627 名前:大人の名無しさん[sage] 投稿日:05/01/16(日) 02:22:38 ID:joevlcFs [1/3]
私はこの間、成人式を迎えたばかりですが、読んでいたら、どうしても、書きたくなったので許して頂きたい。

 少しくすんだ、桃色の着物を着た私を、母は酷く喜んでくれた。
 自分が買って貰ったから、私にも買ってやりたかったのだと、ずっと言っていて酷く喜んでくれた。最近になって、母が、良く昔の話をした。
 祖父は、私が小学校の頃に亡くなった。
 母親の実家は海に近いところで、夏休みになると両親共働きの私の家では、私と兄がそろって田舎に出向くことが多かった。しかも、一ヶ月程向こうで暮らす。
 其処には祖父と祖母。それと、母親の弟夫婦が居る。弟夫婦には子供が居ない。夏休みの間、一ヶ月、私達が、其処の家の子供になるのだ。

 祖父は、夏休みに行くと毎日、百円玉をくれる。其れがお小遣いだった。
 みかんの缶詰が大好きだった私達の為に、祖父が何時も座っている場所の後ろの棚に、いつも蜜柑の缶詰をいっぱい入れておいてくれたのだ。
 喧嘩をしないようにと、一人に一缶くれたその缶詰は、私にとっては酷く贅沢だ。
 灯台もあった。時々、祖父と一緒に灯台まで歩いた。
 私の記憶にある祖父は、とても強いヒトだった。灯台の上まで、ひたすらある階段を一緒に上ったこともある。
 帰りに、かき氷か、ソフトクリームを買ってもらって、また歩いて帰る。
 海はとても綺麗だ。空も、とても綺麗だった。
 夜には星が一杯になって、星座が解らない程だった。其れが、とても、印象に残ってる。

 何か玩具を買ってきていいと言われた親が、私達に買ってきたのは、速く走る玩具の車だった。レーシングカーだ。
 其れが、速すぎて私達が遊べないと知るや否や、祖父は直ぐに「此奴等が遊べないのを買ってきてどうするんだ!新しく買ってこい!」と、親を怒ったのだという。

 夏休みが近づくたびに、「まだ来ないのか」と催促の電話が毎日のようにあった。
 迎えに来てくれたこともあった。
 私は祖父のことが大好きだった。


628 名前:627[sage] 投稿日:05/01/16(日) 02:25:15 ID:joevlcFs [2/3]
 何時のことか、そんなに覚えていない。
 ただ、急に母親が、田舎に行くから準備をしなさいと言った。遊びに行くのだと思っていたら、電車の中で母が泣いた。
 祖父が倒れたのだという。
 当時はよく分からなかったが、脳溢血か……だったと思う。
 私達が病院に着いて、漸く顔を見れた時だったけれど、その時、祖父は眠っていた。顔を見ただけで、私達は病室を後にした。
 次の日に学校があるからと、帰る夜。
 立ち寄ったスーパーの、一角で、まぁ、大売り出しみたいなのを、やっていた。其処にあった一つのテディベアが、私は酷く欲しくて、母親に買って貰った。500円か……300円だったかと、思う。
 可愛くないのにね。と、母親は少し呆れたように言いながらも、買ってくれたのを覚えている。
 間もなく、祖父は亡くなった。
 倒れたら三日で死ぬ、みたいなことを、みんなに言っていたのだという。
 其れの通りだったと聞いたから、多分、本当に間もなかったと思う。
 葬式の事とかは、あまり覚えていない。
 従兄弟や、はとこに、構って貰っていたり、構ったりしていたことだけ覚えている。
 後は、一人になる時間の間にあのテディベアを持って海に行った。
 祖父と歩いた砂浜。遠くまで行くな、と言われたのに、行ってしまって、心配しただろう祖父。
 涙は出なかった。馬鹿みたいに晴れ渡った空と海を見ていて。
 私は自宅に帰って、テディベアを抱いて、眠る寸前に漸く泣いた。

 成人式を、楽しみにしていたのだと、言う祖父。
 初めて生まれた女の孫に、酷く酷く喜んでくれたのだという祖父。
 祖父が、後ろに貯めていた、私達のお小遣いの為の百円玉で、私は真珠を一つ、買って貰った。ネックレスにしてある。
 その真珠のネックレスを取り出してみると、涙が止まらなかった。
 忙しくて、田舎には行っていない。
 今度、行きたい。成人式の着物を着て、テディベアを持って、真珠のネックレスを着けて。
 見せに行くよ。大好きなおじいちゃん。
 今も、みかんの缶詰は、私の好物で、贅沢だよ。おじいちゃん。
 今度は、きっと、結婚式だね。結婚できたら、だけど。