島村卯月「裸足のまま」
どれくらいの間、こうしていたんでしょう。
いい加減に背中もちょっと痛くなってきました。
でも、まだ起き上がる気にはなれなくって。
「んー……っ」
凝り固まった身体をほぐすように、片脚を垂直に伸ばします。
トレーニングルームの照明はちょっとだけ強めで、ちょっとだけ眩しくて。
その眩しさを遮るように、伸ばした右足を目と照明の間に重ねました。
「……」
私の爪先を包むのは、随分とくたびれてしまったトレーニングシューズ。
普通の女の子こと島村卯月ちゃんのSSです
前作
渋谷凛はデートがしたい
関連作
渋谷凛「ガラスの靴」
高垣楓「時には洒落た話を」
凛ちゃんがガラスの靴を貰ってからしばらく後のお話です
「――お。やっぱここだった」
「うひゃいっ!?」
「うわっ! ……えっと、どうしたの」
「い、いえ、別に……」
扉を開けて入って来たのは私のプロデューサーさんでした。
今の言葉を聞かれてなかったかドキドキしたけど、大丈夫だったみたいです。
「ええと……それで、どうかしましたか?」
「っと、そうだそうだ。出たよ」
「えっ?」
「最終結果。第3回の」
ドキリと胸が跳ねました。
本当にさっきの言葉が聞こえていたんじゃないかと思ってしまって。
「4位だ。おめでとう卯月、新CDも確定だよ」
「や……やったぁっ!!」
「安部さんの踏ん張りに抜かれちゃったけど、うん、凄いよ卯月」
今までで一番!
凄い、凄いですっ!
「知っての通りシンデレラガールは凛ちゃん。でも今回はハートキュートが強かった」
「……」
「安部さんと緒方さんが次いでるからね。未央ちゃんも5位に入ってニュージェネ」
「……」
「卯月」
「え? あっ、はい!」
「どうかした?」
「いえ、あの、頭がいっぱいになっちゃって……」
「…………それもそっか。じゃ、詳細は後にしよう。今度お祝いするよ」
送ってくから、待ってるよ。
そう言うと、プロデューサーさんは笑いながらトレーナーさんを探しに出ました。
ぱたんと扉の閉まる音がやけに大きく響いて、私はまた床に寝転がりました。
天井の照明は、相変わらず眩しいままで。
「……お城って、こんなに遠かったんだ」
お城のシャンデリアって、どれくらい眩しいのかな。
□にゅーじぇねれーしょん!□ (グループ:3名)
[しまむー、しぶりん、おめっとー!]:みおちゃん
[ありがとう。二人とも、おめでとう]:りんちゃん
:[ありがとうございます! そして、おめでとうございます!]
[やーしぶりん強すぎっしょ。手加減して!]:みおちゃん
[やだよ。手加減できるほど二人とも甘くないでしょ]:りんちゃん
[速報で当確はヨーシャなさすぎだよー]:みおちゃん
:[凛ちゃんからメールもらったときびっくりしちゃいました!]
[なにせ私が一番驚いてたからね]:りんちゃん
[そんでさそんでさ、パーティーとかやんない!? 誰かの家でもいいし?]:みおちゃん
―――
――
―
「未央ちゃんも凛ちゃんも、改めてお祝いしてあげてね」
プロデューサーさんの言葉に思わず笑ってしまいました。
「何さ」
「はい」
赤信号のタイミングで、携帯電話の画面を見せました。
しばらくするとプロデューサーさんも笑い出して。
「余計なお世話だったみたいだね」
「いえいえ」
「まぁ、そもそもこれ自体が余計なお世話なんだけど」
「これ?」
「送迎。自主トレ、こっそりやろうとしてたんでしょ」
「…………バレてました?」
「プロデューサーだからね」
含み笑いがいっそう深くなりました。
プロデューサーさんはときどき、私よりも子供っぽくなります。
純粋な人、って言った方が良いのかな。
「プロデューサーって凄いんですね」
「凄いよ。魔法だって使えるし」
「ひょっとして瞬間移動とか出来たり?」
「それはまだ出来ないなぁ。読心術なら」
「凄い! じゃあ、私は今何を考えてるでしょうかっ♪」
「僕だって同じだ。人は、悩むよ」
捕り損ねて、キャッチボールが途切れてしまいました。
足元に転がったボールへ、私は手を伸ばすことが出来ません。
「……あ、え、っと…………」
「……」
「その、プロデューサーさん」
「卯月。これだけ教えてほしい」
「……はい」
「言いにくい?」
「…………は、い……」
「そっか」
それきりキャッチボールはお開きになって。
社用車の中で、私達はただ日向ぼっこをしていました。
「あら……お疲れ様でしたぁ、卯月さん」
「お疲れ様、まゆちゃん♪」
お仕事を終えて事務所に帰って来ると、まゆちゃんが珍しく一人で雑誌を読んでいました。
どこのファッション誌かと思って覗き込むと、その表紙を飾っているのは凛ちゃんでした。
「あっ」
「さっきこっちにも届いたんです。チェックも通ったらしいのでこのまま出るみたいですよ」
「これ、シンデレラガールの衣装ですか?」
「ええ。凛ちゃん、綺麗ですねぇ……」
どこかうっとりとしたような表情でまゆちゃんが呟きます。
まゆちゃんの言葉通り、凛ちゃんは普段にも増して、とっても綺麗でした。
