもハミってくれよ(ボロン
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- 2016年02月16日 23:52
- ※1
そのハミ出る程の大きさもないモノのことか?w
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- 2016年02月16日 23:54
- ※1
えっ?ハサミで切れ?(難聴)
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