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絵里
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1: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:00:20.03 ID:rDAUzfzfK.net
「はい。出来ましたよ」

女性の声で私は目を開ける。

パーッと視界に光が差し込み、閉じていた双眸に映し出された光景に思わず、

「ハ、ハラショー……」

と、若干声を震わせた。

2: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:02:47.62 ID:rDAUzfzfK.net
長い金色の髪は後ろでお団子状に結ばれ、唇には薄いピンク色の口紅が塗られている。

そして何より今の私は純白のドレスを着ていた。

一般的に『ウェディングドレス』と呼ばれるであろうそのドレス。

 
これが私?

 
「さすがは私、よく似合っているわ」と自画自賛したくなるくらい--

ほんと、似合っている。

「とっても似合っていますよ」

あっ、さっきの女性に言われちゃった。

3: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:04:35.11 ID:rDAUzfzfK.net
「あ、ありがとうございます」

「緊張してますか?」

「あっ、はい。少し」

嘘--

本当はかなり緊張している。

もう手汗や額からの汗がヤバいヤバい、ライブ前以上に心臓バクバクよ。

「汗の方、お拭きしますね」

それを見た女性がハンカチで額をペタペタ、ペタペタ。

「あまり緊張なさらずに、すぐに済みますよ」

「あっ、はい……」

「新郎さん?の方の準備ももうすぐ終わるそうですし、外で待たれますか?」

「そ、そうします」

4: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:07:24.82 ID:rDAUzfzfK.net


 
窓の外は一面の曇天に、そこから降り注ぐ線のような雨--

「はぁー」

かるーく溜め息ひとつ吐いてみる。

「新郎さんの方、少し遅れてるみたいです」

と、そこへさっきの女性がやって来る。

「あっ、そうなんですか?」

「もう少しお待ち下さい」

「分かりました」

5: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:08:22.19 ID:rDAUzfzfK.net
「あっ、そうだ」

会釈をして去ろうとした女性は何かを思い出し、

「お渡ししたいモノがあります」

と、さっきまで私が着付けをしていた部屋へと入って行くが、すぐに部屋から出て来る。

何か変わったところと言えば、手に赤っぽいようなオレンジっぽいような色のバラの花束を持ってるということかしらね。

6: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:09:53.34 ID:rDAUzfzfK.net
「これは?」

「ブーケですよ」

「ブーケ……」

あぁ、結婚式の終わりで花嫁が投げる花束のことね。

確かそれを受け取った人が結婚できるとか言われてて、奪い合いになるとかならないとか……

ふにふに、とバラの花を摘んでみると若干、指先に違和感が……

「これ、本物ですか?」

「造花です。まっ、このプランですと、ね」

あはは、と女性は苦笑い。

釣られて私もクスッと笑みを浮かべた。

それにしてもこのバラ、私より真姫の方がピッタリね。

7: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:13:10.81 ID:rDAUzfzfK.net
「それにしても、何故今日に式を?」

「えっと、今日は誕生日で」

そう--

本日10月21日は、私の誕生日である。

まぁ、相手もそれを見越して式をセッティングしたんだとは思う。

本当は6月--ジューンブライドってのに憧れてたんだけどね。

「そうなんですか、それはダブルでおめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます」

「新郎さんの方、終わりました」

別の女性が声を掛ける。

「あっ、はい」

ようやく準備は整ったみたいね。

「さっ、どうぞ」

ガチャ、と女性が扉を開ける。

すると中から、タキシードを着た新郎が出て来る。

8: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:14:37.59 ID:rDAUzfzfK.net
「ふふっ、お待たせ」

悪びれることもなく、普段通りの態度。

「いつまで待たせるのよ」

「ちょっと色々と手間取ってなぁ。胸とかキツキツやってん」

「ほんとね」

だから私も普段通りの態度で接する。

あっ、ちなみに新郎はどんな人かって?

私より若干背が低くて、新郎って言う割には胸が私くらいあって……

 
もう、説明も必要ないかもしれないわね。

 
「よく似合ってるわよ、希」

「えりちの方もやね」

9: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:15:52.84 ID:rDAUzfzfK.net


 
参列者が少ない教会--

もちろんそこに穂乃果達はいない。

今、ウェディングドレスを着た私、タキシードを着た希。

二人が互いに腕を組んでバージンロードを歩く。

「なんか、照れるなぁ」

「そ、そうね」

チラッと希を見る。

あぁ、やっぱり希は可愛いわね。

なぁんて思ってると希と目が合い、

「チラ見はアカンでぇ~」

と、いたずらっぽくニヤついた顔をした。

 
そのまま真っすぐ、神父さんのいるところまで歩く。

その後、神父さんが色々と何かを言っていたけど、もうなんか緊張して言葉が頭に入って来ない。

指輪交換の時に希から「落ち着こうな」と言われ深呼吸してみたらあら不思議、緊張はどこかへ飛んで行った。

10: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:16:59.95 ID:rDAUzfzfK.net
「あぁ~、東條希さん。貴女は絢瀬絵里さんを妻とすることを望みますか?」

神父さんの言葉、本で読んだ通りだわ。

「はい、望みます」

「絢瀬絵里さん。貴女は東條希さんを夫とすることを望みますか?」

もちろん私の答えは--

「はい!」

希だけに望みます。

「それでは、誓いのキスをどうぞ」

「へっ」

キス?

「えりち」

「の、のぞ……」

お互い向き合う。

私はなんか頭がこんがらがって……いや、誓いのキスくらいは知ってるわよ。

だけど、いざやるとなると……

「早くしてな」

希はと言うといつでもスタンバイオッケーって感じで私に迫ってくる。

11: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:18:13.29 ID:rDAUzfzfK.net
「えっ、ちょっ」

「こういうのはウチの役目やん?」

「そ、そうなの!?」

「ウチは夫、えりちは妻。そういうことや」

普段だったら沈着冷静な私は「どういうことよ」と返すんだけど……

「時間もおしてるんやで」

だけど心臓がバクバクいってるのよ!