濡羽色の髪を飾るティアラ。
蒼く身体を包むドレス。
そして。
「うふふ……まゆもいつか、こんな風に……」
「……」
「今回は負けちゃいましたけど、次はえっ、あの、卯月さん……?」
「? どうかしましたか?」
「……そ、それはこっちの台詞です! どうして……泣いてるんですか?」
まゆちゃんが何を言っているのか、よく分かりませんでした。
慌てたような様子で指差されて、首を傾げながら目元を確かめます。
拭った指はしっとりと濡れて。
「……あ、あれっ…………?」
それが合図だったように、次から次へと涙が零れていきました。
綺麗な凛ちゃんを避けるように、私の涙が表紙を濡らしてしまいます。
「だ、大丈夫ですかぁ……? おなか痛いんですか……? 医務室をいえまず担当さんに……」
「い、いえ……あの、私はっ」
「あ、卯月さんお帰りなさいー。いま卯月さんの分のお茶ええっ!?」
「あ、歌鈴ちゃん……ただい」
「おなか痛いんですかっ!? きゅ、きゅうきゅうきゅう車呼びましょうかっ!」
「あの、きゅうが一個多いで」
「卯月ー……おなかいたいのー? とんでけー……むこうの方にとべー……」
「え、ええとー……?」
まゆちゃんが雑誌を抱えておろおろと動き回ります。
歌鈴ちゃんはお盆を抱えたまま慌ててぐるぐると回ります。
こずえちゃんが私のお腹を撫でてはとべー、撫でてはとべー、と呟きます。
……大変な事になってしまいました。
「あの、あのっ」
とりあえず、何でみんな私のお腹を痛めたがるんでしょう。
それが一番普通の原因だからでしょうか。
だとすると物凄く納得いきません。
「――あれ、卯月。のんびり屋の花粉症?」
追い着いて来たプロデューサーさんが、首を傾げながら零しました。
「違いますっ……これは…………これは」
「これは?」
「……目にゴミが入っちゃっただけです」
「まぁ普通そうだよね」
まゆちゃんがほっと胸を撫で下ろしました。
歌鈴ちゃんも胸を撫で下ろしました。
片手を離したので湯呑が床へ落ちました。
「……お、おちゃちゃちゃあっ!」
「あの、そこは普通『あちゃちゃ』じゃあ……」
涙目の歌鈴ちゃんがキッチンスペースへ布巾を取りに戻ります。
一連の流れをプロデューサーさんは笑いながら見ていて。
……いじわるです!
「あ、卯月。この後ちょっと話いい?」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ会議室で待ってるから」
鞄をデスクへ置いて、プロデューサーさんは会議室へと向かいました。
「……ところでですね」
「卯月ー……いたいの、なおったー……?」
「はい。もう大丈夫ですよ」
「とんでった?」
「はい」
「むこうのほー?」
「えっと、多分?」
「そっかー」
「ありがとうございます」
「えへへへー……」
ふわふわの小さな頭を撫でると、ようやくこずえちゃんは私のお腹から手を離してくれました。
向こうってどっちなのか、今度訊いてみようと思います。
「……それで、話って何でしょう?」
「ん? ……ああ、そっか、それで呼んだんだった」
プロデューサーさんはしばらくシステム手帳をめくるばかりでした。
私が促すように口火を切ると、めくっていた手帳をぱたんと閉じます。
「やっぱり、話しにくい?」
「……はい」
「ん。そっか」
それだけ言って、プロデューサーさんはじっと私の目を覗き込みました。
私は何だかと
コメント一覧
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- 2016年02月28日 21:14
- 最初のほう、レス飛んでない?
-
- 2016年02月28日 21:21
- いい話だった
しまむーシンデレラになって欲しい
-
- 2016年02月28日 21:23
- 今年の総選挙は卯月にシンデレラになって欲しいなあ
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- 2016年02月28日 21:29
- これが本物の島村卯月
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- 2016年02月28日 21:51
- 居なければコンビニへ向かえば良いね!
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- 2016年02月28日 23:04
- このヒロイン力よ
やはり信号機トリオは赤こそ王道
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- 2016年02月28日 23:07
- 王道でいい話やなぁ
ちひろ「その課金を少し増やすだけでSSR 卯月ちゃんは来てくれますよ!さぁどうぞ!モバコインです!」
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