姫「私の初恋と記憶の中の貴方」
それは、遠い昔の記憶。
まだまだ子供だった頃の2人が交わした、誰も知らない約束。
「俺はもう国に帰らなくちゃいけないけど――」
あの子と別れる日、私は泣きながら嫌だとワガママを言いました。
だけどあの子は私の指に、ハートの指輪をはめてくれました。その指輪は、あの頃の私の手には、かなり大きかったのだけれど。
「お揃いの指輪。これに誓って、絶対迎えに来るから――」
その言葉で私は涙をこすって、笑顔を作ったのです。
姫「迎えに来てね…ぜったい、絶対に!」
それが、私の初恋でした――
姫「何だかワクワクしますね、お兄様」
兄王子「全く、お前は気楽なものだな…国の未来に関わることなのだぞ」
その日、広間には王家の一族が集まっていた。
その理由はというと――国で功績をあげている剣士を『勇者』として城に招いた為である。
数年前から、ここ中央国は魔王の国と争っていた。
戦争開始当初から数年は中央国が優勢だったが、1年前に魔王の国で王位交代が行われ、それから徐々に中央国は劣勢となった。
中央国の友好国も魔王の国に次々と制圧されていき、中央国の未来は危うい――そういう現状である。
姫「聞く所によると、勇者様って私と同じでまだ成人前だとか! お友達になれたらいいなぁ」
しかし平和な王都でぬくぬく暮らしてきた姫は、どこか能天気だった。
彼女は男ばかりの兄弟の中で紅一点なせいか、親兄弟からも家臣達からも大事にされている。そのせいか、楽天家で世間知らずなところがあった。
この緊張感に包まれている広間で1人能天気な姫に、兄は呆れつつも苦笑した。
兵士「陛下。勇者殿が来られました」
王「うむ。入られよ」
王の呼び声と共に、広間に1人の男がゆっくり入ってくる。
姫「――」
その姿を見て、姫は言葉を失った。
姫「お花さん、こんにちは!」
まだ世の中が平和だった幼少期、私は城の近くの花畑へとよく足を運んでいました。
平原一面に広がる花の景色は、夢見る少女だった私の心をとらえる程に美しかったのです。
姫「…あら?」
「……」
姫「こんにちは!」
その日いつものように遊びに来た私は、珍しい先客に挨拶をしました。
大人しい顔立ちと黒く艶のある髪が印象的な、私と同い年くらいの男の子。
私の挨拶に対して静かに会釈した彼に、人見知りすることを知らなかった私は更に声をかけました。
姫「あなたはだぁれ?」
「俺は……ごめん、名前を言ってはいけないんだ」
それが、私と彼の初めて交わした会話でした。
名を名乗れない…そんな彼の事情など二の次で、私は彼に興味津々でした。
姫(あ、わかった。この子、妖精の王子様だ)
人間の女の子に恋をした妖精の王子様は、人間に変身して女の子と仲良くなる。妖精の世界には掟があって、人間に妖精としての正体を知られてはならない…
当時読んでいた絵本がそんなお話で、私は彼がその王子様だと思ったのです。
姫(正体がバレたら王子様は罰を受けるんだわ。じゃあ知らないフリをしないと!)
姫(でも、妖精の王子様とお友達になりたいなぁ)
「?」
姫「あの、私とお友達になってくれませんか!」
「…俺が?」
姫「うん! 私は姫と言います、えぇと…」
彼を何と呼べばいいか…少し考えてから、私は彼の呼び名を決めました。
姫「よろしくお願いします、プリンス!」
プリンス「プリンス…。…うん、プリンスって呼んで!」
こうして私とプリンスはお友達になり、お花畑でよく遊ぶ仲になりました。
・
・
王「…というわけだ。我が国の軍で剣を振るってはくれまいか」
勇者「…御意」
どこか孤独な雰囲気を纏わせている勇者は、言葉少なめにそう返答した。
礼儀作法については無作法であるが、彼には国内で何十匹もの魔物を切り伏せてきた実績がある。
王「とりあえず今日は城に足を運んだので疲れたであろう。城の客室で休むといい」
勇者「…では下がらせて頂きます」
勇者が広間から出た後、王子たちはざわざわ話を始めた。
思っていたよりも細身だとか、彼に頼っていいのだろうかとか、あまり良い印象は持っていない様子だ。
だが、その話の輪に入らず――
兄王子「姫?」
姫は広間から駆け出していた。
勇者「……」ツカツカ
姫「待って下さい!」
勇者「……ん?」
姫「プリンス…ですよね?」
勇者「……!」
勇者「…まさか……姫、様?」
姫「やっぱりプリンスですね!」
あの頃よりも随分大人しくなってしまったものの、顔貌はあの頃の面影がある。
正体を妖精の王子と錯覚させたその声は、男らしさを含んで美しさに磨きがかかっていた。
姫「嬉しい! まさかプリンスにまたお会いできるだなんて!」ギュ
勇者「!! その、手……」
姫「あ…プリンス、でなくて勇者様、でしたね」ニコ
勇者「~っ……」
姫「? どうされました?」
勇者「も、申し訳ない……。その、そんなに可愛らしい笑顔を間近で見せられては…。その……」
姫「ふふっ。私はあの頃とあまり変わっていませんよ?」ニコニコ
勇者「…っ」
姫「…? 勇者様…もしかして迷惑でした?」シュン
勇者「い、いえいえ! まさか、そんなこと!」アワアワ
姫「そうですか! ふふ、良かったぁ♪」ニコーッ
勇者「~っ……」
勇者「はい、確か…スミレの花が咲く花畑でしたね」
姫「えぇ、そうです。数年前、あの花畑の所に軍事施設ができてしまって…もう、あの場所は無くなってしまいました」
勇者「そうですか…それは残念ですね」