あぁ、もう!

こうなりゃ破れかぶれ、ここでへたれたら絢瀬家の恥だわ。

12: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:19:14.32 ID:rDAUzfzfK.net
「さぁ、希! 来なさい!!」

思いっ切り目を閉じる。

心拍数は上がる一方だけど、希を迎え入れる準備は出来ている。

いつでもウェルカムよ。

「……」

まだ--

「…………」

私の唇に希の唇--

「なぁ、えりち」

何よ、早くしなさいよ。

こっちは待ってるんだからね!

「もう、終わりやよ」

「は?」

目を開けると、そこには希が……いて当然ね。

13: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:20:40.37 ID:rDAUzfzfK.net
「えっ、終わりって?」

まだ誓いのキスすらしてないわよ。

「お客様、申し訳ありません」

するとそこに女性がやって来る。

「時間の都合上、次の組の方の時間となりましたので」

 
「これにて『結婚式体験プログラム』を終了とさせていただきます」

 
「ほへー」

その瞬間、緊張は全て解けた。

後で希が言ってたけど、控え室に運ぶのに苦労したそうな--

14: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:21:34.95 ID:rDAUzfzfK.net


 
結婚式体験プログラム--

それを知ったのは部室で雑誌を読んでいる時だった。

ちょうどその時に希も一緒いて、

「これ、えりちの誕生日と同じ日やん。応募しようよ」

と言って来た。

15: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:22:36.32 ID:rDAUzfzfK.net
そこまで乗り気じゃなかった私は、

「まぁいいんじゃない。どうせ落選するわよ」

「ウチのスピリチュアルパワーで当選するんよ」

はいはい、と希を軽くからかったらプクーと頬を膨らませた。

可愛いわねぇ--

と、ここでやめておけば良かったんだけど、そこはつい調子に乗ってしまい、

「じゃあ私も応募するから、当選した方が新郎ね」

「ええよ。ちなみに両方当選したら?」

「その時はジャンケンよ」

「よっしゃ、絶対ウチが当選するようお祈りしとこ」

結果、希が当選して私は落選。

改めて調子に乗った自分を呪った。

16: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:24:58.27 ID:rDAUzfzfK.net
着替え終わった私達は、ロビーのソファで寛いでいた。

このあと、私の誕生日パーティーをやる予定で希が穂乃果達に電話をしているところ。

私はさっきの女性から教会で記念撮影をした写真と、バラのブーケをお土産として貰った。

「みんなもう集まってるって」

「じゃあ急がないと」

「あっ、それウチらの写真?」

「えぇ、そうよ。希の分もあるわよ」

「よっしゃ、これをみんなに見せるで」

その瞬間、にこと凛の意地悪そうな表情が思い浮かんだ。

「や、やめてよ!」

「ふふっ、冗談や冗談」

「もぉ」

正直、希の冗談はどこまで冗談かは分からないけど、冗談であると信じている。

「ほな、行こか」

「そうね」

17: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:26:05.48 ID:rDAUzfzfK.net


 
外に出ると雨はすっかりやんで、夕焼け空が広がっていた。

「綺麗な空」

「ほんまやね」

「希」

「何?」

「あのね。もしまた結婚体験の申し込みがあったら、付き合ってくれる?」

「当然やん。ウチとえりちの仲やん」

「良かった。じゃあ次は私が新郎で希が新婦ね」

「何言ってんの? また当選した人が新郎に決まってるやん」

えー、やっぱりそうなりますかぁ。

18: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:26:55.79 ID:rDAUzfzfK.net
「まっ、でも。ウチのウェディングドレス見たかったら、えりちもウチのスピリチュアルパワーに負けんくらいお祈りしないとね」

「そ、そうね」

うーん、どうすればいいのかしらね。

対策を考えましょう。

「あっ、そうだ」

「どうしたん?」

「あれやりましょうよ」

「あれって?」

「ブーケトス」

やっぱり結婚式のラストと言ったらコレよね。

19: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:28:13.94 ID:rDAUzfzfK.net
「そやけど、そんな綺麗なブーケ投げるの勿体ないよ」

「それもそっか……」

ちょっとやってみたかったけど残念。

誰も受け取らなかったら汚れるだけだしね。

「こんな綺麗で真っ赤なバラだもんね」

「んー。それ赤って言うより緋色か朱色ちゃう?」

「そうなの?」

「ウチも詳しくはないけど」

うーん、色のことはよく分からないわ。

確か英語だとスカーレットとかヴァーミリオンとか。

そんな感じのアレよね。

20: 名無しで叶える物語(風の楽園)@\(^o^)/ (ガラプー KK79-Mi1M) 2015/10/21(水) 23:30:17.00 ID:rDAUzfzfK.net
「そのブーケはウチとの思い出に大切に取っといてな」

「えぇ、そうするわ」

汚れるくらいなら大切に閉まっておこう。

「あとな……」

 
そう言うと希は軽く背伸びをして、私の頬にキスをした。

 
「誕生日おめでとうな」

と満面の笑みを浮かべた。

一方、不意をつかれた私は、

「ひゃ、ひゃい!」

と手に持っていたブーケを真上に投げたのだった。

夕焼け空と同化したブーケ、それはとても綺麗だと希は言っていた。

あと、本当に不意打ち過ぎるわ……

だけどそれがまた、希の可愛いところでもあるのよね。

 

 
おしまい