291 名前:大人の名無しさん[sage] 投稿日:02/02/23(土) 00:01 ID:1wptIZdL [1/3]
 微妙にスレ違いかもわからんけど、嗚咽を漏らしたのは事実なので書く。

 今から10年くらい前だろうか。
セガのメガドライブ用で『アドバンスド大戦略』というゲームがあった。
舞台は第二次世界大戦、ドイツ軍を率いて戦闘を行なうというシミュレーションゲームだ。
生まれて初めて買ったハードとソフトだった。
俺はこのゲームにずっぽりハマリ混んでしまった。歴史を変えてやるとまで思っていた。
 当時俺は大学四年、就職活動をしなくちゃならないという時期に、架空の戦闘に明け暮れた。
講義中も飯食うときも寝るときも、頭の中にあるのは我がドイツ帝国軍のことばかり。
 ハードの性能もあって、とにかく1ターン1ターンが長いゲームだった。
自ターンが終わって飯を食い、風呂に入って、画面を見たら、まだ相手ターンだった、
ということもあった。ゲーム進行の遅さには泣かされたが、
それでも俺はこのゲームの魅力から離れることはできなかった。




292 名前:大人の名無しさん[sage] 投稿日:02/02/23(土) 00:01 ID:1wptIZdL [2/3]
 ポーランドを蹂躙し、デンマークを落とし、低地諸国を壊滅させ、フランスを占領、
と、とりあえず史実どおりに我がドイツ帝国軍は進撃していった。
寝る時間も飯を食う時間も惜しんで、俺は画面に向かった。
イギリスやアメリカが出てくると、調子のよかった俺の部隊は徐々に進撃の足を鈍らせた。
ロシアへの侵攻が史実どおり失敗し、ほとんど敗北間違い無しという状況に追い込まれた。

 俺は実生活でも窮地に追い込まれていた。就職が決まらない。時に、バブルの最終段階。
どうにかなるとなめていたのが失敗だった。状況がここに至ってもゲームを止められなかった。
否、今考えてみると、俺は現実から逃げ、ゲームに逃避していたのかもしれない。
八月、九月、十月、そして十一月、我がドイツ帝国軍は画面の中で未だ戦闘中だった。
敗戦を一秒でも遅らせようとするかのごとく、遅滞行動を取り続けていた。
まるで自分の姿を見ているかのようだった。
画面の中のドイツ軍はまさに俺の姿のままだった。


293 名前:大人の名無しさん[sage] 投稿日:02/02/23(土) 00:02 ID:1wptIZdL [3/3]
 忘れもしないその年のクリスマス、画面の中で連合軍はベルリンを取り囲み、
いっせいに俺の部隊に襲いかかった。
俺が育てた部隊が、一ユニット、また一ユニットと消えて逝く。
ポーランド時代から一緒に戦ってきた俺の戦友が画面から消えていく……。
ターンオーバーでゲーム終了、ついに歴史は変わらなかった。我がドイツ帝国軍は負けたのだ。
「まぁ、どうやったって勝てないように出来てるな、このゲーム。ま、いいか」
(実際にそうだった。マップエディットの裏ワザでも使わない限り、勝ち目が無い)
感慨にふけっているとエンディングテーマが流れ出した。
流れてきたのは、『リリー・マルレーン』のメロディ。
 その瞬間、半年にも及ぶ辛く長かった戦いが甦ってきた。
心の中に、消えていった俺の部隊が、俺に向かって敬礼をしているイメージが浮かんだ。
俺はすべての兵器がいとおしかった。すべてのユニットに
「カメラード(戦友)」と呼びかけたいほどの思い入れがあった。
俺の目から熱いモノがほとばしり、口からは声にならない声が漏れ出た。

 その日、俺は現実の世界に戻ってきた。
就職は恥ずかしながら、本当は使いたくないコネを使って、なんとか某社にもぐり込んだ。
 あれから十年が経ち、数多くのゲームをプレイしたが、
後にも先にも、ゲームで泣いたのはメガドラ用『アドバンスド大戦略』のみだった。
多分、これから先も無いだろう。
 俺はすでに齢30を越え、四捨五入すれば40になる。結婚し、子どももいる。
それでも俺は、これからもゲームを買い続け、プレイし続けるだろう。
俺が涙を流したあの日、あの瞬間を追い求めて。