姫「でもこうして貴方と顔を合わせると、色々な思い出が蘇ってきます。あの頃は、楽しかったですねぇ」
勇者「す、すみません、姫様……」
姫「?」
勇者「その…すみません。あの頃の記憶は若干、曖昧なところがありまして……」
姫「まぁ。そんなこと気になさらないで。あれから力を蓄えて勇者になる程、色々なことがあったのでしょう? 記憶が色あせても仕方ありませんわ」
勇者「…かたじけない」
姫「そうだ勇者様、ならあれは覚えていらっしゃいま――」
兄王子「姫」
話が盛り上がってきた所で、現れた兄王子に静止された。
兄王子「そろそろ勘弁して差し上げろ。勇者殿はお疲れだ」
姫「あぁ! そうでした、大変申し訳ありません!」ペコリ
勇者「い、いえ! 貴方に頭を下げさせるわけには!」
姫「今日はどうぞ、ごゆっくりお休み下さいな。…あ、でも勇者様」
勇者「は、はい」
姫「また、色々お話しして下さいね♪ それでは」
兄王子「お前は本当、無防備だな」フゥ
姫「あらお兄様、彼はこの国を救って下さる方なのでしょう?」
勇者「……」ドキドキ
勇者「姫様、か……」
勇者「はぁーっ!!」
兄王子「――っ!」
訓練場にて、勇者と兄王子が剣の打ち合いをしていた。
王子たちの中で最も剣の腕に優れている兄王子は、決して手を抜いてはいなかったが…
兄王子「参った」
勝負は短時間でついた。
剣の腕に優れているからこそ、勇者との圧倒的な差に気付くのは早かった。
姫「きゃあっ、勇者様素敵ですーっ!」
勝負がつくと同時、姫は駆け出して勇者に差し入れのドリンクを渡した。
勇者「ひ、姫様……ありがとう、ございます」
兄王子「冷たいな姫、俺には何もないのか?」
姫「ごめんなさいお兄様、私は勇者様を贔屓しますわ」
兄王子「やれやれ」
姫は朝からこの調子だ。
朝食時は勇者にばかり声をかけ、勇者がどこに行くにでもついて回り、事あるごとに賛美の言葉を口にする。
この露骨なまでのアピールに、王子たちは苦笑するばかりであった。
勇者「…参ったな」
勇者はというと、クールな容貌に反し女慣れしていないのかタジタジである。
そんな勇者の素朴な一面は、同性として王子たちから好感を抱かれていた。
兄王子「こら姫。勇者殿は訓練でお疲れなので、ゆっくり休ませてやれ」
姫「あ…。そうですね、すみません」
勇者「いえ…姫様のお誘い、嬉しく思います」
姫「絶対に私が案内しますから、お暇な時に声をかけて下さいね! あ、お疲れでしたら肩でも揉みましょうか!」
勇者「あ、その…」タジタジ
兄王子「本当に困った妹だ。勇者殿、すまんな」
姫「お兄様は意地悪ですー。向こうへ行って下さい」プクー
兄王子「やれやれ。勇者殿、困ったら逃げてこい」
そう言って兄王子はそこから立ち去る。
ようやく2人きりになれたことに、姫はニンマリした。
姫「…」ジー
勇者「……」タジタジ
勇者は視線を逸らしている。
この困った顔が大好きだ。剣を振っている時の勇ましさとのギャップにきゅんとくる。
自分はどうだろう。可愛い顔をできているだろうか。
歳の割に幼い顔がちょっとコンプレックスなのだけど、勇者はどう思ってくれているのだろうか。
姫(あ、そうだ!)
勇者との話の種にと、持ってきたものがあったのだ。
勇者「それは…」
姫が取り出したのは、ハート型の指輪だった。
昔の記憶が薄れているとはいえ、これまで忘れられていたら悲しい、とか思ったりして…。
姫「あの頃は大きかったのですけれど、ぴったりはまるようになりました! ほら!」
勇者「…大事に持っていて下さったのですね。……姫様に求婚とは、身の程知らずのことをしたものです」
姫「身の程知らずだなんて、そんな! 私、本当に嬉しかったのですよ!」
身分の違いだとか、国のことだとか、そんなこと当時の自分は何も考えていなかった。(今もどうか怪しいけれど)
好きになった男の子が、自分のことを好きになってくれた。それを嬉しく思わないはずがない。
姫「初恋の思い出を忘れられる程…私はまだ、大人ではありません」
勇者「……」
勇者の表情は複雑そうだ。その表情から心は読み取れない。
勇者「申し訳ありません、姫様」
姫「…っ」
だから頭を下げられた時は、はっきりフラれるのだと思った。
だけど――
勇者「実は、その…俺の方は、指輪を失くしてしまいまして」
姫「……」
だから、その言葉
コメント一覧
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- 2016年02月27日 22:44
- これは良いNTR
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- 2016年02月27日 23:23
- 姫が馬鹿過ぎてイライラした
そんなだからスイーツ()とか言われるんだよ
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- 2016年02月27日 23:34
- プリンスって書かれるたびに、あのミュージシャンのプリンスの顔が浮かんでフフッってなるからやめて
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- 2016年02月27日 23:42
- こいつ、ゴミみたいな兄さんだな、嫌なとこ全部押し付けて美味しいところだけとってくなんて
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